ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.36 )
- 日時: 2020/08/15 19:58
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 37
昨今は都会化が進むに連れて本来の温泉地の情緒が、やや失われたのか不景気の煽りもあり客足は遠のき、最近は閉鎖されたホテルや旅館が寂しく灯火が消えて昔の華やかさを偲ぶように、今もそのまま暗い影を残している。熱海に沢山の神社や祭りがあるが、その中でも湯前神社は熱海を発展させるに欠かせない神社だ。
四代将軍家綱の頃(十七世紀後半)から、毎年数回お湯を江戸城に送るようになり、昼夜急ぎで将軍の浴場へ運ばれたそうだ。その行事を偲び毎年二月十日と十月十日、同神社で江戸絵巻のような献湯祭が行われている。遠い昔から熱海は江戸から昭和へと親しまれて来た温泉地である。
その湯前神社に近い所にその松ノ木旅館はあった。アキラの車を見た宮寛一と妻と子らしき人物が旅館の前で出迎えた。
「やぁ山城さん。お疲れさまでした」
通された場所は旅館とは離れになっており、個人宅になっていた。四十才過ぎの奥方であろうか、にこやかに挨拶してくれた。
「この度は多大な御融資を戴きまして、なんてお礼を申し上げて良いやら主人も生き返ったように元気が出て、ホッとしております」
その隣に居た中学生くらいの男と女の子が座って挨拶してくれた。アキラにとっても新天地、期待にワクワクしていた。松の木旅館の部屋数は十五部屋、旅館にしては、まぁまぁと言った処かしかしアキラが、この旅館に着いたのは夕方の五時だった。客が宿泊に到着する時間帯の割には活気が感じられない。
平日とはいえ、部屋が埋まったのは三部屋で八人の泊り客だけ。松の木旅館は板前さんが四人と仲居さんが六人。雑用係り兼、送迎運転手一人。それに宮寛一と女将、計十三人で構成されていた。これでは素人でも赤字になるのは分る。人件費だけで赤字の状況だ。しかし、こんな暇な旅館に来てアキラは何をしようと言うのか。
アキラの当分の住まいとして、旅館にある十五室ある内の一部屋がアキラの為に宮寛一が提供してくれた。
本来なら旅館の商品で金を稼ぎ出してくれる宝物の一室だが、なにせこの一年満室になった事は一度もないと言うからアキラも遠慮なく使わせてもらう事にした。なにかアキラはシックリと来ない。本来ならそうあって欲しくないものだが。どうやら宮家の人はアキラを客人扱いで何かと気を使ってくれた。取り敢えず今夜はその行為に甘える事にした。
翌日にアキラは宮に自分の仕事を申し出たが、宮は。
「山城さん気持が有り難いのですが、なにせこの有様で、もっと沢山のお客さんが来てくだされば、お願い出来るのですが」
「まぁそうだなぁ、あっ待てよ……俺の知り合いに来てもらおうか」
「えっそれは有り難いですが」
「別になにか問題でもある? 一人でも多く泊まってもらおうよ」
とっアキラの単純な閃きで早速アキラは旅館の電話を借りて片っ端から電話を掛ける事にした。まず一番手は真田小次郎にだった。
「あーとっつぁん俺だ。元気かぁ、どうだ。熱海に遊び来いよ」
「アキラか元気も何もこの間逢ったばかりじゃないか」
「どうだい忘年会で易者の集まりで盛り上がっては」
「なに? 忘年会。まだ春が過ぎたばかりだろうか」
「へっへへ、それなら同窓会とか易者会とあるだろう
「なんでぇアキラ早速客引きかぁ、まぁ考えて置くよ」
そして次に掛けたのはなんと、あの高知のヤクザの所だった。
(おいおいアキラ 誰でもいいのかぁ)
気が付けばもう高知に電話していた。
「久し振りです。山城旭と申しますが、そちらにお世話になって居る松野早紀さんは元気でしょうか」
「なにっ山城? 何処の組の者だ」
普通なら此処で怖気づく所だがそこはアキラ、身の程知らずだ。
「オイオイ兄さん俺は組のもんじゃないぜ。そちらに世話になっている姉さんをお宅に連れてった者だよ。覚えてないかい。チトばっかり背がデカイ奴だよ」
「……? あっ思い出した。あの兄さんか、どうも失礼しやした。ちょいお待ちを」
「あっあたし早紀よ。山城さん元気? おかげで当分、愛子の所で世話になる事にしたのよ」
