ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.81 )
- 日時: 2020/10/24 19:17
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 80
佐伯繁が言った「秀樹の親父さんは和倉温泉で旅館やってるんだよなぁ」
「旅館やっていると言っても俺は次男だし兄貴が後を継ぐから」
「でもよう親父さんももう年だし、秀樹の兄貴は身体が弱いから継ぐの難しいじゃないか」
控えめな秀樹に前田宏が言った。
「まあその時は兄貴を助けてやればいいんじゃないか」
「ほう秀樹さん所は旅館やっているんですか一度泊まらせて貰おうかな」
「あっ是非とも泊まって行って下さい。海が目の前で眺めはいいですよ」
「和倉温泉って言うと、どの辺になるのかなぁ能登半島」
「ええ能登の七尾市の和倉ですが、露天風呂もありますよ」
「露天風呂かぁ、海が見えて露天風呂かなぁ」
「そうです。旅館は小さくて古いけど風呂と眺めと魚が自慢ですから」
「いや俺には有り難いことで、その露天風呂に是非入ってみたいですよ」
彼ら釣り人達は明朝も釣りに行くと言う。アキラは毎日釣り三昧と言う訳にも行かず、今夜の宴会と言っても船宿ではイマイチ盛り上がらない。そこでアキラは近くのスナックでカラオケに行こうと誘い出した。
前日からの付き合いで、意気投合した釣り仲間達は嫌と言う訳がない
アキラを含めて六人は船宿からほど近いスナック「ビーナス」へ出向いた。
夜の七時を過ぎていたが、スナックビーナスには客が居なかった。
「いらぁしぁいま~~せぇ」と店のママがビーナスを思わせる美声で出迎えた。少し薄暗い店内から厚化粧で美人かそれとも、それなりか?
やはり男にとってどうせ飲みに行くなら、美人がいいに決まっている。
美人だから美人でないからと、飲み代の料金は変わらない筈なのだが。
海の好きなものは女も好きだ。いや男なら誰でもだが。海の男達には遠洋に出ると半年以上も海の上で暮らし其処にあるのは大海原と太陽のみ、船の中は男の世界と仕事だけ。それだけに陸にあがった時の喜びはひとしおだろう。
独身の男なら、それは陸でホステスなどに囲まれて飲む酒は旨いだろう。
とまぁ、その海の男とはまったく違うが、釣り好きな男たちだ。ビーナスにはママともう一人の女性がいた。なにせ薄暗くて厚化粧だ。美人なのか年増なのかさえ分からない。
やがてカラオケを宏が唄い始めていた。続いて繁さんの番だ。そこで隣にマイクを持ってママが一緒に唄い始めた。その甘い声は男心をそそる、スポットライトを浴びたビーナスその甘い声からさぞかし、と思いきや甘い声とは裏腹にかなり年配のママで、その化粧は外壁のような厚さで覆われていた。どこまでが本人の顔なのか見分けがつかない程だった。
京都の舞妓さんならまだ分かるが、その外見から判断しても、はや七十歳過ぎていると思われそうで、途端にカラオケで盛り上がったのに愕然とした。
♪しらけ鳥~~~南の空へ~~~そんな古い歌を思い出すほどだ。
しかし若いアキラ達と違って繁さん達はそれでも盛り上がった。そのビーナスで盛り上がり釣り宿に戻ったのは夜の十時だった。前田秀樹はアキラのことが気にいったらしい。どうせ自分も暇な身だとアキラに一緒に旅に連れて行ってくれと頼んだ。
しかし今までのアキラの旅はいつも危険と隣り合わせ。そう簡単にOKは出せない。
喧嘩好きならともかく、そうにも見えない。あの山崎恭介とは訳が違う。彼は不幸のどん底だったから助けた。
それに男同士で旅をしても面白くない、とあのヤクザの妻、松野由紀を思い出した。浜松から四国までの珍道中が懐かしい。まぁそんな事言ったら、浅田美代に嫌われてしまうが。翌日朝早く、前田惣五郎達と別れてアキラも早朝に前田秀樹を乗せて能登半島の和倉温泉へと向かった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.82 )
- 日時: 2020/10/25 19:44
