ダーク・ファンタジー小説
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- アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
- 日時: 2013/02/05 09:46
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!
※この小説は他サイトでも公開しているものです。
ご了承ください。
また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。
●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。
●改訂版
改訂版はこちら >>39-52
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.48 )
- 日時: 2013/02/05 09:37
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
「…………なるほど、な……」
朝食を終えたリンレイは、問題の『ソレ』と対面していた。
「で、これは何だ?」
改めて見てみよう。
コルセットだ。明らかに、貴族婦人のウエストを細く見せるために作った、あのコルセット。それに、ブーツのような、レッグギアというのだろうか。そんなものがベルトのようなもので繋がれている。
もう一度言おう。
「で、これは何だ?」
「リンレイのために用意した素晴らしいものですよ」
「略して、リンレイSSですね」
「真面目に答えろ」
ぎろりとリンレイは二人を睨みつける。アールは降参と言わんばかりに両手を挙げた。
「まあ、まずは先に着けてもらいましょうか」
「いや、その前にもっと言うことが……」
とリンレイが言いかけたとき。
「ですね」
問答無用でカリスは、リンレイを抱き上げて。
「ちょっ!?」
近くにあったベッドに横倒し。
「おいっ!?」
「あ、こっちの壁見てますね」
背中を向けるアール。その様子にリンレイは、ちょっとほっとしたが……いや、今はそれどころではない。
「うわっ!!」
脱がされた。下半身、ショーツ以外を全て、脱がされたのだ!!
しかも、上半身も捲られて、コルセットをばしっと肌に着けて……。
ばちっ!!
「なっ」
突然来た衝撃に、思わずリンレイは顔を歪める。
「一瞬だけですから」
カリスの言う通り、痛みはその一瞬だけだった。気がつけば、リンレイの胴体と足には、コルセットとレッグギアが装着された。その上に服を着せると、若干ごわつき、ちょっぴりエキセントリックな服のように見えるが、普通の人達に紛れ込んでも違和感ないくらいであった。
「一体コレは何なんだっ!」
がばりと立ち上がり、リンレイは、すぐさまアールに言い寄る。
「大体、説明もなしに痛みのあるものを無理やりつけるとはどういう……」
「良い感じですね」
「はあ?」
アールはにこにこと、指摘した。
「良い感じに、『立って』いますよ。リンレイ」
「何を言って……!!!」
視線を落として足元を見た。
リンレイは、その目で、見たのだ。
立っている。
もう立てないはずのリンレイが、二本の足で、立っていた。
「そのために用意したんですよ。またあの追っ手が来たとき、車椅子だと対応しきれなくなりますからね」
「こ、これ……」
リンレイのレッグギアを指差す手が、僅かに震えていた。
「まあ、差し詰め、リンレイ専用スタンディングシステム。略してリンレイSSって所ですかね?」
アールが説明している間に、リンレイはその装置を使って、くるりと回ったり、ジャンプしたりしてみせていた。
———もう出来ないと思っていたものが、今なら、できる!
「じい! みてみ……」
思わず出たリンレイの言葉に、アールは僅かに苦笑を浮かべたが。
「後で戻ったときに見せてあげましょう。きっと喜びますよ」
「あ、ああ……」
なんだか、リンレイの心は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
さっきまでの興奮が、あっという間に冷めてしまった、そんな気分だった。
「そうそう、もうワープアウトしていますよ」
アールが口を開いた。
「どこに着いたんだ?」
話題を変えてくれたことに感謝しつつ、リンレイはその話に乗った。
「ラスベルリッタです。丁度、目的地から中間地点の距離にある惑星ですよ。農業と観光で栄えてる街で、ちょっと補給をしに降ります」
「補給は大事だからな」
この大きさだから、エネルギーもかなり喰うのだろうと、リンレイは察する。
