複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- タビドリ
- 日時: 2017/07/20 01:34
- 名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: NStpvJ0B)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=141.jpg
次は此処へ行こう。
次は其処へ行こう。
逢いたくなれば逢いに行こう。
別れを聞いたら花を捧げよう。
森に、海。光の先や、闇の彼方へ。
時の許す限り、何処までも行こう。
この身に刻む全てが、貴方の未知と願いつつ。
***
【挨拶】
初めまして、月白鳥と申します。
人外主人公の話が書きたくなって立ち上げた次第です。
主人公と同じく、行き当たりばったりのスローペース、マイペースで進めております。
粗の目立つ文章ですが、良ければ冷やかしついでにどうぞ。
尚、この物語を書くにあたり、様々な方からキャラを御譲りいただきました。キャラの投稿者さんにこの場を借りて御礼申し上げます。
***
【注意】
・ この小説は「全年齢」「洋風ファンタジー」「一人称」「人外もの」「投稿オリキャラ登場」「ごく軽微な流血・死亡描写」の要素を含みます。この時点で無理! と言う方はUターンを推奨します。
・ 作者は非常に神経が細いので、刺激の強い描写はぼかしてあります。首狩り万歳のグロテスクもの、読後感最低な胸糞話、SAN値暴落必至の狂気乱舞等、刺激的な文章を見たい方はUターン下さい。
・ 小難しい設定や用語が沢山出てくるので、キャラと用語の簡単な設定一覧を挟む予定です。文章の中だけで全部読み解いてみせる、と言う方は、目次よりそのページを避けて閲覧下さい。
・ 誤字・脱字・文章と設定の齟齬・その他不自然な文章については発見次第修正していますが、たまに修正し忘れていることがあります。そのような場合はご一報くださると嬉しいです。
・ 一般に言う『荒らし行為』に準ずる投稿はお止めください。本文に対する言及のない/極端に少ない宣伝、本文に関係のない雑談や相談もこれに該当するものとさせていただきます。
・ 更新は不定期です。あらかじめご了承ください。
・ コメントは毎回しっかりと読ませて頂いていますが、時に作者の返信能力が追い付かず、スルーさせていただく場合がございます。あらかじめご了承いただくか、中身のない文章の羅列は御控え頂くようお願い申し上げます。
***
【目次】
キャラクタープロフィール
→Book-1 >>38 >>64
用語集
→Book-1 >>39 >>65
地名一覧
→Book-1 >>40 >>66
Book-1 『鍛冶と細工の守神(The Lord of all of smith)』
Page-1 『翠龍線上の機銃(The strafer on the battlefield)』
>>1 >>2 >>3 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12
>>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>21 >>22 >>23
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
>>35 >>36 >>37
Page-2 『彷徨い森のファンダンゴ(Fandango in the forest maze)』
>>41 >>42 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49