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 81
富山湾を右手に見て国道八号線を走る。まだ夜明け前の国道は車もまばらで気持ち良い快適なドライブだ。秀樹はアキラに東京の事を聞いて来た。
「山城さんは東京生まれで東京育ちですよね。いいなぁ」
「東京生まれがそんなにいいかい? 俺はなんにも良いことないよ。前田さんのように温泉があり海があって、こっちが羨ましいよ」
隣の芝生は青いと云うが、まぁそんな物かも知れない。人間は自分ない物が他人には良く見えるのだ。無い物ねだりと言うのか、この欲望が無かったら人は無気力で物を作ろうとかしなかっただろう。
それは良い事ばかりではないが、人の物が欲しくなると力で奪いたくなる。
動物だって野生は逆肉強食だ。人間も所詮は野生動物かも知れない。
詐欺、強盗、殺人やがては戦争だ。地球に生命が誕生してからこの繰り返しだ。それでも辛うじて理性が優先しているから人類は発展した。人間が人間の為の法律を作ったが、法律を守れれば平和な筈なのだが。
またまた話は逸れたが、アキラの理論から言わせれば多少の揉め事はストレスの解消になると思っている節があるのだ。
なんたって、アキラは野生的なゴリラそのものだからか。
しかし、アキラは強いが大いなる夢と優しさも秘めていた。
そして人を退屈させない何かを持っている。それがアキラの魅力だ。
アキラは前田秀樹を乗せて一路、八尾市から和倉温泉をめざして走っていた。
秀樹が言う自慢の露天風呂にアキラは興味を寄せていた。今はやはり小さな旅館をやるにしても露天風呂は絶対条件だ。
「山城さんは将来、旅館を経営するんですか?」
「経営なんてカッコいいもんじゃないけど夢はあるんだが、それでいろんな温泉宿いや温泉とは限らないが和風旅館をやってみたいんだ」
その旅館に着いたアキラは、秀樹の経営する両親に紹介され早速その露天風呂に入った。流石は自慢するだけあって素晴らしい。なんと目の前が海だ。水平線が見える。夕暮れとあって太陽が水平線に吸い込まれて行く。アキラは思わず叫んだ「凄い最高だあ」
日本海なら夕日、太平洋なら朝日、太陽と露天風呂? アキラは閃いた。
「露天風呂に太陽かぁ、これだな」思わず呟く。
アキラの旅は終わった。なんとなく旅館の構想が見えてきた
果たして夢で終わるか、夢が花開くかは全てアキラの次第なのだ。
「秀樹さん本当に良いものを見せて貰った。また更に旅館へ興味が増して来たよ。短い間に沢山の友人も出来たし今回は本当に良い旅になりましたよ。旅館経営の夢が覚めないうちに一旦東京に帰ろうかと思っています」
「え~もう帰るのかね。せっかく知り合えたのに。じゃ何時の日か訊ねて行ってもいいですか。おまえ誰だ? なんて言わないで下さいよ」
「そんな事する訳ないでしょう。僕は知り合った人を大事にするのが流儀です。だからいつでも来て下さいよ」
翌日の早朝、またあの釣り宿に寄った。繁さん達が釣りに行くというのでアキラもそれに合わせて向った。
時間ギリギリだが間に合った。みんな釣り道具を乗せて出航する寸前だった。
「あれ山城さんじゃないですか。一緒に釣りに行くのかい」
「いいえ、東京に帰るので皆さんにお別れの挨拶しょうと思ってね」
「そうかい朝早いのに義理堅い人だ。淋しくなるが山城さんの夢を応援しますからね」
「まだ先の話ですが、もし旅館を開く事になったら、いい魚を提供して下さいよ」
「勿論だ。本当にアンタの夢が実現する事を祈ってるよ」
アキラの釣り仲間と再会を約束し、能登を旅立ったアキラだった。
第6章 能登編 終
次回 第7章 浅田美代の正体
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.83 )
- 日時: 2020/10/27 21:35
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 82
第7章 浅田美代の正体
アキラは久し振りに東京のマンションに戻った。東京に戻って一番先にすること……それは男、山城旭決まってます。 さっそく旅館探しを始めるのか 偉い!
