ダーク・ファンタジー小説

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宝くじに当たった男
日時: 2020/07/09 17:30
名前: ドリーム (ID: Oj0c8uMa)

宝くじに当った男 1
 第一章  成金になる  

(はじめに)
 誰でも一度は宝くじを買ったら億万長者を夢に見る事でしょう。
 この物語は体格に恵まれたものの、その才能に目覚めずに宝くじが当ってしまった男が、どう変貌して行くのか? そんな波瀾万丈の物語です。
 人間の脳細胞の働きは、一生に十%程度しか一般の人は使われていないと言われております。
 当然残りの九十%は使われられぬままに生涯を閉じてしまう事になります。
 自分は平凡な人間であり、人より劣ると思っている人もいるでしょう。
 もし自分の脳細胞があと一〜二%でも向上していたら人生は変わるだろうか。
 東大を主席で卒業しノーベル賞も夢じゃなくなるかも知れません。
 誰にでも運はあります。きっと彼方にもチャンスが来ます。
 それでは主人公になったつもりで読んで戴ければ幸いです。
 人間は進化する生き物です。(いつどこで目覚めるか)これはロマンです。
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 第一話  どうせ駄目な男

 物語は平成十七年携帯にワンセグが付く頃から始まる。
「山城くん。ちょっと総務部に行ってくれないか部長がお呼びだ」
 課長に言われて山城旭は嫌な予感がした。
 気が進まなかったが、総務部の部長の所へ重い足取りで歩いて行った。
 重いはずだ。体重が九十八キロの巨漢である。それでも痩せて見えるのは何故?  
 コンコン「失礼します」
 「おっ山城君ご苦労さん」
 そう言われて総務部の奥にある応接室に通された。
 部長と山城の前に、お茶が運ばれて来たが、どうも飲む気にはなれない。
 お茶を持ってきた総務の女性社員が帰り際にチラリと山城を意味ありげに見た。
 その眼は、あぁ可哀想にこの人も……と、そんなふうに山城には思えた。

 「山城君。最近どうだね? 実は……相談なのだが、いま我が社も景気が悪くてねぇ、我が社を船に例えると、このままの状況が続けば座礁しかねないんだ。そんな時に君みたいな将来性がある若者を会社の犠牲にはさせたくないと思うのだがねぇ」
 予想はしていたが目の前で言われて一瞬、頭が真っ白になった。だが無情にも部長の言葉は続く。
 「どうかね。ここはひとつ心機一転して新しい仕事に就いてみてはどうかな? でっ私の知り合いの会社なのだが、行ってみる気はないかね。先方も歓迎すると思うがね」
 山城はハァと言うのがやっとだった。
 やはり総務部長だけあって、話しの切り出し方が上手い。
 いやここで褒めてどうすると言うのだ。
 たとえ山城が『いや、この会社で頑張らせてください』と言っても多分、無駄だろうと、いうことくらいは山城にも分かる。
 最後に部長は紹介先の会社案内と紹介状を渡してくれたが、それは建前だろう。
 山城は大学を中退して中途採用された。いわばウダツの上がらない男だ。
 そんな自分が一流企業に入れたのは奇跡のようなものだった。やっぱり俺見たいな奴は経営が悪くなると真っ先に切られる運命なのだろう。
 言われるまでもなく自分でも認めていた。会社では特に落ちこぼれとまでは行かないが、この会社にあと三十年勤められたとしても、万年係長止まりだろうと自他ともにそう思っている。
 山城は腹を決めた。(必要とされていないなら辞めてやる!)
 もし部長のお情けに縋って、勧められた会社に行っても建前の話だ。
 『いやあ悪い悪い確かに紹介は受けたがね。バイトならなんとか』
 まぁ良くてそんな話になるだう。後は半年もしない内に契約切れで終り。
 取り合えず再就職先を探してあげたから一流企業としても面目が立つ訳だ。 
 もっと惨めな思いをするだけだと山城は思ったのだ。そしてこの男の波乱万丈の人生は、ここから始まるのだった。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.76 )
日時: 2020/10/15 22:43
名前: ƒドリーム (ID: b/MgcHYQ)