「それにもう一つ朗報があります」
ずっと黙っていたカリスも、話に加わってきた。
「お祭りが開かれているそうですよ。屋台とか出ていて、とても賑わっています」
アールは嬉しそうな笑みで、床を指差した。
「一緒に降りませんか? 補給が終わるまで、少し楽しみついでに」
その彼の言葉に、リンレイの顔はぱあっと晴れやかになった。
「ああ、行くぞっ! 絶対だっ!!」
「じゃあ、30分後に」
「任せろ!」
リンレイは急いで部屋に戻って、すぐさま必要なものを用意する。
その間、足が動くことに、車椅子がない事に、リンレイは全く気づいていなかった。
実際のところ、麻痺していた期間はほんの数年。動けた期間よりも短いのだ。
だからだろうか、動ける時の事を思い出したかのように、ギアをまとった足は心地よく動いてくれた。
そう、まるで———自分の足を動かしているような、自然な感覚で。
準備を終えたアールと合流し、リンレイ達はラスベルリッタへ降りる。
「マスター、お土産、期待しています」
ちなみにカリスは、残念ながらお留守番。名残惜しそうな視線を向けるかのように二人を見送っていた。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.49 )
- 日時: 2013/02/05 09:38
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第6話 ◆ラスベルリッタ・フィスティバル
惑星ラスベルリッタ。地元で取れた特産品を加工し、販売することで成り立っている商業都市であった。また、他の星から手に入れたものを、芸術品や食品にする技術に長けており、他国から注文が来るほどの人気を見せていた。
そして、今日。
年に数回しか行わないという、街の人達がこぞって楽しむ祭りが行われていた。
とはいっても、目ぼしいイベントは特になく、街道で屋台がこれでもかと並ぶくらいである。だが、この日限定の物も数多く出品されているため、コアなコレクターが多く集まることでも知られていた。そのため、必然的にこの日は、人通りが多くなる。街道に人が埋め尽くされるほどに。
「ようこそ、ラスベルリッタへ!!」
降り立ったとたん、リンレイの首に首飾りがかけられる。色とりどりの花輪は、甘くて良い香りを漂わせていた。
「女性にはそれが渡されるんですよ」
「そう……なのか?」
「ええ。後でドライフラワーにすると良いですよ。その花、全てここで香水として使われているものですから」
ミラーシェードをつけたアールにそう教わる。いわれてみれば、それぞれ香水にすれば、良い物になりそうな香りを出していた。
「……似合うか?」
戸惑い緊張、それらが入り交じった表情で、リンレイはアールに尋ねた。
「ええ、とっても。お似合いですよ、リンレイ」
そんなアールの言葉に、リンレイは機嫌を良くした様だ。歩けるようになったその『特殊な足』でスキップして弾んだ足取りで進んでいった。その後をアールがしっかりとついていく。
しばらく歩くと、すぐに屋台の並ぶ街道に着いた。
その置くには広場のような噴水が見え、そこからなにやら演奏を行っているようだ。
広場から離れているため、音はやや小さいものの、楽しげな音楽がアール達のところまで届いていた。
と、上を見上げた瞬間、ばっと、花吹雪が舞った。
それと同時に、クラッカーの小気味良い炸裂音が響く。先ほどとは違う、紙テープが空中をふわりと流れていった。
賑やかな声と音。そして、大勢の人人人。
どれもが、リンレイにとって、初めてだった。なぜなら、お祭りに参加すること事態、なかったことなのだから。
「はぐれないよう、気をつけて」
「あ、ああ」
目の回りそうな、その道に立ちすくむリンレイを、現実に呼び戻したのは、アールだった。すかさず、リンレイの手を握り、リードするかのように、混んでいる道をするりと縫うように歩いていく。正直、アールがいなければ、恐らく進むこともままならかっただろう。ふと、香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「あら、アールじゃない!」
声を掛けたのは、ふくよかな屋台の女将。
「ご無沙汰してます、アンナ」
すぐさま名前が出る辺り、アールと女将は知り合いのようだ。と、女将がアールが連れているリンレイに気づき、すかさず言った。
「あらあら、そっちはアールのこれかい?」
にやにやと笑いながら、女将は小指を立てる。
「なっ!!」
思いがけない話に、リンレイは驚きを隠せない。だが、当のアールはというと、落ち着いた様子で。
「違いますよ、私のお客様です。このお祭りを案内してるんですよ」
やんわりと否定していた。そのことにリンレイはほっと胸を撫で下ろしている。
