ダーク・ファンタジー小説
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- アール・ブレイド【改訂版 投稿中】
- 日時: 2013/02/05 09:46
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
※改訂版を投稿しています!! よければ、感想などお聞かせいただけると嬉しいです!!
※この小説は他サイトでも公開しているものです。
ご了承ください。
また、一部残酷描写が入りますので、ご了承ください。
●あらすじ
連日続いた依頼もひと段落。
そんな凄腕ハンターのアールの元に、一通のメールが届いた。
頼まれたのは、あるデータチップの運送。
……だけでなく、車椅子の少女も同乗させることになってしまった。
しかも追っ手が次々と、アール達を狙って迫ってくる!?
ハイスピードアクション! ロボット対ロボットの白熱バトル!!
彼らの行く先にあるのは、改変を求める未来か、それとも……。
「アール。私は幸せだ……」
呟く彼女の手に、涙が……落ちた。
●改訂版
改訂版はこちら >>39-52
- Re: アール・ブレイド ( No.3 )
- 日時: 2012/08/05 15:32
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
「で、かの老騎士が言った城って……ここのことか?」
数百年前までは、最先端な車体だったのだが、今では充分、レトロだのクラッシックだのいうレベルの代物になっている、アールの乗っていた車。
シャープなボディデザインは、今でも充分通用しそうな雰囲気はするものの、問題はタイヤだ。もっとも、特殊タイヤでダイヤが転がってても穴は開かない構造になっている……らしい。広告によると、だ。
そんなグレーの車からアールは降りると、人が集まってくるのは、仕方の無いことなのかもしれない。
何かいたずらでもされそうなのだが、アールはそんなこと気にせず、車を放って置いて、指定された部屋番号に向かった。
そこもまた、レトロなアパートメントだった。
「城の割にはいささか、小さく見えるけどね」
チャイムを鳴らそうとした手が、止まった。
がちゃりと、アールの目の前の扉が開いたからだ。
「貴殿が、アール殿か?」
アールは自分の周りの空気を変えた。いわば臨戦状態といったところか。
彼の目の前には、予想通り老人が立っていた。
だが、普通の老人ではない。
体の一部……いや、その大部分が機械。サイバー化している。
しかも、メールにあった通り、一般人のそれではなく、軍人や騎士に使用される強力な力とスピードをもたらす代物でもあった。
「ええ。貴方が私を呼んだ『老騎士』殿、か」
アールは彼があのメールを送った本人だと感じた。
「入ってくだされ、話は奥で」
老人の言葉に静かに頷くと、そのまま颯爽と、部屋に入っていく。
部屋の中は簡素ながら、きちっと隅々まで整えられていた。
必要最低限のものしか置いていない。
老人に促されるまま、また扉の奥へ。
そして、テーブルと椅子のあるダイニングへと案内された。
椅子を勧められ、アールはさも当然と言わんばかりに座って見せた。
「で、用件は?」
「単刀直入ですな」
柔らかな微笑の中に、凛とした響きを感じる。
ミラーシェードの中に潜む瞳が、きゅっと細められた。
「仕事は何事もスマートに、そう思って行動しているので」
僅かに笑みを零して、アールはもう一度、用件を促す。
老人は、アールの側に茶を置いてから、自身も椅子に座って。
「頼みたいのは、これをある場所に運んでいただきたいのですじゃ」
こんとテーブルの上に置かれたのは、ブルーの小箱だった。
老人はそっとある位置を押して、その蓋を開く。
そこには一枚の小さなデータチップが収まっていた。
「これは?」
「大切な……大切なデータですじゃ。壊さずに目的地まで運んでいただきたい」
小箱と、新たに添えられたカードと共に、アールに手渡した。
「目的地はそこにある通り」
カードの隅のボタンを押して、小さな立体ディスプレイを表示。
そこには、惑星の座標と、地図が記載されていた。
「ここから遠い場所か」
一瞥して、場所を特定したアールが言うと。
「もう場所がわかったのですかな。流石はSSS(スリーエス)クラスハンターですな」
アールのような生業をするには、まず、『ハンター』になる必要がある。
ある程度の戦いのスキル、運び屋のスキル、そして、信用。
コレさえ持っていれば、どんな惑星に行っても、身柄はハンターカードで保障され、無理さえ言わなければ、希望の職業に就ける。今、銀河で人気の資格であった。
ちなみに彼が選んだのは、運び屋と傭兵の職。
また、彼も最初は最低ランクで始めたのだが、度を越した依頼をこなす内にいつの間にか、ランクはあれよあれよと上がっていき、気がつけば最高ランクまで上り詰めていったのだった。
アールと同じランクの者は、数えるくらいしかいない。
しかも、その中で生きている者は、恐らくゼロだ。
「で、期限は?」
「2週間で」
「………」
地図にある場所まで、ゲートを使って行っても、5週間掛かる行程だ。
それを、2週間で運ぶとなら、別のルートを選ぶしかない。
黙ってしまったアールに老人は、試すかのように覗き込んだ。
「おや、難しいですかな? 流石のハンター殿も降参ですかな?」
