複雑・ファジー小説
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- 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ
- 日時: 2019/01/09 13:52
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: DTf1FtK0)
こんにちは!マッシュりゅーむです。(正確にはおまさの中の人の友達です)「アイツに友達がいたのか!?」という疑問はさておき。
今回の作品は、リレー形式で進めていきたいと思います。リレーは初めてなので、皆様にご協力いただいて面白い物語になればいいと思っています。
ではでは、楽しんでいってくれたら幸いです!
注意:以下に注意してください。
・コメント等は差し控えてください。
…以上ッ!!
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.59 )
- 日時: 2019/08/11 14:42
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: Qb.Gx.Ei)
「——」
辺りは先の戦いを暗示するように、散々な有様だった。
建物は崩れ、炎は燃え移り、街の人々のものだろう、怒号や叫びが響いていた。
しかし、その事件の発端が最後に処理された場所は、いやに静かだった。
『…そんなに驚く事でもないと思うんやけどなぁ』
そんな中、発せられた声音は、その場の空気にそぐわない、呑気なものだった。
10〜12歳ぐらいの若い女の子のくぐもったような声を出したその主に、見た目は大人の女性なので、変に感じてしまう。しかし、その落ち着いた雰囲気のせいで、違和感がかき消されていた。
その言葉を真正面で聞いていた人——ディレカートは、静かに警戒を最大限に引き上げた。
(自惚れているわけじゃ…ない、けど……。〈カゲノミコ〉の一撃を受け…て、立てる、なんて…)
心の中では結構喋れる彼女は、その疑問を口にした。
「…何者……?」
『ん?う〜ん、そやなぁ…』
何かを考える素振りを見せた名前知らない——名乗っていたようだが、集中していて聞いていなかった——女は、スっ、と顔を上げて、にやりと笑って言った。
『ウチは……唯の好戦的な、紅狐やよ』
瞬間——
「——ッ?」
視界から女が消えたと思ったら、死角から鋭い突きが迫った。
それを、——突然の事で多少は驚いたが——鎌で押し返しながら冷静に対処する。押し返した反動で後ろに下がった。
女は、いつの間にか顕現させていた長剣を右手で、先程投擲してきたナイフよりも少し長い短剣を左手で弄びながら口を開いた。
『さすが、〈カゲノミコ〉やねぇ。完全に死角やったはずなんやけどなぁ。ま、想定内やから別にいいんやけど』
「…どう、もッ!」
今度はディレカートの方が攻撃を仕掛ける。手にある鎌をくるりと一回転させながら一息で間合いを詰め、横薙ぎに一閃。
しかし、女は後退せずにそのまま踏み込み、刃の射程圏内から外れると、近距離で短剣の突きを放ってくる。
だが、日頃から鎌を使った戦いをしているディレカートには、そんなことは想定済み。鎌の内側に向いている刃の部分に意識的に〈カゲ〉を集め、爆発させようとする。
それに一拍遅れて気付いた女は急いで離脱しようとしたが、遅い。
「食らって…!」
もはやそれは懇願に近かった。そして、爆風を受けた女と、女を盾にして自分は免れたディレカートは、一緒に吹き飛び、転がる。
そして先に起き上ったディレカートは、少し離れた、あの女が転がっていったであろう場所を注視する。
もくもくと砂埃が舞う中、晴れた先には——
「…っ!?いな…い?」
——そこにいるはずの女はいなかった。そして、
『——ちょっと〜、危ないやないの〜〜』
その声は、真下から聞こえてきた。
瞬時にその場から飛び退く。しかし、それは回避の意味をなさなかった。
ズサッ!という音と共に、ナイフがディレカートの影から現れた。
首をひねるが、微かに頬を掠り、そこから血が垂れてくる。
「ッ!」
『よっこいしょっ、と』