「あらそうなの。残念ねぇ。でもまあ、アールのお客様ってことだから、これはオマケしてあげるわ」
そういって女将が渡してきたのは、出来立てホヤホヤのホットドック。湯気の立つウインナー目掛けて、慣れた手つきでケチャップをリズミカルに程よく付けてくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
照れるように礼を述べるリンレイに、女将は優しそうな瞳で幸せそうに頷いて見せた。その傍らで、リンレイはびっくりした表情を浮かべて一口食べた後、静かにそれをばくばくと頬張っていた。
「すみませんね、サービスしてもらって」
アールがお金を払おうと自身の財布を取り出そうとしたが、女将はそれを止める。
「いいんだよ、前に助けてくれたお礼だからね。それにしても……あんた、今日は祭りなんだから、もっと気楽な格好できなかったのかい?」
女将は、黒一色に包まれたアールの服装を指差して、ため息をついた。
「これでも仕事中ですから」
「それでもねぇ……」
言いたげな女将の声は、近くを通りかかった商人の声に遮られた。
「おう、アール!! 来てたのか!! 久し振りだな!!」
髭を蓄えた中年の男が気さくに、アールの肩を叩いてくる。アールは気にする素振りもなく、嬉しそうに。
「元気で何よりです、リベックさん」
そう、受け答えしていた。
「今日はゆっくりできるんだろ?」
「いえ、補給でちょっと、立ち寄っただけなんです」
「それは残念だな。酒の相手をしてもらいたかったんだが」
そういう商人に、アールは少しだけ残念そうに。
「また来ますから、そのときにでも」
「おう! 約束だぞ!!」
そう言って、忙しそうな商人を見送っていた。
「まあ、アールさん!!」
今度は傘を持った貴婦人から声を掛けられた。
「ごきげんよう、マーベルさん」
そういって、優雅にぺこりと頭を下げるアール。それに満足げな笑みを浮かべて、貴婦人は言葉を続ける。
「もう、今日来ているっていうのなら、早く知らせてくれないと! お願いしたかったこと、別の人に頼んでしまったじゃない」
「それならいいじゃないですか」
婦人はむっとした表情で。
「良くないわよ。相手は少々がさつっぽい方でしたもの。貴方のように繊細でかつ、丁寧な仕事をしていただけるのなら、文句もありませんけれど」
どうやら、ちょっと不満げな様子。
「ご用命は例の場所で。手が開いていたら、すぐにでも行きますよ」
「今度はしっかりお願いするわよ?」
「ええ。お待ちしています」
にこやかにアールは婦人も見送った。
その様子に誘発されて、リンレイはある人の言葉を思い出した。
『リンレイ、人々の声に耳を傾けなさい』
幼いリンレイは見上げながら、その人の声を聞いていた。
『そうすれば、人々が何を求め、何を問題にしているのかが分かるはずだよ』
そして、小さなリンレイの頭を、そっと優しく撫でてやる。
『だからこそ、我々は人々に歩み寄らなくてはならないんだ。威張っていても良いことは何もない。そんな気持ちは今のうちに捨てておきなさい』
その言葉にリンレイは力強く、笑顔で応える。
『はい、父様!』
「リンレイ? 行きますよ」
アールに声をかけられ、はっと気づいた。
そう、今は祭りを楽しんでいるのだ。
待っていてくれるアールの元へ、リンレイは急いで駆け寄った。
「すまない、待たせたな」
「気にしないで。他にも案内したいところがあるだけですから」
それにしても、アールはこの街で良い仕事をしたようだ。
彼と共に歩いていると、いろんなところから声がかかり、いろんなものを貰っていった。持てない分は船に運んでくれさえした。
食べ歩いたり、ゲームをしたり、道端での芸人達の素晴らしい技や歌を見て騒いだり。
リンレイにとって、そのどれもが全て新鮮で、初めて見るものばかりだった。
ちょっと目眩がしそうになったが、それを引いても、楽しさが上だった。
「有名なんだな」
「ちょっとだけ、皆さんを助けただけなんですけどね」
きっとこんなに声をかけられるのなら、本当に良い事をしたのだろうとリンレイは思う。
初めて会ったときは、凄い殺気を出していたが、今はそんなもの、微塵も感じなかった。
街の人達にもみくちゃにされながらも、アールも、リンレイ自身も、祭りを楽しむ一人であった。
そしてなにより、街の人達の好意が、暖かく感じた。
「こういうのも、いいものだな……」
「ええ、いいものですよ」
ベンチを見つけ、二人はそこに腰をかける。
「それにこの街は、私の住んでいる街にも似ているんです。だから、ちょっとやり過ぎた部分もあるんですけどね」
そういって、アールは苦笑を浮かべていた。
