複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.101 )
- 日時: 2019/10/07 21:13
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
悠樹は先手を取るべく、剣を持って愛実に突撃する。愛実はそれを避けるが、愛実を追うように剣を振った。確かな手ごたえがあり、愛実の服と腹に切り傷ができて赤い玉のような液体が迸る。愛実はそれを見てニィっと口の端を釣り上げて笑っていた。だが、悠樹の剣は止まらず、左手に持っていた剣を軽く投げて右手に持ち替えて、右手で追撃するように刺突。愛実は体を反らせて避けようとするが、悠樹はそれを読んで左腕で愛実をの右肩を掴んで、膝蹴りをお見舞いした。愛実は予想外の攻撃に目を見開いて吹き飛ばされる。地面に着地し、上半身を起こして「いや〜いてて」と笑いながら頭の後ろを掻いていた。
「やるねぇ、そして容赦ない。」
「それはいいよ、母さん……まだ立てるだろ?」
「おーおー、怖い」
愛実は終始笑ってはいるが、まだ余裕のある証拠だ。それとも、わざと笑って挑発しようとしているのだろうか? いずれにせよ、まだまだこれからという言葉に、嘘はないはず。悠樹は左手で剣を構える。
愛実は「うーん、よし」と立ち上がり、背伸びをし始める。
「さてさて、そろそろ……」
愛実は目を見開くと同時に瞳を赤く光らせてにたりと不気味に笑った。そして赤いオーラを放ち、周りの空気が震える。愛実は剣を構え、悠樹に狙いを定めた。
「悠樹、死んだらごめんね?」
などと言い、愛実は目に留まらぬ速さで抜刀する。鞘から剣が抜かれた瞬間、赤い斬撃が悠樹に向かって飛んでくる。悠樹は驚いてそれを避ける。だが、愛実は悠樹が目を離した隙をついて、目の前まで迫り、回し蹴りで悠樹の顔を蹴る。悠樹は地面に倒れ、愛実を見上げると、彼女は剣を両手で振り上げていた。悠樹は「まずい!」と考えると、急いで右に転がる。愛実の振り下ろされた剣は、衝撃と地鳴り、そして轟音と共に地面を抉る。悠樹はすぐさま立ち上がり、後ずさる。
愛実はまだまだと言わんばかりに、右手に持つ剣を悠樹に向かって振った。悠樹は剣でそれを受けるが、斬撃が悠樹の身体を襲い、服と体を切り刻む。玉のような鮮血と汗が迸って舞い、辺りの地面に落ちて染み込んでいく。悠樹は苦悶の表情を見せているが、愛実は楽しそうに笑っていた。
続く抜刀。剣を防いでも剣から放たれた斬撃が悠樹の身体を容赦なく斬る。体中の切り傷から冷たいモノが流れ落ち、白い服も赤く染まる。
息を切らす悠樹だが、愛実はまだまだこれからと言わんばかりな、とびきりの笑顔だ。
悠樹は何か逆転できる方法はないかと、考える。
「——そうか!」
悠樹はたった一つの策を導き出した。
愛実はフラフラしている悠樹に向かって鞘に納めた剣を鞘から素早く抜刀し、刃が悠樹を襲う。だが、悠樹はマントをおもむろに手に持ち、ビリィっという音を立てながら破いてしまい、愛実の目の前に投げる。
愛実は驚きながらマントを手に取って地面に捨てる。だが、目の前に悠樹の姿はない。
「目くらまし!?」
愛実は周りを見回し、背後の気配に気が付く。悠樹は愛実の右肩に狙いを定め、剣を刺突させた。愛実は避けようとするが間に合わず、悠樹の剣は愛実の肩を貫いて地面に押し倒し、縫い付けるように刺す。愛実の笑顔は消え失せ、苦悶の表情で悠樹を見上げる。が、左手で剣を構えようと握ろうと手を動かそうとするが、身体が動かない。
「……あ、ダメだ。こりゃあもう無理だわ」
