ダーク・ファンタジー小説

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宝くじに当たった男
日時: 2020/07/09 17:30
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当った男 1
 第一章  成金になる  

(はじめに)
 誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
 この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
 人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
 当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
 自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
 もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
 東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
 誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
 それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
 人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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 第一話  どうせ駄目な男

 物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
 課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
 気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
 重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?  
 コンコン「失礼します」
 「おっ山城君ご苦労さん」
 そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
 部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
 お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
 その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。

 「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
 予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
 「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
 山城はハァと言うのがやっとだった。
 やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
 いやここで褒めてどうすると言うのだ。
 たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
 最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
 山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
 そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
 言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
 山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
 もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
 『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
 まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
 取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。 
 もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.31 )
日時: 2020/08/10 19:49
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 32

 アキラも「ああ〜やったなぁ」と遠慮がち美代に海水をかけた。すると負けずと美代もかけてくる。もうアキラも我を忘れてはしゃぎ始める。何も気取ることはない。アキラはまだ若い青春まった中なのだ。美代の年齢は聞いていないし、聞くのも失礼だがアキラよりは一才か二年下ではないかと思われる。つまり二十四才前後であろうか。アキラは女性というものが益々分からなくなった。これまで美代と知り合ってから、初めて見せた美代の無邪気に走り回る姿。

 銀行員という事もあり知性的で、まったく隙のない感じだった。
 普段の彼女は多分そうであろう。ましてや男の人を誘うなんて事は考えられず逆に誘われても断わったであろう。周りの男どもには高嶺の花であったに違いない。
 いくらアキラが恩人としても、大会社の警備会社社長に会いに行き、山城さんを辞めさせないで下さいと、アキラに非はないと訴える為に出向いたのだ。その行動力と勇気はただ者ではないような気する彼女だ。それが今、子供のように砂浜を走り回っている。
 すべてを曝け出す美代の姿にアキラは愛おしく、夢の世界なら覚めないで欲しいと願うばかりであった。

 アキラは夢のような世界を彷徨っている。でも現実であり海の匂いも波の音も子供のようにはしゃぎ廻る美代の声も聞こえる。
『なんて幸せなのだろう。これが恋と言うものなのか。これで彼女を失ったらショックで自殺したくなる。失恋した人の心境が今なら分かるなぁ』
 妄想にふけっているアキラの頭に突如海水を浴びせられた。
「もう山城さんたっら、なにを考えているのですかぁ」
 美代に見惚れていたアキラは現実に引き戻された。
「あ、いいえいいえ楽しいなぁと思って……」
「本当ですかぁ? ごめんなさい調子に乗って、お洋服少し濡れましたね」
「いいえ、こんなのすぐ乾きますから。それより浅田さんは濡れていませんか」
「大丈夫ですよ。だって山城さん遠慮してほとんど濡れていませんよ」
 そんな他愛もない時間が過ぎて行った。美代は時計を見た。
「あら、もうこんな時間。何処かでお食事しませんか」
「そうですね。でも浅田さんが気に入るような店があるかどうか」
「あの私、知っているお店がありますが、いかがでしょう」
「そうなんですか、でも鎌倉は小学生以来と仰っていましたが、良くご存知で」
「ええ、実は友人の親がオーナーのお店です。友人がそれならと電話を入れてくれと置くと言っていました」
「そうですか、それなら是非そのお店に行きましょう」
 なんと段取りが行き届いている。先ほどの無邪気な彼女からいつもの美代に戻っていた。

 店の住所をカーナビにセットして、その店に向った。フランス料理専門店であるが、昼はバイキング方式で好きな物が選べて好きなだけ食べられる。アキラにとっても願ってない店であった。残念ながら車を運転しなければならないのでアルコールは飲めない。
 美代が店に入ると、シェフなのだろか深々と美代に頭を下げている。
「いらっしゃいませ。お話はオーナーのお嬢様から伺っております。どうぞ窓際の席を用意して御座います」
「ありがとう。彼女にも宜しくお伝えください」
「はい、浅田様のお父様には時々ご利用頂いております。お蔭様で店の宣伝までさせて頂き本当に感謝しております」
 美代はそれには応えず、何故かアキラを気にしているように見えた。オーナーもアキラの存在に気づき余計な事は控えたようだ。果たして美代の父とはいったい何者だろうか。

