複雑・ファジー小説
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- Requiem†Apocalypse【完結】
- 日時: 2023/11/23 17:54
- 名前: 匿名 (ID: BOCX.xn2)
◆あらすじ
18XX年ヨーロッパ、某所。世間では産業革命だとか、三角貿易だとか、あるいは啓蒙主義が謳われている。そんな目まぐるしく動き回る時代でも、光あるところに闇は必ず存在するものだ。悪意の跳梁跋扈、魑魅魍魎は全てを隠し、奪おうと暗闇から手を伸ばす。「ルカ・フィリッポス」。彼はそんな魑魅魍魎共の手により、無実の罪に問われた。そんな彼に声をかけたのは、教会の閑職、あるいは掃き溜めなどと呼ばれる部署「鎮魂歌」の総長の「ガブリエル」だ。彼女は罪に問われ、判決が下されそうなところに意義を唱え、ルカを鎮魂歌へ誘い込み、罪を有耶無耶にしたのだ。
そこにいたのは、不倫中の頼りない係長「ヨハンソン・レッド」、そして、無銭飲食を疑われていた奇妙な少年「レク」であった。
「はじめまして、「レク」です。お会いできて、だいぶ感動です」
◆カクヨムでも同時収録。19世紀のヨーロッパを舞台に主人公達が犯罪に立ち向かう、そんなミステリーシュールコメディサスペンスな推理的読み物です。一部暴力表現があります。
◆登場人物
◇レク(レクトゥイン・パース)
13歳。ガブリエルに拾われた頃からずっと感情が無く、生きた人形と称されていた少年。が、仲間達と一緒に過ごすうちに、無表情なりに性格が前面に出てくるようになっている。鎮魂歌達の中では飛びぬけた能力と頭脳を持ち、常に考え事をしている様子。飛びぬけた頭脳を持つが故に、食いしん坊で味覚音痴になってしまっている。常にニンニク臭がしている。東洋被れ。
◇ルカ(ルカ・フィリッポス)
16歳。「フィリッポス家惨殺事件」の容疑者だが、真犯人を目撃し、目の前で両親の死を目の当たりにしている少年。現実的で、超能力や霊能力等の不可思議なモノを信じていない。控えめな性格ではあるが、こうだと思ったらはっきりと物申す癖がある。
◇ヨハンソン(ヨハンソン・レッド)
32歳。レクとルカの先輩で、面倒見のいい先輩。ガブリエルとは傍から見るとお似合いカップルに見えるが、上司と部下の関係で、それ以上でもそれ以下でもないそうな。大人の余裕があり、ダジャレや冗談を連呼して場を和ませようとしている。鎮魂歌での受け皿的存在。
◇ガブリエル(ガブリエル=ラ・ピュセル・サ・ザカリヤ)
35歳。鎮魂歌の総長であり、レクとルカ、ヨハンソンの上司。なのだが、上司としては頼りにならない。常に欠伸をしていて眠そうな目をしている。教会からもかなり嫌われており、不仲。すぐ舌打ちしたり、態度に出る為である。レクの性格は、彼女の普段の行動に影響されている。鎮魂歌のかつての仲間「マリア・シエルフィールド」が銃撃に遭い、今も意識不明の重体。フラッといなくなっているのは、彼女の見舞いに行っているかららしい。
◇マリア(マリア・シエルフィールド)
29歳。鎮魂歌の一員。性格はおっとりしていてマイペースで常識外れ。髪はいつもぼさぼさ、ファッションセンスは皆無。何日も同じ服を着ていたり風呂に入らなくても平気というものぐさ。時間にルーズで方向音痴……という残念な女の人。ある事件を追って調べていたところ、意識不明の重体を負う。現在は病院で治療を受けている。
◇マルクス(マルクス・セントラ)
21歳。イーヴン・アカデミーの大学生。マリアが意識不明となった事件に深く関わるが、詳細は迷宮入り事件となり、数年が経っている。現在は塾講師をしており、レクとはたまに会う関係。レクとはマリアの事件をきっかけに恨まれているが、彼的には和解したいらしい。ちなみに左利き。なのでレクからは「左利き」と呼ばれる。