愛実ははっと気が付いたように目を見開いて、諦めたように瞳を閉じる。悠樹の剣に張り付けられた今、愛実は動くことは叶わない。そう悟ったようだ。
「勝負あり、だね。ゆうくん、トドメをどうぞ」
「いや、トドメは刺さない。剣ないし」
「……ぶっ」
愛実は悠樹の言葉を聞いて大笑いした。動けないというのに、顔はなんとも表情豊かである。
「確かにそうだね〜。うーん、じゃあどうしようかなぁ。……というかどうしようサリーちゃん?」
愛実は困ったようにサリエルの方へ眼をやる。悠樹もサリエルの方を見るが、どこにも姿がない。いや、気絶している詩織を仰向けにして膝枕して寝かせている少女……いや、少年か? とにかく、背の低い人物がいた。
赤く長い髪、赤い仮面を左顔半分に覆い、紫色の瞳をしている。頭には青白い翼を模った飾りをつけ、所謂ゴスロリというのか、黒い服を纏っており、左腕、右足に包帯を巻いている。
「少し顕現の力が戻っている。私がこの空間を破壊し、お前たちを仲間の下へ送ろう」
「おう、頼んだよサリーちゃん」
「サリエルだ、莫迦者」
サリエルと呼ばれた少女とも少年ともつかない人物は呆れたように溜息をつく。悠樹は少し固まって沈黙の後……
「え、えぇ!? この人がサリエル!?」
「五月蠅いぞ莫迦者」
サリエルが呆れていると、詩織も目を覚ます。目の前には赤い髪の仮面をつけた人物。
「え、ど、どちら様……?」
「少々面倒になってきたな……」
サリエルは半目で愛実に助けを求めるような目で見る。愛実も「あはは」と笑っていた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.102 )
- 日時: 2019/10/10 00:05
- 名前: ピノ (ID: H5cXC/18)
サリエルは二人に説明を始めようと口を開くが、愛実は大声を上げて悠樹に抗議した。
「ちょっとちょっと! その前に私の右肩に刺さってるモノを抜いてちょうだい!」
悠樹はそれを見て「あ、ごめんごめん」と謝りながら、突き刺さっていた剣を抜き、血糊を剣で振って払う。その後鞘に納めてから、愛実の左手を引いて彼女を起こした。まだ動けないようで、上半身だけ起こし、悠樹の肩を借りてサリエルの前まで歩み寄った。サリエルはその様子に「やれやれ」といった感じで肩をすくめている。そのあとすぐに悠樹の顔を見る。無表情ではあるが、声音は嬉しそうであった。
「ユウキのその顕現の力……それは大きな切り札となりそうだな。暴れまわる猪をそこまで消耗させるとは、感嘆に値する」
「いや、その……ありがとうございます」
「当然、我が最愛の息子だもの! 強くて当たり豆だのクラッカーだよサリーちゃん!」
「当たり「前だ」、だ。莫迦者」
愛実の息子自慢にサリエルは頭を抱えそうになるが、ふうっと溜息をついて詩織に「立てるか?」と尋ねる。詩織は「は、はい!」と慌ててサリエルから離れて頭を下げる。少しふらつくようだが、心配はなさそうだ。
「では早速本題だ。私は今からこの空間を破壊し、近くにいるお前たちの仲間の居場所へ送るが……何か聞きたいことは?」
「たくさんありすぎます」
悠樹は小さく手を上げてサリエルに尋ねた。
「あの、どうして人の姿に? それに、顕現の力……というより、幻想顕現について詳しく教えてほしいです」
「よかろう。まあ、少しばかり長くなるが、心して聞け」
サリエルは悠樹の質問に「待ってました」とばかりに頷く。そしてサリエルは口を開いた。
