複雑・ファジー小説
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- 幻想叙事詩レーヴファンタジア
- 日時: 2019/11/17 19:33
- 名前: ピノ (ID: C9Wlw5Q9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1259
「幻想はいつか現実になる」
東京にある高校、「星生学園」に通うごく普通の男子高生「新名悠樹」。
平凡な毎日を過ごす彼は、ある日事件に巻き込まれ、力に目覚める。
学園での小さな事件は、次第に現実世界を取り巻く事件へと変貌していく事は、まだ誰も知る由もない。
はじめまして!
「幻想叙事詩レーヴファンタジア」をご覧いただきありがとうございます。
当小説は、ゲーム版幻想叙事詩レーヴファンタジアの制作がいまいち進まないんでとりあえず小説書くか!という感じで書いてますので、
更新頻度などはあまり期待なさらず。
内容は、異世界へ飛んで悪い奴をやっつけるというわかりやすい内容です。
が、この小説版ではゲーム版の流れとは違うものを書きたいので、
リク依頼板にてオリキャラを募集し、そのキャラたちとの関係を描いていきたいなとか思ってます。決して丸投げではございません。
ちなみに当作品は「ニチアサ」「爽やか」「幻想」「異世界異能者バトル」がイメージワードです。(バトルを描けるか不安ではありますが)
とりあえず、幻影異聞録♯FE、アンダーナイトインヴァース、女神異聞録デビルサバイバーを知ってる人がいましたら、だいたいあんな感じです。
では、どうぞよしなに。
【登場人物】 >>1
【専門用語】 >>2
【登場人物】 >>32
目次
序章 >>3-8
第一章 >>9-14
第二章 >>17-24
第三章 >>25-31
第四章 >>44-50
第五章 >>57-66
第六章 >>67-81
第七章 >>82-91
第八章 >>92-105
第九章 >>106-112
第十章 >>113-130
第十一章 >>131-140
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.71 )
- 日時: 2019/09/09 01:06
- 名前: ピノ (ID: 74bMPJTH)
時恵と翔太、そして陽介は無機質な洞窟を歩いていた。壁も床も天井も全てが黒いし、他人の顔がはっきり見える程度に薄暗く、空気も少し湿っているようだ。……というよりもかび臭い。地面もぬかるんでいるところもあれば、石のように固いところもある。気味が悪い場所だ。
「他の皆はどこに行ったのかしらね」
時恵は周りを見ながら歩き、そう口にした。静かすぎて自身の声が反響していることに、少々驚きつつも。翔太は腕を頭の後ろにやりながら、「わっかんねー」と気の抜けた声を返す。陽介はというと、本を開いて何かを見ながら二人についてきていた。開かれた本はぼうっと魔法陣が浮かび上がり、ところどころに点々とした光が動いている。翔太はそれに気が付いて、本をのぞき込んでいた。
「陽介、なんじゃそりゃあ」
「えと、この辺の地形っていうか……。空間自体のマップ的なのを表示してるんです。」
時恵もそれを聞いて陽介の本をのぞき込む。確かによく見れば、魔法陣の上にこの辺の地図であろう絵が描かれ、点々が先ほどまで動いていたのに今は動いていない。おそらく、この点々が時恵、翔太、陽介を示しているのだろう。
「ん? そういえば何重にも重なってるわね、どうなってんの?」
「おそらく、この幻想世界は特殊なものと思われます。空間が何重にも重なっているので同じ場所に他の誰かがいても認識できないみたいです」
翔太は目を点にしながら首を傾げる。
「つ、つまり、どういうことだってばよ?」
「えーっと……要するに立っている場所が同じでも、いる場所が違うので互いに干渉しあうことができないんです」
「……さぱらんけど、仮に今ここに別の空間で皆がいても、私たちには気づいてもらえないし、話しかけることもできないって事ね」
陽介の説明に時恵は頭を抱える。翔太も周りを見て、「厄介なところだなぁ」とため息をついた。