 何故か美代の仕草、言葉使いといえ、ただの銀行員とは思えない。格式の高い家で育った上流階級の人に思えてならない。アキラはそう思ったが、そんな事を詮索してはならない。誰でも秘密にしたい事がある。自分もそうであるように、そして深入りしてはならない。何か警告が心の中に芽生えていたアキラだった。二人は海の見える窓辺の席に案内された。ともあれ二人は好みの食べ物を皿に盛り、ワインの代わりにフルーツジュースを入れたグラスを軽く合わせた。
「今日は私の我が侭に、お付き合い戴きましてありがとうご御座いました。こんな事を言うのも恥ずかしいですが、私、山城さんと居ると心が休まるし自分を曝け出せるの、そういう気持ちにさせてくれるのも山城さんの魅力ね」
 これはどう解釈すれば良いのか、アキラはどう返事をすれば良いのか困った。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.32 )
日時: 2020/08/11 20:11
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 33


 自分を曝け出すと言った美代。女性とあまり話した事のないアキラは男してこれ以上、嬉しい言葉はない。いくら女性に疎いアキラでも分かる。
 こんな俺に? 相手を間違えているではないかと思うが、誘うのはいつも美代の方から、アキラだって誘いたいが、やはり自分に自信がないのが分かっているから誘えない。
 普通の女性なら俺なんかの側に寄って来ないと思い込んでいた。
 美代も、あんな事件に合わなかったらアキラを知る事もなかっただろう。
 だが美代は外見だけで人を判断しなかった。それは、あの警備会社の社長室でアキラの態度と言葉で分かった。あの相田社長が自ら雇ったと聞いた。それはつまり社長が認めた証。アキラは人を惹きつける何か持っていた事になる。

 美代もアキラと数回の食事で感じていた。最近の若い者に多いチャラチャラした所は見られない。なんとか自分をアピールして女性に売り込もうなんて事もしない。
 アキラは美男子でもないし、お世辞も言えないが何か違うものがある。アキラは気付いていないが、人を惹きつける魅力を美代は感じとっていた。とにかく女性に対しては真面目過ぎる。そんな初心な所が気に入っている。先ほどの返事にアキラは応えていない。どう切り出せば良いのか分からない。だから美代が曝け出すなら自分も本音を言おうと思った。
「あの〜男としてどう応えれば良いのか感動で胸が詰まっています。僕は女性と付き合った事もなく、貴女が目の前にいるだけで天にも登るような気分です。勿論、愛を口にする自体おこがましく、そんな資格が自分のあるのかと思ってしまいます。でも許されなら一言、言わせて下さい。今は幸せです」
「資格なんて、そんな事を言わないで下さい。それより私の方が困らせる事を言ってしまいしまた」
「そんな事はありません。嬉しくて言葉に出来ないだけです。僕から見た浅田さんは綺麗で優しく気遣いもしてくれて全てが魅力的です。嫌われるのを覚悟で言わせて下さい。宜しかったらこれからも付き合って下さい」
「ありがとうございます……素直に嬉しく思います。私の方こそ宜しくお願いします」

 現代の若者には考えられない初心な会話であった。結局二人からは、好きとか愛しているという言葉は出て来なかった。でもそれ以上に深い愛の告白ではないだろうか。
 帰りの車の中での会話は少なかった。でも二人共それで充分だった。
 あのレストランで、遠まわしながら愛の告白をしたのだから、今日はそれを壊したくない。大事に胸に閉まって置きたい気分なのだ。夕暮れ時、美代を世田谷駅前で降ろし次の約束を取り付け別れた。
 しかし美代は月曜日から金曜日まで仕事である。いつも逢えるわけもない。相変わらず暇な山城旭、無職成金、暇人間は明日の予定もある筈もなく、自分の借りている貸し金庫のある銀行に出かけた。そこには重要な書類や貯金通帳、印鑑を保管してあった。なんと言っても、まだ二億七千万円の高額預金者である。

