ダーク・ファンタジー小説
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- アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
- 日時: 2013/02/05 09:46
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!
※この小説は他サイトでも公開しているものです。
ご了承ください。
また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。
●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。
●改訂版
改訂版はこちら >>39-52
- Re: アール・ブレイド ( No.8 )
- 日時: 2012/08/05 15:36
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
「残念だが、そんなもので俺を止めることは不可能だ」
私の顔の近くで、アールがそう静かに呟くと。
ぶんっと、私を空高く放り投げた!!
「ば、馬鹿者っ!!」
アールを怒鳴るが、既に時は遅し。私は空の住人に。
けれど、空からアール達の様子が手に取るように分かった。
両手がフリーになったアールは、すぐさま腰にある二本の剣を引き抜き、目の前の敵の懐に飛び込む。
「そんな剣でやられるかっ!!」
負けじとトンファー使いの男が、それを使って一撃を喰らわせようとするが。
二本の剣で太いトンファーを受け止め、弾く。同時にもう一閃。
トンファーがありえないところで、真っ二つになった。
「なっ!?」
うろたえる男に、アールは容赦なく、わき腹に鋭い蹴りを入れ悶絶させた。
と、次の瞬間、後ろからナイフ男の攻撃!
ナイフがアールを捕らえた……はずが、アールはそれをしゃがんで見事にその攻撃を躱した。その返す勢いをそのまま腕に乗せ、男の背中に喰らわせる。ナイフ男は、武器を落として、そのまま動かなくなった。
「死ねっ!!」
その隙に後方から来た男達が発砲。
アールは体を仰け反らせながら、その攻撃を全て避けると、両手に持っていた剣を上に放り投げた。私と同じか!?
次に手にしたのは、太ももに取り付けられた、二つの銃。銃身が長く、狙いをつけるのは難しそうだったが、それを容易くアールは狙ったところに撃ち込んだ。
狙ったのは、二人の男の手と足。
見事に狙い通りの場所に命中。手から武器は落ち、足を怪我した男達はその場で悶える。
アールは銃をホルスターに戻すと、タイミングよく降ってきた剣を両手で掴み、腰の鞘に戻した。
「すみません、空に投げてしまって」
最後に落ちてきた私をしっかりと抱きとめて、アールは言った。
「わ、私はお前の武器か!?」
「こうでもしなくては、守れませんから」
お陰で命は守れたでしょうというアールの言葉に反論は出来ず。
そう言っている間にも、アールは駆けて行く。今度は通路ではなく。
「お、おいっ!! 何処を走ってる!?」
とんとんとんと、猫のように身軽に飛び上がり、彼は建物の屋根上を走り抜けていた。
「どうやら、向こうは本気みたいですから」
「何だって?」
思わず後ろを振り返った。
なんと、後ろから追いかける男達も、アールを追いかけて屋根を駆けて来ているではないか!
「アール、嫌な予感がする」
なんとなくそれを感じて、私はつい口を開いた。
「奇遇ですね、私も同じことを考えていましたよ、リンレイ」
あまり良いことではない気がする。
そう、遠くからグオングオン……と、嫌な機械音が響いてきたからだ。
この特有の音は紛れもなく。
「向こうはモーターギアを持ってきましたか」
「本気かっ!?」
こっちは生身なんだぞ!?
