複雑・ファジー小説
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- 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ
- 日時: 2019/01/09 13:52
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: DTf1FtK0)
こんにちは!マッシュりゅーむです。(正確にはおまさの中の人の友達です)「アイツに友達がいたのか!?」という疑問はさておき。
今回の作品は、リレー形式で進めていきたいと思います。リレーは初めてなので、皆様にご協力いただいて面白い物語になればいいと思っています。
ではでは、楽しんでいってくれたら幸いです!
注意:以下に注意してください。
・コメント等は差し控えてください。
…以上ッ!!
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.49 )
- 日時: 2019/05/27 19:07
- 名前: おまさ (ID: RKt4NeeS)
さて、私が盛大に棚の中の物をぶちまけられた状況から、舞台は再び四人の〈ミコ〉の集会に移る。
「『セイテン』の日が、始まりました」
かの警備員が発した言葉、それに対する四人の反応は様々だ。
『刻眼のミコ』ヘイズは過去を回想するかのように徐に目を細め。
『狐染のミコ』ファグは面白さと興味深さに頬を歪ませ。
『涙目のミコ』ユグルは内に抱く複雑な感情を押し殺すかの如く鼻を鳴らし。
『陰月鎌のミコ』ディレカートは眠気に眼を擦りながら我関せずの姿勢を露にしていた。
ヘイズは思う。何か、記憶の中で疼くものがある。かつての自分に何か深い関係のあるものが、うまく像を帯び形にならないそのもどかしさに思わず眉を寄せた。
疼く記憶は、忘れようと、無かったことにしようと、己の記憶から抹消しようとした気がするものだった。
まるで、他人の記憶を焼き付けられた時みたいに。
「-------!?」
その時、とっさに横に飛びずさっていたのは常人のそれをはるかに超えた反射神経か、それとも〈カゲ使い〉としての本能か。
いずれにせよ、あと少し遅れていたら圧倒的な速度と運動エネルギーを有し飛んできた大聖堂の鉄扉に直撃したら、いったい誰が無事でいられるだろうか。
屹とヘイズは鉄扉が飛んできた方角−−−−−−−−入口に視線をとばすと、一人の男が立っていた。
すらりと高い痩身。細い腕。あまり筋肉質ではないその体躯を見ればペドフィルとも思えるが、しかしその男はペドフィルが持っている筈もない圧倒的な鬼気をまき散らし、その双眸には殺意が宿っている。
相手に畏怖の感情を与えることなど容易くできる、その圧倒的な存在感。
わずかに頬を固くし、四人の〈ミコ〉はその青年を睨んだ。
「…そんなに睨んで…熱烈な歓迎、感謝しますよ」
くつくつと、男が哂う。彼は両手を広げ−−−−−−−−その動作に大聖堂の空気がガラリと変わる。
「はて、おぬしは招いていない筈なんじゃが…‥何故ここが分かったのじゃ」
ヘイズはわずかに語調を低くして、警戒するように問うた。もし奴が動けば、そこに術をぶち込むために〈カゲ〉を左手に漲らせる。
無論、相手もこちらの〈カゲ〉の奔流に気付いてはいるだろうが。
一方の男は、余裕な態度でヘイズの言葉を「ハッ」と鼻で笑うと、
「人に伝わった話は必ず何処からか漏れが出る。その漏れを決して逃さず、そこから思考を巡らせれば、必然的にこっちに伝わるってものですよ」
そこで男−−−−−−否、川本江は両手を広げる。そして。
「…そうでしょう、〈カゲノミコ〉様?」
何故か彼は、ファグに共感を求めた。が、
「ふむ。でも邪魔は良くないよ、キミ。ボクらに何の用があるのか知らないが、済んだのなら帰ってくれないか」
僅かに沈黙。
「−−−−−−−−−−−−それじゃ、遠慮なく用事を果たしますよ」
−−−−−−−−−−−−凶人と〈ミコ〉の、歪な舞踏が始まる。
「!」
飛んでくる〈カゲノツルギ〉を鼻先で回避。その後こちらへ殺到する、数多なる〈カゲノホコ〉を〈カゲノタテ〉を使い防ぐ。すると相手の攻撃に僅かながら間が生じた。
詠唱し、ヘイズはその左手を禍々しく黒いカゲに染めた。
「…ふッ!」
特殊な術、高等影術であり、〈ミコ〉の位でないと使えない術。
ーーーーーーーーーーーーーーーーカゲノギシュ〉の上位互換術、〈カゲノマテ〉。
その名の通り、漆黒の魔手を幾つも伸ばしーーーーーーたそれが、青年に殺到する。
しかし、青年は笑みすら浮かべ、魔手を完璧に回避。まるで何時、如何なる方向から来るか解っているかの如く。
魔手は青年に躱され、そのまま石畳の地面に突き刺さる。粉塵が、辺りに散った。
