複雑・ファジー小説

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Requiem†Apocalypse【完結】
日時: 2023/11/23 17:54
名前: 匿名 (ID: BOCX.xn2)

◆あらすじ
18XX年ヨーロッパ、某所。世間では産業革命だとか、三角貿易だとか、あるいは啓蒙主義が謳われている。そんな目まぐるしく動き回る時代でも、光あるところに闇は必ず存在するものだ。悪意の跳梁跋扈、魑魅魍魎は全てを隠し、奪おうと暗闇から手を伸ばす。「ルカ・フィリッポス」。彼はそんな魑魅魍魎共の手により、無実の罪に問われた。そんな彼に声をかけたのは、教会の閑職、あるいは掃き溜めなどと呼ばれる部署「鎮魂歌レクイエム」の総長の「ガブリエル」だ。彼女は罪に問われ、判決が下されそうなところに意義を唱え、ルカを鎮魂歌レクイエムへ誘い込み、罪を有耶無耶にしたのだ。
そこにいたのは、不倫中の頼りない係長「ヨハンソン・レッド」、そして、無銭飲食を疑われていた奇妙な少年「レク」であった。

「はじめまして、「レク」です。お会いできて、だいぶ感動です」



◆カクヨムでも同時収録。19世紀のヨーロッパを舞台に主人公達が犯罪に立ち向かう、そんなミステリーシュールコメディサスペンスな推理的読み物です。一部暴力表現があります。


◆登場人物
◇レク(レクトゥイン・パース)
13歳。ガブリエルに拾われた頃からずっと感情が無く、生きた人形と称されていた少年。が、仲間達と一緒に過ごすうちに、無表情なりに性格が前面に出てくるようになっている。鎮魂歌レクイエム達の中では飛びぬけた能力と頭脳を持ち、常に考え事をしている様子。飛びぬけた頭脳を持つが故に、食いしん坊で味覚音痴になってしまっている。常にニンニク臭がしている。東洋被れ。

◇ルカ(ルカ・フィリッポス)
16歳。「フィリッポス家惨殺事件」の容疑者だが、真犯人を目撃し、目の前で両親の死を目の当たりにしている少年。現実的で、超能力や霊能力等の不可思議なモノを信じていない。控えめな性格ではあるが、こうだと思ったらはっきりと物申す癖がある。

◇ヨハンソン(ヨハンソン・レッド)
32歳。レクとルカの先輩で、面倒見のいい先輩。ガブリエルとは傍から見るとお似合いカップルに見えるが、上司と部下の関係で、それ以上でもそれ以下でもないそうな。大人の余裕があり、ダジャレや冗談を連呼して場を和ませようとしている。鎮魂歌レクイエムでの受け皿的存在。

◇ガブリエル(ガブリエル=ラ・ピュセル・サ・ザカリヤ)
35歳。鎮魂歌レクイエムの総長であり、レクとルカ、ヨハンソンの上司。なのだが、上司としては頼りにならない。常に欠伸をしていて眠そうな目をしている。教会からもかなり嫌われており、不仲。すぐ舌打ちしたり、態度に出る為である。レクの性格は、彼女の普段の行動に影響されている。鎮魂歌レクイエムのかつての仲間「マリア・シエルフィールド」が銃撃に遭い、今も意識不明の重体。フラッといなくなっているのは、彼女の見舞いに行っているかららしい。

◇マリア(マリア・シエルフィールド)
29歳。鎮魂歌レクイエムの一員。性格はおっとりしていてマイペースで常識外れ。髪はいつもぼさぼさ、ファッションセンスは皆無。何日も同じ服を着ていたり風呂に入らなくても平気というものぐさ。時間にルーズで方向音痴……という残念な女の人。ある事件を追って調べていたところ、意識不明の重体を負う。現在は病院で治療を受けている。

◇マルクス(マルクス・セントラ)
21歳。イーヴン・アカデミーの大学生。マリアが意識不明となった事件に深く関わるが、詳細は迷宮入り事件となり、数年が経っている。現在は塾講師をしており、レクとはたまに会う関係。レクとはマリアの事件をきっかけに恨まれているが、彼的には和解したいらしい。ちなみに左利き。なのでレクからは「左利き」と呼ばれる。

◇マトゥー(マトゥー・カラヴァジオ)
「スクレ・ドゥ・ロワ」の構成員を名乗る謎の男性。

◇シオン(シオン=フェーカ)
22歳。ヨハンソンの浮気相手。鎮魂歌レクイエムにお客様を案内してくる、新人教会騎士。

黙示録
・序ノ廻>>1-19
・甲ノ廻>>20-32
・乙ノ廻>>33-50
・丙ノ廻>>51-61
・次回以降はカクヨムで更新中

Re: Requiem†Apocalypse ( No.52 )
日時: 2023/11/10 20:30
名前: 匿名 (ID: lMEh9zaw)

 僕らはアスラン課長が連れてきた、ジェイコブさんから話を聞く事に。レク君は飽き始めて自分のデスクに戻り、肩たたき棒で肩を叩いてるし、ガブリエルさんはやっぱり今日も不在だし。という事で、僕とヨハンソンさんが二人に向かい合って話を聞くことになった。僕はちょうど林檎を切ったのでそれと、これまたちょうど淹れていた紅茶も2人の前に出す。そして、課長が始めに口を開く。

