ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.16 )
- 日時: 2020/07/25 21:32
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 17
時間も夜中の十二時を過ぎて〔居酒屋、秋子〕も閉店の時間になりノレンを下げた。
そんなお袋の姿を見てアキラも『お袋も苦労しているなぁ』と呟く。 年々衰えて行く母の姿にアキラは哀愁を感じるのだった。やっと一息ついて、母と子は店の二階にある居間で久しぶりと対面だ。
「どうしたんだい? アキラ急に来るなんて。でも本当に助かったよ。酔っ払い相手はねえ疲れるよ」
そんな母を見て、もう楽をさせてやらなければなぁとアキラは思う。
しかし三億円当ったなんて言ったら、お袋は『良かったね』で済む訳がない。
きっと金のせいで又、親子関係が崩れるのを恐れた。三億円当ったことでアキラはなぜか、物事を冷静に考えるようになった。 人間の心理は周りの環境、自分を取り巻く人などで左右されるが今回は自分大金を得たことで逆に落ち着かなくてはと言う冷静差が生まれた。
『親父も、お袋も俺もいい加減な処があったけど、やはり親子だなぁ』
逢う度に年老いて行く母に、この先どんな幸せがあると言うのか苦労している母に若かった頃の母の笑顔が見たい。親孝行してやらなければ……
「アキラ……ところで仕事の方は、ちゃんと頑張っているのかい。母さんは心配いらないよ。親の勝手で離婚してお前には迷惑かけたし」
母の優しい言葉だった。アキラは思った。『やっぱりお袋はいいなぁ』と。
「母さん、今日は親孝行のマネ事をしょうと思って来たんだ」
「ハアー? なんだぁ今、親孝行と言ったのかい? お前熱でもあるのかい」
「俺だって、たまにはそう思う事だってあるんだ。チャカスなよ」
「アキラお前、本気で言っているのかい。気持ちだけ受け取って置くよ」
「あのさぁ気持だけ伝えにくるんだったら来やしないって!」
「そうかい、じゃお土産でも買って来てくれたのかい?」
相変わらず気が強いお袋だ。それとも息子の前だけは弱気をみせたくないのか
アキラはバックから三百万円入った封筒を取り出した。B四サイズの膨らんだ封筒をお袋の前にアキラは黙って差し出した。
「なっなんなんだい! これ、どうもお菓子じゃなそうだねぇ」
母は怪訝な顔をしながら、袋を開けて中身を取り出した 。
何か硬い紙のかたまりが三束出て来た、母は目を剥いた。
「なっなんなのコレ。アキラ! お前……まっまさか」
母は三百万の札束を見て、ついにアキラが悪いことをしたと思った。
「アキラ……いくら馬鹿でもこれだけは許せないよ」
母の顔は青ざめて肩が震えていた。
「アキラ、けっ警察に母さんが一緒に着いて行ってあげるから行こう」
母は何を思ったのだろうか、アキラの手を取って立ち上がろうとした。
「母さん! そんなに俺が信用出来ないのか? なんだい自分の息子も信じられないようなお袋……なさけないぜ!!」
今度はアキラが真っ青な顔して立ち上がった目が潤んでいる。 アキラはひと時の親子の再会も一瞬にして冷めていった。金を置いたまま、襖を思いっきり開けて母の経営する居酒屋を飛び出した。
「なんでぇーお袋の奴、まったく信用してないんだから二度とくるかぁ俺だって利口じゃないが、少しは自分の息子を信じろよバカヤロー」
人からはゴリラと言われる巨体の目から大粒の涙がしたたり落ちる。
真夜中の路上にゴリラのような、なげき声が響きわたる 。
一人残された母、秋子はアキラの真剣に怒った表情を見て不審を感じた
アキラが悪いことはしていないのかと悟ったが、あとの祭り……。
秋子は畳の上に残された三百万の金を眺めていたが何を思ったか、二階の階段を駆け下りて、路上に出てアキラの姿を捜す。
「アキラ〜〜〜ゴメンよ! アキラ〜〜〜母さんが悪かった! アキラ〜〜」
静まり返った下町の冷たい夜更けに、秋子の声は吸いまれて行く……。
「アキラ〜〜〜行かないで! 訳も聞かずにゴメンよ、アキラ〜〜〜〜〜」
息子を信じない愚かさを恥じて、秋子の悲しげな声が闇夜に響き渡った。
しかしその嘆きはアキラに届く事はなかった。それがこれからアキラの人生を大きく変えて行く事なるとは母は知らない。汗水流して稼いだ金ではないが不正を働いた金でもない。苦労したお袋にやっと親孝行出来ると思ったのに母は信じてくれなかった。
