複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.7 )
- 日時: 2019/07/31 12:56
- 名前: ピノ (ID: C6aJsCIT)
悠樹と詩織は襲い掛かるナイトメア達を蹴散らしつつ、前へと進む。幸いさほど強いわけでもないが、二人で協力しながらナイトメアを倒している。倒れたナイトメアは黒い煙を発しながら消えていく。こうしてみるとまるで夢の中にいるような気分なんだが、ナイトメアから受けた傷が痛み、そこから鮮血が流れてくるため、夢でなく現実であると嫌でも痛感する。
襲ってくるナイトメアの種類は、最初に見た羽の生えた悪魔のようなナイトメアと、赤い剣を携えた骸骨のナイトメアの二種類。骸骨の方は表情や動きが読めず、気配や殺気すらないが、動きが単調なため扱いやすいが、問題は悪魔の方だ。空中からの奇襲、そして気迫……どれをとっても一筋縄ではいかない。
二人は互いの背中を預けながら、迫りくるナイトメア達を倒していった。
そうしているうちに、ナイトメアの大群を切り伏せながらこちらへ向かってくる何かがいることに気が付いた。大鎌を力任せに、そして豪快に振り回しナイトメアを吹き飛ばす黒い何かと、馬上から剣で切り伏せ、勢いに任せて蹴散らしていく剣士の二人だ。
詩織はその姿を見て表情に明るみが出た。
「「遠藤」先輩! それに「市嶋」先輩!」
詩織は手を振って二人を呼びかける。
「あ〜ららしおりん! ご部沙汰〜、無事してた?」
大鎌を担ぐ黒いフードを被った青年が、詩織に気が付いて気の抜けた声と表情で詩織に向かって手を振る。その隙をついて迫りくるナイトメアを、振り返らずに首根っこに鎌の刃をひっかけ、そのまま首を切り落としながら。
悠樹はそれを見て、「すごい」と感心する。その姿はまさに死神だ。
「葉月さん! ……もう、心配したのよ。突然飛び出したりするんだから!」
もう一人の騎乗した剣士の女性は、剣でナイトメア達を切り伏せていく。隙を全く見せないその姿は、まるで小説などに登場する騎士のようだ。
二人が悠樹と詩織の目の前まで来ると、その姿がやっとはっきりと見える。
暗い茶髪の前髪で左目を隠し、黒いフードがついたコートを着こなし、上半身のコートから筋肉質の体が覗いている、とても前衛的な姿だ。茶色の瞳は勇ましい視線である。肩には自身の身長より大きな、鋼色の大鎌。これを振り回すにはかなりの筋力がいるだろう。そしてなにより身長は、この中で一番高く、悠樹が見上げるほど。
そしてもう一人の女性は紫色の髪が長く靡き、毛先は薄く黒くなっている。紫のマントの下に赤いセーラーコート、スパッツの上に紫のガーターベルトと同色のロングブーツ。身長は詩織より若干高いといったところか。
「あ、あの、あなた方は?」
悠樹は少し警戒しながら二人に尋ねると、二人はにこりと笑う。
「安心して、敵じゃないわ」
女性がそういうと、手に胸を当てて悠樹に微笑みかける。
「私は「遠藤知優」。星生学園の生徒副会長よ」
確かに、姿こそ違えど、顔はよく生徒集会でよく見るあの有名人、「遠藤知優」のものだ。
「俺は「市島慧一」。んまあ、こっちのちーちゃんの補佐ってとこかな」
慧一はにっこりと笑いながら知優を指さす。
「ちょっと、「ちーちゃん」はやめてって何度も言ってるじゃない!」
「えー、いいじゃんかわいいんだしさ〜」
知優は不機嫌に口を尖らせるが、首をかしげながら頭をぼりぼりと掻く慧一。
「…って、そんなこと話してる場合じゃないわ。二人とも、早くここを出ましょう。危ないわ」