宝くじに当たった男 75

 その時、アキラの部屋のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?
 忙しいのにと、やや不機嫌な声で応答した。
「ハイ、どちらさんでしょう」
「こんにちは美代です」
 なんと予想もしなかった。浅田美代の訪問だった。
「美代ちゃん~~あれ~どうしたの? びっくりしたなぁでも嬉しいよ」
 あの不機嫌は何処へやらアキラは、なんともデレ~とした顔で部屋に招き入れた。
「ごめんなさい。なにか手伝う事ないかなあと思って来たのよ」
 なんと思いもよらない美代の訪問にアキラは嬉しくなった。
「実は何を揃えようかと考えていたんですけど、さっぱり分からなくて最高の助っ人だよ。本当にあり難いなぁ」
 二人は顔を会わせて、ニンマリと笑った顔が幸せに満ちていた。
「それなら今から旅に必要な物、買いに行きません?」
「あっそれはいい。では早速行きましょう」

 女性でなければ気が付かない旅に必要な物を次々と美代は選んでくれた。
 例えば医薬品や着替えや日用品など、そして最後に進めてくれたのはノートパソコンだ。アキラも大学中退とは言えパソコンは使える。勿論今時パソコンを使えなかったら仕事にも就けないが今はパソコンを使うのは最低条件だろう。
 昔はソロバンさえ習えば就職に有利とされた時代ではない。世の中は大きく変わって行く。今の時代、無線回線を利用すれば全国どこからでもインターネットに接続出来るのだが。バッテリーは車からでも供給出来るので問題がない。アキラも其処までは考えてなかったが、それにより美代とはいつでもメール交換が可能で、デジカメで取り込んだ写真を即送れる。なんとも便利な時代になったものだ。
 携帯も沢山の機能は付いて居るが(この時代スマホはまだ先の話)、やはりパソコンが使えるならベストだろう。この時代まだ携帯電話は一人一台まで到ってなかった。拠ってノートパソコンを外でネットに繋ぐ場所は限られていた。

 アキラの自慢は車を改良してキャンピングカーとは云わないが寝泊りが出来、テーブル付いて、家庭用の電源も車から供給出来る動くオフェスだなのだ。
 アキラと美代は買い物も揃えて終えて、一段落して美代が入れてくれた珈琲を二人で飲んだ。これまで美代とのデートはレストランで食事する事が殆んどだったが、こうして日用品など一緒に買うのは初めてだった。
まるで新婚さんが、これから家庭で使う日用品を揃えるような気分でを味わった。近い将来こんな日が来れば酔いとアキラはデレ~と想像していた。
 それは良いが、これから暫らく逢えない。二人はマンションに戻り一息した。
 二人の目がなんとなく合った。黙って見つめる。それは無言の言葉だった。
 自然の成り行きか二人は熱いキスを交わし、しばしの別れを惜しんだ。

 翌日の早朝、アキラは関越自動車道を走っていた。
今回は高速と気が向いたら一般道を走るもりだ。夕刻までには宿を取りたいので午後四時には日本海を走っていた。枕崎を過ぎて糸魚川市に入って来た。JR線が海側を走っている。その糸魚川の先に青海町がある。そこには変った地名があった。
 親不知、子不知(親知らず、子知らず)と読むらしい。
 その親不知の海岸を通り過ぎて時間を見たら もう旅館の予約を取らないと夕食にあり付けなくなると適当な駐車場を見つけて停車した。
 こんな時になって、浅田美代の顔を思い浮かべて有難いと思った。
 幸いバーガーショップでネット回線が繋がるようだ。
 さっそくノートパソコンを取り出してネットに繋いで、適当な旅館を調べて携帯電話で予約を取る事が出来た。場所は富山県の魚津市付近。特に宿の質に拘る事もない。予約した旅館は海の側の民宿旅館らしい。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.77 )
日時: 2020/10/19 09:09
名前: ƒドリーム (ID: b/MgcHYQ)

宝くじに当たった男 76

 富山湾は、もう日が落ちかけて海面が夕陽で赤くそして黒く染まりつつある。その民宿は海が目の前にあった。民宿の玄関は宿と言うより一般の民家のようだ。宿主は元漁師が経営しているらしい。年は五十後半と言った処か、いかにも漁師を思わせる感じの男が応対した。
「お疲れさんです。え~と予約のお客さんですか」と尋ねた。
「ハイ、先ほど電話を入れた山城と言う者だけど」
「あぁ、それはどうもお疲れさんです。どうぞ二階の方に部屋を準備させて頂きます。お客さんは釣り客? じゃなさそうですね」
 どうやら此処は釣り宿のようだ。多分民宿で用意した釣舟で富山湾に朝早く出るのではないかとアキラは思った。