体は大きいがまだ二十五才の青年だ。図体に似合わず母に喜んで欲しかった。少しは誉めて貰いたかった。アキラの心は三億円当った喜びよりも、母に疑われた事が辛かった。
「お袋、見て居ろよ。この金を元手に俺は大金もちになってやる。その時は外車の後部座席に座り、お抱え運転手付きでお袋を迎えに行ってやる。その時は腰を抜かすなよ」
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.17 )
- 日時: 2020/07/26 18:33
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 18
当った宝くじの一部三百万を母、秋子に喜んで貰おうと渡しが、悪い事をして稼いだ金と誤解され 実家を飛び出したアキラ。板橋のボロアパートに戻って来たアキラは深く傷ついていた。
「なんだいお袋の奴! ようし、こうなったら好きな事をしてやるぞ〜〜」
真面目で純粋ではあるが単細胞の持ち主である。ついに自暴自棄になったアキラ。ゴリラと異名をとるアキラは檻から放たれた野獣となるのか? せっかく浅田美代と社長である相田剛志の恩恵を受けながらも退職する事に決めた。人の親切を無にする行為とは分かっているが最愛の母から疑われた事が許せなかった。大金があるのに働く理由あるのか勿論働くことに意義があるのだが、今のアキラはその気力をなくした。
翌日、西部警備の本社へ出向き、あの嫌な総括部長に退職届を提出した。
それを見た総括部長がまた、嫌味でも言うのかと思ったが
何も言わずに怪訝な顔をして受け取った……いや言えなかった。
今日はとても嫌味なんか言えるような雰囲気ではなかったアキラだ。
アキラの殺気めいた顔をして、総括部長を睨むように渡したのだから。
アキラは総括部長にペコリと頭を下げると、そのまま本社をあとにした。
総轄部長は、流石にアキラを一人の判断で採決できずに社長室を訪れた。
「失礼します」とノックする。社長室の奥から入るようにと声が聞こえた。
「おはようございます。社長……実はですが……」
そのまま越を折り曲げて社長の机にアキラから預かった退職届を置いた。
「退職届? なにかねこれは君が辞めると言うのかね」
「しゃ社長! めっそうも有りません私のじゃなく、あのゴリ……いや、やっ山城くんの物であります。社長の温情も考えずに失礼にもホドがあります」
「よしっ分かった。しかしだな、君も社員に怒鳴るばかりじゃなく、ひとりひとりを把握して相談に乗ってやる事も君の役目じゃないのかね」
「ハッハイ申し訳御座いません。これからそのように致します」
総括部長にはとんだ、とばっちりだ。百十度に越を折り曲げて社長室を出て行く。
社長宛てに退職届けの他に一通の詫び状が入っていた。
【突然このような退職届を出した事に心からお詫び申し上げます。先日、社長と浅田さんの御好意には大変感謝しております。 そして生涯忘れる事の出来ない程に心が癒され胸がいっぱいでした。 私も社長の期待に応え頑張る覚悟でありましたが、今回の退職は家庭の事情に依り、自分の人生に疑問を抱いております。 改めて見つめ直し時間が必要と感じました。誠に身勝手で恐れ多い事とは思いますが機会があったら相談に乗って頂ければと存じます。いずれ心の整理が出来ましたら、ご挨拶に伺いたいと存じます。社長のご好意に背く形となり申し訳御座いません。繰り返すようでは有りますが社長と浅田美代さんへのご温情は今でもそしてこれからも胸に刻まれる、お言葉でした。きっといつかは、そのご恩に報いたいと思います。そして本当に、本当にありがとう御座いました】
山城旭
かくてアキラは九月一日より無職成金は二十六歳の誕生日を迎えた。
依然として宝くじが当った事は誰一人として知らせてはいない。ただ、宝くじ売り場のおばさんと、受け取りに行った銀行関係者以外は……
アキラは、あの宝くじのおばさんに百万円相当の商品券を渡そうとした。もちろん謝礼など一切渡し義務はないのだが、アキラはその辺の気配りは心得ていた。
処がおばさんは頑として受取らなかった。夢を売る商売が当った人から御礼されては、商売が出来なくなると拒んだ。分るような気がしたアキラは食事くらい一緒でもと誘った。それには、おばさんも喜んで応えてくれた。それ以来、宝くじ売り場に顔を出しては冗談を言い合う仲になっていた。ここでアキラに関わった人物を整理してみると。
