複雑・ファジー小説
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- Requiem†Apocalypse【完結】
- 日時: 2023/11/23 17:54
- 名前: 匿名 (ID: BOCX.xn2)
◆あらすじ
18XX年ヨーロッパ、某所。世間では産業革命だとか、三角貿易だとか、あるいは啓蒙主義が謳われている。そんな目まぐるしく動き回る時代でも、光あるところに闇は必ず存在するものだ。悪意の跳梁跋扈、魑魅魍魎は全てを隠し、奪おうと暗闇から手を伸ばす。「ルカ・フィリッポス」。彼はそんな魑魅魍魎共の手により、無実の罪に問われた。そんな彼に声をかけたのは、教会の閑職、あるいは掃き溜めなどと呼ばれる部署「鎮魂歌」の総長の「ガブリエル」だ。彼女は罪に問われ、判決が下されそうなところに意義を唱え、ルカを鎮魂歌へ誘い込み、罪を有耶無耶にしたのだ。
そこにいたのは、不倫中の頼りない係長「ヨハンソン・レッド」、そして、無銭飲食を疑われていた奇妙な少年「レク」であった。
「はじめまして、「レク」です。お会いできて、だいぶ感動です」
◆カクヨムでも同時収録。19世紀のヨーロッパを舞台に主人公達が犯罪に立ち向かう、そんなミステリーシュールコメディサスペンスな推理的読み物です。一部暴力表現があります。
◆登場人物
◇レク(レクトゥイン・パース)
13歳。ガブリエルに拾われた頃からずっと感情が無く、生きた人形と称されていた少年。が、仲間達と一緒に過ごすうちに、無表情なりに性格が前面に出てくるようになっている。鎮魂歌達の中では飛びぬけた能力と頭脳を持ち、常に考え事をしている様子。飛びぬけた頭脳を持つが故に、食いしん坊で味覚音痴になってしまっている。常にニンニク臭がしている。東洋被れ。
◇ルカ(ルカ・フィリッポス)
16歳。「フィリッポス家惨殺事件」の容疑者だが、真犯人を目撃し、目の前で両親の死を目の当たりにしている少年。現実的で、超能力や霊能力等の不可思議なモノを信じていない。控えめな性格ではあるが、こうだと思ったらはっきりと物申す癖がある。
◇ヨハンソン(ヨハンソン・レッド)
32歳。レクとルカの先輩で、面倒見のいい先輩。ガブリエルとは傍から見るとお似合いカップルに見えるが、上司と部下の関係で、それ以上でもそれ以下でもないそうな。大人の余裕があり、ダジャレや冗談を連呼して場を和ませようとしている。鎮魂歌での受け皿的存在。
◇ガブリエル(ガブリエル=ラ・ピュセル・サ・ザカリヤ)
35歳。鎮魂歌の総長であり、レクとルカ、ヨハンソンの上司。なのだが、上司としては頼りにならない。常に欠伸をしていて眠そうな目をしている。教会からもかなり嫌われており、不仲。すぐ舌打ちしたり、態度に出る為である。レクの性格は、彼女の普段の行動に影響されている。鎮魂歌のかつての仲間「マリア・シエルフィールド」が銃撃に遭い、今も意識不明の重体。フラッといなくなっているのは、彼女の見舞いに行っているかららしい。
◇マリア(マリア・シエルフィールド)
29歳。鎮魂歌の一員。性格はおっとりしていてマイペースで常識外れ。髪はいつもぼさぼさ、ファッションセンスは皆無。何日も同じ服を着ていたり風呂に入らなくても平気というものぐさ。時間にルーズで方向音痴……という残念な女の人。ある事件を追って調べていたところ、意識不明の重体を負う。現在は病院で治療を受けている。
◇マルクス(マルクス・セントラ)
21歳。イーヴン・アカデミーの大学生。マリアが意識不明となった事件に深く関わるが、詳細は迷宮入り事件となり、数年が経っている。現在は塾講師をしており、レクとはたまに会う関係。レクとはマリアの事件をきっかけに恨まれているが、彼的には和解したいらしい。ちなみに左利き。なのでレクからは「左利き」と呼ばれる。
