複雑・ファジー小説

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Requiem†Apocalypse【完結】
日時: 2023/11/23 17:54
名前: 匿名 (ID: BOCX.xn2)

◆あらすじ
18XX年ヨーロッパ、某所。世間では産業革命だとか、三角貿易だとか、あるいは啓蒙主義が謳われている。そんな目まぐるしく動き回る時代でも、光あるところに闇は必ず存在するものだ。悪意の跳梁跋扈、魑魅魍魎は全てを隠し、奪おうと暗闇から手を伸ばす。「ルカ・フィリッポス」。彼はそんな魑魅魍魎共の手により、無実の罪に問われた。そんな彼に声をかけたのは、教会の閑職、あるいは掃き溜めなどと呼ばれる部署「鎮魂歌レクイエム」の総長の「ガブリエル」だ。彼女は罪に問われ、判決が下されそうなところに意義を唱え、ルカを鎮魂歌レクイエムへ誘い込み、罪を有耶無耶にしたのだ。
そこにいたのは、不倫中の頼りない係長「ヨハンソン・レッド」、そして、無銭飲食を疑われていた奇妙な少年「レク」であった。

「はじめまして、「レク」です。お会いできて、だいぶ感動です」



◆カクヨムでも同時収録。19世紀のヨーロッパを舞台に主人公達が犯罪に立ち向かう、そんなミステリーシュールコメディサスペンスな推理的読み物です。一部暴力表現があります。


◆登場人物
◇レク(レクトゥイン・パース)
13歳。ガブリエルに拾われた頃からずっと感情が無く、生きた人形と称されていた少年。が、仲間達と一緒に過ごすうちに、無表情なりに性格が前面に出てくるようになっている。鎮魂歌レクイエム達の中では飛びぬけた能力と頭脳を持ち、常に考え事をしている様子。飛びぬけた頭脳を持つが故に、食いしん坊で味覚音痴になってしまっている。常にニンニク臭がしている。東洋被れ。

◇ルカ(ルカ・フィリッポス)
16歳。「フィリッポス家惨殺事件」の容疑者だが、真犯人を目撃し、目の前で両親の死を目の当たりにしている少年。現実的で、超能力や霊能力等の不可思議なモノを信じていない。控えめな性格ではあるが、こうだと思ったらはっきりと物申す癖がある。

◇ヨハンソン(ヨハンソン・レッド)
32歳。レクとルカの先輩で、面倒見のいい先輩。ガブリエルとは傍から見るとお似合いカップルに見えるが、上司と部下の関係で、それ以上でもそれ以下でもないそうな。大人の余裕があり、ダジャレや冗談を連呼して場を和ませようとしている。鎮魂歌レクイエムでの受け皿的存在。

◇ガブリエル(ガブリエル=ラ・ピュセル・サ・ザカリヤ)
35歳。鎮魂歌レクイエムの総長であり、レクとルカ、ヨハンソンの上司。なのだが、上司としては頼りにならない。常に欠伸をしていて眠そうな目をしている。教会からもかなり嫌われており、不仲。すぐ舌打ちしたり、態度に出る為である。レクの性格は、彼女の普段の行動に影響されている。鎮魂歌レクイエムのかつての仲間「マリア・シエルフィールド」が銃撃に遭い、今も意識不明の重体。フラッといなくなっているのは、彼女の見舞いに行っているかららしい。

◇マリア(マリア・シエルフィールド)
29歳。鎮魂歌レクイエムの一員。性格はおっとりしていてマイペースで常識外れ。髪はいつもぼさぼさ、ファッションセンスは皆無。何日も同じ服を着ていたり風呂に入らなくても平気というものぐさ。時間にルーズで方向音痴……という残念な女の人。ある事件を追って調べていたところ、意識不明の重体を負う。現在は病院で治療を受けている。

◇マルクス(マルクス・セントラ)
21歳。イーヴン・アカデミーの大学生。マリアが意識不明となった事件に深く関わるが、詳細は迷宮入り事件となり、数年が経っている。現在は塾講師をしており、レクとはたまに会う関係。レクとはマリアの事件をきっかけに恨まれているが、彼的には和解したいらしい。ちなみに左利き。なのでレクからは「左利き」と呼ばれる。