占い師の真田小次郎 推定年齢六十才
銀行員の浅田美代、推定年齢二十四才
西部警備社長 相田毅 推定年齢五十八才
勿論、母である秋子は当然であり、他にも沢山いるが、この先の人生に関わるかどうか疑問なので省いておこう。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.18 )
- 日時: 2020/07/27 20:04
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 19
アキラはインチキ占いこと真田の、とっつぁんを適当な理由を付けて誘った。
それがいつも行く安い居酒屋ではなく、銀座の高級クラブだった。
その前に、とっつぁんに今日は何も言わず一番いい背広を着て来てくれと言ってあった。待ち合わせた有楽町の駅前に、とっつぁんは、まったく似合わない背広を着て待ち合わせ場所にアキラが来るのを待っていた。
その姿を見たアキラは、「ひゃあはっはっは! 良く似合うぜ」とからかった。
しかし、とっつぁんは悪びれることもなく。
「あたりまえだ。こう見えても昔はオナゴを泣かせたもんだぜ」
アキラは百九十八センチの長身、それに似合う背広はイージーオーダーしかなく、いつもピツタリとフイットしている。もっとも高くはついたが、そのゴツイ顔を除けば、なかなかのダンディである。
二人は高級クラブに入った。しかし二人とも初めてだ。店内の豪華さと華麗な姿のホステスに圧倒された。しかし一流どころ、その辺は客の扱いはプロだった。
『貴方達、来る場所間違ったじゃない。ここは一流クラブよ』
なんて事は言わない。
ひときわ、際立つ美女に二人は案内されて豪華なソファーに座る。
「いらあっしゃいませー」
アキラと真田小次郎の間に一人とアキラの隣に一人。銀座の夜にふさわしい美女たちに持て成された。
「お客さま、お飲み物は何をお持ち致しましょうか?」
まぁ、なんて上品のしゃべりかただろう。居酒屋とはまったく別世界だ。
「そっ、そうだな。ドンペリでも持ってきてくれ」
「おっおい山ちゃんいいのかぁ」小次郎は驚いた
「まぁ、お客さま。よろしいでしょうか。少しお高いですよ」
ホステスはやんわりと言った。やはり一流のホステスともなれば客の観察力は優れている。どの程度の地位の人間か、すぐに見抜く。つまりアキラと真田は身の丈に合わない場所と言うことだ。何か良い事があったか競馬で儲けたか? ホステスにはそんな事はどうでも良い。金を沢山落して満足して帰ってくれれば良いことである。
多分二度と来店しないと思うがリピートもない訳ではない。しかし客に対しては決して嫌な気分にさせない事でも一流である。多分この店ではドンペリ一本五十万円は下らない飲み物だ。今日のアキラは、ほとんどヤケになっていた。
オードブルも豪華なものばかり注文した。
小次郎は支払いが気になって、もう酔うどころか心臓の鼓動が波うっていた。
しかしアキラは一向に、気にすることもなく陽気に飲みまくった。ホステスとどんな会話したのか覚えていない。いつも下品な話しをしている居酒屋ではない。ホステスもどんな会話をして良いか悩んだ事であろう。だがアキラは一向に気にせずホステス達を笑わせた。確かにアキラの話しは面白い。ホステス達の態度から見て本当に楽しんで会話しているようだ。新しいアキラの魅力に真田小次郎は驚き『この男、人を惹きつける魅力を持っている』そう感じた。お陰で(貴方達場違いよ)思われる事もなく楽しめた。
一時間半ほどして、アキラと小次郎は帰ることにした。小次郎はアキラに小声で語りかけた。
「オイッ支払いどうすんだ俺三万しかないぜ」
もっとも高級クラブではとても三万じゃ座るだけで消えてしまいそうだが。
「とっつぁん心配すんなって、今日は俺にまかせとけって!」
「しっしかし、山ちゃん……」
「大丈夫! まかせろって」
なんとアキラは、胸のポケットから会計の百五十万円を現金で支払った。
小次郎はアングリと口をあけたままだった。
ホステスの笑顔に見送られて二人はクラブをあとにした。
「やっ山ちゃん、どっどうしたんだい。その大金は? そうか競艇で大もうけしたのか」
