複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.96 )
- 日時: 2019/10/02 20:07
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
ところ変わって幻想世界。
ごつごつとした岩肌がむき出しになっている地面や天井、地下水が湖のように溜まっている穴、様々な色の水晶が発光して暗い洞窟を彩って照らし、肌寒さすら感じる鍾乳洞の中に、二人の人影が倒れていた。翔太と時恵だ。天井から落ちてくる雫が鼻先に落ちて、水滴がはじけると翔太は目を覚ました。
「ん……」
翔太は声を出しながら上半身を起こす。そして周囲を見回した。
「ここは……って、おい、時恵!」
翔太は時恵に気が付くと近づいて座り込み、倒れている彼女を揺さぶった。少し揺さぶられると、時恵は目を覚ました。その後翔太を見ると「あ、翔太」と一言こぼした。
「あ、じゃない。こんな無防備に寝て……。」
翔太はため息をつきながら周りを指さす。
「ここ、幻想世界だよな。俺たちの姿が変わってるし」
「え? ……あ、ほんと」
「頭打ってないか、というか大丈夫か?」
「大丈夫よ、痛みはないみたいだし」
時恵はぴょんっと軽くその場を飛んで立ち上がる。翔太もそれに合わせて立ち上がり、周りを見た。ひやりとした洞窟の中。……昔、悠樹と詩織と一緒に行ったことのある鍾乳洞の中のようだ。と翔太は考えると、一歩踏み出した。
すると、ずるっと足を取られて滑り、盛大に転ぶ。さらにその勢いは止まらず、目の前にあった水溜まりにドボンと水しぶきを上げて滑り込んでしまった。
「もう、何やってるのよ翔太!」
時恵は突然の事に驚きつつも、自身の影を伸ばして翔太の身体を縛って自身の隣まで引き上げる。全身びしょ濡れの翔太は猫のようにぶるぶると体を振って時恵を見る。
「あ、ありがと……結構滑りやすいなこの岩肌」
「まあ、鍾乳洞だし。というか乾かさないと風邪ひくわよ?」
翔太は「そうだな」というと、手のひらを広げる。手のひらに一瞬炎が燃え上がる……しかし、一瞬で消えてしまった。
「水かぶると俺、炎が出せんわ」
「……えー……」
「まあ、一時的なもんだし、戦闘に入るまでに乾かせば大丈夫だろう」
翔太はそう笑いながら立ち上がり、周りを見た。自分たち以外に誰もいないのかと思いながら。しかし、翔太は何かがいることに気づく。時恵はそれに気づいていなさそうだ。……うん、ここはやんわりと存在を気づかせよう。と、翔太は頷いた。
「……俺達以外に誰か人がいないのかねぇ」
「さあ?」
「さあ、って……はあ、まあいいや。」
翔太は奥にある横穴を指さした。少し離れているこの場所からでも、とても大きいということが一目でわかる。
「とりあえず進もうぜ。なんかここ、何かいるような気がする」
「何かって?」
「……ほら」
翔太は唇をきゅっと噛み、振り向かずに後ろを親指で指し示す。時恵は目だけ翔太の指す方向を追ってみると、何かがいた。……それはこちらの様子を伺っているようで、何もせずただじっとこちらを見ていた。何なのかはわからない。が、味方ではないことはよくわかる。
「そうね、今はここを離れましょう」
時恵はそう頷いた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.97 )
- 日時: 2019/10/03 19:33
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
二人がしばらく景色の変わらない洞窟内を歩く。行けども行けどもあるのは発行する水晶に照らされる、岩肌と水溜まり、そして透き通った湖。ひやりとして澄んだ空気と、天井から落ちてくる水滴……。気温が低いため、翔太はびしょびしょの靴を音を立てながら踏みしめているが、本人はとても気持ち悪そうにしている。
「はぁ、まるで水を被ったライターみたいな気分だ」
「ライターの気持ちをなんであんたは知ってんのよ?」
さりげなくつぶやいた言葉に、時恵は呆れながらつっこんでくる。
「でも濡れたライターってどんなに点けようとしても、火花すら散らないだろ? あんな感じだって」
「マッチの方がわかりやすいと思う」
翔太が指を鳴らしながら時恵を指すと、時恵は肩をすくめた。なんというか、こんな会話ができる余裕はあるということだ。