◇マトゥー(マトゥー・カラヴァジオ)
「スクレ・ドゥ・ロワ」の構成員を名乗る謎の男性。
◇シオン(シオン=フェーカ)
22歳。ヨハンソンの浮気相手。鎮魂歌にお客様を案内してくる、新人教会騎士。
黙示録
・序ノ廻>>1-19
・甲ノ廻>>20-32
・乙ノ廻>>33-50
・丙ノ廻>>51-61
・次回以降はカクヨムで更新中
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.37 )
- 日時: 2023/10/22 18:58
- 名前: 匿名 (ID: u/mfVk0T)
「馬車いいなぁ、楽だなぁ~♪」
上機嫌なレク君は何故かドナドナを歌いだす。僕は時計を気にしながら目的地に着くのを待つ。
「2分前か、ギリギリ間に合ったね」
そう言うと同時にミーヴィル東区東駅へとたどりつく。僕らは急いで駅前にあるという給油所に目を向けた。まだ何も起きてないようで、何かおかしな点が無いかと思い、周りを見回す。すると、レク君が早々に馬車から降りて、満面の笑みを向ける。あの例の作り笑いだ。
「じゃ、ルカちゃま。あとはヨロシャース♪」
「……」
僕は若干イラっとしたが、ぐっと堪えて運賃を払い、教会宛の領収書をもらった。
で、そうこうしてる内に10時ちょうどになる。……異変ではないけど、一人の客がバイクに乗って給油所へと入っていった。これ自体は異変でもなく、普通の光景だ。僕らは給油所へと近づき、他に異変が無いかと思っている。
客が来たと同時に店員が走ってきた。
「らっしゃっせー!」
「ガソリン、満タンで」
「ハーイ、満タンで」
気さくな若い男性店員と、バイク好きの太った男性客。これも別に特段変わったところはないな。とそれを見守っていると、店員さんはバイクに給油を始める。油臭いなぁと思っていると、ノズルを手に取った店員さんの様子が変わった。
さっきまでの店員さんはにこやかで気さくな雰囲気だったのが、今はにんまりと笑い、レク君の作り笑いの様な不気味さを感じるような笑顔に変わったんだ。僕はその異変に気付き、すぐさま走り出す。
「ガソリンマンタン、ガソリンマンタン……」
彼は不気味な笑みのままガソリンを給油口にではなく、バイク全体にかけ始めたんだ。何やってんの!?
「ちょ、おいおいおい、何やってんだオメー!?」
客が当然の如く怒鳴りながら店員に走り寄る。
「今日は肌寒いんで、サービスしとくよぉん」
「な、ななな、なにいっとんじゃ!?」
他の店員も異変に気が付いて、彼の奇行を止めようとするが、今度は店員さんはノズルを彼らに向けて、ガソリンをお客さんや他の店員さんにかけ始める。
「アハハハハハ、オホホホホホホ」
店員さんは笑いながら、店員さん達にガソリンをぶっかけ続けていた。ようやく僕らも現場へと近づき、彼を止めようと掴みかかる。
「何やってるんですか、やめなさい!」
その声に気が付いた店員さんがこちらに振り向き、ノズルを向けてガソリンを掛けようとした。けど、僕はそれを素早く避ける。……僕の背後にレク君がいたので、代わりに彼がガソリンが頭からどっぷりと掛かっちゃったけど。
「あぁぁぁやあああああぁぁぁぁ~~~~っ!!」
女の子みたいな悲鳴を上げ、レク君はガソリンまみれ。
「オホホホホ、オホホホホホホ……」
店員さんは唐突にノズルを地面に落とし、ズボンのポケットに手を突っ込む。取り出したのは、マッチ。その場にいる全員に緊張が走った。彼はマッチを擦る。マズい!
「フヒヒヒヒ……」
店員さんはにんまり顔でマッチに灯った火を……落とした。
僕は咄嗟の判断で素早くマッチを握り、消し潰す。と、同時に店員さんに素早く近づいて店員さんの首根っこを掴み、振り回してから押し倒した。店員さんは「ウヒヒヒ」と小刻みに笑っている。……なんなんだこいつ、一体、何が目的で……!?