しかし、アキラはニャツと笑うだけで「まぁそんなところだ」
「ごちそうになっても悪いんだけど、生きた心地しなかったよ」
「まぁ一生に一度くらい、いいじゃないか。これも人生さ!」キザなセリフを吐く。
しかし心は癒された訳でもなく、ややアキラの歯車が狂い始めていた。飲んでも飲んでアキラはスッキリしない。そしてハシゴ酒となり結局はアキラと小次郎はいつもの居酒屋で飲み直しことになった。
「やっぱり俺には此処が似合っているよ。根っからの貧乏性かもな」
小次郎はいつもの梅サワーを飲みながら生き返った顔をした。
「とっつぁん聞いてくれるかい。俺さぁ、お袋とケンカしてさぁムシャクシャして、この間、会社辞めたんだよ。で相談出来るのは、とっつぁんしかいないんだ」
真田小次郎は、アキラがいつも違うのは分かっていたが、まさか会社まで辞めるとは思っていなかった。
「そうか、何かはあると思っていたのだがな。まぁ相談事は得意分野だ。なんでも相談に乗るぜ。こう見えても、ちょっと前はセンセイをやっとったわい」
「えっ、ほっ本当かよ! 先生って学校の……へエー驚いたなぁ」
「まぁな、別に自慢するほどのもんじゃないが二十年間、高校教師だった」
「で、なんで辞めたんだい?」
「それを聞かれるとなぁ……好きな女に振られてよ。みんな捨てたって訳さ」
「好きな女って? とっつあんいくつの時だい」
「それを聞くな。年齢は関係ない。まぁあれが最初で最後だ。もういいよ、一人の方が気楽さ」
「そうか、それにしても思い切った事したもんだなぁ。一世一代の恋だったんだ」
「オイオイ、俺の話をしてどうなるんだ。悩みがあるの山ちゃんじゃなかったのか?」
「まぁな、でもさぁ、とっつぁんと話てると悩みが吹っ飛ぶぜ」
「いやいや今日はとんでもない大金使わせて」
小次郎は、あの大金どうしたかと聞きたかったが控えた。
多分聞いても答えないだろう。悪い金じゃなければ聞くこともないと。
「とっつぁんは、今一人で住んでいると言っていたよな?」
「ああ、そうだがそれが、どうしたんだい」
「どうだい俺と一緒に住まないか、あぁ金は全部俺が出すから」
「……どうしてまた? やっぱりなんか今日はヘンだなぁ」
アキラも大金の理由を打ち明けたかったが、どうしても切り出せない。
誰でも、そう思うだろう。俺、三億円当ったなんて言ったら大変な事になる。
親にでさえ言えず誤解されて喧嘩になったのだから。しかしアキラはそれが故に苦しかった。
小次郎に話そうと喉まで出かかっているのに言えない大金ってヤッカイなものだ。
「俺と一緒に住もうってか? それは有難い話だが……俺はどうやら一人暮らしが合っているみたいだ。出来ればこのままがいい。親子ほど年が違うがな、お前はいい奴だ」
しばし沈黙がつづく、やがてアキラは吹っ切れたように語る。
「そうだな、俺もセンチになっていたみたいだ。まぁ気が向いたら遊びに来てくれ」
その日は、その居酒屋で小次郎と別れた。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.19 )
- 日時: 2020/07/28 20:15
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 20
アキラは高島平近くのアパートに帰って宝くじが当ってから今日までの事を考えてみた。結果として大金が入った事で、自分の人生が狂いかけているような。
お袋と喧嘩をした。会社を辞めた。ガラに合わない銀座のクラブで大金を使った。もうすでに数週間で三百万円あまりの金が消えた。その金はアキラにとって一年半以上の給料に相当する。三億円の大金からすれば百分一の金だが、どうってことはない。
こんな事をやっていたら普通のサラリーマンだったら破産する。しかし今のアキラは自分をコントロールする術がなかった。真田小次郎に相談しかけたが、かろうじて思いとどまった。やはりそれ以上の話はどうしても切り出せなかったのだ。
アキラは今の環境から抜け出したかった。母とギクシャクした事が原因だ。
これでは金があるのを除けば、あの浪人生活となんら変らない
アキラは思った。『どうせ無い金と思えばいい』そう決めた。
翌日アキラは不動産屋を訪ねていた。環境を変える事で自分も変る。そう心に決めた。
(確かにそうだけどアキラ何か違うんじゃないの?)
