ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.91 )
- 日時: 2020/11/06 21:02
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 89
駐車場に車を停めてアキラは黙り込んでしまった。そのまま動こうとしないアキラ。
車から降りようとした美代は、アキラの様子がおかしいので声を掛けた。
「どうしたの。アキラさん?」
「みっ美代さん……まさかこんな凄い家のお嬢さんだなんて、僕にはつり合わないですよ。美代さんにはもっと良い人が」
美代は信じられない言葉を聞いた。別人のように自信を失っている。
「アキラさん……熱海で私に言った言葉はなんだったのですか! 私はアキラさんと結婚したいのです。アキラさんは嘘を言ったのですか?」
美代の表情が一変した。今まで見たこの無い厳しい顔だ。
「嘘じゃありません! 僕には美代さんしか居ません永遠に」
「それならつり合わないとか仰らないで下さい! 私だって大人です。誰に反対されようとアキラさんしか居ません。例え今日これから両親に反対されても私は家を出る覚悟まで決めています」
アキラに全てを託したのに、私をしっかり捉まえてと強い意思表現なのだ。大きな屋敷を見て圧倒された自分が恥かしかった。それなのに自分を見失い情けないと思った。
「でも……僕なんかと結婚したら苦労しますよ。社交的なマナーも知らないし、ただの成金です」
「アキラさん。あの強いアキラさんは何処へ行ったのですか? どんな相手でも、物怖じしないアキラさんじゃなかったのですか」
今まで見た事もない美代の凄い剣幕だ。今にでもアキラの頬を引っ叩くのじゃないかと思う程だった。アキラも美代の剣幕に驚きと共に自分を取り戻した。
ここが一世一代の正念場ではないか。男だろうアキラと言い聞かせた。
「美代さん。分かりました本当にこんな俺でいいのですか。御両親の前で結婚したいと伝えて良いのですか」
俺とアキラは言った。僕だなんて飾っては居られない。本来の自分に戻った証拠だ。
美代はアキラの覚悟を決めたような言葉に、ほっとした顔をする。
「勿論です。私はアキラさんと一緒に生きて行くと決めたのです。だからいつものアキラさんに戻って下さい。そして私を守って下さい」
「分かりました。もう落ち込んだりしません。絶対に美代さんを守り幸せにします」
アキラは人に負けたのではなく、巨大な資産の力に一時的に飲み込まれてしまった。完全に我を失いかけていたが、美代に叱咤され生き返った。
しかしこの屋敷は、かつて日本のドンと言われた総理大臣の屋敷のように訪れる人々を圧倒せずにはいられない雰囲気が漂っていた。それにしてもこの屋敷は何千坪あるだろうか。これが財閥というものか。
それもその筈である『浅田ツーリスト株式会社』
日本でも三本の指に入る大手旅行会社で毎日のようにテレビCNで放映され誰一人知らない者はいない。そんな時、門からメイド達であろうか四人ばかり笑顔で出迎えに来た。
「お嬢様、お帰りなさいませ。先程からお兄様がお待ちですよ」
「あらそう。分かりました。え~とこちら山城旭さんです」
「山城さま、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
緊張したアキラは、こうなったら天皇陛下だろうと誰だろうと同じ人間なんだ。あの福沢諭吉の言葉を思い出していた。
〔人の上には人を作らず、人の下には人を作らず〕人間誰もが平等なんだと。
門を潜り二十メーターほど歩いた所に玄関があった。そこには三十前後であろうか青年が出迎えてくれた。勿論、美代の兄だ。
「やあいらっしゃい。先日はどうも改めて美代の兄、智久です。改めてどうぞ宜しく」