鋭い痛みに顔をしかめる中、少し遠く離れた建物の影から、あの女が何事もなかったように、這い出てきた。そして、顔をこちらに向けると、ムッ、とした表情で口を開いた。
『自分も巻き添えに、なんてようやるわ。そんなことばっかしてると、こんな風に——』
そこで、女はこちらに駆け出してきた。
今の出来事について考える暇もなく、こちらも応戦しようとディレカートも向かう。
女の手が一瞬、ぶれたような気がしたが、気にせず戦に身を落とす。袈裟斬り、上段、突き。下、左、下、右、上。高速で交し合うその剣技は、いっそ美しい程でもあった。
と、ふと女の左手にあった短剣が無くなっていることに違和感を覚える。ここまでの斬り合いはすべて右手の長剣で行っていたのだ。
そして、鎌と剣のぶつかり合う金属音が鳴り響く中、女がふと下から上に斬り上げようとしてきた。それを防ぐため、鎌を下に向ける。と、——
「?」
刃と刃が交わった時、ぎゅん、と女が長剣の向きを変えて、鎌を上から抑え込む形にした。そこで、一瞬固定されてしまった。そして、その一瞬は、女にとって十分な時間だった。
『こんな風に——負けてしまうんよ?』
にこりとしながらその言葉が言われると同時に、頭上から短剣が落ちてくる。そう、女が走り出した直後、手がぶれたように感じたのは、短剣を上に投げていたから。そして、その落下地点を予想し、その位置までディレカートを誘導した、ということだ。
凶器が迫る中、ディレカートはこの女の手のひらで踊っていたと理解し唇をかみしめる。そして、さすがに首を切られてはマズいので、鎌を翻し、短剣をはじく。その間無防備になってしまうが、ディレカートにだって体内の〈カゲ〉を体全体に巡らせて、耐久力を上げることくらいできる。さらに体の前方にだけ集中させれば、後ろの防御は出来なくなるが、前方の防御力をもっと上げることが出来る。
剣に斬られるならこのくらいが丁度良いだろう。
そして、来たる斬撃に耐えようと——
『——防御する場所は、ちゃーんと考えないとあかんよ』
その言葉が聞こえた時には———〈カゲ〉を纏わせた全力の回し蹴りが、ディレカートの横腹を貫いた。
* * *
——時は、ディレカートとレナの戦いが始まる直前に戻る。
「ディレの、攻撃を、凌いだ…?」
驚きを隠さないディレカート以外の3人の〈カゲノミコ〉は、ユグルの呆然とした声で意識を取り戻す。
「すごいなぁ、やっぱり君の子というべきかな?ヘイズ」
「え、じゃあ、あの子がヘイズの言ってたレナって子?」
ファグの言葉にそうなのか、とヘイズの方を向くユグル。しかし、レナのことをこの中で一番知っているヘイズは、少し考えたあと、首を横に振った。
「え、違うの?」
「…ぅ……ぇ…」
少しずつ声を出せるようになってきたヘイズは、頑張って自分の思ったことを口にしようとする。
しかし、何度も声を出そうとするが、かすれたものしか口から出ない。
困ったユグルはファグに助けを求める。
「う〜ん、どうする?ファグ」
「そうだね…『シャーナー』を使うか」
思わぬ単語が聞こえたので、ポカンとしてしまうユグルとヘイズ。
それに気づいたファグは、「そうだね」と言って、言葉を続ける。
「『シャーナー』にはね、取り付けると言いたいことを変わって言ってくれるっていう、機能があるんだよ」
「へぇ……」
『シャーナー』にそんな便利な機能があるとは、と、感心したように今もファグの髪の上に乗っている髪飾りを見るユグル。
「じゃあ早速……」
と、自分の手で『シャーナー』を取り外し、ヘイズに着けてあげるファグ。
「うん、可愛いじゃないか」
『余計なお世話じゃ……おぉ!』
ファグの軽口に反射的に反応したヘイズは、ちゃんと喋れている事に感嘆の声を上げた。
「で、それで彼女がサトウ・レナではないというのはどういうことかな?少なくともボクは記憶力には自信があるのだが」
『あぁ、そうじゃな。実際はレナなんじゃが……、中の人格が変わっておる』
「えーと、じゃあ彼女の〈カゲボウシ〉が舵を切ってるってこと?」
ユグルの言葉に首を振るヘイズ。
『いや。レナの〈カゲボウシ〉がディレに斬られたのは見たじゃろう。だからあれはまた別の〈カゲボウシ〉……いや、《陰影量》がちと不安定じゃな………〈チミ〉か』
「ちみ?……もしかして〈カゲノチミ〉のこと!?」
「へぇ、〈チミ〉か……レア中のレアじゃないか」