 無職暇人間が、その銀行に訪れて貸し金庫を開ける手続きをしていた。金庫から取り出した通帳の残高を見る。間違いなく定期と普通預金合わせて二億七千万円ある。アキラには至福のひと時である。
 ついでに百万円ばかりの現金を引き出した。特にこれと言って使う予定がある訳でもなく。もはやアキラは金の価値観が麻痺されかけていた。
 突然大金が転がり込んだアキラは完全に自分を見失ってコントロール出来ない状態にある。辛うじて暴走しないのは占い師の真田と浅田美代の存在があるからだ。今は美代とは淡い恋にも満たない状態だが恋は確実に芽生えている。恋の蕾はやがて花が咲く事だろうか。今年は色々とあった。良い事、悪い事、大金は手に入れたが、また無職に戻り今年が終ろうとしいる。このままで良い訳がない。無職で先の見えない自分はいずれ美代に嫌われに決まっている。来年こそ、そう願うアキラであった。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.33 )
日時: 2020/08/12 19:41
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 34

 年が明け最初に会ったのは、やはり占い師の真田小次郎と新年会と称しての事から始まった。暇人のアキラはする事もなく、またまた銀行に行き貸金庫を開け預けてある通帳の残高を確認し、にんまりしている。これはもう殆んど病気だ。
 銀行のフロアでアキラは、昨年の暮れ浅田美代と鎌倉に行き食事した時の事を嬉しそうに美代の笑顔を思い浮かべていた。そんな良い気分に浸っていたが、急に誰かに呼びかけられ美代ちゃんの笑顔が掻き消えた。
「あ! あんた山城さんじゃないですか」
 その声の方を振り返った。そこには中年の男が、なつかしそうな顔で微笑んでいた。
 一瞬、アキラは誰だか思い出せずに、思考回路を目まぐるしく回転させた。
「ホラッ忘れましたか? 有馬温泉のスナックで会ったでしょう。ちょうど酒の勢いで喧嘩になって仲裁に入ってくれたでしょう」
「おう、思いだした。そうかあの時のあんたか」
 それは最後には名詞をくれた男の内の一人だった。
「いやあ、あの時は助かりましたよ。少し痛かったですけどハッハハ」
「それで、東京には仕事で来たのですか」
「まぁそんな処ですがね、それよりどうです一杯」
 その男は右手を口元にあてて盃を飲む仕草をしてみせた。

 まだ飲むと言う時間帯ではなかったが、再開を祝して飲むことになった。東京は不慣れと言う男に代わってアキラが案内した店は下町の寿司屋だった。その店の奥に座敷があり二人は其処に座った。
「あの悪いけど、あんたから貰った名刺、持ち歩いていないので名前が? それに俺、名詞は持ってないし悪しからず」
 アキラ当時の事をまったく忘れていた。あの時貰った名刺は見もせず何処に行ったか覚えてない。まさか捨てたとか無くしたとは言えない。拠って何者か知らない。
「あっじゃあ改めて」と男は名詞をくれた。
 その名詞には(㈱松の木旅館、代表取締役 宮寛一)と書かれてあった。そして住所は静岡県熱海市と書かれているではないか。
「あれ、あんた熱海なの?」

 確か、その宮と言う男に会ったのは有馬温泉の筈だったが。
「あっ実は有馬温泉は私の故郷なんですよ。それであの時に喧嘩の相手は中学時代の同級生で商売がうまく行かず、そんな時、奴にからかわれたのが発端で」
「なるほどねぇ今は不景気だし、どんな仕事も大変ですからね。俺なんか無職だよ。まぁ自慢にもなりゃあしないけどさ。今は何もする事なく……そうだ! アンタの所で使ってくれないか」
「はぁ? 出来れば有り難い事ですがね、もう廃業寸前なのですよ。それで先ほどの銀行へ融資をお願いに来たのですが、この銀行は開業以来の付き合いで、なんとかしてくれると思ったのですが。熱海の支店より本店で交渉してくれとこっちの銀行に来たんですよ。それが決算書を見た途端にアッサリ断られましてね、もう私は途方にくれている所なんですよ」
 なんと宮寛一は目を真っ赤にして、涙をポロポロと流してしまった。アキラは唖然として、その男の涙に俺がなんとかしてやらねばと思った。あの喧嘩で仲裁に入ったのも縁とすれば最後まで責任をとるのが男だと。
(またぁアキラ、お人好しも程々にしておいた方が)