「お前たちも知っての通り、「幻想顕現」とは言わば幻想の力。お前たちの言う、「夢」、「妄想」、「空想」、「想像」……まあ常々何か「幻想」を抱いているだろう? それらが我々の存在を創り、我々の糧となる。我々が人間を襲うのは、夢を食うため。しかし、夢を食われた人間は食われた部分を埋めようと、内なる力でそれを補おうとする。それこそ想いの力が具現化したもの……それが「顕現」。そして、「幻想顕現」とは、個人の夢や想いがカタチとなったものだ。私の姿も、顕現の力を取り戻したおかげで一時的に戻れているだけだ。愛実にほとんど持っていかれていたからな。私たちは互いに顕現を食いあっているという関係……即ち命を食い合っている感じだ。……ここからはちょっとした昔話だが……」
サリエルは「長くなるから座るといい」と皆を座るよう促す。愛実も「長いから座って座って」と二人を座るように言った。悠樹と詩織は言われた通り座ると、愛実も悠樹の肩を借りながらその場に腰を下ろし、サリエルも同じくした。
「我々と人間の戦いは古の時代……それも、お前たちが「神話」などと語っている頃から、現実と幻想は表裏一体だった。そうだな、例えばお前たちのよく知る……「ジャンヌ・ダルク」、「アーサー王」、「ギルガメッシュ」、「クー・フーリン」などの英雄と呼ばれた者達。彼らもまた顕現の力を以てして活躍した。……だが時は経ち、お前たちの生きる時代では、黄昏時にしか我々は顔を出すことができなくなった」
「それはどうして、ですか?」
詩織は恐る恐る聞いてみる。サリエルは「慌てるな」とため息をついた。
「数百年ほど前か? 我々の同胞が現実に干渉しないよう二つの世界の扉を閉じてしまった。それ以来、固く閉ざされた扉から幻想が現実に干渉することはなくなった。……だが、ある時何者かがその扉をこじ開け、黄昏時にのみ幻想が現実に現出できるようになった。それが——」
「夕方に影に呑まれて行方不明になる……幻想世界に引き込まれるっていう噂の原因なんですね」
「Exactly!(そのとおりでございます)」
悠樹の答えに指を鳴らしながら楽しそうに笑う愛実。やっと腕が動くようになったようだ。それを見て、サリエルはふうっと溜息をついた。
「それが今、再び古の時代のように幻想が現実に蔓延る事態になりつつある。まあ、私としてはどうでもいいというのが本音だが、このマナミがうるさくてな」
「いやいや、当たり前じゃん。ナイトメアが蔓延って世紀末状態なんて、私は望んでないの! サリーちゃんがどうでもよくても、そうは問屋が卸しませんからね!」
愛実は口うるさくサリエルを指さす。そして、サリエルは愛実の言葉を聞いた後立ち上がり、90度横に向いて手をかざす。すると、空間に穴が開くように裂け目ができた。
「お前たちはさっさと仲間の下に行くといい。もたもたしていると、仲間が死ぬぞ」
「うんうん、ごめんね足止めしちゃって。私が力を使わないとサリーちゃんってば、力を使うことができないのよね〜」
「だ、だからさっき、俺達に戦えって?」
「そゆこと〜。まあ悠樹と戦ってみたかったって好奇心もあるけどね」
「じゃああの……さっき言ってた、ゲートキーパー云々とかは?」
「ん〜、それっぽい事言っておけば本気出してくれるかなって。まあ、各空間にボスっぽいナイトメアがいるのも、祭壇に生命力が送られるのも本当なんだけどね〜」
愛実は笑っていると、サリエルが腕を組み、苛立ち始めた。
「早くしろ、変な場所に飛ばされても知らんぞ!」
「す、すみません! えっと、ありがとうございます、サリエルさん、おばさん!」
詩織はサリエルの様子に慌てて立ち上がり、小走りで裂け目に入り込む。悠樹も立ち上がって続いて入ろうとするが、足を止めて二人の方を向く。
「えっと、ありがとうございます。お世話になりました」
「さっさといけ!」
「えっ、うわ——」