「そうかい、それは何よりです。今ね熱海の旅館で世話になっていて。なにせ不景気風に吹かれて旅館も大変なんですよ。もし宴会の予定でもあればと、まぁ其処は遠いから無理とは思うが元気な声を聞くついでに電話入れたんです」
「まぁそれはいいわねぇ、愛子に話しておくわ。色々あったけど山城さんとの旅は楽しかったわよ。愛子に話したら是非とも竜馬隊に入れたいと言ってたわよ。どう山城さん真面目に考えてみない」
なんと今度は逆スカウトの話だ。ヤクザの世界ならアキラもきっと出世するかも
「へへっそれは有り難いけど、まだお袋を泣かせたくないもので」
「ハッハッハ冗談よ。でも貴方が居たら百人力なんだけどね」
「でも松野さんに困った事あったら飛んで行くから。じゃ隊長によろしく」
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.37 )
- 日時: 2020/08/17 19:36
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 38
どうもアキラの性格らしい少しでも自分と関わった人間を助ける所は。それから数件アキラきは思い当たる所へ電話し続けた。翌日も知人や学生時代の友人に電話した。なにせ暇な旅館だ。自分の働き場所がアキラは欲しかった。このままでは金を貸した事をいい事に、ただの居候にすぎない。
アキラは恩着せがましい事は大嫌いだ。体形と顔に似合わず、その点はいい男だ。アキラは宮寛一にある事を申し出た。それはお客さんの駅までの送り迎え。観光地の駅で見かける旗を持って客引きするアレだ。宮は申し訳ないと遠慮したが強引に承諾させるのだった。
翌日、熱海の駅前に大柄で、いかめしい顔の男が松の木旅館の旗を持って立っていた。
ゴツイ顔を恵比須顔に変えて? それでもアキラなりに一生懸命だった。なんと言っても一際目立ち百九十八センチの巨体は目を引く。アキラのその表情は、他人から見ればコッケイそのものだが。しかし、そう簡単に客は取れない。それでもめげずに午後二時を廻った頃、若い二人連れの女性に声を掛けられた。
「ねえねえ、おじさん。お部屋空いている?」
と、まだ二十六才なのに、おじさんにされた? なんと言われようが、お客様は神様。せいいっぱいの笑顔を作って。
「ハイハイお客様の為に特別室を空けて置きました」
その若い客二人はキャッキャッと喜んだ。アキラの下手なジョークに笑って泊まる事になった。
(素人は怖いもの知らずだねぇ、アキラ初めて外交戦略に成功せり)
しかし、それだけではなかった。そんなアキラの冗談が受けて中年夫婦がぜひ泊めてくれと願いでた。アキラは感謝感激だった。早速に松の木旅館に電話を入れる。
「ああ女将さん今からお二人さんを二組ご案内しますので部屋の準備お願いします」
「えっ? そっそうですか。ハッハイすぐご用意します。アキラさんありがとう」
暫く女将の声がそのまま途絶えた。驚きとアキラのその努力に女将は心が熱くなった。
不景気にしっかり暗くなっていた宮夫妻だったのに。
そして、いくら金を融資してくれた恩人とは言え人柄まで分らなかった。例え長く居候しようとも我慢するしかないと、心に決めたいたのだったが、それがゴリラとも思える大男に怖そうな感じの男だ。夫はヤクザの高利貸しから金を借りたのではないかと、内心穏やかじゃなかったのが本心だ。
しかし外見とは裏腹に、ここ数日でアキラの優しさに女将は涙するのだった。
松の木旅館のマークの入った送迎車が旅館の前に到着した。旅館の従業員が女将をはじめ総出で玄関の前に整列していた。
「お疲れ様です。お客様ようこそ松の木旅館へ只今お部屋へご案内します」
みんなは、なんだか活気づいて見えた。久しぶりに笑顔が揃った日だった。その深夜アキラと宮寛一と女将が三人でなにやら話し込んでいた。
「もう今日は驚いたわ。アキラさんに私達に欠けていたものを教わったわ」
なぜか、山城さんからアキラさんに呼び名が変わっていた。それはもう女将がアキラのことを信頼した何よりの証であった。
「俺も山城さん、いやアキラさんと呼んでいいかな。久しぶりに活気のある松ノ木旅館でしたよ。板前さん仲居さんも明るかった。なんたって今日は十三部屋も埋まったし、半数以上がアキラさんのお陰です。もうなんて言っていいか」
ついに主人の宮まで涙ぐんでしまった。