「……彼はコスミンスキー先生の御子息――と言いましても養子ですが」
「コスミンスキー……って、あの?」

 僕が驚いて声を上げた。だってその先生って、パパとママの親友で、僕も面識があるからだ。

「でも、あの方にこんなに綺麗な息子さんがいたなんて、ビックリです」
「……ああ、君が噂のルカ君か。穏やかな性格や見た目に反して、かなり気が強くて、結構はっきりと物を言って――」
「ついでにゴリラ並の筋力もあります。ぼく、いっつもいじめられてま――」

 僕はすかさず不快な音を出す悪いお口に向かって目の前にあった林檎を投げつけた。「ぼがっ」と鈍い音と共にレク君の口に林檎がすっぽりハマる。とはいえ、僕がさっき出したうさぎの林檎だから、口の中に入るのは想定内。
 なんて、どうでもいいんだけど!

「で、ジェイコブさん。一体何用でこんな地下に? ここは、上の教会騎士では取り扱えないような事件……というより、慈善活動とかイベントの手伝いとかをメインにしているような、カビ臭い場所ですよ」
「うぐっ、本当の事だけど、そう言われると悲しくなってきちゃうわねぇ」

 僕が包み隠さず真実を口にすると、グサグサと擬音が鳴るかのように、ヨハンソンさんが胸を押さえ込んで涙を流していた。
 一方、僕の質問に答えたのは課長。

「ええ。その事ですがね。実は……「難病遺族サークル」というものをご存知ですか?」
「「難病遺族サークル」?」

 なんだそれ。と、思っていたら、レク君が林檎を食べながら、資料の中身を開設してくれた。

「難病で亡くなられた方のご遺族で構成された組織ですね。難病を患い床に伏している方々への、多額の資金援助、募金等を難病を患った方への寄付を目的としている、教会公認の団体ですよ。ルカさん、知らなかったんですか?」
「うん」
「素直だな!」

 いや、知らないものは知らないよ。だって僕、ここに来てからまだ1か月くらいだよ!? しかも毎週のように事件が起きてちゃ、そういうのを調べようにも調べられないじゃん! という心の声をぶつけたいのをぐっとこらえて、作り笑いをレク君に向けた。

「だって君みたいにひねくれたくないしさ」
「ハァ!?」
「静かに二人とも!」

 レク君が苛立ちながら立ち上がるが、ヨハンソンさんが僕らを窘めるように両手を上げ、声を張り上げた。レク君は舌打ちをしてまた座り込んでしまう。で、課長が咳払いをする。

「で、今日はその件で、サークル創始者のジェイコブさんからお話が」

 と、視線をジェイコブさんに送った。

「と、申しますと?」

 ヨハンソンさんが首をかしげる。

「実は……もう亡くなっているのですが、僕の妹から夕べ、手紙が届いたんです」
「亡くなった妹さんからの手紙?」

 僕が驚いて復唱すると、レク君がまるで光の速さの如くジェイコブさんに顔を近づけた。目を輝かせて。

「死者からの手紙!? パネェですね! 高まるぅ~~!!」

 レク君は僕を押し退けてソファに座り、目の前のテーブルにメモ帳を取り出し、彼の話を食い入るように聞き始めた。そんなレク君を横目に、ジェイコブさんは懐から便せんを取り出し、僕らに中身が見えるよう広げてくれた。すかさず、レク君はそれを奪い取り、声を出して読み上げる。

「……「この暗闇に閃く刃から、私を助けて」? はて、どういう意味でしょう」
「刃……刃物?」

 レク君と僕は互いに唸るような声を出し、その意味を考えるがよくわからない。レク君はとりあえずメモを取る。

「実は妹は数年前に病で亡くなったんです。父の懸命な治療も空しく。僕がこのサークルを創設したのも、妹の様な病で苦しみながらただ死を待つ方を、これ以上妹や僕、父の様な思いをしてほしくないというのもあり、学業に専念し医者を目指しつつも、こういった活動を始めたんです」
「悪戯……という可能性は?」

 僕がそう指摘すると、ジェイコブさんはバンッとテーブルを拳で叩きつけた。

「こんな悪質な悪戯、許せる訳ないでしょう!」
「お、落ち着いてください……」

 課長がジェイコブさんを宥めるように、苦笑する。

鎮魂歌レクイエムの皆さんは、「切り裂きジャック事件」はご存知ですか?」

 課長の不意な質問だけど、レク君は頷いた。

「知ってますよ。あの事件の犯人は実は――」
「知っていますなら話が早い!」

 レク君が解説を始めようとすると、課長は遮るように大きな声を出す。レク君はまた不機嫌そうに舌打ちをし、メモを取っていた。

「その切り裂きジャック事件での被害者は、全て難病遺族サークルが寄付した、難病患者の方のみなんです」
「……ほほぉ……」

 レク君は不機嫌そうな顔から上機嫌な顔へとすぐに変えている。面白いくらい単純な子だなぁ……。

「それで……僕はこう思ったんです。妹と、事件の犯人が何らかの関係性があるんじゃないかと。死者からの手紙……「刃」、「私を助けて」って、無関係である事を考える方が難しい! それに、その事件は数年前から続いて、未だ未解決な上に被害者も出続けている」