◇マトゥー(マトゥー・カラヴァジオ)
「スクレ・ドゥ・ロワ」の構成員を名乗る謎の男性。

◇シオン(シオン=フェーカ)
22歳。ヨハンソンの浮気相手。鎮魂歌レクイエムにお客様を案内してくる、新人教会騎士。

黙示録
・序ノ廻>>1-19
・甲ノ廻>>20-32
・乙ノ廻>>33-50
・丙ノ廻>>51-61
・次回以降はカクヨムで更新中

Re: Requiem†Apocalypse ( No.42 )
日時: 2023/10/29 16:51
名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)

 僕らはとにかく情報を集めるべく、様々な場所に注意喚起の名目で電話をかけてみる事にした。学校、病院、商業施設など……憑依による犯罪が起きないように。そして何より、そんな犯罪に巻き込まれた人達が、こんな下らない事で失墜してしまわないように。

「もしもし、教会の「フィリッポス」と申します。現在、おかしな行動を突如行う方をお見掛けしましたら、すぐに教会まで通報をよろしくお願いします」

 僕はそうほとんど一方的にしゃべりかけ、電話を切る。相手の反応を聞いている暇はない。他にもやる事が多いんだから。
 すると、電話がかかってくる。ヨハンソンさんがそれを取った。

「はい、こちら鎮魂歌レクイエム……えっ!? 「リセ・アセット」の校長がわいせつ行為を!? ……はい。はい」

 ああ、恐れていたことが起きちゃったか。僕は頭を抱える。そしてヨハンソンさんが電話を切ると、再び電話がかかってくる。

「はい、こちら――は!? 「ポール美容室」の「ウィリアム」さんが迷惑行為を!?」
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

 レク君が嬉しそうに叫ぶ。

「何喜んでんの……」
「いやぁ、マジでくるとは思いませんでしたなぁ……クックック」

 彼は引き笑いをしながら、状況を楽しんでいるみたいだ。……頭が痛い。




―――




 で、電話対応をしていると、ガブリエルさんが「おつかれサマンサモスモス~」と言いながら昇降機から降りてくる。そして、今日の号外であろう新聞をデスクにばさっと投げた。

「おぉいガキ共。面白いことになってんぞ~。この島の各地でなんか奇行に走る奴が多数発見されてんぞ」

 と言われたので、ガブリエルさんの投げつけた新聞を読んでみると、「憑依か!? 奇行に走る身近なあの人に要注意!」という見出しで面白おかしく記事になっていた。……予想通りの騒ぎになってる。

「共通点は男、眼鏡、赤髪、20代の青年で、いずれも修道女を見たという証言がありました」
「この島じゃ修道女なんて珍しくもないが……全員が全員修道女を見たってのもおかしな話よねぇ」

 僕とヨハンソンさんがそう話していると、記事の中に「連続教会沙汰事件まとめ」という項目があり、読み進めてみると、北から南まで件数は十件には満たないものの、かなりの件数が上がっている。

「まるで疫病だな。この島を出て他国にまでまわったら、国際問題だぞ」
「うむむ……」

 ガブリエルさんの指摘に、ヨハンソンさんは頭を抱えている。

「本人たちは憑依されたと供述している。って書いてありますね。ますますマスコミが面白がって毎日どんちゃん騒ぎになりますよ」

 レク君が鼻と唇でペンをはさみながら、記事を読みながらそう言うと、唐突に

「僕は藤●俊二さんしか知りませんね。「おヒョイさん」……なんつって」
「誰ですかそれ」

 僕はため息をつく。

「まあでも、皆まだ本気にしてないわよ。セーフ。ギリギリセーフ」
「マスコミが本気で煽り出す前に手を打たないヤバいですね」

 ヨハンソンさんがにこにこしていると、昇降機の音がする。

「既にヤバい状況だよ」

 あ、シュメッター管理官。と、ビッシュさんとサグリエさん。

「あ、バカと金魚のフン二人」

 とレク君がつぶやくけど、3人は気にも留めない。リモコンがガンッという大きな音を立てて地面に落ちる。ヨハンソンさんが「あぁ!」と思わず声を出すが、それも気にせず、管理官がズカズカと事務所へと入ってきた。

「こんな挑戦状がきた。憑依する女からだ」

 と、ビニール袋に入った紙が手渡される。ヨハンソンさんがそれを受け取り、それを読み始める。中身はこんなんだ。

<挑戦状。あなた達教会騎士がボクの憑依する能力を認めようとしないので、手あたり次第……いえ、ある程度特徴が共通する人間に憑依して見せる事にしました。本人に身に覚えのない罪で、果たして審問は人を裁けるのかなぁ? あなた達はどんな人にも憑依できるボクを捕まえる事ができるのかなぁ? とても楽しみにしてまーす☆ ちなみに、今日から数えて明後日の0時の鐘が鳴るまでの間に、ボクを捕まえられない場合……>

