複雑・ファジー小説
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- 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ
- 日時: 2019/01/09 13:52
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: DTf1FtK0)
こんにちは!マッシュりゅーむです。(正確にはおまさの中の人の友達です)「アイツに友達がいたのか!?」という疑問はさておき。
今回の作品は、リレー形式で進めていきたいと思います。リレーは初めてなので、皆様にご協力いただいて面白い物語になればいいと思っています。
ではでは、楽しんでいってくれたら幸いです!
注意:以下に注意してください。
・コメント等は差し控えてください。
…以上ッ!!
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.39 )
- 日時: 2019/04/08 21:05
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: um7OQR3E)
「えっ!フォスキア、動けたの!?」
「?どうかしましたか」
突然聞こえてきた自分の〈カゲボウシ〉の声に驚愕の声を出してしまい、裁判官や他の者たちを不思議がられてしまった。しかし、それは仕方のないことだった。なぜなら——
「力を使い果たして顕現出来ないんじゃあ……」
そう、これまでの裁判官の話から推定すると、私は〈カゲボウシ〉を存在維持できないような状況まで扱い、証拠にさっきまでいた牢の中ではフォスキアに呼び掛けても一向に返事がなかった。ではなぜいきなり声がしたのか。
その疑問に答えるように、フォスキアが言った。
『いやなに、主のカゲが少し回復してきたからな。まあ我は具現化できぬ上、意思を伝えるのは主の脳に直接しか無理だ』
〈カゲボウシ〉は宿り主のカゲを消耗し顕現する。ゲームで言えば〈カゲノホコ〉などの武器、〈カゲボウシ〉が魔法で、必然的にMPを使うことになるだろう。
そしてフォスキアの話の続きを聞こうとして——
『だから、今主は傍目から見れば、「頭のおかしい見えない誰かと喋っている変な者」に見えるだろうなぁ』
一瞬、何を言われたか理解するのに数秒固まった。そして、今自分が置かれている状況を遅まきながら思い出す。
「……はッ!?」
急いで周りを見渡すと、胡乱げな表情をしてこちらを見てくる人たちが見えた。
「ああ〜〜〜!これはですね………」
慌てて弁明を行う私を見て、視界の端でヘイズが不思議そうな顔をしているのが見えた。
* * *
「なるほど、サトウ・レナ被告の〈カゲボウシ〉ですか…」
経緯を話し終えてようやく裁判官らの誤解が解けて、不信感が解けた時にはあれからさらに十五分もたっていた。
「ふぅ…」
心なしか彼から疲れを感じる。まあ仕方がないか、色々茶番が多かったから。と、不意に時計を見たかと思うと、こちらを見、言った。
「予定していた時間から大幅に過ぎてしまいました。これから別の者の裁判を行わなければならないので、すみませんがレナ被告には今晩ここに泊まってもらいます。それと、少しヘイズ様からも、お手数ですがお話をお聞きしたいので……」
「分かった」
どうやら時間切れらしい。心の中で、「迷惑かけてスミマセン」と謝り入ってきた扉からまた出て行った。
「じゃあね、ヘイズ。…なんか、ごめん」
「いやいや。……まあ、儂にも非があるからの」
「?」
扉から出る際、このような会話を交わした。最後のヘイズの言葉も気になるけど……。
そんなことより、と、連れられてきた牢(裁判の前にいたところと別の、それよりも少しマシになった所)の薄汚れたベットの上で寝ころびながら目を閉じ、そして——
「フォスキア」
『ああ』
呼びかけと同時に、呼び掛けられると分かっていたのか、フォスキアが応答する。
そして、さっき聞き損ねた質問をする。
「裁判の時、ヘイズの本名みたいな言葉を聞いて驚いてたよね?それになんかフォスキアの名前にも少し似ていたから——」
『…』
一度言葉を切り、フォスキアの反応を待ってみる。しかし黙ったまま続きを促しているので、最後まで続けた。
「——なにか、関係でもあるの?」
その問いかけに、少し間を空けて、レナの〈カゲボウシ〉は答えた。
