複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.91 )
- 日時: 2019/09/27 21:04
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
サトゥルヌスはその名前を聞いて肯定するように頷く。
悠樹と翔太、詩織や陽介、風奏はその名を聞いて「えぇ!?」という声を上げた。玲司はそれに対し「喚くな」と鋭く言う。
「彼は……かなり特殊というか……。こちらとも、幻想世界とも違う世界から来たそうなのですが、詳細は不明でして。8年前に突如現れ、人間という立場でありながら、アポロンに幻想世界と現実世界を繋げる方法を伝え、「ビッグクランチ計画」を提案したのです」
「こっちともあっちとも違う世界……?」
翔太は現実味のない話に頭を抱えて顔を机に突っ伏した。その様子に苦笑いしつつも、悠樹はサトゥルヌスに尋ねる。
「つまり、渚は異世界人?」
「そういうことになります。……幻想世界という世界が存在するのですから、別の世界もあって不思議はありませんよ」
「十分不思議すぎるわよ……頭痛くなってきた」
時恵も翔太と同じように頭を抱えて顔を机に突っ伏す。二人の様子に陽介は呆れたように笑った。悠樹はまた尋ねる。
「渚がなんでアポロンにそんな計画を持ち掛けたんだろう?」
「そこまでは……ですが、理由はあってないようなもの。ヒトは皆、理由のない殺戮を無自覚で行っています。「上に言われたから」「憂さ晴らし」「誰かを守るため」……理由はなんだって構わない。しかしヒトは一度きりの一生のうちに必ず争い、何かを犠牲にするのです。それは我々とて同じこと。「他者」を傷つける事に理由など存在するようで皆無なのです」
「一体何が言いたいんだ?」
慧一はサトゥルヌスの意図がわからず首を傾げて腕を組んだ。
「彼にとって、現実世界と幻想世界を繋げるというのは、ただの「暇つぶし」だという事になります」
「——「暇つぶし」ですって!?」
知優は突然大声を上げて立ち上がり、バンッと机を叩いて大きな音を立てる。
「その「暇つぶし」とやらで多くの人間が犠牲になってるのよ!?」
「お、落ち着いてください遠藤先輩!」
「そうッスよ、サトゥルヌスを責めたって何もならないっしょ!」
詩織と翔太が興奮している知優を窘めて座らせる。知優はまだ落ち着いていないようで、両手を組んで俯いた。その様子を見ていた玲司が溜息をついて皆を見回した。
「あと、俺からも皆に話していなかったことを今伝えておく。俺はな——」
玲司はパイプ椅子を引いて座り、手を組んで机の上に乗せる。
「俺はな、もう何十回も同じ時間を繰り返している」
しばらくの沈黙の後、悠樹、サトゥルヌスを除く皆は「えぇぇぇーーーっ!!?」という大声を上げて、目を見開いて玲司を指さしてみたり、椅子から転げ落ちたり、頬を両手で当ててみせたりと各々様々な反応を見せた。
「喚くな」
「いや、そりゃ喚いたりしちゃいますよ先輩……えぇー、これ……えぇ……」
翔太がどう反応すればいいかわからず、周りを見回したり口元に手を当てたりしていた。だが、玲司は皆の様子に「フン」と鼻を鳴らす。
「それは皆も同じことだ。ただ、記憶が消されているだけでな」
「記憶が消されている……?」
慧一は首を傾げる。
「ああ。……これは「奴」の用意したゲームで、俺達はまさにゲーム盤に立たされているわけだ」
「え、えぇ!?」