思わず心の中で叫んでしまう。
「でも、もうすぐ船に着きますよ」
「た、助かったのか?」
アールは一気にスピードを上げて。
船に飛び込んだ。
「一応、なんとかなりましたね」
華麗に着地をして、アールは私を降ろしてくれた。
そんな私を受け取るのは、留守番をしていたカリス。
「お帰りなさいませ、マスター、リンレイ」
カリスの情の無い声が、これほどほっとするとは思わなかったが。
「助かったんだよな……」
カリスにコルセットらを外してもらい、いつもの車椅子に座る。
船はいつの間にか動いており、攻撃を受けているためか、時折、ぐらぐらと振動していた。
「カリス、シルバーで出ます」
いつの間にか、アールは既に奥の格納庫にあるシルバーに乗り込んでいた。
パチパチとスイッチを入れ、起動準備に入っている。
「奥のでなくてもいいんですか?」
あの青白い機体のことだろうか? カリスがそう確認する。
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
アールはそう言って、否定する。どうやら、あの格好いいシルバーで出撃するようだ。
「了解」
「リンレイを頼みますよ」
「はい、お気をつけて」
立ち上がるシルバーが、とても美しく、そして頼もしく映った。
「カリス、アールの戦いを見たい」
「わかりました、移動しましょう」
アールが出撃するのを見送った後、私はカリスに押してもらいながらブリッジへと向かったのであった。
- Re: アール・ブレイド ( No.9 )
- 日時: 2012/08/05 15:38
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第6話 ◆宇宙を駆ける銀色の戦乙女
———『ハンター』になるために、大いに役立つのが、モーターギアの操縦免許だ。
それを持っているか否かで、ハンター試験の難易度が劇的に変わる。
むろん、持っている方が、有利だし難易度を下げられる。
また、ハンターのランクも、この有無によって大きく変わっていく。
上位ランクを目指すなら、必ず持っていないと、途中でランクを上げるのに厳しくなってくる。それくらい重要なのだ。
そんなことをアールは、思わず思い出していた。
これから、そのモーターギアを動かさなくてはならないのだから。
もっとも、彼にとって、モーターギアは、彼の手足であり、分身でもあるくらい自然に動かせるものでもあるのだが———
モーターギアの音が聞こえた時点で、こうなるだろうと感じてはいた。
恐らく敵は、こっちの船を落としに掛かるだろう。
こっちのシールドは、そう簡単には破られないだろうが、牽制する必要がある。
それに……。
慣れた手つきで、シルバーのシートにその身を滑り込ませる。
少し固めのシートが、逆に心地よい。
「カリス、シルバーで出ます」
スイッチを押して、起動を開始する。
この一連の操作は好きだ。全てのスイッチを入れ、オールグリーンなのを確認した。
「奥のでなくてもいいんですか?」
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
イヤーギアに接続コードを付ける。
ばちっ!!
この痛みにも、もう慣れている。これで僕とシルバーとが無事に『接続』されたのだ。
「リンレイを頼みますよ」
そう言って、僕はハッチを閉じる。とたんに壁が周囲を映し出すモニターへと一瞬で変化した。次々と流れてくる起動コード。足元のペダルを踏み込み、両サイドにある操縦桿に手をかけ、前に倒す。
「さて、行きますか、『ルヴィ』」
二人が離れるのを見て、僕は宇宙に飛び出した。
相手を引き付ける為に、宇宙まで来ていた。
地上で戦ってもいいのだが、やっと復興してきたあの街を、また壊すのは忍びない。
幸いなことに敵は、こっちの誘いに乗ってきてくれた。
後は……蹴散らすのみ。
できれば、この牽制に懲りてくれればいいのだが……。
「……サーチ」
その声に従い、アールのシルバー——いや、今は『ルヴィ』と呼ぼう——の後方、背面から青白いひし形の結晶体『サーチプレート』が二つ飛び出す。
