複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.76 )
- 日時: 2019/09/12 21:02
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
「……という感じで、近くにいたという先輩の下に。」
「なるほど」
慧一は腕を組んで頷いた。悠樹は「ははっ」と笑い、遠い目で上を見上げる。
「なんというか……昔からちっとも変わってなくて安心しました」
「そ、そうなんだ」
悠樹の思い耽るような表情に、慧一は「昔からパワフルでアクティブな人だったんだな」と半ば呆れながら、彼を見ていた。
「そいや、どうやってお前の力を使って皆と合流するつもりだ?」
「む〜……ん……」
「そこまで考えてなかった」という感じで、腕を組んで俯きながら必死に考える悠樹。
「ど、どうしましょう」
「俺に聞くなよ!」
「うーん、うーん……」
「こういう時、アニメじゃ地面に剣を突き刺したりなんかすると、空間が「バリーン」って割れたりしそうなもんだが」
慧一は適当に口にすると、悠樹は、はっと気づいたように指をはじいて音を鳴らしながら、慧一に指を差した。
「それですよ! よし、早速——」
「お前、そんなキャラだっけ……」
悠樹は剣先を床に向けて構え、「ハァッ!」と一言力強く叫ぶと、勢いよく剣先を地面に突き刺す。
しかし、何も起きなかった。
「……何も起きないな」
と、慧一が口にした直後、床にヒビが入る。地震のような轟音と揺れが悠樹と慧一を襲い、二人は尻餅をついた。
「ちょ、これ……」
悠樹は直感した。地面が割れて落ちる。
どこに落ちるとかはわからない。だが、少なくとも……闇の中に落ちるだろう。最初にここに来た時に落とした石は、闇の中に消えていった。死ぬことはなくても永遠に闇の中に沈むだろうか。
悠樹はそれを思い出し、結論を出すと慧一に向かって謝罪の言葉を口にする。
「先輩、すみませんでした」
「謝られても困ります」
慧一は大きなため息をついて、自身の運命に身を委ねた。
そうしている間に地面は割れて足場が崩れ、悠樹の思った通りに闇の中へ、二人は放り出されたのであった。
悠樹は天井を見上げる。
天井もヒビが入り、崩れてくるのが目に入った。おそらく、空間自体が崩れているのだろう……などと考えるが、これから自分たちがどうなるかなんてわからない。
だからこそ、今まで信じたことの無かった「運命」に身を委ねてみよう……と我ながら母が聞いたら大声で笑っていただろう台詞を考えながら、瞼を閉じた。
ただ一つ……
「市嶋先輩、本当にすみませんでした。土曜日に借りた500円、返せそうにありません」
「今それ言ってる場合じゃないよね」
「今しか言えないです、死んだら口にできないんで」
「じゃあ500円返すために転生でもしてきて」
その会話は、闇の中へ消えていった。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.77 )
- 日時: 2019/09/13 20:42
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
「うーん、一人だよ。どうしよう……」
風奏はそう一言こぼし、辺りを見回す。黒い壁や床以外に何もない無機質な空間を、もう何十分歩いたかわからないが、随分と歩き続けているような気がする。
が、誰にも会わないのだ。いつもは陽介がいるので、彼に話しかけたりからかったりすれば気は少しでも紛れるのだが……何もなさ過ぎて息が詰まりそうである。
しかし、とある部屋に入ると、やっと誰かを見つけることができた。風奏は渡りに船だと思い、その人物に声をかけた。
「すみませーん! あたし、こま……!?」
風奏はその人物の顔を見て驚いて目を見開き、指を差す。
「お、お……お兄ちゃん!?」
「……風奏?」
その人物は、風奏の兄である「木下青葉」であった。
