ダーク・ファンタジー小説
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- アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
- 日時: 2013/02/05 09:46
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!
※この小説は他サイトでも公開しているものです。
ご了承ください。
また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。
●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。
●改訂版
改訂版はこちら >>39-52
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.43 )
- 日時: 2013/02/05 09:32
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第3話 ◆遠くなる感傷 迫り来るカーチェイス
少女はずっと、窓の外、後方を眺めていた。
かつて老人と住んでいたアパートメントがどんどんと遠ざかっていく。
どのくらいの時間、あの地で過ごしていたのだろう?
家族と共に居た時間の方が遥かに多いのに、何故か、あのアパートメントでの記憶が鮮明に思い出される。
そう、まるで走馬灯のように。
涙を堪えるような彼女を見て、アールは口を開いた。
「一つ、聞いても……いいですか?」
「何だ?」
先ほどの涙は何もなかったかのように、金髪の少女は不機嫌そうな声を上げた。
アールは思わず心の中でだけ、苦笑を浮かべた。
彼女はこれから、過酷な運命を背負って生きていかなくてはならないのだ。
そのためにも、知らなければならない。
「名前を……教えてくれませんか?」
訊きそびれていた、少女の名を。
「その前に、紳士なら自分の名を名乗ってからするものだろう?」
「私はアールと呼ばれています。お好きなように呼んでください」
ふんと鼻を鳴らして少女は告げる。
「リンレイだ」
意外に可愛い名前に、自然に笑みが零れた。
「良い名ですね」
そういうと、リンレイは驚いたように目を見張り、そして、そっぽを向く。
ほんのりと頬を染めているのは、気のせいだろうか?
———ファーストコンタクトにしては、まあまあかな。
ほっと胸を撫で下ろして、アールはまた前を向いた。早くカリスの待つ宇宙船に戻らなければならないのだから。
一方その頃。彼らを追う影があった。
車よりも大きいが宇宙船よりは小さい。
エアフライヤーと呼ばれる、一人乗りの小型の飛行船。
ただ、普通のものと違うのは。
「あの車か? 『アール』が乗っているってのは」
エアフライヤーは2機。互いに通信機を使って交信している。
2機のエアフライヤーの運転席から映し出されるモニターには、アールの車が映し出されていた。
「おい、見てみろよ! 足つきだぞ、足つき」
二人は笑いながら、車を見下ろす。タイヤなんて、今の車には存在しない。全ての車は空を飛んでゆく。飛行船と同じ高さまでは飛べないが、それによって、どんな地形でも高速で移動することができる。だからこそ、タイヤのある『足つき』は珍しいのだ。
「あれで俺達を振り切れると思うか?」
「いいや、無理無理。無理に決まってる」
けたけたと楽しげに、二人は操縦桿を前に倒した。
「さっさと、あの足つきを壊して」
「奪ってやろうぜ、アイツの全てを」
くくくと、くぐもった声が、エアフライヤーの中で響いた。
アールの車は、地平線まで延びているかのようなハイウェイをそのまま、突き進んでいた。
「私の船は、この先の街に停泊しています。後、数十分で着きま……」
アールの言葉が途中で途切れた。
「な、ど、どうした?」
リンレイも驚きの声を上げた。
がくんと車が急停車したからだ。いや、すぐさまアールはそれをバックへと切り替えて、全速力で後退した。乱暴な運転にリンレイは顔を顰める。
ふと、フロントガラスの前を見た。
一面、煙に包まれている。が、それもすぐに晴れた。
「クレーター?」
リンレイは目を丸くして、目の前を見つめている。
数秒前にはなかった、巨大なクレーター。ソレが今、目の前に立ちはだかっている。
「正確には、ミサイル攻撃を受けた、ですね。……全く、ここの治安機構は何をしているんですかね?」
後方を見ながら、車のギアを切り替えて、アールは告げる。
「しっかり掴んで、舌を噛まないよう」
「それってどうい……」
リンレイが尋ねる前に。
「き、やああああああああ!!」
車が急発進! 猛スピードで車は駆け抜ける。
ギアチェンジ、またアクセル。バックに入れたり、前に入れたり。
それもスピードに乗ってる中でやり遂げるのを見て、リンレイは密かにアールの腕の良さを実感していた。
「リンレイ、右を」
有無を言わさぬ、その言い草にリンレイは憤慨するも、言われた通りに右を向く。
そこには、エアフライヤー2機がこちらに向かって、レーザーやらミサイルやら撃ち込んで来ているではないか!?