陽介は昨日自分が言った言葉を思い出して慌てて口を手で覆う。
「あ、あなた、なんでそれをもっと早く言わないの!?」
「俺も、記憶があやふやでな……ところどころ抜け落ちていた。それに、下準備に手間取ってなかなか伝えられなかったのだ」
「下準備?」
知優は玲司の言葉を繰り返す。玲司は頷いて腕を組んだ。
「今度こそゲームクリアするための下準備だ。まずお前たちと合流する、断片的な記憶を探って奴らの裏をかく、サトゥルヌスを探す、指導者の正体を突き止める……色々してきたな」
「ちなみに、その「奴」って一体誰なんですか?」
詩織がそう尋ねると、玲司は首を振った。
「俺の口からは言えない。それはおろか、それに関する言葉も俺は口にすることができない」
「ど、どういうことなのよ?」
「言葉の通りだ。俺が奴から与えられたのは、「ゲームを円滑に進めるための補佐役」という役割のみ。勝敗は「新名悠樹」が奴の名前を言った上で、奴の問いに答えられるか否かで決する。だが、奴の名前や答えを、俺は教えたり伝えることができない。それに記憶も奪われ続け、伝えるべきことも今や抜け落ちている」
玲司は悔しそうに歯を食いしばっている。悠樹はあらかじめ話を聞いていたのか、彼の話を肯定するように頷いていた。慧一は頭を抱えながら玲司を見る。
「勝敗つってたよな、負けたらどんなペナルティが課せられる?」
「敗北するたびに、今年の4月8日の入学式の前日まで時間が巻き戻る。そして、俺の記憶が一つずつ消されていく」
「……なっほど」
慧一は頷いた。悠樹と対面した時、「新名悠樹」の名を聞いて顔をまじまじと見ていたのは、名前だけは憶えていたが、顔を忘れてしまっていたためだろう。それに、彼の戦闘経験は何十回も同じ戦闘を繰り返していたため、身体がそれを覚えてしまっていた……という可能性が高い。何十回も同じ時間を繰り返して、そのたびに自分の記憶が消えていく苦しみは、計り知れない。
「でもようやくわかったわ。……何度か経験したような気がしてたり、皆と初めて会った気がしないのは、何度も同じ経験をしてるからだったのね」
時恵は頷いて納得したように清々しい表情を見せる。
「時恵ちゃんもそうだったのね、私も同じこと思ってたよ」
「うーん、俺も薄々だったけど……」
皆は口々に自身が薄々感じていたことを口にする。記憶は消されていようが、身体が自然と覚えているものだ。……だが、「そんな気がする」だけだ。……玲司はそう感じながら、溜息をつく。
「で、今後の方針だが……」
玲司は皆が口々に話している最中、話を切り替える。翔太は「マイペースな人だなぁ」と半目で彼を見ていたが、首を振って話を聞く体制なった。
「まずは指導者を倒す。そして、この下らんゲームを早々に終わらせる。……これでいいな」
「異議なし!」
風奏は笑顔で手を上げて力強く言った。
悠樹も頷いてスマホを取り出した。
「よし、皆に伝えないと——」
「その必要はないよ」
突如その声がその場に響き渡るとともに、床がぐにゃりと歪む……いや、空間自体が歪むような感覚と床がぬかるんで皆は声を上げた。悠樹は「皆!」と叫ぶが空間が黒に溶け始め、床が、壁や机や椅子や皆が……視界が黒く染まっていった。そして落ちるような浮遊感と共に、皆が声を上げて黒い空間へと放り出された。
「舞台は整った。すべてが一つになる……」
この物語は、輝きを忘れない少年少女たちが織り成す、煌めきと幻想の叙事詩。
幻想はいつか現実になる。
to be continued...
