複雑・ファジー小説

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幻想叙事詩レーヴファンタジア
日時: 2019/11/17 19:33
名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259

幻想ユメはいつか現実カタチになる」

東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。




はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。




【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
登場人物オリキャラ】 >>32


目次
序章   >>3-8
第一章  >>9-14
第二章  >>17-24
第三章  >>25-31
第四章  >>44-50
第五章  >>57-66
第六章  >>67-81
第七章  >>82-91
第八章  >>92-105
第九章  >>106-112
第十章  >>113-130
第十一章 >>131-140

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.106 )
日時: 2019/10/18 00:06
名前: ピノ (ID: 3SAHQvg1)

第九章 終焉の刻


 悠樹は目を覚ます。頭痛が走るが、すぐにそれは消えていた。皆とまた離れ離れになってしまったと瞬時に思い出し、立ち上がる。
 そして周囲を見渡すと、どこかの聖堂にいるようだった。長椅子が無造作に重なっていたり倒れていたり、中には壊れている物がある。天井は高く、かなり広い。奥にはステンドグラスがあり、それを通って様々な色の光が漏れて悠樹を照らしている。周りはステンドグラスから通る光以外の光源はなく、若干薄暗い。ステンドグラスの下には、大きなパイプオルガンがある。そのパイプオルガンの上に誰かが足を組んで座っているのが見えた。
 悠樹は静かに立ち、パイプオルガンに近づいてその人物をよく見てみる。
 白い短髪の整った前髪で右目を隠し、頭には銀色のクラウンが……浮いているようだ。黒いノースリーブのインナー、白くサイズの大きめのローブ、藍色の肩を露出させたシャツ、黒いズボン……。一見どこにでもいる普通の〜といった感じだが、右側の片翼の白い翼があり、彼もまた夢幻奏者、もしくはナイトメアであることを物語っている。だが、ステンドグラスの逆光のせいで顔がよく見えない。

「やあ、ニイナユウキくん」

 その人物が悠樹の名を呼ぶ。女性とも男性とも取れない、高くも低くもない中性的な声音。だが、悠樹はその声を聴いたことがある。……随分前のような気もするが。だが、人違いかもしれない。そう考えながら……。

「……あなたは?」

 悠樹はいつでも抜けるようにと腰から下げている剣に手をかけ、警戒しながら尋ねる。この場にいるという事は、敵である可能性が高い。その人物は、

「気づいているのでしょう? 君たちも察したように……」

 そういうと、「ふふっ」と小さく笑って、パイプオルガンから飛び降りた。ゆっくりと悠樹の目の前に歩み寄って、姿を見せる。
 悠樹はその顔を見て驚きもせず、ただ冷静に「彼」の名を口にした。

「伊月さん……いえ、指導者」
「「アポロン」でいいですよ。まあ半ば導いたおかげもあって、結構早くここまでたどり着きましたね。賞賛に値しますよ」

 アポロンは赤い瞳を細めて嬉しそうに笑う。
 「導いた」……彼には自分たちの行動は筒抜けだったという事だろう。そうする理由や彼らの目的は、今はまだはっきりとはわからない。だが、良からぬ事には違いない。

「皆はどこに?」

 悠樹は彼の笑みに不気味に思いながらも、そう聞いてみる。アポロンはそれを聞いて静かに答えた。

「退場してもらってます。……安心してください。隔離しているだけです、貴方とのお話が済めば解放しますよ」

 「お話」……。悠樹はそれを聞いて嫌な予感がした。
 今更何を話すというのだろうか? なんて考えながら、首を振る。

「今更あなたと言葉遊びをするつもりはない」
「言葉遊び……まあそんなつもりは端からないんですが」

 アポロンは肩をすくめ、悠樹に手のひらを差し出す。悠樹はその手を見てきょとんとした顔で彼の名を見ると、彼は涼しい顔である。

「単刀直入に言います。僕は君の……ユウキくんの力が欲しい。君の力は我々幻想が持ちえないい唯一無二のモノ……君と僕が手を組めば、必ず新たな世界を切り開けると思うのです」