「どうするんですか?」

 僕がヨハンソンさんに近づきながら尋ねると、ビッシュさんが代わりに答える。

「マスコミに対して、「憑依する能力を発表する」とのことだ」
「それだけかぁ……なんだ」
「――馬鹿野郎!」

 唐突にビッシュさんが声を上げる。ツバもとんできた。

「こんなインチキが世の中にまかり通ったら、全ての犯罪が憑依のせいにされちまうんだぞ!?」
「そもそも、この騒動は今のこの島のシステムの根幹を揺るがす事態だ。フランス本国が動き出す前に、事件を解決するんだ……わかったな?」

 と、管理官が言うもんだから、ヨハンソンさんはその場で深々と頭を下げた。

「ははぁ~!」

 で、管理官はガブリエルさんの方も見る。

「ガブリエル、君もそれでいいな?」
「ウッス」

 と、一言。その態度に腹を立てたのか、管理官は顔をしかめた。で、3人はそのまま昇降機を降りていくが……ビッシュさんが思い出したかのように、こちらに走ってくる。

「ちなみに、騎士総監の娘婿殿が、眼鏡、赤髪、20代の青年の特徴に当てはまる。くれぐれも巻き込まれんように……いいな!?」
「ははぁ~!」

 ヨハンソンさんはもう頭を床に擦り付ける勢いで、四つん這いにまでなってる。……なんというか、見てて居た堪れない気分になるなぁ。レク君は一連の出来事を見守りながら、舌打ちをした。

「感じ悪」

 そう言いながら、デスクに座る。

「……まあ、でも、件数が少ないとはいえ、こんだけ騒がれて、馬鹿げた事で被害者が出たら、その人がかわいそうですからね。頑張りましょうか、注意喚起」
「……そうだね」

 レク君に言われて、僕もデスクに座り、電話帳を開いた。

Re: Requiem†Apocalypse ( No.43 )
日時: 2023/11/04 17:38
名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)

 作業も区切りがついたので、僕らは食事に行くことにした。レク君の提案で、「寧幸むしろしあわせ」に行くことにし、4人揃って店に入って席に座る。相変わらず熱気と油のギトギト感でむせ返りそうになるけど、2回目となると慣れてくるのは不思議なものだ。

「ルカさんは何にします? 僕は――」
「茹でギョーザ茹で焼き5ニンニクマシマシ、大名古屋ラーメン定食でしょ。どんだけ食べるつもりなの」
「おぉう、流石ルカさんですね」

 自分の言いたい事を当ててもらえたのが嬉しいのか、レク君は口が綻んでよだれが。汚い! 僕はテーブルに置いてあったナプキンで彼の口元を拭いた。子供か!

「全くもう、ホント世間じゃ憑依のウワサで持ち切りだよぉ。しんどいね全く」

 ヨハンソンさんがいつになく頭を抱えて悩んでいる。……気持ちはわかるんだけどね。ガブリエルさんは店に置いてあった新聞を広げ、「親父~、いつものな。もち5人前で~」と言いながら足をテーブルに置く。――ちょ、この人に恥じらいの感情はないの!?

「ガブリエルさん、見えちゃいますって!」
「あ~? 見たいだろ、エロガキ」
「いえ、別に」

 僕が真顔で答えると、ガブリエルさんは舌打ちして、姿勢を正す。レク君は机に突っ伏したヨハンソンさんの頭をぽんぽん叩いていた。

「――でさ、うちのクラスにいた眼鏡で赤髪の子いたじゃん?」

 唐突にそんな話が耳に飛び込んでくる。食事中の男女3人組の大学生のようだ。この近くには「イーヴン・アカデミー」があるから、別に珍しいことじゃないけどね。

「ああ、「ディーク君」じゃろ? 今日は休んどったな」
「やっぱ休んだのって、憑依されたからじゃない?」
「うぇえ、マジ!?」
「てかさてかさ、憑依って感染するだって! 一度憑依されたら人格が変わって、人格が分裂しまくって、最後には自殺しちゃうんだってぇ~!」
「マジかよぉ!」
「実は、オラ見ちゃったんじゃよ……修道女。ナイスバデーで口元にほくろあるの」
「えっ!?」
「オラ、死んじまうんかなぁ~! オラ、赤い髪じゃろ? 眼鏡もかけとぉし。どないしょ~……」
「Contrata un seguro antes de morir.(死ぬ前に保険入っとけ)」

