複雑・ファジー小説

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タビドリ
日時: 2017/07/20 01:34
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: NStpvJ0B)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=141.jpg

次は此処へ行こう。
次は其処へ行こう。

逢いたくなれば逢いに行こう。
別れを聞いたら花を捧げよう。

森に、海。光の先や、闇の彼方へ。
時の許す限り、何処までも行こう。

この身に刻む全てが、貴方の未知と願いつつ。

***

【挨拶】

 初めまして、月白鳥と申します。
 人外主人公の話が書きたくなって立ち上げた次第です。
 主人公と同じく、行き当たりばったりのスローペース、マイペースで進めております。
 粗の目立つ文章ですが、良ければ冷やかしついでにどうぞ。

 尚、この物語を書くにあたり、様々な方からキャラを御譲りいただきました。キャラの投稿者さんにこの場を借りて御礼申し上げます。

***

【注意】

・ この小説は「全年齢」「洋風ファンタジー」「一人称」「人外もの」「投稿オリキャラ登場」「ごく軽微な流血・死亡描写」の要素を含みます。この時点で無理! と言う方はUターンを推奨します。
・ 作者は非常に神経が細いので、刺激の強い描写はぼかしてあります。首狩り万歳のグロテスクもの、読後感最低な胸糞話、SAN値暴落必至の狂気乱舞等、刺激的な文章を見たい方はUターン下さい。
・ 小難しい設定や用語が沢山出てくるので、キャラと用語の簡単な設定一覧を挟む予定です。文章の中だけで全部読み解いてみせる、と言う方は、目次よりそのページを避けて閲覧下さい。
・ 誤字・脱字・文章と設定の齟齬・その他不自然な文章については発見次第修正していますが、たまに修正し忘れていることがあります。そのような場合はご一報くださると嬉しいです。

・ 一般に言う『荒らし行為』に準ずる投稿はお止めください。本文に対する言及のない/極端に少ない宣伝、本文に関係のない雑談や相談もこれに該当するものとさせていただきます。
・ 更新は不定期です。あらかじめご了承ください。
・ コメントは毎回しっかりと読ませて頂いていますが、時に作者の返信能力が追い付かず、スルーさせていただく場合がございます。あらかじめご了承いただくか、中身のない文章の羅列は御控え頂くようお願い申し上げます。

***

【目次】

キャラクタープロフィール
 →Book-1 >>38 >>64
用語集
 →Book-1 >>39 >>65
地名一覧
 →Book-1 >>40 >>66

Book-1 『鍛冶と細工の守神(The Lord of all of smith)』
Page-1 『翠龍線上の機銃(The strafer on the battlefield)』
>>1 >>2 >>3 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12
>>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>21 >>22 >>23
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
>>35 >>36 >>37

Page-2 『彷徨い森のファンダンゴ(Fandango in the forest maze)』
>>41 >>42 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49
>>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57 >>58
>>59 >>60 >>61 >>62 >>63

***

【御知らせ】
・ >>16に挿絵を掲載しました。(H.27.12/10)
・ 狐さんがラミーのイラストを描いてくださいました! URLからどうぞ。(H.28.2/13)
・ >>17に挿絵を掲載しました。(H.28.5/2)
・ >>37に挿絵を掲載しました。(H.28.5/22)

Re: タビドリ ( No.37 )
日時: 2016/11/04 03:51
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: HccOitOw)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=182.jpg

 
“嘗て人を苦しめた力が、人を救う希望になれたことは誇りであろう”


 ……少し、解せなかった。
 あらゆる意味で生命の限界を凌駕し、何もかも破壊しつくすほどの力を持ってしまった化け物が、最期に掛けられた言葉がそれなのか。そんなことを言われても、俺は俄かに信じられない。それどころか、言い知れぬ憤慨さえ感じてしまう。あんな化け物に、優しい称賛の言葉が必要なのか、と。
 だが、ロレンゾはぶれない。本当の話だと念を押し、それでも見る目に籠る猜疑心を隠しおおせない俺に、彼は溜息混じりに続ける。