『少し、名前が姉に似ていただけだ』
それ以上は、もう今日は何もしゃべってくれなそうなことを、私は何とはなしに察していた。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.40 )
- 日時: 2019/04/16 12:59
- 名前: おまさ (ID: caCkurzS)
裁判が一旦休廷になり、とりあえず緊張感から解放された私は、こちらに近づいてくる足音を鼓膜に捉えた。
「ん?・・・ああ、交代の時間か」
「おうよ、兄弟」
その人物は目の前の見張り番と何やら話し、その後見張り番は居なくなる。見張り交代だろう。
さっきの見張りと交代した男は少し伸びをした後、
「——————さて、お客様。裁判はどうだったよ?」
「!」
その男は裁判の前に私と話していた、日本から来たという男だった。
「私はやってない」
「・・やれやれ、こりゃあ何言っても頑ななパターンだな」
男は息を吐く。
「事実として残ってるもんは、どう足掻いても変えらんねぇ。神様ってのは無慈悲だかんな」
「でも違います。私はやっていない、というか訳が分かりません。どうしてこうなったのか・・・真実は分からないままです」
「真実と事実は違う。アンタが何を正しいと信じてんのか知らねぇが、法廷っつー世界じゃ真実なんか当てにすらならねえ」
冷たい視線と無慈悲な論。それに少し居心地悪さを感じた。
————やっぱり、運命に抗うことは出来ないのか。
運命という激流に呑まれ、いずれはそれに抗わんとする信念すら失ってしまうのだろうか。
「—————それに簡単に屈してしまうなら、そんな小説は売れません」
「・・・何を、」
居心地が悪いのは変わらない。それでも私は一度はそらした視線に強い何かを宿して男の目を見た。
———ヘイズが、〈ホーム〉の皆が私にくれたのは強さだけではなかった。
〈カゲボウシ〉の訓練を通して私は、諦めないことの意義を知った。
運命に抗う姿、結果を目指し臨むそれを愚者ではなく尊い姿だと見ていたヘイズ。
そんな彼女に私は戦闘力とは別の“強さ”を教わったのだ。
———————故に私は悪足掻きを止めない。この身に、魂有らん限り。
「何時如何なる所には活路がある。それを見出し、飛び込むことを私の師は教えてくれました」
「確かに・・・そのお師匠さんの言葉はアンタには万金の価値があるだろう。でも、そんなのはまやかしだ。ただの幻想だ」
男は私の膝をを何度も屈させようと言葉を続ける。それでも私は。
「そうです、幻想です」
「・・・は、ぁ・・・?」
急に肯定した私に男が無理解を突きつける。そこで私は「でも」と続けた。
—————皆にもらったものに報いるんだ。サトウ・レナ。
「幻想を実践する。それが私の『真実』です」
「——————」
「—————私はサトウ・レナ。小説家を目指す、カゲボウシ使いです。・・・・あなたは?」
「・・・・・・俺は、松井康太だ」
コミュ障として割と頑張った一日だった。
********************************************
被告人が出て行った大法廷は静まり返っていた。
そんな静粛の中、裁判官が口を開く。
「・・・これで、よかったのでしょうか、ヘイズ様」
「うむ」
〈カゲノミコ〉ヘイズは答えた。
「こちらこそ、無理を言ってすまんのぅ、法廷を一旦閉めるなぞ言い出して」
「いえ、ヘイズ様のご命令とあらば」
裁判官が息を吐きながらそう言うとヘイズは、
「命令じゃのうて、頼み事じゃ。儂はそんな立場じゃないからの」
「しかし・・・それにしてもあの者は妙でした。〈カゲボウシ〉といい妙な格好といい・・・素性は怪しいほかありません」
「それでも儂は断言する。あの者は無罪じゃ」
「ですが、無罪と断言するには情報が足りない。それに、あの者が無罪だと証明するのは難しいでしょう」
裁判官は、先程までレナがいた証言台を見やりながら言った。
すると。
「———————じゃ、証人がもう一人増えるのはどうかな?」
ヘイズが声に振り替えると一人の人影がドアの前に立っていた。
紫黒の長髪に、何かを企んでいるようにも見える双眸。レナより少し高い身長のその女性の名は。
「ファグ。して、証人とは如何な事じゃ」
「もちろん、完全に目撃してた訳じゃないけどボクが証人だよ。一応、キミを助けた身ではあるからね」
「それは感謝しとるが・・・」