青い短髪、長い前髪を三つ編みにして垂らし、青く澄んだ瞳がとても綺麗だ。黒い鎧、青いマントを羽織るその姿は、漫画などでよく見る「竜騎士」のようだ。
風奏は青葉を見るなり、「うわぁん」と声を上げて青葉に抱き着いた。
「会いたかったよお兄ちゃん! どんだけ心配したと思ってんの〜!!」
風奏は青葉に抱き着いて顔を見上げる。目には涙を溜めていた。
「ごめんな、風奏……」
そんな風奏を見て、申し訳なさそうな表情で風奏を見つめる青葉。
「ほんとだよお兄ちゃん、8年間もどこ行ってたの! 人に心配させた罪は重いから、特大パフェおごってもらうから!」
「あ、ああ……本当にすまな——」
青葉がそう言い切る前に、何かに気づいて風奏を抱き寄せ、地面を蹴ってその場から素早く離れた。その瞬間、空間を裂くような衝撃が青葉たちのいた場所に飛びこみ、背後の壁にぶつかって衝撃音と共に壁を抉る。
「あっちゃー、失敗失敗。素直に斬られてくれたら楽に終わったんだけどな〜」
その場に気の抜けた声が飛び込み、声の主が青葉たちの前に姿を現す。赤い髪のポニーテール、金色の瞳の女性……愛実だ。
「だ、誰!?」
風奏は驚いて愛実に問いかける。愛実は「ん?」と首を傾げた後、ふっと笑いながらどや顔を見せつける。
「私は新名愛実。元一児の母のナイトメア狩りのナイトメアさんだ……ぶふっ、サリーちゃんサリーちゃん、今の決まってるっしょ?」
愛実は笑いをこらえながら満面の笑みで頭上にいるサリエルに話しかける。
「新名……? ナイトメア……?」
風奏は訳が分からず言われた言葉を繰り返して呆然としている。が、青葉が風奏の頭を撫で、優しく微笑みかけた。
「大丈夫、あいつは俺を狙う悪い奴だ」
「わ、悪い奴!?」
「ちょちょちょーい! 聞き捨てならんね!」
愛実は怒って右手で青葉を指さす。
「私の縄張りに居座って、人間を食い散らかしてる君だけには言われたくないわね! 幻影を作って、それを操って他人の心を弄ぶ所業! これ以上の悪行は問屋が卸さないんだから!」
「な、何を言ってるの……?」
「風奏、耳を貸してはいけない」
青葉は風奏の耳に優しく両手を当てる。その微笑みは、優しかった兄の物だ。
「ま、どうでもいいや。サリーちゃん、あの青葉って子の魂はまだある?」
「……ナイトメアを追い払えば可能性はある」
「面倒だなぁ、と思ったけど……あの子妹みたいだけど、ちゃちゃっとやって寝よっかな」
愛実は頭をボリボリと掻くと、刀を構えて腰を低くする。
「すーぐ楽にして——」
「ちょ、ちょっと待って!」
青葉の前で風奏は愛実に叫ぶ。
「あなた、いきなり現れて色々言って何なの? お兄ちゃんをどうして殺そうとするの!?」
「ん? ……あー、勘違いされちゃってる。面倒なパターンだわー」
愛実があからさまな態度で溜息をつく。まあ、自分がナイトメアだと名乗ってしまった以上、自分より後ろの肉親を信じるのは火を見るよりも明らかだ。愛実は「面倒だなぁ」とつぶやきながらとりあえず立ち上がる。
「後ろのお兄ちゃん、ナイトメアに憑りつかれてあなた諸共、この幻想世界にいる人間の魂を食べようとしてるの。その子の能力である「影を生み出す能力」を使って、心をかき乱して弱ったところを……ズドン! っとやってパク〜っとね」
愛実は首の前で親指で勢いよく空を斬る。この程度の説明では納得できないとは思うが、彼女も夢幻奏者だし、何とかわかってくれないかな〜なんて思いながら説明した。
だが、風奏は戸惑いの表情を見せ、俯く。
「お、お兄ちゃん……今の話……」
「違う、あいつの話は嘘だ」
青葉は否定する。
「ま、事実は事実なんで……わかったらさっさとどいてくんない、おじょ〜ちゃん」
愛実は殺気立った顔つきで風奏を睨んだ。「どかなければ殺す」と言葉にされなくても表情だけ見ればわかる。
「風奏、俺を信じてくれ……俺は……」
青葉も彼女に対し、愛実の言葉は嘘だと訴えかける。
「ど、どうしたら……あたし……どうしたら……」
風奏は二人の顔を見て戸惑い、身体を縮こませていた。