 僕は切り裂きジャック事件の捜査資料を本棚から探し当て、開く。

 「切り裂きジャック事件」。
 ホワイトチャペル殺人事件の再来とも呼ばれる、難病患者のみを狙った連続殺人事件。被害者は5名。犯行方法はまるでメスで切り裂き、丁寧に内臓を取り除いてかっぴらいた遺体を、病院の木々に吊るすという残忍なもの。その悪質さは、ホワイトチャペル殺人事件以上のものであるが、犯人の足取りも、犯人像も未だ掴めていない。

 遺体を病院の木々に吊るすなんて……悪趣味な。どんな気持ちでそんな事をしているんだろう。僕は身体の底から怒りの熱がこみあげてくる感覚がした。許せない……! そう思いながら、資料を握る手に力が入る。

「妹さんも被害者なのですか?」
「いいえ、妹が亡くなってからの後から起きたので、もしかしたら……サークルを創設した事が何かのきっかけか何かかなとも……」
「……なるほろ」

 レク君がそう言い終わると、メモを取っていた。

「……お願いします、鎮魂歌レクイエムの皆さん、どうかこの切り裂きジャック事件を解決してください。憑依事件をあなた方が解決したとも聞きました。一刻も早く、遺族の皆様や、難病患者の方、その家族の皆様が安心して暮らせるよう、犯人を逮捕してください! この通りです……!」

 突然、ソファから降りたジェイコブさんは額を床に擦り付けて、四つん這いになり始めた。ヨハンソンさんは驚いて「あわあわ」と声を出す。

「あ、わわ……ジェイコブさん、お話はよーく分かりました!」
「――わかっていただけましたか!」
「えっ」

 ヨハンソンさんの「分かりました」に食い入るように反応する課長。そして歓喜の表情を見せ、ジェイコブさんの肩を掴み、彼を起こした。

「良かった、分かっていただけましたよ!」
「え、ちょ――」
鎮魂歌レクイエムの皆さんが捜査してくださるそうです! 良かったですね、本当に良かったですねぇ……」

 課長は涙を目にためながら、良かった良かったと連呼する。

「ありがとうございます……」

 ジェイコブさんも安心しきった顔と泣きそうな顔の表情が混ざり合いながら、力なくお礼を言ってくる。

「これで、ご家族の皆様や遺族の皆様も、きっと納得してくださるでしょう……」
「これで断られたら「ご遺族やご家族の皆様総出で大聖堂に抗議しにくる」と仰ってたですもんね!」
「――!!?」

 課長のしれっと言い放った言葉に、ヨハンソンさんは口をパッカーンと開けて、目を剥く。飛び出てきそうなくらい。課長とジェイコブさんは互いに手を取り合いながら「良かったですね」「良かったです」と言い合い、ヨハンソンさんは粉々になったカミダナを見て、滝の様な涙を流しながら、一言。

「カミダナの呪いだぁ……」

 レク君はそんなヨハンソンさんを無視し、髪をクルクルと指で回している。

「犯人は、難病患者の皆さんをそのような残酷な殺し方をして、一体何を伝えたいんでしょうねぇ」

 レク君がそうつぶやくのを横目に、僕はジェイコブさんの顔を見据える。

「切り裂きジャック事件の、負の連鎖は必ず阻止いたします」
「僕も、できる限りご協力いたします」
「――えっ?」

 ジェイコブさんの言葉に、その場にいる全員が声を上げて彼に注目した。

「サークル創始者であり、代表でもある僕も、必ず捜査に参加いたします」
「が、学業は……」
「1週間休学をいただいたので、問題ありません」
「問題ありすぎなんですが……」

 すると、課長はふうっとため息をつく。

「まあ、それはさておき。実は現在、事件のご遺族の方々にアポイントを取っている最中でして、この後すぐにお伺いができると思われますよ。……ただ、ご遺族の方々は手をこまねいている教会騎士に業を煮やしております。好意的な対応はないものと考えてください」
「しかし、動かねば捜査は進まんでしょ。恐らくその中――」
「恐らくその中に手掛かりが残っていると思われます。なので、すぐに事情聴取に向かいましょう」

 僕がレク君を遮ったからか、レク君は僕をギロリと睨みつけた。

「ぼくが指揮をとります!」

 と、レク君がそういうので、いい加減腹が立ったのもあり、彼の脳天に拳骨を入れてやった。

「申し訳ありません。真剣に取り組みますので、ご安心ください」

 すると、レク君は大声でわめきながら床にゴロゴロ転がり始めた。

「いだいいだい~~こうむしっこーぼーがいだぁ~~~!!!」
「教会名物「転び攻防」かよ……」
「逮捕してやる!」

 レク君がそう言いながら僕に掴みかかろうとするが、ヨハンソンさんが彼を羽交い絞めにしてそれを阻止。

「いい加減にしなさい二人とも!」
「逮捕させろぉぉ!!」
「教会騎士の恥だよ君はッ!」

Re: Requiem†Apocalypse ( No.53 )
日時: 2023/11/10 20:33
名前: 匿名 (ID: lMEh9zaw)