難しい顔をするヘイズに、どこまでも軽薄な態度を貫くファグ。その両者———二人の〈カゲノミコ〉に法廷の中の空気はざわついてきた。
そんな中一人口を開いた者がいた。書記官だ。
「なぜ、この場に『刻眼のミコ』と『狐染のミコ』のお二方が・・・・」
「ま、『狐染』の称号はボクにはちょっともったいない気もするけど・・・ボクだって、彼女を死刑にはしたくない。そんな薄情な女じゃないんだよ、ボクは」
少し軽口を挟み、ファグはヘイズに水を向けた。
「そうだろ、ヘイズ」
「無論じゃ」
「ふふっ。—————じゃ、証言といこうか」
そう言った瞬間、裁判所速記官が筆を構えた。
☆
「さて・・・早速じゃが、証言に入らせてもらおう。・・・・・あれはレナ自身がやったことではない。言うなれば、事故じゃ」
「それは一体・・・」
「————レナの〈カゲボウシ〉が暴走した。そう言いかえても良いぞ」
いった瞬間、法廷のざわめきがより大きくなった。
「〈カゲボウシ〉使いの登録に来ていたのじゃが、登録をせずに〈カゲボウシ〉を使ってしまったのは正当防衛とはいえ失態じゃ。そのことに関しては認める」
「———。では、〈カゲボウシ〉を使わねばならなかった、その時の状況をお聞かせ願います」
「簡単じゃ。強敵がいたからじゃ。おぬしらはそれを『裏切りの影神』と呼んでいる」
途端に法廷に動揺が走った。
「あの『影神』が!?」
「何故奴が・・・ゲファレナーがいるのだ」
そんな声が飛び交う中、動揺を隠せない裁判官は、
「・・・間違い、無いのですか・・・?」
「うむ。しかし吉報じゃ。『影神』は眠った。永遠に。————他でもない、サトウ・レナの手によってな」
「何と・・・!ファグ様はどう思われますか」
「うん、ボクも異論なし。ヘイズの言うとおりだよ」
〈カゲノミコ〉に手出ししようとした時点で有罪に、もっと言えば殺人未遂の容疑もかけられていたレナだが、『影神』を倒したとなればその功績が評価されるかもしれない。
そんな考えをヘイズは持っていたわけだが、そこで法廷の扉がゆっくりと開いた。そこに現れたのは——、
「・・・ペドフィル・・・?」
「!!へ、ヘイズ様ぁぁぁぁ」
そこには、ボロボロの格好をしたペドフィル・ノーランが立っていた。高価そうなスーツはあちこちが破れていて、革靴も泥に汚れ、いかにも逃亡者といった感じだ。恐らく、彼を法廷から連れ去った傭兵を振り切って逃げてきたということだろう。
しかし、そこまでしてペドフィルが法廷に再びやってきたのは何故だ。
「検察官ペドフィル、あなたには法廷から出ていくよう、そう言った筈だが?」
裁判官が重く言うと、法廷の中にいろんな声が微かに聞こえてくる。
「・・・またペドフィルか」
「・・・・ハァ」
呆れや疲れを滲ませる声や溜息、しかしそれにペドフィルは頓着しない。
彼はいったんヘイズの方を見てから、唇を噛みながら裁判長席に向かって、言った。
「————————『影神』の、肉体は完全に、破壊しましたか・・・?」
「・・・・・・・・・なに・・・・・・・?」
「奴の身体は、心臓を潰そうとも、骸が残っている限り再生する!!肉体は・・・うぁぁぁぁぁぁ!?」
誰もが予想だにしていなかった爆弾発言を残し、戻ってきた傭兵に腕を掴まれてペドフィルが退場する。
「・・・なんということじゃ・・・・・!」
あまりの驚きに瞳を揺らし、ヘイズは動揺を隠せない。
—————絶対に野放しにしてはいけない「厄災」が、再び放たれてしまった。
その事実をうまく呑み込めないヘイズの横で、
「—————面白くなってきたね」
と頬を歪めるファグの呟きは、誰も聞き取れなかった。
***************************************
肉体が再構築される。
「————」
千切れた筋は元の位置に戻り、潰えた心の臓と眼球は復元され、ぐちゃぐちゃになった脳も引っこ抜かれた脳髄すらも元に戻る。
切り開かれた腸はつながり、腑の抉られた穴も元通りだ。
そうして「裏切りの神」は、誰もいなくなった建物跡でゆっくりと立ち上がり、修復されたばかりの鋭すぎる牙を鳴らした。
———絶対に赦されない。
奴は、自分に決して赦されないことを犯した。
待っていろ、カゲボウシ使い。
待っていろ、フォスキア。
『殺してやる』
「厄災」は、その場を後にした。
*****
☆お知らせ
どうも、おまさです。
今回は、ストーリーを公開するとともにお知らせをしたいと思います。
それは、「ほのぼの企画」をやろうかと検討している事についてです!