「報酬はいかほどか」
地図の載ったカードを老人に差し出しながら、アールは冷たい口調で告げた。
まずは報酬を見てからでないと、これ以上は判断しかねる。
「では、前金でこれくらい。後の残りは無事、依頼を果たしてから」
老人はもう一枚のカードを差し出した。
カードを受け取り、それに記された金額を見て、妥当な線かとアールは判断する。悪くは無い取引だ。
むしろ高額の部類に入る。
「引き受けよう」
そうアールが告げたとき。
「では、一緒にかの方も運んでくだされ」
「はぁ?」
思わず、アールは間の抜けた声を出してしまった。
だが、老人はそれに気づかぬ素振りで、扉の奥へ入り。
連れてきたのは、車椅子の少女だった。
長いストレートの金髪をバレッタで止めている。
その蒼い瞳から、アールを侮辱するかのような視線を投げかけていた。
「じい、この者は?」
「あなた様を運んでくださる方ですじゃ」
老人が少女にそう話す。
どうやら、老人はまだ詳しい内容を彼女に話していなかったらしい。
「運ぶ? どういうことだ?」
アールがいるというのに、二人だけで会話が進んでいく。
もっとも、彼はこのことを気にするつもりもないが。
「ここはもともと危険な場所。ここから離れ、より安全な場所へ一時的に避難していただきたいのですじゃ」
じいと呼ばれた老人に向かって。
「危険? だが、今まで何もなかったぞ?」
少女はムッとした表情で告げる。
「いえ、今まで何も起きなかっただけのこと。このじいめが色々と画策いたしましたが、これ以上は……やはり歳には勝てますまい」
老人の言い分も分かる。
彼女はしばし考えた後に、決めた。
「……一時的、なんだな」
「ええ、一時的に、でございます」
「わかった、従おう」
切りの良い所でアールが尋ねる。
「話は終わったか?」
「お見苦しいところをお見せしてしまいましたな」
「じいが急に決めるからだ」
「それに」
アールも気がかりなことを確認する。
「彼女も、このチップと共に運ぶというのか?」
「おや、先ほどのカードにも記しておいたはずですぞ?」
見逃していた!!
すぐさま見直し、自分の失敗に狼狽する。
きっとコレも、面倒な依頼をこなして、心が大きくなっていた所為だと、アールは心の中で舌打ちした。
「まさか、この依頼、反故にしてしまうつもりではありませんな? 体の不自由な少女の切なる願いを聞き届けないとは……あのSSS(スリーエス)クラスの貴殿が断ったとなれば、一大事ですぞ?」
一応、慈善事業にも手を貸している手前、断りにくいのも確か。
それに……。
改めて、少女を見る。
歳は15、6だろうか。体が不自由だと言っていたが……。
アールは立ち上がり、彼女の側にやってくる。
そして、恭しく片ひざを付き、かつ、紳士的に……いや、騎士的に頭を下げてから、彼女の手の甲に挨拶をした。
彼女も慣れた素振りで、それに応じる。
とたんに、一瞬で、頭の中に何かが飛び込んできた。
しまったと思っても、もう遅い。
渦巻く思考、思い、悲しみ、激動、苦しみ……幸せ。
アールは見てしまった。
ほんの欠片ではあるものの、彼女の運命にまつわるものを、この瞳で。確かに。
「わかった、引き受けよう。彼女もこのデータも」
その言葉に老人は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。その言葉が聞けただけで満足ですじゃ」
老人に見送られ、アールは彼女を自身の車に乗せた。
車には傷一つ入っていなかった。けれど、悔しそうに車を見つめる者達がいたことは否めない。
そんな彼らを睨みつけて、八方に散らすと。
「さて、よろしいか? 姫君」
「ああ」
アクセルを踏み込んで、彼らはその『城』を後にした。
- Re: アール・ブレイド ( No.4 )
- 日時: 2012/08/05 15:33
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第2話 ◆船とカーチェイス
遠くなる、ああ遠くなる。
本当は、もっとあそこにいたかったのだ。
けれど、じいは駄目だという。
何故?
私にはもう、なにもないというのに。
何故、一緒に居てはいけないの?
答えの無い問いに、彼女はもう一度、後ろを振り返る。
長年いた家は、遠くの方へ、小さく小さくなってしまった。
もっとじいに声をかけたかった。
本当は、じいともっともっと居たかった。
私をその体でもって、守ってくれたじい。
生まれたときから、じいは私の側にいてくれた。
そう思うと、涙が零れそうになる。
けれど、涙は見せなかった。
じいはそれを望んでいなかったし、私も望まなかった。
だから、促されるまま、じいの言う通りにしたのだ。
「一つ、聞いても……いいですか?」
突然、隣に居た男……いや、アールと言ったか。
ミラーシェードで隠すくらいなら、付けなければいいのにと思う。
「何だ?」
声を出して、思い出した。
そういえば、家に来たときは、妙に殺気を発していたが、今はその殺気が消えうせている。思い起こせば、躊躇いがちに丁寧語まで使っている。
「名前を教えてくれませんか?」
その前にお前の名前を教えろと言うつもりだったが……そういえば、私は既に彼の名を知っていた。
「リンレイ」
それだけ、教えた。
すると、男はふわりと柔らかに笑う。その笑みに思わず驚いてしまう。
「良い名ですね」
こっちが照れるのは、気のせいか?