サリエルは悠樹を裂け目の中に乱暴に蹴り飛ばすと、裂け目は閉じてしまい、サリエルはその場に崩れ落ちる。その後すぐに青い光を放ちながらサリエルは光となって消えた。……と思いきや、サリエルのいた場所に、蛍火のような光を放つ蝶が地面にとまっていた。
「サリーちゃん、おつかれやま〜」
「はぁ、久々に元に戻れたというのに、一瞬だった……」
サリエルはすごく残念そうな声を出していた。
「よし、サリーちゃん。くたばってるとこ悪いけどさっさと出ましょ。ここもやばいわ」
「……そうだな」
サリエルはそう言うと、羽を動かして飛んで愛実の頭上にとまる。その直後、二人のいるその空間は音を立ててヒビが入り始め、崩れ落ちていく。地響きと共に空がまるで崩れ落ちてくる最中、愛実は空間を切り裂いた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.103 )
- 日時: 2019/10/09 19:52
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
悠樹と詩織はある場所に落ちてくる。
悠樹は勢いよく起き上がって周囲を見渡した。草木が生えた樹の上にいるようだ。眼下には毒々しい沼が広がり、何やら骨や枯れた植物が浮いている。それにドブが腐ったようなきつい悪臭がする。これには詩織も顔をしかめて鼻をつまんでいた。
「……ね、悠樹くん、この先に誰かが戦ってるみたい」
詩織は樹の上を指さす。悠樹はそれを聞いて上を見上げていると、何か黒い影が蠢いているようにも見える。黒い影はかなり遠い場所にいる悠樹達にも、かなり大きいとよくわかるサイズだ。恐らく、その影と誰かが交戦中なのだろう。悠樹は詩織に向かって慌てて言う。
「詩織、すぐに空を飛んで向かってくれ。俺もすぐに登って追いつくから」
「うん、わかったよ! 「ヴァンフリューゲル」!」
詩織が頷いた後、右手を天にかざす。すると、それに呼応し、詩織の足元に風が渦巻いて、どこからともなく純白のグリフォンが舞い降りてきた。詩織はそれに飛び乗ると、疾風のように上空へ舞い飛んで行く。悠樹はそれを見届けると、すぐさま近くにある枯れたような色をしている蔦で登ることにした。すぐにちぎれそうな細さだが、これ以外を使って上に登る方法はなさそうだ。悠樹は先日、世界樹に登った時の事を思い出しながら蔦を握り締め、ゆっくりと登る。
しばらく登り始めて、蔦がみちみちと音を立てる。……悠樹の体重に耐えられないのだろうか? 悠樹はどこかに着地できそうな場所がないか左右を見回すと、左の方に小さな足場があった。悠樹はすぐに飛び移ろうとすると、蔦がさらに音を立てる。悠樹はその音に焦りを覚え、身体を揺らして勢いをつける。ブランコのように揺れ、悠樹は「1、2の……」と数を数えた。「3」で飛び移ろうと勢いをつけていると、ブチッという嫌な音がする。蔦が切れてしまったのだ。
「嘘だろ!?」
悠樹は思わず叫ぶが、何かに捕まるように両手を振り上げた。悠樹の身体は宙に投げ出される。
だが、悠樹は飛び移ろうとしていた足場につかまり、間一髪で落ちずに済んだ。悠樹は持てる力を振り絞って身体を足場の上まで持ってきて、その場に寝転がって上を見る。
「助かった……いや、まだだな。待ってろ、詩織!」
悠樹は少し息を整えた後、すぐに上に登れそうな蔦を握り締めて、握った蔦を見る。先ほどより太く、そして色合いもまだいい。問題はなさそうだ。元々体力は無い方なので、登り切れるかはわからないが……上で誰かが戦っているなら。という思いで樹を這うように登り始めた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.104 )