◇マトゥー(マトゥー・カラヴァジオ)
「スクレ・ドゥ・ロワ」の構成員を名乗る謎の男性。
◇シオン(シオン=フェーカ)
22歳。ヨハンソンの浮気相手。鎮魂歌にお客様を案内してくる、新人教会騎士。
黙示録
・序ノ廻>>1-19
・甲ノ廻>>20-32
・乙ノ廻>>33-50
・丙ノ廻>>51-61
・次回以降はカクヨムで更新中
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.32 )
- 日時: 2023/10/18 19:49
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
「何が起こっているんだ!?」
彼、「トーマ・ボンデ」は思わず声を上げるしかない。その日の帰り道、白いローブの集団に拉致され、留置場に押し込まれた彼は、何が起きているのかを理解できず、混乱したまま整理できないでいる。
そんな中、暗い留置場の中に、人影が。鉄格子の外に現れた、白いローブの長身の人物達。暗がりでよく見えなかった。ボンデは恐怖で全身が震え、立ち上がって壁に張り付く。その人物が鉄格子を開けて、近づいてきた。
「スクレ・ドゥ・ロワの「マトゥー・カラヴァジオ」です」
「……解体されたはずの組織。いや、お前が情報を操作したのか?」
「人聞きが悪いもんですなぁ。まあ、いいです、百歩譲って我々が情報操作をしたとしておきましょう。それはさておき、我々は特殊能力者による犯罪について、水面下で研究、検証を任されている者です。我々の研究結果は、あなたの能力は「千里眼」ではなく、「異常に鋭敏な聴覚」という仮説に達しました」
マトゥーが彼の様子を眺めながら続ける。
「すごいもんですなぁ。少なくとも地下から地上の声を一通り……いや、島全体の音や会話を聞き取る事ができるとは。私にもほしいものですよ」
ボンデはふぅっとため息をつく。
「あんた、何の根拠があって、私の「千里眼」を「聴覚」だって決めつけてんだよ」
「さっきね。私どもはその仮定に立ち、あなたに聞かれないように、ある会議を筆談で行い、ある決定をしました。……もしも、あなたが本当に、時空を超えた千里眼の持ち主だと仰るのなら、その決定も見抜けているでしょう?」
マトゥーがそう言って懐から何かを取り出そうと手を入れた。
「見抜けているさ。……ただ、その決定があまりにも下らなくて――」
「強がっても無駄ですよ。これ、あなたの死刑執行書です。教皇様からの許可もあります」
「……ッ!?」
ボンデは突然突きつけられた白い紙の中身を読み取り、青ざめた。目を見開き、その執行書を奪い取って読んでみる。
「特例ですが、これより死刑執行を行います」
唐突の死刑宣告。ボンデは口を開けて声を上げた。
「あぁ……あァ……っ!!」
死への恐怖で全身の穴から汗が出てくる感覚。恐怖で身体が縮こまり、言う事を聞かなくなっていく。そんなボンデを、マトゥーの背後にいた二人の教会騎士が、彼の両脇を固めてある場所へと連れていく。抵抗もままならず、彼は引き摺られるように、地下深くまで連れてこられた。
「やめてくれっ、やめてくれッ!」
そう叫ぶしかできず、乱暴に首根っこを掴まれ、断頭台に首を固定された。「やめてくれ」「助けてくれ」という言葉しか発する事が出来ず、彼は目から涙を流し始めた。もうだめだ、おしまいだ。と思いつつも、何かの奇跡に縋っていたのだ。
その瞬間、誰かの指が自分の顔に触れた感触がした。その方向に目をやると、紫の髪の少年がニコニコしながらこちらをみていたのだ。一瞬、死後の世界に誘う天使かと錯覚したが、どうやらそうではないらしい。よく周りを見ると、時間が止まっているように、世界が静止している。……一体何が起きているのかと思っていると、少年が彼に声をかけた。