>>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57 >>58
>>59 >>60 >>61 >>62 >>63
***
【御知らせ】
・ >>16に挿絵を掲載しました。(H.27.12/10)
・ 狐さんがラミーのイラストを描いてくださいました! URLからどうぞ。(H.28.2/13)
・ >>17に挿絵を掲載しました。(H.28.5/2)
・ >>37に挿絵を掲載しました。(H.28.5/22)
- Re: タビドリ ( No.22 )
- 日時: 2015/12/10 23:50
- 名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: kkPVc8iM)
ひび割れた石畳、折れた柵、雑草。
壊れた屋根、煤けた煉瓦、割れた窓。
開かない玄関、這い回る枯れ蔦、古い石段。
揺れる白いカーテン、良く晴れた空、差し込む陽光。
床板の軋る音、食器の触れ合う固い音と、穏やかな静謐。
「お帰り、エディ」
「立派になったな」
記憶の奥に埋もれた、二人の声がする。
脳裏に隠し続けて忘れかけた、懐かしい声。
「どうしたの、変な顔して」
「私達が怒ると思ってるのか?」
困ったような、けれども嬉しそうな表情は、記憶に残る通りだ。
十年前、制止を振り切って飛び出した、小さな家の主。
「俺は……違うんだ、此処は」
二十年前、何もかも失くした俺を拾った、俺の両親。
いつかの日に失った、俺の帰る場所。
「あらま、あんた酷い子ねー。待たないなんて言ってないわ」
「そうだぞエディ、いい加減親孝行くらいしたらどうだ?」
「そりゃ無理だよ……痛って! 何すんだ!」
湿っぽい気分になってたら、思いっ切り横っ面を引っ叩かれる。
二人はさっきまでの顔に怒気を孕ませていた。
「馬鹿言わないの、さっさと帰ってらっしゃい。あんただって立派に私たちの息子なんだから」
「私達が生きている間に一回くらいは帰ってこい。私は不孝者を育てた覚えはない」
んで、バシバシ頭を引っ叩かれる。力も勢いもないけど、羽のせいでやたら痛いしばさばさして、何だかチリチリと痛かった。
分かったから、一回家に戻るから。いつまで経っても終わらないそれに辟易して喚き捨てたら、やっと往復ビンタが止まった。代わりに向けられたのは、ちょっと気持ち悪いくらいの満面の笑みだ。
「言ったわね? 言ったわね?」
「早く帰って来いよ、馬鹿息子」
「嗚呼もうっ、止めろよその顔! 分かった、分かったってば!」
何と言うかもうこっ恥ずかしい。絶対だ絶対だぞ、早く帰ってこい、とインコみたいにしつこく念押ししてくるのを背中に聞きつつ、分かった分かったと馬鹿な九官鳥みたいに連呼して、俺は蝶番(ちょうつがい)の錆びた玄関口を思い切り開け放す。
ギィイッ、とビックリするくらい大きな音がして、扉が外に開いた。いつも薄暗く、どこか陰鬱とした空気の漂っていた古い石畳の上には、真っ白い陽光が燦々と降り注ぐ。それがあんまりにもカッカと照り付けるもんだから、目が眩(くら)んだ。
いっそ無遠慮とも思えるほどに注ぐ陽は、けれど春の陽気の暖かさ。いつも寒々しくうら寂しかった裏路地を埋めるように、穏やかな光が辺りを照らす。
ぼーっとして、立ち尽くした。
……琳々、琳々、鈴の音よ……
……琳々、琳々、響けや天(そら)に……
どこか遠くで、聞き慣れた声が歌っている。
絹の糸を紡ぐように、楽しげなソプラノが詩を縒る。
「……蒼い紗の下、銀の鋏よ……」
「煌めけ白く、夜を刈りませ……」
玲瓏と続く歌の間から、しょきしょきと何やら小気味いい音が聞こえてくる。毛か何かを鋏で切っているようだ。そして、低く芯のある男の声と、舌足らずな感じを含んだ子供の声も、ソプラノの声と一緒になって詩を諳(そら)んじていた。