「やり過ぎた? そんな風には見えないぞ。むしろ、凄いことをしたように思うんだが」
「リンレイ……」
ミラーシェードの奥で瞳を細めているだろうアールに、リンレイは堪らず立ち上がる。
「こ、今度はあっちの屋台に行くぞ!」
「いいですよ、姫様」
おどけるようなアールの言葉に、リンレイは、ほんの少しだけムカついた。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.50 )
- 日時: 2013/02/05 09:38
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
どのくらい楽しんだだろう。いつの間にか陽は傾き、空は黄昏色に染まっていた。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
流石にはしゃぎすぎたかと、少し疲れた体を思って、リンレイは素直にアールの言葉を受け止める。と、その時だった。
「あ、あれはっ!!」
「居たぞっ!! アールだっ!!」
見たことの無い男が5、6人束になって、アール達の方へと向かって走ってきた。
その手には、光線銃や光の刃を持つライトソードを持って。
「なんで敵がもう追いついているんだ! 特別なワープをしたんじゃなかったのか?」
思わずリンレイが叫ぶ。その間にも彼らは接近してくる。こちらにこちらに。
「ええ、しましたよ。ですが……まあ、この星にはプラネットゲートがありますから、きっと感づいて追いついてきたんでしょうね。向こうも優秀なようです」
そう言って、アールは荒くれ者達とは反対方向へとリンレイを引っ張った。
「そんなこと、言ってる場合か!?」
叫ぶリンレイの横を銃の光線が掠めた。
それも一度や二度ではない。何発も浴びせてきている。
その間にも二人は懸命に走っていた……が。
「!!」
リンレイの足が、縺れてしまったのだ。
今までの祭りの疲れに、現時点の逃走劇が加わって、足の疲れが限界に達してしまったのだ。
「リンレイ!」
「あうっ!!」
倒れた隙に、リンレイは足を撃たれた。
幸いにも撃たれたのは、レッグギア部分。装甲が頑丈だったお陰か、壊れたのは外装のみで、その下までは貫通していないようだ。もっとも下半身は麻痺しているので、痛みもあまり感じないのだが、それでも、衝撃の割には怪我はしていないように思う。
しかし……。
「くそっ……」
お陰で立ち上がれなくなっていた。さっきまで歩けれた力が、全く無くなった、そんな感じだ。恐らく動力の接続部をやられたのだろう。アールはそれを見て、すぐさまリンレイを抱きかかえた。
「アールっ!?」
分かりやすく例えると、今、アールはリンレイをお姫様だっこしている形になっている。
「いいから、捕まって。一気に駆け抜けるっ!」
少しアールの体が沈んだかと思うと、先ほどとは比べ物にならないくらいの高速で走り出した。
「ちょ、アールっ!」
「今はリンレイを守ることが先ですから」
その言葉にリンレイは嬉しく、頼もしく感じたが。
———抱きかかえてやり過ごせる相手なのか?
そうリンレイが思ったとたん、今度は目の前の通路から、新たな敵が現れたのだ!
「逃しはしない!!」
「ここで、二人とも死ね!!」
トンファーと折りたたんだ警棒を構えた男達が立ちはだかる。後ろにも、銃を持った男達が迫る。
前からも後ろからも挟まれた!
リンレイは、思わず覚悟を決めた。
絶体絶命の、この状況に……。
「残念だが、そんなもので俺を止めることは不可能だ」
リンレイの顔のすぐ近くで、アールがそう静かに呟くと。
ぶんっと、リンレイを空高く放り投げた!!
「ば、馬鹿者っ!!」
アールを怒鳴るが、既に時は遅し。リンレイは空の住人に。
けれど、空からアール達の様子が手に取るように分かった。
両手がフリーになったアールは、すぐさま腰にある二本の剣を引き抜き、目の前の敵の懐に飛び込む。
「そんな剣でやられるかっ!!」
負けじとトンファー使いの男が、それを使って一撃を喰らわせようとするが。
二本の剣で太いトンファーを受け止め、弾く。同時にもう一閃。
トンファーがありえないところで、真っ二つになった。
「なっ!?」
うろたえる男に、アールは容赦なく、わき腹に鋭い蹴りを入れ悶絶させる。
と、次の瞬間、後ろからナイフ男の攻撃!
ナイフがアールを捕らえた……はずが、アールはそれをしゃがんで見事にその攻撃を躱した。その返す勢いをそのまま腕に乗せ、男の背中に喰らわせる。ナイフ男は、武器を落として、そのまま動かなくなった。
「死ねっ!!」
その隙に後方から来た男達が発砲。
アールは体を仰け反らせながら、その攻撃を全て避けると、両手に持っていた剣を上に放り投げた。
———私と同じか!?