- 日時: 2019/10/10 20:45
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
登りきると、そこには二人の少女と大きな黒い蜘蛛のようなナイトメアとが戦っており、詩織も手に持つ槍を振り回して戦っている。二人の少女は、知優と風奏だ。悠樹は剣を構え、蜘蛛の方へ突撃する。
「うおぉぉーっ!」
叫びながら剣を蜘蛛の八つある目の内の一つにめがけて突撃し、剣を深く突き刺す。蜘蛛は苦しみ悶え、甲高い声を上げた。知優と風奏が悠樹の姿を見据える。
「新名君!」
「せんぱーい!」
「すみません、お待たせしました」
悠樹はそう言うと、蜘蛛は悠樹にめがけて前足を振り下ろした。それに気づくと、悠樹は素早く剣を抜いて後ろへ飛んでそれを避ける。緑色の体液が剣を濡らしているのを確認し、「すごく大きい蜘蛛だな」と感心する悠樹。そうしている内に、蜘蛛は白い糸を悠樹に向かって吐き出し、糸に押し倒されるような形で仰向けに倒れ、悠樹は糸に張り付けられた。知優は蜘蛛の前足に向かって手に持つ剣で横に斬って足を切断する。体液が迸り、思わず蜘蛛はバランスを崩してその場に倒れこんでしまった。風奏はその隙をついて悠樹を縛り付けている糸を矢で切り、解放する。蜘蛛は空いている足で風奏と悠樹を薙ぎ払おうとするが、詩織は上空から槍を投げつけてそれを阻止。そしてグリフォンと共に勢いよく地上近くへ舞い降り、グリフォンは蜘蛛の腹に前足の鋭い爪でひっかき、詩織はグリフォンから降りて地上に刺さった自分の槍を回収する。風奏はその間に力を溜めており、矢を引いていた。光が収束して、蜘蛛が立ち上がりそうなタイミングを見計らって矢を放つ。閃光が走るように矢は蜘蛛の顔に命中する。
「今よ、新名君!」
「はい!」
知優はそれを見計らったかのように悠樹に向かって合図を送る。打ち合わせはなかったが、悠樹は知優の考える事を悟り、剣を握り締める。
悠樹と知優は同時に光を纏った剣を振り上げ、蜘蛛に斬りかかった。抵抗する間もなく、蜘蛛は十字に斬られてその場に倒れこんで動かなくなった。
「やったぁ!」
風奏はその場をぴょんぴょん飛んで、自身の喜びを表現する。その顔は満面の笑みだ。
よく見れば知優も風奏も体中に切り傷などの生傷だらけで、服もところどころ破れており、かなり苦戦していたことがよくわかる。
「それより新名君、その恰好……どうしたのよ?」
知優は悠樹に向かって溜息交じりに尋ねる。悠樹は改めて自分の身体を見てみた。白い服は所々泥がついて黒くなっているし、マントも破いてしまったので首下あたりまでしかない。
「いやあ、いろいろありまして」
悠樹は心配させまいと曖昧な事を言ったあと、詩織も近づいてくる。途中参加とはいえ、詩織もかなりボロボロだ。だが詩織はニコリと笑って「二人とも無事でよかったです」と言った。
その後すぐに地鳴りが響き渡った。空にひびが入り、その場が大きく揺れている。知優と風奏は驚いて周りを見回すと、悠樹は「落ち着いてください」と言う。
「新名君、何かこのからくりについて知ってそうな口ぶりね。説明してもらえないかしら」
「ええっと、そうですね……」
悠樹は二人に説明をする。ここは多重空間の幻想世界で、ゲートキーパーであるナイトメアを倒すと、近くにある空間までいける事。そこまで説明すると、空間は崩壊を始めた。
「なるほど、祭壇って場所に行けば、指導者と出会えるってわけ?」
風奏はうんうん頷くと、周りを見る。打って変わって不安げな表情を見せていた。
