ダーク・ファンタジー小説
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- 宝くじに当たった男
- 日時: 2020/07/09 17:30
- 名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)
宝くじに当った男 1
第一章 成金になる
(はじめに)
誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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第一話 どうせ駄目な男
物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?
コンコン「失礼します」
「おっ山城君ご苦労さん」
そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。
「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
山城はハァと言うのがやっとだった。
やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
いやここで褒めてどうすると言うのだ。
たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。
もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.71 )
- 日時: 2020/10/05 19:59
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 70
確かに宮寛一は立派な旅館の社長だ。しかし宮寛一はどうしても意識する。なんたってアキラから五千万の融資がなかったら倒産していたかも知れないのだ。その点では今もアキラは宮寛一の大恩人に変りはないが、やはり此処は宮寛一の城、従業員から見れば立派な社長である。
「アキラさん……どうしんだい急に社長だなんて呼んで」
「いっいや俺はまだ人生経験少ない若造だしハッハハ」
とアキラはつい、照れ笑いして誤魔化した。
「あのさぁ、アキラさん気を使わないでくれよ。今まで通りの宮さんの方が、互いに気が楽で良いのだけどなぁ」
宮は嬉しそうに話した。年が離れても宮は遠慮して欲しくなかった。
そんな話をしている所へ、女将の貞子が入って来た。
「あらっ? どうしたのアキラさん」
丁度、照れ笑いしている所へ、女将が興味津々で問い掛けた。
そんな話を宮寛一は笑いながら女将で妻である貞子に説明した。
「あらっアキラさん今まで通りでいいのよ。アキラさんらしくね。そんなに気を使って貰ったら、こちらこそ大恩人に頭が上がらないわよ」
だいたい年上の人に敬語を使うのは当り前だが、やはり同様に敬語なら「俺」より僕の方が正しいだろう。
慣れない敬語にアキラは(俺)と(僕)で苦労していた。
「アキラさんの気持ちは嬉しいわ。でも気を使わないで下さいね。その方が自然ですから 今まで通りで行きましょうよ。ねぇ貴方」
と夫の寛一にも女将は同意を求めた。とにも、かくにもアキラは松ノ木旅館に完全に受け入れられていた。それからアキラは久し振りに恭介と話ことが出来た。
「お帰りなさい。アキラさん」
この恭介もまた、アキラの魅力に惚れ込んでいた一人だ。
それ以前にチンピラに脅され多大な借金を背負わされ自殺しようとした所を助けられ、オマケにチンピラと戦い借金も返済出来た。今では兄のように慕っていた。
「よう恭介、女将さんと社長が凄く褒めていたぞ。料理が美味いってな、何かの間違えじゃないのか」
「またまたアキラさん。相変わらず口が悪いんだからハッハハ」
「処で恭介は調理師免許持っているのか?」
「勿論です。夢を叶えるには最低条件ですからね」
「そうか大したものだ。見直したぜ」
今宵は恭介、女将に寛一とアキラ。久し振りの笑いの耐えない夜だった。
アキラは恭介の思いがけない料理の素質に驚いた。人は見た目だけでその人物の評価を決め付ける事が出来ないと改めて知らされたアキラであった。
それなら俺だって、自分にさえ分からない能力を秘めているのじゃないかと。しかしアキラは今、心の中でその力が育っていると思い始めたのだった。それから約一ヶ月間、アキラは松ノ木旅館の手伝いをしていた。そんなある日の事だった。三十数名の団体客が入っていた。それも今日は旅館を貸切だと言うことだが、その日の夕刻その団体客が大型バスで松ノ木旅館の玄関に到着した。
なんでも十日ほど前予約した高知からの団体客と言う事だったが。
久振りに大勢の団体客とあって、宮や女将など総出で出向かいた。
なんと! その団体はどこから見てもソレ(ヤクザ)と分る風体の人達だった。
最初に三十名の男達がバスから降りると、大型バスの出口を挟んでキチンと整列して最後に出てくる人間を出迎えた。
松ノ木旅館の人達はその様子を見てアッケに取られたのをよそ目に見事な大島紬かと思われる着物を流暢に着こなして、キリリとした眼差しで辺りを見回した。男どもが軽く頭をたれる中を颯爽と歩いた。
その時、宮や女将は相手を確認しないで予約を入れた事を悔やんだ。松の木旅館の人達は、大変な事になったと身体が凍りついた。宮寛一と女将はその、脳裏に浮かんだのは?
