複雑・ファジー小説

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妖怪屋は嫌われ者
日時: 2014/12/15 22:29
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)


この日本という国はある時から、死と隣り合わせの国になった
1999年。突然、空には黒い渦ができ、
その中からは恐ろしい妖怪たちが現れた

いきなりのことで、人間はなにも抵抗をしないまま一週間が過ぎ、
多くの人間が命を落とした
しかし、その黒い渦は特別な力を持つ人間に封印された
今、その黒い渦はどこにあるのかわからない


「あなたたちの名前はなんですか」
「・・・・シロ」

シロと名乗った5人の人間は、のちに奇跡のシロと呼ばれた
この世界に降り立ってしまった妖怪を倒すシロボシという施設をつくり
妖怪たちを退治する活動を始めた

今、シロはどこにいるのかわからない


『妖怪襲撃とシロ』



「・・・これ、最近よくテレビでやるよね」
「妖怪襲撃事件の日が近いからだろ」
「ふーん・・・あ、次の仕事は?」
「地縛霊のやつ」
「あ、それ結構数いるやつ?」
「ああ、そうだな」
「マジ?なら早く終わらせて・・・また、おかし作って」
「わかったから、ほら、行くぞ」
「はいはい」


シロボシとは違う、独立した妖怪退治をする者
ソラボシ、通称妖怪屋



設定

紅刻 星 こうごく せい 女 15歳
ソラボシのリーダー 紋章のついた赤いペンダントをつける
得意技は魔法を使った直接攻撃

月形 空 つきがた そら 男 15歳
ソラボシの副リーダー 紋章のついた青いペンダントをつける
得意技は剣を通しての物理的攻撃

一風 音葉 いちかぜ おとは 女 20歳
妖怪に関する情報屋 使い魔を何匹も持つ 主にソラボシに協力する

ケセランパセラン ぐー、ちー、ぱー
猫又 ニーナ、ニーカ、ニースケ、ニーコ などなど

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.48 )
日時: 2016/03/28 14:15
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

木製の扉を三回ノックし、ゆっくりとドアを開けると、お香のにおいが鼻についた

「・・・いったい何の用だ。紅刻星、月形空」
「白井部長にお聞きしたいことがあります。西田さんと蓮杖さんについて」

私がそういうと、白井部長の眉がぴくりと動いた
間違いない、この人は何か知っている


「・・・それを知って、何をするつもりだ?」
「あなたが言ったんでしょう。蓮杖さんに教えてもらえって
 ・・・それに、そのことを俺に伝えたのにはわけがあるんじゃないんですか」
「・・・・・」

「教えてください。お願いします」
「・・・いいだろう」


白井部長はそういうと、一枚の紙をだした
そこには西田さんと蓮杖さんが幼い時の写真がはられ、西田班とかかれている


「・・・この二人は以前、任務を共にこなしていた。よきライバルで、
 相棒であり、めきめきと互いに力を伸ばしあった
 表には見せないが、深いきずなもあった
 ・・・だが、ある任務を境に二人はチームを解消した」
「なんで、そんな・・・・」

「その任務はS級昇格がかかっていたんだ。蓮杖も西田も、あせったんだろう。
 焦りのあまり、魔力のバランスが崩れて、蓮杖は刀をコントロール不能にし、西田にけがを負わせ、妖怪も倒し損ねた」


白井部長は懐かしむ中に悲しみの色をにじませて話を続けた

「西田は怪我のことを怒ってはいなかった。しかし、蓮杖はひどく気にしていてな・・・
 結局二人は別れて別々の班を作り、S級まで上り詰めた
 ・・・話は以上だ、ほかに聞きたいことは」
「・・・いいえ、ありません。ありがとうございました」