知優は奥の、自分たちが通った道を指さす。その先には、光が漏れている穴があった。それは先ほどまで気が付かなかったが、それを遮る障害物がない今、見えるようになったのだろう。
「先輩、ありがとうございます!」
詩織がそういうと、慧一はがっはっはと豪快に笑った。
「かわいい後輩のためだもん、これくらい朝飯前ってやつよ!」
悠樹と詩織は二人に案内されるまま、その場を離れた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.8 )
- 日時: 2019/08/07 22:07
- 名前: ピノ (ID: BEAHxYpG)
一行は知優と慧一に連れられ、とりあえず「外」へ繋がる穴の前へと案内された。穴は外からの光がまぶしく光っている。……たしかここへ来る前は夕方だった気がするが。
「これが外への出口よ、葉月さん、それから新名君」
「あれ、なんで俺の名前を?」
悠樹は自分の名前を当てられ、少し驚く。自分の記憶では生徒副会長としっかり話をしたことがないはずなのだが……。
「葉月さんから聞いたのよ。「ちょっと情けない感じの平凡顔」の男の子だって」
知優はけらけらと笑いながら葉月を指し示す。悠樹は「いや、間違ってないけど……」と落胆しながら肩を落とす。詩織はその様子にあははと慌てふためきながら苦笑いしていた。悪気はないようだからよしとしておこう。悠樹はそう思った。
「新名君、突然の事で混乱しているようだけど、そんな状況の中、葉月さんを助けてくれてありがとう」
「い、いえ。それよりも、一体何が起こってるんですか? 突然黒い影に襲われたと思ったら、あんな場所に……いろいろありすぎて訳わからないですよ」
悠樹は先ほどより冷静になり、溜息をつきながら弁明を求めている。そりゃそうだ、何から何まで急展開すぎて混乱してしまう。あのナイトメアと呼ばれる化け物は何なのか、そして化け物に対抗するこの力は一体何なのか? 一気にごたごたが起きすぎてよくわからないでいる。
「いや、気持ちはわかる。俺もそうだった」
慧一は腕を組みながらうんうんと頷く。
「え、それってどういう……?」
「いや、長くなるけど、俺もニーナ君みたいな状況に陥っててな。マジであの時は死ぬかと思ってたわー。生きてるって素晴らしいよな。ニーナ君も生きててよかったな!」
慧一はそう言い切ると、がっはっはと大笑いしながら悠樹の肩をバンバンと力強く叩いた。悠樹は叩かれるたびに「ぐぇ」とカエルが押しつぶされるような声を上げる。ものすごい力だ。
「え、あ、まあ……げほっ……そりゃあ生きててよかったかもしれませんけど……」
咳き込みながら返事をすると、知優が外へと指をさす。
「それより今はここを脱出しましょう。話はそれからでも遅くないでしょう?」
「ん、そうだな。ニーナ君、忘れ物はないか?」
慧一の質問に、思わず悠樹は身支度を整えようと周りを見回す。
「いえ、とくには…………って、どういう質問なんですかそれ!?」
「もう、市嶋先輩! あんまり悠樹くんをからかわないでください!」
悠樹のツッコミと詩織のふくれっ面に慧一はわざとらしく困り顔をした。
「ちぇー。ちーちゃん、しおりんに怒られちったよ」
「馬鹿なこと言ってないで、早くここから出るわよ!」
知優に叱られながら、慧一は「へいへーい」と返事をしながら、それについていくように悠樹と詩織も出口へと進んだ。
翌日の放課後。知優に呼ばれていた悠樹は、案内されるがままにある部室へと足を運んだ。教室の引き戸には「心霊研究部」の張り紙が張られていた。
「心霊研究部」といえば、学園内でも部員を募集しておらず、しかも活動目的も内容も部員と生徒会以外知らないという謎めいた部活だ。ここに呼び出されるとは、一体……などと考えながらも、深呼吸をして引き戸を開く。