ヘイズの予想に、ユグルは驚嘆し、ファグは面白そうに顎をさすった。
と、その時丁度、レナが建物の影から出て、何かディレカートに話していた。
「【潜影】も使えるの!?」
『なかなか強力な〈チミ〉じゃな』
ヘイズとユグルが戦力分析をしている横で、ファグが微かに目を瞠り、考え込む。
(【潜影】が使える〈カゲノチミ〉…?どこかで……あぁ、もしかしてアイツのとこの…。フフ、面白いこともあるんだな)
「ファグ?聞いてる?」
心の中で笑っていると、ユグルから声を掛けられた。
「ん、あぁ、すまない、何かな?」
「大丈夫?…〈チミ〉だとしてもディレには流石に勝てないと思うから、危なくなったら私達も止めに入りましょ」
「あー、多分、その心配はいらないと思うよ」
ヘイズとユグルが眉を顰める。まぁ、見ててみ、と、片目をつぶるファグ。
何を根拠に、とユグルは訝しむが、すぐに目を見張る事となる。
——ディレカートとレナの勝敗が決した、数秒前の出来事だ。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.60 )
- 日時: 2019/09/03 21:35
- 名前: marukun (ID: W3Oyo6TQ)
全力の回し蹴りがディレカートの横腹に炸裂する。
そのまま水平に飛ばされたディレカートは建物をいくつか貫通し、轟音を立てながら瓦礫の中に消える。
『・・・。やりすぎてしもた。ま、あの子なら大丈夫やろ。』
適当過ぎる自己完結。それよりも、私の体を返してください…。
『あ、すっかり忘れとったわ。レナの体は居心地がいいなぁ。』
怖いこと言うのやめてもらえますか…。デュウが言うと本当のことに聞こえる…。
『冗談やって。許したってえな?』
すると、体に自由が戻る。よかった…。戻った…。
そして、あの人も戻ってくる。
その場にいた(ファグは除き)全員が驚きで目を見開いた。
勝者は明白。レナの体に宿った≪カゲノチミ≫であった。そして、あのディレカートが敗北した。
『なん…じゃと……。≪カゲノチミ≫が勝った…だと…?』
ヘイズが驚きの声を上げる。それは紛れもない本音だった。
「幻術の反応ナシ。他の可能性も限りなく低い。これは間違いなく現実だね。フフフ…、あの娘ますます気になるな…。」
ファグはレナに興味津々だが、他の者たちは違った。今までの常識が覆された以上の感覚だった。それほどディレカートの強さに関しては異常だったのだ。
そして、≪影の世界≫は傾き始める。レナの体に宿った二つの存在は世界を傾ける、いや丸々世界そのものを変えてしまう力を保有している。
≪影の世界≫は、改めて佐藤 レナの危険性を考慮し、とある対策法を立てた。
それは————
佐藤 レナ捕獲、及び2体のカゲボウシ、カゲノチミ討伐作戦
もしくは佐藤 レナを被検体とし、カゲボウシ及びカゲノチミ切除計画
この二つが裁判所で立案、採用された。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.61 )
- 日時: 2019/09/10 18:59
- 名前: おまさ (ID: 79DeCD8W)
炎の宵は終焉に近づきつつあった。
ーーーー我々の思惑をも遥かに超越して。
ーーザユナ・グルロス『懺悔』より
*
「・・・よし」
手を握ったり開いたりして、私に体の制御権が戻っていることを確認した後、私はヘイズ含む〈ミコ〉が三人集まっている所に歩いていく。
瓦礫が散乱した、不安定な足場を踏みしめ、肌に周囲の炎の熱量を感じながら歩を進めていくと、陽炎に覆われた視界が開けて見慣れたロリババアの姿が見えた。
「ヘイズ、」
駆け寄ろうとした時、私は途中で言葉を切った。
ーーーヘイズと、その傍らにいるツインテールの少女が難しい表情をしていたからだ。
『・・・何という・・何という事なのじゃ』
「へ、イズ?」
『レナよ。おぬしはまた、重い罪を重ねてしまった。・・・正当防衛とはいえ、この国の最高戦力たる〈ミコ〉の一人を迎撃して仕舞うとは・・・』
「ーーーえ、っ」
背筋が凍る。その様子を見、追い討ちをかけるようにツインテールの少女が口を開いた。
「それだけじゃない。・・・貴女は、きっと不確定因子として扱われる。たとえ本当に貴女自身に罪がなくとも、周りからーーーこの国からはある。・・・公国議会が黙っている筈がないわ。すぐ貴女は身柄を確保されるわよ」