愛実の表情は確実に嘘をついていない。それはわかるし……青葉の言葉や表情も信じたい。だが、ここで青葉から離れて青葉が本当のことを言っていたとしたら? あるいは愛実が本当のことを言っていたら? 風奏はその場に頭を抱えて蹲る。
「わかんない……どうしたらいいの、ようちゃん……」
風奏は思わず、一番信頼している親友の名を口にし、目をぎゅっとつむった。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.78 )
- 日時: 2019/09/14 19:56
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
しかし、そこに——
「どぉわぁ!?」
ガラスの割れる破裂音と共に数人の声と共に、誰かが頭上から降ってくる。着地に失敗する者と、華麗に着地して立ち上がって衣服についた埃を払う者……見知った人たち! 心霊研究部の皆だと判断すると、風奏は思わず叫ぶ。
「皆!」
「あいたたた……お、風奏じゃないか。……って、そっちのお二人誰!?」
翔太は愛実と青葉を指さして声を上げる。片方は右腕が鬼の手のような腕になっているし、もう一人は事案が発生しようとしている状況に、どう判断すればいいんだこの状況!? と訴えかける顔で時恵を見る。
「ちょ、なんであたしを見んのよ!」
「だって、だってこの状況……わけわっかんねえ……」
「え、えぇーっと……どうすればいいの知優?」
「もしかしたら風奏ちゃんを奪い合ってるとか……!?」
知優もものすごい真剣な表情で衝撃を受けているようだ。悠樹はそこへ割り込んで「いや、絶対違いますから」と首を振って否定する。
「あら、ゆうくん! さっきぶり」
愛実が悠樹に気が付いて手を振る。満面の笑みだ。
「母さん、どういう状況なんだよこれ!?」
「いや、まずこっちが聞きたいんだけど。なんで空から降ってくんのさ……」
「いや、母さんの言う通りにしたらこうなっちゃって」
「そっか、私のせいか」
愛実は納得したようにうんうんと頷く。
「悠樹くん〜! ようちゃ〜ん!!」
風奏は涙を流しながら二人に近づこうと駆け出そうとした。しかし、青葉は彼女の手を引いてそれを止める。
「お、お兄ちゃん?」
「行ってはいけない、あいつらも——」
青葉はそう言うと陽介は風奏に近づく。
「ふうちゃん! ……え、あ、青葉さん?」
陽介は青葉の顔を見て驚いて声を上げる。成長していて顔つきが変わっているようだが、彼の顔はまさしく「木下青葉」のものだ。陽介は戸惑いを見せる。こちらを見ている顔が怖い。それよりも、この気配は……
「ふうちゃん、そいつから離れて!」
「よ、ようちゃん?」
陽介は本を開き、青葉に向かって魔法を放った。魔法陣が浮かび上がり、黒い腕が握りこぶしを作り、青葉を襲う。
だが、陽介の攻撃はひらりとかわされてしまった。
突然の行動に皆は驚くが、青葉から放たれる気配に詩織は叫ぶ。
「あの人、ナイトメアだよ!」
「まあ、このパターンはそうだよな……!」
翔太も頷いて剣を構えた。皆も武器を構え始めるが、時恵はある事に気が付く。
「ねえ、そういえば雪乃は?」
「……今はそっとしておきましょう!」
知優はそう言いながら剣に光を込める。雪乃は戦闘中はどこかに隠れているのか、姿が見えなくなることが多く、彼女の能力では戦闘に参加することは難しい。しかし、戦闘が終わった後にひょっこり現れるので、皆あまり触れていなかった。
時恵も「そうね」と一言言ってから両手に刀を構える。
「皆、ふーちゃんはあの子が抱えたまんまだ、傷つけないように注意しろ!」
慧一が鎌を担いで青葉を指さした。「ふふふーん」と鼻歌交じりに剣を担いで楽しそうにしながら、愛実は上機嫌に言う。
「よーっし、ボーイ&ガールのかっこいいところ、おねーさんに見せて頂戴♪」
愛実の言葉に悠樹は首を傾げた。
「母さんって、44歳じゃなかったっけ?」
「愛実さん17歳、おいおい♪」
「……恥ずかしくない?」
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.79 )