 レク君は僕らを先導するように走っている。ダカダカなんて擬音が出そうなくらいの足の動き。そして、我先にと、クリーニング店のドアをバァンと乱暴に開ける。その勢いで、壁に穴が空いた。

「すみませーん! 教会騎士なんスけどー!」

 大きな音が聞こえたからか、驚いた様子で中から店主が奥から現れ、僕らを見るなり眉をひそめる。……ただ、ドアで壁に穴をあけるくらいの大きな音がしたら、だれでもこんな顔になるよな、と僕は思いつつ。レク君は店主に早速本題を話す。

「我々、数年前から続く、「切り裂きジャック事件」についての捜査をしているのですが、何か知ってい事があれば教えていただけますでしょうか」

 僕らはそうやってとんとん拍子にご遺族の方々に事情聴取をするべく、自宅に伺っていた。

「我々、数年前から続く、「切り裂きジャック事件」について――」

 ご遺族の反応は様々だったが、好意的な反応はほとんどなく、皆しかめ面だった。明らかに拒否反応を示すお母様。不機嫌な顔をしつつも聴取に応じてくれるお父様。黙って頷くお姉様。

「――何か知ってい事があれば教えていただけますでしょうか」
「帰りな!」

 そして、有無を言わさず塩を投げつけてくる、お兄様。塩を投げつけ、ドアを大きな音を立てながら乱暴に閉めていった。レク君は目を見開いてドアを凝視している。

「行くよ」
「はい」

 僕らは、最後のご遺族の方の元へと赴いた。

 その方は、静かに僕らを部屋に上げてくれたが、空気感は最悪。見た目は壮年のおばあ様で、僕らを歓迎しているという雰囲気は一切なく、ずっと俯いていた。その部屋も、少し埃っぽく、掃除は最低限という感じの応接室。カーテンも半分閉まっていて、薄暗い。部屋全体がこのおばあ様の感情を表しているかのようだ。

「我々、数年前から続く、「切り裂きジャック事件」についての捜査をしているのですが、何か知ってい事があれば教えていただけますでしょうか」

 まるでテンプレートでもあるかのように、レク君はそう尋ね、彼女の瞳を見つめる。……すると、おばあ様は口を開いた。その声に生気はなく、やつれている。

「……孫娘が死んで、その両親である息子夫婦も、夫も。後を追うようにして亡くなりました。昨年、難病を患った孫が死んでから……何もかもを失いました」

 ふと、部屋に置かれている写真を見る。笑顔の少女とその両端を囲う男女。そして、少女を抱えている壮年の男性。たくさんの笑顔を写真に収め、たくさん飾られていた。もう二度と戻る事は無い時間。そして、全てを失ってからの空白の時間。このおばあ様は……もう立ち直る事ができないかもしれない。そんな絶望しきった表情をしている。

「心中、お察しいたします」

 僕は感情を込めず、そう淡々と口にした。

「事件が起きた時の事、お教えいただけないでしょうか」

 レク君が再びそう言うと、突然、おばあ様が声を張り上げた。

「……その事について話したところで、家族は戻ってくるのですか!?」

 そして、おばあ様はレク君の肩を揺らし、悲痛の声で叫ぶ。

「私の孫娘を、息子を、妻を、夫を返してください! お願いします! お願いします!」

 レク君はされるがまま俯く。彼女はただ泣き叫びながら、「お願いします」と連呼し、届かぬ思いを僕らにぶつけ続けていた。
 僕は、それを眺めながら思う。この事件の犯人……必ず見つけ出して、自分のやってきた事を、罪を悔い改めさせなきゃ。でないと……この方のような思いをする人が、これからも失ったものに思いを馳せて涙を流し続ける。

「本当に許せない……!」

 僕は歯を食いしばった。




―――




 僕らは一度帰り、ジェイコブさんも一度自分でも調べてみると言われて、別行動。次の手掛かりを探すべく、捜査資料の再度確認、事情聴取の準備を進める事にした。事務所には僕とレク君、そしてヨハンソンさんと課長の4人。次の手掛かりを掴むために、各々で情報整理や関係者へのアポの最中だ。

 犯行時間は決まって零時の鐘が鳴った時。目撃証言によれば犯人像は、シルクハットとマントが特徴の人物……というより、それ以外は遠目じゃ判別ができないだろう。性別は不明。だけど、そんなの変装しているなら誰だって容疑者になりえる。僕はため息をつきながら、捜査資料を読み漁っていたけど、犯人像と犯行方法、犯行時間、被害者の数……それ以上は今の時点じゃ分かりっこない。これじゃあ、数年放置されても仕方ないとさえ思う。
 ふと、レク君の方を見やると、普段はやる気無さそうにダラダラしている彼だが、今日に限ってはイライラしているのか、指でデスクを小刻みに叩いていて、その度にトントンとリズムよく音が鳴り響く。彼の表情も、いつもの無表情から一変して、怒りに満ちていた。