煙のように広がる粉塵は、相手とこちらの視界を奪う。−−−−−−−−−まさに、背後をとるには絶好のチャンスだ。
「−−−−−−−ディレカート!!」
「‥‥うん」
呼びかけると、『陰月鎌のミコ』は隣を風のような速さで疾走。その手には、身の丈以上の長さのある、長い棒が握られていた。
そしてその棒の先端に、漆黒に煌めく刃が生成された。
ーーーーーーーーーーー「月桂樹の鎌」。かの〈ミコ〉のみ使うことを赦された、〈カゲ〉で構成された刃を持つ死神の大鎌。
鎌の構造上、敵との間合いを詰め近距離で首を落とすのが主戦法だが、先述の戦闘は敵の正面では行えない。敵はこちらの懐に潜り込むため、鎌では攻撃が当たらないのだ。
そのため、必然的に相手の背後に回る必要がある。
ディレカートは目にもとまらぬ速度で疾走しーーーーーーーーーーー消えた。否、違う。〈カゲノミチ〉を使ったのだ。当然、瞬間移動した先は、
「‥‥‥‥死んで」
川本江の背後に回り込んだディレカートは呟く。その双眸に、どす黒く冷徹な闘志を宿して。
「−−−−−−−くくッ…面白い」
あと刹那遅れていたら、体に鎌は深く切り込んでいただろう。しかし、川本江は鎌が振り下ろされる瞬間、左手に〈タテ〉を展開し来る攻撃をさばいた。左腕に鮮血が滴り落ちているのは、「月桂樹の鎌」が〈タテ〉ごと腕の表面を削り取ったからであろう。あまり被害は受けていないようだ。
嗤い、凶人は左足を強く踏み込んだ。
「じゃ、こっちのターンだ」
「‥‥‥!」
気付き、ディレカートは身をよじるーーーーが、相手の方が速い。踏み込み、地面を軽く陥没させた左脚を軸に右脚が一閃。ディレカートの腑に刺さり、蹴り飛ばす。
受け身も取れず石畳に転がる『陰月鎌のミコ』は口の端から僅かに血を垂らすも、いつもの無表情は健在だ。
その様子を見、余裕そうに笑う青年に、
「じゃ、これならどうかし、らっ!!!」
大軍が、襲い掛かる。
見れば、ユグルだ。彼女は大軍を操り、青年に攻撃を食らわせる。…まるで、人形を操るかの如く。
そう、人形。
〈カゲノクグツ〉と呼ばれるのは、術者が生成した〈カゲ〉の傀儡の事だ。適性が無いと〈カゲノクグツ〉は操れない。ユグルは、自身にあるその適性を最大限生かし、人形の如く〈クグツ〉を操る。
「…ち、ッ」
鬱陶しげに川本江は舌打ちし、群がるそれらをまとめて葬り去らんと詠唱を始める。
「−−−−−−」
だが、多勢に無勢、詠唱をしている間に〈クグツ〉の波に呑まれる。そして。
「ヘイズっ!やっちゃって!」
ユグルが奴を抑え込みながらヘイズに攻撃を促した。すぐさまヘイズは、〈クグツ〉の大軍ごと川本江を消し去ろうと、して、して、して、して。
「−−−−−−−−−−−−−−がッ!?」
「ヘイズ!?」
ーーーーーーー何だ、これは。息ができない。首を掴まれたようなーーーーーーー否、首は掴まれている。そのまま、宙に持ち上げられるのを、空転する意識の中で自覚した。
「甘いんですよ、あなたたちは」
何かが弾け飛ぶ音に見れば、川本江が〈クグツ〉を跡形もなく消し去っていた。右手から黒い陽炎立たせ、嗤う。
「いくら僕とて、一人で来るはずがないのに…そういうところが傲慢なんだよ。考えることすら放棄して、それこそ相手を見限るってものですよ、滑稽だなあ」
…ん?今、「一人で来るはずがない」と言ったのか。‥‥まさか。
「ちょっとファグ!何とかしなさいよ!」
「…あぁ、うん。そうだね」
ヘイズと同じ結論に至ったユグルは、ファグに小声で怒鳴る。
気のせいだろうか。ファグは今まで、一度も動いていなかった。
とにかく、ファグも掌に〈カゲ〉を漲らせ、そして彼女の髪飾りの形が解けるーーーその瞬間だ。
「−−−−−−−−−−なんで、そんな滑稽でど〜しよーもねぇアンタらの相手は、俺ちゃんが務めてやろーじゃねーですか」
「!!」
甲高い声と同時にファグを横殴りにするように術が放たれ、咄嗟に躱したファグはわずかに体勢を崩し、そこに容赦なく次が叩き込まれる。
「−−−−−−−−−−ぁ…」
朦朧とし始めた意識の中、ヘイズが視界にとらえたのは、一人の人影だった。その人影は、宙に浮いているヘイズを見やると「あー」と気だるげな声を垂らし、
「もう透明化解いてもいーぜ、バーヘイトちゃん」
『うむ』
透明化が解け、ヘイズは自分の首が、透明化した〈カゲボウシ〉によって絞められていたことに気付いた。
そして、人影−−−−−−女の姿が露になる。
レナと大体同じくらいの身長。格好も似ている。短髪を揺らし、女は酸素不足に苦しげに喘ぐヘイズに近寄った。そして、左手を掲げる。
ーーーーーーーーーーーー;その左手の〈ギシュ〉を掲げながら、女は名乗った。
「−−−−−−−−俺ちゃんは…そうだな…デイズとでも名乗っておいちゃいます」
