ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.21 )
- 日時: 2020/07/30 18:15
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 22
二人は名古屋名物のキシメン専門店に入った。しかし、しかし目線を合わせる事もなく二人は食べ終わった。あのホテルでの騒動からは考えられない程、別人に見えた。
何か物思いに更けて過去を思い出しているのであろうか。気性の荒い女であることは間違いないようだが。アキラが支払いを済ませている間に早紀はアキラの車の方に向かっていた。そこに突然、早紀の前に黒いベンツが急停車して男が三人出て来た。
「姉さん、探しましたぜぇ」
アキラは支払いを済ませて出てきたが見た光景に唖然とした。
「なんなんだ、こいつらは?」
どうも見ても堅気には見えない。多分ヤクザだろう。
早紀の顔色が真っ青になっている。恐れていたものがやって来たかのように。
アキラの姿を見た早紀は、アキラの後ろにサァーと隠れた。
こんどは驚いたのは三人の男の方だった。突然ゴリラが現れたから、いやいや百九十八センチの巨体が現れたからだ。
「おっなんだ? テメェ姉さんのなんだぁ」
「姉さん? じゃあアンタは弟か」
「ふ、ふざけた事を言ってんじゃないぜ兄さん」
「兄さん? 俺には弟なんかいないぜ!」
相手は三人、しかもヤクザと思われる怖い男達にアキラは一歩も引かない。
人相の悪い男達を怖がるどころか逆に、おちょくるアキラを無視して早紀に語りかける。
「この馬鹿と話しても無駄だ。姉さん帰りましょうや、組長が心配しておりますぜ」
「じょ冗談じゃないわ。帰ったら殺されるに決まっているんじゃないのよ」
穏やかじゃない言葉が飛び出した。どうやら危険な匂いがプンプンする。
今度はアキラに向って男は吠えた。三人いるから有利と見て威勢がいい。
「でっ、オマエかぁ姉さんを連れ出した色男は」
「なんだぁ〜? そんなに俺は色男かぁ、まぁそうかもな。やっと俺の魅力が分かったらしい」
アキラの冗談とも本気とも取れる言葉に三人の男は、おちょくられた事を知った。
「ふざけんじゃねぇ!!」
いきなり一人の男がナイフを取り出した。
「オイ! てめえらっ俺を本気で怒らせるんじゃないぜ、何があったか知らんが俺様に刃物を向けやがって刺せるもんなら、やってみな!」
「何を言ってやがる。オメィが少しデッカイからって甘くみてじゃないぜ!」
互いに啖呵を切った男のメンツに掛けても後に引けない。アキラは元々ケンカには強かったが、短期間とはいえ空手を身に付け更にパワーアップしたのだ。
とっ! 男が本当にナイフを持って突っ込んで来た。
「野郎!!」
ナイフがアキラの腹まで五十センチと迫った。だがナイフ持った男の手がそこで止まった。その手前でアキラの長い手が男の頭を押さえつけた。その猛獣のような手が頭骸骨を片手の指で締め付ける。
「ガァ〜〜」
男が悲鳴をあげる。物凄いアキラの指の握力だ。次の瞬間に長い足が男の顔面を蹴りあげた。男は三メーターも吹っ飛んだ。残った二人はアキラの迫力に臆したか二、三歩後ずさりする。完全に頭に血がのぼったアキラは二人の男を捕まえた。
捕まえかたが普通じゃない。片方ずつ先ほどの男と同じように頭蓋骨を押さえ付けて、同時に二つの頭を強引に衝突させた。ゴツ〜〜鈍い音と共に二人は伸びてしまった。
先に蹴られた男が、どこか強打したのか呻き声を出していた。
もう完全に野生のゴリラと化したアキラは、とどまることを知らない
「テメィさっき言った事をもう一度、言ってみやがれ!」
また、その男の顔面をジャイアント馬場のような十六文キックを浴びせた。
※ちょっと此処で十六文キックの由来を説明しよう。
プロレスラーのジャイアント馬場がロサンゼルスで購入した靴に十六というラベルが貼ってあったことに由来。実際の馬場の足サイズは十六文(約三十八.四センチ)でも、十六インチ(約四十センチ)でもなく三十四センチだった。因みにアキラも足のサイズは三十四センチである※
あまりの破壊力に三人とも完全に気を失ってしまった。
先ほどまで怯えていた早紀が、悲鳴に近い声を発した。
「もうヤメテッ死んでしまうわ!」
尚も襲い掛かろうとしたアキラを必死になって止めた。これがアキラの野生ゴリラと言われる由縁である。恐るべし! 山城アキラ 怖くて冗談も言えない。これ以上ここに居ては警察に通報される恐れがある。アキラと早紀は気絶している三人を、そのまま残し車をスタートさせた。
「松野さん大丈夫ですか。あいつ等は松野さんの知り合いみたいだが訳を言って下さいよ。俺は刃物を出されちゃ黙っていられないでね」