「助かりたい?」
ボンデはその言葉を聞いた瞬間、彼が望んでいた奇跡だと確信した。だから当然、こういう。
「助けてくれ!」
それを聞いた少年はにっこりと笑う。そして、続いて口を開いた。
「やーだね」
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.33 )
- 日時: 2023/10/22 18:47
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
乙ノ廻
僕は当てもなく夜の街をさまよって、歩き疲れてきたので目の前にあるベンチに座る。ガス灯が明るく街を照らし、薄暗く街中の建物達が浮かんでいた。僕は深くため息をついて、俯いている。今日の出来事、前の事件、パパとママの事……頭にこびりついて離れなかった。あんなに怒ったのも初めてだし、レク君もきっと僕の事なんかこわがってんだろうなぁ。と、そう思いながら顔を上げると。
「……ルカ?」
見覚えのある顔、聞き覚えのある声。金髪碧眼の長身のおじさんが立っていた。ビジネスマンらしく、ロングコートを着込んでいるし、キッチリとした見た目だ。僕は一瞬返事が遅れたが、すぐに彼の名を呼ぶ。
「ロナール叔父さん!」
僕が思わず声を上げると、叔父さんは手を挙げて軽く会釈。ニコニコ笑っていた。
彼は「ロナール・アルマンド」。僕のパパの弟さんで、結婚を機に教会騎士を引退。その後は貿易商社を立ち上げて世界中を回っているんだって。ちなみに婿養子だって聞いたことがあるな。
「こんばんワンダーランド」
前に会った時よりだいぶ健康的な顔色だ。以前の叔父さんは、常に仏頂面で怖い雰囲気だったけど、今は解き放たれたかのような笑みを浮かべている。きっと、今の仕事が順調なんだろうなと、僕はそう思った。
「叔父さん、なんでここに?」
「家族に会う為に帰ってきたんだよ。なんせ、今は貿易商社マンだからな。ヨーロッパにアフリカ、アメリカとか。いろんな場所に行ってるんだよね」
「すごいね! 教会騎士やってた時よりなんか充実してるって感じ」
「まあな。……ルカの方は~……っていうか、その服。そのローブ。教会騎士のじゃないか。それに、右腕も……一体どうしたんだ?」
「えっと……」
そういや、バタバタしてて叔父さんに報告できていないや。どうしたものかと悩んでいると、叔父さんがストップをかける。
「その話、長くなるのか? だったら、ついでに晩飯でも食べに行こう。行きつけの定食屋があるからさ」
「あ、でも……」
「いいからいいから、いろいろ聞きたいしな」
有無を言わさず、叔父さんは僕の手を引いて、どこかへ連れていこうと歩き始めた。叔父さんの手は熱くておっきいなぁと思いつつ、叔父さんについて行くことにする。こうなると、叔父さんはこっちの話を聞いてくれないしね。
―――
僕と叔父さんはとある東洋料理の定食屋へとやってきた。席へと案内され、僕達は向かい合って座る。いい雰囲気の定食屋さんだ。お客さんの数はまばらだけど、静かでいい。
「好きなの頼みな。ここは奢りだから」
「……でも」
「まだお給料出てないんだろ? 心配しなくていいよ、私はこれでも稼いでんだからさ」
「じゃ、じゃあこの「オヤコドン」で」
僕がそう注文すると、叔父さんはニコニコ笑っていた。
「どうしたの?」
「いや、ルカは昔から卵料理が好きだったなぁと思ってさ」
「……このオヤコドンって、卵料理なの? よくわからずに注文しちゃったけど」
「そう。卵と鶏肉を割り下で煮込んで、炊いたご飯の上にかける。そういう料理なんだ」
「へぇそうなんだ。なんとなく卵の香りと香ばしい匂いがするなぁと思って。さっきのあそこの人、オヤコドンを食べてたし」
叔父さんはそれを聞いて声を上げて笑う。