確か……と、リンレイは老人に教えられた言葉を思い出していた。
『姫様、エアフライヤーは、一人乗りの小型飛行船ですじゃ。スピードもあるし、違法ではあるものの、ミサイルやレーザー、機関銃などの武装を取り付けることが可能です。ですが』
エアフライヤーの写真が張ってあるホワイトボードを、こんこんと叩いて老人は、重要なことを教えた。
『軽くて、ぶつかっただけで大破するほど、機体が弱い。そのことをお忘れなきよう』
「あ、あれは機体が弱いぞっ!!」
やっとのことでリンレイは、それを教えた。
「で、どうやって攻撃します?」
「へっ!?」
すなわち、それは攻撃する術がないことを意味していた。
「まあ、とにかく、リンレイ。あれはリンレイの味方ではないんですね?」
「味方なら、攻撃……しないっ!!」
「じゃあ、敵ということで」
手近のボタンを二つ、即座に押した。
ぱしゅぱしゅと軽い音と共に、煙が噴出す。
「攻撃手段、あるじゃないか」
「目くらましですよ。ほら、すぐに出てきましたよ」
と言いつつも、右に左にハンドルを切りながら、追っ手の攻撃を巧みにかわし続ける。フロントガラスに映った速度を見て、リンレイは思わず目を擦った。
———時速、400km以上、出ている……だと?
「そういえば、じいが言っていた」
「何です?」
「ハイスピードで駆け巡る乗り物があるらしい。確か……そう、絶叫マシーンとかいう」
「ジェットコースターですか」
「そう、それだ!! うわあああああ!!」
急にハンドルを曲げた。体ががくんがくんと左右に揺れる。
「全く、こっちは客を乗せてるって言うのに」
アールは煩わしいと、テンキーを呼び出し、番号を打ち込んだ。
『どうかなさいましたか、マスター』
どうやら通信機だったらしい。出てきたのは、女性。いや、アールの助手、カリスだ。
「どうもこうも、面倒な敵に追われてる」
『それは大変ですね』
人事のように言う、カリスの言葉にリンレイは思わず眉を顰めた。
「そうじゃなくって……こっちは面倒なストーカーに追われてるんだよ、全く」
『マスターなら、すぐに撒けるではありませんか』
カリスの一言に、アールはため息を漏らしながら。
「客を乗せてる」
『客? お客様、ですか?』
やっとカリスも理解したようだ。アールが何故、そうしなかったかを。
「そういうこと」
『それは失礼しました。すぐに向かいます』
「ああ、宜しく頼むよ」
そんな二人のやり取りをリンレイは、漫才のようだと思っていた。
それにしても……そう言い合いながら、ハイスピードを出している車を見事に制御し、敵の攻撃を一撃も受けていない。アールのドライビングテクニックは、かなり高度なものだと言わざるを得ないだろう。
「でも、全てを操作するのは、いささか疲れてきましたよ。D・ドライブ、プログラムフェンリルを起動」
アールの声に、車が反応した。リンレイは、機体の隙間から、煌めき伸びる回線を見たような気がした。
『フェンリル起動します』
無機質な女性の声。先ほどのカリスの声に似た声だった。
続いてアールはもう一度、告げる。
「プログラム・ミラージュ展開」
『ミラージュ展開しました』
また車が反応し、今度は、車体の周りが虹色に歪んだ……気がした。
「何をしたんだ?」
「より操作しやすくしたのと、デコイを張りました。これで敵の攻撃も避けやすくなりましたよ」
そんなことを聞きながら、リンレイはもう一度、速度表示を確認した。既に400を超えて500近くになっている。それにしても、この車はどれだけのスピードを出せるのだろうか? いや、それ以前にそれだけのスピードを出していると言うのに、圧力を感じないのは気のせいだろうか? レトロな車かと思っていたが、この車はかなりの高性能だというのか?