「そうかい。でっいくら融資して貰うつもりだったの」
「それが五千万なのですがね、まぁ無理とは思って来たのですが案の定ですよ。分かっていても藁にでも縋る思いでしたが……仕方ないですよ」
「でっその五千万あれば立ち直れるのかい? あんたにその自信あるのかい」
「へっ? どうしてそんな事を聞くのですか。申し訳ないけど山城さんに話してもどうなる訳でもないし、すみませんが聞かなかった事にして下さい」
 確かにアキラみたいな若造にグチをこぼしても始まらない。ましてや今は倒産寸前の旅館とは言え、経営者のプライドが其処にはあったのだ。処がアキラはガキ扱いされた事に怒った。
「あんた聞かなかった事にしろだと! おめぇ俺が若いと思って舐めてんのかあ」
 またまた、アキラの単細胞が剥き出しになった。あぁどうなる事やら。
 突然に変貌した姿は、あの日の夜、宮が表に放り出された時と同じった。
 そのゴリラの雄叫びは、周りいる人間さえも怯えるほどだ。
「すっすいません。つい悪気があって言った訳じゃないんです」
 思わず宮寛一は謝ってしまったが、果たして謝るほどの事だったのか?
「まぁな俺が偉そうなこと言っても信用しないだろうな。そうだ宮さん俺の所に来いよ。きっとスッキリさせてやるぜ」
「はあ?」
 宮寛一は怖いのが半分と、次の四分の一は勇気を絞り、最後の四分の一は自棄気味になっていた。
「それじゃ山城さん、いいですよ。何所でも行きましょう」
 開き直った宮を見てアキラは「おっ自棄になっているな」思った。かくして二人は、山城御殿のマンションに足を向けた。もっとも前のボロアパートなら行きたいと言っても断った事だろう。宮寛一はアキラがどんな所に住んでいるか興味もあった。親と一緒なら一戸建て、またはマンション。良くても中流家庭と思っていた。処が着いた先は、真新しい高層マンションだった。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.34 )
日時: 2020/08/13 19:04
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 35

更にマンションの豪華なエントランス、安っぽいマンションとは作りが違う。そのマンションの部屋に案内された宮寛一は驚いた。なんと言っても、まだ三十には程遠い年齢で無職とくれば貧乏長屋を想像していたからである。アキラは宮の驚く表情を見て、優越感に浸っていた。
「どうだい宮さん俺がアンタに五千万円貸してやると言ったらどうする」
「えっえっ! 山城さん。ごっ五千万ですよ。五万円じゃないんですよ」
「分かっているよ。宮さん俺だって大人をからかう気なんて毛頭ないよ。訳は言えないが、金は俺が出してやろうじゃないか。おっと言っておくが決して悪い事して貯めた金じゃないぜ。どうだい信用するかね」
宮寛一は次の言葉が出ない。どう信用しろって言うのだ。まさか旅館を乗っ取ろうなんて考えてはいまいかと、ほんの数秒の間に宮は、あらゆる想像をしてみたが無職の若造が金持ち? やっぱり理解不能の答えが出た。しかも得体の知れない人間から大金を借りる訳には行かない。まさか高利貸し商売でやているのか疑いたくもなる。
まして素性すら良く分らない人相も良くない。何故それなら自分の住処を教える必要があるのだろうか。入る時に確認した表札も間違いなかったから山城の部屋だ。
返事に困っている宮を見てアキラは、やっぱり信用しろって方が無理があると感じた。
立場が逆でもアキラ自身も同じだろう。さてどうやったら信じて貰えるだろう。宝くじの当選金と 言えば納得するだろうか。しかし、母にも友人も言えない事を他人に言える訳がない。

今度はアキラの心の中で葛藤が始まった。考えているうちに、アキラの単細胞血管が切れそうなってきた。
「まあ無理もないなぁ、信用して貰うには、やっぱりアンタの所で働くしかないんじゃないか。給料はいらないけど泊まる所と飯が喰えればいい。金を返し時は旅館経営が上向きになった時でいいから、どうだい」
「はぁ、それは有り難いですが、山城さんのご両親とかに承諾を取らないと……」
「そうか来たか。残念ながら親の承諾もいらないし自分の金をどう使おうと自分で自分の責任を取れるから関係ないよ」
確かに子供でもないし立派な大人だ。そんな考えもあるかぁ? 宮寛一は倒産するかどうかの瀬戸際だ。アキラの話は、宮にとって何ひとつ損する事はない。損するのはアキラの方で、話が旨すぎるから気持ち悪いだけの話。こんな美味しい話を蹴ったら一月後には倒産が待っているだけ。
失敗したから金を返せと言っても、旅館さえも抵当権が付いている始末。一円たりとも戻って来ないだろう。まさか命を取ろうって事はないだろう。恨まれる覚えもないし、殺すくらないなら金を貸す意味がない。どうせ降って湧いた夢の金。勝負を掛けるしかなかった。
「わかった山城さん。その有り難い話を受けさせて下さい」
「そうか信用してくれるか、俺の金は悪い事して得た金でないし安心してくれ。いずれ話し機会があったら話すが信用して貰うしかない。よし! そうと決まったら宮さん近日中に振り込むから届いたら連絡をくれ、その後に熱海に行くが、その条件でいいかい」
「勿論です。あまりにも突然で嬉しさよりも怖さがあったんです。それにしても山城さん大金持ちのお坊ちゃんでは」
「俺が、お坊ちゃん? まぁ勝手に想像してくれ」
「山城さん、本当に本当にありがとう。アンタは神様みたいに見えて来たよ」
かくして神様となったアキラは近日中に熱海へ向うことになった。