それは敵機に向かい、すぐさま宇宙の闇に溶け込み、敵のデータを拾い集めた。
敵はそれに気づいていない。
同時にアールのミラーシェードの内側には、大量のデータが流し込まれてくる。
サーチプレートが読み取ってきたデータが、流れてきているのだ。
敵は5体。
巨大なチェーンソーを二つもつけたのが1体。
パイルバンカーをつけたのが1体。
巨大な砲台を肩につけたのが1体。
両手と右肩、合計3つのレーザーライフルを持っているのが1体。
どれも、ブロンズ級のフレームを使用している。
そして、最後の1体が両腕に巨大で鋭いクローをつけた軽量型タイプ。恐らくアールと同じ、シルバー級だということが覗える。
「ブロンズ4体にシルバー1体、まあ、妥当な線か」
ただ一つ、残念なことは。
「こっちがそれを上回っているって所だけどね」
アールは、にっと笑みを浮かべ、一気に間合いを詰めた。
「何だ、ありゃあ」
「あんな細っこいギア、初めて見たぜ?」
敵は明らかにアールのギアを弱いものと見ていた。
「しかも1機で俺達と渡り歩こうなんざ、無理ってもんだ」
そんな彼らを冷ややかな眼で見ている者がいる。
「まあいい、お前らの力を見せてやれ」
眼帯をつけている男は、そう部下達に告げる。
「さて……あんなピーキーな改造してるんだ。タダでは死なないでくれよ」
舌なめずりするかのように、眼帯男は瞳を細めた。
彼の瞳の先にいるのは、右肩に巨大な盾を持った美しき戦乙女のギアだった。
アールの『ルヴィ』には、右肩に巨大な盾をつけていた。
何かを象った青い紋章のようなマークも見受けられる。
と、動いたのは、チェーンソーとパイルバンカーの2体。
彼らが近づく前に、アールは慣れた手つきで盾から剣を引き抜いた。
ガキンッ!! キンッ!!
パイルバンカーは盾で。
チェーンソーは剣で受け流した。
クローを持ったシルバーは、まだ動かない。高みの見物といったところか?
———それならそれでいい。
動きが止まったところで、砲台とレーザーライフルが火を噴いた。
「バリアシールド全開!!」
かなりの衝撃があったが、見えないシールドのお陰で、アールの機体に損傷はない。そのまま煙と共にやや後退する。
そこにパイルバンカーとチェーンソーがまた切りかかってきた。
「今度はこっちから」
剣を振りかぶる、と同時にその剣が伸びた!
よく見ると、その剣には幾重もヒビが入っているような形状をしていた。グリップを切り替えることで、その剣は姿を変える。そう、鞭のように伸びて撓る特別な剣、『蛇腹剣』だ。
その伸びた剣が、刃が輝きを纏う。
「行かせてもらう!!」
一振りで2機の武器を粉砕した。
「なに!?」「オレ様の武器が!?」
二振り目で、彼らの脚部を切断。その所為でチェーンソーを持っていた機体が大破した。とはいっても、爆発前にパイロットは外に脱出して、命だけは無事だったが。
それを見て、砲台とレーザーライフルの機体が接近しつつ、『ルヴィ』目がけて射撃してくる。アールは高速移動で避けつつ、弾丸を肩のシールドと、剣で弾き返す。弾ききれなかった分はバリアシールドとで打ち消す。
「近距離で戦っても構わないんだけど」
剣を素早く盾に戻すと、今度は背中にマウントされていたレーザーライフルを腰だめに構えた。
「まあ、こっちの方が狙いやすいか?」
アールのミラーシェードの内側に、照準が現われる。右腕の操縦桿のボタンカバーを親指で開き、タイミングよく押していく。
「なんだと!?」「馬鹿なっ!!」
レーザー弾は、そのアールの押した通りに発射し、彼らの武器を見事に撃ち貫いた。
残りは、クローを持った機体のみ。
アールはボタンカバーを戻すと、もう一度、操縦桿を動かし、盾から剣を取り出した。
「ほう、見事に無力化したか。面白い」
腕を組む眼帯の男は、その手を操縦桿へと伸ばした。
「少し遊んでやるか。相手を殺しても良いといわれているしな」
楽しげに嗤いながら、男はコクピットの上部にあるレバーを引いた。
アールの機体にぶつかるかのように、クローの機体は猛接近してきた!