そう思った途端、リンレイは、気持ち悪いを通り越して、くらくらしてきた。
「うぷっ……」
「はいどうぞ」
アールが手渡したのは、白いビニール袋。
ありがたくそれを受け取り、思いっきり吐き出した。
「すみませんね。こんなに荒い運転するつもりはなかったんですけど」
「いや、気にするな。少し楽になった」
何とか袋をきゅっと締めると。
「外に投げていいですよ」
アールはリンレイ側の窓を開いた。
凄い風が吹き込んできたが、リンレイは、いつまでもこの袋を持つ気はない。
憎しみを込めて、思いっきりエアフライヤーに向かって投げつけてやった。
が、残念ながら、それは届くことなく、地面に当たって散った。
しゅんと音を立てて、また窓が閉まった。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.44 )
- 日時: 2013/02/05 09:33
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
エアフライヤーの中でも騒ぎが起きていた。
「なんだ、あの足つきは!!」
「あんなスピード、足つきで出せるわけが無い!!」
何度も照準を合わせて撃っているというのに、相手はそれを巧みに躱していく。
まるで後ろに目があるかのように。
と、何処からか通信が入ってきた。
「どうした?」
「どうやら、この追いかけっこも終わりだ。応援が来たぞ」
「こりゃ相手も終わったな」
二人は楽しそうに口元を歪めた。
「チッ……」
アールが舌打ちする。
目の前に大きな船が現われたのだ。
小型ではあるが、それは明らかに武装したスペースシップだとすぐに分かった。
しかも、その船はこちらに照準を合わせて、誘導レーザーを放ってきた。
咄嗟にリンレイは目を瞑り。
「………あれ?」
やって来るはずの振動も閃光も熱さもレーザーも感じなかった。
感じたのは、少し陰ったことだけ。
「遅いですよ、カリス」
『すみません、混んでいたものですから』
追ってきた船よりも二周りも、いや、もっと大きい。
蒼白く輝くその美しい船は、アール達の車の盾になってくれたようだ。
『すぐに回収します』
船はすぐさまハッチを開き、アールの車を捕らえると、見えない力———いや、反重力だろう———で、車体ごと回収した。ふわりと浮く感覚が、リンレイには慣れなかった様子で、不機嫌そうな顔を浮かべていた。
「ありがとう、助かったよ」
アールの言葉と同時にハッチが閉まり、代わりに人工的な明かりがアール達を照らす。
『このまま一気に飛びます』
「ああ、頼むね」
そういって、アールは車から降りると、そのままリンレイの乗る助手席に向かう。
ここからでは、外の様子が見えなくなっていた。
どうなっているか分からないが、恐らく、彼らを撒けたのだろう、きっと。
と、リンレイの席の扉が開いた。
そして、アールは彼女へと手を差し伸べる。
「ようこそ、リンレイ。私の船へ」
「荒い歓迎だったがな」
その手にリンレイは、自分の手を重ねる。リンレイの言葉にアールはくすりと笑い。
「この次からは気をつけますよ」
「ああ、頼む」
やっと、慣れた車椅子に腰掛けられて、リンレイはやっと息をつけたのだった。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.45 )
- 日時: 2013/02/05 09:35
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第4話 ◆アールの船とモーターギア
先ほどまで続いていた振動が、とたんに静かになる。
「何とかなったかな?」
そう呟いて、アールはリンレイの車椅子を押していく。
アールの車を収納した格納庫は、意外と明るい場所であった。
整備などにここを使うためだろう。その格納庫には、車だけでなく、巨大な人型のものが鎮座していた。
もちろん、人間ではない。
「モーターギア……」
これも、リンレイは老人から教わっていた。そう、確か……。
『姫様、これがモーターギアというものです』