木製の扉を閉めて、私は大きく息を吐き出した

「・・・西田さんと蓮杖さん、いったいどうおもってるんだろうね」
「・・・それは、まだわからない」

「・・・ねえ、ちょっと探りをいれてみない?」
「探り?」
「うん。お互いどう思ってるのか。そこの確執はどうにかした方がいいと思うし」

「・・・そうだな。明日、また伝える」
「うん」

私と空は二人とも別々の方向に分かれた
・・・チーム解消・・・

今の自分に例えると、ソラボシの解散。相棒が、相棒じゃなくなること。
私と空が別々になるってことだ

・・・絶対嫌だ

頭に浮かんだのはそれだった
唯一無二の相棒を失うなんて耐えられない、辛すぎる

あの二人は・・・そう思わないんだろうか


<次の日>

訓練の合間にできた休憩時間
西田さんと私以外誰もいないのを確認して、私は声をかけた

「あの、西田さん」
「どうしたの?」
「少し、聞きたいことが、」

と、そこまで言ったときだった
高くやわらかい鳴き声が足元から聞こえて、見てみると小さな猫又がいた

「君、どこからきたの?」

しゃがみこんで手を差し出すと、顔を擦り付けてくる
ずいぶん人間に慣れているみたいだ

「・・・かわいいわね」
「え・・・あ、はい」
「どうかした?」
「いや、白井部の人ってみんな妖怪が好きじゃないって思ってたので」

「私は一番強くなれそうだったから、ここに入っただけよ
 妖怪が本当に嫌いな人も中にはいるけれど、A級やS級の人の中には
 3つに部が分かれる前からシロボシにいた人だっているから
 S5はみんなそうよ」

「へー・・・初めは別れてなかったのに、どうして別れたんですか?」
「さあ・・・私もそのときは小さかったから」

西田さんが猫又の顎をなでると、猫又は気持ちよさそうに喉をならした
やわらかく微笑む西田さんはいつもよりすこしだけ幼く見える

すると、突然猫又が走りだした
そしてその方向には一つの人影

「・・・空?」
「あ・・・星。お前何やってるんだ?」
「何って、訓練の休み時間にその猫又が来たから一緒に遊んでたんだけど・・・」

「ああ・・・お前、ここに来てたのか」


空が猫又に話しかけると、猫又は空にすり寄った
空のことだ、任務かどこかあで会って、またなつかれたんだろう
ああ、なんて羨ましい・・・


「ずいぶんなつかれてるのね」
「空は動物になつかれやすいんです。あー、ずるいよ、空ばっかり」
「別に抜け駆けしているつもりはない」
「それ、嫌みなの?」

「おーい、空君、猫又は・・・あ、」


蓮杖さんの表情がさっきとは一変する
それは西田さんも同じだった
険しい表情だ

「・・・見つかったみたいだね、よかった」
「あ、はい」
「それじゃあ戻ろうか」
「・・・ちょっと待ちなさい」

西田さんの声に、この場からすぐに立ち去ろうとした蓮杖さんの足が止まる

「・・・何?」

笑顔は浮かべているけれど、ひきつっていた
西田さんは真顔のまま口を開く


「あなた、空にちゃんと教えていないそうね。剣術」
「・・・彼の方がうまいよ、きっと」
「やってもいないくせに、よく言うわ。いつまでそうやって逃げ続けるの」


険悪な雰囲気だ
笑顔を浮かべていた蓮杖さんも真顔になり、口を開く


「・・・君には関係ない」
「いいえ。これは一つの班だけの問題じゃないもの」
「僕は科学者だ。隊員じゃない」
「そうやって肩書に頼るけど、あなたは科学者でもないし隊員でもない
 いい加減にしなさいよ。いい迷惑だわ」

「・・・君に迷惑をかけてるつもりはないんだけどな」
「しっかりしなさい。いつまでも立ち止まってたって、何も変わらない」
「わかってるよ!!」

蓮杖さんが大声で怒鳴った
息を荒くして、いらだちを隠せていない
対する西田さんは眉間にしわを寄せただけだった

「・・・そんなの、自分が一番わかってる」


蓮杖さんはそれだけ言い残して、足早に立ち去った
空もそれを追うようにしていなくなる

「・・・ごめんなさいね、こんなところみせて」
「気にしないでください」


西田さんの笑顔はさっきの蓮杖さんみたいにひきつっていた
その中に怒りや悲しみが見え隠れしている

・・・なんだ、この人も、私と同じだ
名目上は別々になったなんて言っているけど、ずっとずっと引きずってるんだ

・・・なら、やることは一つしかないじゃないか

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.49 )
日時: 2016/03/29 13:45
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by西田>  次の日