(こんな時、アキラさんが居てくれたら、どんなに心強いか)
しかしなんと間の悪いことか、当のアキラは伊東の方へ視察に行っていた。
アキラは幾らでも沢山の旅館、ホテルに泊まって見ておきたかった。
毎日のように泊まり歩いたら大変な金額になるが今のアキラは多少の支出にしか過ぎない。なにせ成金様である。あの塩原温泉の名もない、小さな旅館の露天風呂そして、あの清流とで言うのか、きれいな小川が頭から離れない。熱海にあって、塩原にないもの? 塩原にあって熱海ないもの、なら他所の地ならまだ何かあると他人から見れば、ただの浪費と思われる旅館の渡り泊まり。アキラは人がどう思うか気にしない。今またひとつ見え始めたのだ。
一方、松ノ木旅館全体の空気が、凍りついたままになっていた。
松ノ木旅館の予約表には(貸切、代表 坂本愛子様御一行)と記されていた。しかし松ノ木旅館の女将は一瞬、心の中でハテ何処かで聞いたような? と感じたが勘違いとすぐに思い直して従業員達に笑顔で目配りした。従業員もハッと我に返りいつものように、その一行を出迎えた。女将は松ノ木旅館の玄関で改めて、その代表者に深々と頭を下げた。
「本日は遠い所を大変お疲れさまでした。当、松の木旅館へようこそ、いらしゃいました。どうぞ旅の疲れを癒して下さいませ」
と丁重に女将の挨拶が、その代表と団体に笑顔が振り注がれた。
「女将さんですか? 今日はお世話になりますよ。驚かれたでしょう。どうも人相の悪い者達で申し訳ありません。まあそんな訳もありまして貸切でお願いしたのですのよ」
「滅相も有りません。何か粗相がありましたら、お許しください」
代表者の坂本愛子に丁重に挨拶されて、女将は心の中を見られた思いだった。
その一行を向かえ入れて、松ノ木旅館は宴会の準備で慌ただしくなった。
宮と女将は、あの女性の貫禄には驚いた。これが本物の貫禄というのだろうか。
その筋の者達と思われる男達を束ねる女性。並の男だって出来はしない。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.72 )
- 日時: 2020/10/06 22:46
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 71
竜馬隊一行が一風呂浴びて居る頃、その坂本愛子が女将の側にやってきた。
「あのう女将さん、実はこちらの旅館を指名したのは訳がありまして」
「はぁ? それと申しますのは」
女将は訳があると言われて、またビックリ。まさか夫が他にも内緒で金を借りて大勢で押しかけて来たのではと少し頭をよぎったが。とは言っても当の旦那の宮は、その側で一緒に坂本愛子の話を聞いていた。
宮からも金を借りて怯えるような、また驚いた表情はしていない。
なら松ノ木旅館と、この女性や団体となんら関わり合いがないのだが。
そんな大騒動? いやまだなってはいないが、そこへアキラが帰って来た。
「実は女将さん。こちらに山城旭さんが居ると伺っておりますが、今も元気で居りますか? 以前に私の友人が大変お世話になりまして、なにせ私どもはご覧の通りの渡世人ですので……山城さんが気にする事なく来て下さいと声を掛けて頂き山城さんの言葉を信じ、それではと今日になった次第ですのよ」
「まぁアキラさんのお知り合いでしたか、あの方はすぐ人を魅力の虜にする所がありますから」
「そうなのですよ。私の友人も彼に助けられ懐が大きくてね。私どもはこう云う家業で、何処にでも泊まれる訳でないので貸切なら他の客にも迷惑かかないし山城さんの紹介なら快く泊めてくれると思いましたね」
アキラも今日は貸切の団体客が泊まるのは知っていたが、まさか坂本愛子が率いる「竜馬隊」とは知らなかった。
アキラが松の木旅館に入ると、仲居達みんなが緊張した表情で、せっせっと夕飯などの準備に追われていた。
一生懸命なのは分るが、それにしても緊張し過ぎているなぁと感じた。
そんな時に泊り客が浴衣姿で、大浴場からあがって来た所に三人ほどの若い衆が談笑しながら歩いて来た。アキラはひと目で分かった。なるほど緊張する訳だと思った。その三人の若い衆はアキラと目があった。