まだアキラの怒りは収まってないようだ。身体は大きいけど、ホテルで見た気弱そうなアキラとは別人に見えた。車を急発進させた。アキラは、まだ苛立っていた
助手席に座っている早紀はアキラを見て怖さよりも男の逞しさを感じた。
早紀は知らないがこれで二回目だ。あの銀行強盗の時と同じだ。
アキラは浅田美代にケガをさせた事を未だに悔やんでいる。
ふっと頭に浅田美代のことが頭に浮かんだ。彼女どうしているかなぁ。
彼女の温情を踏みにじってしまって後悔している。
謝りたくても美代の電話番号も知らないし、職場に電話しては迷惑掛けるだけだ。そんな事を考えていたら助手席に座っている早紀が言った。
「あの〜〜本当に迷惑ばかりかけて御免なさい」
早紀が遠慮がちに言葉をかけた。
「いや、成り行きですから気にしないでください。それより事情を話してくれませんか、このままだと又、同じことが起きますよ」
「そっそうですね。先ほどの人達は主人の……組の人達で」
「組って? あのヤクザの組ですかぁ」
ほら見ろアキラ、やはり怪しい匂いプンプンしただろう。
早紀は組の話は出したくなかったらしいのだが。ネイさんとかアネサンと何度も呼ばれては察しが付いたろうと諦めてアキラに本当のことを話し気になったらしい。
「長崎で小さな組員二十人ほどの梵天(ぼんてん)組の組長が私の主人なんです。最初の頃は主人も優しかったけれど、最近では私に暴力ばかりで他に女を何人も作って、嫌になって逃げ出したんです。それで多分、組の人達を探しに来させたと思うのです」
驚きはしなかった。普通ならヤクザと聞いて関わりたくないと思うのだがアキラは組と喧嘩する気はないがチンピラ二−三人なら恐くもない。
「まぁ、そうかなと思ったけどね。でっこれからどうするのです」
「高知に友達がいるので其処にと考えていたけど、まさか組の人にこんなに早く見つけられると思ってなかったのよ」
どうもアキラは困っている人は、ほっとけない性格だ。特に女となれば尚更のこと、それに自分にはタップリ時間もある。
「じゃ松野さんは、どうしれば満足出来るのですか。俺がその願いを叶えてやりましょうか」
あ〜あ、アキラ本当にいいのかい知らんよ。ホントに。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.22 )
- 日時: 2020/07/31 17:53
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 23
アキラは三億円を手にして働く意味を見失っていた。平均年収六百万としても五十年間その間、働かなくても生活出来る計算だ。上司に文句を言われ熱が出ても我慢して働く、それになんの意味があると言うのか。それでは生きている意味がない。その答を探し為の旅でもあったのだが単細胞なアキラは暴走する旅となりつつあった。
「でも貴方には迷惑かけられない。それにあの人は凶暴だから危ないわ」
まぁそれはヤクザで優しくて、お人好しはいないだろうが。
アキラの怖さ知らずは天下一品だが、ちょっと無謀すぎるような。
「まぁね怖がっていたら何も先に進みませんよ」
「それはそうなのですけど」
早紀は言葉に詰まった。
「でっ、これから松野さんはどうするって言うのですか?」
「いっその事、あの人が届かない外国にでも逃げたい気持よ。でもそんなお金や知り合いも居ないし、もう無理ね」
「僕といつまでも一緒って言う訳にはいかないでしょう。何処か知り合いの人で、かくまってくれる友人はいないのですか、その高知の人とか」
「うーん、彼女にも迷惑掛けるし……」
「でも其処が一番いいんじゃないですか。そこへ行きましょうか」
早紀は考えていた。アキラにも迷惑が掛かるから分かっていても簡単に訪ねる訳には行かなかった。そこはアキラの早合点、勝手に自分で決めてしまう悪いクセがある。
「松野さん、他の方法がないんだから其処に行きましょう。万が一断られたら又、しばらく一緒に旅をしればいいんじゃないですか」
「でも……そうね。考えても仕方ないものね。じゃあ、お願いします」
「でっ友達って同級生とか?」
「まぁ同級生ではないけど、似た物同士の友人かな」
初めて早紀は笑った。かくて京都どころか四国の高知までの旅が始まるのだった。
「あのう〜〜もし急ぐのでしたら新幹線で行かれたらどうです」
ヤクザはどうでも良いが、いつまでも女性と一緒というの気が引ける。アキラの体に合わない初心の一面が見えた。アキラの良いところは正義感が強く人情に弱く女に優しい。
これで二枚目だったら女にモテっぱなしだったろうが残念でならない。
もっとアキラ自身は二枚目だと思っている、渋い二枚目だと?
