複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

3-5 ( No.51 )
日時: 2019/03/08 18:52
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: zxPj.ZqW)

第三限「終末世界のラブソング」-5

 
 おぼつかない足元、意識だけが前のめりになっては転びそうになる。慌てて体勢を立て直し、また前に進む。そんな栂原を、幾田は追いかけていた。
 反対に彼は意識こそ体の重心と共にあったが、肝心の体が憔悴しきっている。碌なスピードが出ず、危うい走り方をする青年にさえ追いつくことが出来ない。
 校舎の角、小さい段差、えぐれた地面、悪路が続く。

「──と、とが……せんぱっ!」

 二の句どころか名前も呼べない程切れた息は次第に、二人の距離が離れていくことを伝えることすら出来ない。
 まずい、このままではなんだかとてもよくないことが起きる気がする。そんな思いから幾田は足を緩めず走り続けようとはしたが……やはり、彼は苦しみに耐えることが出来ず地に伏した。

 壊れた肺が二度と戻れなくなってもいいと深呼吸、けれど何も起きない。
 応急処置として貼ってあったガーゼに、血が滲むのが分かる。心音が限界を知らせようとしているのか、動悸が激しく、けれど次第にそのインターバルが長くなっているのが耳に届く。

「(追いつかなきゃ、じゃなきゃ……生き残った意味がないのに)」

 情けない、そんな言葉も一つも発せずに、ただ走り去る栂原と……その奥にいる「誰か」をじっとみつめて地面に爪を立てた。
 まさか、そんなはずはないと自分に言い聞かせる。
 
 ふと──視線を感じた。

 誰かが、見ていると手に取るように分かった。
 けれど振り向けず、見えなければ誰だかわからない。悠々と背中に突き刺さるソレはどこか……嘲笑うように彼を刺激した。





 
 音が聞こえる。
 丁寧に手入れされた庭園には少々合わない陽気な音が流れていた。けれど不快ではない。むしろそのギャップが聴衆をなんとも不思議な気分へと誘っていた。

 誰かが歌っていた。急ごしらえのステージに立っていた。みんなの視線を集めていた。
 少しして、それが自分なんだと気が付けた。まどろみの中で意識の一粒だけを取り戻してしまった感覚。線はあやふやなのに、どうしてか全ては完璧だと認識してしまう。
 いや、完璧だった。こんなにも充実した活動のどこに不備があるというのか。

『みんな今日は、私たち軽音楽部のライブを聴きに来てくれてありがとうございます!』

 いつしか、音楽は止んで歌が終わる。
 マイクを両手に抱えそう叫べば、観衆たちは歓声で迎えてくれた。今日のゲリラライブは大成功だ。この後は恐らく部全体で先生方にお叱りを受けるだろうが、今が楽しければ問題がない。
 片手をぶんぶんと振る。火照った体と汗で肌に張り付く服の感触が実に心地いい。楽しい、楽しくて仕方がない。自然と破顔してしまう。
 
『それじゃあ最後にもう一曲! 次の大会に挑むためをお披露目しちゃいます!』

 アンコールが掛かった。演奏組と目を合わせて、大きく頷く。
 お別れの歌を歌おう。盛り上がった場を永遠のものとする、最高の歌を。次に向かうための活気を与える曲を。
 先輩のエレキギターソロによる前奏が始まった。鋭くもアガる曲調、さあ掴みはどうだと観客たちに再度視線顔を向ける。
 

「曲名は──え?」

 向けられなかった。首が回らなかった、なんてわけではない。
 観客たちは誰一人として、服の切れ端一つ残すことなく消え失せていた。
 綺麗な庭園はどこへ消えたのか、岩が露出し、草花は枯れ果てていた。もはや荒野の二文字がふさわしい。

 何が起きた。演奏も止んでおり、そちらを振り向いても同じように誰もいない。火照っていた体が、急速に冷え切っていくのを感じた。
 視界がどんどんと暗くなっていく。唯一無事だったステージに亀裂が入り、崩れた。