「出口は?」
「今探してる途中なんです。……なんせ、意外に広くて」
陽介は本を開いたままマップを隅々まで探してみるが、まるで迷路のように入り組んでいて、出口どころか入り口すら見当たらない。
「こういう時は右手法が一番だよな!」
「んもう、そもそも入り口も出口もないのよ?」
翔太が右手を壁に置くと、時恵は呆れて肩をすくめる。
しかし、翔太が右手を壁に置いた瞬間、翔太が手を置いた壁周りが真四角にへこみ、地響きが起き、大きな音を立てる。
「な、何!? 翔太、あんた何やったのよ!?」
「え、えぇ!? 何にもしてないんですけど!?」
3人が慌てて周りを見ていると、やがて地響きと音がおさまる。と、その瞬間に猛獣の唸り声のような音が響き渡る。そして、部屋の外から複数の足音が近づくのが聞こえた。
「あ、あわわ! 何かきちゃいますよ〜!」
「もう、バカ翔太!」
「いや、これは不可抗力ですよ!?」
各々武器を構え、迫りくるモノを待ち構える。
部屋に勢いよく飛び込んできたのは、翔太の二回りほどの巨体の牛の頭を持った巨人と、通常より一回り大きく赤い目と赤い毛並を持つ犬と、赤い毛並の猫であった。
「「ミノタウロス」、「クーシー」と「ケットシー」です。気をつけてください、数が多いですよ!」
陽介はそう叫びながら、地面に向かって手を当てる。
陽介の立っている周囲の地面が黒く開き、ナイトメア達に勢いよく這いずると、彼らにめがけて黒い無数の棘が襲った。ナイトメア達に命中すると、悲鳴を上げるがすぐに持ち直す。ダメージはあるが、倒れるほどではないようだ。
「意外に生命力があるみたいね……!」
「そうだな、俺達だけで凌げるか?」
「誰に聞いてんのよ、誰に」
時恵は翔太の質問に、「愚問ね」と言わんばかりに肩をすくめて首を振る。そしてすぐに武器を構えてナイトメア達に突撃した。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.72 )
- 日時: 2019/09/09 20:25
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
「おぉーい! 悠樹くーん! 皆ー!」
詩織は大声で悠樹の名前と皆を呼ぶ。しかし返ってくるのは自分の声のみ。詩織は困り果てた表情で腕を組んで「どうしたもんかな」とつぶやく。共にいた知優は「困ったわね」と頬に手を当てて溜息をついた。
「うぅー、大丈夫かな悠樹くん……」
「そうね、皆無事でいてくれればいいんだけれど」
知優は周りを見る。無機質な洞窟を無暗に歩いても体力を失うだけだと考え、どうにかして皆と合流できる方法を探さなくてはいけない。散り散りになってしまった今、戦力が分散されている。この状態でナイトメアが群れになって襲ってくれば一溜りもない。
「葉月さん、風を読んでこの幻想世界の構造を把握できないかしら?」
「風を……あ、それは試したときないです! 早速やってみます!」
詩織は大きく頷いて両手を天井へ掲げて瞳を閉じる。
詩織の周りに旋風が渦巻き、空気が詩織へ集まっていくのがわかる。風は詩織に渦巻くと、他の部屋へ出ていきまた入ってくる。それを何分か続け、詩織は両手を下ろした。そして苦い顔で知優を見る。
「この幻想世界、結構複雑な構造ですよ、なんか迷路みたいに入り組んでます。それに、空間が何重にも重なっているみたいで、その場にいるはずなのに姿形もありません」
「空間が……厄介ね」
知優は腰に手を当てて天井を見上げる。空間が何重にもなっているということは、空間を一つにしない限り、仲間に会うことは叶わない。それどころか、この幻想世界を生み出したナイトメアがどこにいるかもわからない。その上、迷路のように入り組んでいると来た。
「最近、翔太君に貸してもらったホラーゲームの内容みたいです。あれも確か多重空間の世界に飛ばされて、ちょうど私たちみたいに仲間を探して脱出するヤツでしたよ」
「ねえ、葉月さん。そのゲームではどうやって仲間と会えたの?」
知優に尋ねられ、詩織は「えーっとえーっと」と腕を組んで悩む。
「確か、怨霊となって主人公たちを多重空間に連れ込んだ女の子の怨念を取り払って、空間を一つにしたんだったかな……」