「……ルカさん」
「何?」

 唐突にレク君が僕に声をかけてくる。

「ふざけてますよね、この事件の犯人。……難病患者という弱者を狙い、嘲笑うかのように病院の木に吊るすなんて。本当に……ふざけてる」

 前から思っていたけど、レク君の本心は、僕よりもずっと正義感に燃え、平和と正しさに拘る「教会騎士」なんだ。だから、今回こんな事件が放置されて、そして事件がいつまでも解決されない絶望で、怒りと悲しみをぶつけられた彼は、責任感と、犯人への憤りを感じているのかな……って、これは僕の勝手な思い込みだけど。

「そうだね。こんなヒトをヒトとも思わない犯行、許されない」

 レク君は捜査資料から目を離さず、ぽつぽつとこぼし始めた。

「難病を患い、苦しみ抜きながらも、患者さん達はいつか来る幸せの時間を夢見て、その希望に縋って必死に生きていたんです。……それを奪っていき、今も尚のうのうとこの社会の中で光を浴びながら、次の弱者を狙っているなんて、おかしい。……死は不意に訪れるものですが、誰かが勝手に誘ったり奪ったりするものじゃない」
「……なんだよ。最初は面白がってたくせに」

 僕がそう言うと、ヨハンソンさんが笑いながら、僕らに温かいココアを出してくれた。

「いや~、ご苦労様。しかし、やはり情報が少ないと手掛かりもつかめないね。レク君もリラックスリラックス。気持ちはわかるんだけどね」

 そう言いながら、ヨハンソンさんもデスクについて、マグカップを手に取る。

「しかし、あと一人事情聴取したい人がいるって、課長が言ってたよ~。ね、課長!」
「ええ。「イーサン・カレット」という人物でしてな」

 「イーサン・カレット」。捜査資料にも名前が挙がってる。重要参考人の一人だったけど、現在行方不明。課長が言うには、この人のお父様「アレックス・カレット」さんが郊外の農村で農業を営みながら隠居生活を楽しんでいるとか。

「そのアレックスさんにお電話をしてみたんですが、事件の関連性や彼の行方についても「知らん」の一点張りだそうで」
「明日行ってみましょう。何か隠している可能性もありますし」
「そうですね」

 課長がそう言い、僕も頷く。レク君の方を見ると、何かに気づいたかのように捜査資料を見返している様子だ。……彼の事だ、何か手掛かりを掴んだのかもしれない。

Re: Requiem†Apocalypse ( No.54 )
日時: 2023/11/13 17:07
名前: 匿名 (ID: LRangVyB)

「――したがって、h4=r/2+2(m1/h1+m2) h3……という事で簡単だ。分からない人?」

 とある塾校の一室にて、黒板に数式を書きながら説明する、青年――マルクス・セントラが振り返り、生徒達に尋ねる。すると、生徒たちは全員規律よく顔を上げ、マルクスはたじろぎつつ、「う、うん」と声を出した。

「ま、ぶっちゃけ、受験用の物理は暗記と慣れ。実際、最新の理論と異なる事が結構多い。アカデミーで本格的に勉強を始めれば、物理は本当に面白い世界が広がってる。例えば、「ポール・ランジュバン」が発表した「双子のパラドックス」という相対性理論があるんだけど」

 と、彼が説明を始めると、誰かが教室に入ってきた。マルクスはその人物を一瞬目をやる。誰も気づかれずにどかりと後ろの席に座ったのは、鎮魂歌レクイエムの総長のガブリエルだった。ガブリエルは肘をついてマルクスの講義を黙って聞いている。マルクスは視線を皆に戻し、説明をつづける。

「双子の兄が光速に近いスピードですっ飛んでいく、宇宙船に乗って旅行に行った場合、宇宙船の中では時間が進むスピードが遅くなる。……つまり、ずっと若いままのはずなので、宇宙船にいる兄の方が地球にいる弟よりも若くなるはずだ。って話」

 マルクスは指を使いながら皆に説明する。それに皆は注目して聞いていた。ガブリエルも同じくそれを黙って聞いている。
 ふと、マルクスは時計を見る。講義終了の時間はもうとっくに過ぎており、慌てる様子もなく笑みを見せた。

「悪いね、遅くなっちゃって。今日はここまで。次回の講義は――」

 次回の講義について生徒達に伝え、解散となった。



―――



「すみません、ガブリエルさん。遅くなってしまって」

 マルクスが黒板に書かれた数式を消しながらそう言うと、買ってきたコーヒーを飲みながらガブリエルは手を振った。

「お構いなく、いやはや偶然ってのはすごいもんだね。私もちょうどここに講義に来てたんだよ」
「本職の方は……」
「でえじょうぶ、あいつらだけでもうまく回るし」
「……」