ところがドッコイ、最初に電話を掛けたのは美代ちゃんだった。
まあ当然と言えば当然だ。将来の夢へ絶対に欠かせない人だから。
「もしもし美代ちゃん……ぼっ僕です。只今帰ってきましたあ~~」
「……もしもし失礼ですが、お掛けお間違えじゃありませんか」
「え? あの~~~山城ですが。浅田美代さんではないですか」
アキラは一瞬、番号を間違えたかと思った。
しかし携帯電話の番号は間違いなく記憶されている。
確かに美代ちゃんの声だったような?
「ハイわたし、浅田美代ですが。あの山城さんって方は存じ上げません」
「え~~僕ですよ。忘れたのですか?」
「ハイ忘れました。勝手に一人で旅に出て行った人なんか知りませんわ。ですから山城アキラさんなんて方は存じ上げません」
「あっいや、別にそんなつもりではゴメン怒らないで」
「いいえ許しません。私より大事なことがあるんでしょう」
「いや私の一番大事な人は美代さんです。本当です。怒らないで下さい」
「じゃあ本当かどうか、食事をご馳走してくれたら考えるわ」
なんと言う事はない、美代に少し意地悪されただけだった。
その日の夕方、二人は池袋の東口サンシャイン通りにあるイタリアン系のレストランで待ち合わせした。パスタが美味いと評判の店だ。アキラが約束の六時三十分より十分ほど前に窓際に席を取った。
アキラは確かに旅の間、あまり連絡していなかった。
考えてみれば、旅に出て居る間は新しく出来た仲間と盛り上がり美代の事はそっちのけ状態になっていた。美代の冗談の中にも本音が潜んでいたことは間違いない。さてどうして機嫌をとるか考えていた。
そして数分して、益々清楚な服装が良く似合う美代が現れた。
「お久し振りアキラさん」
電話の対応とはまったく違う態度だった。
思わずアキラは立ち上がって美代の為に椅子を引いてくれた。
うん? アキラもなかなか女性に対するのマナーも覚えて来たようだ。
アキラが立ち上がると周りの人は、つい見てしまう。
天井に頭がぶつかるのじゃないかと思うほどの長身は人の目を引く。
周りの客達には、アキラ姿がまるで大富豪の令嬢専用ボディガードのように映った。
確かにアキラの方は野獣的でボディガードには向いている。
アキラの風貌をみたら誰も寄ってこない。ただ一見では怖い感じだ。
しかし外見とは別に中身は素晴らしい好青年であるが他人は知る由もない。
「ご無沙汰しました美代さん。本当にごめんなさい」
「うっふふ冗談ですわ。アキラさんどんな顔するか見たかったのよ」
「良かったぁ機嫌直してくれなかったら、どうしょうかと思いましたよ」
「でも旅は良いとしても、ちっとも電話くれないですもの」
「すいません。つい色々とありまして、でも沢山の収穫がありました」
「その収穫って? アキラさん私には相談してくれないんですもの。聞いたわ。アキラさんの夢を真田さんから。私は聞いてないし淋しかったわ」
「いや考えたんですけど、美代さんとのデートにそんな話が似合わないと 思って、つい言いそびれてしまいました」
「そんな妙なとこに気を使わないで下さい。恋人同士だったら相手の事をなんでも知りたいものでしょう。だから少し淋しく思ったの」
アキラは頭の中を蹴られたような衝撃を感じた。
なんでも話せる相談する。それが恋人と言うものなのか。
女性との付き合いのないアキラは改めて女心を知った。
ただ労わるだけじゃなく、自分の心を伝えてこそ本当の愛なのだ。やはり美代は素晴らしい人だ。
「ごめん。これからは何でも相談するよ」
「ハイその方が嬉しいです。早速ですけどアキラさん旅館をやってみたいのでしょ。私も凄く興味があるわ。女性にしか出来ない事もあるでしょ」
美代が初めて旅館に興味を抱いた。アキラもまさか美代そう思っていてくれるとは想像もして居なかっただけに嬉しかった。これでは将来、美代は女将さんになってくれるのかなと、ふっと思った。
「あら何を考えていらしゃるの? 嬉しそうな顔をしているわ」
「あっ、いいえ何も」とは言ったが綺麗な瞳に見つめられドキッとする。
今、思った事を見抜かれたのかとアキラは苦笑いした。
「美代さん。僕の旅も無駄じゃなかったような気がします。その旅でね、熱海で旅館を経営している人と知り合って、懇意にして貰っているんですよ。以前話した、その旅館は松の木旅館と言うのですが、そこの主人と親しくなりまして今ではその家族と旅館の従業員の人達も親しく付合いさせて貰い暫く旅館の手伝いをしていたんです。今度一緒に行って見ませんか」
「もうアキラさん。その話は何度も聞きましたわよ。でもちっとも紹介して下さらないから行きそびれたでしょ。でも優しいから誰にでも好かれし人徳ですよねアキニさんは」