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.92 )
- 日時: 2019/09/29 08:26
- 名前: ピノ (ID: I.inwBVK)
第八章 永劫の螺旋
悠樹が目を開けると、そこは草原が広がっていた。どこまでも続く緑の絨毯、そして程よい風が頬を撫で、青い空と太陽の光が見下ろしている。周りを見回すと、すぐ近くに詩織が倒れていた。制服ではなく、夢幻武装を纏っている。ここは幻想世界なのだろう。そう思いながらも、まずは彼女の安否を確認すべきだ。悠樹は詩織に近づいて揺さぶる。
「おい、詩織! 大丈夫か?」
「……うぅ」
詩織は悠樹に揺さぶられるとうめき声をあげた……その後
「ゆうきくん、ほっぺにごはんつぶついてるぅ」
と幸せそうな顔で寝言をつぶやいていた。……とりあえず無事のようだ。
「詩織、起きろって詩織」
「ん〜……? あ、悠樹くん、おはよう」
「おはようじゃなくって……はあ、もういいよ」
呑気に起き上がる詩織に、悠樹はため息をついて改めて周りを見まわす。そういえば、突然落ちるように黒に呑み込まれた後、この場所にやってきたみたいだが……それに、何か声も聞こえた気がする。たしか……「舞台は整った。すべてが一つになる……」だったような。声は高くもなく低くもなかったが、どこかで聞いたことのある声だったと記憶している。そう考えながら草原の向こう側を見た。
「悠樹くん、後ろ」
「え?」
詩織に言われて後ろを振り返ると、仰向けになって草の絨毯の上で寝転んでいる愛実の姿があった。悠樹と詩織の視線に気が付くと、愛実は「おいーっす」と右手を上げ、その場を飛んで立ち上がった。
「か、母さん、なんでこんなところに……」
「私はナイトメアみたいなもんだし、幻想世界ならいつでもどこでもどこまでも神出鬼没。それより若い男女が二人っきりって……ナニしようとしてんのゆ〜き♪」
「え?」
愛実がニヤニヤした表情で悠樹を見ていると、悠樹と詩織がぽかんとした表情で立っている。その様子に「あ、違うのか残念」とがっかりして肩を落とした。その後、思い出したかのように手を叩いて愛実は遠くの方を指す。
「ところで悠樹、急いでシドーシャを見つけて止めないとヤバいわよ」
「え、それってどういう!?」
「さっきなんか白い髪のかわいい感じの男の子が、君らを幻想世界に引き込んだから、こりゃ大変だと思って悠樹の下にきたけど、そろそろあいつら変な事し始めようとしてる」
「変な事?」
詩織が首を傾げると、愛実の頭上にいるサリエルが代わりに答えた。
「計画の実行だ。……お前たちの仲間の命を贄にしてな」
「えぇ!?」
二人はサリエルの言葉に驚いて冷や汗をかく。
「そ、そ、それじゃ早く行かなきゃ!」
「まあ待て、急げとは言ったけど、とりあえず落ち着きたまえ二人とも」
「いや、落ち着いてる場合じゃないだろ!」
「待て待て、急いでる時こそ冷静にならなきゃ、正しい判断なんかできないよ〜?」
愛実は二人の肩を両手で叩いて窘める。緊急事態だからこそ冷静になって物事を判断しなければ、さらに甚大な被害を被ることになる。と、愛実はそう言うと笑顔を見せた。
「まあ、外にいる君らのお友達ちゃん君たちも、君らの事に気が付いて動き始めてるみたいだし、焦らず行きましょうよ♪」
「で、でもみんなが……」
「うん、わかってる。でもね、まだ奴らに捕まってないみたいだから、大丈夫。信じようよ」
「え、捕まってないとかわかるんですか?」
詩織は愛実に尋ねると、愛実は「ふっふーん」とどや顔を見せてサリエルを見上げた。
「サリーちゃん、皆がどこにいるかわかる?」
「少し待て。この幻想世界は複雑な構造になっている、すぐには探知できん」
「だって。お茶でも飲んでゆっくり待とうか」
愛実はそう言うと、後ろの方を指さす。そこにはいつの間にか、ちゃぶ台とそれを囲うように座布団三枚が置いてあり、ちゃぶ台の上には三つ、茶の入った湯飲みが用意されていた。
「え、い、いつの間に……?」
「幻想世界でそんなこと気にするな、御茶菓子あげないよ」
愛実はそう言うと、ちゃぶ台に近づいて二人を手招きすると、自分は先に座布団に座って湯飲みを手に取った。