「ほ、ホントに大丈夫なの、これ?」
「多分……」
「多分って……」
風奏がそう言った後、四人の立っている地面が割れて、四人は闇に放りだされた。
かと思いきや、すぐに四人は見知らぬ場所に着地する。周囲を見ると、そこは高い山の上だった。高い山々が連なり、空気も澄んでいて、風も程よく吹いている。
「ホントだ、すっごい! まるでゲームの中に飛び込んじゃったみたい!」
風奏は楽しそうに辺りを見回している。知優は「危ないわよ」と風奏に声をかけていると、近くの方で轟音が響いた。悠樹は音のした方へ振り向くと、煙が上がっている。
知優は「行きましょう!」と叫ぶと、馬を召喚して跨り、鞭を打って駆け出した。他の三人もそれを追うように走り出す。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.105 )
- 日時: 2019/10/11 20:17
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
しかし、悠樹達が近づくと、山のような巨体の竜が地面に崩れ落ちて、崖が崩れそのまま谷底まで落ちていく光景が見えた。悠樹達は驚いていると、少年を抱えた青年が悠樹達の前に飛んできて着地する。その後を追うように、黒いフードとマントを身にまとう男と、橙色の髪と紫のワンピースのような服装の少女が近づく。
「新名か?」
「お、ニーナ君にしおりん、ちーちゃんとふーちゃんまで!」
玲司と陽介、そして慧一であった。玲司は抱えている陽介を降ろしながら皆を見回す。そして知優に状況を聞いていた。そういえば、もう一人の少女の正体はよくわからない。橙の髪をかわいらしいサイドテールに結っているが、左側は紫色に染まっている。赤く金色の装飾、中央に紫色の宝玉がはめ込まれている仮面を被り、かなり小柄な少女だ。ワンピースかと思いきや、ローブであり、袖とマントが一体化している。そして異質なのは、彼女の周りには冷たい気配を感じる。……一体何者だろうか? と悠樹は彼女を見ていると、慧一は彼女の頭に手をポンと軽く置く。
「この子、サトゥルヌスな。こっちではこんな姿らしい」
「うえぇ!?」
悠樹と風奏は驚く、だが詩織と知優は妙に納得したような顔で頷いた。サトゥルヌスは4人に向かって会釈する。
「ん? じゃああっちでの梓は……?」
「あちらではれは8年前、仲の良かった方の身体を器にしているのです。その方の名が「霧島梓」」
サトゥルヌスは俯く。「これ以上は聞かないでくれ」という雰囲気だ。
玲司は空の方を見る。そこに丸い穴が開いていた。
「落ちてくるぞ」
玲司はそう言うと、穴に向かって走る。その言葉通り、穴から赤い青年と黒い少女が落ちてきた。二人は悲鳴を上げるが、時恵は地面を見つけるとすぐさま身体を丸めて、自身の影から黒い腕を伸ばして崖に掴まる。翔太はというと、そのまま落ちていた。
だが、玲司は氷で空中に足場を作り、それを蹴って翔太を抱えた。だが体重が思いのほか重いと判断したため、翔太を思いっきり振り回して地面に叩きつけ、自身も氷の足場を作って地面に戻った。地面に叩きつけられた翔太は「ぶふぇ!?」と悲鳴を上げてそのまま倒れる。
「重かった、許せ」
玲司は手を叩いて埃を払っている。翔太は気絶している様子だった。詩織はすぐに駆け付け、翔太の上半身を抱きかかえて名前を呼ぶ。翔太は白目を向いて鼻血を流していた。悠樹も素早く近づいて、胸ポケットに入っている救急用の絆創膏や傷薬、ガーゼなどを翔太に巻いたり貼ったり。その様子を見た風奏は「なんで自分で使わないの?」と尋ねるが、悠樹は複雑な気持ちで「今気づいた」と答える。
