二次創作小説(新・総合)

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Fate/Azure Sanctum
日時: 2025/02/10 13:57
名前: きのこ (ID: DnOynx61)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070


〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。

小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.48 )
日時: 2025/03/07 21:32
名前: きのこ (ID: fiow63Ig)


番外編㉑

「……え?」

リセアはぼんやりと瞬きをし、状況を確認した。

重厚な扉はびくともしない。

小窓も鍵がかかっている。

天井には魔術の封印陣。

どうやら、しばらくここから出るのは無理そうだった。

「……閉じ込められた、みたいだな」

カルが腕を組み、扉を見つめながら言った。

彼の隣で、リセアは小さく息を吐く。

「……そう、みたいですね」

まさか、こんな密室に二人きりになるとは。

悪い予感はしていたが、まさか実際に起こるとは思わなかった。

「じゃあ、誰かが気づくまで待つしかないな」

リセアはそっと頷き、ふたりは床に座ることにした。

しばらくは、静寂が満ちていた。

しかし——。

「……近いですね」

「ここ、狭いからな」

カルの顔が近い。

リセアはわずかに顔を赤らめ、視線を逸らした。

「……カル、もう少し、離れても……」

「無理だな。スペースがないし」

そう言いながら、カルの指がリセアの頬をなぞる。

「……リセア」

ふいに呼ばれた名前。

優しい声に、心が揺れる。

「……な、なんですか」

「……リセアが、好きだ」

心臓が跳ねた。

——知っている。

そんなこと、とうの昔から分かっていた。

けれど、こうして直接言葉にされると、どうしても慣れなくて、鼓動が速くなる。

「……私も、好き……ですよ」

そう言うと、カルは微笑み、リセアの頬を包み込むように手を添えた。

「……キス、してもいいか?」

リセアは驚いたように目を見開いた。

カルの視線が真っ直ぐ自分を見つめている。

その目の中には、自分しか映っていない。

「……」

沈黙。

しかし、拒む理由はなかった。

「……はい」

かすかに震える声で答えた途端、ふわりと唇が重なる。

——柔らかい。

静かな空間に、心臓の鼓動だけが響いた。

カルは深く、ゆっくりとリセアを抱きしめる。

リセアは目を閉じ、そのぬくもりに身を委ねた——。


番外編㉒

冬木の冬は厳しく、夜の帳が下りると冷たい風が街を包み込む。

遠坂邸の暖炉の前で、遠坂凛とセイバーが静かにお茶を楽しんでいた。

カップの中で揺れる琥珀色の紅茶が、ほのかに甘い香りを漂わせる。

「それにしても、リセアったら相変わらずね。」

凛がカップを置きながら呟く。

対面に座るセイバーは、彼女の言葉に小さく頷いた。

「はい。彼女は本当に優れた資質を持っていますが……天然なところがあるのも事実ですね。」

そう言いながら、セイバーは思い返す。

戦闘の場においては冷徹に判断し、卓越した魔術回路を駆使して戦う一方で、普段のリセアはどこか抜けていて、どんな些細なことにも驚いたり、時にはおっとりとした表情を浮かべたりする。

「そうそう、それが問題なのよ!」

凛は苛立つように指を鳴らし、ソファに深く腰掛ける。

「この前なんて、ロンドンの市場でね。新鮮な食材を探しに行ったんだけど……なんと、リセアったら市場の人に『おまけでいいわよ』なんて言われて、素直に信じちゃったのよ?」