 学生の会話に、この店の親父さんの奥さん……ナンシーさんが料理を持って、割り込んで、学生たちに保険に入るよう勧誘してきた。あまりの唐突さに学生たちは驚いて、「何々!? 憑依された人?」とざわついている。

「だいぶウワサが広まってますね」

 レク君が運ばれてきたギョーザを食べながらつぶやく。

「どうせマスコミが面白がって、水面下でなんやかんやと流してんだろ?」

 ガブリエルさんは興味なさげに新聞を読み、そう答えた。そして、運ばれてきたチャーハンを一口。そして、厨房に顔を向けた。

「親父、ばかうまだなこのチャーハン。私にも茹でギョーザニンニク増量で頼むわ」
「ハァイ、茹でニンニク増量一丁~!」
「はぁ、よく食べるよねぇ君ら……」

 ヨハンソンさんは呪詛のようにつぶやき、もはや涙目だ。

「というか、眼鏡赤髪20代の青年って結構いるもんだねぇ。これじゃあ憑依女を捕まえるどころか、手掛かりすらつかめ無さそうだよぉ」
「……修道女を捕まえればいいんじゃね? ナイスバデーのさ」
「それも特徴が特定できないからむ~り」
「情けなや~」

 ガブリエルさん、レク君に指を刺され、ヨハンソンさんはさらにため息をついて突っ伏す。

「最初に憑依したのがレク君だったら、もっと簡単に事件解決できたかもしれませんね」

 僕がそうギョーザを口の中に放り込みながら言うと、レク君がむっとした顔をする。

「ルカさんだって特徴的な髪型してる癖に。なんだよそのもみあげ! 鬱陶しいから切れよ!」
「君こそそのもじゃ頭をさっさとストレートにしなよ、性格も真っ直ぐになるかもよ?」
「まあまあ……」

 ヨハンソンさんは、テーブルに写真を並べる。

「見てよ、この人はこの国最高峰の外科医、この人は伯爵さん、それにこの人は大手ナイロンメーカーの社長。実年齢は30代だけど、20代みたいに若々しいでしょう。この人たちに憑依されて、何か問題を起こされたら、フランスは大パニックだよ」

 と、彼が言い終わると、親父さんがその写真の上に料理を置いて厨房に戻っていく。僕はため息をついた。

「お偉いさんがどうっていうより、どんな事件を起こされるかって方が重要でしょ。今日の給油所みたいな事件を起こされてみてくださいよ。どんな被害が出るか……」
「どうしたらいいのかなぁ~。今勾留中のあの人たちも、いつまでもこのままにしておくわけにはいかないしねぇ」
「審問も扱いに手をこまねいてる状態でしょうね。立件のしようがない」

 僕達がそう話していると、ガブリエルさんが新聞を読みながら口を開く。

「そもそも憑依を前提とした犯罪を、どう審問で証明するか。どう判断するか。東洋では「呪殺」では殺人罪にはならない前例もあったらしいし。審問も同じような判断になるか、あるいは……」

 すると、ナンシーさんが僕らに近づいてくる。

「あのぉ、ガブリエルサン宛にオデンワよ」
「……」

 ガブリエルさんがそれを受け取り、電話に出る。

「はい、代わりましてどーも……はあ。了解、すぐに参ります」

 すぐに受話器をナンシーさんに返したガブリエルさんは財布を取り出す。

「お前ら、緊急事態だ。ついにとんでもない事件を起こしやがったぞ、その憑依女」

Re: Requiem†Apocalypse ( No.44 )
日時: 2023/11/04 17:40
名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)

 僕達は急いで現場へと赴く。そこには既に教会騎士達が集まって捜査や取り調べが始まっていた。
 スード・アカデミーの医学部。数々の著名人が排出されている、名門校のうちの部門らしいけど、正直詳しい事は知らない。帰ったら調べてみるか。と思いながら、皆について行く。現場となった部屋の中で、壮年の男性が横たわっていた。苦悶の表情で大きく口を開け、見るも無残な姿になっている。