 アポロンの申し出に悠樹は驚いて目を見開く。思わず剣から手を離して彼の顔を見た。
 冗談……でもなさそうだが、彼がなぜ俺なんかを? という疑問で頭が埋め尽くされている。真の目的は何なのか? 言葉通りの目的なのだろうか?
 悠樹は深く考える。

 ……いや、考えるまでもない。悠樹の答えはもう決まっているも同然だった。

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.107 )
日時: 2019/10/14 20:00
名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)

「すみません、どういう理由があっても、あなたとは手を組めない」

 悠樹はそう答える。答えた後、皆が人質にされているかもしれない。というのが頭をよぎったが、ここで彼の話に乗れば確実に皆から烈火のごとく怒られる事だろう。自分が人質にとられていても、怒ると思う。
 アポロンは悠樹の答えを聞いて「そういうと思ったよ」と粗方予想していたように笑う。

「まあ答えはどちらでもいいんですけどね……そう警戒しなくても、どう答えても何かするわけじゃないですよ、安心してください」

 そうは言われても、彼は敵のボス。……警戒を解く事の方が難しい。

「さっき話がしたいって言ったじゃないですか。……あれは本心です。君の事、特に……君の顕現の力に興味があるんです」
「だから言葉遊びはするつもりはないと——」
「今は争う気もないんです。僕は武器を持っていない。君が僕の心臓を穿っても、僕は抵抗できませんよ」

 アポロンは両手を上げて、無抵抗だと意思表示している。同時に彼は「こんな無抵抗の者に攻撃でもするのか?」と挑発もしているのだろう。確かにここで彼を討てばすべてが終わる……だが、もし隔離されている皆が戻らなかったら? 他に黒幕がいた場合は? まだ疑問が残っている以上、無暗に攻撃するよりは、彼の言葉に耳を傾けるべきだろうか……悠樹は一旦剣から手を離す。

「わかった、今だけはあなたのお話とやらに付き合うよ」
「流石お話が分かる。嫌いではありませんよ」

 アポロンは尚も笑顔を見せ、悠樹を見ている。

「早速聞きたいんですが、ユウキくん。あなたのその力……一体何なのですか?」

 興味津々に悠樹の顔を見て尋ねるアポロン。
 悠樹は腕を組んで深く考える。自分も聞きたいくらいだ。……ナイトメアとの繋がりを断つ……というよりは顕現の力を打ち消している。と解釈できる。

「顕現の力を打ち消している、だと思う」
「それはおかしい。ならば、ユウキくんの力が消えていると思うんですけどね」
「……そうは言われても、俺が聞きたいくらいだ。……あなたたちの中に、同じような力を持つ方はいないのか?」

 悠樹はそう尋ねると、アポロンは「そうですねぇ」と頬に手を当てる。

「そんな特異な力を持っているならば、今頃その方が僕の代わりに指導者をしてると思いますよ。なんせ、顕現の力を打ち消すことができるのですから」

 彼らの存在は顕現の力が可視化できているようなもの。人間とは違い、入れ物を持たず魂が露出しているような体だ。だから、「魂そのものを否定する」ような力は、危険でもあり興味深いものでもある。
 アポロンがそう語ると、悠樹は「そういうものなのかな」と俯いた。

「あなたのその心持ちが、顕現に影響したのでしょうね」

 彼はそう言ってまた笑う。
 悠樹はその返答には何も答えず、今度は自分が彼に質問した。

「あの、じゃあ、幻想世界って何だ? いつから存在しているんだ?」

 アポロンはその質問を聞いて、腕を組んで首を傾けて悩んでいた。

「難しいですねぇ。そもそも我々は人間とは違い、人間の幻想から生まれるので……もしかしたら、「神」というものが人間、幻想、世界を創造したのかもしれません。まあ見たこともないし、気にしたこともないんで、わかりませんけどね」

 指導者である彼は、力を持つただの一介のナイトメアらしい。……悠樹はそう解釈する。
 悠樹は腕を組み、考えた。だが、答えを聞くのが恐ろしいと思い、後回しにしようと思っていた疑問を彼に尋ねる。今聞いても後から聞いても、変わらない。そう思いながら。