リンレイは思わず、心の中で突っ込みを入れた。
次に手にしたのは、太ももに取り付けられた、二つの銃。銃身が長く、狙いをつけるのは難しそうだったが、それを容易くアールは狙ったところに撃ち込んだ。
銃口の先は、二人の男の手と足。
見事に狙い通りの場所に命中。手から武器は落ち、足を怪我した男達はその場で悶えていた。
アールは銃をホルスターに戻すと、タイミングよく降ってきた剣を両手で掴み、腰の鞘に戻した。
「すみません、空に投げてしまって」
最後に落ちてきたリンレイをしっかりと抱きとめて、アールは言った。
「わ、私はお前の武器か!?」
「こうでもしなければ、守れませんから」
お陰で命は守れたでしょうというアールの言葉に、リンレイは反論出来ず。
そう言っている間にも、アールは駆け抜けていく。今度は通路ではなく。
「お、おいっ!! 何処を走ってる!?」
とんとんとんと、猫のように身軽に飛び上がり、アールは建物の屋根を走り抜けていた。
「どうやら、向こうは本気みたいですから」
「何だって?」
アールの言葉を受けて、リンレイは思わず後ろを振り返った。
なんと後ろから、先ほどの男達がアール達と同じように、屋根伝いに追ってきている姿が見えたのだ。
「アール、嫌な予感がする」
何かを察して、リンレイはつい思ったことを口にした。
「奇遇ですね、私も同じことを考えていましたよ、リンレイ」
———あまり良いことではない気がする。
そう、遠くからグオングオン……と、嫌な機械音が響いてきたからだ。
この特有の音は紛れもなく。
「向こうはモーターギアを持ってきましたか」
「本気かっ!?」
———こっちは生身なんだぞ!?
思わず心の中でリンレイは叫んでいた。
「でも、もうすぐ船に着きますよ」
「た、助かったのか?」
見上げると、すぐそこに、見覚えのある宇宙船が来てくれているのが分かった。
アールは一気にスピードを上げて。
船のハッチへと飛び込んだ。
「一応、なんとかなりましたね」
華麗に着地をして、アールはリンレイを降ろす。
そんなリンレイを受け取るのは、留守番をしていたカリスだ。
「お帰りなさいませ、マスター、リンレイ」
カリスの情の無い声が、これほどほっとするとはリンレイも思っていなかったが。
「助かったんだよな……」
カリスにコルセットらを外してもらい、いつもの車椅子に座って、緊張を和らげた。
船はいつの間にか動いており、攻撃を受けているためか、時折、ぐらぐらと振動しているようだ。
「カリス、シルバーで……いえ、『ルヴィ』で出ます」
いつの間にか、アールは既に奥の格納庫にあるシルバーに乗り込んでいた。
パチパチとスイッチを入れ、起動準備に入っている。
「奥のでなくてもいいんですか?」
恐らくあの青白いマトリョーシカのような機体のことだろう。カリスがそう確認するものの。
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
アールはそう言って、否定する。どうやら、あの格好いいシルバーフレームの『ルヴィ』で出撃するようだ。
「了解」
「リンレイを頼みますよ」
「はい、お気をつけて」
立ち上がる『ルヴィ』が、とても美しく、そして頼もしく映った。
「カリス、アールの戦いを見たい」
「わかりました、移動しましょう」
アールが出撃するのを見送った後、リンレイはカリスに車椅子を押してもらいながら、ブリッジへと向かったのであった。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.51 )
- 日時: 2013/02/05 09:41
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第7話 ◆宇宙を駆ける銀色の戦乙女
———『ハンター』になるために、大いに役立つのが、モーターギアの操縦免許だ。
それを持っているか否かで、ハンター試験の難易度が劇的に変わる。
むろん、持っている方が、有利なうえ、難易度を下げることも可能だ。
また、ハンターのランクも、免許の有無によって、格段に変化する。
上位ランクを目指すなら、必ず所持していないと、途中でランクを上げるのに厳しくなってくる。それくらい重要なのだ。
そんなことをアールは、思わず思い出していた。
これから、そのモーターギアを動かさなくてはならないのだから。
もっとも彼にとって、モーターギアは、彼の手足であり、分身でもあるくらい自然に動かせるものでもあるのだが———
モーターギアの音が聞こえた時点で、こうなるだろうとアールは感じてはいた。
———恐らく敵は、こっちの船を落としに来るな。
宇宙船のシールドバリアは、そう簡単には破られないだろうが、牽制する必要があるだろう。
それに……。
慣れた手つきで、アールは、シルバーのシートにその身を滑り込ませる。
少し固めのシート。その感触にアールは思わず、笑みを零した。
「カリス、シルバーで……いえ、『ルヴィ』で出ます」
コクピットにある、多数のスイッチを次々と上げて、シルバーの起動を開始する。
この一連の操作をアールは好んでいた。全てのスイッチを入れ、問題なく正常に動いていることを確認し、コクピットのハッチを閉めようとして、止めた。
「奥のでなくてもいいんですか?」
カリスが声をかけてきたからだ。
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
次にアールは、手元にあった接続コードを引き伸ばし、ミラーシェードのイヤーギアに取り付けた。
ばちっ!!
