ダーク・ファンタジー小説

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アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
日時: 2013/02/05 09:46
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!


※この小説は他サイトでも公開しているものです。
 ご了承ください。
 また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。


●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。

●改訂版
改訂版はこちら >>39-52

Re: アール・ブレイド ( No.13 )
日時: 2012/08/05 15:40
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

「はあ、はあ、はあ……」
 目が覚めたら、そこはアールの船の中。私のために用意された部屋の中だった。
 こんこんと、ノックの音。
「カリス……なのか?」
「はい、入ってもよろしいですか?」
「ああ……」
 急いで涙を拭いて、何事も無かった振りをする。
「何か飲み物をと、思いまして」
 カリスは冷たい飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう、助かる」
 さっそくそれを受け取り、口に含む。甘い甘いジュースだった。
「ところで……アールは?」
「まだです。ですが、もうすぐ戻ってくるかと」
「そうか……」
 全く、アイツは何をしているんだ。
 お陰で嫌な夢を見てしまったじゃないか。しばらく見ていなかった、嫌な過去の夢を。


 アールはいつものバーに入っていく。
 名前は『レーヴ』。
 確か、何処かの国の言葉で、夢という意味だそうだ。
「彼女らしい名だ」
 いつもそう思う。
 からんと鐘を鳴らして、扉を開く。独特の甘い香りと、甘いムードを演出していた。
 けれど、今日は少し違っていたようだ。
「何だと……」
「お前が悪いんだろっ!!」
 そうやら、客の二人が揉めているらしい。
「ちょっと、揉め事は外でやって頂戴」
 マスターの女性が声を張り上げるが聞いていない。
 アールが彼らの元に音も無く忍び寄り、彼らの腕を捻り上げた。
「いででででっ!!」
「ぐおっ! 何すんだっ!!」
 力を緩めることなく、アールは睨み付けた。
「喧嘩は外でやれ。ここは静かに酒を飲むところだ。それでもやるっていうのなら」
 二人の耳元で囁く。
「今すぐここで、殺してやってもいいんだぞ?」
 ひっという声と共に二人は、とたんに静かになった。そして、アールが手を離すと、二人は一目散に店を出て行った。
「あらやだ、アールじゃない♪」
 マスターはしなをつくりながら、嬉しそうにアールを迎える。
 アールはというと、先ほどの殺気はどこへやら。嫌なものでも触ったといわんばかりに手の埃を払うと。
「いつものくれます?」
「ええ、ええ! すぐに用意するわね♪」
 マスターはすぐさま、カウンターに戻り、いつものノンアルコールカクテルを作り始めた。アールもカウンターに座り、それを楽しげに待つ。
 ちなみに、このバーはオカマバーだ。全て女装の男達が仕切っている。
 なので、いざとなったら先ほどの男達もすぐに追い出されただろうが、ここはあえて、店に恩を売っておく。もちろん、カウンターでカクテルを造っているマスターもそうだ。
「それにしても、来てくれるなんて嬉しいわ」
「丁度、近くを通りかかったものだから。久しぶりに顔を見ておこうと思って」
「あら嬉しいことを言うのね。でもそんなこと言ってると、いろんな人に惚れられるんじゃなくって?」
 さっそく出来たカクテルをアールの前に差し出して、マスターは笑みを浮かべた。
「そんなつもりはないんだけど……うーん、やっぱり、父さんの血、かな?」
 いただくよと声を掛けて、一口。アールの口の中に、甘く爽やかな味が広がってゆく。
「うん、やっぱり美味しい」
「ふふ、あなたのお父さんって、とってもプレイボーイだったのかしらね?」
「嫌になるほど、とびきりのね。よく母にけり倒されてた」
「まあ、素敵」
 二口目を含んで、飲み込む。
「素敵かな? 青あざ作ってたけど?」
「だって、それほどの口と美貌があったのでしょう? 素敵に決まってるじゃない」
 うっとりとした顔でマスターは続ける。
「ああん、アールのお父さまに会いたかったわぁ〜」
「もう、死んでいないけどね」
「そうだったわね」
 くすすと二人で笑いあい、アールが口を開く。
「で、頼んで置いたのは、調べてくれた?」
「もちろん、アールの頼みですもの。しっかり調べておいたわ」
 ぱさりと資料を出してくれた。すぐさまそれに目を通していく。
 一番最初に目に付いたのは、頭にティアラをつけたドレス姿の。
「エレンティア王国。とっても辺境の地の国のお姫様よ。彼女」
 愛らしい笑顔で手を振るリンレイだった。傍らには兄弟だろう似たような子供達も手を振っていた。
「やっぱり」
「しかも、あの帝国に滅ぼされてるの。国を」
「………それで」
「最後の生き残りらしいわ。それと、おつきの騎士様も僅かな生き残り。もっともそっちはおじい様だけどね」
「……そう、ですか」
 資料を一通り眺めて、そして、マスターに手渡す。
「あら、いいの? 持って行ってもいいのよ?」
「いえ、持って帰ったら何言われるかわかりませんから」
 内緒にしておきたいんですと、告げて、残っていたカクテルを全て飲み干した。
「じゃあ、おかわり作るわね」
「そうですか? では、今度はあの青いやつで」
「ふふ、あれね。わかったわ。ちょっと待ってて」
 またカクテルを作っている間に、アールは着信を受けて振動する携帯端末を、胸ポケットから取り出した。
「あっ。もう来てる……」
「あら、あの子から?」
 ことりと、出来たカクテルをアールの元に置いた。さっそくそれに手を伸ばし、一口飲む。今度はしゅわっと刺激的なカクテルだった。それがまた、心地よい味。
 堪能しつつ、端末を操作して、届いたメールを確認する。