「うん、だけどこういう時にでっかいボスとか出てきたら、俺死ぬわ」
「またそんなこと言って! 早く乾かしなさいよ」
「えー、こんな洞窟じゃ無理だ〜」
「んもう、役に立たないんだから」
時恵は挑発のつもりでそう言うが、「あー、そうだなぁ」と肯定して笑う翔太に半目で呆れていた。彼も今の自分が木偶の坊に成り下がっている事は重々理解しているのだろう。しかし、それでも笑みを絶やさないのは、自分の事を思って……だと時恵は喜んでいいやら呆れていいやら複雑な気分であった。
まあここで口喧嘩をしても無駄に体力を消費するだけだ。作り笑いだけでもして気持ちをほぐさなければ、いざという時に戦うこともできない。……しばらく二人は無言で歩き続ける。
しばらく歩いて開けた場所に出る。しかしそこは、最初に二人が目を覚ました場所であった。先ほど落ちた湖の形も、滑った岩肌も先ほど見たものと同じものだ。
「……全く、どうなってんのよ?」
「うーん、こりゃあ厄介だなぁ……」
翔太は腕を組んで、ここに来て気づいたあの存在がいた方向を見やる。
まだいる。
「……まだ、いる、か」
翔太は自身が役に立たないと自覚できているため、早々にここから離れようと時恵の肩に手を置く。
「なあ、この部屋から離れよう。……今度は逆に行ってみようぜ。ほら、逆から見ると景色って違がって見えるし、何かに気が付くだろう?」
「そ、そうね」
時恵も先ほどまでこちらの様子をじっと見つめてくる存在に気付いているため、翔太の提案に頷いた。
二人は歩み始める。行きと変わらず逆から見ても湿った岩肌と水溜まりはほとんど変わらない。二人は歩きながら会話を始めた。
「ねえ、さっきの……最初の部屋にいたの、何?」
「ん? いや、俺が知るわけないだろ……」
時恵の質問に翔太は困ったように笑う。だが、殺気とまではいかないが、睨まれているような感覚ですごく気持ち悪く……そう、まるで獲物の出方を伺っているようなそんな視線だ。
「あれ、どのぐらい強いと思う?」
「わっかんね。……二人で倒せるレベルだとこちらとしても嬉しい限りだが、そんなご都合主義展開は期待しない方がいいわな」
「まだ状況を整理もできてないのに……」
「ん、いや、大体想像つくぞ。ほら、最後に聞いた誰かの声……」
時恵は首を傾げる。「最後に聞いた声」を思い出そうと唸る。
「舞台は整った……って奴?」
「そっそ。まあそいつは俺達を引き込んでさっきの……アレの餌にしようって魂胆だろう。それで俺達をそいつに食わせてなんかして、世界を繋げちまおうって感じだと思う」
「え、この短時間でなんでそんなにわかるのよ」
「似たような展開、ゲームで見たから」
「……ゲーオタもこういうところで役に立つのね」
時恵は笑うと、翔太は鼻を鳴らして腰に手を当てた。
「ゲームや漫画や小説は、人生観を育むための教科書だ。こういうところで得る知識は伊達じゃないぜ」
「……あたしもやってみようかしら、ゲームとか。帰ったら教えなさいよね」
「うん、その前にそういうこと言うのやめよ。怖いから」
「……?」
二人はそう話しながら歩いていると、やはり最初の部屋に戻っていた。
「うん、予想通りだ。あいつを倒さんことには、進むことも退くことも許されなさそうだ」
「……翔太、死力を尽くして頑張りましょ。そうしないと帰れないわ」
二人は覚悟を決めて武器を手に取る。その様子を見ていた黒い影が壁を這って降りてくる。とても巨大だ。水晶の光に照らされると、その姿の全貌が見えてくる。四足歩行する、身体に卵のような丸い球体を無数に着けている……デコボコの肌の黒いトカゲだ。見ているだけで鳥肌が立つその姿に、時恵は「うぅ〜」っと唸って少し屈んだ。
「マジ? アレ相手にしなきゃダメ?」
「マジ。アレ相手にしなきゃダメ」
時恵の言葉をオウム返しするように翔太は答え、手に持っている剣の刃に手を当てた。弱弱しい、消えかかりそうな炎を纏わせるが、威力など期待しない方がいいだろう。
「そいじゃ、死力を尽くして頑張りますか!」
「そうね……!」
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.98 )
- 日時: 2019/10/04 20:02
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
同時刻、違う場所で玲司が目を覚ます。