そう、デイズは下手くそなウィンクをした。
こいつがーーーーーーーーーーデイズが、川本江の連れなのか。ヘイズは、掴まれている首を僅かに回し、周りの士官たちが逃げ終わっているのを確認。そして、僅かに声を漏らした。
まるで、呼びかけるように。助けを、求めるかのように、弱弱しく。
「‥‥‥…れ、な…」
***
「…?」
私は、誰かに呼ばれた気がして首を傾げた。一体、今のは何だったんだ。
「ちょっと、おーい、聞いてる?レナってば」
「、あ、ごめん。何の話だっけ」
呆けていたのを実里に指摘された。彼女は「もうっ」と前置きしてから、
「何って、部屋の片づけでしょ。今みたいに私の目を少し誤魔化しても、ヘイズならきっと部屋に入った瞬間に分かるよ」
「そ、そんな大袈裟な…」
「とにかく、ヘイズが帰ってくる前に片付けちゃうよ。ホラ早く!」
「‥…い、イエッサー!」
最大限におどけた口調、しかしその裏に私は何か不吉な予感を感じた。
「‥‥‥ヘイズが帰ってくる前、か」
まさかあんなことになろうとは、この時の私はまだ、知る由もない。
ーーーーーー佐藤レナ「影海録」より
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.50 )
- 日時: 2019/06/08 13:48
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: RKt4NeeS)
「はぁ、情けない。情けねーですよ、〈カゲノミコ〉ともあろうお方が」
大げさに首を横に振り、嘆くように、しかし口元は笑ったままで、歪な笑顔を見せながらデイズは言った。——この世界で最も強いと言われ、崇められている〈カゲノミコ〉を嘲りながら。
しかし、その場にいる誰もが反論しない。それは——
「確かに無様だな。4人全員固まったまま……とはな」
——そう、ヘイズが首を掴まれてから、誰一人として身動きが取れなくなっていた。
「……性格悪いわね、私たちが動けない理由、分かっているのに」
「フフフ、さぁ、どうでしょう」
ユグルが憎しげに文句を言う。それを見て川本江は楽し気に笑う。
彼女たちが身動きが取れない理由。それは単純だ。それは、ヘイズが人質として取られているから。
今、ここで下手に動けば、デイズが彼女の首を容易にへし折るだろう。それは、何とも避けたい事態だった。
「しかも、〈カゲ〉の技を発動させるときの≪陰影量≫まで読み取れるとか……ウザいったらありゃしないわ」
「得意な事なので。お褒め頂き光栄です……よ」
皮肉にしか聞こえないその言葉に、ユグルは舌打ちした。
ちなみに≪陰影量≫とは、簡単に言うと〈カゲ〉を発生させるときに出る影の量の事であり、それを形にして〈カゲ〉とする。そして、その量に応じて強力な技などが出せるのだが、逆に言えばそれが出る時は〈カゲ〉を発動させると教えることになり、読み取るには相当目がよくてはならない。
しかし、川本江はそれが読み取れるという。
(どうする!?二人に気づかれずにヘイズを開放してこの状況を打開する方法は……)
必死にユグルは思考を巡らせるが、一向にいい案が出ない。
(ヘイズは掴まれて身動きが取れない、ディレの速さでも鎌だとヘイズが巻き添えに……、私の〈クグツ〉は通用しないことは分かった、ファグは——)
と、ここで思考を止まらせる。ヘイズは喋れず、ディレカートは元から無口だから分かるが、いつもなら呑気に突っ込んでくるファグが一言も喋っていない。それに、彼女の戦い方は——
「っ!?不味い、デイズ、〈カゲボウシ〉を止めろっ!!!」
「?なぜでいあがりますか?こんなに楽しいのに」
川本江が何かに気付いてデイズに警告するが、何も知らない彼女は気に留めない。
「早く!いいからさっさと……」
「——もう、遅いよ」
そう、声がかかる。その声の主は、瞑想していた瞼をゆっくりと開け、デイズを見据えた。
「もう、ボクが——『彼女』を呼び起こしたからね」
言って、自分の頭についている、豪奢な髪飾り——ファグは装飾品を好まず、飾りはそれしかつけていない——に手で触れる。
すると——
『オオオオオオオオオオオオ』
「!?」
ファグから——否、ファグの髪飾りから、うめき声が聞こえる。
「ま、さか……」
「すまないね————見ているだけは、嫌いなんだ」
その言葉は、動けないでいた自分への叱責か、あるいは——面白そうなことに首を突っ込まずにはいられない、道化としての本性なのか。
その心理は、ファグしか知り得ない。
「さて、お待ちかねのボクの——ワタシの番だ」
『オオオオオオオオオオッ!!』
完全に髪飾りがほどけた時、ユグルは呟いた。
「怪物が、目覚めた」
* * *
『オオオオオオオオオオ』