他人から見れば、その渋さ加減が微妙に違うのだが。
車は名古屋を出てから二時間が経過していた。
アキラは時々サイドミラーで後方を確認する。ひょっとして尾行されている可能性もあるからだ。先ほど痛めつけた奴等もオメオメと組みに帰れないだろう。ヤクザはメンツを大事にする。相手に舐められてはヤクザとしてやって行けないからだ。昔みたいな任侠とも違う。最近のヤクザも、ただ腕と度胸だけではやっていけない。
れっきとした一流大学を出た人間も沢山いる。ハイテクヤクザなのである。
それに渋い二枚目で身なりや着こなしも一流が多い(誉めすぎ?)
コンピューターを操るのは常識、その人探しの捜査網は警察に匹敵するとか。
アキラもその世界の事は多少詳しい。大学に居た時の友人には二人ほどヤクザの組長の息子がいた。奴らは男らしいヤクザと言っても人間味のある者と、どうにもならないのが居る。一般社会と同じで、千差万別と言うことだ。その彼等にスカウトされた事もあった。ちょうど大学を中退する事になった時、良かったら俺のところに来ないか、と誘われた。体格と度胸を買われて、しかしそれでは、お袋が泣くだろうと止めたが。結局、早紀はアキラと車で行く事にした。車は四日市の辺りに差し掛かる。今日はここで宿をとることに決めた。
「松野さん、どうですか観光クルーザーに乗りませんか、気分スッキリしますよ」
「えっ? そうねぇいつまでも暗い顔していてはね。ハイお願いします」
海岸近くの駐車場に車を停めてクルーザーに乗った。なかなか快適だ。まだ新しい双胴クルーザーだ。船の底の両脇が突き出て真ん中が低くなって安定性が高い。早紀も笑みが零れた。アキラも海に出て気分が爽快になった。そしてアキラは思った。そうだクルーザーもいいなぁ。
オイオイ、アキラまさかクルーザー買うなんて事はないよね。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.23 )
- 日時: 2020/08/01 19:14
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 24
四日市市は祭りが多い事と、桜の名所でも有名だ。どんと祭り、狐の嫁入り道中。喧嘩祭りなど年中祭りがある。いっ時の海の匂いを楽しんだ二人は近くに海が見えるホテルを宿にした。だからと言って部屋は一緒じゃない。例え誘われても断るつもりの予定? アキラは二部屋を頼んだ。人助けにつけこんでは男がすたると思った。
アキラは大浴場で旅の疲れを癒していた。そんな時、浅田美代の顔が浮かんだ。
『俺って何やってんだろう。美代さんはどうしているだろうな。きっと黙って辞めたことに怒っているだろうなぁ』
アキラは風呂から上がって大食堂で早紀と一緒に食事をした。
早紀の浴衣姿がまぶしい。ビールを飲んだ後の早紀は、ほんのりと顔が赤い。
二人はそれぞれの部屋に戻った。アキラは明後日までには高知に着きたいと思っている。早紀を其処で降ろせば自分の役目が終ると考えていた。
そこへコンコン……コンコンとドアをノックする音が部屋に響く。けげんに思ったが昭はドアを開けた。先の姿がそこにあった。
「あっ松野さん、どうかしたのですか」
「えぇ、ちょっと心配で眠れなくて一緒に飲もうかと思って……」
アキラは心臓の鼓動が高くなった。いくら眠れなくても二人っきりの密室では。
「は、はぁ、そうですねぇ。それじゃ飲みましょうか」
アキラはドギマギしながら早紀を部屋の中に招き入れた。
二人はウエスキーの水割りを作って飲んだ。それから、たわいのない話が続く。
またまた早紀の顔が色っぽく赤くなって部屋がムンムンして来た。
「あたし……何だか酔った見たい」
ホラホラ怪しげな女の妖艶が? アキラ責任はとれるのかぁ。早紀の目が怪しい色に変わって来た。さすがに鈍いアキラでも雰囲気で分かる。据え膳食わぬは何とか、しかしアキラは男だ。男のメンツが立たぬ……が? メンツが立たなくても別なものが立ったらどうするのじゃアキラ。
「まっ松野さん……いや早紀さん。ぼっ僕は……あの〜〜その〜〜」
「ねぇ〜〜〜アキラちゃん私を介抱してくださるかしら」
(ちゃん)に変っている?