「あ、曖昧ね」
「ほ、ホラーだったんで怖くて覚えてらんないですよ……」
詩織は顔を赤らめながら小声でつぶやくように言う。
「じゃあ、ナイトメアを探してみるしかないわね……」
「ん〜……」
知優の言葉に、詩織は苦虫を噛み潰したような顔で唸る。
「でも私たちの他に誰もいなかったですよ、この空間」
「……でも、諦めるわけにはいかないわ。別の方法もあるはず」
知優はそう言うと辺りを見回した。
「休憩しながら進みましょう。そうすれば——」
知優が言い終わる前に、地響きと共に大きな音が響き渡る。詩織は驚いて尻餅をついて、知優も慌てて足を踏ん張って倒れないように体を支えた。地鳴りと音がおさまると、詩織は「あいたた」とつぶやきながら立ち上がる。知優も武器を取り出して周りを見て警戒し始めた。
「葉月さん、今のでパンドラの箱が開いたみたいね」
「えぇ、何を——」
詩織はその言葉の意味を理解した。複数の足音がこちらに迫っているのだ。どんどん近づく音に詩織は槍を手に取る。音は2体3体など生易しいものではない。10体以上は確実にいる。詩織は不安になりつつも知優に尋ねた。
「パンドラの箱って、最後には希望が残るんですよね? ……希望、ありますかね」
「でもやるしかないわよ、例え希望が残らなくても、生き残るためにね」
知優は口元は笑っていたが、汗を額ににじませている。……二人だけでどこまでやれるか不安なのだろう。だが、やるしかない。知優は覚悟を決め、剣を握り締めた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.73 )
- 日時: 2019/09/10 20:02
- 名前: ピノ (ID: gDKdLmL6)
「全く、皆どこ行っちゃったのかしらね〜」
などと誰に向かうでもない独り言をこぼす青年が一人。慧一だ。
彼はコートのポケットに手を突っ込み、皆の名を呼びかけながら暗い洞窟を歩いている。何をしゃべっても独り言になってしまい、虚しくなるだけなので、今はただ状況を頭の中で整理する。
幻想世界に来たはいいものの、どうやら仲間たちとはぐれた形でここに放り出されてしまったらしい。先ほどから歩いて探索を続けているが、黒い壁、床、天井や、なにやら光る不気味な絵や石像以外は、目ぼしいものはほとんどない。それどころか誰にも会わないのだ。
歩いても歩いても誰一人会わないと、とても不安になる。これは人間の性だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。だが、泣き言を言っても状況は変わらないだろうし、慧一自身もそれをわかっていた。とりあえず、誰かに会うまで歩き続けよう。そう考えながら足を止めることなく前へ進んだ。
……どれだけ歩き続けたのだろうか。代り映えしない景色に少々飽き飽きしてきたところに、慧一は「ん?」という声を出し、一度止まる。
「……誰だ?」
慧一は誰かの姿が見えたため、声をかける。しかし、返事はない。慧一は不思議に思ってその姿を追いかける。
走って入り込んだ部屋に、その人物はいた。
慧一はその人物の姿を見て驚いて目を見開き、唇を震わせる。
慧一と同じくセミロングの整った茶髪、丸い茶色の瞳、白いブラウスの上に青いワンピースを着ている幼い少女が慧一を見上げていた。慧一はその少女の事をよく知っている。……いや、知っているどころか、忘れられるはずもない。
「……ふ、「二葉」!?」
慧一は二葉の名を呼ぶ。それを聞いて、二葉はにこりと微笑んだ。
「久しぶりだね、お兄ちゃん」
「生きていた、のか……いや、でも、まさか……お前が生きているはずが……」
慧一は混乱して何がどうなっているのかわからなくなっていた。
二葉が生きているはずはないと彼自身がよく知っているからだ。だが二葉は2本の脚で立ち、血色のいい顔で慧一を見ていた。髪の色も、目の色も、自分そっくりなのを友達に自慢していたのも昨日のように覚えている。
だが、二葉はあの事故に巻き込まれて死んだ。慧一の目の前で。
だから生きているはずがない。慧一はそう首を振る。
「誰だお前は? 妹の真似なんかしやがって、趣味の悪い……」