「翻訳が間違ってるとは思わない。聴き取りが間違っているとも思っちゃいない。あの鳥は少なくとも、最期には誰かを救う力になった。……十万の猛禽を打ち落とす化け物も、解釈と使い方で頼もしい隣人になると、アエローは示してみせたんだ。俺にはそれだけで十分だよ」
「語っているところに失礼するが、撃墜王よ」

 不意に、背後から投げかけられる声。咄嗟に振り返れば、厳めしい表情をした灰色の犬、もといニーベルが、松葉杖片手に佇んでいる。その若草色の目は、振り返った俺ではなく、ただ日の昇る方を見てばかりのロレンゾへと注がれていた。
 撃墜王は振り向かない。ただ、何の用だ、とそぞろに問うだけだ。
 一方のニーベルも、表情一つ変えない。隆々とした影を真っ直ぐに見つめ、言葉を紡ぐ。

「ルディカと言ったか? 猫族の魔法使いが貴方を呼んでいる。そこの旅鳥も来れるならば、と」
「俺を? そらまた、何の用だい」
「我々は命令に対して余計な詮索をしない。果たすだけだ」
「ふぅん、律儀だねぇ」

 何の感情も含まれていない感想を一つ。褒められたのか貶されたのか、意図を掴めず微妙な顔で目を瞬くニーベルに構わず、ロレンゾはくるりと踵を返すと、やや足早に塹壕の方へ向かって歩き出す。そして、ニーベルの横をふとすれ違ったその瞬間、その首根っこをむんずと掴んだ。
 突然のことに反応の遅れた犬は一顧だにせず、彼はそのままずるずると彼を引き摺っていく。おいこら放せ、と絞り出したような怒号が放たれても、ロレンゾはお構いなしだ。
 ……どうしたらいいんだろう、この状況。

「が、頑張れっ」
「余計に惨めになるだろうが、止めろ……!」

 ロレンゾの手を引き剥がすほどの力もなく、だからと言って呼ばれている以上この場に突っ立って見送っている訳にも行かない。
 少しの間考えて、俺は結局、引き摺られるニーベルを助けずに、ただロレンゾの背へ追従することに決めた。末代まで祟ってやる、と言わんばかりの猛烈な怨嗟(えんさ)の視線を向けられたが、敢えて気にしない。気にしてはいけないのだ、俺よ。



「よう、ルディ。俺を呼ぶたァ一体全体どうした?」

 ずるずるとニーベルを引き摺って来た俺達に、ルディカは少し驚いたようだ。耳をピンと立たせ、瑠璃色の目をぱちくりと瞬いて固まる白猫に、ロレンゾは何でそんなに驚いているのか、とでも言いたげに小首を傾げ、ニーベルの首根っこを頑なに引っ掴んだまま、いきなり本題を繰り出した。
 ルディカは何か言いたげに、憤然として腕を組んでいるニーベルと、ただ漫然と突っ立っている俺を交互に見てくる。俺にもどうしようもない、と目配せして伝えると、彼は変なものを見る目を俺達三人にぐるりと向けて、次の瞬間平静を取り繕っていた。
 瞳に浮かんでいた戸惑いは消え、鋭い光を宿して俺達を見る。その眼を真正面から見つめ返し、ロレンゾは、ニーベルの襟首から手を放した。
 重いものが地面に落ちる音をかき消して、よく通る低い声が尋ねる。
 俺達を呼んだ理由は何だ。ともすれば脅迫じみた響きを帯びて投げつけられた問いへ、ルディカは迷わずに返した。

「後始末を付けに行きます」
「おいおい……言うに事欠いてそれかい。ンなこたァ兵士がやることじゃねェ、頭の良い上オダイジンサマにでも任せときゃ——」
「父は“王”と最も近しい存在でした。そして貴方は、その父と親しい存在だった」

 ロレンゾが、沈黙した。
 垣間見える金色の瞳が、刃の鋭さを帯びる。

「奴ァ何をしてる。あの熱血漢が出向けない理由があるか?」
「言うと思いますか、こんな所で」
「……つまりはそう言うことだな」
「————」

 二人だけの知る事情。二人にしか通じない会話。
 外野の理解を置き去りにして、真剣な表情と真剣な声は更に二、三ほど、暗号のような言葉を交わす。声が両者の間を行き交う度に、ロレンゾの表情は目に見えて険しくなるばかりだ。
 ふぅ、と疲れたような溜息が一つ。長い白髯を弄りながら、ロレンゾはいつもと同じ、軽薄で穏やかな笑みをルディカに向けた。