「……あなたが今器にしている伊月さんは、どこにいるんだ?」

 アポロンはその質問に眉をひそめ、静かに答える。

「もうお気づきだとは思うんですけどね」

 アポロンの答えに悠樹は無言で彼の顔を見つめていた。

「「朝陽伊月」の魂はもう存在しません。僕が食べつくしてしまいましたからね」

 残酷なほどあっさりとそう答えるアポロン。悠樹は「そうか」と答える。どうしようもできない。彼を殴りつけたところで現状は変わらない。この場に知優がいたら、泣き出してしまうか、彼を斬っていたかもしれない。悠樹が今冷静でいられるのは、伊月の事をあまりよく知らないからだ。薄々は気づいていたし、聞いたところで彼の敵討ちなどと考えられるはずもない。
 悠樹はどういう顔をすればいいかわからず、複雑な気分であった。

 彼との対談は続き、他愛のない質疑応答や互いの情報交換。腹を探るような質問にはお互い答えなかったが、アポロンは満足げに笑みを浮かべていた。
 そして彼はふと視線を周囲に向ける。そしてすぐに何事もなかったように悠樹の顔を見た。

「まあ、お話した後ですし、もう一度お聞きしたいんですが……我々と手を組む気はありませんか? 僕達が手を組めば、一つとなった二つの世界は、より良い世界になると思うのです。……いかがです?」

 アポロンは再びそう申し出る。
 だが、悠樹の答えは変わらない。自身の力をそういった事に使いたくはない。

「俺の答えは変わらない。あなたとは手を組めない」

 悠樹は首を振った後、そう答える。
 その瞬間、アポロンから殺気を感じ取り、悠樹は反射的に剣を構えた。アポロンは笑顔のまま「やはり、そうですよね」と口にする。やはり何か仕掛けてきそうだ。悠樹は警戒する。



「まあ、あなたがどう答えようとも……舞台はもう整っているのですよ」

 アポロンがそう言い放つと、突然悠樹の身体に何か重いものがのしかかるような感覚がして、悠樹は思わず地にひれ伏す。
 何が起きているのかと悠樹は身体を動かそうとするが、重圧がのしかかっているようでうまく動けない。抵抗をしようにも、指一本すら動かすことはできない。
 そこに、背後から数人の足音が聞こえる。足音は悠樹の背後で止まると、頭上から声が降ってくる。

「そう、どう抵抗しようとも、世界は一つになるんだ」

 その声は、聞き覚えがある少年の声だった。

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.108 )
日時: 2019/10/14 21:49
名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)

 悠樹の背後にいた少年は、悠樹から彼の姿が見える場所までゆっくりと歩く。悠樹はその姿を見て驚き、口を開く。

「渚!?」
「ようやく答えにたどり着いたようだね。些か遅い気もするけど」

 渚は悠樹を見下ろしてほくそ笑む。その笑みは、以前見た人懐っこいモノとはかけ離れ、恐ろしく歪み、他人を心底バカにしているモノだ。悠樹は歪んだ笑顔を目の当たりにし、怯む。

「君は今回のパーティの主役だからね。この特等席でショーを楽しんでほしい」
「ショー……?」

 何が始まるというのか? 悠樹は怪訝そうな顔で渚を見た。
 ……ロクでもないモノには変わりはないはずだ。と悠樹は歯を食いしばるが、やはり身体は動いてくれない。
 渚は腕を正面に上げ、背後にいる数人に何かを命じている。本当に、一体何が始まるんだ……? 悠樹は答えを知りたいという反面、恐怖で胸が痛む。
 そんな彼を見て、渚はその場にしゃがみ、悠樹の顔をのぞき込んだ。やはり歪んだ笑顔で白い歯を見せながら、口を開いた。