 落ちる。がそこに浮遊感はない。ただ、下へと引きずり落される。誰かに引っ張られている。そう彼女は、思う暇もなく……意識を失った。



「……ね、 ちゃん?」
「──っうわ!? ……って か、びっくりしたぁ……」

 目を覚ませば、そこはひと気の消えた教室の片隅。どうやら机に突っ伏していたようだ。
 思わず目をこすりながらも親友の声に癒される。そうだ、ライブは大成功に終わって、その疲れが残っていたのか眠ってしまったのだ。

 眼鏡の奥からこちらの様子をうかがう彼女に対して、はにかんだ笑顔で返す。

「まったく、そんなに眠そうにしちゃって……さっさと顔洗ってきたら?」
「うーんどうしよっかな……やっぱりもうちょっと眠気に浸っていたいからこのままで……」
「寝癖凄いわよ。鳥の巣みたいになってる」
「えっ嘘!?」
「嘘よ」

 なんだ嘘かー、とツッコみを入れて二人して笑う。
 幸せな時間だ、とても。腕組みをして笑う彼女のお腹に思わず抱き着き、頬ずりをする。彼女の匂いと、服のさわり心地がまた気持ち良いものがある。

「ちょっ、ちょっと ちゃん! 恥ずかしいからやめてって」
「んふふぅ……」
「えまさかこのまま寝る気? 勘弁してよ服にしわがついちゃうじゃない……」

 嫌がる口ぶりをする親友だが、言葉通りに捉える必要はないというのはその口元が緩んだ表情を見ればわかった。
 そんな風に馬鹿をやって、また一日が過ぎていく。

「明日休みだし、どっかいかない? 町に降りて……ちょっと買い物とか!」
「……ごめん、それは無理」
「えーなんで?」

 遊びに誘ってみたが、断られてしまった。もしや服でも見に行くつもりと思われたのかもしれない。 は金銭面に関して少々の不安を抱えていることは知っている。
 そうではなく安価でかわいいアクセショップを見つけたのだと伝えるつもりで、理由を聞き返した。


──だってもう、死んじゃったから


「え?」

 また、景色が変わる。息が苦しい、首に圧迫感を覚える。学園、けどいつもと違う。地面はえぐれ、切り刻まれ、その中心に自分がいる。
 だが、今度は誰もいなくなったりしない。
 目の前の彼女は決して消えず、そこに立っている。

 頭が割れ、血だらけの姿で。

「え、え……なん、で?」
「君のせいだよ」

 後ろから声がした。
 振り向けば大勢の人がこちらを見て立っている。血だらけで、体の一部が消え失せている者もいる。皆一様に、黒い首輪をはめていた。
 恐らく、自分も。

 彼女は──榊原伊央はようやく、自分が何をしでかしたのかを思い出してしまった。
 頭痛が走る。
 
「あ、ぁぁ……!」
「君がくだらない自己犠牲と、甘えを見せたせいでお友達は死んで……私たちはこうなったんだ」

 耳をふさぐ。けれど音は手を通り抜けて、彼女の脳を刺激する。
 一刻も忘れてしまいたい光景が何度も何度も再生される。瞼の裏に焼き付いて離れない。
 
「……伊央ちゃん」
「ひっ」

 親友の手が、肩に置かれた。さっき程までこすりつけていた時にあったぬくもりはない。死者の手だ。
 それが次第に首に巻き付いていく、まるでネックレスの様にしてしだれかかる。頭が痛い。

「──おまえの、せいだ」

 その言葉が榊原を貫いて、壊した。





「──許してっ」

 飛び起きた。
 近くの物を巻き付けて、部屋の隅へと寄った。頭を抱え、下だけ見て何度も何度も許しを請う。
 ここがどこで、なぜ自分が生きているのか。まったく理解しようともせず彼女はひたすら謝罪の言葉を繰り返す。
 誰に対してか、何を罪とするか、まったくまとまらず。ただの鳴き声に成り下がったそれが部屋にこだまする。自然と涙が出てくるが拭く余裕もない。