アキラは北区赤羽駅近くに家賃二十万円のマンションを借りた。
よせばいいのに家賃一年分を前払いで払った。敷金、礼金一年分の家賃合わせて四百万が消えた。部屋は十五階建ての最上階、二十畳のリビングに十畳の洋室と八畳の和室とクローゼットがあり、前のボロアパートとはまるっきり違う豪華さだった。
時代は平成十七年だから、この当時としては赤羽周辺で高いビルと云える。
そのマンションからは晴れた日には富士山が見える。右手には新宿の高層ビルが眺められ、夜には都内のネオンが宝石のようにキラキラと輝いて見える。
まるで別世界だ。アキラは金の力を、まざまざと感じたのだった。
ついでに家具から電気製品、寝具類と揃えた。念願の携帯電話も手にした。
その金額二百万円成りアキラはリッチな気分になった。幸せだあ。しかし、しかし何かが足りない心に隙間風が入るのだ……。(そうだ。アキラ人間、働かなくては駄目。目的がなければ)
しかしアキラはそれに気付いていないのか、分っているのか? あれ以来、お袋の秋子とは連絡はしていない。電話も掛かって来ない。音信不通になっている。ただ何故かアキラはお袋が住んでいる赤羽に引越した。違うのは、お袋は西口で居酒屋を営み、アキラは東口のマンションである事だ。
昼頃まで寝てから一日が始まる。そして時間は無駄に過ぎて行く。
アキラの中では完全に時間が止まった状態である。
まったくもって目的が見え出せない。これでは浮浪者と同じだ。
流石のアキラも贅沢な生活に慣れないのか少しウンザリしていた。
そこでアキラは車を買う事にした。四WDの四千CC、砂浜や山道も登れる車に総費用割引で六百万をキャシュで買った。何も面倒なローンなんか組む必要がない。
すでに一千五百万円が消えていた。まるで湯水のように使い捲くる。
別に明日の予定もない明日どころか一年先さえ何もないのだから。晩秋の日本、季節は十一月を向えていた。待ち望んだ車が納車された。翌日に必要な旅用具を車に載せて新車のハンドルを握る。新車どくとくの匂いが最高だ。一瞬の至福の時だった。
アキラはあてのない旅に出ようとしいる。何かを探しに、南に向かって目的のない旅に出るアキラだった。
第1章 終
次回第二章ではアキラの珍道中が始まります。
ひょんな所で知り合った怪しげな女を載せて高知まで向かう。
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.20 )
- 日時: 2020/07/29 21:11
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当たった男 21
第2章 アキラ旅に出る
山城旭二十六歳と二ヶ月、青春まった中である。
とにかく今は幸福の頂点にいる。但しこの幸福とは金があるからで、真の幸福を意味しない。ただ先のことは神のみが知る。目的地のない終点のない旅、言い換えればメチャクチな旅だ。今回の旅は真田小次郎以外、誰にも知らせていない。
マンションも前払いで留守とは言え、とやかく言われる事はないがマンションの管理人には、しばらく留守にする事は伝えておいた。
特に何もないとは思うが念の為、携帯電話の番号を知らせてある。
アキラの新車は新車特有のいい匂いがする。もちろん新車を買うのは初めてだが。アキラは都内から第三京浜道路を横浜から国道一号線を西へと向かう。急ぎ旅じゃないので高速道路ばかり走る理由もない。車は湘南海岸へと出た。空は晴れわたっていた。
海岸を見るとウェットスーツを来た若者がサーフィンをしている。
そろそろ木枯らしも吹く季節というのに、まったく関係ないらしい
同じ世代のアキラは特に寒いだろうかと言う思いはなく勝手にやってろだ。
しばし車は海岸添えに湘南バイパスを走る。
そこから暫らく走ると小田原市に入った。その先は箱根方面に進路を変え一時間半ほどで芦ノ湖湖畔にさしかかった所で車を降りた。季節外れのせいか、あまり観光客はみあたらない。
紅葉も終り掛けているが此処だけではあざやかだ。カエデが見事な赤い葉に変って心をなごませる。アキラは今日の宿泊を此処でとることに決めた。予約はしてないが部屋は空いていた。
ここは有名な温泉地ではないので風呂は期待できないが、それなりの客を満足させる料理と湖畔の眺めだった。昨日は久しぶりの運転のせいか良く眠れた。
朝九時にチェッアウトして支払いを済ませた。その金額二万七千六百円。
いまのアキラには、ほんの小銭にすぎない。金銭価値が麻痺しているようだ。
最初に解雇された頃は一万円が大金だったのに、人間こうも変るのか?