思わず、顔を背けてしまった。
もう一度、最後に家を見ようとして……もう見えなくなっていたことに、愕然とする。
もう……帰れないのだと言われている様で、淋しかった。
一方その頃。
彼らを追う影があった。
大きな大きな二つの影。
その影の標準は、二人の乗るグレーの車を捕らえて離さない。
「やはり、あの老人が持っていたか」
声が聞こえる。ノイズのような、耳障りな声。
「だが、今はあいつ等が持っている」
「さっさとあのレトロすぎる足つき車を壊して」
にやりと二人は嗤った。
「手に入れようぜ」
「ああ」
アールの車はハイウェイをひた走る。
「私の船は、この先の街に停泊しています。後、数十分で着きま……」
がくんと、車が急停車した。いや、今度はバックで動き出した。
「な、ど、どうした?」
良く見れば、目の前は煙でよく見えない。
だが、それもすぐに晴れる。
そこにあったのは……巨大なクレーターだった!
「どうもこうも……どうやら、招かれざる客が来たようです。全く、ここの治安機構は何をしているんですかね?」
そう言って、ギアを切り替え、辺りを見渡す。
「しっかり掴んで、舌を噛まないよう」
「あ、ああ?」
何が何だかわから……。
「うわああああああああああ!!」
急スピードでアクセルを吹かした。
「な、何を……」
「右を」
ギアチェンジ、またアクセル。バックに入れたり、前に入れたり。
それもスピードに乗ってる中でやり遂げるのだから、コイツはじいが言う通り、凄いヤツなのかもしれない。
いや、それよりも右だ。
右に視線を移すと……そこにはエアフライヤーが2機がこちらに向かって、レーザーやらミサイルやら撃ち込んで来ているではないか!?
ちなみにエアフライヤーというのは、一人乗り用の小型飛行機のこと。
軽くてぶつかっただけで大破するほど機体が弱いが、その分、スピードが半端なく、早い。その為、移動に使う者も多かった。
ついでにいうと、私がみた資料によれば、武装なんてものは装備されていなかったはずだ。恐らく違法のものなんだろう。あれは。
「な、何だ! 何だあれは!?」
「あなたも知らないのですか? じゃあ、敵ということで」
アールは手近にあったボタンを二つ押した。
私の座席のすぐ下から、何かが飛び出していった。恐らくアールの下の方からも。
いや、この車のボディから何かが発射されたのだ。
とたんに後ろで爆風を感じ、車体が大きく揺れる。もしかして、ミサイル!?
それでもスピードは維持しているのだから、本当に驚かされる。
そうじゃない、スピードを落とせば、こっちが危ないのだ。落とせるわけが無い。
「そういえば、じいが言っていた」
「何です?」
「ハイスピードで駆け巡る乗り物があるらしい。確か……そう、絶叫マシーンとかいう」
「ジェットコースターですか」
「そう、それだ!! うわあああああ!!」
急にハンドルを曲げた。体ががくんと倒れるように揺れる。
「全く、こっちは客を乗せてるって言うのに」
突然、テンキーを呼び出し、番号を打ち込む。
『どうかなさいましたか、マスター』
女性の声が響く。
「どうもこうも、面倒な敵に追われてるんだ」
『それは大変ですね』
人事のように言う、女性の言葉に私は思わずムッとした。
こっちは本当にえらいことになっているというのに。
「そうじゃないだろ? 早く来てくれ」
『マスターなら、すぐに撒けるではありませんか』
「客を乗せてる」
『客? お客様、ですか?』
「そういうこと」
『それは失礼しました。すぐに向かいます』
「ああ、頼む」
何だか、何処かの漫才を見ているかのようだった。
だが、アールのドライビングテクニックは凄いと思う。
話しながらも、巧みに敵の攻撃を避けまくってる。
「でも、全てを操作するのは、いささか疲れてきましたよ。D・ドライブ、プログラムフェンリルを起動」
『フェンリル起動します』
同時に車の隙間から、何本の回線が、輝き伸びるのを見た。
「プログラム・ミラージュ展開」
『ミラージュ展開しました』
次に車体の周りが、虹色に歪んだ……気がした。
「何をしたんだ?」
「操作しやすくしたのと、デコイを張りました。これで敵の攻撃も避けやすくなりましたよ」
そうなのかと思いつつ、フロントガラスに映し出されている速度計を見て、その速度に驚きを隠せずにいる。確かこの車にはタイヤがついていたと思ったのだが。
そう思った途端、気持ち悪いを通り越して、くらくらしてきた。
「うぷっ……」
「はいどうぞ」
手渡されたのは、白いビニール袋。
ありがたくそれを受け取り、思いっきり吐いた。
「すみませんね。こんなに荒い運転するつもりはなかったんですけど」
「いや、気にするな。少し楽になった」
何とか袋をきゅっと締めて。
「外に投げていいですよ」
窓を開けてくれた。
凄い風が吹き込んできたが、いつまでもこの袋を持つ気にはなれなかった。
憎しみを込めて、思いっきりエアフライヤーに向かって投げつけてやった。
が、残念ながら、それは届くことなく、地面に当たって散った。
しゅんとまた窓が閉まった。
エアフライヤーの中でも騒ぎが起きていた。
「なんだ、あの足つきは!!」
「あんなスピード、足つきで出せるわけが無い!!」
何度も標準を合わせて撃っているというのに、相手はそれを巧みに躱していく。
まるで後ろに目があるかのように。
と、何処からか通信が入ってきた。
「どうした?」
「どうやら、この追いかけっこも終わりだ。応援が来たぞ」
「こりゃ相手も終わったな」
二人は楽しそうに口元を歪めた。
「チッ……」
アールが舌打ちする。
目の前に大きな船が現われたのだ。
小型ではあるが、それは明らかに武装したスペースシップだとすぐに分かった。
しかも、その船はこちらに標準を合わせて、誘導レーザーを放つ!!