 もはや彼女は使い物にならない。それだけが見て分かった。

「……」

 そんな彼女を見て、部屋の主である彼女は片眉をひそめた後に……何もせず、空いたベッド腰かけた。
 そうしてしばらく明かりもつけない天井を見上げて、ただ一言だけ

「なるようにしか、ならないよ」

 鳥海天戯は呟いて、目を閉じた。



********


-前:>>50「終末世界のラブソング」-4
-次:>>53「終末世界のラブソング」-6

Re: 【イラスト感謝】ありふれた異能学園戦争【第三限-5】 ( No.52 )
日時: 2018/12/17 12:01
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: zxPj.ZqW)
参照: https://twitter.com/torisugari19/status/1074497867656482821

【通りすがりのお知らせ】

 どうもみなさんお久しぶりの人はお久しぶりです。通俺です。
今回、参照数記念としてSKIMAサイトやTwitterのDMなどで絵師様に依頼し
・深魅さん
・榊原ちゃん
・伊与田さん、岩館ちゃん を描いていただきした!
 URLより飛べます。

 ちなみに選定基準は第二限キーマンと第三限キーマン……予算が続けば全員分と行きたかったところですが!
これからもふれがくをよろしくおねがいします!

3-6 ( No.53 )
日時: 2019/03/08 19:11
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: uqFYpi30)

第三限「終末世界のラブソング」-6



 流れ落ちる水音、汚れを落とす布を掴む力は自然と強くなっていた。不要なところばかり擦り、肌が赤くなるのも気にしない。

 彼が栂原と仲の良い人物だったのは、果たして偶然だったのだろうか。
 二人が殺し合いの場へと連れ出されたのは、本当に何の思惑もなかったのだろうか。
 そんな考えが巡っては消えて、明滅する明かりといつのまにか同期していたことに気が付くまで続いた。

「……っ」

 シャワーをぬるま湯から冷水へと切り替えて、無駄に火照った体を冷やす。傷口に対しての刺激に顔を歪めるが、しばらくしてその冷たさを心地の良いものとして受け入れる。
 
 ──否無理、瞬間体は糸の切れた人形の様にその場に崩れ落ちる。肩が大きく上下する。決してこれは健全ではない。
 呼吸が乱れる……だけど、今はそれがいい。なかばシャワーに溺れながら、彼は体を汚れを洗い落とした。
 冷水に混じる赤を見ては、まだ生きている。そう実感する。

 俺は生きている、はずだ。死人じゃない。
 何度も何度も、自分に問いかけて、確かなものにする。思考と言うものは鍛鉄に似ている。熱く火照った思考が冷え固まる前に、形作りをせねばいけない。
 この考えがいいと思ったら、そこで冷やす。

 それがきっと正解だ。
 彼はそう呟いて、シャワーの温度をさらに下げた。







 這い這いの形でシャワールームから出て、彼はまた性懲りもなくもなく、携帯食料とゼリー飲料を流し込む。もっとしっかりとした食事をすべきなのはわかるが、やる気力も技術もなかった。
 これでまた体を揺さぶられたら同じようなことになるのだろう。そう痛みを訴える喉を酷使しながら、冗談紛いに呟く元気もない。

 ゴミを一まとめにすると、すぐに椅子に体重を預け座り込む。そうして大きい溜息一つ吐いて、さてこれからどうするかと自問自答を開始した。

 羽馬、榊原、岩館、光原の行方が知れない。東軍、西軍の言い分を信じるなら犯人は残る無所属に限定される。そうして、すぐに現場にあった乾いた黒い液体の痕を思い出す。
 確実に、彼女──鳥海が関わっているその状況。やはり話を聞きに行くべきだろうか。そう思いながらも少年はチラリと時計を見やる。

 既に夕刻を過ぎ、下手をすればもう寝につこうとしているかもしれない時間帯。ニ,三十分もすれば始まる、AIによる悪趣味な死亡者発表の時間。
 
「……死んだん、だよな」

 思わず彼は、部屋に取り付けられているスピーカーに対して独り言を吐いた。現実を受け止められていないわけではない。
 ただ彼は、一つだけ。どうしても気にせずにはいられないことがあったのだ。
 
 思い出すのは、あの栂原の表情。必死で息を切らし、辺りに何度も目をやっては目的のものが見つからぬ焦り、絶望の表情。

──灯夜、どこだ灯夜!