慧一は素早く二葉の首元に大鎌の刃を突き付ける。少し力を入れれば、首がはね飛ばせる。脅しには近いが、完全に殺意を向けていた。よりにもよって妹の姿を真似するなど、とても許せるものではない。慧一は湧き上がる怒りを抑えつつも、その瞳には殺意をむき出しにしていた。
だが、二葉は困惑した表情で慧一に尋ねる。
「お兄ちゃん、どうしたの? こんな怖いモノなんか出して……もしかして、私を殺すつもりなの?」
「え……!?」
「あの時もそうだった。「あんなこと」しなければ、私は死なずに済んだのに」
「——違う!」
慧一は彼女の言葉を否定するように一際大きな声で叫ぶ。
「何が違うの? 私を殺したのはお兄ちゃんも同然なのに」
「やめろ……」
「お兄ちゃんはなんで生きてるの? 私が死んでも尚、平然と生きているなんて……」
「やめてくれ……」
慧一は大鎌を下ろし、その場に四つん這いになり、首を振って彼女の言葉を必死に否定する。だが、二葉の言葉攻めは尚も続いた。それを否定することができない。いや、してはいけないのだ。なぜなら——
「俺が、二葉をこの手で……殺したから」
……慧一はそう考え、目から一筋の涙をこぼす。
「俺も、死ぬべきなんだ」
あの時死ぬべきだったのは、俺自身だ。と、慧一は大鎌を手に取り刃を首に近づける。鈍色の刃が閃き、慧一は生気のない瞳で、大鎌をを握る手に力を込めた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.74 )
- 日時: 2019/09/11 15:40
- 名前: ピノ (ID: m9NLROFC)
しかしその瞬間、慧一の手首を握り締め、彼の手を止める人物がいた。
慧一はその人物を見上げる。その顔はよく見知った顔……悠樹であった。
「に、ニーナ、君……?」
「あの、何をしてるんですか、先輩」
怒りを抑え込むように静かに尋ねる悠樹。表情も普段温厚なものとはかけ離れ、怒りと悲しみに満ちたものになっていた。
「すみません、さっきまで何をしていたかなんてさっぱりですし、あなたが過去に何をしてたかなんて知りません。……けど」
悠樹は手首を握り締める力を強めた。
「勝手に死のうとするのはいただけません。どういうつもりか知りませんが、独り善がりでどこかにいなくなろうとしないでください!」
それを聞いて慧一は心臓が口から飛び出るような感覚を覚えた。だが、歯を食いしばり、立ち上がって悠樹の胸ぐらをつかみ、怒声を浴びせた。
「——お前に何がわかるっていうんだ!?」
「そんなの知りません! 先輩の事なんて上辺しか知らないし!」
「だったら余計な口を挟むな!」
「そうやって突き放してるから一人で色々考えこんでこういう結果になるんでしょ!?」
「……これが俺の最善の選択だ」
「なんですかそれ、じゃあこれから先も躓いたら自分を犠牲にするんですか? そんなことに意味なんてない、誰も喜んだりしないでしょう!」
「うるせえよ! 部外者は黙ってろ!」
「ああ、もう!」
悠樹は思いっきり頭を振りかぶり、慧一の顎に思い切りぶつけた。慧一は驚いてのけ反り、そのまま尻餅をつく。舌をかんだのか、血がにじんでいる。悠樹は「やり過ぎたか……」とちょっと後悔したものの、慧一を見下ろし、彼の瞳を見据える。
「さっきから自棄になって、子供ですか!? そうやって周りを突き放したって、俺は先輩を追いかけますし、皆も手を引きますよ。……どんな過去があったにせよ、それを引き摺ったって自分が苦しいだけじゃないですか。だったらいっその事そんなこと忘れたらいいんですよ!」
悠樹は自身の言いたいことだけ言い放つと、じっとこちらの様子をうかがっていた二葉の方へと振振り向く。
「どうせお前も幻影だろ? 正体を現せ。他人の心を覗き込んで卑怯な真似ばかりして……おかげで、母さんとまた会えた事はまあ、感謝する!」
悠樹は怒りを込め、剣を握り締めて剣先を二葉に向けた。
「……お兄ちゃん、やめさせて。私を——」
「ああ、もう、猿芝居はやめろ!」
尚も二葉は慧一に語り掛け、悠樹は遮るように怒声を浴びせた。これ以上問答を続ければ慧一がどうにかなってしまいそうだと思ったからだ。
だが、慧一は立ち上がり、大鎌を握り締めて悠樹に近づいた。
「……先輩」
「お兄ちゃん」