今、この二人は何と言った?不確定因子?公国議会?迎撃?訳が分からなーーーー否、分からないのではなく分かりたくないのだろう、私はきっと。
私は、私の運命を打破するために力を使った。ーーーそれが周りにどんな影響をもたらすのかを考えもせず。
何て、何ていう身勝手。この力を、周りに使おうとせず。
守りたいと、抱え込むには多すぎて、手から零れ落としてしまうような命の量を自覚せず。
その代償が、この有り様だ。結果的に自分で自分の首を絞めることになるとは皮肉なことだろう。ふと笑みをこぼし、それが感傷によるものなのだと自覚した。
これ以上、ヘイズに迷惑を掛けたくない。
これまでで背負った罪を、全て償う。
償えない罪など無いのだから。
そう、私は決意しヘイズに向き合う。
「ヘイズ。一つだけ、お願いがある」
『ー。何じゃ。出来ることなら、何でもするーーーーいや、何でもさせて欲しい』
「ーーーー私を捕縛して」
ひゅっ、とヘイズの喉が鳴った。ツインテールの少女が舌打ちをした。
「・・・貴女は恐らく、その力ーーー〈カゲボウシ〉を奪われるわよ。貴女は、それでいいの」
「はい」
少女は、こちらを睨む。それが一秒か、二秒だったのか、ひどく長い時間に感じられた。相手が何を思い、こちらを睨んでいたかは分からない。
ーーーーーーーー分かったのは、体が左に投げ出されたということだけ。
地面に背中が叩きつけられる前、少女が腕を振り終えたのが見え、理解する。殴られたのだ。
炎の熱量が微かに残っている、硬い瓦礫の散乱した石畳に背中から着地し無様に受け身。
「が、っ」
痛みに呻きながら顔をあげると、五メートル程離れた位置に少女とヘイズが立っている。五メートル吹っ飛ばされたらしい。私を殴った少女は、怒りの形相冷めきらぬまま近づいてきた。頬が、じんじんと痛みだす。
「ーーふざけないで」
少女は、激情に耳を真っ赤にしていた。
「貴女ーーーあんたは、ヘイズの気持ちを考えたことがあるの・・・?」
「どう、して・・・私はヘイズを、みんなの為を思って決意を、」
「あんたのそれは、自分に酔いたいだけ。そうやって、何もかも自分で抱え込んで、それで罪を償えるとか勘違いをして、他人に心配を掛けて、そうして悦に入って・・・それで満足なんだ?」
「ーーーッ!違います!私は人として、己の過ちを正したいだけです!」
不意に、少女がこちらに向ける視線を変えた。怒りではなく、冷たい、見下したような目で見られ私は苛立ちを覚えた。
「・・・ほんとに、自分本意」
冷たく呟かれた言葉はしかし、私に火を着けた。
「己の過ちを正す・・・?ハッ、そんなこと、当然のことでしょ」
鼻で嘲笑する少女に、私が沸点に達する。沸々と、怒りが湧く。
「・・・何でそれを、」
ーーー気に入らない。ああ、何もかもが気に入らない。
私が噛みつこうとした瞬間だった。少女が吠えた。
「ーーーーー何でそれを、ヘイズにやらせようとするの!!」
圧倒的な気迫に、思わず私は押し黙る。
「今一番あんたの状況を分かっているのはヘイズよ。あんたを心配して、だから当然、あんたが置かれた状況も全部、あんた以上によくわかってる」
「ーーー。」
「でもーーーけど、あんたを救いたいと、助けようと心配してるあの子に、その心配を裏切るような真似は絶対に許さない。・・・この国の最高戦力の一人として、あんたたち召喚者の保護者として、この国の守護者としての重責の上に、あんたが無駄な重りを載せるようだったらーーーーーそのときは、私があんたの相手をする」
じんじんと、未だに痛む右の頬が、ヘイズの心情を表す気がした。
「ーーーーーならば、召喚者の相手の代理は如何か」
左後方に声が聞こえ、私は思わず振り返ると、一人の青年が立っていた。
細い割にはしなやかに鍛えあげられた、180センチを優に越える体躯。この世界ではすっかりお馴染みの紅い瞳。純白の上着を羽織り、腰に剣を差しているその外見は、所謂「騎士」というものを想起させる。
青年は無表情のまま、その黒髪を揺らして恭しく腰を折った。
「アンベルク公国、第十六代『眩暈』」
「ーーーアルブレヒト・ジゼル・クロイツベルク」
2
ーー〈カゲノミコ〉三人分の戦力に相当する、公国最強の騎士が何故ここに?