「待っている間に良い事を教えてあげよう」
「良い事……?」
「ああ。君たちが会っていたユピテル……彼、あの後どうなったと思う?」

 今更何の話なのだろうか? その言葉の続きを聞きたくはないが、渚は容赦なく続ける。

「ぼくがこの手で殺したんだ。余計な事ばかりしゃべっていたからね……心臓を穿った後も友達の事を心配してたみたいでさ。自分が死ぬっていうのにおかしいったらないや」

 彼はとても楽しそうに声を上げて笑っていた。……なにがおかしいのか、悠樹には理解できない。だが分かったことはある。彼は他人の死に興味がないということが。何がどう彼をここまで変えてしまったかなどわかるはずもない。悠樹はそう考えながらも、彼に尋ねた。

「君は……なぜアポロンに協力している?」
「ん? うーん……まあ、退屈しのぎかな」

 渚は肩をすくめながら答える。

「理由なんてないさ、ただの好奇心。「幻想世界と現実世界を繋げたらどうなるのか?」とか「他人が死に、ナイトメアだけの世界になったらどうなるか?」とか、「この世界の人間がどう足掻くか?」って考え始めたら試したくなっちゃってね。「あの人」の手引きがあったとはいえ、こんなうまく事が運ぶなんて思ってなかったけどさ」
「あの人……?」
「あれ、知らない……あ、そっか、記憶ないんだっけ」

 渚は「余計な事言っちゃった」とつぶやきながら口元を抑える。

「君は一体何者なんだ?」
「サトゥルヌスに聞いたよね、異世界人だよ。この世界とは違う場所から来たんだ。研究者をやっててね。人類滅亡の危機を救うために、色々研究をしていたんだけど、テロに巻き込まれてこっちに偶然来ちゃったわけ。それで、面白い事をやってるアポロンと協力することにしたって感じ。……ああ、若く見えるとかそういうのは大丈夫だよ、あっちの世界とこっちの世界では色々相違があるのは当たり前だし」

 渚はそう答えると、後ろに振り向く。準備が終わっているのか、数人の黒いローブに身を包んだ人物と、それらに取り囲まれている少女がいる。あれは、サトゥルヌスだ。体中に打撲のような傷と、痣が残っていて、見ていて痛々しく感じる。

「さて、サトゥルヌス。アポロンを裏切った罪として、君は今から死んでもらうからね」
「——なっ!?」

 悠樹は目を見開き、思わず声を上げてしまう。
 「ショー」が何の事か、ようやく理解した悠樹はやめさせようともがき、声の限り叫ぶが意味をなさない。
 サトゥルヌスは力なく「わかっています」と答えた。弱弱しく消え入りそうな声を出し、俯いている。

「最後に何か言いたいことあるかな?」

 渚は満面の笑みでサトゥルヌスに尋ねた。
 彼女は、悠樹の顔を見て涙を溜めた目で、声を震わせながら口を開いた。

「ユウキ様、時恵ちゃんを……お願いします——」

 そう言い終わるのを待たずに、渚は取り囲んでいる数人に合図を送る。
 悠樹は思わず「やめろ!」と怒声を上げるが、その声は届かなかった。彼らは手に槍を持ち、それを構えて振り上げる。

 渚の「やれ」という指示の後すぐに彼らは槍を真っ直ぐ、サトゥルヌスに振り下ろす。
 その瞬間はスローモーションのように恐ろしくゆっくりとした動きに見えた。だが、鋭い槍は止まらない。