ぼんやりとそれに耳を澄ませる内、頭の下に敷かれたふかふかの何かに気付く。そして、身体全体をふんわりと覆っている分厚い布の僅かな重たさが、頭に掛かった霞を一気に打ち払った。霧が晴れるように、どこか呆けたようになっていた意識が、こちら側に戻ってくる。
そうだ。俺はまだ、寝ていたのだ。
「珊々、珊々、鈴の音よ……」
「珊々、珊々、響けや地(つち)に……」
相変わらず遠くから聞こえる歌を聞きつつも、目を開けた。
途端に飛び込んでくる陽の眩しさは、夢の終わり際に見たあの白さだ。開け放たれた雨戸の向こう、秋口の空は清々しく晴れて、瑠璃玉をぶちまけたような青さが眩しい。
しかしながら、いつもより空が明るい。もう朝なんて呼べる時間はとうの昔に過ぎているのだろう。その証左と言うべきか、寝る寸前まで確かに払われていたはずの客の姿が、今はもうあちこちに伺える。挙句の果てには、目の下にくっきりクマを作った垂れ耳の犬が、布団と枕を抱きしめてゴロ寝している始末だ。
もう少しだけ布団の中に籠っていたい気もしたけど、夜行性の奴等が此処で雑魚寝するのなら、俺は起きなきゃなるまい。寝相の悪い獣に蹴り飛ばされるのは御免だし、物騒な寝言を聞くのだってお断りだ。
「白い綿煙(わたけむ)、銅の紡錘(つむ)……」
「縒れや細糸(ほそいと)、雨を退け遣れ……」
外からは呑気な歌い声。聞き慣れた涼やかな声は、きっとラミーのものだろう。聞いたことのない歌だが、何なのだろうか。
人魚の歌を聞きつつ布団を払いのけ、ふかふかの枕から頭を引き剥がして、木床にベタ寝していた所から立ち上がる。凝り固まった身体を伸ばしざま、少し頭を巡らして店主の姿を探したが、その姿はどこにも見えない。代わりに客の出入りを見つめているのは、店主の息子と思しき羊の仔だ。
「おーい代理さんよー。これどうすんだー?」
「んーとねー……置いといてー。後でおせんたくするー」
「へいへーい」
次々にやってくる客に記名と宿泊代を請求しながら、カウンターに両肘をついて、ずらずらと並ぶ文字を漫ろに目で追う羊の仔。何だか全然やる気なさそうに見えるけど、まあしっかり者そうな店主が任せてるくらいなんだし大丈夫なんだろう。そう思いたい。……思わせてほしい。
布団は八つに折り畳み、枕と一緒に部屋の隅。俺は傍に放り出していた装備一式を全部身に着けて、出入り口から外に出た。
- Re: タビドリ ( No.23 )
- 日時: 2015/12/18 00:18
- 名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: 4xHshXk8)
「ほい終わり、よく頑張ったな。んじゃ次ー」
「はいはーい」
真昼間から盛況の宿屋、その裏手に併設された庭の片隅で、店主とラミーは毛の山と羊の仔に埋もれていた。
横幅が庭からはみ出さんばかりに大きい緋色の絨毯を敷き、その上に頑丈そうなスツールを出して、十も二十も集まった羊の仔の毛を銀色の裁ち鋏で切っている。既に何十かの子羊の毛を刈り終わった後のようで、絨毯の上に積み上がったモコモコの白い毛の高さは、実に俺の背の高さ以上だ。
しかしまあ、思い切り飛び込んで寝転がりたいこのボリューム。事実、毛が狩り終わってサッパリした様子の子羊達は、毛の山を枕にして日向ぼっこを満喫している。ラミーに至っては、頭から突っ込んで尻尾しか見えていない。楽しそうで何よりだが、中で髪飾りや腕飾りが絡まって大変なことになりゃしないだろうか。
むごむご言いながらぴちぴち跳ねる尻尾を横目に、小山の影から顔を出す。店主はすぐに気付いて、此方に首だけ向けてきた。
「やぁ、兄サン。よく眠れたかい?」
「お陰様で。久しぶりだよ、こんなに寝るのは」