「良いだろう、代わりになってやる。上手く立ち回れや」
「分かっています」

 確認は短く。
 見つめる先は遠く。
 続いて声は、俺に向く。

「呼び付けておいて何ですが、その……」
「あー、そう言うのナシな。大体分かるから」

 俺に会話の意味が分からなかった時点で、何を言われるかの予想は大体付いていた。今更言葉にして言われることなど、俺には何もない。
 申し訳なさそうなルディカの声を遮り、しゅんとしたように耳を倒した彼へ、続ける。元気付けると言うにはあまりにも不愛想に。

「俺は誰でも出来ることを一生懸命やるだけだよ。心配とか要らないから」
「いえ、そうではなくて——」
「留守番だって立派な役目だろ。良いから早く戦争終わらせて来いって」

 語調を強めて言い切ると、ルディカは押し黙った。
 そして、そのまま深々と頭を下げてくる。

「すぐに戻ります」
「おう。そうでなきゃベルダンから鉄拳制裁だぜ」
「……可及的速やかに」

 か細い声で呟いて、若い白猫は朝日の方角へ足先を向ける。
 瑠璃の眼が、陽光を真っ直ぐに捉えた。

「戦争を、終わらせてきます」

 迷いなき宣言。
 歩き出す英雄と魔導師の後ろに、長く長く影が伸びた。


To be continued...

Re: タビドリ ( No.38 )
日時: 2016/10/30 01:51
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: HccOitOw)

【キャラクタープロフィール No.1】
※本編中で名前が出たキャラの簡単なプロフィール。
※物語が進むと少しずつ情報が更新されます。ネタバレ注意です。

<Book-1/Page-1>

・ エドガー(Edgar)
 主人公。当て所なく旅を続ける旅鳥。二十歳。十年前、生家から家出同然に飛び出して以来、ずっと旅を続けている。
 空気の読める常識人、かつ苦労人。感情の表現はやや淡泊だが、情に篤い性格。気性は比較的お気楽で能天気ながら、問われればちゃんと考えてちゃんと答える思慮深い人柄でもある。比較的饒舌で人当たりが良く、気難しい者にも胸襟を開かせる程度には話し上手。
 何だかんだ言っても、結局プラスの方向へと己の身の振り方を転じさせることができる豊かな人脈やスキルと、良い人やものに巡り合える強運の持ち主である。

・ ラミー(Rummy)
 主人公のおとも。エディの旅に随行している『泡沫の歌うたい(メロウ)』のお姫様。もうそろそろ十七歳の十六歳。本来の支配圏を超えて旅する不思議な人魚。
 快活で自由奔放なじゃじゃ馬娘。好奇心旺盛で、興味と関心の赴くままに行動するマイペースな女の子。とても感情豊かで、ちょっとしたことで驚いたり笑ったり泣いたりする。基本的には笑い虫。
 魔法の技量に長けており、瞬間的に火薬を水浸しにしてしまうほどの豪雨を周囲に呼び寄せることが出来る。体力がなく長続きしないのがネック。

・ ロレンゾ(Rorenzo)
 ネフラ山麓駅で雑貨屋を営む元軍人。六十歳。
 闊達自在、大胆不敵、寛容で陽気な楽観主義者。トカゲとしては異例なほど饒舌。無鉄砲かつ破天荒な言動が目立つ反面、思慮深く計算高い一面を垣間見せることも。
 片目と片腕を失い、四十年の歳月を経て衰えた今も尚、現役の軍人を圧倒するほどの力を誇る恐るべき英雄。その爆発力は凄まじく、自分より重たいものを片腕で投げ飛ばし、指一本で自重を持ち上げてしまう。恐らく本編中で最も膂力と戦闘力のある内の一人であろう。
 妻のローザをとても大事にしており、彼女のこととなるといまいち強く出られない。デレデレである。