マッシュりゅーむ様にも話は通してあるので、時期は未定ですがそのうち出します。日常系が好きなあなたは楽しみにしていてください。
そんじゃ、またね!
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.41 )
- 日時: 2019/04/17 08:58
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: qto1NLT/)
——数時間後。
牢の中は静寂に包まれていた。
「……」
壁の上の方の、外につながっている鉄格子からは月の光が差している。つまり、夜だ。
「………」
あの見張り番——松井康太と名乗った男との会話の後、特に何もすることが無かったので、ベッドの上で静かに目を閉じている。
「…………」
今日は色々と物事が起こり過ぎた。体もだいぶ疲れている。しかし、どうにも寝付けない。その理由はすでに分かっている。
「……なんで」
そしてその理由が誰もいない空間で口から出る。
なんで。なんで。なんで。
「何でこの部屋には暖房が無いんだよぉ!!?」
静かな空間に自分の声が響く。しかし、話さずにはいられなかった。
「寒いッ、寒すぎんだよこの部屋ぁ!?」
おかげで全く寝れねぇ、と震える身体を抑えながらも愚痴をこぼす。てか、なんかこの感じ既視感あるんですけど!
「というかこんな寒いのに掛け布団がこの薄い布切れ一枚て、布切れ一枚て!!」
大事なことだから二回言いました。
「最、悪」
そう、鼻声になりながらその二文字を言った。——ッくし!
* * *
「では『ゲファレナー』の件は、またこちらから調査するとして、他に何かありますか」
裁判官の冷静な声に、先程の衝撃的事実で動けなかったヘイズも、冷静さを取り戻そうと努める。
「——あ、ああ。あの、〈カゲノミコ〉に怪我をさせた、攻撃したという件についてじゃが、レナは〈カゲボウシ〉を暴走させたとはいえ、儂は別に怪我はおっておらんよ」
書記官がまた証言を描きだすところを横目に移しながら、話を再開させる。
「しかし、恐縮ですがその傷は……」
と、一人疑問を持った者が手を挙げて発言する。何故腹に傷があるのがわかったのか、と不思議に思いながら、視点を下にずらしていって気付いた。今のヘイズの服からは白い帯状の物がはみ出している。結構な傷だったので、包帯を多く巻いたのだ。そりゃ明らかにわかるよな、と、自分の姿などいつも気にしていないヘイズは苦笑を浮かべた。
そして、その疑問に対し、今度はヘイズではなくファグが答える。
「ああ、それはあの憎き『ゲファレナー』が付けた傷だよ。流石の〈カゲノミコ〉様でも避けられなかったんだね」
その、笑いを含んだ声に、むっ、とヘイズが眉にしわを寄せる。おぬしも〈カゲノミコ〉じゃないか、と声をあげる。
「それともなんじゃ、おぬしだったらあの攻撃をよけられたんか」
そう問うと、ファグは首を横に振りながら言った。
「いや、ボクでもアレは無理かな。でもユグルならいけるんじゃないのかい?」
「あー……」
確かにアレならいけるかもしれんな、と、ここにはいない一人の〈カゲノミコ〉を頭の中で想像して、はははは、と笑いあった。
——その、なんやかんやで仲のいい二人を眺めながら、裁判官たちも笑みを浮かべてしまうのであった。
- Re: 【リレー企画】セイテンノカゲボウシ ( No.42 )
- 日時: 2019/04/23 21:23
- 名前: marukun (ID: sbAJLKKg)
場所は戻り、レナのいる牢の中…
自分の呼吸音、自分の動く音、それ以外には何も聞こえない。
これまで生きて来た中でも、こんなに寂しかったのは小さい頃、親が出掛けたのをいなくなったと勘違いした時ぶりだ。
「…ボッチってやっぱり寂し過ぎるっ……」
(基本ここ2年位コミュ症でボッチだったケド…。)
なんか知らんけどフォスキアからの反応がないし。と、言うより…
「自分の〈カゲボウシ〉に頼るって…コミュ症も末期かな…」