「くっ!? まさかアイツ、シルバーじゃない?」
何とか躱したが、盾が大破してしまった。使えなくなった盾を捨てて、剣を両手で構える。
「どうやら、驚いているようだな、『アール』」
焦っている様子を知っているのか知らぬのか、眼帯の男は、その手を止めない。
「俺の機体は、シルバーに成りすました、『ゴールド』! 貴様に勝てるわけが無い!!」
その猛攻を剣とバリアシールドで防ぎながら後退していく。大降りの攻撃をアールは剣で力いっぱい弾き返し、腕に内蔵しているマシンガンを敵に打ち込んだ。
その煙と共にアールは、距離を取る。
接近したときに見えたあの、回路の煌き。
「あの金色の煌き……相手はゴールドだったか」
ミラーシェードのデータに、破損データが加わっていく。これ以上、長引けばこっちが危ないだろう。
そんなとき、ふわりと立体映像がアールの隣に映し出された。
蒼い髪の少女が不安そうにアールを見つめる。
「大丈夫ですよ、『ルヴィ』。あなたの体にこれ以上、傷つけさせません」
そして、アールは手元にあるキーボードを素早く打ち込んだ。
「プログラム・スサノオ起動。……ルヴィ、ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね?」
その言葉にルヴィと呼ばれた立体映像が、にこりと微笑んで頷いた。
アールも微笑む。
ヴイイイイイイイイイイ………。
唸る機械音と共に、アールの周りに青白いオーラのようなものに包まれ。
アールの『ルヴィ』の内部回路に青白い灯が灯り始めた。
「あん? 手が止まったか? ならこっちも止めと行くか?」
眼帯男はにやりとほくそ笑み、再び上部のレバーを大きく引いた。
「これで終わりだ、アールっ!!」
眼帯男のギアのクローに、さらに凶悪なプラズマの光が加わり、力が込められる。
- Re: アール・ブレイド ( No.10 )
- 日時: 2012/08/05 15:37
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
刹那の静寂の後に、全く同時に2機が加速した。
「ほう、まだ動けるか。そうでなくてはな!!」
「まだやる気ですか」
二つの武器が激しくぶつかり合う。
一方は大剣、一方はプラズマ放電が加わった巨大クロー。それが真っ正面から両機の速度と重量を加えて激突し、爆発のように火花を散らした。
真空の宇宙に音こそ響かないものの、吸収しきれなかった衝撃と振動が、二人のコクピットを突き抜けていく。
そんな状況で、眼帯男はなおも余裕の笑みを浮かべていた。
「ふん、『シルバー』で『ゴールド』のパワーに耐えられるものかよ!」
そのまま目一杯まで、操縦桿のパワーゲージを押し上げる。
その操縦に答えるかのように、クローが大剣を押し始めた。
まるでプレス機でプレスするかのように、ゆっくりと、確実に。
「このまま死にやがれ、『アール』っ!!」
そう告げた眼帯男の視線の先、プラズマに彩られたクローの向こうにあるアールの『ルヴィ』に、ふと変化が現れた。
肩に、足に、兜に、青白い光が灯り、それが次々と増えていく。
そして、青白い光が増えていくほど、クローが大剣を押す速度が弱まっていく。
「……なに!?」
眼帯男が驚きに目を見張る時には、アールの機体の全体が、光へと包まれていた。その兜が上げられ、センサーの配置された両眼が、より強く青く輝く。
「これでラストです」
アールの言葉に反応して、大剣全体が光輝いた。と同時に、力で押されていたはずのクローを一気に弾き返す。
「ぬおっ!!」
たまらずに体勢を崩した眼帯男の機体に、大剣が叩き込まれる。
「『ソード、ブレイカーっ!!!』」
とっさにクローでガードしたあたり、眼帯男の技量も目を見張るものがあるが、アールからすれば、そのクローこそが目的だった。残光を引いた大剣が、まるでバターのようにクローを全て切り裂く。
「足は貰っていきます」
返す刀が煌めいて、次の瞬間には眼帯男のギアは、足と胴体が切り離されていた。