「遅えぞ、鎮魂歌レクイエム!」
「遅くなり、申し訳ございません」

 ヨハンソンさんが頭を下げる。現場検証中のビッシュさんやサグリエさん、それにシュメッター管理官もその場にいて、僕達を出迎えてくれたんだ。

「はあ!? この方……現在X線実用化研究チームの一人である「ヴァインリッヒ・ハインツ」教授じゃないですか! うわぁん、生前にお話を聞きたかった!」

 レク君が驚愕の声を上げ、遺体に抱き着いて泣き始めるので、僕は彼の頭に拳骨を入れる。ゴチンと音がして、レク君は呻きながら頭を押さえる。

「素手で触らない」
「……すみません」

 レク君は上半身を起こし、十字架を切ってから、遺体を隅々まで舐めるように眺めた。

「……扼殺やくさつだぁ。防御創がかなりありますね。なんというか、随分長く抵抗なさってたようですね。扼痕やくこんもおびただしい数です。しかも、顔にも扼殺じゃ珍しく、うっ血が残ってる~」

 レク君がそう言いながらメモ帳に書き込んでいると、ビッシュさんが尋ねてくる。

「珍しくって、どういう意味だ?」
「扼殺は普通、顔がうっ血しないんですよ。うっ血してるって事は、長い時間をかけてなぶり殺しにされたって事です。知りませんでした?」

 それを聞かれたビッシュさんとサグリエさんは顔色を変える。明らかに動揺しながら目を泳がせていた。

「し、知ってたよそんなこと。とっくの昔に。知ってたもんね~」

 僕はさりげなく話題を変えてあげる事にした。

「他にわかっている事はありますか?」

 サグリエさんは「ナイスアシスト!」と言わんばかりに僕に指をさし、手帳を開く。

「19時13分に教会に通報。通報者は……「アダム・ナッハ」28歳。ハインツ教授の愛弟子で、現在は「ハインツ」研究所の助手を務めてるそうや」
「研究結果について話していて、気が付いたらハインツ教授が目の前で倒れていたそうだ」
「じゃあ犯人ですね。で、その方は?」
「別の部屋にいる」
「……あの、なんで本部に連行しないんスか?」

 レク君がそう尋ねると、途端に目の前の三人が狼狽え始める。

「そ、そりゃあ、さ。物証も目撃証人も本人の記憶もねえからよ。…………っちゅーことやんね?」
「あ、ああ、うん……」

 すると、レク君が意地悪気ににやりと作り笑いをした。

「まさかまさか、ま・さ・かぁ~? 物証も目撃証人も本人の記憶も見つからないからって、すっとぼけるつもりじゃありゃせんですか~?」

 そう指摘されて、僕達の視線が彼らに集中する。ビッシュさんもサグリエさんも管理官も、明らかに動揺して、そわそわし始めた。

「まさか!」

 とサグリエさんは誤魔化すように笑う。が、ここで管理官が口を挟む。

「レク君。今のところ、審問に持ち込むような証拠は、我々にはないんだよ。というか、憑依の犯罪を審問が受けてくれるかなんだよ問題は。というかマスコミに報告されちゃったら、教皇様とかフランス本国とか、他国から注目されて、大笑いされるどころかバッシングされちゃうかもしれないんだよ! そしたら皆から「てめーら教会の管理どうなってんだよ!」って言われて、挙句、私の人生がハチャメチャになっちゃうよぉぉ~!! ジーザスクライスト、ファッキン!! シット!! ゴーダマ!! シッダールタだ!!!」

 その場に響くような足踏みとまくし立てるような早口の後、くぅ~という音を漏らし、将来の不安と悲観で顔が歪んでいる管理官。その様子に他の捜査官たちがこっちを覗き込んできていた。ヨハンソンさんもちょっと申し訳なさそうに口を開く。

「ですが、扼痕から指紋も検出されるでしょうし。様々な状況証拠やたんぱく質の検査を行えば、まあ……ほぼ犯人は確定――」
「うああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!」
「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~!!!!」

 3人の叫び声による輪唱が始まり、僕は肩をすくめる。

「とぼけきれないですよ!」

 僕がそう言うと、3人ともこっちを見てくる。怖っ!