「いや生憎ですが、車で旅を続けている者なんです」
「あっそれは失礼、ウチは釣に来る人が殆んどなものでねぇ、お客さん東京から? それにして大きな方ですなぁ、いやいや余計なことを失礼しました」
 その大きいは、もうアキラは耳にタコが出来る程聞いた言葉だ。初めて会った人からは挨拶代わりに言われる。勿論、逆に背の低い人なら「小さい方ですねぇ」とは言わない。アキラも分かっている。誉め言葉と受け止めて置こうと。
 小学生六年生の時には百七十五センチの身長があった。母も百七十センチの長身だ。その血が受け継がれている。小学生の頃から大きいと呼ばれて来ているのから慣れっこだった。

 案内された部屋は、なんと六畳とかなり狭かったが仕方がない。
 ある程度は予想していた事だ。一泊二食付きで五千円だ。アキラが板橋で借りていたアパートと殆んど変わらないが外には海が見えるだけマシと言うものだ。
 船宿には泊まった事はないが食事は海の幸を豪勢に出してくれるので安いくらいかも知れない。両隣の部屋からは、釣仲間達だろうか釣談義が聞こえてくる。アキラは多少うるさく感じたが盛り上がっている所へ水を射すつもりはない。ところが盛り上がり過ぎたのか罵声が聞こえて来た。どうやら数人で酒を飲みながら釣の自慢大会となったのか?
 酒の勢いか? 勢い余って口論なのか何やらドスンドスン、バシッっと厳しい罵声と一緒にアキラの部屋まで振動が伝わって来た。こう言う時のアキラは敏感だ(ほう~始まったな)とニヤリと微笑んだ。
 どうやらアキラが現れると何か騒動が起きる。またまたアキラの大岡越前なみの裁きが今回も始まるのか。
 持って生まれた巡り合わせと言うのかアキラの運命かアキラの人生に欠かせない揉め事騒動は、大好きな御馳走なのである。

 その御馳走が? 今アキラの据膳にどうぞ、とばかり出されようとしていた。
 いよいよ激しくなって更にアキラの部屋に音と振動が響き罵声が凄くなった。
 アキラも折角のご馳走だ。主役は出番のタイミングが重要だ。ここぞっと、ばかりアキラの登場と相成った。もう毎度馴染みのパターンである。アキラは隣の部屋をノックすると同時に、その襖を開けた。その部屋には五人が居た。みんな釣り仲間なのだろうか。なんと喧嘩をしている二人のうち一人は刃物を持って殺気が漲っていた。
 他の三人はなんとか止めようとしているが、刃物を持っていて近づけない。
 一方の喧嘩相手は、刃物まで持ち出しとは思わなかったのかオロオロと相手の出方を伺っている所だった。
 その三人は部屋に大男が入ってきて少し驚いて『なんとかしてくれ』とアキラを見る。その眼が刃物を持っている男の方へ視線を送った。
 アキラはあの時の事が頭に過ぎった。それは銀行の警備員をしている時の事だった。
 あの時は、アキラは動揺して醜態を晒したが今回は違う。経験を積んだから?
 何よりも経験は人を成長させる。それにその失敗を繰り返さない為に空手道場に通って、護身術やら刃物を持った相手対処する方法も習っていた。だからと言って絶対的な自信を持って居る訳ではないが取り敢えず以前に比べれば余裕があった。そう失敗経験者である。

「オイオイ! 刃物を持つとは穏やかじゃないなぁ、それに旅館や他の客に迷惑なるじゃないの、外でやったらどうだ」
 なんとアキラは止めろとは言わなかった。それとも止められたら困るのか。
「なっなんだ。オメィは勝手に人の部屋に入ってゴチャゴチャと」
 その刃物を持った男は完全に理性を無くしているのか威勢よく吠えた。
「ほう、そりゃあ悪かったなぁ。でもよ、あっちこっち壊したら後で弁償が大変だぜ。それに営業妨害となれば百万はくだらないなぁ、いや待てよ、死人でも出れば、もう商売は出来ないから五千万いや億単位の弁償かもなぁ、いや刃物で相手を刺したとあっては傷害罪、軽くて一年、重症また死んだら三十年は務所暮らしかもな」
 それを聞いた男はギョッとなった。務所暮らしとか弁償代が五千万とか億と聞いて、気になったらしい。
「よ~~し外でカタを付けてやる来い」
 喧嘩相手に威勢よく呼びかけた。渋々相手の男や他の仲間も外に出た。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.78 )
日時: 2020/10/20 20:27
名前: ƒドリーム (ID: b/MgcHYQ)