「お、おのれ……この次は殺す、絶対にだ! 俺の機体が本来の機体ならば、お前なんざ……」
その悪態は、アールの耳には届かずに。
アールは動けなくなったギア達を一瞥すると、すぐさま、後方で待機している自分のスペースシップへと戻っていったのであった。
「あのギア達のことですが……」
「知らん」
アールの言葉に、リンレイは即答していた。
ここはスペースシップの食堂スペース。
先ほどの追っ手を退け、2度目のワープで移動している。今回もまた、プラネットゲートを使わずに、ブルーポイントで移動中だ。
そこでアール達は、食堂でお茶を飲みながら、リンレイに先ほどのギア達のことを尋ねていたのだが。
「こっちだって、初めて見たんだ。仕方なかろう」
そう言い放ちリンレイは、ずずずと紅茶を飲み干す。
どうやら、リンレイも敵のことは知らない様子。
「まあ、そんなことだと思っていましたが」
「何!?」
いきり立つリンレイの前にカリスは、そっと美味しそうな苺のムースを差し出した。
「よければ、こちらもどうぞ」
「あ、ああ。すまないな」
カリスのナイスタイミングに、アールはほっと胸を撫で下ろす。
「仕方ありませんね。ちょっと寄り道しましょうか」
「寄り道?」
リンレイの言葉にアールは神妙な顔で頷いた。
「ええ、ついでにコレも見ちゃいましょう」
取り出したのは、老騎士から受け取ったデータチップであった。
- Re: アール・ブレイド ( No.11 )
- 日時: 2012/08/05 15:39
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第7話 ◆ウィザードの住む摩天楼
次にたどり着いた星は、たくさんの高層ビルが立ち並ぶ町だった。
一見、高度水準な文化的な町に見えるが、実際はそうではない。
大気は汚染され、空には汚染濃度を知らせる電光掲示板が、巡回していた。
「ん? ここでは、手続き無しでポートに入れるのか?」
いつもならば、ポートといくつかやり取りがあった後に、星に着陸する。
だが、この星では、その手続きが飛ばされ、すぐにポートに着陸していた。
それに疑問を持ったリンレイが尋ねると、アールは。
「良く気づきましたね。そう、ここでは入国手続きが必要ないんです。だから犯罪者のたまり場になってるんですけどね、『アンダーミセリア』は」
「おい待て。そんなところに何故……」
リンレイSSをつけたリンレイが立ち上がる。
「これを見てくれる人がいるんですよ、ここに」
アールの持つデータチップ。それを見てくれる者がここにはいるらしい。
いや、そうではなくて。
「もしかして、相手は犯罪者なのか?」
「んー、そうですね。一応、犯罪者ではないです。表向きは」
「おいおい……信用できるのか?」
「どんなセキュリティでも外すことができる、数少ない伝説のハッカーですからね」
「ちょっと待て、今、ハッカーって……」
「言いましたよ。でも、彼は興味のあることしかやらないんです。それに、悪事には手を出しません。まあ、悪事の範囲にもよりますけど」
ハッカー。
それだけを聞くと、ネット犯罪に手を染める者達の総称のように聞こえるが、本来はそうではない。彼らは信念を持って、それこそ命を張ってネットで戦っている。
特にクラッカーは、ネット内のデータそのものを壊す者達で有名だ。
そして、アールが頼もうとしている者は。
「『ウィザード』と、呼ばれていますよ。まあ、私は親しみを込めて、『ウィー』と呼んでいますけどね」
と、アールは首から自分のペンダントを外すと、そのまま、リンレイの首に掛けてやる。ついでと言わんばかりに、持っていたデータチップの入ったケースも手渡した。
「へ? ちょ、ちょっと待て? これは……」
困惑するリンレイに、アールは携帯端末を操作しながら続ける。
「私は他に行くところがありますので、カリスと共にウィーの所に行ってきてください。困ったときは、私のペンダントを見せれば何とかなります。大丈夫、ウィーはあなたのこと、女性とも思いませんから」
「いや、そうじゃなくて……はい?」
今、凄く失礼なことを言わなかったか?