とっさに私は目を瞑った。
………あれ?
やって来るはずの振動も閃光も熱さもレーザーも感じなかった。
感じたのは、少し陰ったことだけ。
「遅いですよ、カリス」
『すみません、混んでいたものですから』
追ってきた船よりも二周りも、いや、もっと大きい。
蒼白く輝くその美しい船は、我々の車の盾となってくれたようだった。
『すぐに回収します』
ハッチを空け、見えない力で車を浮き上がらせると、船の中へとそのまま回収されてしまった。
確か、これって反重力を使っている……んだと思う。
「ありがとう、助かった」
アールの言葉と同時にハッチが閉まり、代わりに人工的な明かりが私達を照らす。
『このまま一気に飛びます』
「ああ、頼むよ」
車から降りたアールがそう告げる。
ここからでは、外がどうなっているかわからない。
だが、これだけはわかる。
私達は、助かったのだと。
アールがゆっくりと、私を車から車椅子に乗せ変えてくれる。
そして、恭しく頭を下げると。
「ようこそ、リンレイ。私の船へ」
そういって、アールは私に向かって手を差し出したのだった。
- Re: アール・ブレイド ( No.5 )
- 日時: 2012/08/05 15:33
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第3話 ◆船内でのファーストコンタクト
ふと、振動が格納庫に伝わってきた。慣性にひかれて車椅子が転がり始めるのを、アールが手で止める。
アールの手でエスコートされながら、辺りを見渡した。
広い格納庫であった。
良く見ると、2機のモーターギアが鎮座されていた。
モーターギアというのは、人型の大きなロボットのこと。
大体、10メートル程の大きさだ。
土木工事や船や宇宙ステーションの修理、そして、戦争の兵器として使われる。
普通、モーターギアは体格がごついのが主流だ。そうでなければ、立たないし動かせられないからだ。
だが、ここにあるこの白銀色したギアはどうだろう?
ごついよりも、華奢な体格をしている。それでいて、洗練されたフォルムをしている。まるでそう、天界から降りてきた戦乙女(ヴァルキリー)を思わせる。
そういえば……確か、モーターギアはその機体の色でも性能を示していた。
一番は何色だったか忘れてしまったが、この目の前に居る白銀色は、かなりの上位ランクに位置するはず。
「私の使ってるシルバーですよ」
「ごつくは……ないんだな」
「どうも、今、主流のギアは私好みではないもので。少々いじらせてもらいました」
アールはそういって、その白銀色したモーターギアを優しく触っていた。
「いじるってものではないだろう? これ、立つのか?」
「ちゃんと立ちますよ。軽量化もしてますから、速いです」
マジか。
思わず呟いてしまう。
と、視線を外した先に、もう1機のギアが目に入った。
こっちは青白い機体。
ん? 妙にでかくて、ずんぐりむっくりというか。なんていうか……昔、アンティークショップに置いてあったマトリョーシカを思い浮かべた。
「でかいマトリョーシカか、これは」
「これでも、こっちのシルバーよりも遥かに高性能なんですけどね」
私の顔を見たのか、アールは笑いを噛み殺しているようだった。
「これが、か? こっちの方がちょっと細いが強そうに見えるぞ」
シルバーを指差す私に、アールは苦笑を浮かべているばかり。
「マスター」
と、そこへ声が掛けられた。凛と響く女性の声。
「ああ、もう来たの?」
ざっくばらんに受け答えするアール。
そこに現われたのは、金髪の白いワンピースの女性であった。
「紹介します。彼女はカリス。私の助手をしてもらってます」
「初めまして、カリスと申します。で、この方が……」
軽く礼をした後、カリスという女は、アールの方を見た。
「ええ。名はリンレイ。我々の客人だから、丁重にもてなすように」
「畏まりました」
私はそのやり取りを遠くで眺めている振りをして、もう一度、モーターギアを見上げた。やはり、このシルバーとやらは、綺麗だ。
「もしかして、これはカリスとやらが乗るのか?」
「いえ、どちらも私専用ですよ」
さも当然といわんばかりにアールが答える。
「なら、なんで2機もあるんだ?」
思わず疑問をぶつけていた。