アキラは早紀の色気に翻弄された。酒に酔った勢いで……な〜〜あんて。
「さっ早紀さん。もっ勿論です。でもどうやって介抱すれば良いので?」
アキラは酔いと興奮で目がグルグルと回る。
「介抱って言ったら介抱でしょう」
早紀の甘い声が耳元に聞こえる。やがて静かになった。アキラは夢の世界へ招かれた。いや筈だったが。部屋に朝の日差しが差し込んでくる。しかしズキズキと頭が痛む。
アキラは目が覚めた。なんだかオデコに紙が張り付いている。それは一枚の紙に文字が書かれていた。
(バ〜〜カ 意気地なし)
つまりアキラは酔いと興奮で(御馳走)を目の前にして寝てしまった訳で。
その結果、早紀がアタックに失敗。無念のオデコへの張り紙だった。
アキラ敵前上陸失敗。直前にて沈没せり
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.24 )
- 日時: 2020/08/02 19:24
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 25
やがて四日市の怪しげな夜は、幻の如く平穏に終わった。朝食はバイキング式だった。早紀と顔があったが昨日の事など微塵もなかったように、「おはよう」と早紀。
まさに真夜中の顔と昼(朝)の顔は別の顔であった。何事もなく、何事もなく車は一路高知に向けて走り出した。アキラは四日市から高速道路に乗り入れた。
さすがに高速は早い。当初の目的地京都を通り過ぎた。本当はここで京都の秋を見物したかったのだが。でも車だと高知まで、あと一泊が必要だ。さて今夜は……
何故か、アキラは夜になるのが怖かった。早紀の夜の顔が怖いが嬉しい?
車は一気に京都を通過したが、そこから徐々に混みだした。
早紀がアキラの横顔を見つめる。その視線が熱い。
「ねぇ〜お願いがあるんだけど少し寄って行きたい所があるの」
「えっ其処って何処ですか?」
まぁよく引っ張り回し女だなぁ。それに付き合うアキラも暇だねぇ。
「あのね、有馬温泉なんだけど……駄目かしら?」
「いや僕は一向にかまわないですよ。暇ですから」
かくして予定変更、そう言えばまだ有名な温泉には入っていない。車で神戸から約一時間で有馬温泉に着くはずた。その有馬温泉の付近で宿を探す。近く観光協会の看板が見えた。そこに行ったら親切に教えてくれた。アキラと早紀は今夜の宿となる真新しい観光ホテルに入った。チェックインを済ませて取り敢えず、部屋に入る前にロビーで疲れを癒す為に二人はビールを頼み椅子に腰掛けた。その時、早紀と目が合った。アキラはドキリとした。その瞳がメラメラと燃えているような怪しい視線?