「ヘヘッそんなに褒められては照れるなぁ宮さん。俺はズブの素人だからね。それに事情を知らない板前さんや、仲居さんに嫌われたくないし、俺が少しでも役に立てれば皆さんにも受け入れて貰えると思ってね。それと……俺が純粋に旅館で働いて見たかった。でも宮さんや女将さんに気を使われては困るんだ。金の事は気にしないで欲しい。監視役見たいに思われたくないんだ」
アキラの気遣いに宮夫妻は改めてアキラの優しさに触れた。外見とはまったく別人のアキラだった。だが一旦キレたら、これまた別人である? まさに二重人格的な人アキラであった。こればっかりは簡単に直らないだろう。アキラの思いがけない手助けで松の木旅館も、やや持ち直して早半年以上が過ぎあっと言う間の正月だ。
アキラは会社勤めしている時は正月休みはあったが、ここ熱海はいわば稼ぎ時だ。しかし思った程に泊り客は少なかった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.38 )
- 日時: 2020/08/20 20:57
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 39
そうそういつもアキラの客引き作戦がうまく行く訳がない。正月も過ぎて、やっと従業員達の正月休みが与えられた。正月明けの、この時期はどうあがいても客足は伸びない時期だからだ。久し振りにアキラも東京に帰京する事にした。美代ちゃんに逢いに?
愛しの浅田美代との再開である。なんとアキラ今日はビシッと決めて来た。
またいつものレストラン。来た! その美代ちゃん見事な振袖姿で登場だ。
その振袖姿を見たアキラは、見惚れてだらしなくポカ〜ンと口を空けて、今にもヨダレが口元から零れそうなアキラ。もうなんと締まりのない顔していたが、 フ〜と我に返った。
「山城さん。おめでとうございます。どうかなされましたの?」
しっかりと、だらしない格好を見られてしまったようだ。
「あっいや……浅田さんの振袖姿に、つい見とれてしまってハッハハ」
「またぁ、山城さんがお世辞を言うなんて」
アキラはお世辞なんか言える柄じゃないのだが分かって言っている美代だが。その美代も実は照れくさかったようだ。
「浅田さん正月はいつも振袖なのですか。しかし綺麗だなぁ」
これもお世辞ではないが、アキラはありのまま言っただけった。
「もう、それは褒め過ぎですわ。振袖がきれいなのでしょ?」
「いや振袖を着た浅田さんが綺麗なんです」
(あ〜ぁ、この二人いつまでも勝手にやってろよっ)
とっまぁ二人は熱い恋の炎が燃えている事は確かであろう。食事を終えて二人はその後、後楽園ホールに向かった。後楽園ホールの隣には野球のメッカの東京ドームがあり、その他に場外馬券場、後楽園遊園地、東京ドーム、ホテルなどがある。
ホールは体育館のような感じだ。ボクシングのメッカである少し狭いが三千人前後が収容出来る。世界タイトルマッチもやった事があり、新人王戦なども行われる。
にせ格闘技好きのアキラの事、そんな話題を出したら止まらない。美代も興味を惹かれて一度見たいと言い始めたのである。どちらかと言えば和服が似合う、しとやかな女性と思われたが美代の意外な一面を見せられたような気がしたアキラだった。
興味と怖さを同時に味わった美代はしっかり堪能したようだ。その後、アキラと美代は近くの店で軽く飲んで、いい雰囲気なのに馬鹿真面目なアキラは夜遅くなるといけないと誘う事もなく別れた。
それがアキラの人が良いのか、オクテなのか気付かないのかは不明だが。恋愛とは名前の如し、恋して愛する事だ。付き合ってすぐホテルに行くカップルも昨今は珍しい事ではないが本当に愛するなら、その恋人を大事にしたい気持ちがあるなら簡単にホテルに誘うなんて出来はしないと思う。綺麗な花は摘み取ってはいけない。眺めているの一番だと。愛の形とは、己の感情よりも相手の感情を優先するものであり決して見返りを求めるものではない、常に相手に奉仕するのみ、愛の形は違うが自分の子供に愛を注ぐのは当然の事であり、子供に愛の報酬を求めて育てる親はいない。
子供が大きくなり、その子供が親孝行するのが愛ではないだろうか。恋愛とて同じこと、愛して愛される。そのバランスを崩してはならない。
翌日に一番の気が許せる真田小次郎とまた安酒を飲んでいた。