・ ローザ(Rosa)
 本名ロザーニャ。ロレンゾの奥さん。五十六歳。
 おしとやかで温厚、物静かと、ロレンゾとは容姿も性格も正反対の淑女。誰に対しても丁寧に接し、旦那とは違った意味で風格のある女性である。
 手先が非常に器用で、とりわけ編み物に傑出した才能を示す。その細やかさは、魔法の才など一切持たないにも関わらず、技工士の手仕事を文献に載っていた記述から再現できるほど。弱視の眼でどうやって編み物をしているのかは不明である。

・ ベルダン (Beldan)
 ネフラ山麓駅に小さな工房を構える、世界最高峰の腕を誇る“大鍛冶師(グランドスミス)”。四十年前の英雄を支えた凄腕の整備士。七十五歳。
 ロレンゾとは対照的に、生真面目で神経質な孤高の人物。無駄な言動を嫌い、自身も非常に寡黙。名声や評判と言ったものに興味がなく、自身のすべきことを淡々とこなす冷然とした性格。ひどく無感動で、他者の生死にすら興味を示さない。
 元はメカニックだったと言うこともあり、基本的な立ち位置は頭脳プレー派。また身体能力も全盛期より衰えており、短気の殴り合いには滅法強いが持久戦は厳しいようだ。

・ エシラ (Esira)
 海上高速船『天秤座商船(リブラベッサー)』の船長。七十六歳。金の匂いある所何処にでも出没する老商猫。
 尊大で老獪、いつでも偉そうでちょっと嫌味な奴。こと金が絡むものには執念深く、時に自身の身を顧みずに飛び込んでいく。だが、商売人としての矜持と誇りは並々ならぬものがあり、越えてはいけない一線を超えることは決してしない。実は良い奴。
 とてもビビリですぐに叫び、中々立ち直れない。豆腐メンタル。

・ ペトロ (Petro)
 ペンタフォイル山麓駅で宿屋を営みながら、自作の糸や布を売って生計を立てる、数少ない(はずの)『技工士』の一人。五十歳。
 非常に温厚で気さくな性格。飄々としたのんびり屋、ちょっと天然気質で、よく喋るが肝心な所を話し忘れることも多い。反面手仕事はしっかりしており、その正確さは一目置かれているようだ。ただしどんぶり勘定。
 生業にするだけあって裁縫と機織りが得意。息子が一人いる。

・ ルディカ (Rudica)
 志半ばにして死去した父の遺志を継ぎ、最前線へと立った魔導師。『溶岩竜(サラマンデル)』の力を借りる炎使い。十七歳。
 表向きは冷静沈着で淡々とした性格。だが、本来は少々押しに弱く、頼み事や無理は何度も言われると断れないような気の弱い青年である。父が死に、前線に立たされるにあたってそう言った弱い面は隠しているようだが、見る者が見れば無理をしているのは丸わかり。ただし怒ると怖い。
 運動神経は悪いが、結構力持ち。地味に手先が器用。

・ ニーベル (Nibel)
 最前線で大隊の指揮をしていた大隊長。四十歳。割と名のある兵士だったのだが、ロレンゾが来たばかりに壊滅させられてしまった不運な男。
 やや短気で強情、融通が利かない堅物。状況の把握力も判断力もあり、個人での戦闘力も中々のものなのだが、全部人並みで中途半端。当人もそんな自分にイラついており、あまりにもあっさりと自身の大隊を潰されたことも相俟って、人に当たり散らす言動が悪目立ちしている。
 実はロレンゾよりも武器の扱いに長けた人物だったりするのだが、あんまり目立たない。

・ エレイン (Elein)
 ニーベルの大隊に所属する魔導師。『泉底の乙女(ネイアド)』の力を借りる水使い。二十二歳。
 礼儀正しく物静か、かなり消極的。あまり自分の感情を人に語らず、語ったとしても言葉は少なめ。思慮深く真面目で、意見具申しても笑われない程度に一人前の考えを持った者ではあるが、周囲の濃いキャラに押し負けている印象が強い。
 魔法使いとしての腕は、ルディカの曰く「そこそこ」。正直そこまで凄い腕ではないようだ。

Re: タビドリ ( No.39 )
日時: 2016/02/10 18:31
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: E8T1E3Rb)