♪ウララッウララッ〜〜ウラウラよ〜〜♪
そんな歌謡曲が頭に浮かぶ。まさに妖艶のまなざしであった。
早紀は昨夜の無念の仇討ちを? 晴らそうかと思えてならない。
今夜もまた、昨日と同じように二部屋取ったがアキラはまだ酔ってはいない。昨夜のように翻弄されたらたまらない。年上で色気たっぷりの女は怖い。アキラは夕食が終ると、早紀には内緒でホテルから飛び出して夜の湯の街に繰り出した。冷たい風が肌を突き抜ける。適当なスナックを見つけてドアを開けた。なっなんと「いらっしゃませ〜」の代りにビール瓶が飛んで来た。危うく避けたものの、店の中は大喧嘩の真っ最中だった。
客同士の喧嘩だ。アキラもどういうわけか、こんな場所によく出会う。
あの、お袋の店でもそうだった。だが此処はお袋のとは無縁の店。見ず知らずの連中に自分が、ただ酒を飲ませて仲直りさせる気はない。これも旅の良い所。普通の人間なら別な場所に飲みに行くがアキラは、野次馬根性が大好きで怖いもの知らずだ。喧嘩を見るの楽しみのひとつ。その喧嘩真っ最中の中に、構わずに中に入って行った
目の前では互いに襟を掴みガップリと組み合っていた。アキラは真っ最中の二人を構わず前を進む。
「オイッちょっと通してくれよ。邪魔だ」と二人を押しのけた。
周りに居るママやホステス達はオロオロと怯えていた。さてさて、いったい何がこれから始まるのやら。アキラは昨夜に続き、忙しい夜になりそうだね
アキラが喧嘩の真っ最中の中に平然とカウンターの席に座った。
そこにオロオロしていたママがアキラの巨体を見て頼みに来た。
「あの、お願いです。あの二人を止めて貰えませんか」
「あぁいいですよ。でっどう言う風に収めれば良いのかな」
「どう言う風にと言っても……」
「つまり表にほっぽり出しとか、警察にまかせるとか」
「ハッハイ警察沙汰は困ります。出来れば穏便に」
「分かった。少しあらっぽい穏便になりますけどいいですね」
荒っぽい穏便って? そんなの あるのかぁ
ママの了解が得られれば大義名分が立つ。アキラは行動に移った。まさに修羅場となったスナックの店内は飲み物やコップが散乱していた。アキラは二人の間に入って、二つの頭を上から押さえつけた。アキラの手は大きいから片手の指五本で頭をすっぽり包む込むほどだ。次の瞬間に二つの頭を強引にぶつけた。ゴッツーと鈍い音。
人には見えなかったろうが、二人は目のあたりから火花が出たことだろう。
二人はフラフラ〜〜とその場に倒れた。アキラは二人の腰にあるベルトを掴んで二人を持ち上げた。まるで子供を持ち上げるように。そしてスナックのドアを押し開けると道路に二人を放り投げた。二人は何がなんだか分からぬまま道のアスファルトに転がされた。二人は相手との喧嘩どころじゃなかった。
どちらからともなく「なっなに、しんじゃい……」と吠えた。
が、見た相手は人間とは、思いないほどの巨漢でゴリラのようだった。
「なんだと! お前達のおかげで他の客が迷惑だって分んないのか!」
と言うか言わぬかの間に、アキラは二人の顔をパンパンと二発叩いた。
「アワワッ、やめてくれ〜〜」と二人は戦意喪失。
「あんたらなぁ、店がメチャクチャになってママが泣いているぜ。分んないのか」
そこからアキラは二人の大人を目の前に座らせなんとアキラの説教が延々とつづく。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.25 )
- 日時: 2020/08/03 19:38
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 26
それから二人は黙ってアキラの説教を二十分も聞かされた。余計なお世話だなんて言ったら半殺しにされかねない。アキラの前にまるで子供のように正座されられている。二人は渋々ゴリラの説教を聞くしかなかった。そうこれがゴリ押しだ。酔いが冷めて、反省と恐怖ですっかり大人しくなった。アキラに強引に仲直りさせられた二人は、ママに壊れたグラスなどの弁償と飲み代金を支払って帰ろうとした……が。