今日、美代は兄の智久の家に来る前に昨夜、兄の家に行き相談していた事だ。
だから今日は少しリラックスして話が出来る。
その智久の家と言うより屋敷が相応しいが。勿論、父の大二郎は隣の和風の屋敷で、その隣は智久の洋風の家と別れている。親子でも好みが違うと建てる家も違ってくる。大二郎は和風好みで、息子夫婦は洋風好みで、それに合わせて作ったそうだ。美代は渋谷近くのマンション住まいと、それぞれ独立していた。美代のマンションからタクシーでも十五分と掛からない距離だ。
「やあ美代、なんか心配ごとでもあるのかい?」
「お願いお兄様。なんかアキラさん動揺してしまって、このままでは、お父様と対面しても、一喝され追い返されそう気がしてなりません」
「そんなに彼は動揺したのか? 信じられん。でもどうしで浅田家の事を言ってなかったのか」
「それも考えました。でも家柄ではなく本当の私自身を見て欲しかったの」
「それは分るが……大丈夫だよ。彼はそんな柔な人間じゃないと思うよ。まぁいざとなったら助け舟を出すから心配するなよ」
美代の兄は三十一歳で美代より五歳年上で子供も一人いた。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.92 )
- 日時: 2020/11/08 20:18
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 90
笑顔で美代の兄に通された部屋は五十畳もあろうか大きな洋風のリビングだった。アキラはまたしてもヒビリそうになった。まるでホテルのフロアのようだ。このリビングで結婚披露宴はらくに出来る広さで豪華な造りだ。
そのリビングにあるソファーを勧められ、美代とアキラは隣同士に兄の智久はテーブルを挟んで向いに腰を下ろした。
「先日は何かと相談に乗って頂き、ありがとう御座いました。今日は美代さんから招待を頂き厚かましくも来てしまいました。宜しくお願い致します」
「話は妹から伺っております。厚かましいなんて、とんでもありません。むしろ妹が無理矢理あなたに来て頂き、迷惑じゃなかったでしょうか」
「まあ、お兄様ったら無理やりじゃないわ」
「いやあ悪い、そんなつもりじゃないのだが。ハハハッ失礼しました」
智久は緊張したアキラを見てリラックスさせようと気を使っているようだ。
「いいえ、おかげで気が楽になります。ありがとう御座います」
そこへ二人のメイドが紅茶とケーキなどをテーブルに並べて深くお辞儀をしてから部屋を離れて行った。
「山城さん、ゆっくりして下さい。実は昨日、妹から全てを聞きました。あの銀行強盗の時に貴方が命がけで助けてくれたそうですね。それ以来、美代は貴方の名前は出さなかったのですが貴方の事をことあるごとに私に語るんですよ。その時からなのですかね、美代が貴方を意識し始めたのは、一途な妹ですからね、兄の私としてはなんとかして妹の恋を実らせてあげようと思っています。ぶしつけで申し訳ありませんが、山城さんはどのようにお考えですか?」
智久は単刀直入に話を切り出した。アキラは大助かりだ。細かく美代との馴れ初めから順を追って話していては息が詰まりそうだ。アキラにとっては正に助け船だ。大きな体をやや小さくして。一度、美代の顔を見てから、智久に向って言った。
「ハイ、最初に美代さんとお会いしたのは偶然というか、あの事件の時でした。まだ僕が警備員に配属され間もなくの出来事でした。私の対応の悪さで美代さんに怪我をさせたにも関わらず美代さんは僕の会社の社長に、お礼をわざわざ言いに来てくれたのです。失態を犯した僕は解雇されると思っていましたから、美代さんま助言で救われました。その時から、なんと礼儀正しく優しい方だと思いました。それからお付き合いさせて頂いて一年半が過ぎました。そして僕は美代さんに結婚を申し入れました。美代さんも快く受けて下さいました。僕はこんな男ですが美代さんの為なら命をかけて幸せにします」