白井部長から呼び出しがかかり、私はお香のにおいが満ちた部屋にいた

「西田、お前に任務がある」
「はい」
「ぬらりひょんの討伐を、お前に頼みたい」

「・・・ぬらりひょん・・・」


それは、苦々しい思い出の象徴である妖怪だった
・・・私と蓮杖がチームを解消するきっかけになった任務が、ぬらりひょんの討伐だ

ぬらりひょんは妖怪の総大将なんていう風に言われる強さを持つ


「お前一人で倒して来い。・・・汚点をぬぐうんだ」
「・・・はい!」

白井部長がわざわざ私に過去を乗り越える機会をくれた
・・・絶対成功させる
そう意気込んでから、部屋を出ると、蓮杖のことが気がかりになった


・・・あいつにも重要なことかもしれないし、伝えてから言っても遅くない
私は、仕度をしてから蓮杖のいる研究室に向かった


「・・・蓮杖」
「・・・西田、いったい何の用?」
「・・・これから、ぬらりひょんの討伐に行ってくるわ」

「・・・へー」

気の抜けた返事。
それにいらだちを感じて、私は感情を抑えつつ嫌みを言った

「あなたと違って、私は過去をいつまでもひきずったりしない
 ・・・私は、前に進むの」
「・・・そう、がんばって」

「っ・・・臆病者。綺麗ごとばっかり並べて自分を守ってどうするの」
「・・・何?」


「私は、今のあなた大嫌いよ。過去におびえて、逃げ回って、背を向けて」
「・・・君は何を言いたいんだ?昨日から僕を責めるけど」
「それは、」

「もう、僕に関わるな。臆病者だって、君に思われたっていい。
 ・・・僕は君の相棒じゃない」


頭に血が昇った
気付けば、蓮杖の頬をひっぱたいていた


「・・・違う、私は・・・・私は、」

その先に続けて、言おうとした本当の言葉を言うのは、とても格好悪い気がした
結局、私はまた嘘をつく


「・・・もうあなたが相棒じゃないなんて、知ってるわ」

それだけ言い残して、足早に研究室を出た



腹が立つ、いらいらする
重要だと思っているかもしれないなんて思った、私が馬鹿だった

あいつは何も気にしていない
とっくに隊員としてのプライドは消え去っていたんだ
もう、あんな奴知るか。
あんな臆病で、へたれで、自分勝手な奴。どうにでもなってしまえ


そう思うのも、数分だった
風にあたって、綺麗な空を見たら、どうしようもなく悲しくなった

臆病者で、逃げてばっかりで、嘘つきで、ドSで、悪いところの方がたくさんあがる蓮杖を、どこかで信じていた

競い合って、励ましあったあのころに戻れる日が、いつか来るんじゃないか
また、私の相棒に戻ってくれるんじゃないかなんて。


・・・根拠のない、希望的観測でしかなかったんだ

それを突きつけられてもなお、戻ってきてくれるなんて思う自分がいる
いつだって、一方的だ
私がこう思っていても、蓮杖は振り向かない


「・・・最悪、」

そうこぼす自分が、この世の何よりもみじめに思えて仕方がなかった



<by蓮杖>

彼女が出て行ったあと、残ったのは彼女に殴られた後のじんじんとした痛みと、彼女特有の甘い香りだった

痛いけど、なつかしい
でも、それ以上に残ったのは大きな喪失感と、自分への嫌悪感だ

嘘をつくだけついて、また西田を傷つけた
本当は西田に臆病者なんて言われるのが悔しくないわけがない
プライドだってある

・・・けど、仕方がないじゃないか
ああでもしないと、彼女は引かない
強気で、負けん気も強い彼女は当然あきらめも悪い

・・・それだけならよかったのに、ついでにとても優しい


だから、彼女が僕をまだ相棒だと思ってくれているなんてことは、とうの昔にわかっていた
そして、僕が拒絶すれば、彼女が嘘をつき、いらだち、その先きっと悲しむってことも