「失礼します」
悠樹はそう言いながら部室を見る。
部室は狭い物置のような場所で、本棚が並び、その中に書類をはさんだファイルやら本などがみっちりと詰め込まれている。そして窓際には事務机が二つ並び、一つにはデスクトップパソコン、もう一つには慧一がどっかりと座っている。中心には長机が二つ並び、バッグが置かれている。パイプ椅子が四つあり、そのうちの二つに知優と詩織が座って、部室に入ってきた悠樹を見る。
そういえば知優と慧一は指定の学生服を着ているが、昨日のあの姿とは一変して、知優は白いカチューシャをつけ、整ったセミロングの桔梗色の髪が艶もあって綺麗だ。慧一は昨日とは一変して短髪の少し無造作に乱れている茶髪が特徴的だ。
そんな二人の様子をまじまじと見る悠樹に対し、知優が口を開く。
「来てくれてありがとう、新名君」
「おお、きたなニーナ君。昨日から何か体調とか変わりないか?」
知優と慧一が出迎え、悠樹は頷いた。いろいろありすぎて混乱はしていたが、今日一日で整理できた……と思う。
「はい、おかげさまで。昨日はありがとうございました。詩織も」
悠樹は礼を言うと、軽くお辞儀をする。「律儀だなぁ」と慧一が笑った。
「大したことはしてないんだけどね。葉月さんが一番傍にいてくれたんだもの。ね、葉月さん」
「あ、べ、別に私もそこまでの事はやってたわけじゃあ……でも無事でよかったね悠樹くん!」
知優に名前を呼ばれ、詩織は慌てて手を振って否定しながらも、「えへへ」と顔を赤らめながら綻ばせていた。
「……ところで、昨日のアレは一体何だったんですか? 骨が動いたり、羽の生えた怪物が襲ってきたり。今でも夢だったんじゃないかって思えます」
悠樹は腕を組みながら昨日の出来事を思い出す。
殺気立てながら襲ってくる化け物達、襲われた直後に包まれた光やあの力、そして暗闇に閉ざされていたあの場所……一体何なのか。
「それに、皆コスプレみたいな変な格好してましたよね。俺も含めて」
皆はそれを聞くと各々顔を赤らめたり、腕を組んでふうっと溜息をついたりする。
「変な格好……間違ってはいないけど……面と向かって言われると結構傷つくわね」
「え゛っ!? あ、すみません」
知優の言葉に思わず慌てて謝る悠樹。しかし知優はふうっと息を吐いて、フフッと笑う。
「いいのよ、実際変な格好だし。とくに、市嶋君は半裸だし」
「ちょ、ひどくない!? いや、あれ正装だから!」
知優の言葉に異議を申してる慧一。しかし、詩織も知優の言葉にうんうんと頷いた。
「でも、結構前衛的ファッションなのに、守りが硬いのはすごいですよね。……半裸なのに」
「しおりんまで!? ……それ以上いじめると、俺泣いちゃうからな!」
慧一はそう叫ぶと半泣きでその場で体育座りをして顔を伏せて隠す。その様子を見て、こほんと咳払いしながら知優は悠樹を見た。
「昨日のあの世界は、「幻想世界」と呼ばれる、世界の裏側とも呼べる、人々の願いや妄想が具現化した世界よ」
知優の話はこうだ。
「幻想世界」は、この世界とは違う異世界で、「ナイトメア」達が人間に憑りつくと同時に領域が生まれ、一定範囲内に足を踏み入れると幻想世界に引き込まれてしまう。取り憑かれた人の幻想世界は、その人にとって夢から醒めたくないと錯覚させる、とても居心地がいい場所となる、所謂「妄想が具現化する世界」で、色々あべこべになっている。放置すれば彼らに夢を食われ、やがてその夢を見ている人間は死に至る。
そして幻想世界には、「ナイトメア」と呼ばれる、悠樹が見た怪物たち……彼らは幻想世界に住まう幻魔で、人間の夢を糧として人間に取り憑き、