「その方が面倒ごとが少ないので。シルバーでいいときはシルバーのみで、そうでないときは、奥のギアを使うんです。奥のは少々、燃費も悪いし、かなりのじゃじゃ馬なので」
そういうアールを冷たい瞳でカリスが睨んでいるように見えたのは、気のせいだろうか? きっと、乗せてくれないから、そう睨まれるのだ。
「少し、カリスとやらを大事にしたらどうだ?」
「大事にしてますよ。大切なパートナーですし」
そういう言葉に、カリスが、僅かに喜ぶような素振りを見せた。
僅かな、本当に僅かな変化ではあったが。
「まあ、そういうことならいい。それよりも……さっきの追っ手はどうした?」
「気になりますか? なら、ブリッジに行きましょうか」
カリスに車椅子を押されて、私はアールの案内するままに、ブリッジへと向かった。
そこには美しい宇宙があった。
たった3枚の窓だというのに、こんなにも広く感じるのは、本当の宇宙を見たのが、これで2回目だから……だろうか。
いや、今はそれをゆっくり見ているときではない。
あの最後に見たスペースシップの姿が見えないところを見ると、格納庫で話しているうちに追っ手を撒いてしまったようだ。
「いえ、まだ完全ではありませんよ」
私のほっとした表情を見てか、アールが言う。
「一気に宇宙に出ましたが、そう離れていないので、見つかったらまた追われます」
キャプテン席だと思われる席にアールが座って、さっそく船を操舵する。
「敵の位置は?」
その言葉にカリスが即座に答える。
「後方2時の方角に3機……いえ、4機になりました」
モニターに敵の位置を映し出しながら、的確に。
「どうするんだ? 近くにプラネットゲートはないぞ?」
そういう私の言葉に、アールは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「カリス、B3576のブルーポイントは、まだ健在?」
「はい、オールグリーンです」
アールは手元のキーボードで入力を終えると。
「じゃあ、そこに『飛ぼう』」
「ま、待て!」
思わず声を荒げた。
「もしかして……ゲートなしで、『飛ぶ』のか?」
にこっと先ほどの笑みを浮かべて。
「危険すぎる!! ある者がゲートなしで飛んで、間違って、恒星に突っ込み燃え失せたって話さえある! もし、星のマグマの中にでも突っ込んだら……!!」
「だからこその、『マーカー』だよ」
別のモニターに新たなウインドウが現われていた。
聞いたことの無い、宇宙の名前。
「それに、お客様がいるってのに、失敗したらあの老騎士さんに怒られてしまうからね」
もう一度、アールがキーボードを操作する。
「じゃあ、カリス準備」
「でもっ!!」
「追っ手がすぐそこまで来てるっていっても?」
アールの指差した向こう。
そこには先ほど、私達を散々痛めつけた憎き追っ手が迫ってきていた。
「なっ!!」
がたりと立ち上がろうとするも、立ち上がれずに、また座った。
どちらかというと、体の所為で立ち上がれなかったというのが本当だろう。
「それが賢明」
アールはそう言って、青いボタンを押した。
「時元空間オープン、行きます」
「オーケー、行っちゃって」
ぶんっ!
一瞬、何かがズレて、戻った。
次に見たのは、流れる白い宇宙。
けれどそれは眩しくなくて、その空間は明るく優しかった。
普通、ワープしたら、酔ったりとかするんじゃなかったのか?
「さてっと、これで敵も撒きましたし、一息つきましょーか」
そう言ってミラーシェードをしまいこみ、ついでにイヤーギアを外した。
「え? あ?」
そこに現われたのは、蒼い瞳と亜麻色の瞳のオッドアイの青年。
20を過ぎていると思うが、それでも若いと思う。
「ああ、オッドアイ。見るの初めてですか?」
「あ、ああ……」
「それに若造だと」
「そんなことっ!!」
「いいですよ、よく言われてますし」
そういって、今度はジャケットを脱いで、席の背もたれに掛ける。
「だから、これで顔を隠しつつ、ハッタリかまして稼がせてもらってます」
背中越しに聞こえるその声に、何か淋しげなものを感じた。
「ああ、カリス。彼女を部屋に連れて行ってあげてください。疲れているでしょうから」
「わかりました」
「あ……」
何かを言おうとして手を伸ばしたが、それは届かず。
私はそのまま、一人になるアールを背にした。
それを背中で見送ったアールは、ふうっと息を吐いた。
ため息? それとも、緊張?