「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり」とアキラは客に挨拶した。
その百九十八センチと長身の男を一度見たら忘れなれないアキラの風体。三人は、あっと驚きの声を発した。
「あっ? あんさんは山城さんだったよねぇ隊長が逢いたがっていますよ」
「えっ隊長……まさか高知の」
「まぁ大きな声じゃ言えませんがね。竜馬隊です。へぇ」
「そうかい、それは御丁寧に早速挨拶に伺わなければなぁ」
みんな一風呂浴びてリラックスしたのか、旅の疲れも取れて笑顔だ。
宴会場の準備も出来た。どこでもそうだが代表者の挨拶が始まり乾杯の音頭と共に宴会が始まるのが恒例だ。ここでは勿論、竜馬隊を牽きいる坂本愛子の挨拶から始まった。ただし無礼講はこの世界ではご法度である。上下関係は絶対である。
アキラは早速、女将の所へ駆けつけた。さぞかし驚いているだろうと。
そんな女将はアキラと会って、その話しで苦笑した。
最初は身が凍りつく程、驚いたが自分の取り越し苦労と分って安心したと。
冷静に考えてみれば、その竜馬隊は物静かで、なにひとつした訳でもなく、ましてや坂本愛子は、丁重な挨拶までして安心させている。女将は外見だけで判断した自分を恥じていた。
「やぁ女将さん、僕もいま知って驚いてますよ。以前にある人を連れて行ったら其処(高知の竜馬隊)だったんですがね。なんでも明治時代から、あの坂本竜馬の末裔と言われて今では珍しい任侠の人達で義理と人情が売りの人達ですよ。来るなら言ってくれればいいのに」
「私もビックリ怖そうな感じの方達なもので、でも坂本様は丁寧に挨拶されて私の方が逆に失礼したのじゃないかと」
「なぁに女将さん気にする事は有りません。あの人も分っていますよ」
宴会場では坂本愛子の挨拶も終り、宴で若い衆も盛り上がっていた。
アキラは宴会場の襖を控え目に静かに開けたが、しかしその身体は控えめじゃなく、目立つ過ぎて皆がアキラの方を向いた。
「失礼します。本日は遠路ご苦労様です。いつぞやはお世話になりました山城旭です。隊長始め皆さん、お懐かしゅう御座います」
「いよ~~~山城さん逢いたかっぞ」
大広間から誰となく歓声が起こった。
アキラは大きな身体を控えめに隊長の坂本愛子の所へ挨拶に向った。
「隊長さん、お久し振りです。ご苦労さんです。変りありませんか」
「本当ねぇ、突然みんなで押し寄せて悪かったわねぇ。ほら昨年暮れに、こちらに遊びに来てと、年賀に書いてあったでしょう。丁度こちらの方で会合があったので、若い衆を慰安旅行に連れて来た訳なのよ。もちろん家の家業(テキヤ)でも一応、株式会社なのよ」
「いやぁ本当に嬉しいですよ。でっあの松野さんは元気でしょうか?」
「早紀のことねぇ、早紀は旦那の所へ帰ったわよ。その旦那がね、私の所へ来て頭を下げ早紀を優しくするからと言って笑っちゃうわよ」
「そうですか安心しました。でも俺、悪役になったかなぁ」
「そうねえ、その点では私も同じよ。でも遊びに来てと、貴方に言ってたわ」
「とんでもない俺は旦那の子分を痛めつけたから敵役ですよ」
「そんな事ないわよ。貴方は早紀の為にした事なのだから、それでも貴方を早紀の旦那が、逆恨みするなら仁義に反するじゃない。早紀もその点は分っているし、もしそうなら私が黙ってないわ」
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.73 )
- 日時: 2020/10/10 17:50
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 72
この竜馬隊は仁義を大事にして、これ迄やって来た。例え誰であろうと仁義に外れた事をしたら総力を挙げて戦う集団であった。さすがに女とは言え、度胸と貫禄を兼備えた坂本愛子だった。アキラは改めて坂本愛子の、その心意気が好きになった。それからアキラは、竜馬隊一向と共に飲み宴会を盛り上げた。しっかり意気投合した竜馬隊とアキラだった。
翌日アキラはその一行の観光案内役を引き受けて伊豆の観光地を廻る事にした。
なにせ竜馬隊一行は、ほとんどが関東地方は初めてらしく見るもの聞くもの珍しく子供のように喜び楽しんだ。