・・・でも、これでいい。この終わり方でいいんだ
他の終わり方は、なにも浮かばない


自動ドアが開いたその先には、やっぱり空君と星ちゃんがいた


「・・・盗み聞きかい?君たちもなかなか趣味が悪いね」
「・・・どうしてあんなこと言った」
「説教でもするの?」

「ああ、その類のことだな。それより、質問に答えろ」
「・・・さっき言った通りだよ、僕はもう西田を相棒なんて思ってない
 ただ、それだけの話だ」

それは、シンプルな嘘だ
今本当に思っていることの反対だった


「・・・つまらないウソをつくのはやめてください
 本当は、蓮杖さんだって西田さんを相棒だとおもってるくせに」

・・・ああ、これだから僕は星ちゃんが苦手だ

初めて会ったとき、彼女は空から降ってきた
天窓を割り、圧倒的な美しさで、僕の前に立った

それはまっすぐで、純粋で、繊細で、もろい
だからこそ、変にひねくれて、本当に見なければいけない物から目をそらす自分がみじめで仕方がなくなった

目の前の彼女の瞳には、一点の曇りや迷いがなかったから
ただ、空君を絶対に助け出す。
それだけをただ一心に考えているようで。

それは空君も同じだ。彼が猫又と会話する姿もそうだった
自分たちの信念を、ただただ信じて疑わないまっすぐな瞳
星ちゃんといるなら、その人もどこかがまっすぐでなければいられない


だから、この二人に嘘をつくのは無駄だ
そして、僕自身、感情が抑えきれなくなっていた


「・・・仕方がなかったんだ。僕がいると、西田が傷つく
 西田の傷つく姿をもう見たくないし、僕は西田を傷つけたくない」
「傷つけたくない?傷つけたじゃないですか。
 ついさっき、あなたは西田さんを傷つけた」

「わかってるよ。それでも・・・僕はいけない。
 西田の相棒になる資格がない」

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.50 )
日時: 2016/03/29 14:18
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

「・・・なら、未練がましく刀をとっておくな
 本当は相棒でいたいし、何より一緒にぬらりひょんを倒したいんじゃないのか」

今まで嘘で塗り固めて、そういうことにしようとしてきたことを、この二人は躊躇なく引きはがそうとする
自分の嘘を暴かれるのは、心の底から嫌いだ


「・・・どうして西田さんはぬらりひょんを倒しに行く前に、蓮杖さんに会ったのか、わかりますか?」
「・・・それは、僕が相棒だって、西田が思ってくれていたから」

そんなのわかっている
でも、星ちゃんは首を横に振った

「半分正解で、半分はずれです。西田さんはこの任務、白井部長から一人で倒して来いと言われていました
 蓮杖さんをまだ相棒だと思っていたからっていうのも、そうかもしれません
 けど、その理由で、白井部長に忠実な西田さんが誘いともとれる発言をするんでしょうか」

そこまでいわれて、やっと気づいた
答えはNOだ。それだけじゃ、理由が弱い
なら、ほかに何の理由があるって言うんだ?・・・わからない


「・・・西田さんは、ただ怖かったんだと思います
 一人でぬらりひょんと対峙するのが心もとなかった」
「・・・嘘だ。西田は強いし、そんなことを考える奴じゃないよ」

「そうでしょうか。これは、もしかしたら西田さん自身も気づいてないのかもしれない
 でも、ぬらりひょんの任務はある意味、相棒が相棒じゃなくなったきっかけです。
 あれからどれだけ月日がたっていても、強くなっていても・・・・
 以前二人でやって勝てなかった相手を一人で倒すのは、とても怖いと思います」


彼女の言葉はやけに真実味を帯びていた
似たような経験をしたのかもしれない

・・・それにしても、だ
信じられない、あの西田が、怖がるなんて

「西田さんは蓮杖さんを大切に思ってます。相棒なら、今すぐ行ってあげてください」

星ちゃんは僕の刀が閉まってある場所を的確に当てて、刀を二本、僕の目の前に置いた
・・・いったいどうしたらいいんだ、何を選べば正解なのかさっぱりわからなかった

ふと、紙のようなものがポケットに入っていることに気付いた
そこには、見なれた字で間違えていい、と書かれていた

・・・こういうことが、前にもあった
あいつは、どんなときだって僕の考えを覆す
そして、的確に核心をつく

僕は二本の刀を掴み、二人を見た


「・・・行ってくるよ。ただ、頼みがある」


<by西田>

いくつもの水弾を飛ばし、次々とぬらりひょんが出してくる妖怪をなぎ倒していた
倒しても倒しても、妖怪は湧水の如く、次から次へとあらわれてきりがない

このまま、ただ応戦するだけじゃこっちの魔力が尽きてしまう


「造形、針の花」

妖怪達の体から、氷の針が花開くように突き刺さる
そこに生まれた一瞬の隙に、ぬらりひょんとの距離を詰めた

「造形、氷の剣」

いくつもの剣を造り出し、それをぬらりひょんに飛ばす

バキンッ!