よくわからない。
いや、それよりもよく分からないのは。
腰のポーチから取り出したのは、老騎士から託されたメモリーチップ。
箱を開けて、眩しいものを見るかのように瞳を細める。
「本当に、面倒なものをくれたな。あの老人は」
食えないと、呟いて、知り合いにメールを打つ。
「マスターなら、それを見れるのでは?」
「カリス、戻ったのなら、ノックくらいして欲しいな」
「そんなこと、初めて聞きましたが」
「いいじゃないか」
「で、これを見ないんですか?」
カリスが指差すのは、あのメモリーチップ。
「まあ、頑張れば見れるだろうけど……このロック、30個もあるんだけど」
「え?」
アールが一瞥した、視線の先にあるチップには、かなり厳重な『鍵』がしてあったようだ。
「『飛び』ながら、チップにダイブしろ?」
ぐいっと背もたれを後ろに深く倒しながら、頭を掻く。
「『リキッド』2つ使い切るし、一週間ぐらい使い物にならなくなるけどいい?」
「いえ、結構です」
「でしょ? だから、お爺ちゃんに頼んでみた。興味持ってくれるといいんだけど」
「そうですね」
箱からチップを取り出し、白い宇宙に翳してみる。
「一体、何が入っているのやら……」
そして、アールは、自分達を送り出した老騎士の安否を心の中で気遣いながら、操舵モードをフルオートに切り替えた。
- Re: アール・ブレイド ( No.6 )
- 日時: 2012/08/05 15:34
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第4話 ◆アールから渡されたもの
目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。
……いや、違う。
首を振り、改めて、辺りを見渡す。
確か……そう、カリスと言ったか。金髪の女性に案内されて、船の一室を貸してもらった。あまり使っていないという話だったが、埃一つ無い、綺麗なこざっぱりした部屋だった。白い布団とシーツ、毛布のベッドが一つ。小さなデスクが一つ。鏡と洗面所のついたトイレとバスルームがひとつ(しかもトイレとバスルームは別々!!)。
そうだ、ここはアールとかいう男の船の中だ。
なのに、こうこざっぱりして男臭さがあまり感じられない。
あの、カリスという女の所為、いやお蔭だろうか?
私は起き上がり、トイレに行こうとする。が、車椅子がやや遠くて、難しい。
手を伸ばして、頑張っているところに。
こんこん。
「リンレイ様、おはようございます。もしよろしければ、お手伝いいたしますが」
………隠しカメラとかあるんじゃないのか?
思わず苦笑を浮かべる。
「すまない、手伝ってくれないか。トイレに行きたい」
「入りますが、よろしいですか?」
「ああ」
許可を得て、彼女が入ってきた。
支度を終えて、私とカリスは共に部屋を出た。
案内されたのは、小さな食堂。
どうやら、朝食が出来たらしい。
「おはよう、リンレイ。フレンチトーストを用意しましたが、良かったですか?」
この甘い香りは、トーストのせいか。
「ああ、好きだ」
カリスの手で席に促される。私はアールが料理を並べるのをそのまま眺めていた。
出来立てのフレンチトーストに、バニラアイスが乗っている。
他にもスクランブルエッグにベーコンとほうれん草が細かく入っているし。
サラダは具沢山のポテトサラダ。
妙に手が込んでいる。
「豪勢だな」
「お客様がいますから」
口元に人差し指を持っていって、アールは悪戯な笑みを浮かべた。
「いつもはもっと質素ですよ」
「そっちの料理も見てみたいものだ」
一笑いして、私達は旨い朝食を口に運ぶ。
「ああ、リンレイ。あなたに渡す物があるんです」
「渡す、もの?」
思わず、食事をする手が止まってしまった。
「ええ、驚きますよ?」
「驚く?」
「あごが外れるくらいに」
今度がカリスが口を開いた。
あごが、外れる……くらいに、か……?
一体、何が起きるんだ?
美味しいはずの朝食が、何処か遠くへいってしまった気がした。
「…………なるほど、な……」
朝食を終えた私は、問題のソレと対面していた。
「で、これは何だ?」
改めて見よう。
コルセットだ。明らかに、あの貴族がウエストを細く見せるために作った、あのコルセット。それに、ブーツのような、レッグギアというのだろうか。そんなものがベルトのようなもので繋がれている。
もう一度言おう。
「で、これは何だ?」
「リンレイ専用オペレーションシステム」
「略して、リンレイOSですね」
「真面目に答えろ」
ぎろりと私は二人を睨みつける。アールは降参と言わんばかりに両手を挙げた。
「まあ、まずは先に着けてもらいましょうか」
「いや、その前にもっと言うことが……」
と言いかけたとき。
「ですね」
問答無用でカリスが私を抱き上げて。
「ちょっ!?」
近くにあったベッドに横倒し。
「おいっ!?」
「あ、こっちの壁見てますね」
背中を向けるアール。ちょっとほっとしたが……いや、今はそれどころでは!
「うわっ!!」
脱がされた。下半身、脱がされた(ショーツ以外)!!
しかも、上もコルセットをつけるところを上に捲られて、肌に着けて……。
ばちっ!!