【用語集 No.1】
※ 本編中で連呼される確率の高い用語の解説。
※ 裏設定をちょろっと含みます。

<Book-1/Page-1>

・ 智獣 (ちじゅう/Intellectual beast)
 人間が食物連鎖の頂点から去った後に台頭した者達。獣の感覚と人間の知性を同時に併せ持つ動物達。獣人と呼ばれることもあるが稀な用法である。
 エディ達が旅する世界で生きる者のほとんどが智獣であり、人間と同じような文明を築いて生活している。人間よりも文明の水準は下位。

・ 守神 (もりがみ/The Preserver)
 神と呼称される概念の代行者。あらゆる場と概念に住み着き、その秩序を維持する者達の総称。人間の間で「幻獣」とか「妖精」、「精霊」と呼ばれていた者達は大体これに属しており、その形態や性格は実に様々。
 比類なき絶大な権力と魔力を持つ代わりに、それらが振るえる範囲(支配圏)は概ね決まっており、その範囲から逸脱した場所では極端に行動が制限される。あまりに範囲から外れすぎると存在する意味を失って消滅するとも。

・ 『遺物』(いぶつ/Black-box)
 人間が遺した技術の跡、或いは悲劇の痕。人間が創りだしたものの内、智獣達が築いた文明より遥かに高度な技術を以って作られたものを特に『遺物』と総称する。
 『遺物』の種類や用途は様々。大抵は細々とした日用品が散発的に見つかるだけだが、ある一か所で物騒な兵器が大量に発見されることもあり、所有権を巡る戦争が絶えることもない。

・ 魔法 (まほう/Wizardry)
 この世界の理を一時的に書き換え、起こし得ないものを起こす技術。または起こった結果そのもの。
 木と宝石を組み合わせた杖を依代に、守神の力と支配圏を借りて使うのが一般的。自然現象の範囲に収まる=力を借りた守神が起こせる範囲ならば、大体どんなことでも出来る。ゆるゆる。

・ 魔力 (まりょく/Charm)
 この世界を形作る力の内、あらゆる確率を超越し操作する“可能性”の力。魔法を操る際に消費される力の一つ。世界の理に触れる為の鍵。
 この世界のありとあらゆる物質に含まれており、持てる限界量はその物質が構成された瞬間から既に決まっている。どう言う訳か生物には特別に多い。ただし、周囲から魔力を集めて貯める性質を持ったものもあり、その場合は膨大な魔力を秘めていることも。
 無秩序で大雑把、混沌とした力であり、そのまま扱うことはほぼ不可能。魔法の呪文や杖はこれを統率し制御するための目印である。
 人間はこの力が何たるかを把握していたようだが、紆余曲折の後、その知識は喪われた。

・ 魔法使い (まほうつか-/Wizard)
 魔法を使う者達の総称。智獣達の中でも特に六感に優れた、より守神に近しい者達。『魔導師(まどうし)』は役職とするときの格式ばった表現。
 基本は生まれ持った魔力の量や質が全てを決める世界だが、強い魔力を発するものに触れ続けることで突然魔法使いの素質に目覚めることもあるらしい。

・ 天秤座商船 (リブラベッサー/Libra Vessel)
 エシラが所有する高速航行船。元は普通の蒸気船だったのだが、エシラ以前の何処かで『遺物』による魔改造が施された。
 最大の特徴は「砲弾の如く」とも称されるほどの航行速度の速さと、「難破船だってあんなに揺れない」と揶揄されるほどの激しい揺れ。安易に同船すると水恐怖症になるほど船酔いする。

・ “疾風”アエロー (“しっぷう”-/"Gales" Aello)
 かつての英雄を英雄たらしめた、守神の名を冠する純白の飛空艇。「隼より尚速く、鷹より尚優雅に飛ぶ」と猛禽に言わしめた前時代の怪物。四十年前に動力炉の暴走による墜落事故を起こしている。
 形はSIAI S-21にそっくり。ただし、地上にも降りられるよう引き込み式の脚が付いている他、荷物を入れる為の貨物室がかなり大きめに取られている等、差異は多い。定員は二名。
 一日中でも飛び続ける耐久力と猛烈な馬力を兼ね備える冗談のような高性能機。同時に、「劇毒」とさえ称される危険な物体を燃料に飛ぶ危うい船でもある。
 何かと深い闇を抱える謎多き『遺物』。