『ちょっとキナ臭い情報をゲット。『テネシティ』っていう組織がリンレイを使って革命を起こそうとしている模様。組織のある場所は……』

「うちの届け先、ですか」
 明らかに嫌そうな表情を浮かべ、アールはため息をついた。
「まあ、どうするの?」
「いえ、変更はしませんよ。それに前金いただいちゃいましたし」
「そんなの踏み倒しちゃえばいいのよ」
「それは信用に関わりますから駄目です」
 ごくりとアールは、2杯目のカクテルも飲み干した。
「それにこれは、彼女の問題でもありますから」
 端末をしまって、アールは立ち上がる。
「あら、もう行っちゃうの? もっとゆっくりしていってもいいのよ?」
「これ以上留まったら、指定の時間に間に合わなくなってしまいます」
「もう、つれないのね」
「また来ますよ」
 そういって、アールは色をつけて、チップを渡した。
「あら、ちょっと多いんじゃなくって?」
「今日は特別です」
「いつも特別だと嬉しいわね。ふふふ」
 マスターに見送られて、アールはバーを後にした。
「後はチップの中身、ですか……」


 戻ってくると、案の定。
 リンレイは不機嫌だった。
 アールが戻ってくるまで、変な夢を見たらしい。
 なんとなく、どんな夢を見たのか想像できたが、あえて触れないでおく。
「それとこれ、返しておくぞ」
 リンレイは、預けたアールのペンダントを手渡してきた。
「ありがとうございます。ちゃんとデータは貰えました?」
 アールは手渡されたペンダントを再び、首元につけた。
「ああ、これだ」
 アールに言われて、頼まれていた解析データと共にチップも手渡す。
「……動画?」
 まだリンレイが何も言っていないのに、アールは一瞥しただけで、分かったようだった。
「よく分かったな」
「え、ああ……まあ、なんとなくですよ。なんとなく」
 データをカリスに手渡して、アールはシップの操縦桿を握った。
「さて、ここから一気に行きましょうか。届け先まで一直線に行きます」
「そ、そうか……」
 楽しみのような残念なような。
 この旅がもうすぐ終わる事に、少しだけ寂しさを感じるのは気のせいだろうか?
 リンレイはそれをアールに悟らせないよう、船から見える宇宙を必死に眺めていた。

Re: アール・ブレイド ( No.14 )
日時: 2012/08/16 18:10
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第9話 ◆たどり着いたその先は