 叫び、個人の名を呼んでいた彼。けれどその名を持つものは一向に現れず、ただ声が校庭に響いていた。
 死んだ彼が確かにいたのだと、後姿しか見えなかったがあれは確かに灯夜だと、栂原は肩で息をしていた幾田に対し、刷り込むように繰り返し教えてくれた。
 信じられない、幾田は出かかった言葉を止めて、「本当ですか」と薄めて発した。

 忘れようにも忘れられない、あの惨状。人体の大事な部分をつかさどるであろう臓器がすべて、消しゴムで消してしまったようにきれいになくなっていた死体。
 そんなものを見て、光原が生きている、と可能性を信じることは出来なかった。

 だがもし、もし死体が消えたのが、その生き返りのためだったのだとしたら。どうなのだろうか。
 混乱している彼の目が伝えた熱は、幾田の思考もおかしくする。

「……先生」

 大當寺も、もしかしたら生き返っているのか。そんな夢が一瞬湧いて、打ち消した。仮に生き返っていたとしても、顔を見せないで隠れている……それがどういうことか気が付かないほど、幾田は鈍くはない。
 
──やめよう、今はとにかく動き続けよう

 思考の暴走に直ぐに気が付くと、彼は立ち上がり部屋にあったカバンに食料、飲料をまとめていく。
 痛む体も、作業のためならば惜しくはない。誰かの為になる作業とはこうも気を楽にさせてくれることに、幾田はつい最近気が付いた。

 硬い、重たいものは底に敷き詰め、軽いものは上へ。そうして2冊の「本」を最後に乗せて、チャックを閉めた。
 何もしゃべらないスピーカーを一瞥し、外へと出る。
 無風な筈の外気が、体を通り抜けた気がした。
 
「(こっそり動くなら、この時間帯がちょうどいい、か?)」

 夜遅く、ルートさえ考えれば発見することは難しいだろう今、彼女に物資を届けるのは簡単だろう。
 そう考えた。
 事実、暗色系で固めた自分の服装は闇夜に溶け込み、輪郭線もあやふやだった。

 思わず身を震わすほどの暗さに身を隠し、ひたすら校庭の方へと向かって走る。
 誰か見ていないか、そう思い何度も振りかえっては、誰もいない空間に安堵し、抜けた。

 そうして十分もしないうちに、特に異変もなく、塚本ゆりの隠れ家の前までたどり着けていた。
 ついてしまった。
 相変わらずの倉庫の前で息を整え、軽く扉をノックする。

 ゴンゴンゴン、その音が倉庫の中で弱く響いて、こちらに帰ってきた。
 けれど、彼女の声は聞こえない。ここまでは予想の範疇だ。

「俺です、幾田です。塚本さん」
「……」

 周りに聞こえぬよう、扉にぴったりと体をくっつけて名乗る。そこでようやく、倉庫の中で誰かが動く気配を感じ取った。
 後はあちらが開けてくれる。そう信じ、しばし待つ。

「……塚本さん?」

 けれど、一向に扉は動かない。もしかして、もう寝ているのか、だとすればもう少し強くたたいた方がいいか、それともまた日を改めるべきか……。
 幾田はしばし考え、そうして……手持無沙汰になった手が自然とドアノブに手がかかり、気が付いた。

 ──鍵がかかっていない。
 ふと、この光景に既視感を覚えた。
 
 一瞬にして、体の全神経、筋肉が硬直する。
 他に寄っていた思考全てがソレだけに支配される。子供の頃、ブランコから叩き落された時よりも広い感情の落差、それだけはあってはならない。
 だからこそか、彼は前回をなぞらないためにも、勢いよく扉を開けた。