二人も顔を見合わせるが、もう何を言っても無駄な気がするので、招かれるようにちゃぶ台に近づいて座布団に座り、湯飲みを手に取って茶を啜った。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.93 )
- 日時: 2019/09/29 20:42
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
一方、悠樹達が幻想世界に引き込まれた後の星生学園……いや、黄昏時の望月市では、事件が起きていた。
そこら中から空間の裂け目が現れ始め、そこから怪物たち——ナイトメアが飛び出して人々を襲っているのである。だが、その規模は望月市内でのみであり、他の街ではそのような現象は見られなかった。
そして、少数ではあるが夢幻奏者である者たちは、望月市内に入った途端に変身し、戸惑いつつも市内で襲われている人々の救助を行っていた。
この事件は上空のヘリコプターからや、市内の外側からカメラに収められて大きく報道されている。
「もう、いきなり何なのよ全く! ……もしかして知優達……なわけないか、ないよね、うん!」
空音は夢幻武装を纏い、ナイトメアを倒していっている。最悪の状況を想像しながらも、首を振って否定した。
彼女の夢幻武装は髪がまるで星空を映しているような美しい闇の色で長くふわふわと浮いている。赤い瞳を持ち、白い白衣を纏い、中は白いYシャツとカーキのワイドパンツと、少しラフな服装だ。手には銀色に鈍く輝く一対のチャクラム。それをブーメランのように投げては手に取り、時には武器を利用した剣舞で翻弄しつつナイトメア達を一層していく。
人々が怯えたような目を向けてくるが、気にしている場合ではなかった。
街はナイトメアの襲撃により、血と土埃の臭いが充満し、まるで災害によって崩れてしまったような建物、地面に広がっているクレーター……1時間くらい前までの平和な街並みが懐かしく感じる。
「まさか、敵の狙いがこの街に収束している「龍脈」だったなんて……昨日までの私をぶん殴ってやりたい気分だわ」
空音は頭を抱え、次々に襲い掛かるナイトメア達の襲撃で負傷しながらも、チャクラムで確実に仕留めていく。だが、如何せん数が多い。一人で相手するには限界が近づいていた。
そして疲労がきていたのか、眩暈が襲い、ふらついてしまう。
「しまっ——!」
その隙をついたローブを纏ったナイトメアが、巨大な鎌を振り上げて空音の首を切り落とそうと迫っていた。
しかし、空音は拳を握り締め、小声でつぶやく。
「……今此処にて語るは断裂の結末」
右目を右手で覆い、強く口にした。
「確立は反転する。逆転せよ」
その瞬間、目の前に迫っていたナイトメアは二つに割れる。その後、黒い煙を発しながら消滅した。
空音はその様子を見てふうっと大きな安堵の息を吐く。それと同時にその場に崩れ落ちてへたり込んだ。周りにナイトメアがいないことを確認すると、両腕を地につけて上を見上げた。
「咄嗟の判断だったけど、何とかなってよかったわ……」
そうつぶやいた後、周りを見る。
突然襲ってきたナイトメアから逃げることも叶わず、無残に殺された人々の姿が目に入った。
「……急がなきゃ」
空音はそうつぶやいて立ち上がる。
「「あの人」の元に行かないと……!」
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.94 )
- 日時: 2019/09/30 20:24
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
空音はある場所へと訪れた。
そこは望月市の中にある雑木林で、その中に佇む古ぼけてはいるが、手入れされていて掃除も行き届いている神社だった。神社の鳥居の前には狛犬の代わりに狐の像が二つ、参拝者を出迎えるように置いてある。鳥居をくぐると、拝殿が見える。その前には人だかりができていた。年齢は老若男女問わずであるが、よく見ると怪我をしていたり、表情に疲れが見え隠れしている。