 ワープアウトして、たどり着いた先は、目的地であるミラノセイア。
 紛争が起きている区域で、危険なことこの上ない場所でもあった。
 だからこそ、光学迷彩を使って周囲を窺いつつ、目的地へと向かう……はずだった。
「見つかりましたか」
「早いな」
 アールの言葉にリンレイがすかさず突っ込む。
 隣の操縦席で、カリスがモニターを見ながらキーボードを打ち込んでいく。
「どうやら相手もやる気のようですよ。前より倍の数、10機近づいてきてます」
「ルートを嗅ぎ取られないようにしてきたつもりだったけど、まあ、目的地は敵にバレてたみたいだね」
 カリスの的確な報告にアールは苦笑を浮かべる。
「このまま船で一気に距離を稼ごうと思ったけど、このままだとちょっと難しいか」
 アールは立ち上がり、背もたれにかけていたジャケットに腕を通す。
「どうするんだ?」
 実はすぐに対応できるよう、リンレイは車椅子ではなく、レッグギアを装着済みであった。アールの後ろに立ち、不安げにアールを見上げる。
「プランBを……船を囮にして、僕たちはシルバーで行きましょう。そう遠くはないですし、こっちに来た分は何となるでしょう」
「了解しました」
「僕たちって……私もシルバーに乗れるのか?」
「一応、サブシートついてますから」
「サブシートってどういう……おいっ!」
 アールに手を引かれながら、リンレイも格納庫へと向かう。
「お気をつけて」
「そっちもね」
 手だけ振って、アールはカリスに挨拶を交わした。

 もともとこのシルバーとやらは、複座式だったようだ。
 パイロットシートの上、頭部部分にもう一人入るスペースがあったのだ。
「これ、二人用ならなんでカリスを乗せないんだ?」
 シートに深く座り、その上からアールがベルトを装着する。
「二人とも嫌がるんですよ。よし、これで完了っと」
「二人?」
 アールの言葉に違和感を感じるも。
「じゃあ、後はこちらに任せて、ゆったり見物しててくださいね」
「あ、ああ。元からそのつもりだ。私を殺すなよ」
「そんなことしませんよ。ほら、閉めますよ」
 そういって、アールはハッチを閉める。
 と同時に内部のモニターが灯り、外の様子が手に取るように分かった。
 手元にある小さなモニターには、いくつものデータが次々と表示され、上から下へと流れていく。


 アールも慣れた様子でシルバーに乗り込む。
 と、同時に船が揺れ始めた。どうやら、敵の攻撃を受けているらしい。
「全く、手荒なやつらだ」
 手早く起動させると、アールは操縦桿に手を掛ける。
「おっと、これを忘れるところだった」
 右の壁。たくさんあるボタンの中で、アールはいつもは使わない左端にある緑のボタンを押した。
『光学迷彩起動します』
「よろしく」
 ぽーんという音と共に、モニターにその文字が流れる。音声ガイダンスはこれにはついていないようだ。
「さて、もうひと頑張りしましょうか、『ルヴィ』」
 瞳のライトが輝き、頷くかのように『ルヴィ』のヘッドが動く。
 そして、格納庫の扉が開くと同時に、一気に加速し、外へと飛び出した。


 カリスはあらかじめ受け取っていたプログラムを展開させながら、敵のモーターギアを引き付けていた。
 ただ引き付けるだけでよいので、仕事は楽な方だろう。
 アール達の『ルヴィ』が遠ざかるのを確認しながら、操作し続ける。
「ですが、ちょっと手が滑りましたね」
 一番速度の遅いギアが、カリスの放ったレーザービームに焼かれ、大破した。誰も射出されなかったところを見ると、恐らくパイロットは爆発に巻き込まれ即死したことだろう。
「ここにあのお嬢様がいなくて、本当によかったです」
 忙しく動かしていた手を止め、座席にもたれ掛かる。
「さて、こちらも少しだけ本気を出しましょうか。弱い者を相手するにも飽きましたし」
 カリスは光に包まれ、そして、光の球体となって、船の中心部に消えた。
 いや、正しくは『同化した』というのが正しいだろう。
 この船は、いまやカリスの手であり、足なのである。
『先日、散々いたぶってくれましたからね。手加減無しです』
 展開していた翼が一部収納され、高速モードの船へと変形する。
『覚悟は……よろしいですね?』
 船が蒼白いオーラに包まれ、襲ってくるモーターギアの大群の中に突っ込んでいった。