「レク君、早くこいつを連行!」
「あ、は、はい!」
何とか事態は収束したけど……突然の事に全員呆気に取られている。僕自身もだ。とにかく、今は大聖堂に戻って事態をまとめなきゃね。
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.38 )
- 日時: 2023/10/28 20:40
- 名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)
僕達は一旦事務所へ戻り、事務作業をしていた。まあ、犯人を教会に引き渡した後は、僕らにできる事は無いし。後は上に任せるしかないっか。そう思いながら書類をまとめていた。
「いやぁ、無事でよかったね皆~!」
ヨハンソンさんが万歳と腕を振り上げながら泣いて喜んでいた。泣くほど嬉しいのか。
「無事じゃねえよ……!」
別室でシャワーを浴び、着替えてきたレク君がボソッとつぶやく。彼はいつもの服から、白いシャツとハーフパンツという、どっからどう見ても近所の学生にしか見えない服装へと変わっていた。彼が通るとあの鼻につく油の臭いが漂った。シャワーで取れなかったニンニク臭と油臭が混ざり合って、なんというか……すごく臭い。
「油臭いよ、もじゃ頭」
僕が彼の顔を見ずに言うと、レク君は怒りの矛先を僕に向ける。
「ぼくが本調子だったらあの給油所のクソ野郎、半殺しにしたのによォ!? つーか今どこにいるんスか、ぼくに尋問させてくださいよ!」
「尋問って……まずは落ち着いて、ね?」
レク君が頭から湯気が出そうになるくらい怒っている。こんな彼は一度も見た事なかったから、ちょっと珍しいな。
「だって危うく炭になりかけたんですよ、あの場の全員!」
レク君は怒りのあまり机に八つ当たりをしていた。これじゃあ事務仕事ができないので……ヨハンソンさんはレク君と僕を引き連れて、取調室へと赴くことにした。
―――
取調室では、ビッシュさんとサグリエさんがちょうど取り調べをしていた。犯人は相変わらずへらへら。あの不気味な笑みを浮かべてるだけで、二人に何を言われても動じてない。……まるで何かに憑りつかれたように。
「コルァァァ! 正直に吐いた方が身のためだぞ! 職場に恨みでもあったんだろぉ!?」
と、ビッシュさんに机をバァンと叩かれても、全然涼しい顔。あの精神力は見習いたいかもしれない。
「カツドン食べる? これ、俺の行きつけのお店の東洋料理なんやけどね?」
サグリエさんは食べ物で釣ろうと、器の蓋を開けるが、犯人はそれでもニヤニヤしたまま動かない。美味しそうだな。サックリ揚がってそ……って、いや、食べ物で釣られて吐くなら僕らの仕事は楽でいいんだけど、現実はそういうわけにはいかないんだって……。
「だから言ってるでしょお~? この身体の人は関係ないんだってぇ。ボクが肉体を乗っ取って勝手にやった事なんだからさぁ」
「いい加減にしろォ!」
「この身体の人ってなんや、全部お前がやった事やろが!」
何の進展もしないし実りもない、不毛な取り調べだなぁと僕が眺めていると、レク君が足でダンダンと音を立てながら床を叩いている。
「チッ、なぁにすっとぼけてんだよあいつはよぉぉ!?」
「声がでかいよ」
「うっせ、主体性ゼロモヤシ」
まあ、彼の怒りも頷ける。ガソリンかけられた上に殺されかけたんだから。
「どうしても信じられないみたいだねぇ」
「当たり前だ」
ビッシュさんと犯人の会話が聞こえる。すると、犯人はビッシュさんに顔を近づけた。
「わかった。じゃあ、ボクの能力がホンモノだって事、証明してあげるネ」
「はぁぁぁ?」
「例えば、こっちを覗いてるそっちの人の肉体に移り変えてみるとか?」
ビッシュさんとサグリエさんが同時に声を出すと、犯人は唐突に前のめりになり、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。二人は一瞬何が起こったのかと驚いている。……と、彼はすぐに起き上がり、自分を凝視してくる二人に素っ頓狂な顔で見つめていた。
「……あ、あの。なんですかあなたたち。え、ここ、どこですか。え、なに?」
起き上がった彼は混乱しているように、二人を質問攻めにしている。
「は、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ……!」
唐突に隣にいた教会騎士さんが足をとんとんと鳴らしながら、足を擦りながら泣いていた。