「なっ」
思わず顔を歪める。
「一瞬だけですから」
カリスの言う通り、痛みはその一瞬だけだった。気がつけば、私の足と胴体にはコルセットと、レッグギアが装着された。その上に服を着せると、若干、違和感を感じるが、それほどでもないように思う。
「一体コレは何なんだっ!」
がばりと立ち上がり、アールに言い寄る。
「大体、説明もなしに痛みのあるものを無理やりつけるとはどういう……」
「良い感じですね」
「はあ?」
アールはにこにこと、指摘した。
「良い感じに、『立って』いますよ。リンレイ」
「何を言ってる……!!!」
立っている。
もう立てないはずの私が、二本の足で、立っていた。
「そのために用意したんですよ。またあの追っ手が来たとき、車椅子だと対応しきれなくなりますからね」
「こ、これ……」
レッグギアを指差す手が、震えた。
「まあ、差し詰め、リンレイ専用スタンディングシステム。略してリンレイ用SSって所ですかね?」
くるりと回ってみせる。ジャンプしてみせる。
できた。もう出来ないと思っていたものが、今なら、できる!
「じい! みてみ……」
思わず出た言葉に、アールは僅かに苦笑を浮かべたが。
「後で戻ったときに見せてあげましょう。きっと喜びますよ」
「あ、ああ……」
なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
さっきまでの興奮が、あっという間に冷めてしまった。そんな気分だった。
「そうそう、もうワープアウトしていますよ」
アールが口を開いた。
「どこに着いたんだ?」
話題を変えてくれたことに感謝しつつ、私はその話に乗った。
「ラスベルリッタです。丁度、目的地から中間地点の距離にある惑星ですよ。農業と観光で栄えてる街で、ちょっと補給をしに降ります」
「補給は大事だからな」
この大きさだから、エネルギーもかなり喰うのだろう。
「それにもう一つ朗報があります」
ずっと黙っていたカリスも、話に加わる。
「お祭りが開かれているそうですよ。屋台とか出ていて、とても賑わっています」
アールは嬉しそうな笑みで、床を指差した。
「一緒に降りませんか? 補給が終わるまで、少し楽しみついでに」
冷めた興奮が、戻ってきたかのように、頬が熱くなって来る。
「ああ、行くぞっ! 絶対だっ!!」
「じゃあ、30分後に」
「任せろ!」
私は急いで部屋に戻って、すぐさま必要なものを用意する。
その間、足が動くことに、車椅子がない事に、私は全く気づいていなかった。
実際のところ、麻痺していた期間はほんの数年。動けた期間よりも短いのだ。
だからだろうか、動ける時の事を思い出したかのように、ギアをまとった足は心地よく動いてくれた。
そう、まるで——自分の足を動かしているような、自然な感覚で。
準備を終えたアールと合流し、私達はラスベルリッタへ降りる。
ちなみにカリスは、残念ながら留守番だった。
- Re: アール・ブレイド ( No.7 )
- 日時: 2012/08/05 15:35
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第5話 ◆ラスベルリッタのフィスティバル
「ようこそ、ラスベルリッタへ!!」
最初に渡されたのは、色とりどりの花の首飾りだった。
「女性にはそれが渡されるんですよ」
ミラーシェードをつけたアールがそう教えてくれたが、いまいち理解できずにいた。
そういえばと、私は思う。
お祭りと言う行事には、参加してきていなかったように思う。
ただ、遠巻きで楽しげな声を聞いていただけだった。
そう、こうして参加するのは、実はこれが初めてだった。
「似合うか?」
隣に居るアールに尋ねてみる。
「ええ、とっても似合いますよ。リンレイ」
そういわれると、少し嬉しくなる。
船から下りて、通りを歩く。賑やかな声がどんどん近づいていく。
そして、広場に出た。
とたんに、舞い散るのは花吹雪……いや、紙吹雪だろうか?