「どうやら、派手にやってるようですね」
 アールは後方から聞こえる爆撃音を感じながら、地面スレスレを飛んでいた。
 地面スレスレを飛ぶのは、敵のセンサーを逃れるため。
 ちなみに既にサーチプレートは展開済みで、敵に動きがあれば、すぐに反応できるようにしてある。
『大丈夫なのか?』
 モニターの一つに、サブシートの様子が映し出される。心配そうにちらちらと後方を見るリンレイに思わず笑みが零れた。
「問題ありませんよ。彼女、『本気』で相手してるみたいですから。前に傷つけられたのがそんなに頭にきてたのかな。綺麗に修復したつもりだったんだけど」
 どちらかというと、リンレイの緊張を解すための会話のつもりだった。
『何の話だ?』
「カリスの……いえ、カリスと、船の話です。船に傷がついたと怒っていたから」
『あの船が好きなんだな』
 的外れな答えに、アールは思わず笑ってしまう。
『何が可笑しい?』
 むっとするリンレイにアールは、すみませんとすぐに謝る。喧嘩をするつもりはないのだからと。
「まあ、あの船はカリスのもう一つの体みたいなものですから」
『そうか、船マニアなのだな』
 その答えに笑いそうになりつつも、アールはそれを飲み込んだ。
「とにかく、先を急ぎましょう。ランデブー地点はこの山を越えた町の中で……」
 がくんと機体が揺れた。その反動で光学迷彩が切れてしまった。
「流石ですね。この機体を捕捉するとは」
 相手に心当たりがあった。恐らくこちらを見つけたのは。


「おう、やっと見つけたぜ? 子猫ちゃんよぉ〜」
 眼帯をつけた男は、獲物を見つけたような獣のような眼でアールの『ルヴィ』を睨み付ける。
 アールの行動を読み、ルートを絞り込んで見張っていた。
 かなり気づきづらい微弱なものだったが、どうやら、眼帯男に分配が上がったようだ。
「前回は油断したが、今度は逃がさないぜ? それにそっちは嬢ちゃんが乗ってんだろ? 大人しく引き渡してもらうぜ。もっとも遊んだ後であの世行きだけどなっ」
 下品な笑い声がコクピット中に響いた。
『アニキ! リョウガアニキ! こっちはいつでも行けるぜ』
 リョウガと呼ばれた眼帯男のモニターに、下っ端が声を上げるコクピットが映し出される。
「おう、じゃあ手筈通りにな。何せ相手はあの『アール』だ。気張っていけ」
『了解!』
 湧き上がる衝動に、眼帯男リョウガは打ち震える。
「あいつを今度こそ、この手で殺(や)る。あのときの屈辱を晴らすためにも」
 モニターしたでスピードを上げていくシルバーに、リョウガは瞳を細めた。
「絶対に逃さねぇ……」
 ギチリとリョウガの手袋から、操縦桿を握り締める、嫌な音が鳴った。


「さて、どうしましょうかね。このまま振り切りますか」
 もうすぐ目的地なのだ。無駄な戦いは避けたい。それにこっちは客を乗せているのだ。
 アールはそう決めて、アクセルを踏み込んだ。
『出来るのか?』
「ええ、もう少し速度を上げれますよ」
『……またあれか』
 画面の中のリンレイが顔を顰める。恐らく前回のカーチェイスを思い出したのだろう。
「大丈夫です。今度は空ですし、それほど気持ち悪いことにはなりませんよ」
『ならいいんだが……』
 アールは即座にキーボードを操作し、上部コクピット内の空調を最大限に最適化させる。つまり、どんなことがあってもそこだけは快適に過ごせるように調整したのだ。
 少し忘れかけていたが。
「それにしても、向こうはやる気のようですね。余程、このチップが欲しいと見える」
 ゆっくりと更に加速化。
 次々と脱落していく敵のギアに思わず、笑みを浮かべた。
 ———これなら行ける!
 と思った矢先のこと。
「チッ!」
 アールはそのスピードを緩めなくてはならなかった。
『おい、スピードが遅く……』
「挟み込まれたか……」
 後ろだけでなく前までも。その数20。
 チェンソーを持った機体、戦斧を持った機体、ライフルやミサイルを構えた機体———まるで暴走族が違法改造したような———バラバラな様式のモーターギアが、ずらりと包囲し、その武装を『ルヴィ』へと向ける。
「面倒なことになりましたね」
 シールドから剣を引き抜き、そのまま盾だけを背中に回す。代わりに左手にはライフルを装備した。
 小さな画面に映し出されるのは。
『プログラム・アーサー、起動します』
 の文字が流れてゆく。
「さて……と」
 ———相手を殺さずに行けるか。いや、たぶん無理だ。
 アールは少しため息を零した後。
「リンレイ、これから先、心しといてくださいね」
『どういう……』
「手加減してたら、こっちがやられるってことです」
『えっ……』
 すぐさま剣を引き伸ばし、距離を測る。
「さて、行きますか」
 一番弱そうな機体に目星をつけて、アールは操縦桿を動かした。