ヘイズは、アルブレヒトを見つめ、疑念を宿した。
『シャーナー』であれば、既に依り代に戻って活動停止している。そも、〈アツマリ〉で避難した議会議員はアルブレヒトを現場に向かわせようとする前に、既に現場に向かっている〈ミコ〉達で何とかできると考えるだろう。
そもそも、アルブレヒトを呼ぶ機会はかなり限られてくる。大体の問題が〈ミコ〉達だけで解決できるという以外の理由として有力な理由がもうひとつある。アルブレヒトの性格だ。
幼い頃からなのか、それとも違うのか。いずれにせよ彼と接するのに神経を削るのだ。ヘイズも、年一回〈ミコ〉として『眩暈』に会うことがあるが正直堪えた。
と、回想に浸っているとユグルがアルブレヒトに何か話しかけている。ヘイズは後方に視線を向けた。
『ファグ。アルブレヒトを呼んだのは、おぬしじゃな?』
「ごめんごめん、ボクの独断で決めてしまったことだから素直に謝罪するよ。ともあれ、」
肩をすくめ、なおも軽い感じでヘイズは鼻を鳴らした。
「彼を呼んだのは、事態がボクたちの手に負えないと判断したからさ。君は、彼女ーーサトウ・レナを捕縛し処置をするのには反対だろう?」
仮に、レナを捕縛したとしてその後はどうする。〈カゲボウシ〉を彼女からひっぺがそうにも、肝心の〈カゲボウシ〉は先程両断されて沈黙を守ったままだ。同様に〈カゲノチミ〉についても所在が分からない。故に、サトウ・レナを捕らえて得られるものは現状無いのである。もっとも、不確定因子として警戒することにはなるだろうが。
黙って、当然だとヘイズが頷くと、待っていたとばかりにファグは人差し指を立てた。
「実は、彼に連絡を取るとき議会からも連絡が来たんだけど・・・どうやらサトウ・レナを被検体とする法案が通ったみたいだ。いつ、どこで、の情報は入ってきてないけど」
『何じゃと!?』
アルブレヒトを呼び出すには、議会の承認が不可欠だ。法案に関する情報は、その過程で知ったのだろう。
「そこでボクから提案なんだけど。ーーサトウ・レナをアルブレヒトに、預けてみてはどうかな?」
『なん・・・はぁあ!?』
訳が分からない。彼にレナを預けて、何をさせるのだ。肝心の意図が読めない。ヘイズがその形のいい眉を寄せると、ファグが道化じみた様子で笑みを作る。嫌な予感がする。
「ごめんごめん、詳細はまだ話してなかったね。ボクの悪い癖だ。ーーーボクが考えているのは、アルブレヒトと彼の率いる騎士団に、一時的にサトウ・レナを預けるってことさ。そうすれば、少なくとも彼女が己の力を暴走させる、なんて状況には陥らないと思うし」
ーーーーレナが力を暴走させるのは、そうせざるを得ない状況に彼女が陥っている為である。当人は自覚が無いが、保護者としてヘイズはその事を分かっているつもりだ。
そういう状況に彼女の身を置いてしまっているのは自分のせいだとヘイズは自分を強く責めている。自分のせいで大切な誰かに歩ませたくない道を歩かせることは絶対に嫌だ。
「ーーーー、」
ふと、自己嫌悪に飲み込まれそうになったヘイズは思考をそこで止めた。
ーーーー大切な誰かに、歩ませたくない道。
そんな状況に既視感があった。いつ、だろうか。今はいい。
とにかく、騎士団にレナを預けるのだったら、そのような状況にはなるまい。仮になったとしても、レナは他人に頼ることができる。ーーーーー彼女は今は、他人に頼ることを知るべきなのだ。
それに、騎士団に身を委ねれば、力あるものとしての心構えを少しは学べるだろう。
『・・・イヤ、アルブレヒトの場合、どうじゃろうな』
「ーー。それに関しては、ボクも同意するよ」
肩をすくめ、ファグが体重を片足に預けた。
「とにかく、この件はボクから公国議会に話を持ちかけるよ」
『ああ。礼を言わせとくれ。ありがとのう』
「あはは」
二人で軽く笑みを交換しながら、ヘイズは空を見上げた。