アキラの話が途切れたところへ美代が話しを付け加えた。
「お兄さま、本当は私の方から結婚したいと伝えたのよ。お見合い話が出てこのままでは、お見合い話が進められては困ると思ったの」
「山城さんの気持は良く分かりました。なにせ父は厳格な所があって妹もこのままでは山城さんを失いかねないと思ったのでしょう。妹からは山城さんは何事にも動じない逞しい人だと聞いております。失礼ながら今日の山城さんは少し緊張なさっておられるようです。それも妹への気遣いからだと思いますが、それが良く伝わってきます。私も安心しました。貴方なら妹を幸せにしてくれるでしょう。どうかこれからも宜しくお願い致します」
なんとこの兄は、そんなに人を見る目があるのか? 若干三十一才で浅田ツーリストの取締役部長に席を置くそうだが、いずれは社長である父の後を継ぐ器であろう。その兄がアキラを認めてくれた。そしていよいよ美代の両親との対面となった。
父は和風好みで智久夫婦は洋風好みだ。それならと洋風、和風の家を作り、渡り廊下で繋がっていると云うのだから、なんと贅沢な作りだろうか。
そのリビングから兄の智久に案内されて、広大な屋敷の中を五分ほど広い廊下を歩いただろうか、その部屋は三十畳ほどの和室で大きな茶褐色に光輝く座卓が置かれてあった。全てにおいて桁違いだ。
障子が大きく開けられて、日本庭園が見えて池の淵には紫陽花が二人を励ましように瑞々しく咲いていた。アキラと美代は、その座卓に用意された座布団に正座した。
兄の智久は美代の少し斜め後ろの座卓から離れた所に座った。
まもなくメイドが一礼して入って来て、お茶と茶菓子を五つ用意して静かに一礼して部屋を出ていった。入れ替わるように流暢に和服を着こなし、還暦を少し過ぎたであろうか、貫禄のある紳士が現れた。その後に美代の母であろうか、いかにもこの屋敷に相応しい落着いた色の和服で入って来た。
一瞬アキラを見たように感じた。娘が連れて来た男を少しでも早く確認したかったのだろうか。全員が席に着いた所で進行役を勤めるつもりだろうか智久が紹介した。
「お父さん紹介します。美代がお世話になっている山城旭さんです」
「はっ始めてお目にかかります。山城旭と申します」
その返事には答えずに美代の父、浅田大二郎は黙って名詞をアキラの前に出した。
なんと無言の威圧である。アキラは両手で受け取り目を通した。
〔浅田ツーリストグループ㈱代表取締役 浅田大二郎〕
日本全国と海外にいくつもの支店を置き、更に二十数社の子会社を傘下に置く一流企業の社主ある。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.93 )
- 日時: 2020/11/15 20:49
- 名前: ドリーム (ID: ecbw2xWt)
宝くじに当たった男 91
アキラは自分の心に呼びかけた。今こそが自分の真価が問われる時だ。相手がどんなに偉い人間だろうが、天皇陛下ほどじゃあるまいと今のアキラは冷静だ。いま自分は試されている。びびって堪るか。それとも名刺を見て身の程知らずが、尻尾を巻いて帰れと言っているのか? 名刺を見て確かに驚いた。全国に知られる大手の旅行会社の社主だ。その名刺を見せて動揺した処へ大二郎は一撃を加えるベき言葉が続いた。
「山城さんでしたね、美代の兄智久から伺いました。娘が世話になっているそうですが、実はいま娘との縁談が進められいましてね。申し訳ないのですが、ただの恋人と言うのでしたら娘の縁談に差し支えます。縁談が決まったらその時は御友人として式に出席して頂く分には歓迎しますよ」