Re: アール・ブレイド ( No.15 )
日時: 2012/08/16 18:11
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

 ドドドドドドド!!!
 突然、目の前が煙に包まれる。
 打ち出されたのは威嚇のための射撃弾。
 それも一つや二つではない。それ以上だ。
『な、何なんだ!?』
「さあ?」
 おどける様なアールの声にリンレイは眉を顰めた。

『今すぐ戦闘を止め、投降せよ!』
 有無を言わさぬ声の通信が、アールとならず者達に等しく届いた。
 砲撃の先を見ると、そこにはシルバーに輝くモーターギアが10機ほどだろうか、整然と隊列を組んでいる。
 またその後ろにはブロンズ級のギアが控えていた。
 5列に並んでライフルを構えるそのギアの数は、優に100機はあろうか。
 その同一形式のギアの肩には、赤く狼の紋章が刻まれている。
『ここは我ら『テネシティ』の領地内だぞ!!』
 テネシティと名乗る彼らは、その銃口をアール達へと向けていた。

「くそっ、良い所で奴らが出やがるとは!!」
 忌々しそうにモニターを睨み付けながら。
『アニキ、どうすんです!? 向こう、俺達よりも……』
「うるせー、黙れ! さっさと退け!!」
 こっちは100を相手できる装備ではないのだ。
 ギリギリと歯軋りしながら、眼帯のリョウガは後退することを余儀なくされた。


 次々と後退していく敵機を見送りながら、アールは『ルヴィ』の武装を解除した。
 恐らく、相手が受取人のはずだろう。
『お、おい、あっちはいいのか?』
「どうやら、お迎えが来たようですから」
 指揮官機と思われる機体から、人が降りてきた。
 筋骨隆々な男で、こちらを見て笑みを浮かべて手を振って近づいてくる。
 アールもハッチを開けて、降りようとしたが。
「いや、そのままでいい!」
 そう声を掛けられた。
「俺はテネシティを纏めるアレグレ・フォルティス。こっちはジョイ・イノセンテ。君があの『アール』だね?」
 黒髪で色黒のアレグレは、傍にいた少年ジョイも紹介して、気さくに話しかけてきた。
「ええ、そうです」
「リンレイ嬢は、今どちらに?」
「ここですよ。頭部のコクピットにいます」
「なら、案内しよう」
 ジョイを隊に戻して、自身もすぐに自分の機体に戻る。
「我がテネシティのアジトまで」
 彼らの案内を受けて、アールはテネシティのアジトへと向かったのであった。

Re: アール・ブレイド ( No.16 )
日時: 2012/08/16 18:23
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第10話 ◆メルビアンからの通信