 ふと、マルクスがガブリエルの方へ顔を向けた。

「ところで、後輩がお世話になってるそうですね」
「ん? ああ、まさかコスミンスキーのボンボン息子が依頼人とは。ウヒヒヒ」
「コスミンスキー先生とは仲が良いんですか?」
「同期だよ。イーヴン・アカデミー出身。金のないアイツをいろいろ世話してやってたんさ。そしたらエリート主席で卒業しやがって、今じゃ有名外科医と来たもんだ! いやあ、私なんて「地底の主」なのにどこで道を違えちまったんだか……お零れが欲しいもんだよアッハッハッハ!」
「……へぇ」

 皮肉を含んだ冗談の後笑い飛ばすガブリエルに、マルクスは引きつった笑顔を見せる。

「なあ、マルクス……」
「はい?」
「これ、忘れ物」

 ガブリエルがそう言い、スカートのポケットからジャラジャラと音を立てながら机に置く。何やら金色の鐘のような形の飾りやら、地方のお土産っぽい何かが大量につけられた何かの鍵であった。マルクスはそれを見て目を見開き、すぐに奪い取る。

「あ、これ! どこで!? それより、ありがとうございます!」
「あ、やっぱこのオッサンくせーの、お前の奴だったか。ハハハ、気を付けろよ~」

 笑いながらガブリエルは言い放った。

「お前の部屋にあるもん、バレたらヤバいだろぉ?」
「……」

 一瞬、マルクスの笑顔が消え去るのをガブリエルは見逃さなかった。だが、すぐにマルクスはいつもの笑みを見せる。

「確かに、ゴミ屋敷と化してますからね。大家さんにも怒られちゃうね。ハハハ」
「そうだぞぉ。拾った私がたまたまおまたお優しい聖人だったからよかったものの、わっるぅい事考えてる悪人だったらヤババババーンだったぜ」

 ガブリエルはそう言いながら立ち上がり、教室を後にした。

「それじゃ、おつかれサンテレビ☆」

 と、言い残して。

Re: Requiem†Apocalypse ( No.55 )
日時: 2023/11/13 17:10
名前: 匿名 (ID: LRangVyB)

 翌日、昨日に言った通り、僕らはアレックスさん宅に向かっていた。乗り換え3回の片道2時間の郊外に住んでいるというので、汽車の中で食事を済ませつつ、辿り着いた先は……広大な自然に囲まれた山。森。酸素19%! 空気薄っ! なんて盛大にボケてみたけど誰も見向きもしないや。いや、いいんだけどさ。
 で、課長とジェイコブさん、僕とレク君の4人で、アレックスさん宅に行くわけだけど、ヨハンソンさんは事務所で事務作業&電話対応、ガブリエルさんはいつも通りいない。てことで4人で出向くことになったわけだ。僕らの前をジェイコブさんと課長が歩いていて、その後ろを僕らが歩いている。

「そういや、イーサンさんって、結局なんで捜査資料に載ってるの?」

 駅から出た商店街を通る最中、僕はレク君に尋ねた。すると、レク君は捜査資料を取り出し、資料を振りながら僕に言う。

「資料、見てないんですか?」
「見たよ。見たけど詳しい事が載ってなかったの!」
「それでも教会騎士かよ……」
「ご、ごめんて。だから教えてよ」

 すると、レク君はにやーっと笑う。例の作り笑い。

「しょうがないですね。イーサンさんは容疑者の一人ですよ。詳しくは別冊にありますんで、そっち読んでないとわかんないッスよね」
「べ、別冊あったんだ……」
「これだから脳筋野郎は困る」
「……はあ、ごめんよ。だから教えてってば」

 いい加減腹立つけど、仕方ない……ジェイコブさんもいるし、商店街は意外と人もいるし、喧嘩はあんまりしたくないな。

「「イーサン・カレット」。当時21歳。イーヴン・アカデミー在籍中の工学部の学生さんでした。3人目の事件発生時刻に、現場付近にいたという事で、任意同行の下連行したのですが、その翌日に行方不明。ジェイコブさんの友人だそうです」
「……友人か。でも、どうして行方不明になったの?」
「そいつが分かれば苦労しませんがな……。なんでも、その日の夜は霧が濃かったようでして。室内にも深い霧が入り込んでいたとか」
「え、それっておかしくない?」

 僕はそう口にした。

「ぼくもそう思います。霧は水分と気温の低下と風が吹かない等、限定された条件下でしか起きません。一晩中窓を開けたり、バケツ一杯の水をぶちまけて暖炉をつけたりしない限り、締め切り、ましてや何もしていない部屋の中では発生する可能性は皆無です。それなのに、霧が発生したという事は……ふっ」

 レク君が鼻を鳴らして笑う。

「ま、アレックスさんに会ってからですな、諸々は」
「あ、うん。そうだね」

 僕はそれに頷いた。





―――




「ごめんくださーい」

 課長が呼び鈴を鳴らし、声を張り上げる。見た目は大きくもなく小さくもない、スタンダードな田舎の一軒家。塀に囲まれ、壁には蔦が絡みついている。
 呼び鈴を鳴らしてしばらく。一向に返事がなかった。