流石に口は達者だ。やんわりとそしてズバリと遮断されてしまった。その父の態度を見た美代は怒り覚え、父に向けて何か言いかけた時……アキラは美代に笑顔を向けて、美代が言いかけた言葉を制した。
「いいえ僕は美代さんと友達として付き合っているのでは有りません。美代さんといずれ結婚したいと考えております。美代さんも承諾してくれました。美代さんを幸せにします。命がけです……今すぐとは申しません僕と言う男を見てから、美代さんとの交際そして結婚を認めて下さい」
アキラは座卓から少し体を引いて大二郎に土下座をした。そのアキラの姿を兄の智久は見て、更に父と母の反応を見比べた。美代の母、美静は冷静にその様子を見ている。アキラを観察しているようだ。しかし美代は、私の為に土下座までして父に頭を下げる姿が眩しかった。
当然だと言う風に、大二郎は土下座するアキラを横目に、お茶を一杯啜る。
美代はハラハラして、これではアキラに失礼過ぎるのではと父の態度に苛立っている。
アキラはまだ土下座したまま頭を上げようとはしない。
だが大二郎は、そ知らぬ顔をして用が済んだら返れと言わんばかりだ。
堪りかねた美代は、父の態度に怒り立ち上がろうしとした。
その時、兄の智久は小さな声で「美代!」と声を掛けて顔を横に振る。
それは、もう少し待てと言う意味だ。大二郎は湯飲み茶碗を置き語った。
「山城くんだったね……君が頭を下げたからって大事な娘を簡単にどうぞ、なんて言える訳がないだろう。しかも初対面だ。君の身上も知らんし娘は私の宝だ。娘を幸せにする為の縁談に君が口を挟むのは失礼ではないのかね」
アキラは少し顔を上げて大二郎の目を見つめて、ゆっくりと話し始めた。
その姿は、お殿様にお目通りが叶って、お願い事をする町民のようだった。
「失礼は重々承知で伺います。僕が美代さんに恋をすることは間違っていると言うのですか、お父さんが美代さんの幸せを願うなら美代さんの意見も聞いてやって頂けませんか、お願いします」
「ほう随分と自信があるじゃないか、君が私より娘の心が分かると言うのかね」
「いいえとても、お父さんには及ぶものではありません。ただ親の愛と僕の愛は違います。僕は生涯に渡って美代さんを愛し続けます。失礼ですが、お父さんの愛から僕がそれを一生引継ぎたいのです」
「君も妙な理屈を付けるじゃないか、親が亡くなったら誰が美代を面倒みるのかとでも言うのかね」
「極端に言えばそうですが、夫婦とは永遠に喜怒哀楽を共にするパートナーです。美代さんの御両親がその手本のように思います」
ヌケヌケと大二郎夫婦を持ち上げたが、しかしゴマ擂りには聞こえなかった。
大二郎は思った。この男はただの木偶〔でく〕の棒ではなさそうだ。
しかし口にこそ出さないが、大会社の一人娘をどこの馬の骨とも分らない奴に簡単に嫁がせる訳には行かない。親として娘には幸せになって欲しい。そう願うのも当然のことだ。しかし娘が好きな人人間から引き離して良いものか、もしかしたら娘から一生恨まれるか知れない。
これは誰でも味わうであろう娘が可愛さ故の心の葛藤である。
親のエゴと世間体もあり、上流階級の娘は上流階級の家に嫁ぐのが当たり前。そうとも思っている。だから認める訳にも行かない。流石の大二郎も少し言葉に詰まった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.94 )
- 日時: 2020/11/17 18:50
- 名前: ドリーム (ID: ecbw2xWt)
宝くじに当たった男 92
少し間が空いたところで美代が口をはさむ。
「お父さま私は真剣です。アキラさんと一緒に居たいの。アキラさんしかもう私には見えないわ。お父さまの気持は嬉しいけど私は大人よ。充分に一人で飛び立てるわ。今すぐとは言わないけど私達を認めで下さい」