- 日時: 2019/09/15 21:01
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
青葉は空いた手を空に掲げる。
と、同時にその場の景色にヒビが入り、砕けた。かと思いきや、夕日が照らし真っ赤に染まる巨大な建物……ヨーロッパなどの建物の写真集などでよく見る城が目に飛び込んでくる。
というよりも、その城に向かって皆が落ちているのだ。
「うわー! なんで落ちてんの俺らー!?」
「もうなんでもアリアリだよな……」
「冷静過ぎんでしょ悠樹君!?」
翔太は顔に風が当たり、身体全体で風圧を受けながら叫んでいる。
青葉は黒い飛竜を呼び出し、その背中に着地する。もちろん、風奏と共に。
陽介は本を開き、地上に向かって両手をかざした。本から黒い影が大量に吹き出し、落ちてくる皆を飲み込もうとする一つの生き物にも見える。影は皆を飲み込んで地上へと落ちると、地面に叩きつけられ、破裂音と共に影がはじけ飛んで消えた。影の中にいた皆は起き上がって周りを見ると、皆が無事であることを確認する。
青葉は城のバルコニーに、皆は城の前にある中庭のような場所へ着地した。
「皆、無事?」
「咄嗟でしたが、何とかなってよかったです」
「あ、ああ、ありがとな陽介」
愛実はキョロキョロと何かを探している様子だった。
「シリカちゃ〜ん、私のシリカちゃんど〜こ〜?」
「シリカ」というモノを探しているのだろうか? 悠樹はそう考えていると、愛実は「あったあった」と何かに飛びつく。身の丈ほどある刀……愛実の武器であった。
「やぁ、見つけたシリカちゃん〜♪」
愛実は顔をこすりつけた後、刀を担いで不敵な笑いを見せる。
「よーっし、いよいよボス戦だよ皆! 燃えてきたね燃えてきたねこれ〜!」
愛実のテンションで呆れ半分な悠樹だが、気を取り直して青葉を見る。完全に風奏を放す気はなさそうだ。
そう考えていると、周りから何かの気配がする。
剣を握り締めている腐りきって肉が落ちている死体、ローブを纏った骸骨、馬に跨っている骸骨の騎士……ゾンビや骸骨騎士が青葉の召喚に応じて悠樹達を囲んでいた。
愛実は「面倒だなぁ」とつぶやいた後、剣を両手で振りかぶって振り下ろす。轟音と共に衝撃がゾンビや骸骨騎士を一撃で粉砕した後、青葉の下への道……城の上の階へ続く階段への道が開かれた。
「やっぱ骨とか屍じゃ全然ダメだわ、脆い! ……てことでゆうくん、皆! ここは私に任せてさっさと行きたまえ〜?」
愛実は悠樹の背中を押すと、襲い掛かってくるゾンビの喉元を刀で一突き。そして流れるように襲い掛かる骸骨騎士を一刀両断。さらに、二人掛かりで剣を振り下ろす骸骨騎士の攻撃をその場をジャンプして避け、落ちると同時に首を切り落とす。着地と同時に刀を鞘に納め、ふうっと一息ついた瞬間、刀を抜いて回転斬り。周囲から襲い掛かるゾンビや骸骨騎士を一網打尽にした。
知優は青葉を指さし、「行きましょう!」と叫んだ。皆は頷いて城の階段へ走る。
悠樹達がその場から離れると、愛実は囲まれて見えなくなる。……が、あまり心配していなかった。むしろ、ナイトメア達の方が心配だ。
悠樹の見立てでは、愛実の能力は「モノを裂く」力だ。それは物質から空間まで様々だろう。彼女に斬り裂けないモノは恐らくあんまりないだろう。その姿はまさしく、「辻斬り」のようだ。
悠樹達は階段を駆け上がった。
「皆、前!」
詩織は手に持っていた槍を投げながら叫ぶ。
前に見たことのある腐った竜……ゾンビドラゴンだ。今回ばかりは対処法がほぼないに等しいため、苦戦は必至だろう。詩織の槍は竜に命中はしたが、苦しむ気配すらない。痛覚がないと思われる。
翔太は皆より早く前に出て階段を駆け上がり、剣の刀身に手を触れ、刀身をなぞる。すると、刀身が白い炎に包まれ、翔太は両手で剣を握り締め、竜の胸を斬りつけた。竜は叫び声をあげる。
「見たか、俺の新しい技!」
「白い炎……すごいね翔太君!」
詩織が感激して翔太を褒める。だが、竜はまだまだこれからとばかりに身体を起こして咆哮を上げた。