 彼らが案内したのは、街中……ではなく、その外れの森の中だった。
 木を掻き分けるように移動した先に、洞窟があり、その中がアジトへ続く道となっていた。
 洞窟は一見、天然の洞窟のようにも見えたが、内部に行くに従って、パイプやコンクリートで補強されている人工の洞窟に……いや、それこそアジトに相応しい容貌をしていた。突然、狭い路地が広がりを見せる。どうやら、そこがギアの収納場所となっていたようだ。そこで、ギアから降り、そのままブリーティングルームへと入る。
「改めて……遠路はるばる、この『テネシティ』のアジトへようこそ『アール』、そして、リンレイ嬢」
 そう差し出すアレグレの手。アール、リンレイの順に熱い握手を交わした。
「あなたがメルビアンの騎士が言っていた『受取人』で問題ありませんか?」
「ああ、連絡は既に受けている」
 アールの確認にアレグレが答えた。
「騎士殿も明後日には、メルビアンを発ち、こちらに向かう予定だ」
 それを聞いて、リンレイがホッとした表情を浮かべた。
「じいも来るんだな」
「ええ、それも条件の一つでしたから」
 リンレイの言葉にアレグレが頷く。
「ではさっそく、受け渡しを……」
 そういって、アールがデータチップを渡そうとしたが。
「チップ? いや、それは聞いていない。こちらはリンレイ嬢を迎え入れることだけだがな」
「聞いていない? 騎士殿に言われて預かったものなのだが……」
「何か手違いがあったのかもしれない。彼と通信を繋ごう」
 チップを戻し、アレグレが案内する通信室へと向かった。
「リーダー! メルビアンから通信です!!」
 まさにグッドタイミングというべき頃合に、アールは思わず苦笑を浮かべた。
 リンレイも同じようだった。
「回線を繋げろ」
「アイサー」
 一番大きいスクリーンに映し出されたのは。
「じい!!」
 大きな声でその名を呼ぶのはリンレイ。
『これはこれは、姫様。期限よりも少々早いようですが、無事到着したようでございますな』
「ああ、アールのお陰でな。それと、じい見てくれ! アールがレッグギアというのを作ってくれてな、ほら、こうして立って歩けるんだ!!」
 ジャンプも出来るぞと見せながら、リンレイははしゃいでいる。
『それはそれは、素晴らしいものを頂いたのですな。ありがとうございます、アール殿』
「いえ、必要だったまでのことです。ところで……」
 チップのことを聞き出す前に、老騎士は切り出した。
『ゆっくりお話したい所なのですが、今はそんなときではないのです』
「じい? どういうことだ?」
『現在、敵にアジトを嗅ぎつかれましてな。目下、潜伏中の身でございます』
 言われてみれば、ノイズが多くて、モニターが見づらい。
 移動中ならば、ノイズの理由も想像つく。恐らく、上手く電波を発せられないのだろう。
 その後ろで、切羽詰った女性騎士が入ってきた。
『騎士殿! こちらも嗅ぎつかれました! 今すぐ移動を!』
 それと同時に激しい銃撃の音が響く。
「じい!!」
『姫様。無事にそちらに着いたのなら、安心ですじゃ。もし、じいがそちらに行けなくても皆さんが守ってくださる……』
 老騎士は笑顔を浮かべていた。
 安心させるかのように。そして、ある種の覚悟も感じられて。
「じい、何を言ってるんだ! こっちに来るのだろう? さっさと敵を撒いて、こっちに戻ってこい!」
 そう言っている間も銃撃音は激しさを増していく。
 恐らく老騎士も出なくてはならないだろう。
 けれどそうしないのは、きっと。
『皆さんの言うことを聞いて、必ずやご家族の無念を晴らしてくだされ』
「じい!! もうすぐ、もうすぐなんだぞ、お前の誕生日はっ!!」
『リンレイ様。最期にお会いできて』
 爆発音。
 一瞬切れたが、また戻った。
 まだ、何とか繋がっている。
 ぱらぱらと天井から、破片が落ちてきているが、老騎士はまだ健在だ。
 怪我はしていない。
『じいは、幸せですじゃ』
 もう一度、激しい爆音。
 そして、通信が切れた。モニターには黒一色の画面。
「じい、じいっ!! じいっーーー!!」
 激しくモニターを叩こうとする手をアールが止めた。
「リンレイ、ここのモニターを壊すつもりですか」
「でも、じいが、じいがっ!!」
 ぱんと、乾いた音が響いた。
 そこには、頬を叩かれ、呆然としているリンレイとそれを叩いたアールの姿があった。
「しっかりなさい、リンレイ! 彼の言葉を思い出すんですっ!!」


 じいのことを思い出すと、暖かい記憶だけがよみがえってくる。
『姫様、よく頑張りましたな』
 車椅子で庭を一周できたとき、じいは自分のことのように喜んでくれた。
『姫様、お目覚めですかな?』
 そういって、いつもカーテンを開いてくれたのは、じいだった。
『姫様が料理するなんて、珍しいことですじゃ』
 そんなことを言っていたのは、つい最近のように思う。

「姫様の口に合うか、わかりませんが」
 そういって、じいはぐつぐつ煮詰まった鍋を持ってきてくれた。
「何を作ったんだ?」
「それが……本当はシチューを作りたかったのですが、ホワイトソースがじいには難しくて」
 なかなか言わないじいに痺れを切らす。
「さっさと結論を言え、結論を」
「ポトフでございます。シチューとは少々材料も違いますが、けれど、美味しいスープでございますよ」
 確かに鍋から湯気を出している、ポトフは熱々だろうけど、美味しそうな香りを部屋中に撒き散らしていた。
「シチューってことは、母様のを作ろうとしたのか?」
「ええ、そうでございます。実は何度も作って失敗作が……」
 ふと、じいの後ろにあるキッチンに目を向けると、焦がしたホワイトソースの残骸が見え隠れしていた。恐らく何度も何度も作ったのだろう。その量は多いように思う。
 確か、あのホワイトソースは、母が試行錯誤の上で編み出した究極のソース……と言っていたことを思い出した。それを男のじいが作れるとは到底思えない。
 ならばと、リンレイは傍にあった木のさじを掴み。
「はふはふはふ……ふまいっ!」
「り、リンレイ様!!」
 じいが持ってきた水を飲んで、ほっと一息。
「少々熱いが、とても美味いぞ。母様のシチューとは全然違うが……」
 にっこり笑って、確かに告げる。
「このポトフは最高に美味い」
「姫様にそう言って貰えるだけで……じいは幸せですじゃ」
 そう、もうこんな日々は戻らないのだ。