周囲を見回すと、眼前に広がる連なる山々と谷、風が音を立てている。崖下の遥か先流れる河川、そして白い岩肌と少し冷たいが穏やかな風。空は快晴、綿雲が浮かんでいる。自分たちはというと、少し少し高い丘の草地で倒れていたようだ。そして隣に陽介が横たわって寝息を立てて眠っている。
玲司はこの状況に覚えがあった。とにかく今は陽介を起こそうと、玲司は彼を揺さぶった。
「加宮、起きろ、寝ている場合ではない」
「う、うーん……」
陽介は眠そうに目をこすりながら上半身を起こして周りを見る。そして玲司の顔を見て寝ぼけ眼で「おはようございます」と手を振るが、玲司は無言で目の前の景色に指を差す。陽介は彼の指し示すまま目の前を見る。
数秒後。
「きゃあぁぁぁぁぁぁーっ!!」
「喚くな、抱き着くな」
陽介は思わず少女のような黄色い声で叫んで玲司に抱き着く。玲司は鬱陶しそうに玲司を引きはがそうと彼の両肩を掴んで押し出す。
「な、ななな、なんですかこれ! ぼく達、一体——」
「「永劫の螺旋」という名の多重空間世界だ。この空間は複数の幻想世界が螺旋状に重なり合い、入った人間を閉じ込めてその生命力を「祭壇」に集めるという厄介な場所だ。だが、逆に奴らが用意したナイトメアを倒せばこの空間は崩壊し、別の空間へと移動できる。さあいくぞ。ここにいるナイトメアを始末しない限り、進むことも退くこともできん」
「え、え?」
陽介はさっさと立ち上がりながらさらっと重要な事を口にする彼に驚き、慌てて彼についていく。
「ど、どういうことですか、御海堂先輩?」
「だからさっきも言ったろう。ここにいるナイトメアを倒さねば、俺達は死んで祭壇に捧げられて現実と幻想は繋がって終わりだ」
「そ、そんな!」
玲司は戸惑う陽介に説明しつつ、何かを探しているようで、弓を取り出すと矢を引いて山の方に狙いを定める。迷いのない動きに陽介は記憶を手繰り寄せる。玲司は何度も同じ時間を経験していると言っていた。だから嫌でもどこに何があるのか、そしてこれから何が起きるのかがわかるのだろう。それに彼の凄まじいほどの正確さと戦闘能力の高さが、それを裏付ける。陽介は玲司が矢を放つ前に、本を取り出して魔法を放つ準備をした。
玲司は矢を放つ。
放たれた矢は青い光を放ち、線を描くように山の中へと目に留まらぬ速さで飛んでいく。その矢は何かに命中した。
その直後、大きな二つの影が広がって羽ばたく。そして、その影が目に入って陽介は怖気づいた。玲司と陽介が見ていたもの、それは山ではなく山のような巨竜だったのだ。緑色の鱗、此方を睨む二つの赤く鋭い瞳。大きく避けている真っ赤な口。今まで見てきた飛竜などがかわいく感じるほどの、迫力のあるその姿に、まるで前に見た恐竜が暴れまわる映画の中にいる気分だ。
陽介はその姿を見た瞬間、身体全体が震え上がる。こんな巨大な敵、二人だけで倒せるのか? そう考えると恐怖で目を白黒させていた。
「あわわわ……!」
「怯むな加宮、お前ならできる。」
玲司はそう言うと、陽介の頭にポンっと手を置く。玲司の手の温かさが伝わり、陽介は玲司の顔を見上げた。その顔は少しも怯む事も、ましてや恐怖などは一切なく、いつものキリッとした顔つきだ。だが……なんとなくだが、自分はやれる。と思えてしまう事が不思議だ。陽介は再び魔法を放つために、右手で本を開いて左手をかざし、手のひらに力を集めた。
「……は、はい!」
玲司に後れを取らぬように、彼の信頼に答えなければならない。陽介はそう思い、力強く返事した。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.99 )
- 日時: 2019/10/05 21:33
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
悠樹と詩織、そして愛実は共に茶を飲んで一息ついていたが、悠樹の顔に焦燥が見え隠れする。皆の危機だというのに、こんなところでじっとしているのは不本意なのだろう。忙しなく指をちゃぶ台に叩いている。詩織も同じ様子で、そわそわしながら周りを見ていた。
そんな二人に対し、愛実は手を組み顎をのせて彼らを見て口を開く。
「悠樹、それに詩織ちゃん……」
「どうしたんだよ、母さん。皆のいる場所が分かったのか?」
悠樹が聞き返すと、愛実は「いや、そうじゃない」と首を振った。その顔は寂し気で、口に出していいモノかと戸惑っている様子だった。愛実の態度に、悠樹も詩織も顔を見合わせる。なんだかさっきから様子がおかしい……。一体どうしたのだろうか?
