ダーク・ファンタジー小説

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アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
日時: 2013/02/05 09:46
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!


※この小説は他サイトでも公開しているものです。
 ご了承ください。
 また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。


●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。

●改訂版
改訂版はこちら >>39-52

Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.38 )
日時: 2012/10/14 17:53
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

チェックありがとうございました。
これで半分くらい進んだのかしら?
お疲れ様ですー。
詳しいことは後ほど、まとめてレスしますね。

Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.39 )
日時: 2013/02/05 09:27
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

プロローグ ◆懐かしい夢と美味しい香り〜ある辺境の片隅で

 夢を見ていた。
 懐かしい、懐かしい故郷の夢だ。
 傍には、父親がいて、その隣に幼い頃の私がいる。
「リンレイ、見てごらん」
 父が指差す先には、黄昏色に染まる荒野が広がっていた。
「まだ開拓は終わっていない土地だが、たくさんの資源がある。それを上手に使い、民を潤すのが、私達の役目だ」
「うん」
「とても大変な役目だが、きっとお前にならできるだろう」
「父様がやったように?」
 私の答えに父は嬉しそうに笑い返してくれた。
「そうだな。できれば、私以上に良い働きをしてもらえると嬉しいんだがね。こればっかりはまだまだ先の話だ」
 もう一度、地平線の果てに沈む夕日を眺めた。
 美しい光景だと、幼心に感じたものだ。
「さあ、帰ろう。母さんも待ってるぞ」
「うんっ!」
 父に抱きかかえられた温もりが、とても暖かく感じられた……。


 はっと目が『覚めた』。
 ゆっくりと辺りを見渡す。
 あるのは、質素な家具と閉められたカーテンが、ゆらりと揺れているだけ。
 そこは他愛のない、自分の部屋だった。
 ただ、夢の世界と違うのは。
 起き上がり、立ち上がろうとしたが、無理だった。
 数年前からもう、足が麻痺してしまい、立てなくなっていた。
 ベッドの傍には、愛用の車椅子が影を下ろしている。
「昔の、夢……か」
 嬉しいはずなのに、その顔は冴えない。
 その気持ちを奮い立たせるように、彼女は部屋のカーテンに手を延ばした。
 朝日を浴びたら、この気持ちが晴れると思って。
 だが、残念ながら、それはできなかった。
「くっ……」
 後、もう少しという所で、カーテンに手が届かなかったのだ。
「姫様?」
 後ろからしわがれた声がかかる。
「じい……」
 彼女よりもふた周りほど年上の男性が部屋に入ってきた。
 年の割には、背も高く、腕も足も太い。とはいっても、中年太りというわけではない。鍛え抜かれた体躯。それはかつて、男性が過去に鍛えた賜物であった。今はその殆どが機械によって補われているのが、残念なところだろうか。
「このじいが開きましょう」
 しゃらんとカーテンレールの心地よい音と共に、朝日が部屋へと差し込んでゆく。
「ありがとう、じい」
 その光の眩しさに彼女は、瞳を細めるも、先ほどのささくれた気持ちが幾分、和らいだように思える。と、とたんに彼女の鼻は、目ざとく嗅ぎ取った。
「今日はポトフ?」
 答えを導き出し、彼女の顔が思わず綻ぶ。
 その様子に男性も口元を綻ばせた。
「ええ、ポトフでございますぞ。今日は姫様にとって、大切な日ですから」
 ポトフは、この家にとって、大事なときに出されるご馳走であった。
 けれど、彼女はその言葉に違和感を覚えた。
「私の誕生日は、まだ先だ」
 彼女はそういって、ベッドの上で方向回転し、すぐに降りれるように体勢を整えた。
 男性は、慣れた手つきで車椅子を持ってくると、彼女を抱きかかえてベッドから降ろし、その椅子に座らせた。
「そうですな」
 男性のその言葉に、彼女はむっとした表情を浮かべた。少し考えた後にもう一度、口を開く。
「じいの誕生日……も、まだ先か」
 男性の誕生日にしては、若干早すぎる。まだ数週間も先なのだから。
 考えているうちに、車椅子は、食卓に到着していた。
 彼女達を出迎えるのは、焼きたてのパンと、湯気を立てて待っているポトフ達。
「今日も旨そうだ」
 彼女は考えるのを止めた。
 考える前にまずは、目の前のものを食べようと決めたのだ。けっして、食欲に負けたのではない。だが、その理由は彼女のおなかの音が知っているのかもしれない。
 彼女の口に美味しいポトフが運ばれる。その手にある銀の匙は、その柔らかさを教え、蕩けるような美味しさをも運んできていた。
 そういえばと、思う。この料理は、材料を特殊な鍋で数分煮込むだけで完成するらしいのだ。
「じい、今度、ポトフの作り方、教えてくれないか」
「おや、姫様が料理するなんて、珍しいことですじゃ」
「いいじゃないか」
 図星を言われて、彼女は不満を顔に出した。
 そうではないのだ。
 先ほど思い出した、男性の誕生日。その日に、自分がこの料理を出してやろうと思い立ったのだ。けれど、そのことは。
「やっぱり止めておく。それより、おかわり」
 差し出してきた空っぽの皿に男性は、微笑みながらも。
「花嫁修業するのかと思い、このじい、ちょっと感動したんですぞ?」
「いいったら、いいんだ」
 そう、こういうのは、内緒で準備して驚かすのが一番だ。だから、彼女は後でネットで調べてやろうと決めたのだ。特殊な鍋とやらの使い方も覚えなくてはならないのだ。これから忙しくなる、そう思うと、心が弾んでくる。
 知らぬ間に、さっき男性の言っていた『特別な日』のことなんて、彼女はもう忘れていた。
「じい、もう一杯」
「姫様、食べすぎですぞ」
 彼女は心の中で願う。