人間達にとって都合のいい幻覚を見せる代わりに、人間の生命力を奪う恐ろしい悪魔なのだ。
そしてそのナイトメアの力を取り込んで、身に纏った勇者の事を、「夢幻奏者」と遠藤家や幻想世界を知る者はそう呼んでいる。夢幻奏者の武器は、「夢幻武装」と呼ばれる、幻想世界でのみ姿を変えることができる唯一ナイトメアに対抗できる力。幻想世界でしか使えないあのコスプレみたいな格好の事だ。
そして夢幻奏者は個々の夢や幻想を具現化させる、「幻想顕現」という能力を持っている。幻想顕現は、個人の妄想や想像を具現化させた特殊能力で、「空を飛びたい」や「強くなりたい」という想像や幻想がそのまま身体能力や精神力に反映される。つまり、「思いの強さが力となる」のだ。
知優たちが所属する「心霊研究部」とは、単に学園内での活動の名目で、実際は「幻想世界対策本部」として活動している。
平安時代からナイトメアと対峙する遠藤家によって創設された、ナイトメアから人々を守るために活動する団体「幻想世界対策本部」とは、遠藤家の本家、分家が枝分かれして、日本各地にその団体が日々ナイトメア達と人知れず戦っている祓魔師の集まりで、活動目的は幻想世界を探知し、ナイトメアに憑りつかれた人間を助けることなのだ。
「本部とはいっても、管理者は別にいるんだけどね。」
知優はそう笑みを浮かべながら人差し指を立てる。
「で、ここからが本題よ」
「まあ、心霊研究部がどんなとこかわかったっしょ? だけど心霊研究部はその特性上、部員が集まんないわけなんだわ。」
知優に代わって慧一が説明を始める。
「部員は、俺、ちーちゃん、しおりん、あともう一人の部員を含めて四人なんだわ。で、今月の入学式の次の日に通達がきたんだけどさ……」
慧一はなにやら顔に影を落とす。
「5月までに5人集まらないと、この心霊研究部は廃部なんだよね。」
慧一ははあっと大げさに溜息をつく。悠樹はしばらく黙っていたが……
「え、えぇ!!?」
一際大きな声を上げて驚いた。
「で、そこで昨日力に目覚めた新名君! あなたの力を貸してほしい訳!」
知優はにこやかに笑い、悠樹を指さす。「我が部に入ってくれ」と言わんばかりの笑顔だ。
「そ、そんな急に……」
「でもニーナ君、どこの部活にも所属してないし、一年の頃は帰宅部だったっしょ? ちょうどいいんじゃない、友達のしおりんもいる事だし」
戸惑う悠樹をよそに追い打ちをかける慧一。
「え、なんで俺が帰宅部だって知ってんですか」
「しおりんに聞きました〜♪」
慧一は「それに」と付け加えた。
「力に目覚めた時点で、ニーナ君も無関係じゃなくなったわけだし、ね」
悠樹はにーっと笑う慧一を見て、「うっ」と声を漏らす。
「お願い悠樹くん! 夢幻奏者はすごく少ないし、貴重な戦力だし……それに悠樹くんが一緒にいてくれるなら、私も心強いの」
詩織は手を合わせて懇願する。う〜っと声を出しながら腕を組んでしばらく悩む。この力で多くの人が助けられるんだったら……としばらく考えて、悠樹は答えを出した。
「わかりました。俺にできる事があるなら、協力します」
悠樹は頷いた。
「ありがとう、新名君。そう言ってくれるって信じてたわ」
「俺、素直な子は男女問わず好きだぞ〜」
知優は微笑みながら悠樹の手を取り、慧一はニコーっと笑う。詩織も喜びながら飛び跳ね、悠樹に近づいた。
「やったぁ! ありがとう、悠樹くん、これから頑張っていこうね!」
「ああ、よろしくな詩織、よろしくお願いします、遠藤先輩、市嶋先輩。」
悠樹が二人に向かって会釈すると、二人はにこりと笑った。
この物語は、輝きを忘れない少年少女たちが織り成す、煌めきと幻想の叙事詩。
幻想はいつか現実になる。
to be continued...