「悠樹、ここは俺らに任せとけ!」
「皆、頑張ってね!」
翔太と詩織は悠樹に手を振ると、竜を見上げる。
しかし、慧一は立ち止まって振り返って、竜の下へ戻ってくる。
「ちーちゃん、任せた。俺はこの子の相手でもしてるわ〜」
「わかったわ、気をつけて!」
知優は予想していたという風に頷いて前を向く。慧一は竜の下へ近づくと同時に、竜の首を切り落とす強力な一撃を与えた。竜の首は宙を舞って地面に落ちる。
だが、竜はまだ動いていた。首から触手のようなものを出し、鞭のように3人に襲い掛かる。
「うわぁ、余計強くなった!?」
「前の奴とおんなじタイプ、か……厄介だなぁ」
「そ、そうですね」
触手は竜の頭部を見つけると掴んで首に戻す。首と頭部がくっついて傷がふさがった。首を落とすだけでは奴は死なないとわかると、慧一は複雑な気分になってしまう。溜息をついた。
「なんか弱点が必ずあるはずです……!」
詩織はそう叫ぶと竜に刺さったままの槍に駆け出して近づいた。
「ん……あ、あれじゃない?」
慧一は竜の額を指さす。額に何か赤い宝石のようなものが埋め込まれているのが見えた。
「よし、あれを砕けば!」
詩織は早速槍を引き抜く。
だが、竜が詩織の動きに気が付いて前足で、彼女を払いのけようとした。だが、慧一は詩織の前に素早く立ち塞がり、鎌で竜の前足を切り裂く。翔太は「今だ!」と叫んで剣を構えて振り上げた。
翔太は剣を振り下ろす。振り下ろした剣から灼熱の炎が噴き出し、それが竜に命中すると炎上した。詩織はそこを狙い、槍を一つ回したあと勢いよく竜に向かって投げた。
槍は竜の額にある宝石に命中し、石は砕け散る。
炎を纏った竜は苦しみ悶えながら体が崩れ始め、肉が溶けて白い骨を残して消えた。
「やったなしおりん!」
「はい! 翔太君もナイスコンビネーション!」
「ああ! 息ぴったりだったぞ」
三人は喜び合った後、先に行った悠樹達を追いかけるべく、階段を駆け上がった。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.80 )
- 日時: 2019/09/16 21:50
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
悠樹達は青葉が立つバルコニーへたどり着く。
青葉の鋭い瞳は、まるで獲物を捕らえようとする獣そのものだ。話し合いは通じないだろうとわかってはいるが、とりあえず最初にやることは話し合いだ。それは悠樹の流儀でもあり、話が通じるのであれば言葉を交わしておきたい。……無駄に終わりそうだが。
「すみません、えーっと……青葉さん。風奏を放していただけませんか」
「……風奏、耳を貸してはいけない。あいつらは敵だ」
「無視された……」
青葉は悠樹の言葉にすら耳を貸さない。それどころかいなかったことにされている。
時恵と知優が前に出て、時恵は指をポキポキと鳴らし、知優は剣を構え直す。
「この期に及んで言葉なんて不要よ、新名君」
「話が通じる相手なら、最初から風奏を放してるでしょ」
「か、過激だなぁ……」
陽介は二人の様子にあわわと口に出しながら、そわそわとしている。
「お、お兄ちゃん……」
「風奏は何も心配しなくていいから」
青葉は風奏に向かって微笑むと、上空から何かが降ってきて悠樹達の前に立ち塞がった。
獅子の頭と体、竜の翼と尻尾を持つ魔獣……神話図鑑にも載っている「キマイラ」だ。その巨体は見上げるほどのもので、恐ろしい威圧感を放っている。
「悠樹、あんたは陽介と一緒に青葉って子を助けなさい。あたしらだけで十分でしょこんなの!」
「道は作る、頼んだわよ」
時恵と知優はキマイラの気を引くべく、少し離れた場所へ走り、時恵は影を伸ばしてキマイラの狙いが時恵に向くように縛り上げ、知優は光の剣閃を飛ばして威嚇する。
二人の様子に、悠樹は頷いて陽介の手を引っ張り、青葉の下へ近づいた。
青葉は二人が来ることを予測していたのか、槍を二人の足元に投げつける。しかし、陽介は本を開き、黒い壁を作ってそれを防いだ。判断が遅れていれば、槍は悠樹に当たっていただろう。