「にゃにゃにゃって……どうしたの君?」
「こ、この身体に憑依したんだけど、水虫が痒くてかなわないよぉ!」
彼はそう言いながらブーツを脱ぎ、足を擦り合わせる。
僕は取調室の扉を叩く。異常に気が付いた二人は急いで取調室から出てきた。
「ま、まあ。これでボクの能力のすごさが証明できたと思うけど……。まだ信じられないかなぁ?」
「……というか、あんた何やっとんや?」
彼の様子がおかしいので、サグリエさんはそう尋ねる以外できなかったようだ。
「うぅん、まだ信じてないみたいだネ~。じゃあさ、これからいろんな人に憑依して、いろんなイタズラしちゃおうかな。ネ、面白くない?」
「……それは……ちょっと面白そうッスね」
「コラ」
ちょっと顔を赤らめるレク君の頭に、拳骨を入れてやる。すると、それを聞いた彼は嬉々としてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「でしょでしょ? じゃあこれから、イタズラしにいっちゃおうかなぁ、いってきまーす♪」
と彼が腕を振り上げて決めポーズをしたと同時に、彼は前のめりになって倒れ込む。さっき、あの犯人と同じように。しかし、前のめりになったところにレク君がいたので、レク君は悲鳴を上げながら彼を支えていた。
「あ、ぎぃ……重ッ!」
「……あれ、ど、どうしたんですか? あの、ごめんなさい、なんか寝てたみたいですね?」
「い、いや、はよう、おき……て」
「あ、すみませんなんか」
目を覚ました彼は、憑き物が落ちたように、素っ頓狂な顔でこっちを見ている。……なんというか、何を見せられていたんだろうか? 彼はレク君から離れると、何か申し訳なさそうにペコペコ頭を下げている。文字通り、憑依されていたと説明する方が簡単で済む。
「あの、何かあったんですか?」
「いや……憑依されてましたよ。ガチで」
「え? え?」
彼はそう言われても何のことだかさっぱり。目が点になってこっちを見ていた。
「いやぁ、いいもん見させてもらいましたよ。憑依だなんて!」
レク君はというと、さっきまで怒ってたのに、今度は恍惚な表情(無表情)で目を輝かせていた。(死んだ魚の目で)
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.39 )
- 日時: 2023/10/28 20:42
- 名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)
別室にて。
「前代未聞やからね、しゃーないでしょ」
サグリエさんがそう言いつつ、憑依されていた……とされる二人を立ち入り禁止用のテープをぐるぐる巻きにして拘束していた。で、シュメッター管理官と、その後ろにビッシュさんがついてきて、僕らの前に立つ。
「とにかく……どういう処理をするかは、我々「犯罪対策班第一課」内で合議する事にする。沙汰を待て」
「お前らちゃんと見とけよぉ?」
二人が部屋から出ると、サグリエさんもそれについていく。ヨハンソンさんは静かに敬礼しながら、
「御意……!」
と返答。
いや、それはそれとして。この人達どうしよう。僕はため息をつきながら、二人に歩み寄る。
「正直に吐いた方が身のためですよ」
と、威圧感込めながら言い放つと、二人は怯えたように首を振る。
「た、助けてください! 本当に覚えがないんです!」
「そうですよ! オレら、被害者なんです、信じてください!」
そう懇願してくる。……参ったな、演技か詐病か何かかな……と、思って頭を抱えていると、レク君が二人に嬉々として近づいていった。そして、二人の前に座り、テーブルにメモ帳を乱暴に置き、ニヤニヤ笑う。
「憑依されてる時の気分とかは!?」
レク君の突然の質問に、二人は驚いたものの、教会騎士のおじさんがはっとして、答えた。
「あ、えっと……意識がふっと遠のいて……なんというか、寝不足で気絶するように眠っているような感覚っていうか」
それを聞いたレク君は面白そうにメモを取る。
「こりゃ典型的な憑依の御パターンですなぁ、うひゃひゃひゃっ! たまらんぜよ……♪」
僕は大きくため息をつきながら、二人に歩み寄った。ヨハンソンさんも腕を組みながらそれに続く。
「憑依なんか、詐病かイカれてるかどっちかですよ。他人の人格が入り込んでくるわけがない」
「チッ……じゃあ、パツキンゴリラは、二人とも偶然にその詐病とやらを発病したってことだって言いたいんで・す・か!?」