ホワイトボードに貼り付けられたのは、巨大なロボットであった。
『タダのロボットだろ?』
そう面倒くさそうに呟くリンレイに、老人は真面目な顔で告げた。
『これら全て10メートルほどの大きさです』
『大きいんだな』
『そうでございます。今、ボードに張ったのは、作業用のものです。主に土木工事などに使用されます』
ふうーんと興味なさげにリンレイはそれを眺めていた。
『こちらはそれとは別でございます』
新たに張り出したのは、作業用と呼ばれたものよりも幾分、スリムになっており、より人間らしい形をしていた。しかし、その手や肩などには、いくつもの武装が取り付けられていた。
『随分、物騒なものを持っているな』
『軍事用のモーターギアでございます。しっかり覚えてくだされ、姫様』
『面倒だな。覚えなくてもいいだろ?』
『いえ、万が一ということもございます。そのために敵を知るということは、とても有効なのでございますぞ』
そういって、老人は説明を続けた。
『これらモーターギアは、フレームの型によって、更に細分化されております』
『フレームの、型?』
『姫様、姫様のつけているイヤリングは何製ですかな?』
『シルバーだが?』
『そう、シルバー。このモーターギアのフレームも、そのアクセサリーと同様、シルバーやゴールド、ダイヤなどの名が付けられているのです。より高級な材質であればあるほど、そのフレームは強いということになります。ブロンズフレームなら、シルバーフレームのモーターギアには、性能の上では太刀打ちできないということになります』
『なるほどー』
改めて、アールの格納庫を見る。
そこには、モーターギアが2体、置いてあった。
白銀色をした、華奢なフォルム。どちらかというと女性的な形をしている。くびれや足も前に老人に見せてもらったよりも遥かに細い。より人間らしいといっても過言ではないだろう。
現在、主流になっているモーターギアのデザインは、いずれもガタイが良い。むしろ、そうしなければ、立つことはおろか、動くこともままならない。そうなると、目の前にある白銀のモーターギアは……まるで天界から舞い降りた戦乙女(ヴァルキリー)を思わせるギアは、立てないということになるが……。
「私の使ってるシルバーですよ。名前は『ルヴィ』と言います」
「ごつくは……ないんだな」
「どうも、今、主流のギアは私好みではないもので。少々いじらせてもらいました」
アールはそういって、その白銀色したモーターギアを優しく触れる。愛おしそうにそっと。
「いじるってものではないだろう? これ、立つのか?」
「ちゃんと立ちますよ。軽量化もしてますから、速いです」
「本気(マジ)か?」
思わず、言葉にしてしまう。
と、視線を外した先に、もう1機のギアが目に入った。
こっちは青白い機体。
「こっちは……」
妙にデカイ。ずんぐりむっくりという表現がぴったりな奇妙な形をしていた。
そう、いわば……。
「マトリョーシカか?」
何処かの国のアンティークショップに、こんな形の土産物があったように思う。
「これでも、ルヴィよりも遥かに高性能なんですけどね」
リンレイの疑うような顔を見て、アールは思わず苦笑を浮かべる。
「これが、か? このシルバーの方がちょっと細いが、強そうに見えるぞ」
そういって、リンレイは『ルヴィ』を指差していると。
「マスター」
と、そこへ声が掛けられた。凛と響く女性の声。
「ああ、もう来たの?」
ざっくばらんに受け答えするアール。
そこに現われたのは、白いワンピース姿の金髪の女性であった。
「紹介します。彼女はカリス。私の助手をしてもらってます」
「初めまして、カリスと申します。で、この方が……」
軽く礼をした後、カリスはアールの方を確認するかのように見る。
「ええ。名はリンレイ。我々の客人だから、丁重にもてなすように」
「畏まりました」
リンレイは、そのやり取りを遠くで眺める振りをして、もう一度、モーターギアを見上げた。シルバーの———確か『ルヴィ』と言ったか———美しいフォルムに瞳を奪われていた。まるでこれは芸術品ではないのかとさえ、思えてしまう。
「もしかして、これはカリスとやらが乗るのか?」
「いえ、どちらも私専用ですよ」