「な、何でいあがりますか、コイツぅ〜〜!?」
闇をまとい、突進してきたソレに、デイズは悲鳴を上げる。
しかし、見た目は小さく弱そうなので、なぜ川本江が恐れたのかが分からない。
「ば、バーヘイトちゃんっっ!」
『お、おう』
一応警戒し、戸惑いながらも自分の〈カゲボウシ〉に命令を飛ばす。バーヘイトと言われた〈カゲボウシ〉は、ヘイズを掴んでいる手とは逆の、もう片方の手をソレに伸ばす。と——
「す、すり抜けた!?」
『な……』
ソレはバーヘイトの腕を貫通し、ヘイズを掴んでいる手を攻撃した。
そして、油断し、意外と攻撃力の強かったため、放してしまう。
「フッ、それで『シャーナー』に驚いていては、キミたちには勝てないね」
ファグがにこやかに——少々嘲りも入っていたが——言う。
そしてソレは——纏う〈カゲ〉の量が増していた。
「なっ……」
「馬鹿がっ、それに対して〈カゲ〉を使うんじゃない!!」
デイズが絶句していると、川本江が叱咤する。
「それは——使った術者の〈カゲ〉を吸収するんだ!!!」
そう、ファグの扱う、『シャーナー』と呼ばれるものは、いつもは髪飾りに変形しているが、ファグの意志、呼び掛けにより、一時的に目を覚ます。一度目が覚めて、また待機状態に戻ると、1か月は使えなくなる。しかし、それ相応の力を備えており、相手の〈カゲ〉を吸収するほか、それによる身体強化、更には姿も自由自在に変えられる。
つまり、体術などの物理攻撃の類でなければ、この『シャーナー』は倒せない。
しかし——
「バーヘイトちゃん!」
『……無理だ』
デイズは日頃から自身の〈カゲボウシ〉ばかりに頼っているので、自分はあまり戦えない。
そして、その〈カゲボウシ〉は、その体が〈カゲ〉で出来ているため、攻撃しても吸収されてしまう。
つまり、デイズ達と一番相性が悪い。
「……ちっ、流石に〈カゲノミコ〉3人相手は分が悪いか……」
すでに復帰し、他のユグル、ディレカートと一緒に対峙しているヘイズも含め、流石に一人では歯向かえないと言う川本江。
「……一旦出直す」
「しょーがねーですね」
「っ!待つのじゃ……ごほっゲホッ」
「ちょ、ヘイズ、安静にしてて!」
ヘイズの言葉はむなしく、二人は〈カゲノミチ〉を使って去ってしまった。
「はぁ、また逃がしてしもうた……」
「仕方ないわ、私達でも負けそうだったんだから」
そうユグルが言い、今度はファグのいる方向に身体を向けた。
「ありがとね、ファグ。アンタの『シャーナー』がいなければ死んでたところだわ」
「儂からも礼を言う。ありがとうのぅ」
「あぁ、二人が無事で何よりだよ」
そして、これからの方針について話し合う。
「では、この件は——」
と、——
『……ォ…」
「ん?どうしたんだい、『シャーナー』?」
突然うめいた自分のしもべに、問いかけるファグ。
『——オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』
「!?どうした!?」
「あっ!外に!」
急に大声を出した『シャーナー』は、扉があった場所から外に飛び出してしまった。
「ちょ、ファグ!アンタの子でしょ!?どうしたのよ!」
「あ、やばい……」
そして、ゆっくりユグルの方を向き、言葉をこぼす。
「……『セイテン』の日にあの子起こすと、暴走するんだった……」
「「ぇぇぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!??」」
その衝撃事実に、ユグルとヘイズは大声で叫ぶ。
「は、早く止めないと!」
「あぁ、行こう、ヘイズ」
「う、うむ」
そして、彼女たちは暴走した『シャーナー』を止めるべく、走り出した。
「………空気……?」
——一人、無口な〈カゲノミコ〉を残して。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.51 )
- 日時: 2019/06/11 02:50
- 名前: marukun (ID: W3Oyo6TQ)
暴走する彼女の心の中にあるのは、ただ目の前の敵を屠るということだけ。それ以外のものは虚無に等しい。
『シャーナー』は影が多いと力が増大し、倍以上の力を発揮する。
しかしながら、制御がきかなくなり暴走する。ファグ自身〈カゲノミコ〉なので大体の場合は抑えられるが〈セイテン〉の日だけは彼女でもむりなのだ。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!』
外で暴れている『シャーナー』は見境なく暴れていた。女子供変わらず、手当たり次第に暴れている。こうなってしまうと〈カゲノミコ〉でも危険で抑えることも困難を極める。ヘイズはケガを負っているので戦力外だ。なのでファグとユグルの二人…ん?1人誰か忘れているような…と思っているとこちらにヘイトが向いたようだ。二人とも戦闘態勢に移り、ヘイズはふたりの支援を行えるように動く。