静かに聞いていた母、美静は初めて口を開いた。
「山城さん、もうどうぞお顔を上げてください。貴方の気持は承りました。しかし今ここで結論が出せる問題でもありませんので,私達家族で改めて相談したいと思います。主人も突然のことで失礼を申し上げたと存じますが、父が娘を思う気持だけは、お察しあげください」
「いいえ失礼だなんて、お父さんお母さんとしては当然の事ですから僕の方こそ突然来て失礼を申し上げました。ただ僕の偽りのない気持を聞いて頂いただけで有難いと思っています」
その緊張の時間がどのくらい過ぎただろうか、取り敢えずアキラも両親も本音で言った。初対面で大事な話だから互いにギコチないが。そこで兄の智久が区切りの良い所で美代に目配りをして。
「お父さん。初対面でこの問題は簡単に結論だせる訳もないし、何よりも美代の気持ちを第一に考えましょうよ。僕達は山城さんを庭の方にでも案内しますから、どうかご検討ください」
上手く美代の兄が収めた。今日は挨拶程度でと云う事だ。
父、大二郎はそれには応えずに母、美静と席を立って去っていった。アキラは両親に深々と一礼して二人が和室から出て行くのを見送った。兄に連れられて出た庭とは、なんと日本庭園とは一変した風景だった。一面の芝生が敷き詰められ、周りはが花のガーデンになっており、其処には十人は座れるようなテーブルセットが置いてあった。
少し遠くにはテニスコートも見えて、その右となりにはプールも見える。その奥にはパターゴルフ用だろうか、綺麗に刈られた芝生が美しい。これが財閥というものなのか、庶民とはまったく違う世界だ。テーブルに三人が着くと、手際よく先ほどのメイドが冷たい飲み物を持って来る。それが浅田家では日常的なことである。
ここで働いている執事、メイド、調理人、運転手、広大な庭を手入れする人々を含めたら軽く三十人を越えるだろう。他に控室の方には常に大二郎の秘書がいて表に姿を現さないが大二郎付きの警護人が二人ほどいるようだ。そんな人達に払う人蓮費だけでも年間一億円近いのではないだろうか。庭を眺めながらアキラはふっと思った。
「アキラさん、先ほどは父が失礼なことばかり申し上げて、お許して下さい」
「とんでもないです。突然来て美代さんをお嫁に欲しいと言われたら普通は その場で門前払いですよ。それに僕の話を一応聞いてくれました。有難いと思っています。お兄さんには何かと手配して下さり本当に有難う御座います。」
「いやいや父も人の親ですから貴方の気持を試したのかも知れませんよ。私からの印象では山城さんに、良い印象を持たれたと思っています」
「えっお兄様は本当にそう思っているの? お父様たっら失礼過ぎるわよ」
まだ美代は父の態度に怒りが収まらないようだ。でも兄の考えに美代は驚く。兄にはそんな風に写ったようだ。父の態度からして俄かに信じ難いが少し視界が開けたようで美代は目を輝かせた。
それから三人は学生時代の部活の話とか、砕けた話に花を咲かせた。ともあれアキラは生涯最大の試練の第一日が終ったのだった。その翌日からアキラと美代は結婚作戦を二人で練った。早速、美代は父と母の説得にあたっていた。
父へ対しての攻撃は凄かった。説得というより脅迫めいていた。
アキラとの結婚を認めないなら家を出ると脅した。
あのお淑やかな美代が、これまで両親に一度も逆らった事ない娘の態度に父は折れた。
取り敢えず見合い話しは取り消されたが逆に父から、もっと良い人を紹介すると念の入れようだ。父と子のバトルは一進一退の攻防戦に入っていた。
数週間して美代の兄夫婦からアキラと美代が自宅に招かれた
兄の妻、浅田香織も暖かく迎えてくれた。
美代から聞いた話では、その香織も財閥の令嬢だという。
そんな所へ居酒屋の息子が、義弟として付き合う事になるのだろうか?