「なるほど、ルカは賢いな」
「え、何それ!」
「ごめん、言って見ただけ。適当な冗談だって」
「はあ……まあいっか」
僕は首を振った。
その後、他愛のない話をしながら時間が過ぎていき、僕達は楽しく有意義な時間を過ごせていた。それぞれの注文した料理が届き、僕がハシを割って食べようとすると、叔父さんは唐突に手を合わせて「いただきます」と言い始めた。
「それ、東洋の挨拶だって僕の知り合いから聞いたよ」
「そうなんだ。食べ物に感謝するという文化を、東洋で見聞きしてね。私も取り入れてるんだ」
そう言って叔父さんは料理をハシで上手に掴んでぱくぱくと食べ進めていく。僕も一応、手を合わせて「いただきます」と口にした。意味は分からないけど、形だけでもやっておけばいいかな、程度のものだけどね。
料理を食べ終わり、叔父さんは「ごちそうさまでした」と手を合わせると、僕の方に顔を向ける。
「……で、教会騎士になった理由って、何かあるのか?」
「あ、うん。まず……えっと、パパとママが殺されたって話は聞いてる?」
「聞いてる。だからこうして戻ってきたんだよ」
そうだったのか。家族に会うためって言ってたのは、きっと気を使ってくれてたのかもしれない。僕は俯いた。
「その……その事件の容疑者、僕なんだよ」
「それも一応知ってる。新聞に書いてあったからな」
「でも、状況証拠で一番怪しいのが僕ってだけで、僕がやったっていう証拠はない。だから、現在も捜査中って事になってる」
「迷宮入りか……昔を思い出すね」
「それでね、僕、ガブリエルさんって人に……無理やり鎮魂歌ってとこに配属になって、半強制的に教会騎士になったんだ」
「ガブリエル……ああ、あの人か」
「知ってるの?」
僕が聞くと、叔父さんは頷く。
「昔の知り合いっていうか、なんていうか」
「すごい人だなぁ、叔父さんとも知り合いだなんて……」
「実際すごい人だよ、普段はだらしないけど」
僕は苦笑した。だって、本当にだらしない人だもん。
「その腕も、もしかして……」
「あー、うん。事件で受けた傷」
「……そうか」
叔父さんは流石に眉をひそめ、とても悲しそうに顔を歪めている。
「なあ、ルカ。「どんな病も治せる能力者」って、知っているかい?」
「「どんな病も治せる能力者」?」
「一般では「神の手」という名前で通ってる名医だよ。まあ、あくまで噂なんだけど。私はね、その人の事を探しているんだけど、何か聞いたりとか見たりとか、してない?」
どんな病でも治してくれるっていうなら、何かしらそういう話が鎮魂歌の中でもありそうなもんだけど……。
「本当に治せるの?」
「わからない。真偽どころか、存在すらあやふやだ。だけど、実際にいるらしいんだよ。霊能力者というか、超能力者っていうか。細胞を再生させる能力を持ってる……らしいんだ」
「……すごい」
僕は呆けたように口を開けていた。本当にいるなら、それはすごい事じゃないか。でも、そういった人は絶対新聞か何か、資料や記録に残っているはずなんだけど。
「なあ、ルカ。君のとこにそういう記録のある文書なんかがあるはずだ」
「……それ、見せろって?」
「ああ。とても大事な事なんだ。何か手掛かりだけでもいいから……」
……さっきまでのニコニコしていた叔父さんの目から打って変わって、鋭く真剣な眼差し。本気だ。って事は伝わってくる。
でも。
「ごめん、望み薄い相談だよ。あそこは結構胡散臭い場所だし、あってもガセじゃないかな。鎮魂歌《レクイエム》は、インチキ極まりない部署だもん」
それだけ言うと、僕はため息をつく。
「それに、そういった情報は「守秘義務」だよ、叔父さん。あなたもそう言ってたでしょ?」
「……」
叔父さんは俯いた。そして、
「悪かった。そうだよな、教会騎士は事件で知りえた情報は無暗に公開しない。すまない、忘れていたよ」