夜空はあのときと同じで、何も答えてはくれない。
3
「ーーーアルブレヒト・ジゼル・クロイツベルク」
そう名乗った青年に私は困惑を隠せずにいた。
名乗った役職名からして、相当に上の立場にいるようだ。それに。
「・・・これは、尋常じゃない」
ぼそりとこぼした私の頬に伝うものが、冷や汗なのだとややあって気付いた。
ーーーーーーー今もなお、アルブレヒトの体に尋常でない量の〈カゲ〉が流れ込んでいる。
フォスキアや、ヘイズのそれを軽々と上回る《陰影量》。盲目的に大気中の〈カゲ〉が彼の周りに従い、まるで竜巻のような〈カゲ〉の奔流を作り出していた。
「・・・アルブレヒト。あんたに会うのも、いつ以来かしら」
どうやら、私を殴ったこの少女と青年には面識があるらしい。・・・お世辞にも友好的とは、言いがたいが。
「僕は呼ばれたから来ただけだ。頼まれたから、わざわざ遠くから足を運んだ。そんな僕にそんなに辛辣にしなくてもいいじゃないか、ユーナ」
「ーーーー私をその名前で呼ぶな。次はない」
「はいはい・・・〈ミコ〉様はご機嫌が悪う御座いますからね」
激昂しかけた少女を、青年は全く相手にしていない。それどころか、端から見ると煽るように首を回している。
「ともかく。僕はさっきも言った通り、頼まれた以上のことはしない。そんな義理は無いしね。そんなに図々しいのも、人としてどうかと思うよ。勿論、普段はこんな風にわざわざ説明はしない。だけど、君たちはそれを分かっていないようだったから説明しただけだ。でもさ、分かるはずだそれくらい当然のことなのだから当たり前だから人としてそれを何も思わない姿勢には何も言えないけどねそうでなかったらこんなに長く話さずに済んだ」
「・・・。」
語調と鬼気を徐々に強めながら言い放つ冷淡なーーーー否、無感情な瞳を、少女は露骨に厳しい目でねめつき、それから舌打ちをした。
「・・・それで?あんたはなんでここにいるの」
「呼ばれたから、と答える他ない。僕を呼んだのは『狐染』だよ」
「あの子・・・」
なんでこいつを、と少女は言外に含んで溜め息混じりに言う。その様子を見、アルブレヒトは説明するのを面倒臭そうに言った。
「何でも、隻腕の異邦人の身柄を騎士団で預かれって事らしいけどね。彼女の考えは相変わらず読めないが、要は厄介払いでしょ。そんな役目のために遠くからやって来たんだと思うと目眩がする。全て億劫だ」
そう言いながら、アルブレヒトの視線は隻腕の召喚者ーーーー私に移った。彼は目を細め、私の事を二、三秒観察した後に、
「ーーーーへえ、なかなか面白いじゃないか。つまり『狐染』は、罪人の身柄をこの僕に預けようってことか。だとしたらなかなかな冗談だ」
全く興味深くない声音で言う。
「だが、どうやら君の体に宿る〈カゲボウシ〉は、君の意識の根底で眠りについているらしい。確かにこれじゃあ、被験体としての役割は果たせないな」
「被験体・・・?一体あんたは、何の話を、」
「僕の唇に、無駄な徒労を負わせないでくれ、ユグル。僕にそれを説明する義理はない」
少女は唇を噛んだ。それを無視して、アルブレヒトは私に向き直る。
「ともかく、君が己の〈カゲボウシ〉を取り戻さない限り事態は先に・・・イヤ、僕の仕事は終わらないらしい。僕の仕事をできる限り早く終わらせるために、協力してもらう」
「え?ちょちょ、協力って、」
「ーー天の大穴、《イデアの淵》に向かう。あそこは光結界密度が強すぎるが、『表』から召喚された君なら何の被害も被らない筈だ」
「《イデアの淵》・・・ってまさかあんた!!」
「そんな言い方は心外だ。・・・ともあれ、これは決定事項だ。後日、『刻眼』を通して連絡する。了解しておいてくれ、サトウ・レナ。僕が面倒だから」
会話の内容が分からず、思考が空転する私に踵を返した青年は、ツインテールの少女にちらと目を向けた。