「顔面セーフだ」
「乱暴すぎるんだよお前は」
慧一は玲司の脳天にチョップをお見舞いする。知優は苦笑いしながら周りを見て「全員集合ね!」と両手を叩く。
時恵はサトゥルヌスの姿を見て、「この人、誰よ?」と知優に尋ねた。
「サトゥルヌスよ」
「……っ!」
時恵はその名を聞いて腕を組んでそっぽを向いた。サトゥルヌスはその様子を見て首を振った。
「その反応は当然です、コノエ様。私はどういう理由があったにしても、貴方を欺いた……この事実は覆りません。ですが……ですが——」
「別に謝罪の言葉を求めてるわけじゃないわよ」
サトゥルヌスの言葉を遮り、時恵は腕を組んで彼女の顔を見る。その表情は真顔であるが、悲しげでもあった。
「どういう理由があったにせよ、あんたがあたしに声をかけてくれなかったら、ずっとひとりぼっちだったし、こっちの世界に来たり、変な能力に目覚めたりしなかったし……それに、こんな……」
時恵は顔を赤らめて表情を見せないように俯いた。
「こんな変だけど素敵な仲間にも出会えなかったわ……その、あ、ありがとう」
サトゥルヌスは時恵の言葉と、真摯な気持ちに思わず手で顔を覆う。と思いきや、仮面をおもむろに外して素顔を見せた。時恵は顔を上げてサトゥルヌスの顔を見据える。赤と紫が混ざり合った生気のない瞳がそこにあった。彼女は時恵の手を取って彼女の顔を見る。
「コノエ様のおかげで、私……笑顔を覚えたんですよ。絆、友情、人との繋がりを教えてくれたのは、コノエ様……いえ——」
サトゥルヌスは初めて笑顔を見せた。
「時恵ちゃんのおかげなんだよ……ありがとう」
時恵は彼女の笑顔と柔らかい声音に顔を真っ赤にさせて、そっぽを向いてしまう。
「あ、あああ、あたしだけじゃななな、ないって!」
声を震わせながら挙動不審にそう答えると、それを見ていた知優と慧一は笑う。
その後すぐに翔太が目覚め、上半身を起こす。そして周りを見る。
「あ、れ? 俺……先輩に吹っ飛ばされて……」
「気のせいだ」
翔太の慌てた問いに玲司が答える。その後、傷口が痛むのか、「あいたた」と声を上げながら傷のある場所を抑える翔太。
だが、その後……玲司は皆に注意を促した。
「気をつけろ、間もなく祭壇へ行けるはずだ」
「超急展開!?」
詩織はそう叫ぶと槍を構えた。皆も警戒して周りを見渡す。わずかに迫りくる冷たい感触、そして……地の底からくるような振動。大地全体が揺れているのだ。今まで空間が揺れている感覚は経験してはいたものの、こんなに大きな揺れは初めて経験する。空間にひびが入り、バラバラと砕け始めた。
しかし、突如地面から黒い影が広がり、黒い腕が皆を拘束する。
「何!?」
「あわわわっ!」
風奏と陽介が声を上げると、影の中に沈んでいく。だがその後、知優も慧一も時恵も玲司も影の中に同じく沈む。
「な、なんだ!?」
「ちょ何よ、放せッ!」
「くっ……!」
「新名、気をつけろ——」
玲司は悠樹に向かって名を呼ぶが、その途中で影に沈んでいった。
「クソッ、なんなんだよ一体!?」
「悠樹くん!」
詩織は悠樹に向かって手を伸ばすが、影に沈んで消えた。サトゥルヌスと悠樹もほぼ同時に影に捕まって沈む。だが、サトゥルヌスは影に沈む直前に悠樹にこんな言葉を残す。それは小声ではあるが、はっきりと悠樹の耳に残った。
「真実は幻想の中に……それをお忘れなく」
この物語は、輝きを忘れない少年少女たちが織り成す、煌めきと幻想の叙事詩。
幻想はいつか現実になる。
to be continued...
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