「ナッハさんの名刺」

 と、僕が指をさす方向に皆の視線が集中する。そこには、ハインツ教授の脇に落ちていた、ナッハさんの名刺。しかも、血がこびりついている。
 ……とりあえず、僕らはナッハさんに事情聴取をする事にした。

Re: Requiem†Apocalypse ( No.45 )
日時: 2023/11/04 17:42
名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)

「ボクが……ハインツ教授を殺した、ですか!?」

 僕とレク君は目の前の……赤髪、眼鏡の20代くらいのお兄さん――「アダム・ナッハ」さんと、医学部の一室を借りて向かい合って座り、取り調べをしていた。

「まさか……ボクがこの手で、ハインツ教授を……!?」

 僕らは静かに頷く。レク君は何かをメモに取っているようだ。

「名刺、それに教授の指に残っていた皮膚。そして、あなたの手の怪我。それらの状況証拠。それから、たんぱく質の検査結果が、それを証明しています」

 僕は淡々と検査結果と、袋に閉じた証拠の数々を彼の前に差し出すと、ナッハさんは顔をしかめる。僕はその反応を眺めつつ、彼の手を指さした。

「あなたの手の怪我、それはハインツ教授が抵抗した時にできた傷です」

 彼の手はひっかき傷のような、深い爪痕が残っていた。今は止血しているが、かなり深く、青くなっている。相当な力で抵抗していたという事が、傷からでもよくわかる。

「ホントに何も覚えてないんですか?」

 レク君がいつもの調子で尋ねる。明るい口調だ。それを聞いたナッハさんは慌てだし、首を大きく振った。

「最初から言ってるじゃないですか! ボクは……ホントに、何も知らないしわからない! ボクが……ボクが、ハインツ教授を絞め殺しただなんて、信じられないです! ……が」
「が?」
「一科学者としてこんな事を言うのもお恥ずかしい限りなんですが、何か別の感覚がボクに纏わりついていたような時間があったんです」
「ふぅん、つまり。憑依されたと?」

 レク君の質問に、ナッハさんはどう答えればいいのかわからないようで、少し悩むように俯いた後、深く頷く。その反応を見たレク君は嬉しそうに僕の方を見て、同じように頷いた。……なんだその顔は。


―――



 教会まで戻ってきた僕達。
 まあ、かくして、ナッハさんはビッシュさんとサグリエさんに教会まで連行されることになった。で、僕らはそれを見送っていると……立ち直ったシュメッター管理官がふっと笑う。

「とりあえず、この事件は君達、鎮魂歌レクイエムに一任する事にする。よろしいかな?」
「はいや!? そんな殺生というやつで――」
「こういう不可思議な事件モノを取り扱うのが、君達レクイエムの仕事のはずだ。頼んだよ」
「うえぇ……」

 ヨハンソンさんはまともな反論ができず、管理官が去っていくのを黙って見ているしかできなかった。そして、大きくため息をついて肩を落としている。一方、レク君は舌打ちを連発。気持ちはわかるんだけど……。

「ちいせえ奴らですなぁ」
「わかるよ、その気持ち。でもね、あの方たちも必死なんだよ。僕はまだわからないけど、年齢を重ねると人生にリカバリが効かなくなる。だから、今の地位を守るために、大人たちは何とか食らいつかないといけないんだよ」
「……言いますね先輩! 3年くらいしか年齢変わらないのに」

 レク君は目を見開いて僕の肩を叩いた。

「と、父さんが言ってたんだよ」

 びりびり痺れる肩を抱きながらそう言うと。

「――ごちゃごちゃやってる場合じゃないヨぉ!」

 誰かの声が背後から耳に入る。僕達が急いで振り向くと、ニヤニヤ笑いながら腰に手を当てて笑う教会騎士の赤髪のお兄さんが、こちらを見ていた。一瞬でわかる。憑依女だ!

「約束の時間がもうすぐに迫ってるヨ?」

 彼女がそう言うと、ヨハンソンさんが慌てて前に出る。

「たんまたんま! 待った、待ったなう!」
「いえいえ、もう十分待ちました。それに赤髪眼鏡縛りも飽きちゃったし、今度は手当たり次第なんやかんや憑りついて、世間を大騒ぎさせちゃおうかなって思います。その方が世間のボンクラ共はボクに注目して、憑依の能力も証明できるでしょ?」

 お兄さんがそれだけ言い放って、ニヤニヤ笑いを残したままその場に崩れ落ちた。僕らは戸惑いながらそれを眺めていると、また背後から悲鳴が。

「キャー!」
「何やってるの!?」

 僕らが振り向くと、腰の銃を抜いた教会騎士のお姉さんが立っている。僕達に銃を向けて! 駆けつけていたビッシュさんとサグリエさん、管理官は腰を抜かして尻もちをつき、あわあわと声を出しながら僕らの背後に回っていた。……もう、情けない!