 ———幸せなこの時間が、このままずっと続けばいい、と。


 時は遥か未来。
 限界を迎えた惑星から、いつしか人々は、宇宙に飛び出していった。
 しかし、宇宙ほど無限に広がる場所は無い。少し間違えば遭難してしまうほど、宇宙と言う場所は広くて恐ろしい場所なのだ。
 そこで、星の位置を基準としたワープ技術が開発された。
 星と星を繋ぐ『プラネットゲート』。
 この方法でなら迷うことなく一気に、より安全に長距離を跳躍(ワープ)することができる。また、ゲート間ならば、どんな距離があっても数日で行き来できる。
 星と星が繋がる。未開発の星が、人々の手によって新たな町や都市へと発展していく。
 発達するのは、星の開拓だけではない。
 ワープ技術を生み出した、科学は新たなものを更に人々にもたらしていった。
 星と星を行き来する宇宙船(スペースシップ)もその一つ。
 宇宙(そら)を見上げれば、駆け巡る宇宙船(スペースシップ)。
 その船は、様々な荷物と共に、人々の想いも運んでゆく……。



 そこは、とある銀河の辺境の街。
 彼はその街の、薄暗いバーのカウンターに座っていた。
 人は少ない。なんの変哲も無い平日の夜なら、仕方のないことだろう。
 けれど、彼は一人でアルコール度数の高い酒ばかり頼んでいた。
 今もウォッカの水割りを頼んで、ちびちびと飲んでいる。
「あれ? 先生がここに来るなんて珍しいなぁ」
 突然、声を掛けられ、彼は振り向いた。
 眼鏡を掛けた青年。長いぱさついた茶髪を一つにまとめて、先生と呼ばれた青年は視線をもう一人の彼に向けた。先生というには、いささか若いようにも見えるが……。
「ザムダ?」
「人の顔は分かるんだな」
 先生の隣にもう一人、どっかと座る。
 ザムダと呼ばれた男性は、先生よりもやや年上のようにも思えた。
 薄汚れたその作業服は、この近所の炭鉱に勤める者が着る制服のようなものだ。
 日に焼けた肌にガタイの良い体躯。カウンターのスツールが、少し小さく見えるのは、気のせいだろうか。
 そんなザムダも、酒を注文する。
 受けたカウンターのマスターは、静かにけれど手早く。
 出来た酒をそっと差し出すと、ザムダは嬉しそうにそれを口にした。
 と、それを見計らってか、先生が口を開いた。
「人はなんて、無力なんでしょうね」
「哲学っぽい話か? 先生らしいな。また面倒なことを考えて……」
 ザムダが二口めを飲んで、先生を見る。
「人一人の力なんて、たかが知れてるんです……例えばそう、あの男のように」
「話なら、付き合ってもいいぜ。どうせ明日は休みだしな」
 にっと笑みを浮かべるザムダに、先生は僅かに笑みを見せた。
「ある男の話ですよ」
 からんと氷が落ちるグラスを置いて、先生はザムダに向き直る。
 ザムダも酒を飲みながら、その話に耳を傾けた。

Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.40 )
日時: 2013/02/05 09:28
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第1話 ◆面倒な仕事と受け取ったメール

 暗がりの中、慎重に歩を進めるのは、一人の青年。
 寝静まった深夜、彼は一人でこの研究所に潜入していた。
 と、彼の足が止まった。
「赤外線センサー、か」
 彼のつけているミラーシェードには、目に見えない赤いセンサーが映し出されている。
 数歩後退してから、彼は飛び上がった。彼のミラーシェードには、未だ赤いセンサーが映し出されていたが、それは彼の体に当たることなく、地面に優雅に着地した。
「ここか……」
 と、彼のイヤーギアから、通信が入った。
『マスター、そちらに研究員が向かっています』
「了解」
 偽造したカードを取り出し、扉のキーを開ける。
 聴きなれた機械音と共に、彼は素早く、その部屋の中に入った。暗がりでも彼のミラーシェードは鮮明にターゲットを映し出す。
 そこにあるのは、一台のパーソナルコンピューター。彼はその中にあるデータを奪いに来ていた。しかも、それを明日中に届けなくてはならない。
「本当に無茶な依頼だよ、全く」
 慣れた手つきでパソコンを起動させ、目的のデータを見つける。用意してきたメモリーカードをパソコンに挿入して、そのままコピーしながら、削除作業に入る。
『マスター、あと10秒でそちらに接触します』
「ギリギリってところか」
 声が聞こえた5秒後にカードが排出され、それを腰のポーチに仕舞う。
 同時にドアが乱暴に開いた。
「貴様、何をしているっ!!」
 銃を持った男達が声を張り上げた。彼は驚くそぶりもなく、悠々と両手をあげる。
「何もしていませんよ。まあ、していたとしても、話すつもりもありませんが」
「貴様っ!!」
 逆上した男が銃のトリガーを引く前に、彼は動いていた。
 一番前にいる男の銃の先を足で蹴って、壁に撃たせた。
「おわっ!?」
 体勢を崩した男を押しのけて、後ろに居た男の腹を抉るように拳を突きつける。
「ぐほっ!」
 腹を押さえる男をそのまま、相手の方へと突き飛ばし、彼は走り出した。
「こっちは時間がないってのに」
 部屋から脱出できたが、出口側に銃を持つ男達が雪崩れ込んでくるのを彼は察した。
「一気に駆け抜けるか」
 彼の体が沈んだと思った瞬間。
 もう、そこに彼の体はなかった。
 地面を蹴り、壁を駆け抜け、宙を舞う。
 まるで、芸術的な曲芸を見るかのような優雅さを持っていた。
「はい、終わりっと」
 銃を持つ集団をあっという間に避けて、彼は開いた窓枠に手を掛けた。ひゅうっと旋風が彼を打ち付ける。
「逃げられるか! そこは60階の窓なんだぞ!」
 男の言う通り、そこから落ちれば助からないだろう。
「だろうね。でも、そこまで考えなしに来た訳じゃない」
 楽しげに笑みを見せると彼は、窓枠に立ち、そして、背中から身を投げ出す。
「何っ!?」
 そこにあるのは、一機の宇宙船。その中に彼は吸い込まれるように乗り込んだのだ。
「くそっ!! やられた!!」
「あの宇宙船、確か……」
 蒼銀色のジェット型の機体に刻まれた、文字は。
「ああ、間違いない」
「『アール』だっ!!」
 忌々しそうに、彼らは飛び去っていく宇宙船を見送るのであった。