さも当然といわんばかりにアールが答えた。
「なんでお前用のものが、2機もあるんだ? 1機で十分だろ?」
そんな疑問を投げかけるリンレイに、アールは丁寧に説明した。
「その方が面倒ごとが少ないんですよ。ルヴィでいいときはルヴィのみで、そうでないときは、奥のギアを使うんです。奥のは少々、燃費も悪く、かなりのじゃじゃ馬なので」
そういうアールを冷たい瞳でカリスが睨んでいるように見えたのは、気のせいだろうか? きっと、アールが乗せないから、カリスが怒っているのだとリンレイは思う。
「少し、カリスとやらを大事にしたらどうだ?」
「大事にしてますよ。大切なパートナーですし」
アールの言葉に、カリスが、僅かに喜ぶような素振りを見せた。
僅かな、本当に僅かな変化ではあったが。
「まあ、そういうことならいい。それよりも……さっきの追っ手はどうした?」
「気になりますか? なら、ブリッジに行きましょうか」
今度はカリスがリンレイの車椅子を押して、アールの案内するままに3人は、ブリッジへと向かったのであった。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.46 )
- 日時: 2013/02/05 09:35
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
ブリッジから見える宇宙は、静かなものであった。
3枚の窓から映し出される宇宙は、果てしなく広がる星空を見せていた。
吸い込まれそうな感覚に陥りそうになりながら、リンレイは思わず首を横に振った。
「撒いたんだな」
安心したかのようにそうリンレイが呟くと。
「いえ、まだ完全ではありません」
そういって、アールはそのまま、操縦席に座り、いくつかの立体モニターを展開させた。
「敵の位置は?」
その言葉にカリスが即座に答える。
「後方2時の方角に3機……いえ、4機になりました」
カリスも傍にある専用席に座って、早速、モニターを開始していた。
ぱちぱちとキーボードを操作し、展開されているモニターに敵の位置を映し出していた。
「どうするんだ? 近くにプラネットゲートはないぞ?」
そんなリンレイの言葉に、アールは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「カリス、B3576のブルーポイントは、まだ健在?」
「はい、オールグリーンです」
ブルーポイントとは、各地につけた印のようなものである。正確に言うと、アール達が独自に割り出した座標ともいうべきもの。オールグリーンということは、それは問題なく機能している、生きているということに他ならない。
「じゃあ、そこに『飛ぼう』」
アールはそれを確認して、手元のキーボードを操作し始める。
「ちょ、ちょっと待て!」
それを止めたのは、リンレイ。
「もしかして……ゲートなしで、『飛ぶ(ワープする)』のか?」
アールは、にこっと先ほどの笑みを浮かべて。
「危険すぎる!! ある者がゲートなしで飛んで、間違って、恒星に突っ込み燃え失せたって話さえある! もし、星のマグマの中にでも突っ込んだら……!!」
「だからこそ、『マーカー』が必要なんだよ」
別のモニターに新たなウインドウが現われていた。
聞いたことの無い、宇宙の名前が表示されている。
「それに、お客様がいるってのに、失敗したらあの老騎士さんに怒られてしまうからね」
再び、アールがキーボードを操作する。
「じゃあ、カリス準備」
「でもっ!!」
「追っ手がすぐそこまで来てるっていっても?」
アールの指差した向こう。
そこには先ほど、リンレイ達を散々痛めつけた憎き追っ手が迫ってきていた。
「なっ!!」
がたりと立ち上がろうとするも、立ち上がれずに、また座り込んでしまう。
どちらかというと、体の所為で立ち上がれなかったというのが本音だろう。
「それが賢明」
アールはそう言って、傍にある青いボタンを押した。
「マスター、すぐにでも次元空間に行けますが、いかがしますか?」
「オーケー。行っちゃって、カリス」
「次元空間、オープン!」
ぶんっ!