「あれ~~そうでしたっけ? 今度は間違いなく紹介しますから」
―――アキラぁボケたかあーーー
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.84 )
- 日時: 2020/10/28 23:44
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 83
でも優しいと言った。たが知らない人はアキラの優しさを知らない。
優しさを知るまでは、その怖い外見をクリアしないと誰も分からない。
「えっ? 優しいんですか俺が、いや僕が」
「ええ、とっても優しいわよ」
「それは誉め過ぎですよ。あの~都合が良い時で結構ですけど」
「熱海ですか、熱海は行った事はありませんが西伊豆なら何度も行っていますわ。アキラさんの都合は? 私は来週の土曜日なら宜しいですよ」
「本当ですか。あっあの旅館の人達に紹介するだけですからハッハハ」
アキラは思わず照れ笑いをした。
二人で温泉に行こうなんて言えば誤解を招きかねない。
その辺は美代も心得ていた。アキラなら紳士だと信じているからと。
「でも私なんか行って、ご迷惑をかけないかしら」
「とんでもないですよ。みんな歓迎してくれますよ」
「ハイじゃあ楽しみにしていますわ。その松ノ木旅館さんでアキラさん評判を聞くのも楽しみだわ。ふふっ」
「美代さん意地悪だなあ、でも少なくても子供には好かれていると思いますよ」
「子供さんって? その旅館のお子さんですか」
「ええ子供と言っても中学生で男の子と女の子なのですが、とても可愛いんですよ。そうだお土産を忘れないようにしな いと、どんなの買って行こうかな」
「あら子供さんのお土産? アキラさん今から一緒に買いに行きません」
二人は食事を終えて、お土産を買うにデパートに繰り出した。その二人のうしろ姿は幸せに満ちていた。日曜日の朝、アキラの愛車ランドクルーザーに美代を乗せて熱海に出発した。
今日の美代は普段見慣れない服装をしていた。なんと初めて見るジーパン姿だ。
清楚なお嬢様から何処にでも居る若い女の子に変身していた。
アキラは相変わらずラフな服装だが長身にピッタリと似合う。着こなしも、なかなかのものだった。後から見たら均整のとれた男らしく逞しく感じるのだ。ただ後からだが? 車は湘南バイパスを左に海を見ながら走る。
アキラは滅多に高速道路は使わない。ゆっくり走るとその地方の景色を楽しみたいらしい。車の窓を開けると潮風が心地良い。六月にしては晴れていて夏を思わせる日差しが強い。
「アキラさん気持いいわ。やっぱり海は最高ですわね」
「あっあっそうですね美代さん」
ーーーうんうん本当に嬉しそうなアキラ。ドジをするなよーーー
「ねえアキラさん旅館を選ぶとしたら、どんな場所と思っているのですか」
「そりゃあ海が良いですよ。ただ僕の予算からして廃業した旅館物件を探さないと無理ですかね。ただ廃業した旅館を手入れしてオープンしても以前の悪いイメージが残っているし、折角オープンしても繁栄するのか難しいですよね。かと言って条件の良い場所に新築なんて言ったら規模にもよりますが五億円いや十億円でも駄目でしょうね」
「まあ、そんなにですか。銀行の融資ではそれなりの担保と実績がないと難しいと思いますわ。私の勤めている銀行も査定が厳しくなりましたから」
美代は別に落胆するような事を言うつもりはないが、現職の銀行員だ。
ここでお世辞を言って期待を持たせるような事は返って酷と思ったからだ。
可愛い美代ちゃんも、融資の話が出た途端に一人の銀行員になっていた。
「そうですよ。簡単に旅館をやりたいと言っても問題は山ほどありますから でもまだ若いですから一つ一つクリアして行けば楽しいですよ」
「私もそう思います。例えは良くないですがゲームだと思って難問をクリアして行けば……私もそのゲームに参加出来ますか?」
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.85 )
- 日時: 2020/10/29 20:22
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 84
ーーー「参加出来ますか」と来たもんだ。その意味するものはナニーーー
そのアキラの驚きは後にして、車はやがて熱海市内に入った。
熱海の海岸添えから繁華街に入って坂道を登ると松ノ木旅館が見えて来た。
「わあ! 素敵な旅館ですね。落着いた感じで老舗てっ感じがしますわ」
時々、浅田美代の語尾が上流階級の言葉に聞こえて来るが何故だろう?