「……えっと、ね。怒らないで聞いてほしいんだけど」
「どうしたんですか、おばさん」
「二人とも、あのね……」
愛実は決心したように二人の顔を見据える。
「……このまま、この場所でずっと母さんと一緒にいないか……って、ね」
愛実の言葉を聞いて悠樹は首を傾げた。彼女が突然何を言い出したかよくわからないからだ。
「何言ってるんだよ母さん」
「聞いて」
愛実は悠樹の顔を見ず、というよりも俯いて表情を見せずに悠樹の言葉を遮る。
「あのね、この幻想世界は特殊な作りでね。ゲートキーパーであるナイトメアを倒さないと、この空間から脱出することはできないの。ゲートキーパーは中に入ってきてる人間を倒して生命力を「祭壇」に送る事が目的でね、各場所にいるナイトメアを倒さない限り、君らは永遠に進むことも退くことも、ましてやラスボスに出会うこともできないんだよね」
愛実の言葉に詩織は慌てて悠樹を見る。
「じゃ、じゃあ、そのゲートキーパーっていうの、探せばいいんじゃないかな?」
「まだ話は終わってないよ詩織ちゃん」
愛実は詩織を見ながらそう言うと、頬杖をついて二人を見つめた。
「ここのゲートキーパーってのは私だよ……厳密にはサリーちゃんだけど」
二人はその言葉を聞いて驚いた。愛実の頭上で羽ばたいているサリエルも、先ほどから言葉を発しない。ではなぜ共にゆっくりとお茶でも飲んでいるのだろうか? さっさと戦闘を仕掛ければ、いいはずなのに。と悠樹が考えていると、愛実はその考えを見通すように、にっと笑う。
「……私が、かわいい息子とその彼女さんを手にかけるなんて、無理に決まってんじゃん。だからこうしてのんびりして時間が経つのを待ってたの。……二人の決心を鈍らせたいとか、母さんともうちょっと一緒にいたいとか、考えてもらえるようにね。まあ、無理っぽいけどさ」
愛実はそう寂し気に口にする。「彼女さん」というワードに詩織はドキッと心臓が跳ねるような気分がしたが、一刻も早く皆のところに行って守らないとという気持ちと、母親と戦うなんて優しい悠樹は必ず躊躇するだろう。そう考えるなら、自分が手を引いてでも目の前にいる人を倒さなければならない。それが大好きな悠樹のためだ。首を振って愛実の言葉を否定した。
「でも、おばさんを倒さないと先に進めないなら、私は……悠樹くんを引き摺ってでも、おばさんを手にかけようとも進みます」
「うん、さっすが未来の悠樹のお嫁さん♪ 将来は安泰だねぇ」
「か、からかわないでください!」
愛実が茶化すと詩織は顔を真っ赤にさせて声を荒げた。その様子を見て微笑みながら、愛実は悠樹の方を見る。
「悠樹はどう?」
「……俺、は……いや」
悠樹は迷っていた。……しかし、詩織は大切な仲間のためであれば幼馴染の母をも越えて進むと言う。彼女の事だ、その言葉に嘘偽りなく、有言実行してしまうだろう。それに、どのみち母を倒さねばここから出ることもできない。悠樹は首を振って迷いを捨てる。
「ごめん母さん、俺は行かなきゃならない。……こんな場所で足止め喰らってる場合じゃないから……あと、お茶ありがとう」
「そっか、なら……」
愛実はそう言うと、背後に置いてあった身の丈ほどの刀剣を手に取ったかと思うと、右手で刀剣を振る。目にも留まらぬその速度で、ちゃぶ台は真っ二つに割れた。
「私も本気を出さねばなるまい。……手加減なんかしない、本気でかかってこい!」
愛実は笑みを浮かべて肩に刀剣を担ぎ、立ち上がる。
二人は突然の斬撃に驚いたが、傷はない。しいて言うなら、ちゃぶ台と二人の間の地面が真っ二つである。二人は立ち上がって、悠樹は剣を、詩織は槍を構える。愛実は笑顔ではあるが、放っている気迫が凄まじいものだ。
「ま、サリーちゃんは抜け殻同然だから、私が代わりに戦ってあげるわね」
「回復くらいはできるわ莫迦者!」
サリエルはそう怒っているのを愛実は眺めている。本当に気が抜けてるのか、どこまで本気なのかはわからない自由奔放な人だ。
だが、悠樹も詩織も油断せず、愛実を睨む。
隙はないが、二人で協力すれば必ず倒せる。……二人は互いを見合わせて頷いた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.100 )