「二人とも芝居でもしてたんでしょ」
僕がそう切り捨てると、ヨハンソンさんはため息をついて、やれやれという感じに肩をすくめた。
「やっぱりか」
「――違います! 芝居なんかしてません! 本当に意識が奪われたんです!!」
すると、勝ちを確信したかのような不敵な笑みを浮かべ、ヨハンソンさんは人差し指を天井に指しながら言い放つ。
「じゃあ「自白剤」でも打ってみるか、ちゅぅぅ~っとなぁ!」
「あ、はい。全然かまいません。お願いします」
「お、オレも……お願いします!」
「……えっ」
どうやら二人からむしろ頭を下げられてしまった上、予想外の返答だったようで、ヨハンソンさんは固まっていた。
「あれ、自白剤って合法でしたっけ」
「そもそもこの時代に自白剤はまだなかった気が」
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.40 )
- 日時: 2023/10/28 20:45
- 名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)
「当てたねぇ!」
歓喜の声を上げながら、教会騎士のローブを羽織る男――マトゥーが紙袋を手に、部屋の隅で小さくなっている女――ローナへと近づき、彼女の隣に紙袋をそっと置く。上機嫌なままマトゥーは、ローナの目の前で胡坐をかいて、葉巻を手に取る。だが、ローナはビシッと人差し指を向けた。
「葉巻やめ!」
「おっと、失敬」
葉巻をしまうのを眺めながら、ローナはふっと力なく笑う。
「だから言ったでしょ、未来は絶対なのだから」
「じゃあ次はボードゲームでもやろっか。最近東洋から面白いのをもらったんだよ。ショーギって言ってな、チェスみたいなルールで、なんと奪った駒を自分の兵にできるとかなんとかってな――」
「ねえ、そろそろ私を釈放して頂戴よ。予言は当たったし……そのおかげで大惨事は免れたのよ?」
それを聞いたマトゥーはへらへら笑い返した。
「まあまあ、そう堅い事言わずさぁ――」
「実力行使しても構いませんのよ?」
ローナが脅すように低い声でそう言い放つと、彼に顔を近づけ、胸ぐらをつかみ、彼の瞳を見据えた。……だが、マトゥーはそれを聞いた途端、彼女に掴まれている腕を握り、力を入れる。
「仲間、いるんだ。それはそれで好都合なんだけどね」
彼はにこーっと笑う。
「まあ、いいや。実力行使してくれるならしてもいいぞ。できるもんならな」
それだけ言うと、マトゥーは腕を離した。
「俺、真摯な紳士で通ってるからさぁ、誰も見てなくても女性に手を上げるとかしたくないのよねぇ。まあ、そーゆー事ですから、あんま暴れず大人しくしてほしいんだよね女王様」
「……女王様って呼ぶくらいなら、私の言う事くらい聞きなさいよ。どうしても釈放はできないわけ?」
ローナは緊張が解け、ため息をつく。マトゥーは困ったように笑った。
「うぅん、まあショーギで俺に勝ったら理由を教えてあげるってことにしよう」
「はあ……どうせ嘘でしょ? みえますみえます、3回勝ったら5回に増える未来が見えます」
「あっれぇ。どうしてわかっちゃうかな~。まあいっか」
マトゥーはへらへら笑いながらそう言うと、彼女の前に四角いボードを置く。
「まあ、どうせ逃げ場はない。だったら状況に身を任せて楽しもうじゃない」
彼はそう言いながら満面の笑みを見せた。
- Re: Requiem†Apocalypse ( No.41 )
- 日時: 2023/10/28 20:47
- 名前: 匿名 (ID: Ak8TfSQ3)
結局あの二人は留置所に押し込めておくしかできなかった。そりゃあ、ガソリンぶちまけて放火しようとした挙句、憑依なんてモノを二人同時に起こしたら共犯だと思われるのは当然。僕自身も二人は共犯だと思ってる。……憑依なんてもの、非科学的であやふや。そんなものがまかり通るなら、世の事件のすべてが憑依で片づけられてしまう。そんなの、認められない。
というわけで、後は上の処分を待つくらいしかできなくなった僕らは、事務所で事務作業をして待つことに。そこに、ヨハンソンさんが紙束をめくりながら、昇降機から降りてきた。どうやらその後の処理が進んだようであった。
「検査の結果、給油所の店員「ダニエル」も、教会騎士「ショーン」も、嘘をついている兆候はなかった。嘘発見器も自白剤も――」
――!?