「・・・やるわね」

後もう少しのところでぬらりひょんは別の妖怪を盾にした

『・・・ああ、やっとあなたのことを思い出しましたよ
 昔、私を倒すべく来た、シロボシの方だ・・・
 確か、もう一人いませんでしたかな?』
「そんなこと、どうだっていいでしょう」

『私はあまりに滑稽だったから、覚えていますよ
 あなたも不幸だ・・・あの男と組まなければ、ああはならなかったものを』
「・・・やめなさい、蓮杖を馬鹿にする資格はあなたにはない」

『・・・ほう、なぜかばうのですか。こうして一人で戦いに来たということは、あなたは彼を捨てたんでしょう?』
「いいえ。捨ててなんかいないわ」
『なら、なぜ一人で?』

「・・・・・」

『・・・答えられないのですか。まあ、いいですよ
 ここであなたの命が消えるのですから』

ヒュオッ!


とっさの判断で横に逃げると、巨大な針が飛んでくるところだった
けれど、逃げた先にはトラップがあったみたいだ
地面からたくさんの針がはえてくるのをよける

ぬらりひょんからどんどん遠ざかっていく
苦戦を強いられていることに、いらだちを感じたときだった

見覚えのある姿が目に入る


「蓮杖・・・!?」

背中を向けているけれど、蓮杖だ、間違いない
ぬらりひょんの方から殺気を感じた

「蓮杖!!」

精一杯手を伸ばす
その時、蓮杖に腕をつかまれた
そして、ありえない方向に曲げられそうになる

関節を外される

瞬時にそう判断して、地面を蹴り上げ、ギリギリ腕を持って行かれるのを防いだ
思考がついていかない。いったい、どうして・・・

「っ!?」

足を払われ、体が宙に浮いた
その瞬間、首を掴まれて地面にたたきつけられる

「かはっ・・・!?」

顔を見て、やっとわかった
違う、こいつは蓮杖じゃない
顔も体も何もかも、見た目は同じだけど、偽者だ

『見事にひっかかりましたねぇ・・・』
「ぬらりひょん・・・」
『ああ、そんなに怖い顔しないでくださいよ
 やはり、あなたは彼を見ると感情的になるのですね』

・・・やられた
こいつは初めからこうするつもりだったんだ

『だから言ったでしょう。彼とあなたは組むべきではなかった』


・・・そうだったのかもしれない。でも、仕方がなかった
こいつに蓮杖を悪く言われるのはどうしても許せなかったんだから
自分でも思う、私は本当にあきらめが悪い

相棒じゃないと言われても、蓮杖が相棒だと信じていた
だから、ぬらりひょんの作った偽者に騙された
首がゆっくりとしめつけられていく

「・・・仕方がないじゃない。私と彼は気づいたらいつも一緒にいて、
 気づかないうちに唯一無二の相棒になっていたんだから」
『おろかですね・・・人間は』

「そうかもしれないわ。でも、ここで私を殺したても、彼はきっとあなたをたおしに来る」
『・・・なぜ、そんなことがわかるのですか』
「それは、私が唯一彼を馬鹿にする資格を持っていて、
 ・・・私が彼の相棒だからよ」
『・・・馬鹿ですね、本当に』

「・・・まあ、偽者だとしても、蓮杖に殺されるなら本望ね」
『・・・ならば、永遠に眠りなさい』


ぐっと首筋に力を込められた、その時だった

ズシャッ!!