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.9 )
- 日時: 2019/08/10 23:09
- 名前: ピノ (ID: BEAHxYpG)
第一章 いざ、幻想世界へ!
悠樹は知優に「この後幻想世界へ行く」という旨を伝えられ、知優について街に出てきていた。夕日が照らす町並みは赤く染まっている。悠樹と知優は街の裏通りである場所へと来ていた。知優は「皆が集まるまで待ってましょう」と言い、その場で待つことにした。
少ししてから慧一が走ってくる。知優と悠樹の前まで来ると息を切らしていた。
「いわれた通りに会長さんに書類、渡してきたぞ」
「ご苦労様、市嶋君。……何か言ってた?」
知優がそう尋ねると、慧一は眉間にしわを寄せて腕を組む。
「「フン、もう少し遅ければ、〆切っていたところだ」だってさ。」
慧一ははあっと大きくため息をつく。
「あいつ本当に面倒だし、いちいち鼻につくんだよなぁ。」
「そ、それはご苦労様……」
知優は苦笑いをしながら慧一を宥める。
「ちーちゃん、あいつが「副会長なんだから生徒会に顔を出せ」って言ってたぞ。あんまり会長さんを困らせない方がいいと思うぞ〜」
「……それはわかってるんだけど、今はこっちが忙しいし……追々ね」
そして、そこへ詩織と、赤い髪の悠樹くらいの青年が知優の下へやってくる。青年はすみませーん!といいつつも笑顔を見せていた。悠樹はその青年を二度見する。
「え、翔太!? ……なんでお前がここに?」
「ん……っ!?」
悠樹と顔を合わせるなり、青年は驚いて悠樹を指さして口を開閉させていた。
「新入部員って、悠樹の事だったのか!? 何て偶然だよ、ご都合主義かよ!?」
彼は「谷崎翔太」。悠樹と詩織の幼馴染で、二人の兄のような存在である。冷静を装っているが根は心優しく情熱的。悠樹と詩織とは幼稚園からの付き合いで、絆の強さも人一倍である。
「あら、二人とも知り合いだったの? ふふっ、じゃあちょうどいいわね」
知優は二人の様子に微笑んでいた。悠樹は二人をあきれた様子で腰に手を当てた。
「二人とも、俺に内緒でこんな危ない事をしてたのか?」
「え、えへへ……いきなり秘密がばれちゃったね!」
「すまんすまん、言う必要がなかったっていうか、言ったって信じないだろ?」
二人は少々慌てた様子で悠樹に弁明するが、悠樹は首を振った。
「いいよ。どうせ二人の事だし、俺の事を思っての事だったんだろ?」
悠樹の質問に頷いて肯定する二人。どういう形であれ、二人は悠樹や街の皆をを守ろうと人知れず頑張っていた。それは立派な行為だ。それをとやかく言うのは野暮というものだろう。
「それより遠藤先輩幻想世界が見つかったって……」
「ええ、この辺に反応があったのよ」
知優は詩織と翔太に「幻想世界の入り口を探して」と指示を送ると、悠樹に説明を始めた。
「あなたはまだ感知できないかもしれないけど、夢幻奏者になると、ナイトメアの気配が少なからず感じ取る事ができるようになるの。何か冷たい感触というか、気配というか、殺気に似た何か……」
夢幻奏者はそれを探知して幻想世界へ入り込む事ができる。幻想世界の領域は、結構あやふやなので一般人が迷い込んでしまう事もあるらしい。悠樹のように。
「別段、珍しいケースでもないんだよな。ただ、ニーナ君は運が良かったな。大抵は迷い込んだ後、ナイトメアに食われて死んじまうからな。不幸中の幸いってやつだな」
慧一は笑いながら悠樹の肩をたたく。本当に慧一はお気楽でおおらかな人だなと悠樹は思った。