空音は近づくと、一人の青年がこちらを見て「化け物!」と叫ぶ。その声に反応して、皆がこちらに注目した。総じて怯えた視線、恐怖におののいた表情をこちらに向け、ざわざわと騒ぎ始める。当然だ、今の自身の姿は異形の存在そのものなのだから。だが、空音は冷静になり、一番近くにいる少女に声をかける。しゃがんで目線を合わせて、怖がらせないように優しい表情と声音で尋ねた。
「ごめんね、怖がらせて。……この神社にいる巫女さんはどこにいるか知ってるかな?」
「え、えっと、ね……、奥にいるよ」
少女は戸惑いながらも奥の方を指さした。空音はそれを聞いて「ありがとう」と一言いうと、言われた通りに奥の方へ歩いた。奥の方には人が入り込んでいないのか、人の気配はない。
奥にある本殿へ近づくと、一人の少女が立っていた。髪は月白色のおかっぱ頭、青く澄んだ瞳、白いカチューシャをつけている。白装束を着こみ、赤い袴を履く巫女のような姿の背の低く幼い少女。少女は空音に気が付くと、笑顔で手を振った。
「空音ちゃん!」
空音も彼女を見て笑顔になった。
「くうちゃん、良かった無事で……」
「ううん、こっちのセリフですよ。避難してきた人の中に遠藤家の皆さんはおろか、分家の皆さんが見当たらなかったし、本当に心配していたんですよ……」
少女——「山恒空子」は心底不安そうな表情で空音を見上げていた。
「ごめんね、心配かけちゃって……それより、ここの「龍脈」は大丈夫なの?」
「はい。私が守ってますからご心配なく! それに「龍脈」のおかげでこの神社一帯はナイトメアの侵入を防ぐことはできています」
空子は空音に心配かけまいと笑顔を見せていた。
「龍脈」とは、大地に流れる太い「気」の流れで、星の生命全てを司る「生命エネルギー」が常に大地の奥底で流れており、いわば「星の血管」とも呼べるモノの事だ。その龍脈が集結し、吹き出す場所——「龍穴」の位置を特定し、その莫大なエネルギーの恩恵に与ることで各地域の繁栄が約束される。その存在自体は、遠藤家とその分家、特定少数の人物ぐらいしか認知されていない。
この神社の本殿にはその龍穴自体を祀り、それを守っているのが巫女である空子である。この地域の龍穴を守り、悪夢や悪意から人々を守る事が彼女の役目である。
「ですが、今はまだ……です。いずれアポロンの手によって幻想と現実が一つとなり、この一帯もナイトメアの侵入を許してしまう事でしょう。そうなれば、避難している方々も無事ではいられなくなります」
「まだ避難の受け入れはできる?」
「ええ、小さい神社ではありますが、敷地は東京ドームに負けませんよ! ……見栄ですけど」
空子は「あはは」と恥ずかしそうに笑うが、すぐに顔を強張らせた。
「空音ちゃん、外の状況はどうなってる?」
「幻想世界と現実世界が混ざり合ってきたのか、ファンタジーチックな建造物とか、草木まで生えてきてるわ。時間の問題でしょうね」
「そうですか……。ところで、知優ちゃんは?」
「あっちに引きずり込まれた」
空音の言葉に空子は飛び上がって驚いた。
「え、えぇ!? じゃ、じゃあ贄に選ばれたのって——」
「知優とその仲間たち。……あの子らなら大丈夫だとは思うけど、うっかりやられた時には……」
「「天王様」が信じた世界は跡形もなく消えてしまうでしょうね」
しばしの沈黙が流れる。
だが、空子は首を振った。
「今は信じる他ないですね。……私たちもこちらでできることはすべてやり切りましょう」
「そ、そうね。まだ何も終わっちゃいないし、始まってすらないものね」
空音は慌てた様子で頷く。
「じゃあくうちゃんはここで避難の受け入れと龍脈を守るのをお願い。私は戻って色々調べてくるわ」
「あ、待ってください」
空子はそう言うと、空音の腕を両手でつかんで瞳を閉じる。すると、青白い光が二人をやさしく包み、空音が負っていた傷がみるみる塞がっていった。光が消えると彼女は怪我一つなく、疲労感も嘘のように消え失せていた。
「お、おお!? すごい、さっきまでの疲れとかがなくなってる!」
「じゃ、いってらっしゃい。怪我したり危なくなったら戻ってきてくださいね」
「ありがとう、くうちゃん。 頑張ってくるわね!」
空音はそう言うと、踵を返して神社の外へと走り去っていった。それを見送る空子は空を見上げる。
「知優ちゃん……」
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.95 )
- 日時: 2019/10/02 19:35