と笑って誤魔化していた。
「よし、そろそろ行こうか」
と言って立ち上がる。僕も頷いて立ち上がった。
―――
その後、自分の家に戻る為に路地を歩いていた。わずかな明かりを頼りに、僕は歩き続ける。
<実際にいるらしいんだよ。霊能力者というか、超能力者っていうか。細胞を再生させる能力を持ってる……>
叔父さんの言葉が脳裏で蘇ってくる。……「どんな病を治せる能力者」か。
「そんなバカな話……」
そんな人がいたら、きっとパパやママや死んでいった人たちも、死なずに済んだかもしれないのにな。そう思いながらため息をつく。
「あるわけないよ」
僕は左手の拳を握り、壁にたたきつけた。痛い。血が滲んでる。……そんな人がいたらこんな怪我だって綺麗に治るのかな?
「――ホントだったらどうする?」
突然、人影が僕を突き飛ばし、僕は驚いて尻もちをついてしまった。
「いった……くない?」
骨折していた右腕から痛みが消えているどころか、感覚が戻っていた。動かせる。僕は包帯を外して右腕を見た。
「……どうなってるの?」
その後すぐに人影が去った先を見やるけど、そこには暗闇が広がるだけで、誰もいなかった。一体、何が起きたんだ……!?
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.34 )
- 日時: 2023/10/22 18:51
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
「門限10時だもんね。ま~だ~ま~だ~」
「だいじょうぶ~♪」
夜の街を歩きながら、俺とシオンちゃんは笑顔で歌いながらスキップをしている。今日の仕事も疲れたけど、シオンちゃんの笑顔が見られただけで、疲れがリセットされちゃうなぁ~❤
と、目の前にガッちゃんとレク君が歩いてくるのが目に入った。あ、やばい! こんなとこ見られたら、ガッちゃんもレク君も明日から俺をイジってくるぞ! そう思い、俺はシオンちゃんの手を引いて、目の前にあったアクセサリーの露店に入って、その場を誤魔化した。
「こ、これとかシオンちゃんに似合いそうじゃなあい~?」
俺は冷や汗を流しながら、シオンちゃんに適当なアクセサリーを見せるが、シオンちゃんは怪訝そうな顔でこっちを見ている。……いや、気持ちはわかるんだけど。
「お買い上げッスか?」
アクセサリー屋の人はこっちを見て苦笑いをしながら、空気を読むかのように一言。
「お、お買い上げで」
俺はとりあえず適当に選んだ、ピンクと赤の綺麗な石のブレスレットを買う事にした。……思わぬ出費だなぁ、妻にまた怒られそうだ。
―――
「あ~もう。やだ!」
目的地のカフェに入り、カップル用のストローを刺したドリンクを飲みながら、またシオンちゃんはご機嫌斜めのようだ。
「こんなコソコソした恋愛、もううんざり!」
「ご、ごめんよ。話はしてるんだけどねぇ……」
俺がそう言いながら、ドリンクを引き寄せて飲む。甘い。……糖尿なのにこんなの飲んでだいじょばないけど、甘いものはいつだって人間のストレスを和らげてくれる。……と、今痛感する。
「うちの女房、弁護士でさ。なかなか裁判が進まないっていうかなんていうか……」
シオンちゃんがそれを聞いて声を上げる。ドリンクを引き寄せながら。
「じゃあずっとこんな風にコソコソしていなきゃダメなわけ!?」
うぐっ……こ、ここは話題を変えてみるか。
「そ、そういえば、シオンちゃん。……「できちゃった~」とか、言ってなかった?」
「言った」
俺は目を見開き、汗がダラダラ流れる。まさかまさか、まさかまさかまさか。
「……俺の子?」
――スパァン! と、小気味いい音と共に気持ちいいくらいの平手打ちが、俺の左頬にクリーンヒット。これはクリティカル……!