「遠藤先輩! 入り口を見つけたぞ!」
翔太と詩織が戻ってきて、建物との間の路地裏を指さす。確かに空間がひび割れているように穴が開いていた。穴の中は闇に包まれ、奥の方はどうなっているのかがわからない。知優は「ふんふん」とその穴を嘗め回すように見る。
「誰かが侵入した形跡があるわね」
「えぇ!?」
知優のつぶやきに、悠樹は驚く。
「これもまた稀なケースね。一般人が自分から幻想世界に入ってしまうのは」
「じゃ、じゃあ早く追いかけないと!」
悠樹はそういうと穴に入り込もうとするが、知優はそれを制止した。
「ええ、だけど落ち着いて。冷静さを欠けば倒せる敵も倒せなくなる」
知優はそういうと皆の方へ向き直る。
「皆、準備はいいかしら?」
知優の問いかけに、四人は頷いた。知優はそれを見ると頷いて穴を指さす。
「それじゃ、行きましょう!」
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.10 )
- 日時: 2019/08/10 23:11
- 名前: ピノ (ID: BEAHxYpG)
幻想世界へ入ると、そこは遺跡のような場所の中であった。
崩れた壁から外からの日光が漏れており、階段が上の方へと続いている。一見、遺跡のようだと思っていたが、どうやら塔の中である。静かなその場所の外からかすかに風の音が鳴り響いている。ナイトメアの姿は今は見えないが、どこに隠れていていつ襲い掛かるかわからない。慎重に行くべきだ。
階段を上る一行。階段を上っていると、ふと翔太の姿を見てみる。
赤い髪は炎のような色で、短かった髪は長く一本にまとまっている。服装は赤いロングコートの下に黒いシャツ、腰に黒いベルトを巻き、コートが乱れないようにしている。瞳は炎が揺らめくような、そんな情熱的な色をしている。
「翔太、お前は元の姿から結構変わってるんだな。……まあ詩織もだけど」
「ん〜? まあ俺も詩織も変わりたいって思いが強かったのかもな」
翔太は「はははっ」と大笑いした。
「そういや、幻想顕現だったっけ。あれの……能力の名前ってどうやってわかるんだ? あと夢幻武装の名前も。」
「ああ、あれな……自分で名前つけるんだよ。能力も自分のモノだしな」
「えっ」
意外だ。てっきりある日突然浮かんでくるとか、なんやかんや偉い人が現れて名前を授けてくれるものかと思っていた。
「俺は紅い炎を操るから「クリムゾンフレイム」って感じで名前を付けた、でこの武器もかっこよさげな神話の武器からとって、「紅剣ダーインスレイヴ」って名付けてみた。その時は詩織もいたから、多分詩織も同じ感じだと思うぞ」
「意外だなぁ……いやでも、それってちょっと恥ずかしくないか!?」
悠樹は顔を赤らめながら翔太に尋ねる。しかし、翔太はケラケラ笑いながら悠樹の肩に腕を回した。
「恥ずかしいって言ったら、俺たちの衣装もそこまで変わらんだろ? 例えば、市嶋先輩なんか半裸だし、詩織もスカートのラインが短いし、遠藤先輩だってスパッツだし……」
翔太は小声でひそひそと耳打ちする。悠樹は「ま〜、そうだよなぁ」と半目で力なく答えた。
「悠樹は何て名前にするんだ?」
「う〜ん……」
腕を組み悩む悠樹。
「「エタンセルニーヴェア」……煌めきと白って意味があるらしい。あと、そうだな……夢幻武装は「煌剣クラウソラス」かな。前、神話辞典で読んだ剣の名前。やっぱ自分で名前つけると結構恥ずかしいもんだな……」
悠樹は顔を赤らめながら笑う。が、翔太はにこりと笑った。