「だろうや。おいさんの特別製のを貸したんだから、悪夢なんて見るはずがない。どんな奴でも朝から昼までぐっすりさ」
よほど自前の布団に自信があったのだろう、俺の返答に対して自慢げに胸を張りながら、店主は顔を前に戻す。
でも凄く恥ずかしい夢を見たぞ、と思わず反論すれば、彼から返ってくるのは更なる笑声だ。
「兄サン、夢の中で誰に逢った。それは何処だい?」
「? 育ての親だったよ。場所もまんま俺の家だ」
「おっ、そりゃあ良いね。“叶えられる夢”だ」
溜息のような声で呟いて、しゃきん、と鋏を一度空切り。伸び放題の毛を櫛で粗く梳かし、綺麗に整ったところへ鋏を入れていきながら、店主は自分の言葉に続きを紡ぎ足す。
——それが今、一番逢いたい者であり行きたい場所なのだ。
店主の言葉は清々しいほど断定的で、迷いの一欠けらもない。あんまりにも自信満々に言うもんだから、思わず二の句に迷って、結局黙り込んでしまった。
鋏の音が、少し。足元に出来た毛溜りを蹄でその辺に押しやりつつ、店主は沈黙を破っていく。
「おいさんの布団は特別でね。逢いたいと願う誰か、行きたい何処か、やりたい何か——そう言った、心の中の願い事を良い夢にして見せるんだ」
「願い事……俺の?」
「そう。しかも、叶えたくても叶え難い、けれど一番強い願い事」
詩的と言うか、婉曲した言い回しだが、要するに俺は家に帰りたがってるってことなんだろうか。
そう言われるとそうかもしれないのだが、どうもはっきりした実感が湧かない。今の時点だとやっぱり戦場の空を飛び回ってるであろうロレンゾ達の方が気になるし、白猫魔導師の斃れた今、戦場がどうなってるかが一番気掛かりだ。もっと言えば、さっきから羊毛の山の中から尻尾だけ出しているラミーが今すごく気になる。
それに、育ての親と親交を経って十年だ。この十年で手紙の一通すら寄越してこなかった薄情者と、薄暗く陰鬱としていたあの裏通りに、俺が郷愁を抱いていると言うのか。
あの夢を見た後でも、その答えに応と首を縦に振ることは出来ない。
恐らく俺は微妙な雰囲気を発していただろう。ぱたぱたと耳を上下させて、店主は少し声のトーンを落とす。
「兄サンはまだまだ目的が沢山あるから、気付きにくいかもしれないね。でも、いつか暇が出来た時によく考えてごらん。終点とはいかないまでも、目的地はきっと、この日夢で見た場所になる」
「……良く分かんねぇ」
「今はそうだろうね。それでも、おいさんの布団が見せる夢はそこら辺の魔法使いよりよっぽど当たるよ。何しろおいさん、『技工士』だからねぇ」
ふふん、と誇らしげに胸を張りつつ、子羊の毛をざっと切り終わった彼は、鋏を小さいものに持ち替えた。櫛もより目の細かいものに変えて、大雑把に刈られてざんばらになった毛を綺麗に切り揃えていく。
俺はと言えば、先程店主から告げられた技工士の単語に引っ掛かって、上手く言葉が出てこない。単語自体は聞いたことがあるし、そう名乗っている職人に会ったこともあるのだが、この引っ掛かりは——いや待て。
羊の、技工士?
「“紡ぎ家”のペトロか?」
自分で声にしたのを聞いて、当の本人が「正解」とばかり満足気に頷いたことで、ようやく俺の中の閊えが取れた。
同時に、そして今更ながら、昨晩貸してもらった枕と布団の価値に気付く。
「そりゃあんな夢見るわけだよな……ゴメン、今この瞬間まで『技工士』だなんて気づかなかったよ」
「戦場で活躍なすってるのと違って、それらしい恰好はしてないからね。おいさんが言わんと大抵の旅人さんは気付かんよ。気にしなさんな」
“紡ぎ家”のペトロ。
世界中に百と少ししか居ない魔法使いの中でも更に稀有な、道具に魔法を宿し、万人と魔法を共有する技能を持った魔法使い——『技工士』の一人。邪と厄を祓う糸を紡ぎ、害と災を弾く布を織る、魔法使いの中でも特に高い実力を持っている者の一人だ。