 真っ直ぐ振り下ろされた槍は、サトゥルヌスの身体を貫く。
 彼女の頭はだらんと、力を無くした人形のように垂れ、生気のない瞳がゆっくりと閉じられた。

 彼女の身体から数本の槍を伝って赤黒いモノが広がる。渚はその光景を見て、また一層楽しそうに声を上げて笑っていた。

「やはりあっけないものだね、死というのは! だが、死というモノは儚く美しい。どんな存在も死ぬ瞬間は美しく輝けるものだよ。……それに」

 渚は悠樹の顔をのぞき込み、彼を煽るように口元を歪ませた。

「君のその顔! 初めて会った時の笑顔を絶望に歪ませてみたいと思っていたが……とても似合っているよ。素晴らしいよ悠樹くん!」

 何がそんなに楽しいのかはわからない。だが……悠樹の中ではとてつもない怒りと、どうしていいかわからない悲しみが渦巻いていた。こんな感情は初めてだ、本当に。


「さて、第二ラウンドいこっか」

 渚は悠樹の顔を存分に見終わった後、子供のようにはしゃいで両手を広げる。

「次はだれがいいかな? ……あ、あの詩織ちゃんって子がいいかもね」

 ——詩織!? 悠樹は詩織の名に反応し、顔を上げる。渚は悠樹の驚愕と恐怖と憤怒が混ざり合った表情に喜び、歯を見せて笑っていた。

「そっか、そうだよね。詩織ちゃんがいいよね♪」

 渚はそう言うと、準備を進めるよう指示を出す。ローブを着こんだ人物たちはそそくさと行動に移った。

「ふふふふっ、今度はどんな顔をしてくれるのかな〜? ぼく楽しみだよ」
「も、もう……」
「ん?」

 悠樹が何かを言おうとしているので、渚は耳を傾けて聞いてみる。
 非常に小さく、悠樹はつぶやくように口にした。

「もう、やめてくれ……」

 俯いているので顔は見えない。聞こえているかどうかもわからない。だが、彼の顔は安易に想像ができる。渚はやはり笑みを崩さず答えた。

「やめないよ、これは大事な事なんだ。仲間を一人ずつ殺された勇者は最後どういう行動をとるか? っていう実験♪ ずーーーっと気になってたんだよね」

 今の彼に何を言おうとも、意味はない。悠樹は、何を聞いても「暇つぶし」「退屈しのぎ」ぐらいしか答えは返ってこないだろう……と悟った。サトゥルヌスの死に心が押しつぶされそうだが、次は詩織。いつも寄り添ってくれて、どんな時も笑顔を振りまく彼女も、あんな風にあっさりと死んで、捨てられてしまうのだろうか? 腕が動けば、こんな重力なんて振りほどくというのに。
 悠樹は何もできず、ただ俯くのみであった。


 しかし——

「全く、お前程の者がこの体たらくか? 新名!」

 力強く低い声が響き渡った瞬間、彼らの目の前にあるステンドグラスが勢いよく、音を立てながら砕け散った。

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.109 )
日時: 2019/10/15 20:30
名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)


 ステンドグラスをぶち破り何かがこちら側へと飛び込んでくる。一つ、いや三つ……それ以上だ。飛び込んできたモノは、人だ。それも見覚えのある……。
 飛び込んで着地し、すぐに地面を蹴って剣を構えて切り込んで、目の前にいたローブを着こんだ人物を一刀両断する。それは真っ二つとなり、黒い靄を発して消滅していく。それに乗じて、一緒に飛び込んできた者が次々に、自身の周辺にいた彼らを切り倒していく。

「これは予想外ですね、ミカイドウレイジ君、それにタニザキショウタ君、イチジマケイイチ君」

 アポロンは言葉とは裏腹にただ冷静に彼らの名を呼ぶ。
 慧一はアポロンを見据えると、フンっと鼻を鳴らし、奥の方を指さす。

「もろちん、俺達だけじゃあないぜ」

 慧一がそう言い終わらないうちに、悠樹にのしかかっていた重力がゆっくりとなくなっていき、身体が軽くなる。悠樹は背後に振り向くと、詩織、知優、風奏がいた。

「新名君、遅れてごめんなさい」

 知優がそういうと、詩織が悠樹に抱き着く。抱き着かれた悠樹は驚いて詩織を見るが、彼女は嬉しそうに笑っていた。目に涙を溜めて。

「ごめんね悠樹くん……ごめんね……」

 震える声でそう言いながら、悠樹をぎゅっと抱きしめて離さない。
 風奏はアポロンと渚を指さして、珍しく怒りを露わにして怒声を浴びせた。

「許さないんだから! どういう理由があったにせよ他人の心を弄んで踏みにじるその悪行! お天道様が許してもあたしは許さないわよ!」
「そうよ!」

 風奏の怒声に同意する声がその場に響き渡る。
 声のする方を見ると壁に穴が開いており、そこに時恵と陽介の姿があった。二人とも風奏と同じく激昂している。特に時恵は渚に向かって自身の持つ黒い短剣を力強く向けた。