・ 魔燈鉱 (まとうこう/Glow gem)
 魔力に反応して光を放つ特殊な鉱物。結晶構造や性質は水晶に似る。
 強い魔力を帯びた土地でしか産せず、しかも成長の遅い希少な岩石だが、魔力に反応することと魔力を溜め込むこと以外には際立った特徴を持たないため、単体での利用価値は手軽な照明くらいしかない。
 真に価値があるのは、むしろ他の鉱石と混じり合った『魔燈鉱入り貴石』の時。このときは魔力をある一定の方向へ整列させる“羅針”としての働きを持つ。

Re: タビドリ ( No.40 )
日時: 2016/02/10 23:35
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: E8T1E3Rb)

【地名一覧】
※ 本編中で登場した地名のちょっとした解説。
※ 主人公が説明していないことも含みます。

<Book-1/Page-1>


・ プレシャ大陸(-たいりく/The Precio continent)
 Book-1の主な舞台となる大陸。六つある大陸の内最も陸地面積が大きい。
 形としては東西に横長いダイヤ型。大陸のど真ん中を造山帯(海嶺帯)が南北に分断している。
 造山帯の真っ只中にあるため、地下資源が非常に豊か。中でも『龍の頸』の西側はとても良質な金属が豊富に産出し、鍛冶職人御用達となっている。
 様々な種の智獣が住む獣種のるつぼ。

・ ネフラ山系 (-さんけい/Nephl Mountains)
 プレシャ大陸を南北に縦断する山脈の総称。『龍の頸』『龍の峠』『龍の尾』と呼ばれる三つの大山脈から構成され、プレシャ大陸を東西に隔てている。今も活動している海嶺山脈であるが、活動は温和で、噴火活動は比較的小規模。それでも年に何度かは噴火し、麓の街では死者が出ることもある。
 『鍛冶と細工の守神(トバルカイン)』と呼ばれ信仰される巨龍がこの山系に眠っている。エディが見た“眼”はその一部。

・ ネフラ山麓駅 (-さんろくえき/Nephl stillage)
 『龍の頸』山麓の西側にある中規模の街。人口約3500人。
 プレシャ大陸の中でも特に鉄鋼鍛冶の盛んな街で、プレシャ大陸で作られる金物の九割が此処で作られている。宝石細工も中々だが、そちらのシェアはどちらかと言えばペンタフォイル山麓駅のほうに傾きがち。
 海、山、平野と異なる三つの地形に隣接していること、良質な金物が格安で手に入ることから、旅人御用達の宿場街でもある。
 冷涼な気候で作物が育ちにくいため、暮らしていくのは結構大変。

・ 翠龍線 (すいりゅうせん/Nephl-Drake line)
 ネフラ山系の別名。空から見た連山の様子があたかも線のようであり、また『鍛冶と細工の守神』が眠ることから名づけられた。地上から見ると壁のように見えるのはご愛敬。
 交通の要所であるが、同時に遭難の名所。毎年翠龍線を越えようとして遭難し、そのまま行方を絶ってしまう者が十人は居る。あまりにも危険なため晩秋〜初春の間は通行禁止。

・ 旧ネフラ隧道 (きゅう-ずいどう/The old Nephl-tunnel)
 『龍の頸』中腹にある未完のトンネルと、そこから派生した坑道の総称。あまりにも脇道が多く、正確な地図は未だ得られていない。
 公式に旧ネフラ隧道とされる道=本道は山体の途中までしかないが、本道から伸びた坑道にはいくつか山体を貫いているものが存在する。その内の一つが主人公達の使った『禿泣き隧道』にあたる。

・ 禿泣き隧道 (はげな-ずいどう/The Bald-man's moan)
 旧ネフラ隧道本道から派生した坑道の一つ。
 隧道に住み着くハタネズミが魔燈鉱採掘の為に掘削した坑道の名残で、本道から山体を抜ける最短ルートを通っている。
 造りがしっかりとした安全な道であるため、急ぎの旅人がしばしば使う道だが、元がネズミ用なだけに大の大人が真っ直ぐ立てないほど高さが低い。注意深く歩かないとすぐに頭を擦り、頭にハゲを作ることになる。ハゲの人はただでさえ薄い頭髪を更に奪われる。泣くしかない。