「どうだいアキラ。旅館の方は馴れたかね。若い内はなんでも勉強だよ」
さすが元、学校の先生らしい一面を見せた。
「まぁな、でも意外と面白いよ。面白いんだが商売となれば、こりゃあまた別問題なんだけど、やっぱり全体的に世の中、景気が悪いのかな」
「おっそうだ。今度な易者仲間で新年会をやろうって事になって折角だから熱海に一泊してする予定なんだが、どっかないか?」
「ヘッヘヘとっつぁん。どっかないかはないだろうがコノ〜」
「まぁそう言う事だ。平日だけど頼むぜ」
「よっしゃあ! 平日なら願ってもない。でっ何人なんだ」
「まぁざっと二十人くらいになるかなぁ」
「へぇそんなに居るんだ。随分と居るもんだなぁ」
「まぁな、なんたって不景気になれば逆に将来が不安な人が多いからな」
「流石はとっつぁん。恩にきるぜ。これでまた喜んで貰える」
「しかしアキラも随分と熱心だなぁ、なんで其処まで頑張るんだ」
「まぁな、色々と訳があって旅館の大将に頑張ってもらわないとホラッ売上が伸びると俺の給料も上がるだろうよ」
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.39 )
- 日時: 2020/08/21 20:12
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 40
とかなんとか言って細かい事情は、はぐらかしたが金を返して貰うのが目的ではなく宮寛一に旅館を盛り上げて欲しい気持ちだけだった。どうやらアキラはリスクの高い投資だが夢を買ったようだ。アキラのそんな思いが、付き合って行く人に好感を与える。
人は外見だけでは判断できないものと改めて感じた真田だった。
それにしても不思議な男アキラ、真田は何度か聞きたかったがアキラが必死に何かを隠している。ひょっとしたら大金持ちのボンボンなのか?
決して悪い事をするような人間ではないのは分かっていたが。真田は本当に息子のように思えてならない。だからいつの間にか下の名前でアキラと呼ぶようになったアキラの為に何かをして上げたいと感じる真田だった。
それが今回、熱海の一泊予定の易者仲間を集めての新年会だった。真田も新年会やるにあたっての苦労があった。、片っ端から電話をかけまくって知人などにも協力を仰ぎ、最初は仲間内でも、こんな話が飛ぶ。
「なんで熱海なんだ。遠く迄行ってやらなければならんのか」
と不思議がられたが、一人の若者を喜ばせたいと素直に頼み込んだ。そんな真田の努力の結果が生んだアキラへのプレゼントだった。
遅い正月休みを終えたアキラは宮と女将の喜ぶ顔を目に浮かべて松の木旅館に帰ってきた。交代で正月休みを従業員が取ったが、まだ二人ばかりは休暇で仕事には着いてはいなかった。それでも正月が終ってから訪れる観光客は少なく、旅館もひっそりと、いつもの不景気風が吹き荒れていた。
「ただいまぁ女将さん! おみやげ買って来たよ。といっても東京土産なんて特にないけど、雷おこしだけど皆さんで食べてくださいよ」
「あっアキラさんお帰りなさぁい。ゆっくり出来ましたか?」
「ええまぁ、毎日飲んでばかりですが、身体に良くないっすよねぇヘッヘヘ」
そこに宮夫妻の子供、信二と舞子が「お兄ちゃんおめでとう」と挨拶してくれた。
「おう信二に舞子ちゃん、いい土産買って来たぞ。二人で一台だ。悪いがな」
なんとそれはノートパソコンだった。二人の兄妹は手放しで喜んだ。最近の中学生でもパソコンも使う時代になったようだ。
「えっうそぉ〜それパソコンじゃないの? 凄いそんな高いのくれるの」
驚いたのは子供ばかりじゃなかった女将の貞子も驚いてしまって嬉しさは元より申し訳なそうに何度も頭を下げて、子供のはしゃぐ姿を見てまたまた涙ぐんでしまったのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.40 )
- 日時: 2020/08/23 09:35
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 41
「あれ? 宮さんはお出かけですか」
「えぇ旅館組合の会合です。なにせ今は正月明けで暇ですからね」
「あっそうそう他に土産があるんですが、土産と言っても物じゃないんですがね。来週月曜日二十名の団体客の予定入れて大丈夫ですか」