宝くじに当たった男 77

玄関の入り口には旅館の主人やら板前、他の泊まり客七~八名が何事かと、その喧嘩した相手や仲間達、アキラを含めた六人を遠巻きに心配そうに見ていた。アキラは旅館の主人に言った。
「なぁに心配しないで下さい。すぐ仲直りさせますから」と囁いた。
釣り宿とあって玄関を出れば目の前が海だ。小さな釣り舟が並べられている。
ちょうど良くその隣には空地があった。アキラがまたまた言った。
だんだんとアキラのペースになって来た。もっとも楽しんでいるのはアキラだけだが。
「おい、この空地なら迷惑にならないなぁ、どうだ。此処で」
なにか力士が土俵に上がるのを楽しむかのようにアキラは案内した。どうぞ、どうぞとばかりアキラは手を空地に向けてニコニコしている。刃物を持って眼が血走った男が、横綱の土表入りでもするかのようにアキラの前を横切ろうとした。その時だった。アキラはニコニコ顔から一転、野獣の目になるやいなや、刃物を持った男の手の甲を手刀で思いっきり下に叩きつけた。その刃物が地面に落ちた次の瞬間、アキラは足で刃物を遠くに蹴り飛ばした。

「な! 何をしやがる」
と驚いた男は怒鳴った。
「なんだと! 喧嘩に刃物だぁ? どう言う神経してんだぁ~」
逆にアキラが怒鳴った。その男も体格がいい。見たところ身長百八十の体重九十キロ近い巨漢だ。普通なら相手は度肝を抜かれたかも知れないが、しかし上には上が居るものでアキラは百九十八センチ、百五キロもある。その釣り仲間達が唖然として見ていた。
「あんたは釣りに来たんじゃないのか? それも仲間と。なのになんで刃物まで出さなきゃあならないのか、俺には分からんがねぇ」
刃物を失っても体力には自信があった男だが、目の前に現れた百九十八センチの大男。百キロを超えるゴリラの化身のような大男に一括されて男は怯んだ。
「繁さん……酒の上の事じゃないか、もういいだろうが」
他の三人の仲間が遠慮気味に、その繁さんなる男に声を掛けた。
酔いが冷めて来たのかアキラに水を刺された事も幸いしてか、やっと大人しくなった。喧嘩相手や仲間にペコリと頭を下げたのだった。しかし、そう簡単に収まったのじゃアキラが困るのだ。いや、それは分からないが次のアキラの行動は奇怪な動きをみせた。なんとその繁さんなる男を、いきなりアキラは引っ叩いてしまった。
パシッと頬を張った。その乾いた音が響く。やっと収まったと思ったのにアキラ一体どうしたのだ?

「なっ何をするんだ!」
いきなり叩かれて繁さんなる男が怒鳴った。他の仲間や喧嘩相手の男も、アキラをポカンと口を開けて見守った。
「何をするんだ、だと! アンタはが刃物を振り回した責任が残っているだろうが! 物の弾みで殺しましたでは遅いんだよ。たとえなぁ、冗談のつもりでも刃物を向けられた相手は必死だ。殺さなければ殺されると思えば相手も必死で余裕がないんだ。ハイ私が悪う御座いましたでチョンという訳に行かないんだよ。それと相手の気持ちはどうなるんだ。俺が収めたからきれいさっぱり忘れられるだろうか。このままじゃシコリが残ってしまうだろうが」
アキラはこう言う時の理屈が凄い。また言い分にも非はない。
頭に血が昇った連中は精神安定の注射を打たれたような気分になる。

しかしアキラの話は尚つづく、しつこく本当にしつこい。
傍から見ればおかしな光景だ。説教するのは二十代の若者で、説教されているのは中年のおじさん達なのだから。
「万が一だ。ちょっとでも怪我でもさせようものならアンタ、刃物で相手を傷つければ傷害罪ヘタすれば殺人未遂事件だ。それだけじゃないアンタの仲間とはもう修復出来ない溝が出来るんだ。オマケに奥さんや子供、親族から信頼を失う。そうなったらアンタの人生は、お先真っ暗だぜ。だから俺が目を覚ましてやったんだ。分かるかぁアァ~~~」
と。まあ延々とアキラの説教が続くが、なにせ言っている事が、見事に当て嵌まっている。誰一人として不服を言い出す持つ者がいない。