「塚本さんっ!」

 明かりもついていない倉庫の中は暗く、換気の為に取り付けられた小窓から差し込む弱い光だけが頼りだった。
 彼の目の前には人影が一つ、幾田の突入に合わせ、動いた。
 動いている、少なくとも二本足で立っている、安心した。生きている。

「……塚本、さん?」

 幸運が何度も訪れるはずもない。
 人影がこちらを向く、そうして通り過ぎる光で形が露になる。

 彼女よりも小さい体、彼女のものとは思えない腐臭、そして何より、今の今まで何一つ喋ろうとしない態度。
 そもそも、人ではない。少なくとも人は「腹に大穴」が開いているのに動けるはずがない。
 全てが違う。違いすぎて、理解が及ばない。

 そこで彼が、壁のスイッチに手をやったのは何故だったのか。理解するために、少しでも情報を欲しがったのか、否定する材料が欲しかったのか。
 幾田はゆっくりと、上に押し上げて……パチりと、音がする。

 点滅、
 明滅、

 これは電球の古さか、違う。視界が揺らいでいる。
 もう、見えている。

「……なん……で?」
──……

 ハリもツヤも失い、ただ頭皮から垂れ下がる髪、
 対象を確かに捉えていた茶の目は今、焦点定まらずこちらを見ているのかすらわからない。
 服こそ、以前の彼が着ていた赤のシャツに黒のジーンズ。けれど、ところどころがほつれ、破け、血が染まっているのかあちこちが赤黒い。

 何度瞼を閉じても、その光景は変わらない。
 まだ生きている、なんて理想は抱けない。

 生者ではない、亡者だ。
 腹に空いた大穴、そこにはみ出す背骨が、彼を支えていようといまいとどうでもいい。
 変わり果てた彼を、彼と認識する証が確かに、そこにあったから。


「──光原、さん?」

 東軍最初の犠牲者で、栂原の親友で、ほんの少しだけ幾田を熱に浮かした男が、今そこに立っていた。
 彼は、何も見下ろしていなかった。
 地獄の底から、呆けたように空を見上げるばかりで、何も見ていなかった。



********


-前:>>51「終末世界のラブソング」-5
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3-7 ( No.54 )
日時: 2019/03/29 13:04
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: zxPj.ZqW)

第三限「終末世界のラブソング」-7




-西軍 播磨のコテージ



 幾田が怪物と対面し、混乱に包まれていた頃のこと。
 時をほぼ同じくして、この出会いは起きていた。

──ug,ugggg……
「……ヒドすぎる、と思うんだけど」

 そう彼に──違う、この現象を起こした誰かに投げかけた。もちろん、返事は帰ってこず、唸り声が部屋に小さく広がるのみ。
 滴り落ちる黒、血ではないことは理解できる。誰が、皆が。
 少なくとも目の前のこれは血が通った、人間というカテゴリーではない、容易に判別できる。

 そしてそんな彼、或いはそれからにじみ出る黒は血ではないのが当然。非常に単純で、明快な論法であった。

『──こんばんはみなさん、AIです。十一時、定刻となりましたので本日の死亡者の発表を行わさせていただきます。
本日の死亡者は……三人。
残り11時間に72時間加算、残りは83時間となりました』

 その間も響くスピーカー、聞き流す。今はそんなことに意識を割いている場合ではない。
 三星アカリは、両手に橙色の炎を灯し、目の前の異形を威嚇し照らす。「白と黒の線」で構成された彼は、明かりによってその形をより露にする。
 まるで、モノクロ世界から飛び出してきたような彼は、決して「光原灯夜」ではないと断言できた。

『東軍、岩館なずな。西軍、羽馬詩杏──無所属、塚本ゆり。以上三名』
「……え?」

 想像していた三人との食い違い。
 火が揺れた。彼女の一瞬の疑問と、まったくの予想外からやってきた名前を耳が拾ってしまう。
 命取りだった。
 彼にとってはただ、目の前の獲物が隙を晒しただけ。きっかけも理由も知る由もなかっただろうその一瞬。