 シュン、という軽い音と共に、その扉は開いた。
 目の前に飛び込んでくるのは、無限に広がる宇宙。ブリッジから見える宇宙は、なんと美しいのだろうか。それとも、一仕事を終え、開放的な気持ちがそう思わせるのか。
 珍しくそんなことを思いながら、彼の歩は自分の席へと向けられた。
 三本の太いベルトで固定された、黒の頑丈そうなブーツ。
 太ももには、両方に1丁ずつ、黒光りする銃がホルスターで固定されていた。
 腰には二本のショートソード。それを互い違いに固定し、両手で一気に引き抜けるようになっている。
 体格は中肉中背といったところか、身長は170近い。
 彼は黒いジャケットを、自分の席の背もたれに乱暴にかけ、どっかと座った。
「ああーーっ!! やっと終わったぁーーっ!!」
 ぐいっと席の背もたれを倒しながら、彼は天井へと突き出すように腕を伸ばす。
「お疲れ様でした、マスター」
 音もなく、そっと彼の側に控えるのは、彼よりも少し背の低い女性。
 こちらは白を基調とした、飾り気の無いシンプルなワンピースに身を包んでいた。
 足元には足首を隠すくらいの、ヒールの高いショートブーツ。
 長くゆるめのウェーブをかけた金髪を一つにまとめ、グレーの瞳で、彼女は表情なく彼を労った。
 これでも彼女なりに、精一杯、表情を付けているつもり……らしい。
 ちなみに、先ほどの研究所で通信してきたのは、彼女だったりする。
「ありがと、カリス」
 くるりと席を回して、カリスと呼ばれた金髪女性に向き直る。
「けれど、あの研究所から獲って来たものが、ニューハーフといちゃいちゃする動画というのはどうかと……」
「まあ、言いたいことは分かるけどね。お陰で実入りが良かったんだ。深く考えないことも必要だよ?」
 とりあえずと、彼はそう区切って。
「今回も君のお陰で、無事、依頼をこなす事が出来たよ」
「いえ、それには及びません。わたくしはマスターに比べれば、まだまだですから」
 そういうカリスに彼は思わず、苦笑を浮かべた。
「それにしても、ソレを外さないのですか?」
「ああ、忘れてた」
 カリスに指摘されて、彼は耳元にあるボタンを押す。すると目元を覆っていたミラーシェードが音もなく耳元のイヤーギアに収納された。
 その振動で、彼の長い銀髪がふわりと揺れる。彼の銀髪は、首もとで一つにまとめられ、左肩に垂らしていた。
「道理でちょっと暗いと思ったよ」
「もう少し早く気づくべきでは?」
 そんな鋭いカリスの突っ込みに彼は。
「だってさ、こっちは昨日まで寝ないで船をかっ飛ばしたんだ。他のことが疎かになっても、仕方ないってもんだよ」
 席の前にあるデスクに触れて、キーボードと立体ディスプレイを展開した。
「とにかく帰るまで余裕が出来たんだ。これならあと一つくらい依頼を受けてもいいかもね」
 キーボードを慣れた手つきで打ち込み、自分のメールボックスを開く。
 その殆どが身内からの定期連絡ばかりであったが。
「あ、一つ依頼が来てる」
 さっそく彼はそのメールを開いた。

『アール殿
 貴殿の噂は、このメルビアンまで届いている。
 良いものも悪いものも。
 それを思慮しても、ぜひ貴殿に頼みたい案件がある。
 メルビアンの我が城に来ていただきたい。
               メルビアンの老騎士より』

 そのメールの末尾には、メルビアンの城の場所らしい、座標が記されていた。
「老騎士、か……」
 彼……いや、アールはオッドアイの瞳を細めて、口元に笑みを浮かべた。
「決まりましたか?」
「メルビアンの食べ物は美味しいって聞くからね」
 アールはそう言いながら、そちらに向かう旨を、かの老騎士にメールで伝えたのだった。

Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.41 )
日時: 2013/02/05 09:29
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第2話 ◆メルビアンの城と老騎士と