僅かな衝撃が、アールの体中に走る。
リンレイが受けたものと同じ衝撃なのだが、アールはその痛みに顔色一つ崩さなかった。それほど、アールは痛みに慣れていた。それに、この痛みこそが、アールと『ルヴィ』が正常に『接続』された証明でもあった。
「リンレイを頼みますよ」
そう言って、アールはハッチを閉じる。とたんに壁が周囲を映し出すモニターへと一瞬で変化した。次々と流れてくる起動コード。足元のペダルを踏み込み、両サイドにある操縦桿に手をかけ、前に倒す。
「さて、行きますか、『ルヴィ』」
二人が離れるのを見て、アールは宇宙に飛び出した。
相手を引き付けるために、アールは影でカリスに指示を送っていた。
地上で戦うという選択肢もあったが、アールはそれを選ばなかった。
なぜなら、やっと復興してきたあの街を、また壊すことになってしまう。それが忍びないと感じたからだ。
幸いなことに、敵は、アールの思惑通りに、この宇宙船を追って宇宙まで来てくれた。後は……そう、蹴散らすのみ。
「できれば、この牽制で懲りてくれるといいんだけどね……」
無理だろうなと思いつつ、アールはそう、呟いた。
「……サーチ」
その声に従い、アールの『ルヴィ』の後方、背面から青白いひし形の結晶体『サーチプレート』が二つ射出された。
このプレートに殺傷能力はない。敵のデータを外部から測定するのが役目だ。
そのサーチプレートは、すぐさま敵機に向かい、宇宙の闇に溶け込み、働き始める。
敵はそれに、未だ気づいていない。
同時にアールのミラーシェードの内側には、大量のデータが流し込まれてくる。
サーチプレートが読み取ってきたデータが、流れてきているのだ。
モーターギアの専門家が見れば、その驚異的な速度に驚愕するだろうが、残念ながらこの場にそのような者はいなかった。
アールの視線の先には、収集されたデータが映し出されていた。
敵は5体。
巨大なチェーンソーを二つもつけたのが1体。
パイルバンカーをつけたのが1体。
巨大な砲台を肩につけたのが1体。
両手と右肩、合計3つのレーザーライフルを持っているのが1体。
どれも、ブロンズ級のフレームを使用している。
そして、最後の1体が両腕に巨大で鋭いクローをつけた軽量型タイプ。恐らくアールと同じ、シルバー級だということが覗える。
「ブロンズ4体にシルバー1体、まあ、妥当な線か」
ただ一つ、残念なことは。
「こっちがそれを上回っているって所だけどね」
アールは、にっと笑みを浮かべ、一気に間合いを詰めた。
「何だ、ありゃあ」
「あんな細っこいギア、初めて見たぜ?」
敵は明らかにアールのギアを弱いものと見ていた。
「しかも1機で俺達と渡り歩こうなんざ、無理ってもんだ」
そんな彼らを冷ややかな眼で見ている者がいる。
「まあいい、お前らの力を見せてやれ」
眼帯をつけている男は、そう部下達に告げた。
「さて……あんなピーキーな改造してるんだ。タダでは死なないでくれよ」
舌なめずりするかのように、眼帯男は瞳を細める。
彼の瞳の先にいるのは、右肩に巨大な盾を持った美しき戦乙女のギアだった。
アールの『ルヴィ』には、右肩に巨大な盾をつけていた。
何かを象った青い紋章のようなマークも見受けられる。
と、動いたのは、チェーンソーとパイルバンカーの2体。
彼らが近づく前に、アールは慣れた手つきで盾から剣を引き抜いた。
ガキンッ!! キンッ!!