偽者が黒い煙になって消える
よく見た、刀の輝き。まっすぐな太刀筋

「・・・聡、」
「やめてくれ、勝手に死ぬのは、僕が許さない」

なつかしい目の輝きだ。肩の力がふっと抜ける
・・・知らず知らずのうちに、私は怖がっていたみたいだ

『な・・・』
「なんで、来たの?」
「空君と星ちゃんに背中押されたのと、香がかいたこのふせんだよ」
「ああ・・・」

「チームを作った時の言葉が書いてあったら、自惚れるよ
 ・・・まだ、僕は君の隣にいられる、相棒でいられるかもしれないって」
「・・・気づくのが遅すぎるのよ、毎回。
 ・・・手伝ってくれる?私の相棒なんでしょ」

「・・・断る理由はないよ」


彼は駆け出し、ぬらりひょんにせまった
次々と現れる妖怪を二本の刀でさばいていく

そして、全ての邪魔がなくなったあと、いつも通り私がとどめを刺すのだ


「・・・絶対零度・螺旋」



そして、全てが白に染まる

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.51 )
日時: 2016/03/30 09:32
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

ぬらりひょんの体は、氷の塊の中にはいっていた
それをみて、聡は口を開く

「・・・こんなに簡単に倒せたのに、どうして僕はおびえていたんだろう」
「それは、私も同じよ」
「・・・どうして君は間違えていいなんて書いたの?」


私は、彼を横目で見た
こっちは見ていないけど、しっかりと耳を傾けている

「・・・あなたが何もできずに動かないときは、思考している時よ
 最高の終わり方、正解を探している
 でも、私はあなたにそれを一番に望んでいるわけじゃない
 だから、間違えていいの」


「じゃあ、君は僕に何を望んでるんだ?」
「まだわからないの?相変わらず察しが悪いわね」
「わかったわかった、それで?」

「・・・私が望むのは、あなたがいつまでも相棒でいてくれることだけよ」

最後の方はつい恥ずかしくなって、どんどん声が小さくなってしまった
にやにや笑う聡を睨みつけると、彼は口を開いた

「そのお望み、かなえてあげるよ」
「・・・上から目線で腹立つわね」
「上から目線ついでに、君のことを教えてあげるよ
 君は自分で恥ずかしいと思うことをやるとき、必ず嫌みを言うんだ」


・・・本当に一言多い。いらいらする
でも、幸せな時間だった


「さて、ぬらりひょんを送ろう」
「どこに?」
「・・・ついに完成したんだ。妖怪を一か所に集める装置」
「そのスマホみたいなので、本当に送れるの?」

「送れるよ。僕は根に持つタイプだからね。
 隊員でも科学者でもないなんて、もう言わせない」
「・・・面倒な人」
「君だけには言われたくないね。そっくりそのまま返してあげる」

失敗してしまえ
ふっとわいた邪念もむなしく、ぬらりひょんは私たちの目の前から消えた

聡が真剣な表情で電話をかける
話しなんて聞かなくても、聡の嬉しそうな顔を見れば、結果は明白だった


<by星>

あれから、私と空はぬらりひょんを天界へと送った
どうやらぬらりひょんは人間に襲われて、もともと住処にしていた村を奪われたときから、人間に強い恨みを抱いていたそうで。
でも、話を聞いたらわかってくれた

それにしても、西田さんと蓮杖さんはすっかり元通りになったみたいで安心した
お互い嫌みを言いあっていたけど、あれがあの二人の本来の形なんだろう

「作戦は大成功だね」
「ああ」

そして、私と空は今、白井部長の部屋へ向かう途中だ
この作戦には白井部長にも協力してもらった
昔西田さんたちが戦ったぬらりひょんを見つけ出し、その任務を西田さんに依頼してもらう

西田さんが蓮杖さんの所に行かなかったら困るから、磯崎さんにも依頼してたけど、結局大丈夫で。
謝ったら、感謝の言葉を返された。心の広い人だ


ノックを三回して、部屋に入る


「・・・成功したか?お前たちの計画は」
「はい。協力してくれてありがとうございました」

「・・・西田と蓮杖は、どうしてる」
「嫌味を言いあっていました」
「・・・そうか」

そのとき、白井部長の表情がふっとやわらいだ
ほんの少しの笑顔
冷酷なこの人は何度も見てきたけど、こんなあたたかな表情の白井部長を私は初めて見た

心の底から二人を心配して、どうにかしたいと思っていたことがしっかりと伝わってくる
その後、白井部長は妖怪を集める部屋_モンスターボックスというらしい_のことを私たちに聞いただけだった

廊下に出てから、私は口を開く


「ねぇ・・・白井部長はどうして、妖怪が嫌いなのかな」
「・・・わからない。ああ、そういえば・・・・いや、なんでもない」
「え、なに?そこで止められたら気になるんだけど」