「……それはまた、素直すぎますね。」

セイバーが微笑む。

リセアは善意に敏感で、人の厚意を疑うことをあまりしない。

もっとも、彼女の抱えている過去を思えば、それが彼女なりの優しさの形なのかもしれない。

「市場の人もまさか本気にされるとは思わなかったらしくてね。結局、私がきっちり値段を交渉し直してお金を払ったわよ。」

「なるほど。リセアらしいですね。」

セイバーは静かに微笑んだ。

「彼女は日常ではとても穏やかですが、戦闘となると別人のように鋭い。あの切り替えの速さには、時折驚かされます。」

「そうね……」

凛は少し表情を曇らせた。

リセアの戦闘能力は確かに優れているが、それ以上に彼女の戦い方は冷酷ともいえるほど徹底している。

それは彼女自身の異質な魔術回路と、過去に関係しているのかもしれない。

「でも、彼女は本当にいい子よ。あんな過去があっても、ちゃんと人を信じられるんだから。」

「ええ。リセアは、強い。」

セイバーは断言した。

彼女自身、リセアの戦いを間近で見てきた。

戦場では恐れを知らず、どんな状況でも最適解を導き出す。

しかし、それでも彼女は人を助けることをやめない。

「……カルとは、どうなんでしょう?」

ふと、セイバーが話題を変えた。

凛は少し意地悪そうに笑う。

「ふふっ、リセアったら、本当に鈍感なんだから。カルがどれだけ彼女を大事にしてるか、まだ気づいてないのよ?」

「そうですか……。カルの視線を見れば、一目瞭然なのですが。」

「まったくね。」

二人は顔を見合わせて笑う。

「でも、リセアは寂しがり屋なのよ。一人でいると、あの子、すごく静かになるの。皆の前ではいつも笑顔だけど……本当は誰かにそばにいてほしいんだと思う。」

「……だからこそ、カルがいるのですね。」

「ええ。カルもリセアも、似た者同士なのよ。どちらも相手が悲しい顔をするのが嫌で、できるだけ相手を笑わせようとする。でも、二人とも自分の気持ちには鈍感で……」

凛は肩をすくめる。

「ま、あの二人ならそのうちどうにかなるでしょうけど。」

「……私も、リセアが幸せになれることを願います。」

セイバーの言葉に、凛は少し驚いたように目を見開いた。

そして、微笑んで頷く。

「ええ。きっと、大丈夫よ。」

暖炉の炎が静かに揺れ、二人の笑顔を優しく照らしていた。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.49 )
日時: 2025/03/08 12:38
名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)