『必ずやご家族の無念を晴らしてくだされ』
 その言葉が、心を締め付ける。
『リンレイ様。最期にお会いできて』
 最期に見せたのは、じいの笑顔。いつものあの笑顔。
『じいは、幸せですじゃ』
 あのとき言ってくれた、くすぐったい言葉。
 どうして、あのときと同じ言葉を最期に言ったの?


 けれど、まだ確定したわけじゃない。
 彼がいなくなったという確証は、まだ、ない。
「ま、まだわからない。じいは、逃げてる途中だった。私と居た時、爆弾を受けても生きてたんだ。今度だって……」
 だが、その僅かな希望も崩れ去ってゆく。
「リーダー別方面から、新たな通信です。メルビアン基地が消滅したと。生存者は……居ないそうです……」
 辛そうに通信係の男が報告した。
「そうか、分かった。引き続き詳細をモニターしてくれ」
「了解」
 そんな声が遠くに聞こえる。
 ただ、呆然とそれを聞いていた。
「リンレイ……」
 アールが心配そうに私を見ていた。
 私の頬に手を添えて。
「もう、泣いてもいいんですよ」
 その言葉が合図になって。

「うあああああああああああああああああああっ!!!」

 姫を守り抜いた老騎士は、この世を去った。
 その翌日が、老騎士の誕生日だという、その日に。

Re: アール・ブレイド ( No.17 )
日時: 2012/08/16 18:25
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第11話 ◆立ち上がるために必要なもの

 じいの存在は、リンレイにとって、かけがえのないものであった。
 親代わりであり、話し相手であり、そして、頼りになる相手。
 それが……もう、この世の何処にも存在しない。
 もう、隣にはいてくれないのだ……。

 涙はとうに枯れ果て、若干の痛みを伴っていた。
 ありがたいことにレッグギアそのままで、寝かされていたようだ。
 足を地に下ろして、立ち上がる。
 ふと、隣からアールの声が聞こえた。
『今日はここに居させていただけませんか? 彼女を一人にはしておけませんので』
 自分の部屋を出て、隣の部屋に行きたくなったが……今の自分を誰にも見せたくなかった。伸ばしかけた手を、ゆっくりと下ろす。
 代わりにリンレイは、基地内を歩き出した。
 どこか、一人で居られる場所を探して。
「どこに行くんだ? 外は危険だぞ」
 ふいに掛けられた声。
 それは大人にしては幼い声だった。
「お前は……」
 振り返って気づいた。
 そこには、ライフルを肩に掛けた赤毛の少年。緑の大きな瞳がリンレイを捕らえていた。
 確か、ここを案内してくれた少年が……。
「ジョイ。ジョイ・イノセンテ」
 ぶっきらぼうに彼は答える。
「ああ、そうだ。ジョイ、だったな」
「………あのさ、良い所知ってんだ。外じゃないけど、人が来ない」
 彼なりに気を使ってくれているのだろう。行く宛てのないリンレイは彼の提案に素直に頷いたのだった。