「いたら返事してくださーい。いないならいないって言ってくださーい」
「……」

 レク君の戯言にもう突っ込む気も起きない……と思って頭を抱えていると。

「なんじゃいな」

 と、大きなハサミを持った中年男性が庭から顔を出した。北欧人らしい金髪と緑色の瞳の小太りのおじさん。庭の木の散髪中だったみたいだ。

「息子さんの事でお伺いしたい事が」

 レク君がそう言いながらおじさんに近づくと、おじさんは近くの木にハサミを邪魔くさそうに刺した。ハサミは木に深々と刺さって木ごと揺れている。レク君がそれを見てびっくりしたように一歩後退った。

「あんたらも金をせびりに来たんけ?」
「金?」
「金って失礼な――」
「まあまあまあ」

 ジェイコブさんが声を張り上げると、課長は彼を宥める。

「我々は教会騎士です。お話、聞かせていただけませんか」

 僕はすかさず銀の十字架を懐から取り出し、提示する。すると、おじさんはため息をついた。

「入んな、茶でも出すけ」

 僕らは、歓迎はされていないけど、とりあえず中に入らせてもらう事にした。




―――




 僕らは応接室に通され、温かい紅茶を出される。レク君はすかさずそれを飲み干し、げっぷをした。

「げぷっ」

 それを見たおじさん――アレックスさんは顔が引きつる。いや、当然の反応だ。僕はレク君の膝を蹴った。「うっ」と声を漏らす彼。……もうちょっと礼儀と常識を弁えてほしいんだけど!
 アレックスさんはごほんと咳払いをする。

「……あのバカは、数年前の事件現場におったって話じゃろ? 「マッポ」に連れてかれたぁゆうて、そん次ん日にどこぞに行っちまったと聞いてな。こっちは死ぬほど心配して親戚やら頼って島中探したんやが……」
「マッポ?」
「ぼくらの事ですよ」

 僕が疑問を口にすると、すかさずレク君が答えてくれる。アレックスさんは続けた。

「その最中にな、怪しい奴から金の無心の電話がかかってきたんじゃ」
「電話? まさか誘拐とか?」
「知らんよそりゃあ……しばらくすっと、荷物を送りつけて来よってな。どうも、せがれのもんなんじゃよありゃあ。しかもそれを何回か繰り返して来よってからに……」

 レク君がそれを聞いてメモを取る。そして、彼に尋ねた。

「その荷物、何回届きましたか?」
「3回もだよ」
「3回……か」

 レク君がそうつぶやくと、ジェイコブさんが口を開く。

「その荷物って見せていただくことはできませんか?」
「んあ……」

 アレックスさんが唐突の申し出に、間の抜けた声を出して彼の顔を見た。

Re: Requiem†Apocalypse ( No.56 )
日時: 2023/11/13 17:13
名前: 匿名 (ID: LRangVyB)

 早速アレックスさんに案内されて、庭にある倉庫の扉の前へと僕らは立っている。ふと、周りを見ると、さっきまで晴れていたはずなのが、今は曇り空。しかも少し寒く、霧まで立ち込めている。レク君は寒そうに身体を摩っていた。そんな中、アレックスさんは扉を開けようと鍵を外そうとするのだが……。

「んっしょ!」

 錠前が錆びているのか、一向に外れない。ガチャガチャと音が鳴るだけ。アレックスさんは困ったように笑い、こっちを見た。

「古いかんね。いよいよ壊れちまったか」

 と、また外そうとガチャガチャ音を鳴らす。だが、一向にガチャガチャと音が鳴るだけで外れる気配はない。
 僕は着けていた手袋を外し、前へ出た。

「変わってください、僕がやります」

 僕は錠前を握り、力任せにねじ切ってやろうと錠前の両端を握って曲げようと試みるけど、全然ダメ。だったら扉を無理やりこじ開けてやろうかと思い、扉を引こうと奮闘するけど、全く動かない。僕は「ふんぬぅ」と声を鼻や口から出しながら、錠前を外そうと力任せに引っ張ったり曲げたり捩じったり。やっぱりビクともしない。

「クックック……」

 それを見ていたレク君が引き笑いを始め、僕を嘲笑っていた。それでも僕は奮闘し続けて数分が経つ。多少は曲がってきたのだが、やっぱり扉は開かない。

「ビクともしませんなぁ……ぶぅぐぐぐっ」

 レク君が引き笑いをしつつ、僕にそう言うので、なんか悔しくなる。息切れをしながらレク君を見た。

「ハァ……うっせーな。じゃあ、君がやりなよ」
「ぼく、すごいッスよ?」

 と、僕が離れると、レク君が手袋を外し、ポケットに突っ込みながら扉に近づく。そして、錠前に手をかざして……

「はんどぱわー」

 と一言。で、錠前に触れた瞬間だった。
 バキンという大きな音が鳴り、錠前が地面に落ちたのだ。

「すごい!」
「ぼくってやっぱすごーい! 高まる~!」

 課長が驚いて声を上げ、レク君は大喜びできゃっきゃとはしゃいでいる。僕は腕を組んで呆れながら、

「早く開けてよ」

 というと、見せつけるかのようなどや顔で、レク君は扉を開けた。
 倉庫の中身は古ぼけた機械や家財などが置いてあり、普段は使っていないのか、埃っぽく、独特のにおいが鼻につく。すると、アレックスさんが指をさした。