なんて呟いていると、ウトウトとまどろんできた。
そのままレナは意識を手放した。
「これより、被告サトウ レナの再審を始める。」
裁判長の声によりまた、裁判が始まった。
再審と言っても簡単なものだった。休廷の間にヘイズが誤解を解いてくれたらしく、そう時間もかからず牢獄と裁判から解放された。今までの裁判は何だったのだろうか、と思ってしまったが心の内にそっとしまっておいた。
- 39話:微笑ミノ裏ニ ( No.43 )
- 日時: 2019/04/29 13:56
- 名前: おまさ (ID: caCkurzS)
1
「・・・・んあ?」
牢の中、僅かに通気口から入ってくる朝の冷たい空気に私は覚醒した。
基本的に暗いので体内時計が狂いそうだが、何となくこちらの世界の朝に慣れていたので起きる事が出来た。
それにしても。
「・・・・暗い」
やはり、ヘイズによって術式が施された眼鏡を掛けないと、とてもじゃないが周りが暗い。
真っ暗な視界の中、手探りと勘で眼鏡を掴み—————あることに気付く。
「あれ・・・?」
この世界に来た時に比べると、少しだけ周りが明るく見える様な気がする。
その事実が「慣れ」なのか「気のせい」なのかは分からないが。
ともあれ。
「・・・あー、さっぶっ・・ほんとに寒い」
毛布一枚で体を覆い、欠伸と混じりながらつぶやく。そういえば、私がこっちに召喚される前、日本では馬鹿みたいに暑かった。なのに、こっちの世界は寒い。
それこそ、地球の南半球と北半球のように四季が逆転しているのだろうか。それとも、ただ単に表の世界と気候のつながりは無いのか、あるいはこの監獄が寒い気候帯に位置しているのか。
「その辺も、あとで聞いてみるか」
独り言もそこそこに、肺腑を刺す冷気に完全に目を覚ました私は、鉄格子の向こうに人影を見た。
人影は、こちらを見て頭を掻く。
「・・・おう、元気か」
「生憎、風邪ひきそうでした」
「ここは三ツ星ホテルじゃねーんだ。ま、ちょっとばかし寒い気もするがな」
松井康太の軽口未満の軽口を聞き(半分聞き流し)ながら体を軽く曲げ伸ばしてストレッチ。そんなことをしているうちに昨日のことを思い出した。
———幻想を、実践する。
———それが私の『真実』です。
何となくこの人の前で「実践するよ」などと言ってしまったが、今振り返れば顔から火が出そうなくらいに恥ずかしい。その話題もお互いに気まずくなるだけだし・・・。
「・・・とんだ黒歴史だったなぁ」
「ん?なんか言ったか」
「いえいえいえ別に別に別に別にそんな・・・ままままままさかまさかまさかまさか」
「そ、うか」
死んだ表情のまま全力で首をぶんぶん振っている私に少し驚きながら、康太は「そーいや」と切り出した。
「きのうアンタ、なんつってたっけ・・・たしか、『幻想をじっs・・」
「ハイストップその先はダメ絶対にダメ頼みますお願いしますやめてくださいほんとに」
「冗談だ」
・・・・・・・心臓に悪い。
「話戻すが、俺ちょっとアンタに用事があって」
「?何の、です」
「まあ、お使いだな、要するに」
お使い?誰のだろう。私は心の中で呟きながら、考えられる要件をまとめていく。
法廷に再び出て再審を重ねるか、それとも・・・面会とか。
「俺は上から、アンタを連れて来いとしか言われてないんだが・・・とりあえず来てくれ」
そう言いながら康太は鍵を開け私に手錠をかけた。
「・・・もうこれ、いらないんじゃないですか」
「一応だ。念のために、な」
苦笑いしながら、相手に真顔で手錠をはめられ、古いエレベーターっぽい物の上に乗った。小さい頃、小学校の社会科見学で似たような業務用のエレベーターに乗ったなぁと呑気なことを考えていると、
「どっかにつかまっとけ。振り落とされるぞ」
「・・・わわあっ!?」
康太がレバーを下げ、途端にエレベーターとは思えない、カタパルトじみた速度で床が動く。私は思わずしゃがみこんで康太の方を見る。彼は何処にもつかまらずに立っていたので少し驚く。
「高校の時、吊革使わずに、峠道を走るバスを三年間毎日使ってたんだよ」