「あんたらっ、まだ本当に悪いと思っているんだったらもう少し付き合いよ」
やっと長い長い説教から解放されたと思った二人だがとんでもない事を言い始めた。
ママや他の客も揉め事を起した二人には居なくなった方がいいのに。そう思っていたのに周りの人は怪訝な顔をしてアキラを見る。これでは、喧嘩した二人は地獄だわなぁ。しょうがなく二人はアキラの前で下手な説教地獄がつづく。
だが時間が経つにつれて、アキラの本音を理解し始めた。アキラは二人がこのまま帰ればシコリが残り、いずれはこのスナックにも来なくなり店も嫌な雰囲気だけが残ると、リピーター客があるから店は繁盛する。やがて周りの客やママにホステス達も本来の明るさを取り戻した。
「ねえ、考えてみると喧嘩の理由も他愛のない事だったのねぇ〜」
ママがその喧嘩した二人に優しく声をかけた。
「いやママ、本当にすまないストレスが溜まっていたのかも知れない。それから宮さん、今日は俺が悪かった」
「いや、俺の方こそ話合ってみればアンタいい人だ」
かくして今宵のスナックは笑い声に、溢れる暖かい空気が流れていた。
アキラはママに感謝され、喧嘩を始めた相手にも感謝され、あげくに二人はアキラの手を取って「ありがとう」と言われた。二人から名詞まで渡されたのだった。のちに、この名刺をくれた一人の男と再会するが今はまだ気付く筈もなく。
アキラは閉店近くまで店で飲んでホテルに戻る事にした。
「山城さん、また来てね。今度きたら、お店を無料貸切で飲みましょう」
ママに最大限のありがたい言葉を貰って、スナックをあとにした。アキラは旅に出てから最高に気分が良かった。ホテルの部屋に入って、ひと風呂浴びてから寝ようとしたが? 少し松野早紀の事が気になった。こんな時間に女の部屋をノックするのも気が引ける。夜這いに来たと思われないかと、仕方なく部屋へ内戦電話を入れた。
プープープー何度電話しても出ない。もう寝たか? しかし気になってフロントに電話を入れた。
「あーもしもし、七百十二号室の松野さんは?」と聞いた。
「あーそれでしたら友人の方と一時間ほど前に外出しておりますが」
「えっ、それは男ですか」
「ハイ三人程の男性の方達ですが」
アキラは舌打ちした。しまった! ヤラレタッ。アキラは隣の七百十二号室を開けて欲しいとフロントに頼んだ。その部屋の中は案の定、物が散乱していた。
あの三人組に違いないアキラは夜中にも関わらずホテルに宿泊費を前払いして荷物を置いたままホテルを出て車に飛び乗った。しかし何処をどう探せばよいのか時間は深夜の二時、街は人の通る姿もなく時おり車がすれ違うだけ。
あせったアキラは『やっぱり一人にするのじゃなかった』と後悔した。
数時間も湯の街を探したが、まったく分からない。まして深夜に、その辺にタムロしている筈もなく。アキラは駅の前に行ってみたが夜中に電車が運行されているわけもなく、こちらも手がかりは皆無だった。アキラは、まさか組の姉御なら殺されることもあるまい。そう思ってホテルに引き返した。
翌日の早朝、ホテルに話して彼女の荷物を持って行く承諾を得てアキラは有馬温泉に別れを告げて再び車を走らせた。本来なら旅での知り合い探す義務はないのだが高知にいる友人の所まで連れて行く約束がある。きっと彼女はアキラに助けを求めている。アキラは応えた。それも「まっかせなさい」とアキラは男で御座る約束は命をかけても守る。もう任侠の世界だなぁ、アキラ男だねぇ
約束を守りたくても、何処に消えたか連れて行かれたのか見当もつかない。
閃いたぁ。そうだ真田小次郎のインチキ占いに聞いてみよう。
こうなったらワラにでも縋りたい気分だった。早速とっつぁんの携帯電話にコールする。しかし出ない、三回電話してやっと受話器から声が聞こえた。
それも迷惑そうに「だれ?!……」と来た。
「とっつぁん俺だ! アキラだよっ。なんだ寝てなのかぁ」
「誰かと思えばアキラかぁ、あんなぁこっちは夜中の商売だ。まだ眠ったばかりなのに一体どうしたんだ」
「そうか、とっつぁん悪かった。朝だと思ったが熟睡している時間だな。起きたついでに悪いんだけど頼みがあるんだ」