番外編㉓

リセアは湯船の中で小さく息を吐いた。

肩まで湯に浸かりながら、隣に座るエリュの横顔をちらりと見る。

彼女は湯気の中でも相変わらず無表情で、細い指で黒縁のメガネを外し、洗面台の端にそっと置いた。

メガネを外すと、銀色の瞳がより際立つ。

普段は冷徹な印象を与えるその瞳も、湯の反射を受けてどこか柔らかい光を宿していた。

ふと、リセアは小さく微笑みながら口を開く。

「家で二人で入るのは初めてですね」

エリュはわずかに視線を動かし、リセアを見る。

その表情に変化はなかったが、耳がかすかに赤くなったのをリセアは見逃さなかった。

「……そうだな」

短く返された言葉に、リセアはくすりと笑った。

エリュがデレることは滅多にないが、わずかな変化を見つけるのは、なかなか楽しい。

「エリュ、お湯加減は大丈夫ですか?」

「問題、ない……むしろ、少し熱い」

「それなら、少し温度を下げますね」

リセアはそう言って立ち上がり、湯船のふちにある蛇口に手を伸ばす。

だが、その動きに合わせて湯が波立ち、彼女の豊満な胸が湯から少しだけ顔を出した。

エリュは一瞬、そちらに視線を向けたものの、すぐに目をそらした。

「……」

無言のまま湯に肩まで浸かり直すエリュに、リセアは首を傾げる。

「どうしました?」

「……何でも、ない」

その言葉に、リセアはますます微笑ましくなる。

普段は冷静で無表情な彼女が、こうしてわずかに動揺している様子を見るのは、どこか新鮮だった。

リセアは軽く髪をかき上げながら、ゆったりとした口調で言った。

「でも、こうして二人でお風呂に入るのは……なんだか特別な気分ですね」

「……特別?」

「はい。こうして、誰かと一緒に湯船に浸かるのは……安心できるというか、落ち着くというか……」

リセアの言葉に、エリュは静かに目を閉じた。

彼女の中で、ライダーとの記憶がふと蘇る。

いつか、自分のサーヴァントとこうして肩を並べることができたなら

──そんなことを考えたことがあった。

けれど、それは叶わぬ願いとなってしまった。

「……確かに、悪くない……」

ぽつりとこぼしたエリュの言葉に、リセアは満足げに微笑んだ。

そうして、二人はしばらく言葉を交わさず、静かに湯に浸かったまま、それぞれの想いに耽るのだった。


番外編㉔

爆発が起きた。

——といっても、大規模なものではない。

遠坂凛が魔術の調合をミスったせいで、研究室の中で軽く閃光が走り、煙が立ち上る程度のものだった。

「ちょっと、何やってるんですか、凛さん!」

「うっ……まさか、たった一滴分量を間違えただけでこんなことになるとは……」

ため息をつきながら煙が晴れるのを待つ。

爆発の範囲は限定的だったようで、部屋全体が吹き飛ぶような事態にはならなかったのが救いだった。

しかし——。

「ん……?」

リセアは煙の向こうに倒れている人影を見つけた。

髪の色が明るく、長い。

……カル?

「カル、大丈夫ですか?」

心配になって駆け寄ったその瞬間

——リセアの足がピタリと止まった。

「……」

カルが、いた。

しかし、その姿は——

「………………誰?」

そこにいたのは、長い金髪を持つ、圧倒的な美少女だった。

しかも、……いや、そんな細かいところに注目している場合ではない。

「ちょ、ちょっと待って、どういうことだ?俺、なんか体が変だぞ……」

カルが、自分の声に違和感を覚えたように喉を押さえた。

そして、自分の体を見下ろし——

「……」

そのまま硬直した。

「わ、私……?いや、俺……?何が起こった……?」

そこには、金髪碧眼の美少女が立ち尽くしていた。

「……ああ、やっちゃったわね」

凛が額を押さえながらぼそりと呟く。

「いや、いやいやいやいや!? なんですかこれ!!?」

カルは大慌てで自分の体を触りまくる。

金髪の美少女が、驚愕の表情を浮かべながら自分の胸を確認している光景は、シュール以外の何物でもなかった。

「……」

沈黙していたエリュが、無言でメガネをクイッと押し上げた。

「え、えええええええ!?え、いや、待ってください!!カ、カル……なんですか、その姿は……」

リセアは混乱しながら、カルの肩を掴んだ。

いつもより華奢で柔らかい感触に、さらに混乱する。

「なんか、俺、女になってないか……?」

「……はい、そう見えます」

リセアの顔がみるみる赤くなる。

何故かドキドキしてしまう。可愛い。

いや、カルはカルなのに、こんなに可愛いなんて、どうすれば……!?