「何やってるんで、きゃっ」
落ちそうになったので少し悲鳴を上げた。
「・・・そろそろ着くな。しっかりつかまっとけ」
「え?」
康太が急に壁の柱に捕まったので慌てて私は手すりに摑まる。————その直後。
がくんっ、と音を立て急停止した。
減速Gが体にかかる。
「・・・な、なんとか生きてた」
「いや、この程度で死ぬなよ」
乗り物酔いの耐性を獲得していないから、私にとっては地獄の時間だった。
ともあれ。
「ほら、着いたぞ。・・・・・いつまでそうしてんだよ」
まだ膝に力が入らず、手すりにつかまったまましゃがみこんでいる私に、康太は手を差し伸べた。
「あ・・ありがとうございます」
手を取り、お礼を言って立ち上がると、康太は「ふん」と鼻を鳴らした。
2
「この部屋だ」
康太に半分押し込まれながら、私はその部屋に入った。窓は無く、盗聴防止のためか木製のドアは厚い。壁も同様に厚く、年季が入っている。
そんな部屋の中に置かれている椅子の上に座り、傍らには康太、といった状況の中、後ろのドアがゆっくりと開く。
「監視員、交代の時間だ」
「へいへい」
軽薄な態度をとる康太と対照的な、厳しいような面構えの監視員が康太と交代。
康太は部屋を出る直前、こちらに少し目配せし、足音が離れていった。表情はよく分からなかったが、別段大した意味もあるまい。私は視線を正面に戻し、椅子に座りなおす。
五分くらいだろうか。しばらく待っていると、監視員が口を開いた。
「面会だ、サトウ・レナ」
「・・・面会」
予想は正しかったらしい。呟くと、監視員が少し顎を引き、壁面にある何らかのボタンを押す————と、目の前にあったはずの壁がなくなり、私の正面に座る人物の姿が露になる。
「・・・ヘイズ」
そう、私は面会に来ていた〈カゲノミコ〉の名を呼んだ。
*
「おぉ、レナ。どうじゃ、調子は」
「、まぁまぁ、かな」
私とヘイズの面会は何となくぎこちないムードで始まった。
確かに、このところ話す話題が無いのは仕方が無いのだが。
「——。それで、裁判の方は?」
「うむ、何とかなってはいるんじゃが・・・。・・・して、レナよ」
「?」
表情を変え、真剣な視線を向けてくるヘイズに私も自然に背筋が伸びた。ガラスか何かで遮られているのだろうか、微妙にこもる声で続ける。
「覚えておらんじゃろうが、おぬしは〈カゲボウシ〉を暴走させてしまったらしいの。・・・儂との訓練の意味がなかったの」
「っ、ご、ごめん」
厳密には、わざとフォスキアを暴走させたに近いし、一応自意識をフォスキアに委ねる直前までの記憶はあるのだが。
「とにかく・・・おぬしは『裏切りの影神』——ゲファレナーと戦い、ひとまず勝利した。
じゃが、事はそう上手くは進まんらしい。—————ゲファレナーは、まだ死んではおらん」
残念そうに少し俯くヘイズに私は自然に、
「・・・・ごめん」
「何故おぬしが謝る謂れがある。儂があやつを倒しきれなかった。その失態が、結果としておぬしの身をこの監獄に閉じ込めているのじゃからして」
違う。そうじゃない。それは私の責任なのだ。ヘイズが必死に私に教えたことを、何の躊躇もなく破り。
制御が利かなくなる。その危険性を分かっていながらも簡単にフォスキアに身を任せ。
———何が、幻想だ。真実だ。————心底、反吐が出る。
そんな自己嫌悪に陥る私の心情を見抜いたらしい。年相応らしからぬ目で私を見て、〈カゲノミコ〉は嘆息する。
「そこまで自分を責めるな、レナ」
「————っ」
「それに・・・レナの〈カゲボウシ〉、それをもう少し信頼してもいいのと違うか」
それ以上は無理だった。どこに流していいのか、溜まっていた感情が決壊し、それが私の目から、口から、涙と情けない詞となって零れ落ちる。
「———。」
静かな部屋、その中から流れてくる『召喚者』の涙声を。
————目を閉じて、壁に寄り掛かっている『狐染のミコ』は微笑みながら。
その微笑みの裏に、何かを込めて。
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