「……だよねぇ」
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.35 )
- 日時: 2023/10/22 18:53
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
薄暗い借家の片隅。……そこで男女が向かい合って、トランプを手に睨み合っていた。男が5枚のトランプを見ながらニヤニヤ笑っている。
「いやぁ、これは残念ながら勝っちゃうなぁ、俺」
男、マトゥー・カラヴァジオは、目の前の女性、ローナ・ヴァルターにそう言い放つと、5枚の手札を彼女の前にバンッと広げる。左から10、 J、 Q、 K、 A。全てスペードの見事なロイヤルストレートフラッシュだ。勝ちを確信したマトゥーがニヤニヤ笑っているのも頷ける。だが、ローナはその見事なロイヤルストレートフラッシュを見ても、涼しい顔だ。
「いえいえ、本当に残念ですわねぇ」
と、彼女が手札を広げる。左からジョーカー、そしてエース4枚のファイブカード。マトゥーは先ほどまでの、勝ちを確信した余裕の笑みが消え失せ、悔しがるように「にゃうぅぅ!」と声にならない声を上げていた。
「ず、ずるいぞ! 未来視でゲームに勝つなんて……! ジョーカーか? ワイルドカードなんか入れたのがまずかったのか!? くっそぉ、悔しいなぁ。トランプゲームじゃ負けた事のないマトゥー様が……!!」
「おほほっ、未来は絶対なのでーす! ワイルドカードを抜いても無駄ですよ~。多分私がまた勝ちますから」
「それでどんだけカジノを潰してきたんだ~?」
「うーん、ま。全てのカジノで出禁食らうくらいには」
「なるほどなぁ。こりゃ勝てんわ。というか、ムキになりすぎだよ」
二人がそう和気あいあいと話していた。
数日前、マトゥーはローナをこの場所へと連れてきて、「これからお前を軟禁する」と告げて、ここへ閉じ込めた。ローナは当然拒否をしたが、拒否の返事は暴力。無慈悲な暴力にローナは怯え切って、黙って頷く以外何もできなかった。
<暴力はすまなかった。だが、お前をここから出すわけにはいかん。取引だ。お前は約束を守れ。その代わり、俺がお前を守る。必ずだ>
マトゥーは冷徹ながら、彼女にそれだけ言うと、ローナの軟禁生活が始まった。なんだかんだ言って、最初の暴力以外で痛い目に遭ってないし、意外とここでの生活は快適で、3食おやつ昼寝付きで、ローナは不自由なく暮らせていた。だが、何不自由が無くとも、窮屈な部屋でずっと過ごすのは苦痛だ。外からの情報は一切遮断されているからだ。
マトゥーは、トランプを切りながらローナを見る。
「そいや、お前さんの予言では、「明日」だそうじゃないか」
「ええ。当たったら、釈放してくださるのですのよね?」
「まぁ、本当に当たったらな」
彼はそう言うと、トランプをまとめ、葉巻を取り出す。
「葉巻やめ!」
「おっと失礼」
ローナに指を刺されると、マトゥーは慌てて葉巻をしまった。
「予言は当たるわよ。未来は絶対なのだから」
そう、彼女は地図の様なメモ書きをマトゥーに見せながら、自信たっぷりに言い放った。
「とりあえず、さ。鎮魂歌の下っ端二人に張り込みに行かせることにしたよ~? 明日が楽しみだねぇ」
マトゥーはトランプを配りながら、口元を緩めている。とても楽しそうにニヤニヤと笑っていた。
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.36 )
- 日時: 2023/10/22 18:56
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
「眠い~だるい~ね゛ーむ゛ーい゛ー!」