まだ二才の美代の姪にあたる女の子は可愛かった。
アキラは、ああこれが家庭なんだなと、ふと美代の兄夫婦が羨ましく、またそんな家庭が欲しいと思った。
もうこれで美代の兄智久夫妻に招かれたのは何度目なのだろうか。 馴れと言うものは人をリラックスさせる。
アキラは宝くじに当るまでの過程を語って聞かせた。
競艇場で知り合った易者の真田小次郎のこと、三億円が当り、どうして良いか分らなくなり旅に出た事。怪しげな女との珍道中、坂本竜馬の子孫がヤクザなっていたが、親しくなったとか。熱海温泉宿の主人と知り合いになり其処で働いたなどと、まるでドラマのような話に兄夫妻は大喜びした。智久の妻、香織までもがアキラのファンになっていた。 知らぬ間にみんなアキラの魅力に引き込まれて行くようだ。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.95 )
- 日時: 2020/11/18 19:51
- 名前: ドリーム (ID: ecbw2xWt)
宝くじに当たった男 93
美代の話がなかなか好転しない事に智久はある作戦を提示した。
父としては家柄を気にするのは仕方がないし、何処の財閥を例に上げても財閥同士の縁談は普通だ。
若い二人が愛だとかなんとかで結婚を認める訳には行かない。そこで後ろ盾になる人物次第では変ってくると読んだ。
もし適材な人(信頼出来る人物)が居れば話が進むかも知れないとアキラと美代に提案したのだった。
アキラと美代は顔を見合わせて浮かんだ顔はただ一人。
大手警備会社の社長、相田剛志だった。あの人なら立派な後ろ盾なってくれる。
「ええ一人居ります。美代さんと僕の理解者で面倒見てくれました」
「ほう美代と共通している人が。いいね。どんな方ですか?」
「あのう西部警備と言う会社の社長さんなんですが、ご存知でしょうか」
「西部警備ってテレビのCMなど使っている……確か社長は相田剛志さん」
「ええそうです。良くご存知で」
「知っているも何も、うちの大のお得意さんですよ。会社の慰安旅行とか功労者への家族ごとの旅行招待と従業員を大切にしている社長さんですよ」
「そうですか、僕もどういう訳か相田社長に直接声を掛けられ入社したいきさつがありまして」
「なんとそんな方と知り合いとは驚きです。やはり山城さんは人を惹きつける魅力があるようですね」
「とんでもありません。偶然ですよ」
しかし智久は決して偶然ではなく、アキラは確かに何を持っている。この男、とてもない人物になるかも。我が妹ながら人を見る目は確かなようだ。将来大物の器を秘めていると感じた。
ともあれ共通の知人で、奇遇と言うかアキラの人脈と言うのか、まさに福の神みたいな人が居たのだ。数日後アキラは相田剛志とコンタクトを取って再び、美代と一緒に料亭に二人で向った。勿論、あの易者の真田小次郎も同席する事になっていた。実は奇遇だが真田小次郎と相田社長は大学時代の占い同好会で一緒だったそうで、小次郎が二歳年上で先輩後輩の仲らしい。
「やあ山城君に浅田さん元気でやっているかな」
「おいおいアキラ! 最近めっきりと来なくなったと思ったらそう言う事かい」
小次郎に早速ジャブを喰らった。アキラは小次郎の冷やかしが嬉しかった。
今日は無理だが、また居酒屋でふざけながら飲みたいと思った。
「どうも社長に、とっつ、いや真田さん。今日は時間をわざわざ割いてもらって、ありがとう御座います。それで今日お願いにあがって僕と美代さんの事なのですが」
それは言われるまでもなく相田と真田は分かっていた。
「ふんふん君達の願いならなんでも聞いてあげましょう」
相田社長は、まるで自分の子供のように目を細めている。
「それでですね社長、そして真田さん。実は私達は結婚したいと考えております」
「ほう、やっとその気になったか。おめでとう。私も真田先輩もどうして居るのかと気を揉んでいた処だ」
「ええ、それが私の父がなかなか認めてくれないのです」と美代。
「それだけ貴女が大事なのでしょう。お父上の気持ちは良く分かります」
「実は私の父は『浅田ツーリート』という会社をやっております。私の兄に相談したら後ろ盾になってくれる人が居れば話が進むのが早いのではと言われ、相田社長の名前が浮かんで、兄も相田さんはうちの大のお得意さんだと申しまして」
「なに? 貴女が浅田ツーリストの、お嬢様だったんですか……いやあ驚いた。 確か貴女のお父上とは何度かゴルフで御一緒させて頂きましたよ。それは好都合だ。山城君の人柄は私が説明して上げましょう。そうだね、お父上の都合に合わせて私と山城くんとで、お邪魔させて貰いましょう」
つづく
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