思わず僕は顔を上げる。
「自白剤って……本当に使ったんですか……!?」
「教会ってこえぇとこですなぁ、クックック……」
レク君が、東洋から仕入れたという「肩たたき棒」を使って肩を叩きながら、くつくつ笑っている。まあ、笑いたくなる気持ちもわからなくはないけど……。
「……ところが、だ」
ヨハンソンさんがため息をついた。
「二人に共通する記憶が一つだけある」
「なんスか?」
レク君が動きを止めてヨハンソンさんの顔を見ると、神妙な面持ちで彼は答える。
「……修道女を見たんだって、ナイスバデーの。で、器を持ってるからコインを入れると、「ボクの為にありがとぉ」なんて言われたらしいのよ」
「お~、最近流行りの「ボクっ子」って奴ですな。萌えるね」
「で、さ、口元にほくろがあるんだって」
口元にほくろ……
「それは……ちょっとエロいですね」
「……」
レク君は軽蔑の目で僕を見る。……いや、でもナイスバデーで口元にほくろで、しかもちょっとSっ気があるとか……
「エロいよねぇ~、心惹かれるよねぇ~」
ヨハンソンさんがすかさずにやけ顔になり、ねっとりとした口調でそう言ってくる。いや、うん……確かにドキドキしちゃうし、心惹かれちゃうな。これが思春期って奴なのか。
「ちょっと、憑依されたいですね……」
「うわぁ……」
僕が真面目な顔してそう言うもんなので、レク君の軽蔑の目が、みるみる汚物を見るような目に変わっていった。すると、ヨハンソンさんがニヤニヤしながら僕に近づいてくる。
「いや、俺はねむしろ憑依する側になりたいのよ。憑依してさ。「お兄さん~そんなダメだよぉ神様の前で、らめぇ~」って言わせたいのよ~」
と、ヨハンソンさんが紙束を抱きながらクネクネ蠢いていると、レク君が舌打ちをする。
「チッ。じゃあその修道女が憑依のキーパーソンで、今もいろんな人に憑依して罠を仕掛けているってことになるんですか?」
「……ふむ」
ヨハンソンさんは一言だけ声を出すと、黙り込む。
「そうよね。何か手を打たないとだよねぇ……」
ヨハンソンさんがそう言いながら、目の前を徐に歩き出す。
「どういう?」
僕がそう聞いてみると、考え込んでいたヨハンソンさんは何か閃いたようにポンッと手を叩いた。
「わかった! スパーッ!」
と叫びながら勢いよく指さしながら振り向く。
「注意喚起する! ビラを配ったり電話で警告し、あらゆる人に認知してもらうよう、できる事は全部やる!」
ああ、確かにそれは大事だな。地味だし普通だし当然の事だけど。それを聞いたレク君は「わかりきった事を……」という顔で呆れて、自分のデスクに戻っていく。まあ、命令ならやるしかないよね。教会騎士だし。
「……命令とあらば」
「ん~……ふつーだな」
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