アキラは再び南に向かって車を走らせた。
なんの目的もなく、何も考えずに心の赴くままの旅は始まったばかりだ。
車は箱根を越えて静岡に入る。東海道五十三里のコースだ。
ここで少し東海道五十三里のコースに大まかに触れて見よう。
まず基点は日本橋-川崎-藤沢-箱根-沼津-吉原-丸子-掛川-浜松-岡崎−桑名-亀山-草津-京都と続く。昔は数々の宿場町が賑わったと言う。
車は沼津に差し掛かった。ここには武田勝頼が戦国時代に戦略の為、海岸にあった松を全部切り倒したと言う。それにより海から風をモロに受けた。
漁民たちが大変な苦労をしたとか。のちに寺の住職を先頭に、お経を唱えながら一本、一本植えて行ったと言う。それが千本松の由来とか。千本松から沼津から田子の浦まで今でも延々と続く、それはそれは素晴らしい眺めである。
時折休憩しながらのノンビリ旅、やがて車は浜松市内を抜けて浜松市の外れ舞坂に着いた所で今日の宿を探しことにした。宿はすぐに見つかった。西に浜名湖と東は太平洋が見える七階建ての立派なホテル風だ。窓からは松の木が見える。その先に砂浜と波しぶきが見える。部屋からは見えないが後ろには浜名湖が見えるはずだ。ここは、うなぎの養殖場が沢山あり景観は最高だ。
昨日と同じようにビールと料理は旅の楽しさを満喫させる。
まだ若いのに定年退職した人の人生を振り返る一人旅ようだ。
翌朝、アキラは大浴場の朝風呂に入り、九時過ぎチェックアウトを済ませてロビーを出掛かった時、後ろの方で何やら泊まり客が騒いでいた。
どうやら風呂から上がって出ようとしたらサイフが無くなったと言う。
なにせ、アキラは成金の暇人だ。よせばいいのに興味本位にアキラの好奇心が邪魔して騒いで居る方に引き返したのだった。
(あ〜〜ぁまた、この男、問題を起こしそうな予感が)
朝のこの時間はチェックアウト時間が迫ってくるとフロントは忙しい。
そこに客がフロントに来て騒ぎ立てたのだから尚更だ。
フロントスタッフは、他の客の手前もあり対応に困っていた。
其処に野次馬根性丸出しの、大男の暇人が来た!!
「どうしたのです?」
アキラは大騒ぎしている女性に訊ねた。
と、いきなり、その女性は「あ〜アンタが盗ったのね、早く返して!」
「ちょ、ちょっと何、言ってんですか」アキラは慌てた。
(ホラッ見ろ、言わんこっちゃないかアキラ)
そこにフロントスタッフが割り込んだ。
「まぁまぁお客様、すぐ探しますのでこちらへどうぞ」
案の定、フロントの周りは黒山の人だかりとなった。
「ねぇねぇ、どうもあのデカイ男の人が盗んだらしいよ」
そんなヒソヒソ話が、あっちこっちで囁かれていた。
アキラにその囁きが聞こえ、ピクッと頭のなかで爆発した
「誰だぁ俺が盗ったとか言ったのは!!」
とっギロッとその方向を睨む。
まさにそれはゴリラだ。
「すっすいませぇ〜ん」と一斉にその場にいた客達は逃げていった。
「ちょっと〜〜コレってホテルの責任でしょう! どうしてくれるの?」
女はフロントの係りに大声で、吠えまくった声がフロア全体に響く。
アキラも、とんだ濡れ衣を着せられたが、君子危うきに近寄らずだが。
流石のアキラモ退散。巻き込まれかけたアキラはホテルを出た。
遠巻きにしていた客はアキラが犯人じゃないことが分かり何故か、ガッカリしたように散っていった。
(格言)# 野次馬根性 馬に蹴られても保証なし#
つづく
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