──u,ugghh!
「ぅぐっ!?」

 彼の腕が、骨格を無視したその動きが振るわれた。
 少女のほどよく鍛えられ、浅い擦り傷と火傷ばかりをしてきた肌に、彼の爪は深く食い込み、えぐる。
 思考の切り替えの間に挟まれた、首筋への一撃。
 集中が乱れ、牽制のための火はかき消える。

 つまり、もはや彼を止める者は何もなくなったという事に他ならない。

 そのまま彼女を押し倒し、馬乗りに。掴んだ手は依然として皮膚をえぐり、彼女の首を絞め、もう片方の手で三星の頭を地面にと抑えつけ固定した。
 何度、腕を足を振り回し脱出しようとしても意味を成さない。
 初動を誤ったせいか、何をしてもビクともしない襲撃者に対し、彼女は声を上げる事も叶わない。

「……ぅ、ぁあっ!」

 この間、彼女の脳内で駆け巡るのは、痛い、苦しい、何故、誰。
 そして、ここで倒れれば次は、近くでまた意識を失い眠り倒れている播磨。
 それが五巡ほどした後に、彼女は痛みを外し狭まった思考で妥協案を作り上げる。

 握りこぶしすら作れなくなったその両手を、馬乗りになった彼の背中に当てた。

 負けるわけにはいかない。たとえ死ぬのだとしても、1-1の等価交換。
 こんな至近距離で燃やせば自分も……けれど、そうしなければただ殺されるだけだ。彼女は次第に黒く染まっていく視界を限界まで開き、能力を行使した。

 豪炎放射≪バーラスト≫

──ug,ughhhhhhh!!!

 自分の中のなけなしの何かを火種にして、それを放出した。

 けたたましい悲鳴が聞こえる。火は勢いよく彼の体を包み込んだようだ。
 よく燃えるなと、場違いな感想が喉を通ろうとして、依然として握りしめられていることに気が付いた。
 炎が彼から伝い、自身の体を焦がし始めている。
 やはり、このまま相打ちか。

 それでも、最低は免れた……それを悟ると不思議と苦しみが消える。

『今回の質問は特に無いようですので……これにて放送を終えます。それでは皆さん、良い夜を』

 意識が遠のく。

 あ、これが死ぬという感覚なのか。冥途の土産話が一つ出来たかな、世迷言さえも薪にして……三星アカリはその目を閉じた。








--無所属 鳥海天戯のコテージ



 さてどうしたものか。最近はやたらと多い来客に対し、彼女は遅い思考を広げていた。
 茶の一つも出す気はない。菓子など気の利いたものはない。
 では何をしようと言うのかと言えば、二のつ自問に対する答え。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
──……!!

 何者かが玄関の戸を叩いている。しきりに何度も、ひっかき、殴り、破壊しようとしている。仮にいつも通り、鍵もかけていなければ……直ぐにその何者かが扉を開け、侵入していただろうと推測できる勢いだった。

 幸いか、妄想の中の外敵に恐怖した榊原の働きにより、その鍵は閉められている。
 だが、もう少しすれば鍵を止めている金具も壊れるだろう。キシキシと、住人の不安をあおる嫌な音を出していた。

「許して、違う、そんなつもりじゃ……!!」

 頭を抱え、泣きたてる彼女の方がうるさい。そのせいなのか鳥海には焦りはない。せいぜいお迎えが今やってきたか、と思う程度。
 あともう少しすれば死ねるのか、と思うと逆にこれまであった倦怠感とは別の何かがこみ上げてくる。彼女はその感情を知らなかったけれど、きっとこれが希望なんだろうと解釈をした。
 
 ではなにについて悩んでいるかと言えば、やはり目の前で、謝り続けている彼女のこと。
 自分が殺されるのはいいのだが、彼女はどうなんだろう。殺されたがっているとは思えないし、「彼女」の言葉もある。一応の義理立てとして、布団の一枚でも被せてやるべきか。
 どうせ殺されるのだろうが。