・ 階海 (きざはしのうみ/Angel-ladder sea)
 プレシャ大陸の南に広がる海。名前の由来は天使の梯子がよく掛かることから。ただし階海と言うのはプレシャ大陸でも古い呼び名であり、現在の一般表記は『南海(なんかい/South sea)』。主人公はこちらの古い呼び名のほうを気に入って使っている。
 海底の地形の影響から暖流と寒流が複雑に入り混じっており、魚のみならず様々な海産物が採れる。

・ ペンタフォイル山麓駅 (-さんろくえき/Pentafoil Stillage)
 ネフラ山麓駅のちょうど反対側に位置する宿場街。人口1200人。
 プレシャ大陸きっての軍需で栄える物騒な街である一方、豊富に鉱石を産する宝飾の街としても有名。紡績業と林業でも割に良い品を産している。
 季節風や吹き降ろしの関係で豪雪になりやすく、ネフラ山麓駅以上に暮らすには骨の折れる場所。その代り、定住している人々は皆とても鷹揚で忍耐強く、物騒な場所にあるにも関わらず旅人が多く立ち寄る。

・ 戦場 (いくさば、せんじょう/The Battlefield)
 プレシャ大陸の東側に広がる最大の平野の蔑称。その下に埋もれた大量の『遺物』の所有権を巡って戦争が続いていることから。
 長きに亘って踏み荒らされ、兵器などによる汚染を受けた為に土壌が枯れてしまい、現在は草木一本生えない不毛の地と化している。

Re: タビドリ ( No.41 )
日時: 2016/02/16 00:28
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: E8T1E3Rb)

Page 2:彷徨い森のファンダンゴ


「ご機嫌麗しゅう、魔導師長が知己エドガー、ベルダン、そして『泡沫の歌うたい』ラミー。私は“猫の王”の遣いの者であります。唐突なことでは御座いますが、王が謁見を御赦しになりました。速やかに『銀嶺(ぎんれい)の城』へ来訪するよう所望しております」
「……へ?」
「俺?」

 塹壕に居た俺達の元へ、“猫の王”なる者の遣いがやって来たのは、ロレンゾとルディカが犬族の国へ出発してからかなり経った頃。そろそろ昼になろうかと言う時分だ。
 ミソサザイかと思わんばかりに小さい、しかしやけに堂々とした佇まいの白い小鳥が、どうやら王の遣いらしい。小さい翼で器用に宙の一点へ留まり、遣いは慇懃無礼な口調で一方的に用件を伝えてくる。そのままそそくさと立ち去ろうとした所へ、どういうことだと聞き返すと、それは菫色の眼でちらと周囲を見回した。
 止まる場所が欲しいのだろうか。ならばと左の翼を差し出すと、思惑通り遣いは俺の翼の先にちょこんと羽を休めた。

「で、俺に来てほしいってのはどういう事だい」
「言葉の通りであります。“猫の王”レグルス様は此度の貴方がたの功績を御認めになり、直々に御逢いし言葉を交わしたいとのこと。レグルス様は現在病に臥し、その御身が自由になりませぬ故、貴方がたからの来訪を望んでおります」

 遣いの小鳥は寸秒の遅滞もなく俺の質問に答えてくる。そして、やおら俺の翼の上にのっしり身体を落ち着けた。俺が応か否か答えるまで居座る算段のようだ。
 ——“猫の王”レグルス。それがどんな存在なのか俺は知る由もないが、周囲から王と呼ばれている上にその名で遣いまで出せるのだから、猫族の中でも特別偉い身分なのだろう。そんなお偉い方に、病床の身で逢いたいと言われて、断る理由が俺の何処にあるだろうか。

「俺は喜んで行くよ」
「私もー!」
「それは有り難い」

 俺が遣いに与える返事はこれしかない。
 なのに。

「俺は断る。果たすべき仕事を放棄してまで赴く価値が無い」
「おい、ベルダン!」

 遣いが名に挙げたもう一人の方は、あっさりと突っ撥ねた。思わず飛び出した咎めの言葉も聞く耳持たず、彼は塹壕の淵に座り込み、晴れ渡る秋の空を眺めている。理由を御聞かせ願います、そう遣いが声を張り上げて、それでも尚彼は黙りこくったままだった。
 今の空と同じ色をした眼が見つめる先は、現実ではない何処か。ほとんど揺らぐことのない表情は、いつものように何も思惟を読み取らせない。振り上げては強く打ち下ろされる尻尾の先だけが、彼の思うことの一端を告げるばかりだ。
 それは即ち、苛立たしさ。一体何がそうさせるのかは知らないが、とにかく彼は何かに苛立っていた。