「いや、気絶する寸前だったから違うかもしれない」
「いいから。言わないと・・・」
「・・・言わないと?」

「・・・どうしよう?」
「・・・決まってないのか」
「だって、空の弱みはそんなにぽんぽん出てこないんだよ
 ・・・って、それはいいから、答えて」


「・・・ニースケを見たとき、白井部長は毛嫌いしているほかに、おびえている気がしたんだ」
「おびえている?」
「・・・昔、なにかあったのかもしれないな」
「うーん・・・」


これは新しい調査が必要かもしれない。
私は、空を見つめた

「・・・付き合ってくれる?」
「拒否権はないんだろ」
「あるっていったら?」
「・・・付き合わないわけにいかない」

なら、拒否権があってもなくても同じだ
相変わらず、空は優しい

「ありがとう、空」


やっぱり、相棒はいた方がいい
素直にそう思った

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.52 )
日時: 2016/03/30 10:21
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

そして、練習の合間の中での聞き込みが始まった
真や朝日、明里にも協力を依頼して、各班長の方々に聞いてもらったけど、皆何も知らないらしく・・・
一番古株である磯崎さんが唯一、昔白井部長と赤間部長と蒼野部長がチームを組んでいたという情報を教えてくれた

真からの助言により、私と空は今、蒼野部へむかっている
赤間部長は話しやすそうに見えて、なかなかの堅物らしい

「・・・で、ここでいいんだね?」
「地図では、あってるんだけどな・・・」

「なんていうか・・・ザ・魔王の城ってかんじ?」
「うけ狙ってるのか知らないが、全然面白くないぞ」
「うけなんか狙ってないよ!本当にそんな感じしたんだから・・・」
「まあ、中に入ればわかる」


・・・なんだか軽くあしらわれた感じがするけど、まあいいや
扉に手を伸ばし、押そうとした瞬間、なんの力も入れてないのにドアが開く

「え、ちょ、わっ!?」
「っ!」

そのまま前に倒れそうになった私を、空が腕をつかんでとっさに防いでくれた

「あっ・・・ぶない・・・・」
「ああ、大丈夫か?」

扉の向こうにいたのは蒼野さんだった
私と空は顔を見合わせ、空が口を開いた

「聞きたいことがあるんです。時間、いいですか?」
「もちろん!今はみんな訓練で出払ってて暇でね。
 ここではなすのもあれだから、入れ」

不気味な洋館の中は案外普通で、棺桶とか拷問具とか、そういういかがわしい物は一切なかった
普通のテーブルにクローゼット、テレビ・・・
組織の支部の中って言うよりは、普通より大きい家にお邪魔しているって言った方がまだわかるような、そんな内装だった
ご丁寧にお茶まで出されて、椅子に座らせてもらう


「それで、話とは?」
「白井部長のことで。どうしてあの人はあんなに妖怪を嫌うんですか?」
「・・・聞かせてくれないか、どうしてその質問を今私にするのか」

「・・・この間、西田さんと蓮杖さんが元通りの関係に戻りました」
「それは聞いているよ」
「それを白井部長に報告したとき、心の底からほっとしているような、そんな表情を見せたんです。
 ・・・私は人を大切にできる人が、どうして妖怪をあそこまで嫌うのか、きになるんです
 どうして時々信じられないくらい非常になってしまうのか」

あんなにも、隊員を気にすることができるのに。
明里を危険にさらしたり、空を攫って傷つけるようなことを、どうしてやるのか
後日音葉さんのところに直接謝罪に行くような人が、いったいどうして

白井冬牙という人物がどんな人なのか、純粋に知りたかった


「・・・冬牙は、本当は誰よりも仲間思いで優しい奴だ
 自分のためより、仲間のために強くありたいと思うような、そんな人間
 だからこそ、私やカオル、ああ、赤間部長な。も、ついていったんだ
 もともとは・・・妖怪のことを私たちの中で一番愛していたよ」

「なら、どうして・・・」
「・・・少し長くなるけど、聞いてほしい」


ある日、任務の途中で小さな子鬼を助けた
真っ白な子鬼につけた名前はフブキ
一緒に行動するうち、私たちとフブキはとても仲良くなった
中でもフブキは冬牙を好いていたし、私たちの中でも冬牙が一番フブキを愛していた