 もう一つは、ドアの向こう側の誰かは、どんな殺し方をするのだろうか。というものだった。
 刺殺ならショック死で、絞殺よりかは首の骨を折り、焼け死ぬのは勘弁願いたい。

 彼女は死ぬのなら即死が良かった。じわじわと嬲り殺されるのは御免蒙りたかった。
 だからこそ、ドアを破壊し出てきた人物に対し「どんな殺し方をするの?」と尋ねる気でいたが……この暴れ方では、随分と雑な殺され方をしそうだな、と彼女は思った。

──ぅぅ
「ひっ!」
「……誰だっけ彼」

 そうこうしている内に、蝶番の方にガタが来たようだ。扉が外れ倒れた。

 そこには、播磨のコテージを襲った彼と比べ色づき、幾田の目の前に現れた彼よりも亡者としての完成度を上げている彼がいた。
 亡者に空いた腹からは宙をぶらつく血管が見え、腐敗している思わしき箇所には蛆がたかり、その生を享受している。

 ようやく対面した「彼」を見て、榊原はとうとう幻覚と幻聴が現実になったと震え、鳥海はあまり醜態を気にせず、こんな奴いたっけかなと独り言つ。

──ぁ、aA?
「話せそうは……ないか。で、どうすんのさかき──」
「誰か、誰か……!!」
「こっちも駄目か……」

 目が見えていないのか、光を失っている目をぎょろぎょろと動かし獲物を探す彼は、直ぐ近くの隅で、泣き声を上げ縮こまっている榊原に狙いをつけた。
 ここで榊原が機転を利かし、鳥海の背後にでも隠れられれば……とは第三者からの意味の無いifだ。

 直ぐに亡者は彼女の腕をつかみ取り、その細腕を握りつぶさんと力を込めた。ミシミシと、人体からしてはいけない音が走る。
 榊原は痛みから、嗚咽を漏らす。その表情は苦悶に染まっており、どうても楽に殺されるようには見えない。

──なるほど、ああやって殺すのか。じゃあ自分は嫌だな。来たら溶かそう

 ここまできて、鳥海はやはり一歩も動かなかった。別に彼女が嫌いだったわけではない。た
だ、助けても意味がない。面倒だという思考でその選択肢を切り捨てていただけだ。

 もう片方の手がゆっくりと動き、榊原の首を絞める。今にも折ってしまいそうなほどの剛力は、腕の痛みなど吹き飛ばし、確かな死の予感を榊原に呼び起こす。
 殺される、どうすればいい。色彩哀歌、使えない、何で。

 もはや暴走の予知すらせず、その力を使おうとした彼女はここに来て、その能力を失っていたことに気が付く。集中が乱れ制御が効かない、と言った話ではない。体の中に確かにあった、音を操る機能がどこにもない。
 
 なんで、なんでどうして、だれか。
 混濁。目の前の誰かが光原か、そうでないかなんてことはどうでもよく、早くこの苦しみから解放されたかった。許されたかった。

 それが、酸素が欠乏した脳が、ふざけた結論を出す。
 
──これが、これが自分に課された刑なのか。これが終われば、許されるのか。

 もしそうなら、抵抗するよりか、受け入れた方がいいのか。
 妄想は加速する。

 自然と力は抜ける。不自然にも思える程に抵抗がなくなる。
 だから、亡者の首を絞める力はさらに強くなる。反発が無くなった肌に、指が食い込んで気道をつぶしていく。

──aaa,###ぁぁぁ!!

 あと数秒もすれば彼女は首を折られ、死に至る。
 それすら理解せず、彼女は許されることを信じて待つ。


 そんな彼女は最後に、


 彼の首を断ち切ろうとする、銀色を見た。



********


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Re: 【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】 ( No.55 )
日時: 2020/05/11 16:30
名前: くりゅう (ID: hqJT.tW.)

とても大好きな作品で今でも続きを待っています。
またいつかこの話の時が進みますように…


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