「……エド、ラミー、貴様等は行って来い。彼は聡明な男だ」
「へ? ベルダンさんは?」
「そうだよ、あんたはどうすんだ。その「聡明な男」からの呼び出しを無下にする気か?」
「俺は誉れより仕事を取る」

 ベルダンの一言は冷徹だった。そして、こんな声を上げた時の彼は、八つ裂きにしたって自分の意志を枉(ま)げはしないことを、俺は知っている。良くも悪くも、ベルダンと言う男は硬骨で一本気な性質なのだ。
 遣いはそれを知っているのだろうか。アメジストにも似た眼を少し細めて、彼は涼やかに、鋭く言葉を突き刺した。

「王は貴方がたのようには行きませぬ。老い衰え、今や余命幾許もないことは承知の筈。逢わねば次はありませぬ。それでも貴方は目先の任務を優先されますか? 誰に任せて差し支えのないものが大事ですか? 貴方は、その頑迷さの為にどれだけのものを失うのです」
「ならば、何時でも出来ることの為に今しか出来ないことを犠牲にしろと言うのか? 巫山戯るのも大概にしろ、それほど俺は暇ではない」
「往時にも貴方は同じことを仰った。その結果を貴方が知らぬとは言いますまい」

 機械的な口調の裏に怒気を含めて、遣いは淡泊に咆える。対するベルダンは、苦痛を堪えるように固く目を閉じ、押し黙った。バシン、と鈍い音。砂煙が舞うほどに強く尻尾を叩きつけ、彼は乾いた地面を掻き毟る。それでも尚、その首が縦に振られることはない。
 遣いはただベルダンを見上げていた。
 ベルダンが鳥を見ることはなかった。

「四十年前の英断は多くの者を裏切り、より多くの者に益を齎しました。ですが、今王に逢わぬことにどのような益がありましょう? 貴方にとって、我が王とは小さな益の為に裏切っても良い存在なのでしょうか」
「————」
「王は聡明なる御方であらせられます。今此処で手を拱(こまぬ)くより大きな益を与え得ると御思いになったからこそ、貴方をも御招きになられた。御分かりになっては頂けませんか」

 長い長い沈黙。
 大きく重い息を一つついて、ベルダンはもう一度尻尾を叩き付けたかと思うと、何かを引き千切るように勢いよく立ち上がった。
 空色の瞳は、陽の昇る方を見つめたまま。声だけが俺達の傍に転がってくる。

「悪いが、返事は否だ」
「何を——むぎゅぅ」

 躍起になって言い返そうとした遣いを、俺は咄嗟に上から押さえつける。何時までも遠くを見続けるその眼に、答えを見たような気がしたのだ。何も意地悪や頑迷さの為に拒み続けているのではないと、俺は直感していた。
 とりあえず俺だけでもそっちに行こう。押さえ付ける手を放しざまそう提案すると、遣いも何か感づいたらしい、特に反論せず頷いた。

「王は『彷徨いの森』最奥に居られます。導(しるべ)を見失わないよう」
「嗚呼、分かってる。……ラミー、行くぜ」
「はいはいさー!」

 ぱたた、と軽い羽音を立てて飛び立った遣いを横目に、その辺をぷらぷら漂っていたラミーを呼び寄せる。こんなカラカラの場所に長居させたから干物になっちまったんじゃないかと思ったが、見る限りそう言った様子は全くない。むしろ、元気いっぱいといった風情だ。
 大方、俺が此処を離れている間に里帰りでもしたのだろう。バケツ一杯でも水があれば、彼女はそこから何時でも家に帰れるのだから。そうでなくとも、頭から水を三回ぶっかければ、ラミーなら何とかなってしまう。つくづく人魚らしくない。
 なんて、他愛もないことを考えながら、俺は白い小鳥の後を追った。


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