「最後に、『陰月鎌』については、面倒だから君に任せる、ユグル」
「クソみたいな理屈だけど・・・いいわ、任されてあげる。私もそのつもりだったし」
薄い胸を張り、少女ーーユグルが不服そうに承知。そして。
「ーーーー。」
そう言い残して夜空に消えるアルブレヒトを私は呆然と見ていた。
見ていた。
ーーーーー周囲にはまだ、燻った火種が残っている。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.62 )
- 日時: 2019/09/13 20:10
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: BeoFjUrF)
「くぅ、痛い目に合いやがりました……。話がちげーでねぇですか、ねぇ、バーヘイトちゃん!」
『その点では私も同意見だ』
こちらを睨み、喚いてくる女とその女の〈カゲボウシ〉を横目で見ながら、苛立ちを隠すように無言でいる男——川本江は、自身の回復にいそしんでいた。
先刻の〈カゲノミコ〉との戦い。途中、予想外の事態がおき、失敗という結果になってしまったが、ほとんど表立った傷はなく、助かった。
しかし、見た目は〈カゲ〉を使えば簡単に治せそうな傷なのにも関わらず、なぜこんなにも時間をかけているか。それは、あの『狐染』の厄介な術のせいだ。
彼女は隣で戦っている他の〈カゲノミコ〉にも気付かせない巧妙さで、高等術である、〈ディサウド〉を自分とデイズ達に放ったのだ。
〈ディサウド〉とは、かけられた人は一定時間受ける傷を癒せなくなるというものだ。それがどういうことかというと、傷は開いたまま、応急処置も意味なし、深い傷であれば出血多量で死んでしまう、という質の悪いものだ。
しかも彼女の〈カゲ〉は強力、普通の人がかけた時よりも時間が長く、小さな傷でも時間がたつにつれ広がっていくので、悪くなる一方だ。
いつも実力を隠しているせいか、術の制御も出来なくなったのか、と心の中で愚痴るが、本当はそうでないことは知っている。簡単に言えば、ストレス発散×意趣返しであろう。
今も心の中でニヤニヤ笑っている彼女を想像し、それに加え先程からあーだこーだ言ってくる隣のやつらも相まって、川本江のイラつき度は沸点を超えようとしていた。
「というか、あの『シャーナー』って何でいやがるんですか?」
と、その時ふと思い出したデイズは、あの戦いの後ずっと気になっていたことを川本江に聞いた。
それを聞いた川本江は、一瞬デイズを見、話し始めた。
「アレは、あの『狐染』が作った〈カゲノキグ〉、その出来損ないだ」
「ふ〜ん。……え?出来損ない?」
『あんなに強力な物が?!』
聞き間違いかと首をかしげるデイズと、普段あまり感情を出さないバーヘイトに向かって、あの〈キグ〉の本当の恐ろしさと、あの、猫ならぬ狐を被った性悪女を教えてあげようとする。
「あぁ。アレはあの女の試作品の一つ……ガラクタにすぎない。どうせ、ただあの髪飾りの形が気に入ったからつけているだけだろう」
「えぇぇぇぇ!!?そうだったんですかい?……じゃ、じゃあその【完成品】は…」
「そこだよ」
川本江は、そこで初めて体の向きをデイズとバーヘイトの方に向けた。
「あの女の【完成品】…つまり【最終兵器】といっても過言ではない程の〈キグ〉があの女の手によって生み出されてしまったら……この世界、いや、『光の世界』も終わってしまうだろう」
「…………スケールがデカすぎてどう反応していいかわからねぇです」
『右に同じく』
口を大きく開けて、二人仲良くアホずらを晒しているのを見て、余計なことを口にした、と顔をそらし、また治療を再開する川本江。