しかし見るからにその外見は、どう見ても堅気には見えない。どんなに愛想を振舞いても偏見を持つなと言っても、これは仕方のない事だ。何はともあれ一行は伊豆の観光を堪能した。
アキラも彼等とは意気投合して、その帰りに伊豆近海の伊勢海老などダンボール五箱分も彼らに、お土産として無理矢理持たせた。彼らもアキラの観光案内やら気配りに感激して必ず高知に来てくれと、中には泪さえ流してアキラとの別れを惜し者もいた。
短期間の間に、それも怖いお兄さん達の心を掴んだアキラ。
彼らはアキラを同類と見込んだのだろうか、それともアキラも、その道に憧れた訳じゃないのだろうか? その別れ際に坂本愛子は言った。
「山城さん、貴方って人は凄い人だわ。人を惹き付ける力があるのね。若い者が本当にお世話になりました。私からもお願いするわ。かならず高知に遊びに来てくださいな、私に出来ることなら、いつでも相談に乗るわよ。楽しみにしていますよ。ありがとう」
坂本愛子から最大級の賛辞を送られ、竜馬隊一行は伊豆を後にした。
これまでのアキラと人の出会いは、アキラの柄に合わない優しさに触れ当の本人は気が付いて居ないだろうが、確実にその輪を広げていった。
アキラは高知の竜馬隊の人達と、ひと時の再会を喜び気分良くしていた。
アキラはいま自由の身、特に松の木旅館から給料を貰っては居ないが、それでは申し訳ないと云うので小遣い程度を貰っている。そうする事により双方が気兼ねしなくて済むからと。あとは好意と勉強の為に手伝っていた。
今アキラは おぼろげながら少し自分が望む世界が見えて来た。
つづく
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.74 )
- 日時: 2020/10/11 20:53
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 73
そこで東京に戻り、真田小次郎に相談に乗ってもらう為にやって来た。ここは池袋の東口、デパート横の路地。夕暮れ時は占い師や易者の稼ぎ時、真田小次郎は会社帰りのOLなどを相手に手相を見ている。
「ほう、お嬢さんいい手相をしてなさる。これは占い冥利に尽きるね。今週は運がありそうだ。ホレッこの線が延びているでしょう」
とっ真田は若いOLに説明していた。そのOLは言った。
「おじさん調子良い事ばかり並べて本当なの? まっいいわ、信じるわよ」
OLはご機嫌で夜の街の中に消えて行った。
「すみません。俺のも見てくれるかい事業に成功するように占ってくれよ」
ヌーっと大きな手が真田の前に置かれた。
「お客さん、この手の大きさだと料金が三倍になりますが」
まさにア・ウンの呼吸で二人は冗談を交えていた。
「とっつあん相変わらず若い娘には調子いいんだからハッハハハ。あとで、ちっともいい事なかったわよ。なんて事ないのかい」
いつものアキラ流の毒舌で再会し、その夜また二人は居酒屋と消えた。
アキラは各地の温泉で感じたことを真田に語った。
「でっアキラ。旅館経営でも始めたいと思っているのか」
「いや始めたいと言うよりも、始める場所も資金がないよ」
「アキラが本当に旅館業を考えているなら応援するぞ。あの相田さんも、きっと応援してくれると思うよ。おまえの事を余程気にいってるらしいから」
「それは有難いなぁ、俺みたいなのに気に掛けてくれて」
アキラは不思議でならなかった。あの西部警備には少ししか居なかったのに、どうして其処まで気遣ってくれるのか。
「旅館かぁ、今のこの不景気の中で商売を始めることは大変だぞ。しかし若いんだから夢は持たなくてはいけないしなぁ」
「やっと自分がやって見たい事に気付いたようで、でもなぁ素人が無謀な挑戦かも知れないけど、もっと時間を掛けて考えて見るよ」
「そうだよアキラ、時間はタップリとあるんだ。もっと勉強してもっと沢山の旅館を見て参考にするのもいいだろうよ」
確かに松の木旅館を見て、そして他の旅館と比べても一長一短があった。福島の露天風呂とか、きれいな川が頭から離れないでいた。もし、これから本当に旅館業を始めたいのなら、もっと沢山の旅館を見て勉強しなくてはならない。