 20時間後、アールは、惑星メルビアンを訪れていた。
 酪農や農業で栄えたその惑星は、他の星よりも上質な食材が手に入るという、農業都市であった。広大な敷地を占める巨大な工場は、全てオートメーション化された農場であり、都市を支える中枢でもあった。
 そんな都市を、アールの車が駆け抜けてゆく。シャープなボディデザインは、今でも通用しそうな雰囲気はするものの、空を飛び回るエアカーが主流なこの時代には、レトロだのクラッシックだのというレベルの代物になっているのは、否めないだろう。道の悪い惑星に対応するために、特殊強化されたタイヤで走行しているのだが。
 そんな町のはずれに、アールの向かう目的地が存在する。
「で、かの老騎士が言った城って……ここのことか?」
 アールの車と同じく、いやそれ以上にレトロなアパートメントだ。西暦2000年代では最先端であったそこも、アールの車と同様に化石……いや、天然記念物といっても過言ではない、格安な物件だろうことが窺える場所であった。
「城の割にはいささか、小さく見えるけどね」
 アールは、車の扉を開き、自分の愛車から降りた。
 レトロすぎる車に、物珍しそうに眺める野次馬達が集まってきていたが、アールは気にするそぶりも見せずに、そのままアパートメントに向かっていく。
 向かった先は、指定された部屋番号の前の扉。
「ここか」
 チャイムを鳴らそうとした手が、止まった。
 その前にがちゃりと、アールの目の前の扉が開いたからだ。
「貴殿が、アール殿か?」
 彼の目の前には、予想通り、老人が立っていた。
 だが、普通の老人ではない。
 体の一部……いや、その大部分が機械。サイバー化している。
 しかも、メールにあった通り、一般人のそれではなく、軍人や騎士達に使用される強力なパワーとスピードをもたらす代物でもあった。
 ———油断したら、喰われる、か。
 自分の纏う空気を、殺気だったものに換える。いわば臨戦状態といったところだ。
「ええ。貴方が私を呼んだ『老騎士』殿と見受けますが」
 アールは彼があのメールを送った本人だと直感した。
「入ってくだされ、話は奥で」
 老人の言葉に静かに頷くと、そのまま颯爽と、部屋に入っていく。
 部屋の中は簡素ながら、きちっと隅々まで整えられていた。
 必要最低限のものしか置いていないようにも見える。
 老人に促されるまま、また扉の奥へ。
 通されたのは、テーブルと椅子のあるダイニングであった。
 椅子を勧められ、アールはさも当然と言わんばかりに座って見せる。
「で、用件は?」
「単刀直入ですな」
 アールの柔らかな微笑の中に、凛とした響きを感じる。
 ミラーシェードの中に潜む瞳が、ゆるりと細められた。
「仕事は何事もスマートに、それがモットーなもので」
 僅かに笑みを零して、アールはもう一度、用件を促した。
 老人は、アールの側に湯気の立つ茶を置いて、自身も椅子に座った。
「これをある場所に運んでいただきたい」
 こんとテーブルの上に置かれたのは、ブルーの小箱。
 老人は側面にあるスイッチを押して、その蓋を開けた。
 そこには一枚の、黒光りする小さなデータチップが収まっていた。
「これは?」
「大切な……大切なデータですじゃ。壊さずに目的地まで運んでいただければ結構」
 小箱と、新たにカードを添えて、アールに手渡した。
「目的地はそこにある通り」
 アールは受け取ったカードの隅のボタンを押して、小さな立体ディスプレイを表示させる。そこには、ある惑星の座標と、その地図が記載されていた。
「ここから遠い場所か」
 一瞥して、場所を特定したアールに。
「もう場所がわかったのですかな。流石はSSS(スリーエス)クラスハンターですな」
 アールのような生業をするには、まず、『ハンター』になる必要がある。
 ある程度の戦いのスキル、運び屋のスキル、そして、信用。
 それさえ兼ね備えれば、どんな惑星に行っても、身柄はハンターカードで保障され、無理さえ言わなければ、希望の職業に就ける。今、この銀河で人気の資格であった。
 ちなみにアールが選んだのは、運び屋と傭兵の職。
 また、彼も最初は最低ランクで始めたのだが、度を越した依頼をこなす内にいつの間にか、ランクはあれよあれよと上がっていき、気がつけば最高ランクのSSS(スリーエス)まで上り詰めていた。
 アールと同じランクの者は、数えるくらいしかいない。
 しかも、その中で生きている者は、恐らくゼロだ。
「で、期限は?」
 アールは確認も兼ねて、尋ねる。
「2週間で」
「………」
 地図にある場所まで、ゲートを使って行っても、5週間掛かる行程だ。
 それを、2週間で運ぶのなら、別のルートを選ぶしかない。
「おや、難しいですかな? 流石のハンター殿も降参ですかな?」
 黙ってしまったアールに、老人は試すかのように彼の顔を覗き込んだ。
「報酬を聞かせていただこう」
 地図の載ったカードを老人に差し出しながら、アールは冷たい口調で告げた。
 まずは報酬を見てからでないと、これ以上は判断しかねると言いたげに。
「では、前金でこのくらい。後の残りは無事、依頼を果たしてからで」
 老人はもう一枚のカードを差し出した。
 カードを受け取り、それに記された金額を見て、妥当な線かとアールは判断する。悪くは無い取引だ。むしろ高額の部類に入る。
「引き受けよう」
 顔を上げて、アールがそう告げたとき。
「では、一緒にかの方も運んでくだされ」
「はぁ?」
 思わず、アールは間の抜けた声を出してしまった。
 だが、老人はそれに気づかぬ素振りで、扉の奥へ入り。
 連れてきたのは、車椅子の少女だった。
 長いストレートの金髪をバレッタで止めている。
 その蒼い瞳から、アールを侮辱するかのような、冷ややかな視線を投げかけていた。