はてさてアキラの暇潰しに一時の光が見えたのか、それはアキラ次第。それから三日後に宮寛一の口座に、なんと五千万円の大金を振り込んだ。残りの金額二億二千万円と減った。でもまだまだ億万長者だ。
一方、宮寛一は指定した銀行に振り込まれているか、確認するに行った。間違いなく通帳には五千万が振り込まれていた。なんという事だ。あの時は振り込むと約束してくれたが半信半疑だった。いやそれよりも『バ〜カ本当に信用したのか、からかっただけだよ。、オメィも目出度い奴だね』そんな事が脳裏に浮かんだ事もあった。ただ素性の分からない男が旅館で働くという。取りはぐれのないように監視役も兼ねているのか。まぁ疑っても仕方がない。倒産するよりはマシだ。
なんと云うことだ。地獄に仏とはこの事か、良かったこれで立ち直さなくては従業員にそして山城という男の温情に背く事になる。頑張ろう。そう誓った。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.35 )
日時: 2020/08/14 20:13
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当たった男 36

 真田小次郎に熱海に行くと伝えたが、やはり五千万円を貸したなんて事は言わなかった。旅で知り合った人の紹介で働くと言ってある。数日後、愛しの人、浅田美代と食事をしていた。今日はまた淡いブルーのワンピースが良く似合うが、相手のアキラも服装は今の若者らしくラフで良いのだが、その風体が犯罪に近いから?
「あのですねぇ浅田さん。僕は今度知り合いの旅館で働く事にしました」
「あらっ本当? 良かったですね。でも随分と畑違いのお仕事ですね。場所は何処なのですか都内ですか」
「いや、それがね。熱海なんですよ。若いうちにいろんな経験も良いかと思って、どうもまだ定職に着くのは先のようですけど」
「熱海なのですか……少し遠くなりますね」
美代は少しだけ気が沈んだ。気を取り直して話を続ける。
「でも山城さん、何処でも行けてどんな仕事でも出来るから羨ましいわ」
「そんな事ないです。結構必死なんで浅田さんに嫌われないように頑張ります。落ち着いたら是非とも熱海へ遊びに来てください」

「嫌いになんてなりませんわ。そうですわね、熱海も暫く行ってないし今度きっと伺います。案内してくださいね」
 アキラと美代は再び会うことを約束して甘〜〜いデートの時間が過ぎていった。
 二時間近くも食事の時間を取ったのに二人には、それでも時間が短く感じたのは何故だろうか。翌日、宮寛一から電話が入った。振り込まれたと、そしてアキラを迎える準備が整ったから来てくれと言う事だった。宮の声は明るかった。
 その宮は今、神様を迎えようとしている。二十六才で二度しか会った事ない男から五千万円もの金が振り込まれた。まるで天から金が降って来たような出来事だ。
アキラから融資すると約束されても、実際に口座に入るまで信じられなかった。まさに宮にとっては神様そのものだった。ただ神様もいつ悪魔に変貌するか、一抹の不安は残っていたが。その神様が熱海に車で颯爽と乗込んで来た。勿論ヤクザが借金の取立てに来たのではない。
熱海温泉と言えば、昔は新婚旅行とメッカとして名高いリゾート地だった。それと同時に金色夜叉でも知られる、お宮の松、そして寛一お宮の恋愛話は有名だ。金色夜叉で映画やドラマで話題を呼んだがそれは遠い遥か昔である。

つづく


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