「えっ二十名様の団体さんですか! まぁアキラさんの知り合いの方?」
「まぁちょっと変った客で東京の易者の団体なんですけどね」
「アキラさんって易者さんとも知り合いの方がいらっしゃるのね」
「それが、ひょんな事から意気投合しまして、父親に近い年の人ですけど、まぁ飲み仲間ですが」
そしてその月曜日がやって来た。最低でも五部屋が埋まる事になるのだが。
正月から二週間経っていた。空気は冷たいが熱海港は日差しが海に注ぎキラキラと輝いていた、穏やかな新春の晴れ間であった。午後三時過ぎ易者一行は熱海駅に到着した。
予め駅に到着したら知らせる事になっていた。アキラと宮寛一が送迎車二台で駅に迎いに出た。
すると駅の改札口から中年の男性達がゾロゾロと出て来た。易者集団やはり他の乗客達と雰囲気が違い、怪しげな集団に見える。しかしアキラから見ればみんな友人に見えた。
「とっっぁん、お疲れ。皆さんようこそ熱海へお待ちしていましたよ」
アキラは、にこやかに易者一行に挨拶し、宮も同様に恵比寿顔で応えた。
「よ〜アキラ世話になるぞ、みんな楽しみにしているからな頼むよ」
「おう、任せてくれ出血大サービスするからよ。へへっ」
「なんでぇ、それじゃパチンコ屋じゃないかハッハハ」
「どうです皆さん。まだ時間も早いし観光案内させて戴きますよ」
アキラのその言葉に一行から拍手が沸きあがった。
「よっ兄さんサービーがいいなぁ、小次郎さん息子が出来たって喜んでいたぜ」
「へっへへ出来の悪い息子ですが、てもねぇこのとっつぁんが父じゃ仕方ないでしょう」
一向はアキラの軽口に大笑いした。易者一行はアキラと小次郎の関係をよく聞いているらしい。
「へへっまぁそんな処です。とっつぁんより息子の方が威張っていますがね」
「話には聞いていたけどアンタは本当にデッカイねぇ頼もしいなぁ」
そんな会話を続けながら易者一行は、松の木旅館に到着した。
「ほう落ち着いたいい所だ。俺達には合っているよ。なぁみんな」
易者の人たちは五十後半から六十代と年配の人ばかりでホテルタイプより和式形式の旅館を好む人が多かった。その点では松の木旅館はうってつけだ。
旅館の受ける方も正月明け最高に活気付いて、板前も仲居も女将さんも大忙しだ。やはり活気があってこそ旅館は盛り上がる。この忙しさを宮夫婦は、さぞ心地良く汗を流しているだろう。そしてアキラと言う福の神に毎度、感謝するのみであった。
そんな旅館のあわただしさを後に、アキラは熱海城や熱海の名所案内をして易者一行を楽しませていた。アキラもまた真田小次郎が斡旋した易者仲間に喜んで貰わなければ、真田の顔を立てなくてはと一生懸命だった。
易者一行は大男でゴツイ顔とは裏腹に冗談を交えて巧みにガイド務めていた
意外とアキラは客商売が向いているのでは自分自身も感じはじめて居た。結局アキラの珍道中の旅も決して無駄ではなかった事になる。だから今の生き生きとした今のアキラの存在があるのだから。その副産物として松野早紀や竜馬隊の隊長、坂本愛子等もいるが。
まぁ竜馬隊は任侠道の昔ながらのヤクザだ。あんまり収穫と言えるかどうかいずれ、その収穫? と再会する事になるのだが、それはもう少し先の話。
かくして易者一行は宴会の時間の一時間前に旅館に戻って来た。これから多分、楽しみの一風呂浴びてから宴会という事になる。特に日本人は、このパターンが大好きだ。
アキラは旅館の中での仕事はない。アキラは易者一行のサービス係りを務めた。その夜は女将の気配りで一段と豪華な料理が並んだ。それも易者一行が喜ぶものばかりズラリと並んでいた。それもその筈アキラが熱海の観光案内している間に、さり気なく好物を聞いて女将に電話を入れてあった。連携プレイの賜物であった。
その至れり尽くせりの松の木旅館やアキラのサービスぶりに一行は、こう言った。
「いゃあ俺も結構旅行しているけど、こんなサービス受けたの初めてだ。どうも食べ物の好物聞くのかと不思議だったがアンタが気配りしたんだな」
アキラの方を見て、その男は嬉しそうにアキラに会釈して笑った。
真田小次郎も喜んだ。いい旅館でサービスも良く最高だと、みんなから感謝されたらしい。
つづく
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