 そこは心地よい場所だった。
 外に通じるらしく、時折、涼しい風が彼らの横を通り過ぎてゆく。
「俺の秘密基地」
 誇らしげにジョイは言った。
 吹き抜けになっているらしく、天井が開いていた。そこから、満天の星空を眺めることができるようだ。
 また、鍾乳洞になっているらしく、少し涼しい場所のようだ。
「良い所だな。上が開いているのか」
「そう、そこから風がちょっと入ってくる。もともと、ここは鍾乳洞で涼しいんだ。冬はすっごく寒いけどな」
 にっと笑みを見せて、ジョイは座れそうな岩に座って、ぽんぽんと空いている隣を叩いた。どうやら、隣に座らないかと言っているらしい。
 リンレイは頷き、隣に座った。
「あのさ……俺、家族がいないんだ」
「えっ!?」
 突然のカミングアウトにリンレイは驚きを隠せない。
「ここ、前はすっげー平和な国だったんだ。農業とか酪農が盛んでさ。エレンティア王国って言うんだけど」
 その国の名前に、リンレイはよく知っていた。
 ———私の、国……。
「クーデターってのが起きてさ、それに俺の家族も巻き込まれたんだ。……生き残ったのが、俺一人」
「ジョイ……」
「俺んちさ、家族が多くて……兄貴だろ、姉貴だろ? それに弟が3人、妹が4人居たんだ。けど……俺がお使いに出てる間に……全員、殺されてた。一番下の弟なんて、まだ1歳にもなってなかったんだぜ?」
 ジョイは淡々とそのときのことを語る。
「だからさ、こういう時どうすればいいか知ってる」
「どうするんだ?」
 ジョイはひょいっと立ち上がり、空を指差した。
「俺は一人でも生きていくんだって、星に誓うんだ」
 見上げたまま、続ける。
「あの星は死んだ人達が輝かせてるんだ。だから、星が見える限り、俺達はずっと一緒なんだ。それに目をつぶれば、いつでも皆に会えるって。死んだ人は生きている人の心の中で永遠になるんだって」
 そこで区切って、ジョイは振り向き、胸を叩いた。
「だから、ひとりじゃないってさ」
 リンレイに笑って見せた。少しだけ辛そうな笑みにリンレイは何も言えなくなった。
「っていうのを、アレフ兄貴……あ、うちのリーダーに言われたんだ」
 そこからジョイは饒舌になった。
「あんなナリだけど、すっげー優しくってさ、すっげー強いんだ。だから、俺、兄貴についていって、国を取り戻す手伝いをしてるんだ」
 ぷいっと明後日の方向を向いて、ジョイはそこら辺に転がっている石を蹴り始めた。
「でも……俺さ、ただ国を取り戻すだけじゃだめだと思ってるんだ。そりゃ、兄貴が国を作るんだったら、きっと良い国になると思うけど……なんていうかさ、俺、ここに居て思うんだ」
 蹴った石を拾って、今度は手で投げた。こつんという音が洞窟内に響き渡った。
「みんなで心を一つにして、団結して国を守らなきゃ、絶対、また取り返されちまうんじゃないかって。それに、国のみんなが全員幸せでないと、また、クーデターが起きちまう。だから、みんなが幸せになることをずっとしてかなきゃ……どうやるのかよくわかんねーけどさ」
「ああ、そうだな」
 自分の声が、こんなに震えているとは思わなかった。
 さっきから、この洞窟の景色が見づらいと思っていた。
「だからさ、俺が兄貴と一緒に国を取り戻して、まずは、元の国に戻そうと思うんだ。それから、みんなが幸せになれることを探す。だからさ」
「ああ……」
「その、一緒に行かないか? どうせ、行く宛てないんだろ。まあ……俺も元は行く宛てなかったんだけどさ」
 そういって、ジョイが手を差し出した。
「んっ……」
 最後は言葉にならなかった。ただ、リンレイはジョイの差し出した手を握ることしか、できなかった。
 驚きと嬉しい気持ち、そして、まだ胸の奥に残る苦しい悲しい気持ち。
 けれど、その辛い気持ちが幾分、弱まっているように感じた。

 ぐぎゅるるる……。

 とたんにリンレイの顔が真っ赤になり。
「あははははっ!!」
 ジョイは笑い出した。
「わ、笑うな、バカ!」
「いいだろ、面白れーんだもん。……けど、その分なら大丈夫そうだな」
 ジョイの声にリンレイがきょとんとした顔で首を傾げた。
「何がだ?」
「なんでもねーっ! なあ、なんか食いに行こうぜ! 俺も腹減ったー!!」
 もう一度、振り返った先には、まだぎこちないが。
「ああ、そうだな」
 笑顔を見せたリンレイの姿が。

「ところで、この基地はポトフを出してるのか?」
「へ? ポトフ?」
「いや、聞いてみただけだ」
 ジョイは歩きながら、首を傾げる。
「ときどき、ここで出てたはずだ。今日は違うと思うけど」
 それを聞いて、リンレイはさらに笑みを深くさせる。
「それは楽しみだな」
 この足は補助が無ければ歩けないが、けれど、一歩ずつ歩けるのだから。
「私も、星に誓おう……」
 ジョイには届かない声で、小さく。


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