「けんじゅうぅ~」

 レク君が頬に両手を当てながら全く驚いた様子もなく、それを眺めている。……教会ってこんなんばっかなの!?

「初めて持ったけど、拳銃って結構重いのネぇ~」

 彼女は左で銃を構えていた。

「……左利き?」

 僕がそうつぶやくと、ヨハンソンさんがすかさず銃を抜き、構えた。

「銃を下ろしなさい」
「お~、怖い怖い。でもこれは単なるお遊戯だから、怒っちゃやーよ。それじゃあね~」

 彼女はそれだけ言うと、その場に崩れ落ちる。その場は、突然の出来事に慌てる以外の事ができず、唖然として倒れた二人を見つめる事しかできなか

Re: Requiem†Apocalypse ( No.46 )
日時: 2023/11/04 17:45
名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)

 事務所に戻り、僕らは改めて情報を集めるべく、捜査資料や給油所店員さんの「ダニエル」さんや、教会騎士の「ショーン」さんの経歴書を今一度調べたり、憑依され殺人を犯してしまったナッハさんの情報を調べたりと、何とか手掛かりをつかもうと躍起になっていた。……が、結局犯人像は全くの不明。このままじゃ、あの女の言う通り、いろんな人が無意識のうちに犯罪を犯してしまったり、様々な犯罪が憑依のせいになり、とんでもないことになってしまう。そうなったら、今まで築き上げてきたモノが崩壊してしまうだろう。考えただけで頭が痛い。

「犯人は左利き、左利き……」

 ヨハンソンさんがそうつぶやきながら、捜査資料をペラペラめくっている。

「何かわかったんですか?」
「ん~? わかんない。そもそも、左利きだけで犯人特定なんてむ~り」

 そう言いながらヨハンソンさんは資料を閉じ、ため息をつく。

「……あれ、そういやレク君は?」

 さっきまで一緒に帰ってきていたはずのレク君がいない事に、僕らは気づいた。が、ヨハンソンさんは特に心配する様子もなく、時計を見る。

「帰ったんじゃない? それにもう夜の10時だよ。俺達も帰ろっか、送ってくよルカ君」
「あ、ありがとうございます」

 僕がそう言いすくっと立ち上がると、ヨハンソンさんは笑顔で僕に歩み寄った。

「うぅん、こんな真面目で素直な子がうちに来てくれて、俺は嬉しいよ~。鎮魂歌レクイエムってさ、自分勝手な人ばっかだからさぁ……」
「そうなんですか?」
「うん、以前はね。俺とガッちゃんと、あと5人含めた部署だったんだけどね……うぅん。この話はいいや、また今度にしよう」
「……」

 ヨハンソンさんもレク君も、この部署の過去はあまり語りたがらないな。「また話す」「長いから」ではぐらかされてる気がするけど、でも……話したくないのに無理やり聞くのもなぁ。
 思い切ってガブリエルさんに聞いて……あ、そういえばガブリエルさん、殺人事件が起きた連絡を受けたら僕らをほっぽってどっか行っちゃったなぁ。あの人、すぐにどこかに行くんだから……。

「ルカ君、リフトが来たよ~」

 ヨハンソンさんが昇降機を移動させてくれたみたいだ。僕は急いで帰る準備をして、ヨハンソンさんに駆け寄る。今一度誰もいない事を確認して、周りを見回した。

「明後日の0時がタイムリミットか。明日は噂の修道女でも探すかな。恐らく、彼女が犯人だろう」
「……」
「ん? ルカ君?」

 憑依された人達は皆口を揃えて、「修道女」を見た。なんていうけれど、その人が本当に犯人かな? 何か引っかかる。でも、それはあくまで推測だし、レク君に聞かせたら絶対指さしながら「寝言は寝てからにSay(セイ)よ!」なんて言われそう……いや確実に言われるな。
 あーもう、考えても無駄な気がしてきた!

「すみません、帰りましょう」
「ん、そうだね。おつかれサマランチ会長~」

 ヨハンソンさんは誰に向かって言うわけでもなく、事務所の電源を落とし、昇降機のスイッチを押した。


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