つづく

Re: 宝くじに当たった男 ( No.79 )
日時: 2020/10/21 21:07
名前: ƒドリーム (ID: b/MgcHYQ)

宝くじに当たった男 78

繁さんなる男はアキラに、見事に自分の愚かさを指摘されて下を向いたまま腕を震わせて身体がワナワナの震えているではないか。突然その繁さんが喧嘩相手と釣仲間の前に土下座した。
「すっすまん。この人の言う通りだ。亀さん俺が悪かった許してくれ。決してアンタを刺すとかなんて気持ちがないんだ。つい勢いで刃物を出しなんて本当申し訳ない。皆も許してくれ」
そんな姿を見て、亀さんと言われた男が繁さんの前に座って言った。
「繁さん、もういいよ。顔を上げてくれ。俺だって悪いんだから」

それを見た他の釣り仲間が二人を労わってやった。その釣り仲間が誰となく言った。
「いやあ中途半端な仲裁だと後々にシコリが残って気まずいが兄さんが見事な仲裁を入れてくれたんだ。だから繁さんも亀さんも後腐れなく仲直り出来るんじゃないか、なぁみんな」
(おう~久々に見事なアキラの大岡裁きではないか)
それからと言うもの、いつものお決まりコースになるのは自然の法則?
その釣り宿の夜は飲めや歌えの大宴会と相成った。釣りと言えば朝が早いのが当たり前だ。なんと言っても今回の事件の功労者アキラをほって置く訳がない。

釣り人は釣りの心得が備わっていて酒を身体に残さないのが鉄則だ。翌朝になって昨日の釣り人にアキラは誘われた。お礼に釣りの楽しさを教えるという。なんとまぁ、アキラが釣り舟に乗る事になったのだ。
釣りなんてアキラは、このかた一度もやったことがない。
子供の頃、両親に連れられて縁日の金魚すくいぐらいのものだった。
釣り宿の主人が勿論この舟の船長だ。昨日の釣り仲間五人はアキラにお礼にと、釣りに借り出されるとは夢にも思わなかった。お礼は有り難いのだが、アキラの嫌な予感が的中したのは沖に出てまもなくの事だった。それは経験した事のない恐ろしいものだった。

桃太郎ではないが舟はドンブラコ、ドンブラコと上に下に横へと揺れる。
アキラにして見ればもう天と地が逆さまになったような気分だ。まもななくアキラはオェ~~と吐き出した。アキラは釣りどころか、地獄の底に居るような気分だ。
苦しみながらアキラは考えた。お礼と言いながら、あの繁さんは、やたらに釣りに誘ったが、あれはお礼の名の元に酔うのを知っていての仕返しではないかとアキラは思ったが証拠は何もない。

その復讐男? 繁さんがアキラの側に依って来た。
あぁ~なんと言うことか。みんなに逆恨みされて海に放り込まれていたら流石のアキラも一貫の終わりだ。もはやアキラの運命もこれまでか。そこまで考えたかは定かではないが繁さんが言った。
「いゃあ兄さん申し訳ない。俺達は釣りに馴れしているので誘ったがどうやら船酔いさせてしまったらしい。いゃあ~すまない本当は酔う波ではないんだがねぇ、この薬と一緒に飲んで見てくれよ。ひょっとしたら気分が良くなるかも知れないからさ」
そう言って、なにやら妙に濁った酒を飲ませてくれた。それと黒い飴玉のような薬をくれた。毒??
アキラはまさかと思ったが人間そこまで悪くないと信じて飲んだ。
アキラも酒は強い方だが なんと飲んだ瞬間に頭から突き抜けるような強烈に強い酒だった。やっぱりアキラは嵌められたかと思ったが飴玉のような薬も飲んだ。なんとなんとアキラは、今にでも死ぬのではないかと言うほど船酔いしていたが、またたくまに目が輝きだしたではないか。
 その舟の揺れは地獄のような苦しみだったのに、今は回転木馬に乗っているような気分だった。しっかり元気を取り戻したアキラは生まれて初めて体験する海釣りをする事になった。