「なんだい頼みって、金が以外だったら相談に乗るがな」
「ヘヘッ、とっつぁんらしいや。でさぁ頼みは人を探しているんだけど。それを占って欲しいだ。とっつぁんは都内一の占い師だから」
アキラは心にもない事を言って受話器の前で、笑みを浮かべた。アキラは簡単な、経緯と松野早紀の特徴を話した。真田は少し時間を置いて電話を掛け直しと言って一度電話を切った。十分ほどして電話がアキラに掛かって来た。
「あぁ分ったぞ。たぶん京都じゃ! 近くお寺がある」
「とっつぁん、なに言ってるんだ! 京都は寺ばっがりじゃねぇか」
「おう、そうじゃったなぁ……川が交わった辺り……その辺だ」
「そっそうか? 他には? 建物の特長とか」
「そこまでは分かんないよ。そうだアキラ浅田美代って人を知ってっか?」
「美代さんの事か知ってるよ。ホラ俺の為に社長に取り入ってくれた人だよ」
「その人が俺とアキラが知り合いだと、どこで聞いて来たのか電話があって」
「ほっ本当か! それでなんて言ったんだい」
「今、旅に出ているって言ったよ。携帯の番号教えたけど、不味かったかなぁ」
「ヘヘッとっつぁん気が利くじゃないか。ありがとうよ。じゃ又電話する」
おもわぬ朗報だった。アキラは心の中で彼女の事がモヤモヤと燃え上がっていた。
真田小次郎の占いはあまり信用出来ないが人間は信用できる。しかし今は真田を信じて、また逆戻りして京都に向うしかない。アキラは車に備え付けてあるカーナビを見た。
京都の川が流れている所、そして川が交わっている場所……今出川・出町柳この辺しかなかった。 アキラは目的地をナビに登録して京都へと車のスピードをあげた。
車は今出川通りに差し掛かった。左に京都大学、右に知恩寺が見える。
そこを過ぎたら私鉄の出町柳の駅がある。その先に鴨川? あった! ここで川が交差している駅、駅? もしかしたら。アキラは車を端に寄せると駅に走った。
辺りを見渡した……居ない? ……いや何処かで見た顔が? 居た! あの時の三人組の一人だ。まさに奇跡。いや天才真田占い師様。今はそんな気分だ。アキラは、その男の後ろに廻り背中越しに肩を抱いた。
仲間のように「おい俺だ」
男は驚いて声をあげそうになったが。仲間どころか、あの時の大男が不気味な笑みをして立っていた。
「オイッ元気か! 動いたらこの場で絞め殺しぜっ」
その一言で男はおとなしく首を縦に振った。蛇に睨まれた蛙と同じだった。まさか、まさかの大当たり。真田小次郎の占いが当った。大まぐれか、はたまた神業か。占いは当るも八卦、当らぬも八卦と云われる。それが当ったのだから、不思議と云えば不思議だ。
「オイッ、姉さんは何処に居るんだ。案内しろ!」
どうして分ったのか、男は信じられない表情でコクリと頷いた。
アキラの怖さは充分に知っている男は逆らうことさえ出来ず素直に歩き始めた。
居た! この男の仲間一人が時刻表を見ている。長崎までの特急の時間を調べているのか? もう一人が松野早紀の腕を抑えている。早紀は顔を強張らせている。
アキラは小走りに二人に近づくと電光石火の如く早紀の手を取っている男の腹に強烈なパンチを浴びせた。駅には二十人ばかりの人が居た。余り見せたくない光景だ。アキラ男を殴っておいてこう言った。
「オイッ大丈夫か!」と酔っている友人を快方しているように見せかけた。
意識が朦朧としている男を構内の隅に寝かせた。周囲の人は気分が悪いのかと思うだろう。もう一人は時刻表に気をとられていて気がつかない。アキラは素早く後ろに忍び寄った。すかさずアキラの得意技が飛び出す。頭を取って自分の方に引き寄せ頭突きを喰らわせた。男は声を発する事も出来ずアキラの前に崩れ落ちた。この間数秒の出来事だった。早紀は何が起きたのかと後ろを振り返った。そこには大男が不敵な笑みを浮かべ手招きしている。アキラと早紀は脱兎のごとく走り出して停めてある車に辿り着いた。
周囲の人は唖然として倒れている男達とアキラ達を見比べた。まさにアキラの超が付く早業救出劇である。
つづく
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