慧一はふうっと溜息をついて、大鎌を振り上げた。
「ニーナ君、まだ俺は決別できてないかもしれん。俺は、さ……」
慧一は遠い目で上を見上げる。
「妹を殺したバカ兄貴なんだよ。玲司と二葉と一緒に買い物しててさ、その時に地震が起きて二葉は瓦礫の下敷きになった。その後、俺は何を考えたのか二葉の腕を引っ張ってなんとか助けようとしたんだが……」
慧一は俯いて顔に影を作った。
「その時に、また瓦礫が落ちてきて、気が付けば二葉の腕しか握り締めていなかった。……まあ、助けを呼びに行っても結果は変わらなかっただろうが、俺が玲司と二葉を誘って買い物に行こうなんて言わなけりゃ、こんな事にはならずに済んだかもしれん」
「それは——」
「さっきはありがとな、ニーナ君。おかげで目が覚めたわ。確かに俺は、ヘラヘラ笑って先輩面しながらも他人を突き放してたし、独り善がりが一番嫌いなのに自分のやってることが独り善がりだっていうのもわかった」
慧一は悠樹に向かってにーっと笑った。少し吹っ切れたという感じの、自然な笑顔だ。
「迷惑かけたな、さっきの一発でなーんかどうでもよくなっちまった」
慧一は軽口でそう笑う。
そして大鎌を二葉に向かって思いっきり振り下ろした。
「オ゛……ッ!」
「すまんが、幻影。俺の妹は死んだんだ、退場してくれや」
そう言い残すと、二葉は真っ二つに割れたかと思うと、黒い影となって掻き消えた。
- Re: 幻想叙事詩レーヴファンタジア ( No.75 )
- 日時: 2019/09/13 08:10
- 名前: ピノ (ID: XQp3U0Mo)
慧一は影が消えるまで見届けた後、悠樹に顔を向ける。
「だがニーナ君、ナイスタイミングだったな。なんでここに?」
「えっと、色々と、事情が……」
悠樹は「あはは」と恥ずかしそうに笑った後、懐かしそうに思い出にふけるように遠い目で事情を話し始めた。
それは、少し前に遡る……。
「か、母さん……!?」
悠樹はその人物を見て、やっとの思いでそう口にした。
その後、悠樹は冷静になって考える。こんな場所に似つかわしくない姿、何より、悠樹が最後に見た彼女と全く同じ格好。それに傷一つついていないのだ。
悠樹が最後に見た母の記憶……それは血を流しながら仁王立ちした姿だ。
瞬時に彼女が偽物だと判断した悠樹は、剣を構えて警戒する。
「誰だ、お前は?」
とにかく冷静に。今いる世界は幻想世界。だから何が起ころうが、何があろうが、それは幻想でしかないのだ。そう悠樹は彼女を睨む。
「悠樹、私よ」
「嘘だ、母さんはそんな風に微笑んだりしない」
悠樹は一番記憶に残ってる母の笑顔を思い出す。少なくとも、ふわりとした雰囲気はないはずだ。
「どうして、そんなことを言うの……?」
「だって母さん、いつもヘラヘラ笑ってるし」
彼女の問いに、呆れ半分で答える。思い出される記憶は、本当にパワフルで腕が千切れるんじゃないかってくらい強い力で家族を引っ張るような人だった。
それを、自分が母に助けを求めたせいで、母は……自身を犠牲に行方不明になってしまった。
「母さんは、俺を守るために自分を犠牲に——」
「おぉーい、少年! ちょっと失礼しますよ〜」
悠樹の言葉を遮るように、横から大声が聞こえ、悠樹の前に立つ。女性だ。
「フハハハハハ! 私が来たからにはもう安心だよ少年! あー、これ一度言ってみたかったんだよね。どうかなサリーちゃん?」
「知らん、さっさと片付けろ」
「ふえぇい」
女性は誰かと会話をしている様子だが、他に誰もいない。
そして、女性は手に持っている刀を構え、鞘から勢いよく刀を抜いて、母を両断した。女性は「よし、これにて一件落着!」と嬉々とした様子で腕を振り上げていた。
悠樹は何が起こったかわからず、きょとんとして彼女の姿をよく見る。
赤い髪を白い紐で蝶々結びにしてポニーテールを結び、瞳は金色、着崩した和服と、鮮やかな紅葉や川の流れの絵が描かれた羽織、そして担いでいる刀剣は、鍔のない刀剣で、刀身は刃が漆黒というかなり特徴的な姿だ。ただ、彼女の右腕や右足は人の物ではなく、血のように真っ赤に染まり、鋭い爪も伸びている。
夢幻奏者だろうか? と、悠樹が女性を見ていると、彼女は悠樹を見る。
「大丈夫? 少年、怪我、は……」
「え、え……えぇ!?」