「みんな、いくよ」
ユグルの声で戦いの幕が切っておとされた。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.52 )
- 日時: 2019/07/18 07:29
- 名前: おまさ (ID: RKt4NeeS)
「…ふぅ、大方片づいてきたなぁ」
「お疲れー。ジュースでもどう?」
「ありがと」
さて、何とか部屋を片付けた。うん。
「にしても、ヘイズ遅いね。いつもだったら遅くても一時間くらいで戻って来るのに」
確かに、私がヘイズと別れロリコン(←ここ重要)検察官もといペドフィルと一緒に〈ホーム〉に戻ってきてから既に一時間半ほどが経過していた。議論が長引いているのかもしれない。
ところで。
「あー、お腹空いた。…実里」
「?なに」
「こっちって、ファストフード店無いの…?」
割と深刻そうな声音で言うと、ぷっ、と実里が少し噴き出す。彼女は、声に笑いを滲ませながら、
「あるわけないよ。異世界だよ?」
「うぉぉおおええ…‥ホント?私、釈迦地蔵チキン信者なんだけど」
「‥‥‥…‥‥‥‥‥シャカシャカチキン?」
「そうそれ」
気の抜けるやり取りをしていると、気分も和んできた。実里は、「まあ」と続ける。
「一応ファストフードっぽいのはこっちにもあるけど、たぶんレナが期待してる感じではないと思うよ」
以前日本にいたとき何かの本で読んだのだが、いわゆる『パニーノ』的なヤツなのだろうか。イタリアの軽食で、ようはイタリア版サンドイッチである。イタリアの伝統的なパンの間にレタスやらハムやらを挟んであるアレだ。
「…ところで、サブ●ェイってパニーノなのかな…」
「多分違うよ。それはともかく、こっちにはフライドポテトとかないしね」
それを聞いた瞬間、私の頭は喪失感で満たされた。
————さらば、コーラと釈迦地蔵チキン。おまいらの事は死んでも忘れん。
「まあまあ。今日の夕飯当番は章だから、おいしいもの作ってくれるよ」
聞いたところによると、彼は「涙の出ない玉葱の刻み方」なる秘奥義を習得しているらしいが、日本だとフードプロセッサで解決してしまう現状。結果として、こっちで役立っている‥‥のかな?料理は上手いと聞いている。初めて章に会った時、モテ男の要素があるな、と何となく思ったのだがなるほど正しかったらしい。
とにかく、先程からいい匂いがするなと思っていたが、章が夕飯を作ってくれていたらしい。…フライドポテト、いつか作ってもらおう。私は心に決めた。
「じゃ、こっちも片付いたし章を手伝いに行こ?」
「あ、うん」
他力本願なささやかな願いを誰にともなくして、ドアを開けこちらに振り返ってくる美里についていこうと一歩———、
その瞬間だ。
「———っ!?」
「きゃ、っ!?」
突如として起こった激しい揺れに思わず私はその場にしゃがみこんだ。
「な、何よこの揺れ‥」
日本にいた時の習慣か、実里は地震訓練の時のように、近くにあった机の下に潜り込んでいた。
この揺れは、地震か。
「ううん。この国じゃ、地震なんてめったに起きないよ」
実里の言葉と同時に、私は思考に待ったをかけ、状況を思い出す。
「そういえば」
今の揺れ、地震のような揺れではなかったと思う。縦揺れでも横揺れでもなし、ずっと揺れているわけでもない。地面がふらふらと揺れるのではなく、不規則にビリビリと揺れる。この揺れがもし、地震でないなら———こっちの世界の地震の源が、大ナマズでないのなら。
「——爆発の、衝撃」
状況と仮定が結び付き、私はなおも揺れる部屋の窓から外をのぞく。と、
「‥‥…何だ、コレ…」
————ヘイズの家のあるオースンカッグ、その古風な街並みが、燃え盛る真紅の戦禍によって燃えていた。
「‥…何、なの、コレ‥‥ッ」
石畳の曲がりくねった路地には、爆発に巻き込まれた住人の血だまり。その血の赤さをなおも上回る炎の紅さよ。
「実里!章と一緒にいて!」
「ちょっ、レナ!?」
唇を噛み、私は駆け出す。実里の声すらも、置き去りに。
ドアを開け、階段を猛スピードで降り、目指すのは玄関。
「っ!?レナ!?おい!」
一階に降り、章の声すらも無視した。焦燥に駆られるまま、玄関を開け放つ。
「一体何が、って暑っ!?」
ドアを開けた瞬間、皮膚を焼き焦がすような圧倒的な熱量が殺到する。その熱風に肌を焼かれる感覚を味わいながら、走り出す。爆発はなおも続いていて、まるで宇宙人が地球侵略に来たかと、そんなありもしない状況と錯覚するほどの轟音と揺れが私の足元を走る。
「フォスキア」
『呼んだか、我が主よ』
「…この、爆発は?」
『ふむ。…なるほどな』