今のアキラは上品な言葉を使う女性だなとしか受け取っていなかった。
しかし美代自身は幼い時から、そんな言葉使いだったので特別、上品な言葉だとも思っては居なかったのだが。いずれ浅田美代がどんな環境の家で育ったか明らかにされるだろう。
「さあ美代さん着きましたよ。いま女将さんに挨拶に行ってきます。ちょっと待っていて下さい」
そう言ってアキラは旅館の裏口の方に入って行った。
アキラと一緒にオーナーの宮寛一と女将の貞子が笑顔で出て来た。
「まあ遠い所をお疲れ様です。アキラさんには本当に世話になっているのですよ。さあさあ中に入って下さい」
女将が美代ににこやかに話かけた。宮寛一も同じくニコニコと話かける。
「どうもどうもお疲れさまです。どうぞどうぞ中へ入って下さい」
やっぱり似た者夫婦、言う事が同じだ。
松ノ木旅館のオーナーと女将は、浅田美代を心より歓迎してくれている。
アキラも美代もそれは充分に感じとれた。
「紹介します。こちらは浅田美代さん東京の方で親しくさせて貰ってます」
「初めまして浅田美代です。凄い素敵な旅館ですね。山城さんからはこちらの皆様のことを色々伺っております。外国の方ならきっと、こちらの旅館なら日本の文化に触れられる気分になるでしょうね」
「えっ外国人ですか?」
女将とオーナーの宮寛一は何か感じるものがあった。 挨拶の返事も忘れて女将と寛一は顔を見合わせた。
アキラもそれは同じだ。一瞬、場が静まったことに、美代は何かいけない事を言ったのかと。
「あの~~私……何か失礼なことを申し上げたのでしょうか?」
寛一が慌てて否定した。
「あっいいえ申し訳ありません。我々が考えもしなかった事をお聞きして、正直ハッとしました。いやあ参考になります」
美代が挨拶に合わせて思ったままの事を言ったのだが。
アキラも其処までは考えが及ばなかった。それを没頭でズバリと言って退けた。
美代は、失礼なことでは無さそうだと安堵したが自分の言ったことに、三人は明らかに様子が変わったことは確かだが。美代は怪訝な顔でアキラを見る、それにアキラは応えた。
「美代さんは今、凄いヒントを与えてくれたんだよ。それに宮さんと女将が気づいたと思うよ。ねえ女将さん」
「ええ、アキラさんの言う通りです。いま熱海は昔のようにお客さんが来てくれません。特に若い方は古い旅館は余り足を向けてくれませんし浅田さんが外国の人ならと言われて正直ドキとしました。そんな事は考えもしなかったわ。なんとかして東京方面のお客に来てもらおうと、日本人を対象にしか考えていませんでした。私達のような日本旅館なら年配の方が喜んでくれるとばかり考えていましたのよ」
女将は途中で話を止めて、美代とアキラにお茶を勧めニコリと微笑む。
「あらあ? 私本当に失礼な事を申し上げたのかと思いました。私は素人ですから、どうしても客の側から見てしまいますので」
そこにオーナーの寛一が口を挟んだ。
「いや一番大事な事は、お客様が何を望んでいるかと言うことです。私達は外国人なんて滅多に泊まってくれませんし、来ても英語か苦手で対応仕切れないから来なくてもと思っていました」
アキラはその話を聞いていて相槌を打った。
「美代さんの言った事は俺にもいや僕にも成る程と思ったよ。そうだ宮さん、これからは旅行社に外国の斡旋を頼みましょうよ。それにホームページを作って外国の人にアピールしたら受けるよ」
つづく
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