「いやいや、いい名前だと思うぞ! ここには名前を聞いて笑う奴なんかいないし、恥ずかしがることはないぞ!」
そんな会話を交わしていると長い階段が終わり、一行は開けた場所へと出た。そこにはナイトメアが多数蔓延っていた。
ローブを着た骸骨型ナイトメア、詩織のようなグリフォンに乗る騎士型ナイトメア、そして昨日見た骸骨剣士型ナイトメアと悪魔型ナイトメア。
だが、彼らはこちらに気づいていない様子であった。
一行は物陰に隠れ、様子を見る。
「魔道士型がいますよ、遠藤先輩」
「そうね……厄介ね」
翔太と知優はそう交わす。
「「魔道士型」?」
悠樹は聞きなれない単語を口にして尋ねる。翔太は悠樹の方を向いて答えた。
「魔法を使うナイトメアだ。多くはああいう骸骨みたいなのがローブ着てるんだけど、稀に仮面被った人型や、サキュバス型、小悪魔型がいたりするんだよ」
「魔法って……」
悠樹は信じられないという様子で半笑いで頬を指で掻く。
「いやいや、現実世界じゃわからんが、少なくともこの幻想世界は何でもアリアリだからな。魔法が存在したってなんら不思議はないぞ。現に骸骨やら角の生えたバケモンがうようよしてるわけだし。詩織だって白いグリフォンに乗ってるし、遠藤先輩も馬に乗ってるからな。ありえないことがありえちゃう世界、それが幻想世界ってわけだ」
翔太の説明に、「確かに……」と納得する悠樹。
「とりあえず、まともに受けたら死ぬ。気をつけろよ」
翔太はそういうと、再びナイトメア達に向き直る。
すると、慧一が彼らに向かって指をさした。
「おい、あれ!」
皆はそれを見る。多数のナイトメア達と戦う黒い姿がそこにはあった。地面の中に溶けたと思ったら現れたり、短い刀のようなものを二丁持って、ナイトメアを倒していっているが、攻撃力が低いのか劣勢気味だ。
「いけない、早く助けなきゃ!」
詩織がそう叫ぶと、飛び出そうとする。
しかし、悠樹はそれを制止した。
「いや、俺が援護しに行く。皆は周りのナイトメア達を!」
周りを見ると、ナイトメア達が一行を取り囲んでいた。やはり殺気をむき出しにしている。しかし、悠樹はナイトメア達に切り込み、黒い影の下へと走り去っていった。
「わかったわ、新名君、気を付けてね!」
知優は大声で叫び、剣をとる。詩織もグリフォンを呼び、慧一も鎌を構え、翔太は何もない場所から空間を切り裂いて赤い剣を抜いた。
「よーっし、燃えてきたぜ!」
翔太はにーっと笑う。その姿はさながら、狩りを楽しむ獅子のようであった。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.11 )
- 日時: 2019/07/31 20:41
- 名前: ピノ (ID: quLGBrBH)
一方、ナイトメアと対峙している黒い影……いや、黒い少女は不慣れにも手に持っている二本の短刀を振り回し、骸骨剣士の攻撃を何とか凌いでいる状態だった。
彼女は黒い髪、右が金色、左が青色の猫のような瞳孔の細くキリッとしている目であり、獲物を捕らえる時は一瞬瞳孔が開いている。頭からは大きな猫の耳、長い猫の尻尾が感情によって揺れている。服装は俗にいう、盗賊と忍者を掛け合わせたような軽装で、黒く目立たないものだが、首輪から下げている大きな鈴、そして尻尾に巻き付いている鈴が動くたびに音を立てていた。二つのおさげも同じく鈴で結っているようだ。
「ほんっと、ついてないわ……」