もともと、私たちは四人のチームだった
冬牙とカオルと私、それに桃花(とうか)っていう私と同じ年の子
シロボシを作ったばかりのころは、人手が全く足りなくてな
私たちが任務に出向くことも多かった

その頃は、とても幸せだったよ
でも、ある日の任務で子鬼のフブキは暴走した
その日は日食で、それを見た妖怪は一時的に魔力があがる
それで暴走することがあるんだが、フブキはまさにそれだった

私たちは必死で止めようとしたけど、本当にあのフブキかって思うくらい強かった
それでも、必死になった冬牙は私たちが何を言ってもフブキを元に戻そうとした


そして、フブキは冬牙を攻撃しようとして、その冬牙をかばったのは桃花だった
そして、処置もむなしく桃花は・・・・死んだ


「その日から冬牙は妖怪を毛嫌いするようになって、人とのかかわりを避けようとしたり、冷酷になり始めた
 当然私たちの仲も崩れて、いま現在に至る、というわけさ」


淡々と悲しい出来事を話す彼女は、きっともうずいぶん前のことなのに、まるで昨日のことのように話していた
友達といつも通りの会話をするくらい、それは軽くて自然だ

けれど、無理に自然にしているような、そんな気がした


「・・・でもね、冬牙は本当はああいう奴じゃない。
 私にはわかるよ、あいつが無理に冷酷な人間になろうとしているのが」

「・・・なら、どうして止めないんですか」
「・・・わからないんだよ。私にはそれが正しい事なのか
 桃花と私はとても仲が良かった。だから、冬牙を責めようとしたときもあった
 でも、あいつは私やカオル、ほかの誰よりも深く悲しみ、自分を責めていた
 責任感が強すぎて、それに押しつぶされそうになっていて、だから何も言えなかった」

どんな言葉も、あいつには重荷になる気がしたんだ、と悲しげな声色で言われたら、それ以上何も聞けなかった


外に出ると、冷たい空気が全身をなでた
本部に戻る最中、私は口を開いた

「・・・空、私、この問題は絶対解決するよ」

好きなのに、好きになれない
そんな窮屈な人はいない方がいい
自分も、好かれない方も、傷つくだけだ


「・・・私、フブキに会いに行く」
「・・・は?」
「それが一番手っ取り早いと思わない?」

「・・・それは賛成できない。やめておけ」
「・・・え?」
「相手は鬼だ。妖怪の中でも相当強い部類に入ることくらい、お前だってわかってるだろ」

「でも、」
「だめだ、やめろ。・・・いくらお前でも、無理なことがある
 ちゃんと人数がそろわないと、」
「・・・・嫌だ、行く」
「は?」


「絶対、絶対行く。一人だって行くよ」

無理なんて、やってみないとわからないじゃないか
何もしていないのに、決めつけられるのは嫌いだ

「・・・お前の気持ちはわかる。でも、今回は無茶だ。リスクが高すぎる」
「私は助けたいんだよ。みんな変わらないことがいいと思ってる
 でも、それじゃあ、いつか壊れる。そのきっかけが今なんじゃないの?」

「だめだ。命を投げるような真似はするな」


「・・・もういい、空の許可なんていらない。私一人だって行く!!」
「子供みたいなこと言うなよ。危ないって言ってるんだ」
「平気だよ、私はあの場所を変えたい。ずっとそう思ってたんだ
 ・・・私は、やる」
「おい、」
「あー、うるさい!!」


掴まれた手を強引に振り払う

「・・・いい加減にしろ、お前のわがままが全部通ると思うなよ
 ・・・これだけは、譲れない」

「・・・私だって、譲れないよ」

胸の奥から感情があふれる
助けたい。目の前でもがいている人に、手を伸ばしたい
それを、どうして反対するのか

それは、空が私の身を案じてのことだ
そんなことは知っていた
でも、流れ出す感情を、もう止められなかった



「・・・嫌い。空なんて、大嫌い」

そういって、私は駈け出した
理由もわからないまま、ただ涙が流れて。
その苦しさをごまかすように、私はその場から全速力で逃げた



空は、ただ溜息をついていた
まいったな、とただそれだけ思うばかりだ


こすれあう木々のざわめきが、嫌な未来へと連れて行くような気がした


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