この状況下、自分だけ納得しているフォスキアに、場違いとは分かっていても少し苛立つ。思わず、焦りに苛立った声が出た。
「何!?納得してないで、説明して!」
その反応を予想していたように、淡々とフォスキアは答える。
『そう急くな。屋根に登ればすぐに分かる』
「っ、」
この期に及んで、相棒は。後で覚えてろよ。私は盛大に舌打ちし、〈ムチ〉を発現させる。そのまま、近くの建物の屋根に〈ムチ〉を引っ掛け、〈ギシュ〉を使って体を引き上げた。五秒ほど浮遊感を味わったのち、屋根瓦の上にすたりと着地し———その光景に戦慄した。
紅蓮の炎があたりを包み、空は排煙と粉塵、そして人々の悲鳴と怒号で塗りつぶされていた。ごうごうと広範囲に燃え盛るその揺らめきは、簡単には消えない。それこそ、運よく雨が降らない限り。
そして、遠くに爆発の———否、諸悪の根源が微かに見えた気がした。しかし、それも一瞬の事。すぐに火が視界と酸素を奪いに来る。
「…ゴホッ、ケホッ…ああもう!鬱陶しいっ!」
横に飛び、隣の棟の屋根に着地。そうして、再び遠くを見つめるが、戦禍の炎に陽炎揺らめき、よく見えない。そこで、
「〈シャテン・ヘンゼア〉」
詠唱し、術を行使する。この術も、この一か月の間に身に着けた技だ。
———〈シャテン・ヘンゼア〉。言ってみれば千里眼だ。詠唱していた時に見ていた範囲にある、建物や人の影から状況を見る事が出来る。フォスキアの知っていた過去の秘術を復活させた形だが、使っているときは体を動かせない。
詠唱すると、私の黒瞳が猩々緋に妖しく輝く。そして、意識を集中させ、数多ある影から状況を俯瞰した。逃げ迷う人の影法師、協会の影————、
「!…あれは…」
ついに私は、目まぐるしく変わる視点の中、元凶を正確に映した視界を見つける。が、そこに移っていた光景に私は首をひねる。
あれは、一体なんだろうか。
何やら小さい存在———一見すると、〈カゲ〉の塊のようにも見えるそれは、しかし圧倒的な力を持っているものだと直感した。
それは闇を纏い、炎に包まれる街の中心でただ街を睥睨している。
刹那、空が漂白された。
「———ぅあっ!?」
突然の閃光に思わず術を切った。網膜を焼かれたような痛みが眼球に走る。目の痛みと周りの熱風に僅かに涙目になり、目を擦った。
そうして、目を開くと同時に————爆轟が飛来する。
「くっ…」
近くで起きた爆発の影響を少しでも殺すために、私は腕を交差させて防御の姿勢を保った。何とか身を焼くような爆風を凌いだが、これで奴が元凶であることが分かった。
———閃光が走り、空を漂白した直後に爆発。これを創作の世界で例えるならば——、
「…破壊光線か。…ないわー」
そう、私は息を吐いた。
***
「…どうするのよ、ファグ。アンタの子でしょ、何とかしなさいよ」
『シャーナー』を追跡し、十分くらいが経過したとき、街の阿鼻叫喚たる惨状を見、ユグルが言う。
「困ったな。ボクは—、」
「…物理攻撃ができない、でしょう?」
ファグの言葉を途中で引き継ぐと、彼女は肩を落とした。それからユグルは、ヘイズの方に振り返る。
「ヘイズは…喉、大丈夫?」
「‥‥だ、だいじょう・・・」
未だガサガサの声でそこまで言いかけたとき、ヘイズは不意に咳き込み、何かを吐き出した。——見れば、血塊だ。自分の手に其れがかかっても、ユグルは眉一つ動かさない。
「大丈夫、じゃないね。…さっきの〈カゲボウシ〉———バーヘイト、だったっけ?アイツ、色々やってそうだったから。あの透明化の能力といい」
〈カゲボウシ〉には、稀に固有の能力を持った個体が現れる、と言われる。恐らく、先程の〈カゲボウシ〉の能力は透明化———だけと思いたい。
回想を巡らせながら、ユグルはヘイズのマフラーをめくり、その細い首を見た。そして、
「これ、呪いが掛けられてる…!」
呪いの内容は、ヘイズの状態を見るに「負傷」の類だろう。この手の呪いは、呪いの効力がなくなるまでの長い時間をかけ治癒するか、上級呪術師に呪いを解いてもらうしかない。
おまけに、周りは火の海。下手に熱風を吸い込めば、喉は痛む。ヘイズの場合は、最悪喉が潰えるだろう。ユグルは瞬時に応急処置を施した。
何事かぶつぶつと呟き、ヘイズの喉に燐光をかざす。
「…これで大丈夫。しばらくの間声が出せないけど、我慢してね」
ヘイズはこくりと頷くのを見た後、ユグルは最後の〈カゲノミコ〉、なんかいつのまにかついてきている「陰月鎌のミコ」を見据えた。
「ディレちゃん、『シャーナー』への攻撃、任せていい?」
『シャーナー』には物理攻撃しか通じない。故に、物理攻撃に特化したディレカートに一任するのが最適解———、
ディレカートはしばし考え込んだ後、消えそうな声で言った。
「‥………無理」
————。
—————————。
——————————————————なに?