「よくもあの子を……御託を並べるつもりはないわ。あんたに「だっふんだ!」って言わせてやる!」
「あの、先輩……「ぎゃふん」です、「ぎゃふん」」
「ぎゃふん!」

 陽介の必死のフォローで時恵は顔を真っ赤にさせて思わず叫んでしまう。
 翔太はそれに呆れながらもアポロンと渚に向かって笑みを見せた。

「ま、うちのかわいい悠樹さんをいじめた分は殴らせてもらうな。あと、サトゥルヌスさんの分も、ね」

 渚は各々に武器を向けられ、「ふーん」と声を出す。焦りもせず笑いもしない。頷きながら「なるほどなるほど」と声を出した。

「これが「仲間たちとの絆」って奴? まあそれはいいや。どうやってあの牢獄から脱出したのか、あえて聞きたいんだけど、玲司君」

 名指しされた玲司は腕を組んで答える。

「お前たちのお仲間がカギを開けてくれたのだ。「サトゥルヌスの死を無駄にしないでくれ」とな……」
「なるほど。サトゥルヌスが死ぬまで指をくわえてみてたってわけ、薄情だね」
「……お前たちの用意した錠前が思ったより難解だったのが悪い。おかげで随分と足止めを喰らった」

 玲司は悔しそうに歯を食いしばる。……が、すぐに真顔になってアポロンと渚に指を差す。

「残念だが、ここらで舞台に幕を引こう。大根役者の三文芝居に付き合わされるのはもう終わりだ」

 玲司の言葉に、詩織も同意し、彼らに大声を上げた。

「そうだよ! サトゥルヌスさんを殺して、悠樹くんをこんな目に合わせて! 絶対に許さないんだから!!」

 アポロンはふうっと溜息をつくと、肩をすくめた。

「やれやれ、大根役者に三文芝居とはひどい言われようですね。ですが、まだ幕引きは早いですよ。あなた方の死による最高のフィナーレが残っていますからね」

 そう言いながら彼は右手に白い光を集め始める。光は形を成して、手に取ると天秤の絵が描かれた表紙の、分厚い本になった。そこからはとてつもない力を感じる。……これが彼の夢幻武装なのだろうか?
 渚もそれを見て、「戦うのは専門外なんだけどなぁ」と言いながら、手に黒い光を集め、それを手に取る。漆黒の剣をヒュンっとその場に振って空を切った。こちらはとても禍々しいモノだ。

 悠樹はそれを見て、詩織の肩を借りながら立ち上がる。左手には自身の剣。先ほどまで重力によって体が押さえられていたせいか、足の感覚が浮いてるような感じがする。だが、ここで立ち上がらなければ、もう立ち上がることは叶わないだろう。
 悠樹は剣を握り締めて剣先を力強く二人に向けた。詩織から手を離し、自分の両足で立つ。

「ここからが俺達の反撃だ。……もうこれ以上何も言うことはない。あなたたちを倒す。それだけだ!」

Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.110 )
日時: 2019/10/16 21:07
名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)


 悠樹の声に呼応し、一斉に皆が武器を手にアポロンと渚に攻撃を仕掛ける。
 時恵は自身の影に手を当てて、二人を拘束しようと影を伸ばし、風奏は悠樹の腕に花を咲かせた。花の力で悠樹の体力が少しずつ回復し、悠樹も剣をくるりと一回転した後、渚に向かって刺突した。
 だが、渚はそれを剣ではじき、悠樹は剣をはじき返され、仰け反る。その拍子に剣を手放して落としてしまう。

「悠樹くん!」

 背後にいた詩織と知優はそれぞれの武器で、渚の次の斬りこみを防ぐ。
 渚とアポロンの背後に時恵の影が迫るが、アポロンは既に本を開いて魔法を放ち、その部屋全体に光を照らす。光のせいで時恵の影は消えてしまい、時恵は「加宮!」と叫ぶ。