「ああ、あれじゃ」

 その先には、木製の箱。アレックスさんは中へと入り、その箱を両手で持つと、僕らの前に差し出した。

「これにまとめてあるけ」

 僕はそれを受け取ると、箱の中身を確認した。止まった懐中時計3個、そして黒いシミがべっとりと被っている衣服。そして、眼鏡。

「こちら、お預かりしても?」
「構わんよ。俺が持っててもしゃーないけんな」

 と、彼がそうおっしゃるんで、僕らはその他聞きたい事を彼に聴取してから、その日は帰る事にした。




―――





「ご苦労様でした」

 帰ると陽もすっかり落ちていた。事務所に戻ると、ヨハンソンさんが出迎えてくれて、改めて僕らは預かった物をテーブルに広げ、検証する事に。

「しかし……新たな手掛かりは掴めませんでしたね」

 課長が落胆したように肩を落としている。

「ですが、こうして容疑者に関連する証拠品が手に入っただけでも、進歩ですよ」

 僕がそう言うと、課長は頷いた。

「何らかのヒントが隠されているやもしれません。例えばこれ」

 並べた証拠品の数々をレク君は指をさす。

「懐中時計。一つは血液がついていますし、一つはひび割れています。もう一つもこすれた後が。いずれも争った形跡のようなものが残ってますね。それに衣服も眼鏡も同様に。……これが意味するものってなんなんでしょう?」

 すると、ジェイコブさんが眉をひそめるので、僕は声をかけた。

「どうしたんですか?」
「何か気になる事でも?」

 レク君が彼に近づき、顔をぐぐぅと近づけるもんだから、ジェイコブさんも顔をしかめる。

「……いや、もしかしたら、「イーサン・カレット」が犯人で確定じゃないかな、って思って」
「ほお。そりゃどうしてですか?」
「だって、この証拠品……どれも血がついてたり、傷がついてたりしてるじゃないですか」
「ふむ。一理ありますね。血液も鑑識に回し、結果次第では犯人もわかるんじゃないでしょうか……。が、それよりも気になる事が多すぎるんですよねぇ」
「気になる事?」

 ジェイコブさんが目を丸くし、レク君を見る。

「ええ。アレックスさんに金を無心してきた人の正体やら、イーサンさんの不自然な失踪でしたりとか。そして……「霧」」
「霧?」
「ええ。不自然に不自然な場所で不自然な現象。違和感を抱かない奴どんだけー! って感じですよぉ」

 レク君がヘラヘラ笑いながらそう言うと、ジェイコブさんは考え込むように腕を組み、俯いた。

「……犯人は単独ではない可能性も?」

 と彼が口にする。

「いや、その可能性は低そうですよ」

 と、レク君が即座に否定した。

「なぜそう思うのです?」
「そもそもですが。難病患者をなぜ狙う必要があるのか。ぼく、いろんな可能性を考えました。例えば、裏社会では綺麗な内臓を取引する鬼畜の所業のような事が平気で行われているので、それかと思いました。が……」
「が?」
「狙われた被害者が全員、ぼくと同い年の女の子ってところに引っかかってるんですよね。内臓を売る為に難病患者を狙っているのなら、普通に考えれば、男女関係なく、しかもそれこそ年齢もバラバラで、無差別に行うはずです。さらに、綺麗に取り去るならば、証拠も隠滅するはず。そうしなければ、すぐに足が付き、組織は解体されますから。なぜ犯人は、内臓を取り払った皮を病院の木に見せつけるように吊るし、証拠を残しているのか? と、ぼくは思ってます」

 レク君がそこまで言うと、課長は目をぱちくりとさせていた。

「……確かに、被害者は全員13歳の少女です。しかも、金髪で瞳は碧色。規則性がありますね」

 僕は捜査資料を眺めながらそう言うと、課長もヨハンソンさんも仲良く頭を抱えて悩み始めた。

「で、なぜ単独であると思うか、ですが」

 と、レク君が続けた。

「先ほどまでの理由をまとめまして、複数でやるメリットがない。というわけです」

 ……確かに、こんな事件。複数でやれば誰かから足がついて、全員捕まるリスクがある。複数でやるなら、証拠は徹底的にもみ消すだろう。

「あ、ぼくの考えでは、イーサンさんが犯人とは、現時点で言えないと思います」
「なぜ? 失踪してるのに?」

 ジェイコブさんがレク君に尋ねると、レク君は肩をすくめた。

「イーサンさんは逆に、見てはいけないものを見てしまったと考える方が、しっくりきます。それで、犯人に殺された……的な?」

 と、彼がそう言い終わると、ふっと笑う。

「ま、いずれにせよ、推測の域なのですが……しかし、早く犯人を探し当てないとですね。次の犠牲者が出ない内に」

 レク君がそう言うと、ヨハンソンさんがジェイコブさんの前に出た。

「そうです、うちのレク君の言う通り。我々にお任せください! 必ず、犯人を捕まえて見せます!」

 と胸を叩きながらそう言い放った。


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