そして彼は自身も強力な守護と癒しの魔法を行使し、彼のいる街はそれだけで戦渦を免れ得るとさえ旅人の間では言われている。今の今までその実際を見たわけではなかったし、今だってそれらしい行動は何一つ見ていないのだが、戦場の直近にありながら爆音一つ聞こえないのどかさは、遠回しな証左と言っていい。
そして俺は、そんな彼が織った布を、何の偶然か手にしていた。
「あの、ストールは……」
そうだ。
“紡ぎ家”ペトロの銘は、彼以外の誰が使えるものではない。
「嗚呼、お嬢が寝るときに巻いてた奴だね。ちょっと古かったと思うけど、使い勝手はどうだい?」
「すごーくあったかいよー!」
背後から、元気一杯のソプラノ。
多分俺に向かって聞いたのだろうが、答えたのはラミーだ。いつの間に身体を反転させたのだろうか、羊毛の山から今度は頭をにょっきり出して、あちこちに付いた白い毛をぱっぱと忙しなく払いながら、彼女はとびきり楽しそうに声を張り上げる。
そうかいそうかい、とペトロは嬉しそう。頷く間にも、彼は子羊の毛を綺麗に揃え終わって、三人目を傍に呼び寄せようとしていた。が、何を思い立ったか、ふっと手招きしかけた手を止めて、やおらスツールから立ち上がる。
暗い飴色の目でラミーを眇(すが)め、やおら万歳をさせたかと思うと、ペトロは羊毛の山から人魚を引っこ抜いた。そして、きょとんとして首を傾げる彼女を更にじっと見つめ、合点が言ったとばかり深く二度頷き、いかにも満足気に腕を組む。
そうして一秒が経ち二秒が経ち、ラミーの頭の上に浮かぶ疑問符が更に増えたところで、彼はやっと自分が何も伝えていなかったことに気付いたらしい。はっしたように眼を見開き、腕組みをパッと解いた。
「嗚呼えっと、お嬢。あのストール持っといで、キミ用に大きさを詰めるから」
「やややっ、ペトロさん。変な悪戯はヤだよ」
「おいさん誤解されちゃうからその言い方は止めなさい。大きさ変える以外は悪戯しないから、心配しないで持っておいでな」
「えぇー、ほんとかなぁ?」
魚の尻尾を足のように折り曲げ、膝に見立てた所に頬杖をついて、ラミーの笑みは悪戯っぽく。ほんとだよ、とペトロが慌てだしたところで、くすくすと小さく笑声を零しながら彼女はその場を離れていく。後に残るのは、ほっとしたように肩を落とす羊の魔法使いと、行儀よく毛刈りの順番待ちをしている子羊、そしてさっきから突っ立つ以外に何もやってない俺ばかり。
さやさや、さやさやと、風の音だけがのどかに響いていた。
- Re: タビドリ ( No.24 )
- 日時: 2015/12/13 13:41
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: WO7ofcO1)
月白鳥さん
更新分すべて、拝見いたしました!
綺麗な文章と洗練された世界観、さすがですね(*´▽`*)
私的には、人外ばっかりっていう点と、じーさんたちが大活躍っていうのが、ドストライクでしたw
結局若者より、かっこいいのは渋い魅力をもったじーさんたちなんだよ……!
しかも元英雄・実力者とか言われたら、もう骨抜きにされますね。
ええ、ロレンゾさんとベルダンさん、このコンビ超素敵です(笑)
エシラさんの、なんだかんだ商売人(商売猫?)としての誇りを失っていないところも、いいなって思いましたが(*'▽')
ラミーちゃんがいい感じに華ですし、エディくんも苦労人気質で応援したくなります!
挿絵も雰囲気でてて、素晴らしいですね(^^)/
物語もそろそろ本格始動、という感じでしょうか。
月白鳥さんの作品の中で、個人的にはタビドリが一番好みかなって思いました(*'▽')
また覗かせていただきますね!