 ———『彼女』に、似ている……。
 思わずアールは心の中で呟いた。遠くで待つ『彼女』と、自分の助手を務めるもう一人の『彼女』とを思い出しながら。

Re: アール・ブレイド【完結済】 ( No.42 )
日時: 2013/02/05 09:30
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)


「じい、この者は?」
「あなた様を運んでくださる方ですじゃ」
 老人が少女にそう話す。
 どうやら、老人はまだ詳しい内容を彼女に話していなかったらしい。
「運ぶ? どういうことだ?」
 状況を把握し切れていない少女が、不機嫌そうにじいと呼ばれた老人へと尋ねた。
 アールがいるというのに、二人だけで会話が進んでいく。
 もっとも、彼はそのことを気にするつもりもないが。
「ここはもともと危険な場所。ここから離れ、より安全な場所へ一時的に避難していただきたいのです」
 そう答える老人に向かって。
「危険? だが、今まで何もなかったぞ?」
 少女はムッとした表情で告げる。
「いえ、今まで何も起きなかっただけのこと。このじいめが色々と画策いたしましたが、これ以上は……やはり歳には勝てますまい」
 老人の言い分も分かる気がする。そう、アールは思ったが、口には出さずにその場を静かに見守る。
 そして、彼女はしばし考えた後に、決めた。
「……一時的、なんだな」
「ええ、一時的に、でございます」
「わかった、従おう」
 切りの良い所でアールが尋ねる。
「そろそろ、話の続きを聞かせていただきたいんだが」
「お見苦しいところをお見せしてしまいましたな」
「じいが急に決めるからだ」
「それに」
 アールも金髪の彼女を一瞥しながら確認する。
「彼女も、このチップと共に運ぶと?」
「おや、先ほどのカードにも記しておいたはずですぞ?」
 ———なに!? 見逃していた!!
 すぐさま見直し、自分の失敗に狼狽する。
 きっとコレも、面倒な依頼をこなして、心が大きくなっていた所為だと、アールは心の中で舌打ちした。
「まさか、この依頼、反故にしてしまうつもりではありませんな? 体の不自由な少女の切なる願いを聞き届けないとは……あのSSS(スリーエス)クラスの貴殿が断ったとなれば、一大事ですぞ?」
 一応、慈善事業にも手を貸している手前、断りにくいのも確かではある。
 それに……。
 改めて、金髪の少女を見る。
 歳は15、6だろうか。体が不自由だと言っていたが、それを差し置いても、健康そうな肌とスタイルを維持しているのを見ると、老人は甲斐甲斐しく彼女の世話をしていたのだろう。
 自分の傍にいる二人の『彼女』、そして、目の前に居る『少女』。
 その姿が重なるように見えた。

 ———覚悟を決めるか。
 アールは立ち上がり、彼女の側にやってくる。
 そして、恭しく片ひざを付き、かつ、紳士的に……いや、一人の騎士として慣れた素振りで、頭を下げてから、彼女の手の甲に挨拶をした。
 彼女も慣れた素振りで、それに応じる。

 瞬間、頭の中で何かが『爆ぜた』。
 それは断片。
 いくつもの思考が折り重なった渦巻く映像(ヴィジョン)。
 きっと、それは『予知』にも似た、警告なのかもしれない。
 全てを把握することはできなかったが、目の前の少女が、何かしらの『使命』を持っているのが分かった。
 それを見ることができたのは、ここにいるアール、唯一人だけ。

「わかった、引き受けよう。彼女もこのデータも」
 改めて告げられたアールの言葉に、老人は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。その言葉が聞けただけで満足ですじゃ」
 挨拶もそこそこに、既に老人の手によって用意された荷物を受け取り、少女をアールの乗ってきた車へと誘導する。
 慌てたように逃げる野次馬達を、アールが一睨みで散らし、車の扉を開けた。
 その傍で、老人は名残惜しそうに、ゆっくりと少女をアールの車の助手席へと座らせていた。
「じい……」
「お気をつけて、姫様」
「んっ……」
 対する少女も不安そうに見つめるも、閉められた扉に心を決めたようだ。
「さて、宜しいですか? 姫君」
「ああ」
 アールは、車のアクセルを踏み込む。
 車は滑るように宇宙ポートへと向けて、走り出した。
 少女はその助手席から、ずっとずっと、彼らのいた幸せな『城』を名残惜しそうに、ただ、眺めていた。


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