パイルバンカーは盾で。
チェーンソーは剣で受け流した。
クローを持ったシルバーは、まだ動かない。高みの見物といったところか?
———それならそれでいい。
動きが止まったところで、砲台とレーザーライフルが火を噴いた。
「バリアシールド全開!!」
かなりの衝撃があったが、見えないシールドのお陰で、アールの機体に損傷はない。そのまま煙と共にやや後退する。
そこに目掛けて、パイルバンカーとチェーンソーがまた切りかかってきた。
「今度はこっちから……」
アールの繰る『ルヴィ』が剣を振りかぶる、と同時にその剣が伸びた。
よく見ると、その剣には幾重もヒビが入っているような形状をしていた。グリップを切り替えることで、その剣は姿を変える。そう、鞭のように伸びて撓る特別な剣、『蛇腹剣』だ。
その伸びた剣が、刃が輝きを纏う。
「行かせてもらう!!」
蛇腹剣の一振りで2機の武器を粉砕した。
「なに!?」「オレ様の武器が!?」
二振り目で、彼らの脚部を切断。その所為でチェーンソーを持っていた機体が大破した。とはいっても、爆発前にパイロットは外に脱出して、命だけは無事なようだ。
それを見て、砲台とレーザーライフルの機体が接近しつつ、『ルヴィ』目がけて射撃してくる。アールは高速移動で避けつつ、彼らの銃弾を肩の盾と剣で弾き返す。弾ききれなかった分はバリアシールドで打ち消した。
「近距離で戦っても構わないんだけど」
剣を素早く盾に戻すと、アールは、今度は背中にマウントされていたレーザーライフルを腰だめに構えた。
「まあ、こっちの方が狙いやすいか?」
アールのミラーシェードの内側に、照準が現われる。右腕の操縦桿のボタンカバーを親指で開き、タイミングよく押していく。
「なんだと!?」「馬鹿なっ!!」
レーザー弾は、そのアールの押した通りに発射され、彼らの武器を見事に撃ち貫いた。
残りは、クローを持った機体のみ。
アールはボタンカバーを戻すと、もう一度、操縦桿を動かし、盾から剣を取り出した。
「ほう、見事に無力化したか。面白い」
腕を組む眼帯の男は、その手を操縦桿へと伸ばした。
「少し遊んでやるか。依頼主からは、相手を殺しても構わないといわれてるしな」
楽しげに嗤いながら、男はコクピットの上部にあるレバーを引いた。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.52 )
- 日時: 2013/02/05 09:42
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
アールの機体にぶつかるかのように、クローの機体は猛接近してきた!
「くっ!? まさかアイツ、シルバーじゃない?」
クローの一撃を何とか躱したが、ルヴィの装備していた盾が大破してしまった。使えなくなった盾を捨てて、剣を両手で構える。
「どうやら、驚いているようだな、『アール』」
焦っている様子を知っているのか知らぬのか、眼帯の男は、その手を止めない。
「俺の機体は、シルバーに成りすました、『ゴールド』! 貴様に勝てるわけが無い!!」
その猛攻を剣とバリアシールドで防ぎながら後退していく。大降りの攻撃をアールは剣で力いっぱい弾き返し、腕に内蔵しているマシンガンを敵に打ち込んだ。
その煙と共にアールは、距離を取る。
接近したときに見えたあの、回路の煌き。
「あの金色の煌き……相手はゴールドだったか」
ミラーシェードのデータに、破損データが加わっていく。これ以上、長引けばこっちが危ないだろう。
そんなとき、ふわりと立体映像のようなものがアールの隣に映し出された。
蒼い髪の少女が不安そうにアールを見つめる。
「大丈夫ですよ、『ルヴィ』。あなたの体にこれ以上、傷つけさせません」
ホログラムのように見えるが、実際に見えるのは、アールとカリスだけだろう。
彼女は、機体に宿る精霊のようなもの。実態はない。
また、彼女自身、会話することもできない。表情や仕草で意思を伝えるだけなのだ。
アールは手元にあるキーボードを素早く打ち込んだ。
「プログラム・スサノオ起動。……ルヴィ、ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね?」