「じゃあ、頼みましたよ」
てきぱきと指示を出して、アールはそそくさとシップを出て行く。
「おい、アールっ!! アールっ!!」
「さて、いきましょうか。リンレイ」
さっと手を差し伸べて、カリスはリンレイを促す。
「外は危険なんじゃ……ないのか?」
「ええ、危険です。だから、私があなたをお守りします」
カリスの実力を見ていないリンレイにしては、いささか不安ではあったものの、彼女しか守る者がいないのだから、仕方ない。
「よろしく頼むぞ」
代わりに彼女の手を力強く掴んだ。
カリスは何も乗らずに、アンダーミセリアの奥へと進んでいく。
どうやら、歩きで行ける範囲らしい。
カリスの手を握りながら、必死にリンレイはついていく。
数多くの車が犇めく道路。
暗い裏路地。
嫌な匂いのするスクラップ置き場。
何の店かわからない店をずんずん歩いていく。
男と女が体を重ね合わせながら、熱を帯びていくのは、気のせいだろうか?
「こっちですよ」
カリスの声で現実に戻った。
今度はたくさんの映らないモニターが置いてある地下通路に出た。
ひんやりとしていて、暗くて……怖い。
リンレイは素直にそう思った。
そして、巨大な扉の前でカリスは、やっと足を止めた。
「ごきげんよう、ウィザード様。マスターの命により、こちらにご挨拶を……」
『カリスか。アールはどうした?』
誰もいないドアから、声が響く。どうやら年配の男性を思わせる枯れた声だった。
「別の用事で今日は来られないそうです」
『それは残念じゃ。とびきりの術式で焼いてやろうと思ったのにのう』
「マスターは、焼けませんよ。そこらの術式では。それに私がいますから」
『おお、怖いのう、怖いのう』
と、声が静まり返る。
「あの……」
思わず、リンレイが声をあげた。
『なんじゃ、小娘。儂に用かの?』
眼中にない言い振りの相手に、怯みかけつつも、リンレイは気丈にも告げる。
「アールに言われて、これの解析を頼まれた。たぶん、連絡が行っているはずだが?」
取り出したのは、アールから渡されたデータチップの入ったケース。だが、外観は唯のケースであった。
それに気づいたリンレイは、すぐさまその箱を開けて、中にデータチップがあるのを見せた。
『ほう、データチップか。少々旧式のようじゃの?』
「アールから聞いていないのか?」
『いや、聞いておる。じゃがあんたが何者かは聞いておらん』
そういえば、名乗っていなかったな。
前にもこんなことがあったなと思いつつ、リンレイは首からアールのペンダントを取り出し、見せた。
「私はアールの代理の者だ。名はリンレイ。頼む、これを見てくれないか?」
それが私の今の役目だから。それにこんなお使いができないと、アールに思われたくはない。
『ほうほう、あの坊やがそれを小娘に渡すとはの。良いじゃろ。入ってきなさい。カリス。お前はそこで待っておれ』
「分かりました」
ゴゴゴゴゴゴゴ。
音を立てて、巨大な扉がリンレイの幅に開いた。
「私、だけか?」
『そうじゃ、早く来い』
どうやら、カリスは入れたくないらしい。
「大丈夫です。私は一人で問題ありませんから」
いや、そうではなくて……。
突っ込もうとしたのだが、きっとウィーとやらの機嫌を損ねるとやばそうに感じていた。名残惜しいが、リンレイは一人で入ることを決める。
「ちょっと……行ってくる」
「お気をつけて」
「ん」
心細くないといえば、嘘になる。むしろ、カリスと一緒に入れるものと思っていた。
アールから借りたペンダントをぎゅっと握り締め、リンレイはその扉の奥へと歩き出した。
リンレイが入ると、扉は音を立てて閉じた。
とたんに通路が真っ暗になったが、すぐに淡い光が灯り、道を示していく。奥へ奥へと。
「この先か……」
ペンダントを握り締めながら、リンレイは奥へと歩き始めた。