その後、数分かけて、ゆっくり話された真実を脳に浸透させて、先に理解したバーヘイトが隣のデイズの開いた口を優しく閉じてあげるころ、川本江は全回復していた。
「……そろそろ行くか」
「え!?ちょ、まだ俺ちゃんたち回復し終わってないんですが!?」
よっこいしょ、と腰を上げて移動を開始しようとする川本江を見て、急いで止めようとするデイズ。しかし、荷物などの確認などの作業の手を止めずに、話す。
「はぁ。あのな、この後私とオマエは別行動だ。オマエは十分に回復してからココを出ればいい。敵の心配も皆無だ。何せココは『向こう』からの光が直に来てるからな。光に耐性のある私とオマエ以外は来れるやつなどいない」
そして、作業が終わり歩き出す川本江は、先の説明で納得し、こちらにサムズアップしてくる後ろの二人には聞こえないくらいの小ささで呟く。
「ここ………《イデアの淵》には」
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.63 )
- 日時: 2019/09/22 13:25
- 名前: marukun (ID: W3Oyo6TQ)
とにかくいろいろとあり過ぎて頭の中で情報処理が追い付かない状態であるが、わかったことは —————私は出しゃばり過ぎた。—————
別に自分が何かする必要はなっかたのだ。でしゃばるからヘイズやみんなに迷惑をかけた。誰かを守りたいだとか、誰かを救いたいだとかは、それができる誰かに任せればよかったんだ。自分が、自己中心的な偽りの正義感に浸っていたから、こんな形になった。自分の問題に目を向けず、外ばかり気にしていた。だから自分の過ちに気付かなかった。何が正しかった?どうすればこんなことにはならなかった?どうすれば罪を償える?
答えはない 最善策はない 正解はない 正当性もない 価値もない 私は何者なのだろう
被検体 佐藤 レナ 失踪 現在地不明
『なに?レナが失踪したじゃと!?』
ヘイズはこの知らせを受けその顔を驚愕に歪める。まさかレナが失踪するとは思わなかった。
「あぁ、部屋の窓が開いていた。影を使い、鍵をしておいたが強引に外されていた。もう少し強めにすればよかったかな」
少々とぼけ気味にファグが言う。そんなファグを見てヘイズが気付く。
『・・・ッ。すまない。本来ならばワシが犯すべき危険をお主にやらせてしまった。ありがとう、ファグ。』
しかし、彼はまたとぼけて言う。
「さぁ?なんのことやら。僕としては貴重な被検体(モルモット)がいなくなったことが悲しいよ。」
本心もあるだろうが、ファグは知らない振りをする。それはレナを逃がすことに加担するという意志表明であった。これが彼なりの優しさなのだろう。ヘイズは彼のその優しさに涙ぐむ。
さて、場面は変わりレナのもとへ。彼女は今何を思い、何をしているのか。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
自分は何を思い立ったのか、部屋の窓から飛び出していた。これでまたヘイズに迷惑をかけてしまうのだろうか。そんな思いと共に、森の中へ飛び込むように走りこんだ。
「・・・。これでよかったんだ、私は誰かの近くにいると迷惑をかけるから。」
あっちの世界で一人だった理由がわかった気がする。そんなことをわかるまでに時間がかかり過ぎだな。いつまで私は子供のままでいるのだろう。
「そろそろ大人になれよッ・・・。いつまで誰かに寄りかかってるんだよ私はぁ!!」
そんなレナの心の様子を表すかのようにぽつぽつと雨が降り始める。それは瞬く間に土砂降りの豪雨になる。膝をつき泣いた。自分の無力さに、考えの無さに悔しくて泣いた。そして——————
自分の中で何かが生まれた
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