無理解に陥るユグルに、ファグが補足する。
「あれは、周囲の〈カゲ〉を貪欲に貪って活動する。だから、〈カゲノミチ〉を使って死角に回る事が出来ないと、彼女は言っているのさ」
〈カゲノミチ〉は他の術と異なり、移動できるのは大気が一定量の〈カゲ〉で満たされた場所のみだ。〈カゲ〉の総量が著しく低下する『シャーナー』の近くには移動できず、付け加えればディレカートの「月桂樹の鎌」の刃先を生成・維持することもままならない。彼女の鎌の刃は〈カゲ〉を一定量大気から取り込むことで発言する特殊な金属でできているからだ。走って懐へ潜り込もうにも、敵は破壊光線を放って防御する為不可能だ。
ファグは『シャーナー』以外に物理的な戦闘力を持たない。
ディレカートは近接戦が望めない。
ヘイズは負傷して戦えない。
ユグルもまた、物理攻撃ができない。
「今度こそ、詰みなのかしら・・・」
いや。
諦めるのはまだ早い。もう少し、無駄に足掻かせてもらおう。
考える。考える考える考える。意地でも、脳から解決策を絞る。
ディレカートが戦えないのは、〈カゲ〉の量が足りていないから。
言い換えよう。
———大気中に一定量の〈カゲ〉が存在すれば、彼女は戦える。ならば、
「————大気を、〈カゲ〉で満たす事が出来れば、勝てる」
思い至った作戦は、こうだ。
まず、ヘイズとユグル、ファグの三人で、体内にある〈カゲ〉を放出する。《陰影量》を形にして術を使うのならば、その「形にする」工程を省けば結果として〈カゲ〉は大気に残る。その〈カゲ〉が『シャーナー』に吸収される前にディレカートが〈カゲノミチ〉で移動し、奴を仕留める。単純だが、やるしかない。
可能性は未知数、状況は最悪。これをハンデと笑い飛ばせる奴がいたなら、今すぐそいつを呼びたい。
作戦は三人に伝え終わった。
「準備は」
それだけで大丈夫だった。
合図なしに、四人が動いたのは寸分の狂い無く同時だった。ディレカートが三人を置いていく勢いで加速、加速、加速。燃え盛る街の、屋根や看板などの足場を巧みに利用して『シャーナー』に迫る。
それをみすみす見逃す『シャーナー』ではない。ディレカートを狙い稲妻が走る。が、ディレカートは超人的な反射神経と勘でそれをなんとか回避する。
「ディレちゃん!いくよ!」
『シャーナー』にある程度近づいたユグルはそう叫んだ後に〈カゲ〉を大気に還元。『シャーナー』はその〈カゲ〉を全て吸い込もうとする。しかし、〈ミコ〉三人による〈カゲ〉の放出、その量は莫大なものだ。特にヘイズなど、国内有数の〈カゲ使い〉ともなれば、体内に秘めた《陰影量》は半端ではない。到底、『シャーナー』に一気に吸い込める量ではない。そう見当を立てていたのだが、ユグルは己の判断を呪いたくなった。
「吸収が、思ったよりも早いっ!!!」
今しがたファグ、ヘイズ、ユグルの三名で〈カゲ〉の還元を始めたが、『シャーナー』は当初予測していた吸収速度よりも早く大気の〈カゲ〉を吸い始めた。元々この作戦は、三人の〈ミコ〉の還元速度が僅かに『シャーナー』よりも早いことを前提にした賭けに近い。
————もっと。
——————もっと早く。
「早くっ…!」
ヘイズの隣で懸命に活動を行うユグル。朱い熱風に肌を撫でられ、刹那の間に放出される莫大な〈カゲ〉の一部が暴走し、彼女の白く細い指先が黒い浸食——否、〈カゲ〉に侵されていく。
——————それは、ヘイズの方が早い。
〈カゲノクグツ〉を操るユグルより、最高峰の〈カゲ使い〉であるヘイズの方が〈カゲ〉に対する熟練度が高く、それ故に〈カゲ〉の放出速度もユグルより早い。既に、ヘイズの腕の半分が漆黒に染まっていた。
突き出した両腕に痛みが走る。しかし、顔を苦痛に歪めながらも放出速度を落とすような真似は絶対にしない。
浸食が、肩まで到達する。
両腕、下げない。放出、止めない。苦痛を絶叫で外に漏らすようなことは———できない。
「…ディレちゃんっ!!」
苦痛にユグルが声を荒げ、ディレカートを呼ぶ。「陰月鎌のミコ」は、表情変化に乏しいその瞳に迷いを宿しながらも、
「————。————。‥…うん」
ついには決断を下し、『シャーナー』に向かって突貫する。
『シャーナー』はディレカートを消し去らんと、今まで吸い続けた莫大な〈カゲ〉を破壊光線に変えて連射。その連射を、雨粒を全て避けるかの如くディレカートが躱す、躱す、払う。鎌の柄を器用に使って払いのける。
〈カゲノミチ〉が使えなくとも、鎌の刃さえ一瞬発現できれば攻撃できる。意を決め、ディレカートは漆黒に煌めく〈カゲ〉の金属の刃を生成する。刃は砂嵐のように霞み、今にも消えてしまいそうだ。———故に、決める時間は間違えない。
ディレカートは、大きく鎌を振りかぶった。
『シャーナー』は、まるでそれを睨むかのように迎撃に移る。
————刹那、『シャーナー』の意識が逸れた。
『シャーナー』が見たのは、黒髪の女性だ。隻腕で、〈ギシュ〉を付けた異邦人だ。それと傍らにいる〈カゲボウシ〉だ。
そして、彼女が放った〈カゲノホコ〉だ。
———意識の逸れた怪物を、無慈悲な死神の鎌は逃がさない。
強力な一撃が入り、その一撃に怪物はよろめき、頽れ、昏睡状態に落ちる。そうして、凄まじい闇の帳が消え、そこには音を立てて転がったファグの髪飾りだけが落ちていた。
「っ、やったの・・・?」
レナに「死亡フラグ」と突っ込まれかねない言葉を、ユグルがこぼした。だが、本当にやり遂げたらしい。ヘイズの、首まで迫っていた黒い浸食が消え、痣となって残った。
終わった。終わったのだ。安堵に息を吐こうとして———ヘイズは息を止めた。
何故なら、ディレカートが警戒の眼差しを誰かに向けていたから。その第三者を見てヘイズは、
「—————!」
声が、出ない。意思が、言葉となってその人物を呼ぶ事が出来ない。
『…これで大丈夫。しばらくの間声が出せないけど、我慢してね』
先の、ユグルの言葉を思い出す。
「‥‥‥…誰」
そんな中、ディレカートは鬼気を徐々に強め、その双眸にははっきりとした敵意すら移っていた。ーーーあの怪物の意識をその存在だけで逸らした、危険人物とみなして。
その人物は僅かに気圧されながらもこちらに歩みより、ディレカートのおよそ六歩手前で止まって、名乗った。
「———私は、サトウ・レナ、です。…あなたは?」
ディレカートは答えない。
(ちょっと、ディレちゃん!どうするの?)