その手が僅かに震えながらも。
「ここじゃ」
あの扉で聞いた声と同じ声が聞こえた。
意外と通る声だった。
「あなたがウィー……いや、ウィザードか」
「ほう、儂の名を聞いているようじゃの」
そこにいたのは、文字通り老人だった。
ただ、普通の老人と違うのは、その体を何本ものコードで繋がれていた。いや、つながれている部分は着ているローブで見えない。でも、足元まで広がっているコードで繋がれているのは予想できる。目元は瞳の奥も通さない、小さな黒眼鏡で覆われており。長い白髪がだらりと肩まで流れていた。
その姿は、さながら機械の魔術師。ウィザードの名に相応しい姿。
「そのペンダント。アールから聞いておるのか?」
「これか?」
アールから託されたペンダント。
「困ったときはこれを見せろとしか、言われていない」
「坊やの大切なものが入っておるのじゃ」
「大切な……もの?」
「そう聞いておる。ああゆう職に就くなら何ももたん方がええんじゃがの」
ほれ、開けてみと言わんばかりに、ちょいちょいと、ペンダントを指差す。
そう、ペンダントはロケットになっていた。
気になった。
その、中身が。
- Re: アール・ブレイド ( No.12 )
- 日時: 2012/08/05 15:40
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第8話 ◆失われた過去と真実
「終わったぞ」
ウィザードの声にリンレイはびくりと体を震わせた。
「もう、終わったのか? 早すぎるんじゃないのか?」
開いたロケットを閉じて、リンレイは彼を見た。彼は大切そうにチップと解析したデータの入ったディスクを添えて、リンレイに手渡した。
「これくらいすぐ解ける。簡単じゃよ。もっともあの坊やなら力技で行くから、数日使いもんにならんがの」
「坊やってアールのことか?」
「そうじゃ。解き方を教えても、どうしても力に頼る節がある。ありゃ、若造の考えることじゃな」
「そんな風には見えなかったが……」
むふふふとウィザードは笑う。
「小娘、お前さんがいるからじゃろ? 格好付けてるのじゃ。あやつもまだまだ青臭いってことじゃの。ほっほっほ」
ことさら楽しそうに。
「それよりも、中身は何だったんだ?」
「タダの動画じゃよ」
「動画?」
どうやら、データチップの中には動画が入っているらしい。
「そうさな、あの坊やにはまだ意味の無いものじゃな」
「意味の無い……動画?」
ウィザードの言葉に頭を傾げるリンレイだったが。
「さて、用も済んだのだから、さっさと戻れ。機械女が待ってるぞい」
ウィザードがさっさと追いやっていた。しかも。
「機械? それって」
「おや、知らなかったのか? アイツは全て機械で出来とる女じゃよ。カリスと言ったかの?」
驚いた! あのカリスが、アンドロイドだったとは!!
「だから、感情が……」
いや、今は早く戻ろう。きっとカリスが心配しているだろうから。
「ありがとう、ウィザード。助かった」
「礼はいらんぞ。おぬしのような、面白い小娘に会えたのじゃからの」
見送るついでにウィザードが尋ねる。
「して、その義足。あの坊やが用意したもんか?」
「え? ああ、そうだが……」
そういえば、義足だってことはまだ話していなかったなずなのだが……。
「ええものを作ってもらったの、『エレンティアの姫君』殿」
何か言おうと振り返ろうとしたのだが、その間もなく。
リンレイの足元が急になくなり。
いやこれは、落とし穴というやつだ。
「うわああああああああ!!!」
「お帰りなさいませ、リンレイ」
もふっと抱き止めてくれたのは、カリス。
気がつけば、あの出口に戻されていた。
「あ、ああ……」
リンレイは心の中で文句を言った。
———あのジジイ。もっと丁寧に返さないかっ!?