どちらでもかまわない。
遠くではクラッカーの破裂する音まで聞こえた。
それだけではない。
何処かで、楽器が演奏されているらしく、明るく元気な曲が流れていた。思わず踊ってしまいそうな、そんな魔力を秘めた曲が。
「はぐれないよう、気をつけて」
アールはそう言って、私の手を握ってくれた。
「あ、ああ」
広場では人でごった返していた。この人波に呑まれたら、出るのも一苦労だろう。
そうならなかったのは、アールが導いてくれたお陰だ。
なんだか、目が回りそうだ。
「何か食べませんか?」
「あ、ああ」
アールに促されて、やってきたのは、香ばしい香りに包まれた屋台だった。
「あら、アールじゃない!」
「ご無沙汰してます、アンナ」
「あらあら、そっちはアールのこれかい?」
にやにやしながら、屋台の女将のアンナが小指を立てる。
「なっ!!」
「違いますよ、私のお客様です。このお祭りを案内してるんですよ」
私の否定の声を聞いてか、アールはそう付け加えてくれた。
「あらそうなの。残念ねぇ。でもまあ、アールのお客様ってことだから、これはオマケしてあげるわ」
そういって渡されたのは、出来立てホヤホヤのホットドック。湯気の立つウインナーに慣れた手つきでケチャップをリズミカルに程よく付けてくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
受け取ったホットドックをさっそく頬張る。美味い……。
思わず、じいの姿を探してしまったが、ここに居ないことを、とても残念に思う。
今度あったときに、話してやろう。出来立てのホットドックがどれだけ美味しかったかを。
「すみませんね、サービスしてもらって」
アールがお金を払おうとしていたが。
「いいんだよ、前に助けてくれたお礼だからね。それにしても……あんた、今日は祭りなんだから、もっと気楽な格好できなかったのかい?」
アンナは、黒一色に包まれたアールの服装を指差して、ため息をついた。
「これでも仕事中ですから」
そういって、次の店へ。
「おう、アール!! 来てたのか!! 久し振りだな!!」
髭を蓄えた親父に声をかけられた。
「元気で何よりです、リベックさん」
「今日はゆっくりできるんだろ?」
「いえ、補給でちょっと、立ち寄っただけなんです」
「それは残念だな。酒の相手をしてもらいたかったんだが」
そういうリベックに、アールは嬉しそうにけれど残念そうに。
「また来ますから、そのときにでも」
「おう! 約束だぞ!!」
どうやら、アールはこの街で良い仕事をしたようだ。
彼と共に歩いていると、いろんなところから声がかかり、いろんなものを貰っていった。持てない分は船に運んでくれさえした。
食べ歩いたり、ゲームをしたり、道端での芸人達の技や芸を見て騒いだり。
何もかもが初めてで、新鮮で、面白かった。
ちょっと目眩がしそうになったが、それを引いても、楽しさが上だった。
「有名なんだな」
「ちょっとだけ、皆さんを助けただけなんですけどね」
きっとこんなに声をかけられるのなら、本当に良い事をしたのだろう。
初めて会ったときは、凄い殺気を出していたが、今はそんなもの、微塵も感じない。
街の人達にもみくちゃにされながらも、祭りを楽しむ一人であった。
そして、私も彼のオマケとして、大いに祭りを楽しんでいた。
なにより、街の人達の好意が、暖かい。
「こういうのも、いいものだな……」
「ええ、いいものですよ」
ベンチを見つけ、二人はそこに腰をかける。
「それにこの街は、私の住んでいる街にも似ているんです。だから、ちょっとやり過ぎた部分もあるんですけどね」
そういって、苦笑を浮かべるアールが眩しく見えた。
「やり過ぎた? そんな風には見えないぞ。むしろ、凄いことをしたように思うんだが」
「リンレイ……」
ミラーシェードの奥で瞳を細めるアールに、私は堪らず立ち上がる。
「こ、今度はあっちの屋台に行くぞ!」
「いいですよ、姫様」
そういって、おどけるアールの言葉に、少しむかついた。
どのくらい楽しんだだろう。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
流石にはしゃぎ過ぎたかもしれない。少し疲れてきた。アールも良いタイミングで声をかけるものだと感心した、その時だった。
「あ、あれはっ!!」
「居たぞっ!! アールだっ!!」
見たことの無い男が5、6人束になって、こっちに向かって走ってきた。
その手には、銃やライトソードを持って。
「なんで敵がもう追いついているんだ! 特別なワープをしたんじゃなかったのか?」
「ええ、しましたよ。ですが……まあ、この星にはプラネットゲートがありますから、きっと感づいて追いついてきたんでしょうね。向こうも優秀なようです」
そう言って、アールは荒くれ者達とは反対方向へと私を引っ張った。
「そんなこと、言ってる場合か!?」
逃げながらも思わず、私は叫ぶ。
きっと、あの男達は、前に追っかけてきた奴らの仲間だ。
懸命に走る。その脇を銃の光線が掠めていく。
と、足が縺れた。
どちらかというと、足の疲れが限界に達したからに他ならない。
「リンレイ!」
「あうっ!!」
撃たれたのは、レッグギア部分。幸いにもギアが頑丈だったからか、壊れたのは外装のみで、その下までは貫通していなかった。衝撃はあったが、痛みはない。
しかし……。
「くそっ……」
お陰で立ち上がれなくなっていた。さっきまで歩けれた力が、全く無くなった、そんな感じだ。恐らく動力の接続部をやられたのだろう。アールはそれを見て、すぐさま私を抱きかかえた。
「アールっ!?」
俗に言うお姫様だっこというやつだ。
「いいから、捕まって。一気に駆け抜けるっ!」
少しアールの体が沈んだかと思うと、先ほどとは比べ物にならないくらいの高速で走り出した。
「ちょ、アールっ!」
「今はリンレイを守ることが先ですから」
それは嬉しいのだが、けれど、抱きかかえてやり過ごせる相手なのか?
ほら、今度は目の前の通路から、敵が現われた!!
「逃しはしない!!」
「ここで、二人とも死ね!!」
トンファーと折りたたんだ警棒を構えた男達が立ちはだかる。後ろにも、銃を持った男達が迫る。
挟み込まれた!
絶体絶命だ!!