「なら家に帰って寝たらどう? 邪魔だし」
「馬車に乗りましょうよ、経費でさぁ~」
「鎮魂歌にそんな経費はないから!」
僕らは現在、目的地に向かって階段を上り進めている。朝早いもんだから、低血圧で朝の苦手なレク君は、文句を垂れ流しながら、重い体を引き摺るようにして階段を一段一段踏みしめていた。
すると、レク君が僕の右腕に包帯が外れているのを見て、「お」という声を出した。
「ルカさん、右腕治ったんすか? 一回抜いて生やしたんですか?」
「……君には関係のないことだよ」
「ふぅん。まあいいや」
興味津々に僕の腕をジロジロ見てくるレク君は、思い出したかのようにローブの中から紙を取り出す。
「そいや、上から「張り込みをしろ」だなんて、何の指令なんですかねぇ」
――一時間前。
僕らが出勤した後、ヨハンソンさんが僕らを呼んで一枚の紙を手渡してきた。
「はい」
「なんスかコレ」
「まあ今日もどうせ暇だし」
「……暇ですが」
「今から張り込みしてきて」
レク君がだるそうに紙を受け取り、面倒くさそうに欠伸をする。
「何の張り込みッスかぁ~?」
「なんか、見てれば分かるってさ」
「なんじゃそりゃ」
「上からの指令だから、頼むね」
ヨハンソンさんがそう言うと、親指を立てて上を指し示す。釣られて僕らも天井を見上げた。
「上?」
「お偉いさん。すっごぉぉぉぉーーーい偉い人からの命令」
「あぁ~、でもめんどくさぁ~っ!」
「頼んだよ!」
ヨハンソンさんは敬礼し力強く言い放つ、僕は敬礼を返しながら「はっ!」と短く返事。レク君はだるそうに「へぁーい」と敬礼し返事する。
……というわけで、僕らはミーヴィル東区東駅前の給油所を目指してるわけだけど。給油所か……。
自動車の普及はまだ一般化していない。せいぜい救急車や教会騎士のパトロールカーなんかに使われている程度。だけど、ガソリン機関を使ったバイクの方は使っている人がここ最近は増えてきた。まだ馬車が主流とはいえ、これは目覚ましい科学の発展だと言える。
で、ガソリン機関を使用するっていう事は、当然給油所が必要になる。このフローレイズにも数こそ少ないけど、給油所が点々としているんだ。……その給油所の張り込みって。当然苛立ちで普段より機嫌が最悪なレク君は、ぶつぶつ言いながら紙を眺めていた。
「んな対象も教えてくれない張り込みなんてアリッスか!?」
「うるさいな。……で、こっちであってたっけ? 確かこっちは給油所なんかなかったと思うけど」
「間違いないですよ。ミーヴィル東駅前って書いてありますもん」
僕はなんかおかしいと感じ、レク君から紙を奪い取る。そこには、「ミーヴィル東区東駅前」と確かに書いてある。……って違う! ここはミーヴィル駅東口前だよ!
「バカッ! ここはミーヴィル駅東口だよ! 僕らはミーヴィル東区東駅前に行くんだよこのトンマ!!」
「ほぇ?」
レク君は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で首をかしげている。
「ここはミーヴィル駅の東口で、ミーヴィル東区東駅はこっから逆方向なんだよ!」
「うぇ、なんで!? おかしくないッスか!?」
「常識だよアホ」
レク君は目を見開いて、信じられないという驚愕を現すように、口をぱかーんと開けていた。それを横目に、僕は時計を確認する。10分前。……馬車を使えば間に合うか。
「仕方ない、馬車を使おう」
「あっ、馬車使うんだ」
僕らは急いで馬車へと向かう。……本当にもう、もうちょっとしっかりしてほしいもんだよ。僕らは今すぐ乗れそうな馬車を探し、ミーヴィル東区東駅へと向かう事にした。
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