- Re: タビドリ ( No.25 )
- 日時: 2015/12/13 23:14
- 名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: DkN/A4kL)
>>24
狐さん
コメントありがとうございます。
トカゲのじーさんズ、かっこよく書けていたなら幸いです。Book中には色んな年代の色んな人外さんが登場する予定ですが、やっぱりこの二人がBook1で一番武骨でカッコいい年配だと思っています。
もう少ししたらまた二人と合流してドガチャガやる予定です(笑)
エシラさんはもうちょっとアコギな奴ですよ。状況が普通じゃなかったので何だか品行方正にまとまっちゃいましたが、本当はエディもびっくりのぼったくり猫です。でも商売人として外しちゃいけない所はしっかり弁えてると。
エシラの話は少し後にもう一回あるので、その時にまた見に来て下さるとうれしいです(´ω`)
やっぱり主要キャラに女の子が居る方が華やかですよね。なまじPage1の登場キャラはほとんど男ばっかでぴちぴちの女の子が居ないと画面が汗臭いことに(・ω・ )
どこの世界でも常識人は苦労する運命にあるのですorz
うぁああ、有難う御座いますぅう……! 挿絵の技術共々精進させていただきますっ!!
大体伏線も撒き終わっかな、ってくらいです。だからと言って劇的な戦闘シーンとかはあんまり無いですが、のんびりエディ達の旅を追いかけていてくだされば幸いです〜。
これからもご愛読いただければ何よりです。
コメントありがとうございました、重ねて感謝申し上げますっ。
- Re: タビドリ ( No.26 )
- 日時: 2015/12/21 01:42
- 名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: 4xHshXk8)
一回り程度面積が小さくなるように布を折り、スツールの座面で軽く癖を付け、癖をつけた部分から多めに布地を残してざっくりと切り取り。残した布の部分から横糸を取り除き、残った縦糸を数本ずつ取りまとめて、軽く頑丈な樫のビーズを通して結ぶ。
長辺の一つを残し、三辺に洒落た房が沢山出来たところで、ズボンのポケットから針と糸が出てきた。布団を縫うような太い針に、ストールのものと同じ太さと色の糸を通して、ペトロの手はすいすいと残した一片をまつり縫いしていく。
最後に少し細めの赤い糸で細かいステッチを入れ、ペトロはチョキリと糸を切った。
「お嬢ちゃん、出来たよー」
「待ってましたー! わわわっ、可愛くなってるー!」
「ふふーん、こーのくらいならおいさん朝飯前さ」
この間、一刻。ラミーとペトロで手の大きさが違うことを考慮したとしても、彼女が最後のまつり縫いだけで二刻掛かることを考えると、凄まじい速さだ。目の前であまりにも簡単そうにスイスイ縫われて、俺もラミーも無意識のうちに口をあんぐり開けていた。
凄い凄いと何度も聞いてはいたが、まさかこんなに凄いなんて、それこそ夢にも思わなかった。流石は『技工士』、と言うことなのだろうか。
俺が貰ったときより随分可愛らしく詰めなおされたストールを手に、ラミーは上機嫌だ。早速ばさりと羽織って大きさを確かめ、そしてまたきゃあきゃあと歓声を上げるラミーを、ペトロは生暖かい目で見つめるばかり。
正直、此処までされてタダは俺の気が落ち着かない。ペトロがこうした仕立て直しでどれくらい費用を取るのかは知らないが、とにかく財布をあらためて、金貨一枚——世間で言う「高級な仕立て屋」の相場だが——を引っ張り出した。
「ほんと助かるよ、ペトロ。それでこれ、少なくて悪いけど」
「ん? 嗚呼、良いよ良いよ、お代はタダで」
「えっ」
「え?」
ペトロは至極不思議そう。いや、俺の方が不思議なんだが。
こんなに良くしてもらったのに、と言い返すと、彼はそんなに大層なことはやっていない、とやや大仰に手を上下に振った。