つづく




Re: 宝くじに当たった男 ( No.80 )
日時: 2020/10/22 21:55
名前: ƒドリーム (ID: b/MgcHYQ)

宝くじに当たった男 79

 繁さんはじめ皆が餌をつけてくれ何から何まで教えてくれた。
 そして嬉しい体験をする事になった。其の初体験が早速キターー、急に竿が重くなった。
 竿が海に引き込まれてそうだ慌ててアキラはリールを巻くなんと言っても初めてだ。この引きはなんだ? なんとも言えない手に伝わる。その引きは今までにない感動を覚えた。一緒に舟に乗った仲間達が手取り足取り教えてくれる。
 そして記念すべき人生初めての釣り揚げた魚はクロダイだ。網に入れて舟に引き上げたクロダイはピンピンと勢い良く弾む。あの悪夢の船酔いから一転して、大黒様にでもなったような気分だ。
 アキラは貴重な体験をする事が出来た喜びで又ひとつ楽しみが増えた。
 再び船 宿に戻って来たアキラと釣り仲間達。早速アキラが釣った記念すべき第一号を魚拓にしてプレゼントされた。それから刺身にして宿の方で出してくれた。なんと言っても自分で釣った魚だ。不味い筈がない。とっ盛り上がった所で誰かが言った。

「そう言えば、兄さんの名前聞いてなかったなぁ、もっともこっちも釣りや、なんやかんやで自己紹介もしてないがな」
「おうそうそう俺は佐伯繁って言うんだ。昨夜は世話になったが元々は漁師でな、今は長男に任せて小さいけど魚屋もやっている。俺のとこの魚は新鮮で評判は最高だ。兄さんならいつでも分けてやるぜ」
「俺は前田総五郎で釣り暦三十年だ。宜しく」
「俺は亀田孝之アンタの仲裁で繁さんとも、わだかまりなくて助かったよ」
「俺は前田宏で惣五郎とはいとこだ。宜しく」
「俺は前田秀樹だが、同じ前田でも親戚ないが幼馴染です」
 次々と自己紹介されてはアキラも挨拶しない訳に行かない。
「これは皆さん。ご丁寧に今日は思わぬ体験が出来てありがとう御座います。生まれは東京で山城旭です。今は訳があって仕事していませんが車での一人旅の途中です。こうして皆さんと出会えて又これからも、このような出会いと沢山の旅館を見て勉強中の旅です」
 旅館の勉強と聞いて前田惣五郎はアキラに聞いた。
「ほう山城さんは、旅館の若旦那か何かで修行中と言う事ですか?」
「いや別にそんな大層な身分じゃ有りませんよ。ちょっと知り合いが熱海で旅館をしていて、今そこで時々手伝いをしています。もし旅館業が出来るならと思っての勉強中ですがね」

「それは、お若いのに大きな夢を持っていて羨ましいですなぁ」
「いやいや夢だけは持っていますが資金も全く足りまん。ただ僕に色々と面倒見てくれる人の援護が受けられればの話ですが」
「それなら山城さん、旅館には新鮮な魚が絶対条件だ。あんたが新鮮な魚が欲しいと言ったら、いつでも送ってやるぜ。市場より安く新鮮な奴を」
「へえ~そりゃあ有り難いな。その時は是非ともお願いしますよ」
 互いに儀礼的な会話だったが、これが後に現実となるのだった。アキラは援護と言ったが、確約が取れるかどうかも夢の中だ。でも頭に浮かぶのは西部警備の社長 相田剛志や松ノ木旅館の宮寛一、真田小次郎など普段深く交流している人達のことであった。アキラの旅は無駄の連続のように思えたが、しかしその出会いの芽は着実にアキラの人柄に惚れ、近い将来に多大な力となって行くのだった。

 アキラの旅館経営の夢は絶対成功出来ると言うシナリオでなければならない。
 そして銀行から融資して貰うにも、融資して貰える資料を揃えなければならない。
 その時に西部警備の社長、相田剛志に保証人として後ろ盾になって貰わなければならない。だが保証人に心配させられない。ましや経営失敗なんて絶対に赦されない一発勝負なのだ。
 勿論、その経営計画の資料を見せて相田社長や真田小次郎に太鼓判を押して貰えるだけの物でなければならない。相田社長とて、いくらアキラに目を掛けてやっても金をドブに捨てるような保証人にはならないだろう。それが今日まで警備会社を一流企業までのし上げた経営者の目だろう。

つづく


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