小声で耳打ちするユグル。ディレカートは沈黙して、して、して、して。
「————————敵」
「————!——————!」
ヘイズの声にならない制止の言葉すら聞かず、ディレカートは異邦人に突撃する。『シャーナー』の意識を逸らした存在である、異邦人を———サトウ・レナを強大な敵とみなして。
両者が、激突する。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.53 )
- 日時: 2019/07/22 12:05
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: zKcuwG5/)
——見えた。
屋根の上から屋根伝いで比喩抜きで飛び始めてからおよそ10分。
ようやく見えた『厄災』に、息を整え、横にいる己の〈カゲボウシ〉に語り掛ける。
「フォスキア、行ける?」
『……ふむ、どうやらアレは〈カゲ〉に対する絶対的な耐性……いや、無効化に近い何かか。それを持っている』
「な、じゃあどうすれば…」
むこうか?何それチートですか?
ここにきてあの怪物の強さを再確認する。
『まぁ、我と主であればいけないこともないが』
と、ここでフォスキアが余裕そうな表情と口調でそんなことを言ってきた。
「……え、マジですか」
『はぁ…、主は何のために修行なんぞをやって来たんだ』
た、確かに……。
『今の主の《陰影量》と、我の強力な〈カゲ〉を合わせれば、奴の無効化など、簡単にレジストできる』
「おぉ〜〜」
すごい、私がここまで成長していたとは!よしゃぁ、さっさとその攻撃を——
『待て』
意気揚々と〈カゲノホコ〉を顕現させる私に、フォスキアが制止の声を上げる。
「なに?」
『我とてそんな簡単にできるものではない。この攻撃は我に寄ることの方が大きいからな』
あ、私が凄いんじゃなくてフォスキアさんが凄いんですねはいそうですよね勝手に舞い上がっちゃってすみません。
そうして、フォスキアが瞑想に入る。
『準備が出来たら呼び掛ける。それまで主は主の出来ることをしろ』
……なんか子供の頃お母さんに何か恩返しがしたくて「おりょうり、てつだう」とか勇気出していった後の返答に似てるなぁ……と、そうじゃなくて!
「私に出来ることって…なに?」
『………知らん、自分で考えろ』
まぁ、そうだよな、何でもかんでも人——カゲか——に頼るのは良くないよな。今のうちにアイツの弱点とか探ってみよ。
そうして、怪物付近の様子を少し観察してみる。
(う〜ん、全体的に小さくてよく見えな……お?)
何やら人影がある。どうやら交戦中の様だ。鎌らしきもの持ち、怪物の攻撃を右に左に躱している。その後ろにも気配があるのだが、砂埃でよく見えない。
そこで、先程の言葉が脳裏をよぎる。
「『主は主の出来ることをしろ』………今がその時だ!」
攻撃を加え、今も戦っている人を助けようと、持っていた〈カゲノホコ〉を大振りに構える。たとえ無効化されても、きっと戦っている人にとっては増援という希望になるはず……!
この時、私は気付くべきだった。
あの化け物の攻撃を躱している時点で助けなどいらない、自分より強い人だったと。
あの強い〈カゲ〉の奔流で、自分も少なからず強化されていると。
あの時、私は——
「フッ!!!」
息を鋭く吐きながら、大きく〈ホコ〉を薙ぐ。
——そして、激突する。
『!?、オオオオオオオオオオ!!?』
『……!何!?』
自分の攻撃の後、目の前で誰かが攻撃を加え、倒れていく怪物の呻き声も、横でフォスキアが驚く声を上げているが、私はどちらも聞こえていなかった。
少しだが、攻撃を加えることが出来た。
私はこれで強くなれて、ヘイズの役にも立てれるんだ。
私は——
その時、砂埃が晴れ、後ろにいた人物が見えた。
そして、見覚えのあるロリを見付ける。
「…ヘイ——」
ヘイズが何でこんなところに、という声を上げようとしたとき、彼女が何やら懸命にこちらに何かを訴えようとしているのが見え、耳を傾け、何なのかと口を閉ざす。しかし、声は聞こえない。
何なんだ、と、ふと、視線を感じ、そちらを見やると、静かな、それでいて警戒の目を向けている女性が目に入った。
「………誰」
その女性は、鎌を持っていた。きっと先程戦っていた人なのだろう。
しかし、今は私に敵意をあらわにしている。
(誤解を解かなきゃな……)
そう思い、意を決して口を開く。
「———私は、サトウ・レナ、です。…あなたは?」
コミュ障を、頑張って抑えて言った。さて、返事は——
『——危ないッ』
「……チッ…」
「……へ?」
何が起こったか分からなかった。しかし、目の前にいる、両断された己の〈カゲボウシ〉と、鎌を振りかぶった後の状態の女性を見て、悟った。
あの時、私は——
もう一度、死神の鎌が、今度は自分に襲い掛かる。
動け、ない。
「私、は……」
私は——
——選択を、誤った。
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