その言葉にルヴィと呼ばれた立体映像が、にこりと微笑んで頷いた。
アールも微笑む。
ヴイイイイイイイイイイ………。
唸る機械音と共に、アールの周りに青白いオーラのようなものに包まれ。
アールの『ルヴィ』の内部回路に青白い灯が灯り始めた。
「あん? 手が止まったか? ならこっちも止めと行くか?」
眼帯男はにやりとほくそ笑み、再び上部のレバーを大きく引いた。
「これで終わりだ、アールっ!!」
眼帯男のギアのクローに、さらに凶悪なプラズマの光が加わり、力が込められる。
刹那の静寂の後に、全く同時に2機が加速した。
「やっぱりな。だからこそ……『アール』、倒し甲斐のあるヤツだっ!!」
「まだやる気ですか」
二つの武器が激しくぶつかり合う。
一方は大剣、一方はプラズマ放電が加わった巨大クロー。それが真っ正面から両機の速度と重量を加えて激突し、爆発のように火花を散らした。
真空の宇宙に音こそ響かないものの、吸収しきれなかった衝撃と振動が、二人のコクピットを突き抜けていく。
そんな状況で、眼帯男はなおも余裕の笑みを浮かべていた。
「ふん、『シルバー』で『ゴールド』のパワーに耐えられるものかよ!」
そのまま目一杯まで、操縦桿のパワーゲージを押し上げる。
その操縦に応えるかのように、クローが大剣を押し始めた。
まるでプレス機でプレスするかのように、ゆっくりと、確実に。
「このまま死にやがれ、『アール』っ!!」
そう告げた眼帯男の視線の先、プラズマに彩られたクローの向こうにあるアールの『ルヴィ』に、ふと変化が現れた。
肩に、足に、兜に、青白い光が灯り、それが次々と増えていく。
そして、青白い光が増えていくほど、クローが大剣を押す速度が弱まっていく。
「……なに!?」
眼帯男が驚きに目を見張る時には、アールの機体の全体が、光へと包まれていた。その兜が上げられ、センサーの配置された両眼が、より強く青く輝く。
「これでラストです」
アールの言葉に反応して、大剣全体が光輝いた。と同時に、力で押されていたはずのクローを一気に弾き返す。
「ぬおっ!!」
たまらずに体勢を崩した眼帯男の機体に、大剣が叩き込まれる。
「『ソード、ブレイカーっ!!!』」
とっさにクローでガードしたあたり、眼帯男の技量も目を見張るものがあるが、アールからすれば、そのクローこそが目的だった。残光を引いた大剣が、まるでバターのようにクローを全て切り裂く。
「足は貰っていきます」
返す刀が煌めいて、次の瞬間には眼帯男のギアは、足と胴体が切り離されていた。
「お、おのれ……この次は殺す、絶対にだ! 俺の機体が本来の機体ならば、お前なんざ……」
その悪態は、アールの耳には届かずに。
アールは動けなくなったギア達を一瞥すると、すぐさま、後方で待機している宇宙船へと戻っていった。
ここは宇宙船の小さな食堂。
先ほどの追っ手を退け、2度目のワープで移動している。今回もまた、プラネットゲートを使わずに、ブルーポイントを使って移動中だ。
そして……今、アール達の目の前に、湯気の立つお茶と甘いチーズタルトが置かれている。今日の夕食後のデザートだ。ちなみにこれらを用意したのは、カリスだ。そわそわといった様子で、リンレイの方を見ているようだが。
「あのギア達のことですが……」
「知らん」
アールの質問に、リンレイは即答した。
リンレイに先ほどの敵のことを、アールは確認しているのだ。
「こっちだって、初めて見たんだ。仕方なかろう」
そう言い放ちリンレイは、ずずずと紅茶を飲み干す。
どうやら、リンレイも敵のことは知らない様子。
「まあ、そんなことだと思っていましたが」
「何!?」
いきり立つリンレイの前にカリスは、そっと美味しそうな苺のムースを差し出した。
「よければ、こちらもどうぞ」
「あ、ああ。すまないな」
カリスのナイスタイミングに、アールはほっと胸を撫で下ろす。
「仕方ありませんね。ちょっと寄り道しましょうか」
「寄り道?」
リンレイの言葉にアールは神妙な顔で頷いた。
「ええ、ついでにコレも見ちゃいましょう」
取り出したのは、老騎士から受け取ったデータチップであった。