- 日時: 2019/10/06 20:46
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
怒気にも似た表情で愛実はこちらを見ている。……出方を伺っているのだろうか、瞬き一つでもすぐさま反応しそうなその隙の無さ。……不意を突こうなんてものならすぐに腕の一本でも持っていかれそうだ。この緊張感はまるで蛇に睨まれた蛙のよう。
だが、悠樹は剣を握り締める。どんなに恐ろしくとも、退けないのなら進むしかない。
「いくぞ、母さん!」
悠樹は自身を奮い立たせるため、声の限り叫ぶ。その声に一瞬怯んだような顔をするが、すぐさまにっこり笑って「おー、こいこい!」と愛実は剣を構えた。
悠樹は愛実に向かって剣を両手で握り、刺突させ愛実の右肩を狙う。だが、愛実はそれを狙って体を左へ逸らせた。悠樹は空を切り、剣を左手で回し持ち直す。そして次の攻撃を仕掛けるべく剣を振った。愛実も振られた剣を自身の剣で受け止め、はじく。愛実の剣は重く、悠樹は仰け反った。しかし、その隙をついて詩織は声を上げて槍を持って突撃してくる。愛実は一旦しゃがんでその突きを見切り、詩織の足を蹴って足払いした。詩織は「あわわ!?」と声を上げて崩れ落ちるが、悠樹は愛実の左肩に剣を刺突する。
「うおぉ!?」
愛実は驚いて思わず左手でその剣を握り締めて動きを止めて、呼吸を乱していた。
「肩を狙うとか、容赦ないわね〜……」
「その剣を思わず握って動きを止める母さんも相当だって!」
悠樹は剣を引く。詩織も動揺はしていたが、すぐに持ち直した。
愛実はというと、剣を握ってしまったため左の手のひらに切り傷ができて、そこから血がしたたり落ちていた。愛実は「いってー」とつぶやきながら、その傷をなめている。
「いやはや、こうも早く私に傷を負わせるなんて大したもんだね」
などと愛実は言いながら、剣を握り締めた右手を大きく振り上げた。
「でーも、本番はこれからってね♪」
愛実の目が赤く光る。と同時に、愛実は悠樹に向かって剣を振り下ろした。それは巨大な剣を振り下ろしているように錯覚し、悠樹は思わず剣を頭上にやって愛実の振り下ろす剣を受け止めようとした。
剣と剣がぶつかり合い、今まで感じたことの無い重圧と衝撃が悠樹の身体、周囲を襲う。衝撃波が周囲一帯に走り、地面が抉られる。悠樹も足元が沈み、その重圧に耐えることで精いっぱいだった。
「悠樹くん!」
詩織はその衝撃に目を奪われていたが、すぐさま愛実に向かって旋風を起こして愛実の動きを止めようとする。だが、愛実は空いた手でその旋風に向かって手を横に滑らせる。その瞬間、旋風は真っ二つに割れて消えてしまった。
「いい判断だよ詩織ちゃん、でも足りない」
愛実はそう言うと、悠樹を蹴って正面の地面へ吹き飛ばす。詩織はその様子に怯み、愛実はその不意を突いて詩織の目の前まで迫ってきていた。そして右手に持つ剣を横に振って詩織の腹を斬った。詩織はそのまま吹き飛ばされて地面を滑る。
「詩織!」
悠樹は自身の腹を抱えながら詩織に向かって叫んだ。だが、愛実はニコニコ笑う。
「安心して、峰打ちだから♪」
その言葉通り、詩織はピクリとも動かないが血も流していない。……気絶しているようだ。
「詩織ちゃんは結構厄介だからね〜。ま、これでしばらく動けないと思うし、ゆうくんとこれでにゃんにゃんできるわね〜」
「気色悪い事言うなよ……」
「ひっど〜い、こういう緊迫した中でもユーモアって大事なんだぞ〜?」
愛実は「しくしく」と目の辺りに手をやって泣いたふりをするが、すぐさま剣を構えて悠樹に向ける。
「さて、続きでもしましょ。まだまだ私、こんなもんじゃないからね〜?」
「あ、ああ。もちろん……」
悠樹も剣を構える。先ほどの蹴り飛ばされたダメージは大きく、少しふらつくが支障はないはず……そう考えて足に力を入れて、地面を踏みしめた。
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