「ありがとう、陽介」
悠樹は陽介に礼を言った後、剣を鞘から抜く。そして構えた後、青葉に向かって刺突した。青葉は素早く腰から下げていた大剣を鞘から抜いて、悠樹の刺突を剣で受け止める。片手に風奏を抱いているというのに、両手剣を片手で持ちながら攻撃を受け止めるので、悠樹は驚いて一歩後ずさった。
「……ふう、やりますね、ニイナユウキ」
突然、青葉はにこやかに笑い、悠樹の名を呼ぶ。
それには悠樹も風奏も驚いた。唐突に先ほどまでの獣のような瞳から一変、騎士のような強い眼光へと変わったのだ。
「ですが、これからですよ」
「あなたは一体……!?」
「指導者の腹心が一人、「ディオニュソス」。ディオで構いません」
ディオはふっと笑う。
そして、剣を振って悠樹に斬りかかった。だが、悠樹は咄嗟の判断で後退し、マントを裂いたくらいで済んだ。
「指導者の命により、邪魔なあなた方を始末しに参りました。大人しく死んでください」
「淡々と結構ひどいこと言いますね……」
「ええ、非道と正直が私の取り柄なんで♪」
ディオはにこりと笑い、剣を風奏の首元に突き付けた。
「まあ、お人好しのあなただ。こうされたら何もできないのでは?」
「——ふうちゃん!」
陽介が叫ぶ。悠樹も目を見開いてそれを見た。にやかな笑顔をはりつける割に、かなりの策士だ。……風奏をずっと放していないのも、これのためだろう。悠樹は彼の笑顔が物凄く恐ろしいものに見えた。
「動かないでください、動けばこの子の顔の皮が剥がれちゃいますから」
ディオは笑顔で大剣の刃を風奏の頬に当てる。そして「おっと」と一言いうと、風奏の頬から一筋の赤い液体が流れて地面に落ちた。
「やめろ!」
「今のはちょっとした脅迫です、今から動けば本当にヤっちゃいますよ〜?」
「ひ、卑怯者!」
陽介は思わず叫ぶ。すると、ディオは陽介に顔を向けた。
「おや、それはまさしく誉め言葉ですね〜。ま、とりあえずあなた、ヨウスケ君……」
ディオは不気味な笑みを強くし、陽介に向かって指を差した。
「ちょっと実験に付き合ってください」
そう言い終わると、ディオの目は赤く光る。目を合わせた陽介は硬直し、身体の力が抜けたかのように、両腕がぶらんと垂れさがった。
「え、え……?」
陽介は戸惑うように声を出す。悠樹もそれに注目していた。……嫌な予感がする。そう考えながら。
「ヨウスケ君、ユウキを殺しなさい」
ディオの声は恐ろしくはっきりと響き渡り、そう口にした後の彼の口元はニィっと両端が吊り上がっていた。
「何を——!?」
悠樹がそう声を上げたと同時に、黒い影が悠樹に襲い掛かる。陽介が本を開いて悠樹に向かって魔法を放ったのだ。悠樹は吹き飛ばされ、地面に身体を擦り付ける。立ち上がろうとするが、陽介の魔法に当たったせいか、視界が暗闇に包まれていてよく見えない。……陽介の魔法の効果だろう、悠樹は目をこするが暗闇が晴れない。
「ようちゃん、やめて!」
「あ、ああ……や、やだ……! 先輩、逃げて!」
風奏と陽介の叫びも空しく、陽介は魔法を放ち続ける。悠樹は抵抗しようにも風奏の事が気がかりで、しかも陽介に攻撃することができず、無抵抗に陽介の魔法を受ける。そもそも、目の前が暗闇に包まれていて、攻撃しようにもどこに行けばいいのか、どこに何があるのかわからない。その間にも陽介は強力な魔法を放ち続け、ディオは魔法を受けてボロ雑巾のようになっていく悠樹の様子を見て、指を差して楽しそうに高笑いを上げていた。
「まだ息があるみたいですね、止めを刺してあげなさい」
ディオは陽介にそう指示すると、陽介は倒れている悠樹に向かって魔法を放とうと悠樹に近づく。そして、手を悠樹に向かってかざした。
「ようちゃんダメ、やめてぇ!」
風奏は涙を流しながら、声を上げた。
その瞬間、悠樹は陽介の足首に手を伸ばして掴む。
「……ごめん」
悠樹は焦点が定まらない目で一言こぼした。
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