そして資金繰りは別としてどんな場所が良いのか、お客さんに喜ばれるには、どうすれば良いのかまだまだ沢山の課題が残っていた。
占い師で元教師の真田小次郎にヒントを貰ったアキラは、もっと全国の旅館を見て歩く事にした。
海外も考えたけど、やはり日本の旅館形式の良さを頭に描いていたアキラだった。
真田と別れたアキラは旅に出る前に、どうしても二人の女性に逢って、それから旅に出る事にした。ちょうどこの時刻だと母の居酒屋も閉店している頃だ。居酒屋が見えてきた。ちょうど母、秋子が店のノレンを片付けている所だ
「かあさん。元気かい」
「あらっアキラ久し振りだねぇ」
そんないつもの会話で始まった。久し振りの親子の再会だった。
母には、自分がやってみたい夢を話した。
「アキラ、目的があるならやってみればいいよ。若い内だよ。夢を持てるのは」
そういってくれた母の言葉で決意した。最後にもう一度旅に出ようと。
夢の始まり 終り
次回 第6章 能登編
- Re: 宝くじに当たった男 ( No.75 )
- 日時: 2020/10/14 22:19
- 名前: ドリーム (ID: b/MgcHYQ)
宝くじに当たった男 74
第6章 能登編
その翌日に正真正銘の恋人、浅田美代子と逢っていた。
なぜ正真証明かと言えば、あの料亭での愛の告白までアキラは「友達でいましょう」なんて言われる懸念があったからだ。だが浅田美代はアキラの想像の域を超えた返事をくれた。真田と相田社長公認で将来を誓いあった仲なのである。
いわば婚約者に近い。いまや最愛の人、浅田美代だ。そんなアキラの顔は、厳めしい顔と巨大な体格に似合わない笑顔で美代と談笑していた。
「え~~? アキラさんまた旅に出るのぉ」
「ゴメンどうしても沢山の旅館や施設や環境など見ておきたいんだ」
美代は少し拗ねた顔をして言った。
「アキラさん、私はどうなるの置いて行くきなのね」
「いや、あの~~出来れば一緒に……でも美代ちゃん会社もあるし、それに美代ちゃんが両親になんて説明するのかと考えたら誘いにくいし」
アキラは美代に迫られて焦ったが、こんな宛てのない旅に美代を誘えない。
「冗談よ。アキラさんらしいわ。真面目なのね。普通の男の人だったら相手の都合より自分の都合に合せたがるのに、そんな処が好きよ」
「なっなんだぁビックリしたなぁ怒ったかと思ったよ」
「え、私が怒ると怖いの?」
「そりゃあ怖いよ。美代ちゃんが怒るのが、この世で一番怖いよ」
「でもアキラさん。私もう子供じゃないわ。会社をどうするかや両親を心配させないくらいの行動は心得ているわよ」
アキラは、これからの計画と夢を美代に熱く語った。この旅が終わったら、その夢を実現の為に美代に協力して欲しいと、つまり将来は美代に旅館の女将になって欲しいと告げたのだった。美代も心得ていた。それほどアキラの心が読めるようになったのだ。もう此処までくれば二人の仲は本物だ。
最愛の恋人、浅田美代にしばしの別れを告げてアキラは旅支度をしていた。
最初に南は四国まで北は東北北海道へ、大ざっぱだが車で日本国内を周った。
でも日本だって広い日本海の方はまだ行っていない。念入りに各地を見るとなると大変な月日が掛かるのだが。今回の予定は、まず長野、新潟から日本海を南へ石川から能登半島、福井へと山陰、山陽を周って、あわよくば瀬戸内海を渡り福岡から九州に入ろうかと決めていた。ただ途中で変わるかもしれない。
其処はアキラ流であり、その時次第と言う事らしい。
アキラは松の木旅館に電話を入れて、また旅に出る事を告げてアキラの子分? いや将来アキラの右腕になるであろう山崎恭介にも、なんの為の旅か説明した。
恭介は今、松の木旅館の為に働くが将来は何があってもアキラに着いて行くと、くどい程に何度も聞かされている。今度ばかりはアキラも責任を多いに感じている。
勿論、自分の為でもあるが恭介にも夢を与えたい。
そして恋人、浅田美代との将来設計も含めてアキラを後押ししてくれる人の為にも、期待に応えてアキラは男を上げたかった。そして朝から旅の準備に追われていた。
つづく
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