一瞬、何かがズレて、戻った。
次に見たのは、流れる白い宇宙。
けれどそれは思うよりも眩しくなくて、その空間は明るく優しかった。
普通、ワープをすると、個々の体質にもよるが、酔う者も少なからずいる。もちろん、全く平気な者も。だが、アールやカリスはもちろん、リンレイもワープによる船酔いはなかった。
「さてっと、これで敵も撒きましたし、一息つきましょーか」
そう言ってアールは、慣れた手つきでミラーシェードをしまいこみ、ついでにイヤーギアを外した。
「え? あ?」
そこに現われたのは、蒼い瞳と亜麻色の瞳のオッドアイの青年。
20を過ぎていると思うが、それでも若いと思う。
「ああ、オッドアイ。見るの初めてですか?」
「あ、ああ……」
「それに若造だと」
「そんなことっ!!」
「いいですよ、よく言われてますし」
そういって、今度はジャケットを脱いで、席の背もたれに掛ける。
「だから、これで顔を隠しつつ、ハッタリかまして稼がせてもらってます」
背中越しに聞こえるその声に、リンレイは、何か淋しげなものを感じた。
「ああ、カリス。彼女を部屋に連れて行ってあげてください。疲れているでしょうから」
「わかりました」
「あ……」
言いかける手は、アールには届かず。
カリスはそのまま、アールに指図された通りに、リンレイを部屋へと運ぶのであった。
それを背中で見送ったアールは、ふうっと息を吐いた。
それは、ため息から出たものか、それとも、緊張のためか。
アール自身、判断できかねることであった。
いや、それよりも分からないのは。
腰のポーチから取り出したのは、老騎士から託されたメモリーチップ。
箱を開けて、眩しいものを見るかのように瞳を細める。
「本当に、面倒なものをくれたものです。あの老人は」
食えないと呟いて、知り合いにメールを打つ。
「マスターなら、それを見れるのでは?」
ノックもなしに、カリスが戻ってきたようだ。突然、後ろから声がかかる。
「カリス、戻ったのなら、ノックくらいして欲しいな」
「そんなこと、初めて聞きましたが」
「いいじゃないか」
「で、これを見ないんですか?」
カリスが指差すのは、例のメモリーチップだ。
「まあ、頑張れば見れるだろうけど……このロック、30個もかけられて、かなり複雑なようだよ」
「え?」
アールが一瞥した、視線の先にあるチップには、かなり厳重な『鍵』がしてあったようだ。
「『飛び』ながら、チップにダイブしろ?」
ぐいっと背もたれを後ろに深く倒しながら、頭を掻く。
「『リキッド』2つ使い切るし、一週間ぐらい使い物にならなくなるけどいい?」
「いえ、結構です」
「でしょ? だから、お爺ちゃんに頼んでみた。興味持ってくれるといいんだけど」
「そうですね」
箱からチップを取り出し、白い宇宙に翳してみる。それで中身が見えるわけではないが、それでもつい、翳してしまう。
「一体、何が入っているのやら……」
そしてアールは心の中で、自分達を送り出した老騎士の安否を気遣いながら、操舵モードをフルオートに切り替えたのだった。
- Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.47 )
- 日時: 2013/02/05 09:37
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第5話 ◆リンレイ改造計……画?
翌朝。
アールはいつものように起きだし、食堂へ向かった。
あくびをしながら、慣れた手つきでコーヒーにミルクをたっぷりと入れる。
砂糖を入れないのは、アールのこだわりの一つ。
「ん、美味し……」
朝のモーニングコーヒー(?)にアールは、幸せそうだ。食卓に置いてあるタッチパネルを使って、朝のニュースを確認し始める。
「おはようございます、マスター」
「おはよう、カリス。リンレイの様子は?」
アールの言葉にカリスは淡々と答える。
「まだぐっすり眠っていらっしゃいます。恐らく、もうしばらくは寝ているのではないかと」
「まあ、昨日はいろいろあったからねぇー」
思い出すかのように、アールはタッチパネルを見つつ、コーヒーを一口飲んで。
「で、話って何?」
先に察したのか、アールはそういって、カリスを促した。カリスは僅かに微笑み、嬉しそうに切り出した。
「リンレイの車椅子の件です。あのままでは護衛するにも面倒すぎます。そこで私は考えました」
どさりと食卓に乗せられる分厚い資料。
「リンレイモーターギア化計画ですっ!」
「ぶっ!!」
思わず飲んでいたコーヒーを噴出し、アールは酷く咳き込んだ。カリスはさすさすと背中をさすってやっている。