「いきます!」

 陽介は本を開き、光に向かって手をかざした。すると光を飲み込むように闇が侵食し、辺りは暗くなる。

「なるほど、ヨウスケ君の顕現の力で光を抑えましたか」

 アポロンは若干驚いたような声で頷く。
 玲司と翔太は闇に乗じてアポロンに斬りかかった。だが、アポロンは素早く本から光り輝く剣を引き抜いて二人の剣を受け止めながらも、打ち合う。輝く剣と翔太の燃え盛る剣、玲司の剣により、閃光が走るように剣閃が瞬いて闇を照らす。

「お兄さんも混ぜて頂戴なっと!」

 そこに鎌を振り回しながらアポロンを狙うように斬りこむ慧一。首元を狙うような一撃だったが、アポロンは空いている手に光を纏わせ、鎌の軌道を滑らせて狙いを逸らせる。慧一はそれを見て楽しそうに笑った。

「笑っている場合じゃないですよ先輩!」

 翔太がその笑顔を見て思わず叫ぶと、玲司はアポロンの不意を突いて急所を狙う。だが、アポロンは身体を反らせ、その不意打ちを凌いだ。それを見て玲司は舌打ちをする。

「避けるのは一丁前だな」
「お褒めいただき光栄、ですよ!」

 アポロンは玲司の顔に向かって剣を一突きさせる。一瞬判断が遅れたのか、玲司は一歩遅く避けるが、頬に傷を受ける。浅いのか、赤い線ができただけで済んだ。
 玲司は陽介の様子をちらりと見る。闇魔法を放ち、光魔法を抑え込んでいるようだが、限界が近づいているのか、肩で息をし始めている。

「谷崎、アレやるぞ」
「……えっ」

 玲司の突然の提案に翔太は素っ頓狂な声を出した。そして、「あ、ああ!」と大きな声を上げて、何かを思い出す。その瞬間を狙い、アポロンは陽介を狙う。

「おっと、そうはさせんよ!」
「ふふっ、過保護ですね」

 慧一が陽介の前に立ち塞がり、アポロンの剣を鎌で防ぐ。慧一の攻撃は大ぶりなため、アポロンも容易く避ける。武器を使うごとに、慧一の顔色が悪くなっていく。

「あなたの顕現は確か、他者の血を吸収するものでしたよね。ですが、吸う血がなければ自身の血をも吸われる……長期戦には向かないモノですね」
「おう、じゃあ血を吸わせてくれよ。俺、貧血で死んじゃうかも」

 慧一は二っと笑うと、アポロンもにこりと笑う。
 その背後では、玲司は空気中の水分を自身の顕現で凍り付かせ、見上げるほどの巨大な氷塊を作っていた。一瞬でひやりとした空気に、アポロンも、戦闘中であった渚も振り向く。
 翔太は炎を纏わせた剣を氷に振り下ろし、氷を熱しながら斬る。熱された氷は急激に溶け始め、白い蒸気となって部屋全体を包む。白い蒸気のせいで周りが見えにくくなるが、玲司は陽介に近づいて魔法を放つのをやめるように言う。

「いいんですか?」
「構わん、お前は隠れて休め」

 玲司にそう言われると、陽介は「ありがとうございます」と一言、近くにある長椅子の影に隠れた。

「目くらましのつもりかい?」

 渚がそういうと、額に指を当てる。すると、彼の目が緑色に光る。

「いや、そんなつもりはない」

 悠樹はそう言うと、渚の不意を突き、右脇腹に狙いを定めて剣を刺突させた。
 渚は不意を突かれて悠樹に押し倒される。馬乗りになった状態で脇腹に剣が深く刺さり、渚は思わず苦悶の表情になり、先ほどまでの余裕が消え失せる。

「なっ……!?」

 あまりの痛みに渚は叫び声をあげる。悠樹は深く、さらに深く剣を押し込んで彼が動けないように刺す。さらに大きな声で叫び、痛みを口で表現する渚。

「ここでじっとしててくれ」

 そんな彼に、悠樹はそう言うと立ち上がり、渚から一歩引いた。


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