少女は息を切らしながらつぶやく。骸骨剣士を次々に斬りつけているのだが、自分の力が弱いのか、それとも傷が浅いのか怯みもしない。なんとなく体が軽くなっているのだが、筋力などはついていないらしい。
あとは、影に潜めたり、影を使って相手を拘束したり、影から分身を出せたりできる。……しかしそれは攻撃を避ける手段くらいで、傷をつける手段ではない。
だが少女はここで諦めるわけにはいかない。
「こんなところで諦めたら、誰が「梓」を助けるのよ!」
少女はそう己を奮い立たせ、刀を構える。
骸骨剣士は真っ赤に染まる剣を少女に向かって振り上げた。とっさに腕を交差させ攻撃を防ごうとした。
だが、攻撃はいつまで待っても来ない。少女は恐る恐る様子を見る。
そこには、骸骨剣士の攻撃を左手で持つ剣の刀身で受け止め、少女の方を見る白い少年の姿があった。
「すみません、助けに来ました」
少年は少女に微笑みかけると、ふうっと息を吐く。
「あの、こいつ……倒しても大丈夫でしょうか?」
少年は申し訳なさそうに少女に尋ねる。少女は「え、ええ……」と答えると、少年は剣を持ち直して、骸骨剣士の胸を一突き。胸の方にあった宝石のようなものが砕け、骸骨剣士は黒い煙を発して消滅した。
他の骸骨剣士は少年の姿を見て、一斉に襲い掛かる。「あ、これは……」とひるんでしまう少年。だが、少女は隙をつき、彼の援護をした。
しばらくして、襲い掛かる骸骨剣士を倒し、少年はその場にへたり込んだ少女に手を差し伸べる。
「あの、大丈夫ですか?」
「え、ええ。ありがとう」
少女は力なく答えると、少年の手を取って立ち上がった。
「あたしは「七瀬時恵」。あんたは?」
「俺は「新名悠樹」、星生学園の二年生です」
時恵はふうっと一息つくと、悠樹の全身を見てみる。
「ていうか、あんた何その恰好? コスプレじゃない」
悠樹はそれを聞いて驚いて首を傾げた。
「それはあなたも同じなんじゃ——」
「はい?」
時恵が物凄い形相で睨んできたため、「い、いえ、なんでもないです」と小さくなってしまう悠樹。結構気が強い女の子みたいだなぁなんて思う。
「とりあえず、ここから脱出しましょう。俺達はあなたを助けるためにここまで来たんです」
「ううん、あたしはいい。それよりも「霧島梓」って子がこの奥にいるの! その子を助けて!」
時恵はそう悠樹に懇願する。梓は時恵の親友であり、唯一の心を開ける人なのだ。だからこうやって黒い影にさらわれた彼女を、変な世界にまで来て危険を顧みず助けに来たのだが……なぜか変な格好に変わるし、変な化け物は襲い掛かってくるしでよくわからない。
だが、彼女を助けたい。
「わかってます、俺達はそのつもりで来たんですから」
悠樹はそういうと、出口の方を指さした。
「七瀬さんはここから脱出してください、後は俺たちが」
「何言ってんの、あたしも行くわよ。それと……」
時恵は少し不機嫌そうに腕を組む。
「あたしは時恵って名前で、「あなた」なんて名前じゃないわ。時恵って呼びなさい」
「えっ……とぉ……」
悠樹は戸惑いながら頬を掻く。
「時恵、先輩?」
「お堅いわね、まあいいわ。……さっさと行くわよ」
時恵は吹き出して笑うと、塔の奥を指さした。
悠樹は知優達の方向を見る。皆既にナイトメア達を一掃して奥へ向かっているようだった。
「わかりまし」
「敬語やめて、あたしはそういうの嫌いなの」
「わ、わかった」
悠樹は少しやりづらいな……と思いながらため息をつくのであった。
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