「この程度の直しなら簡単なものさ、わざわざお金を取るほど大変な仕事じゃないよ」
「それでもさ……」
「いーやいや、おいさんが毛刈りに飽きて暇つぶししたってくらいに思ってくれれば良いって。この金貨はまたいつか、おいさんのとこの布が入用になったとき——」
「あっ、俺の分!」
「へぃ!?」
ペトロの手にお代を押し付けたところで、思い出す。
あれ、元々俺のだったんだ。あんまりにもラミーに馴染みすぎて、当の俺まですっかり忘れていた。
ペトロはあれがラミーのものだとしか思っていなかったようで、俺の分が無いと聞いて面食らうばかり。だが、すぐににっこりと楽しそうに口角を上げて、俺が押し付けた金貨をぎゅっと握り締める。
で、ちょっと待ってな、と一言。トコトコと蹄の音をさせながら宿の中に引っ込んだ彼は、すぐにまたトコトコと小気味いい足音を響かせ、巻物のように丸められた布を腕に抱えて戻ってきた。
「ペトロ、それは?」
「兄さんの分だよ。金貨一枚分と言うと、こんな感じだね」
ほれ、とばかり投げ渡されたそれを受け取り、広げてみる。
鮮やかな柿色の地に朱色と茶と黄の格子柄、掛け布団ほどとまではいかないが、ラミーのストールより更に一回り大きいブランケットだ。元々掛け布団か膝掛けが用途なのだろう、糸も織りもストールよりがっちりしている。重さも大きさ相応にずっしりしているが、その辺の高級な店で売られているものよりも更に軽い。
……ペトロはこれを俺に金貨一枚で買わせたいらしいのだが、いくらなんでも金貨一枚でこれは上等すぎじゃなかろうか。タグは付いてないから売る気はないんだろうけど、市場に出回ればきっと、俺の出した五十倍以上の値が付くはずだ。
本当にこれで良いのか、と怖くなって尋ねたら、ペトロは当然とでも言いたげに首肯した。
「何だい、おいさんが金貨百枚も二百枚も取ると思ったかい?」
「思うよそりゃあ……あんたの作品店で金貨三百枚だとか値札付いてんだぜ」
「あんなのは金儲けしたい奴が勝手に値を釣り上げてるだけさ。金にがめつい以外は良い奴なんだけどねぇ、あれも」
こっちは金貨三枚でも良いのに、とペトロは不満げ。
しこたま儲けてるのにその言い草はないだろ、と俺も複雑な気分だが、とりあえず残った疑問をぶつけておく。
「いや、まあ、そうだけど。それにしたってこんな上等な布、金貨一枚で元取れるのか?」
「確かに高くついたけど、それを織ったのは余りものの糸だ。元は別のお客から既に取ってあるよ」
——金貨一枚がそれの正当な値段で、それ以上取る気はサラサラない。だから安心しなさい。
作った張本人にそう言われると、最早俺は何も言い返せない。
騙してしまったような、逆に騙されたような、何とも表し難い変なもやもやを心の底に抱えつつも、礼を述べて無理やり腑に落とす。どういたしまして、と少し気取ったようなペトロのお辞儀で、とりあえず正当な対価は支払ったのだと納得は出来た。
「でだ、兄サン達。そろそろ行くかい?」
「嗚呼、血の気の多いジジイ共と合流しなきゃ。宿と布団、助かったよ」
「お安い御用さ。またおいでな、今度はその血の気の多いジジイも連れてさ」
「おっけ、引き摺ってでも連れてくるよ」
今度はちゃんとした個室で頼むぞ、と軽口を叩けば、料金は倍頂くよ、とペトロは悪い笑顔。大きな銀の鋏を指に引っ掛けてぷらぷら揺らしながら、彼は眼を細める。
「疲れたら、また此処においで。いつでも待ってるよ」
「……また逢いに来るよ、絶対に。ラミーも連れて」
それがいつになるかは分からない。それこそすぐにでも血の気の多いトカゲを引き摺って来るかもしれないし、何年も経って疲れ切った時にふらっと立ち寄るのかもしれない。
けれどまた逢うことだけは確信して、俺達は紡ぎ家の元を後にする。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14