「な、何、それ……」
「言葉通りです。リンレイをそのままモーターギアに乗せてしまえば、護衛も楽ですし、移動も楽。一石二鳥の計画です」
「却下」
その有無を言わさぬアールの言葉に、カリスは僅かにその瞳を翳らせた。
「カリスの言う通りやれば、移動も護衛も楽だろうけど……そんな大きな物が街に入ったら、すぐさま警備隊がやってきてしょっ引かれるよ。それに街の人の迷惑にもなる」
「で、ですが……」
「まあ、リンレイが小さくて可愛くて、何か役に立ちたいって気持ちもわからないでもないけど」
じとーっとした視線を投げつけながら、アールはそうカリスの心情を言い当てた。
「最初は気づかなかったのですが、じっと眺めていると、可愛いのです! もちろん、『女神様』と『天使様』には及びませんが」
「まあ、うちの妻と子供には及ばないよね」
何気に親バカなことを言うアールに、カリスは大いに同意していた。ついでにいうと、これをリンレイが聞いていたら、きっと憤慨するだろうが。
「それにね、リンレイがモーターギア操作できると思えないし」
「何でですか? 簡単じゃないですか」
「だーかーら、僕達と一緒にしちゃダメだって。僕達は『兵器』として作られたけれど、彼女は一般人。戦うことなんて無理。それにモーターギアの操縦は、一般人がそう易々とできるものでもないよ。たとえ、カリスやOSがサポートしても、それでも操縦は複雑で繊細だってこと、忘れちゃダメだよ。だから、却下」
「うぅ……」
何も言えずにカリスは、名残惜しそうにその分厚い資料をゴミ箱に捨てた。
「でもまあ、ちょっとズレてるけど、リンレイを改造するってのはいい案かもね」
「じゃあ……!!」
急いで資料を取り出そうとするカリスの手を止める。
「そういう改造じゃなくって!! とにかく、僕に考えがある。カリス、『力』を貸してくれるかい?」
「喜んで」
カリスは嬉しそうな素振りで、ふわりとした金髪を揺らした。
リンレイと同じ、金色の髪を。
目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。
———いや、違う。
首を振り、改めて、リンレイは辺りを見渡した。
確か……そう、カリスと言ったか。金髪の女性に案内されて、船の一室を貸してもらったことを思い出した。あまり使っていないという話だったが、埃一つ無い、綺麗なこざっぱりした部屋だった。白い布団とシーツ、毛布のベッドが一つ。小さなデスクが一つ。鏡と洗面所のついたトイレとバスルームが、別々に分けられた上で、設置されていた。
そう、ここはアールの船の中。
なのに、こうこざっぱりして男臭さがあまり感じられない。
———あの、カリスという女の所為、いやお蔭なんだろうな。
リンレイは起き上がり、トイレに行こうとする。が、車椅子がやや遠くて、難しい。
手を伸ばして、引き寄せようとしているときに。
こんこん。
「リンレイ様、おはようございます。もしよろしければ、お手伝いいたしますが」
———隠しカメラとかあるんじゃないのか?
思わずリンレイは、苦笑を浮かべる。
「すまない、手伝ってくれないか。トイレに行きたい」
「入りますが、よろしいですか?」
「ああ」
許可を得て、カリスが入ってきた。
支度を終えて、リンレイとカリスは共に部屋を出た。
案内されたのは、小さな食堂。
テーブルには既に朝食の準備がなされており、フォークとスプーン、そしてパステルカラーのランチマットが敷かれていた。
「おはよう、リンレイ。フレンチトーストを用意しましたが、良かったですか?」
この甘い香りは、トーストのせいかと、リンレイは思う。
「ああ、好きだ」
そう呟いて、リンレイはカリスの手で席につく。リンレイはアールが料理を並べるのをそのまま眺めていた。
出来立てのフレンチトーストに、バニラアイスが乗っている。
他にもスクランブルエッグにベーコンとほうれん草が細かく入っているし。
サラダは具沢山のポテトサラダ。
妙に手が込んでいる。
「豪勢だな」
「お客様がいますから」
口元に人差し指を持っていって、アールは悪戯な笑みを浮かべてみせる。
「いつもはもっと質素ですよ」
「そっちの料理も見てみたいものだ」
一笑いして、リンレイ達は美味しそうな朝食を口に運ぶ。
「ああ、リンレイ。あなたに渡す物があるんです」
「渡す、もの?」
思わず、食事をする手が止まってしまった。
「ええ、驚きますよ?」
「驚く?」
「あごが外れるくらいに」
今度がカリスが口を開いた。
———あごが、外れる……くらいに、か……?
一体、何が起きるのかと、リンレイは訝しむ。
美味しいはずの朝食が、何処か遠くへいってしまった気がした。