女性と悠樹は互いの顔を見て指を差し合って声を上げて驚いた。
「悠樹!?」
「母さん!?」
二人は同時に叫んで、彼女は「んん〜〜っ!!」っと歓喜の声を上げて悠樹に抱き着いた。
「ゆうくんじゃない〜! 会いたかった、会いたかった!!」
「ちょ、母さん!」
悠樹は母を引きはがすように、彼女の肩を掴んで押し込む。「あぁん」と声を上げているものの、顔を綻ばせて喜んでいる。
彼女は「新名愛実」。悠樹の母であり、8年前の事故で悠樹を庇って行方不明になった……と思われていたが、実は——
「いやはや、私、ゆうくんを逃がした後、四肢をもがれちゃってね〜。出血多量で死んじゃうかなーって思ったところに。こっちのサリーちゃん——」
「「サリエル」だ、莫迦者」
愛実が頭上を指さすと、そこには一匹の蝶が飛んでいた。蛍火のような青い光を纏い、色は淡い桃色と水色が混ざったようで、まさに幻想的な色合いだ。サリエルは元々ナイトメアだったようで、疲弊しきっていたところに偶然愛実と出会い、自分の身体と力を分け与えて彼女の身体に魂を定着させたという。だから、互いの命が融合して定着しあい、愛実は不老不死となって8年前から顔も体も何一つ変わっていない……らしい。
「サリエルが、私に力とか体を分けてくれたから、こうして元気になったんだよね!」
「な、なら……どうして俺たちの前に姿を現さなかったんだよ?」
悠樹がそういうと、サリエルは溜息をついた。
「マナミは私の身体と力を取り込み、今やナイトメアも同然。ナイトメアは現実世界に入ることができない」
「そーゆーこと。ごめんね、心配かけちゃって……会いに行きたかったんだよホントに」
愛実はしゅんとして俯く。しかし、悠樹は首を振って笑顔を見せた。
「いや、いいんだよ。……無事ならそれで」
「ゆ、ゆうくんんん〜〜〜っ!」
愛実は涙を流しながら再び悠樹に抱き着いた。超怪力で抱きしめるもんだから、悠樹は青くなっていた。
「優しいね君はやっぱり! 嬉しい! 母さん嬉しい!!」
「ぐ、ぐるじ……」
「あ、ごめん」
悠樹は解放されると、ふうっと溜息をついて愛実の顔を見た。少し後ろめたさがあるが、これだけは聞いておかなくてはという決意で、尋ねる。
「なあ、母さん……」
「なーに?」
「俺を恨んでいるか? 母さんに助けを求めたせいで、母さんは死にかけて、そんな体になって……」
「ゆうくん……」
愛実はわざとらしく大きな溜息をついて、肩をすくめて呆れた様子で悠樹を見た。
「ゆうくん、私がなんであなたを恨まなきゃいけないのよ。母親っていうのは、子供が無事であればそれだけで生きてけんの。あなたは私の生きがいだし、誇りでもある。そんな子を守れただけでも名誉ってもんよ。……まさか、8年間そんなことを考えてた? 恨んでるかって?」
悠樹が頷くと、愛実は大笑いしながら悠樹の肩をバンバンと叩いた。
「もう、真面目〜! 私はこの通り無事なんだから、この話はここで終わりね。あははははははっ!」
愛実がまた大笑いすると、悠樹は釣られて笑う。
ふと、愛実は周りを見回した。悠樹は首を傾げる。
「母さん?」
「ゆうくん、この幻想世界はゆうくんの力があれば空間を一つにできるわよ」
「……って、なんで俺の力の事知ってんだよ!?」
「私、ナイトメアだし。サリーちゃんもいるし」
それだけでなんとなくもう人間離れしちゃってんだなぁ、と悠樹は額に手を当てて俯く。
「ま、とにかく一番近くのお友達のところに送ってあげるから、あとは何とかなさいな」
愛実はそう言うと、剣を構え空を斬る。するとなんと、空間が裂けてトンネルができたのだ。愛実はトンネルを指さしながら
「この先にお友達がいるみたいだから、その子を助けてあげて。まあ、さっきの幻影がお友達を苦しめてるみたいだし、ゆうくんの力さえあればなんとかなるから。その先は自分で考えろ、以上!」
愛実は言いたい事だけ言い終わると、トンネルの中へ悠樹の背中を蹴り飛ばす。悠樹は「うわぁ!」と叫び声を残してトンネルは閉じてしまった。
「横暴だな」
「このくらいしないと、別れが惜しくなっちゃうしね〜」
愛実は肩をすくめて笑う。
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