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
空音が神社から出ると、二人の人影がナイトメアに襲われていた。
少し離れていたため、武器を手に走って近づくと、ちょうどナイトメアは倒され、黒い靄を発しながら消滅していた。空音は他に敵がいないか周りを見る。いなさそうだ。
「大丈夫? お二人さん」
空音は二人に尋ねると、二人の内少女の方は空音に向かって頭を下げた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
もう一人の少年は不愛想にそっぽを向いている。
少年の方は、白く長い髪を後ろにまとめて結い、瞳は鮮血のように真っ赤だ。服装は指揮者のようである。
少女の方は、少年と同じく白く長い髪にウェーブがかかっている。そして瞳はエメラルドグリーン。服装はなんとなく聖騎士を思わせるものだ。
二人はなんとなく似ているため、恐らく兄妹なのだろう。空音は名前を尋ねることにした。
「お二人、名前は?」
「……聞いてどうするんだよ」
「もう、兄さんったら……ごめんなさい。ちょっと突然の事で気が動転してるんです。……私は「天津音雪奈」。こちらは兄の「天津音透」。このような格好ですが、星生学園の生徒なんですよ」
雪奈は明るく自己紹介をしながら空音をじっと見ていた。
「えっと、そちらは?」
「あ、私は「星野空音」。生存者を助けて避難させようとしてるんだけど……」
空音は周りを見ながら自分の目的を話すと、透は肩をすくめて溜息をついていた。
「いや、この辺の生存者は皆死んだ。奴らに襲われてな」
「……もう少し早く状況を把握していれば、こんな事には……」
雪奈は俯いて沈み込む。しかし、空音は首を振って雪奈の肩を掴んで笑顔を見せた。
「ううん、助けようとしてくれたことに変わりはないわ。ありがとう」
「い、いえ! それよりも、他にも生存者は必ずいるはずです。助けに向かわないといけません!」
「二人、武器の振り方がぎこちないけど、夢幻奏者にはいつから?」
空音がそう聞くと、雪奈は頷いて答えた。
「ほんの最近です。確か5月あたりですね」
「5月か……てことは、「あの」天津音兄妹さんの二人ってことか」
空音の言葉に透は興味を示し、顔を上げた。
「俺たちの事を知ってるのか?」
「そりゃもちのろん。知優って人いたでしょ、あの子から聞いたのよ」
「そうか」とつぶやき、再び俯いて腕を組む透。雪奈はその様子を見て「本当に不愛想ですみません」と困ったように笑いながら空音に頭を下げた。
空音はその様子に「ははは」と笑いながら、ふと真顔になって空を見上げ、何かを閃いたように手を叩いて二人を見る。
「ねえ、ここらでちょっと協力しないかしら?」
「協力?」
「ええ、お互い生き残れるように3人で協力しながら生存者を助けて避難させるの。単純でしょ」
「……そりゃ、まあ……」
透は困ったように雪奈を見て助けを求める。雪奈はその様子に助け舟を出すように空音の話に頷いた。
「いいですよ。この状況での単独行動は得策ではありませんからね」
「よし、決まり。じゃあ早速行きましょう」
「えっと……どこへ?」
透は周りを見回す。瓦礫だらけで進める場所なんて限られている。と言いたげだ。
「うん、一応アイテムはあるから、私に任せなよ」
空音はそう言うと、白衣の中に手を突っ込んで何かを探している。その様子に透は「猫型ロボットみたいだな」と真顔でつぶやいた。
彼女が取り出したのは一つのタブレットだった。そして口元に指を寄せ「うーん」と唸ると、タブレットをいじり出して、その後瓦礫が比較的少なさそうな場所を指さした。
「あっちの方に生存者がいる。夢幻奏者と一緒だわ」
「そんなことまでわかるのか?」
「うん、アプリのおかげでね。まあそんなことはどうだっていいや、すぐにいこう」
空音はそう言った後、宙に浮かび上がって指を差した場所を目指して飛んでいく。透は現実感のない光景に呆れていいやら驚いていいやらわからないが、彼女を見失わないようにに走り出した。雪奈も慌てて二人についていく。
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