役目を終えた二人は、シップに戻る。
その間、敵の襲撃もなく、また、犯罪者に絡まれるということもなかったのであった。
この世界……いや、宇宙には無数の国がある。
辺境になればなるほど、その数は増えてゆく。
その広大な宇宙で、勢力を伸ばしている国があった。
ラフトブレスト帝国。
驚くべきことにその帝国は、宇宙の8割を支配する巨大帝国まで発展していく。
その手腕は、他者を力で捻じ伏せるというものであったために、不満も大きく、抵抗する組織もあるらしい。
そして、彼らが目をつけたのが……。
小さな小さな国だった。
辺境にある、農業と観光を主とした国。
少しずつ、けれど確かにその力を伸ばしていた。
小さいけれど、その国が、私は好きだった。
貧しくても、町の人達は優しくて暖かで。
その町の人達がくれるもの、全てが美味しくて。
中でも、母が作ってくれるクリームシチューは天下一品だった。
いつも収穫祭で貰った野菜を使って、母はとびきりのシチューを作ってくれる。
その日も収穫祭を終えた、夕食時。
「リンレイ、そっちのお皿を取ってくれないかしら?」
「はい、母様」
母の指示通り、皿を持ってくる。
「姉さま姉さま。今日はね、きれいなお花を見つけたの」
「違うよ、それ僕が見つけたんだよ!」
可愛い妹と弟がやってきた。
「おや、良いにおいだと思ったら、シチューかい?」
仕事を終えて、少し疲れている父までやってきた。
シチューを見て、明らかに元気を取り戻したようだが。
「ええ、一緒にいただきましょう」
暖かい食卓。席に座る家族。
あまり人を雇えなかったから、料理は母が担当となった。それを手伝うのが私と妹と弟の3人。
私はずっと、父と共にこの国を豊かにするんだ。守ってゆくんだと思っていた。
その日までは。
「きゃあああああああ!!」
いつもと変わらないはずの暖かい団欒が一転した。
「早く王と后を見つけろ、そして殺せ!!」
そんな声と共に銃声が鳴り響く。
食卓をそのままに父と母は、私達を連れて逃げた。途中、じいとも合流し、別れる。
父と母は妹と弟を別の部下に託すために、また逃げると言っていた。一緒に逃げたかったが、出来なかった。
力が、なかった。
「じい、父様と母様は大丈夫だよね?」
「ええ、大丈夫です。他にも腕の良い方はたくさんいらっしゃいますから」
「妹も弟も大丈夫だよね?」
「ええ、きっと大丈夫です」
逃げる途中で、子供の悲鳴が……聞こえた。
聞いたことのある、声だった。
「……うっ……くっ……」
逃げるしか、出来なかった。
怖かった。
助けたかったけれど。
怖くて怖くて。
「うおおおおおおおお!!」
勝利の雄たけびに似た声が後から聞こえた。
「王と后を……殺したぞっ!!」
聞きたくなかった、言葉だった……。
涙がこぼれて、前が見えなくなった。
それでも逃げられたのは、じいがいてくれたから。
「姫さま、あともう少しあともう少しですぞっ!!」
「んっ!!」
この森を抜ければ、きっと……きっと……。
草原に出たとたん、私はじいと共に吹き飛んだ。
恐らく爆弾か何かで吹き飛ばされたんだと、思う。
……目が覚めたときは病院で。生きているのが奇跡だといわれて。
私は下半身麻痺。じいはその体の殆どを機械にされていた。