「ふ、ふふっ」

そこへ、凛が口元を押さえながら吹き出した。

「まさか、こんなことになるとはね……でも、まあ、意外と似合ってるんじゃない?」

「何を言っているんだ、凛!」

カルが眉をひそめるが、その表情がまた美少女すぎる。

ますますリセアの思考が混乱する。

「うっ……これは、まずい……」

セイバーが少し引き気味に呟く。

明らかに焦っている。

冷静に見えても、さすがにこの状況にはついていけないらしい。

「いや、待ってくれ!リセア!なんとかしてくれないか!?」

カルがすがるようにリセアを見つめてくる。

その表情は涙目で、なんとも言えない色気がある。

「えっ……そ、それは……」

リセアの心臓がバクバクする。

なんだろう、この感情は。

カルなのに、カルなのに……とてつもなく可愛く見えてしまう。

「ちょっと、リセア、顔が赤いわよ?」

「そ、そんなことは……!」

リセアは思わず目を逸らす。

しかし、逸らした先にあるのはカルの顔——

「……っ!!」

「は、はぁ……こんなことになるなんて……」

カルは肩を落とし、ため息をついた。

とはいえ、仕草もまた美少女らしく、どこか儚げな雰囲気を醸し出している。

「ま、まあまあ、しばらくはそのまま楽しめばいいんじゃない?」

「楽しめるわけないだろ!」

凛のからかいに、カルが怒る。

しかし、その怒った顔もまた美少女らしく、リセアの脳が焼き切れそうだった。

「……面白い……」

エリュが興味深げにカルをじっと見つめている。

「え、エリュ!?なんか視線が怖いんだが!!?」

「……研究材料に……」

「研究するな!!!」

こうして、突然の女体化事件は、大混乱の中で幕を開けたのであった——。

その後、カルが元に戻るまでの間、リセアは視線をどこに向ければいいのか分からず、エリュは観察を続け、セイバーは困惑し、凛はただただ楽しんでいたという——。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.50 )
日時: 2025/03/09 13:57
名前: きのこ (ID: /.YWlUQc)



番外編㉕

遠坂邸のリビングにて、静かな午後が流れていた。

紅茶の香りがふわりと漂い、窓から差し込む柔らかな陽光が、落ち着いた雰囲気を演出している。

そんな中、リセアはテーブルに肘をつき、机に乗せるような形で上半身を預けていた。

「……」

その姿を、四人がそれぞれ違う反応で見つめていた。

まず、カル。

彼は何も言わず、じっとリセアを見ている。

彼女の胸がテーブルに乗る形になっており、その自然な動きに視線が吸い寄せられていた。

意識して見ないようにしようとするものの、ちらちらと視界に入ってしまう。

『……なんでこんなにも無防備なんだ、リセアは』

彼は静かに紅茶を飲みながら、なるべく自然を装うが、心の中では必死だった。

顔に出さないよう努めていたが、どこか落ち着かない。

一方で、セイバーは何も言わないが、明らかに意識をそらすように目を泳がせていた。

いつもなら落ち着いて食事をとる彼女だが、今日ばかりはパンをナイフで切る手が妙にぎこちない。

『集中……集中です、私……』

彼女は必死に自分に言い聞かせる。

しかし、どうしても視界の端に映る光景が意識の邪魔をしてしまう。

平静を保とうとするほど、妙な緊張が走るのだった。

そんな二人とは違い、凛は腕を組みながら少し不満そうな顔をしていた。

『なんであんたばっかりそうなるのよ……』

リセアの胸をちらりと見て、内心ため息をつく。

自分が同じような体勢になっても、あのような圧倒的な存在感は生まれない。

彼女は悔しさを押し隠しながら、わざとらしく咳払いをした。

「ねえ、リセア?」

「はい?」

呼ばれてリセアが顔を上げる。その瞬間、四人の視線が一斉に逸れた。

「な、なんでもないわ……!」

凛は思わず話を切り上げそうになったが、ここで黙るのも変だと思い、適当に話題を変えることにした。

「……その姿勢、疲れない?」

「あ、そうですね……少し疲れてきました」

リセアはあまり気にしていなかったのか、素直に体勢を直した。

その動きに、カルとセイバーはほっとしたように見えた。

しかし、一人だけ普段通りの態度を崩さなかったのがエリュだった。

『……どうでもいい、こと』

彼女は本をめくりながら、一度もリセアの姿を気にすることなく、いつも通りの調子で言葉を発した。

「……紅茶、おかわりいる?」

「あ、お願いします」

いつもと変わらぬやりとり。その姿に、カルとセイバーは心の中で驚いた。

『エリュは……本当に意識してないのか?』

『すごい集中力です……私も見習わなければ…』

凛はそれを見て、なんだか自分がくだらないことに執着していたような気分になった。

「……ま、いいわ」

彼女はそう呟くと、そっと紅茶を口にした。

こうして、リセアの無自覚な姿が引き起こした静かな混乱は、エリュの平常運転によって何となく収束していった。

しかし、カルとセイバーはそれぞれ心の中で何かを悟った。

『……リセアには、もう少し自覚してほしいな』

『……私ももっと精神を鍛えないと、ですね』

そんな彼らの密かな誓いをよそに、リセアは何も知らずのんびりと紅茶を楽しんでいた。


番外編㉖

冬木の遠坂邸、穏やかな午後

——のはずだった。

しかし、リセアは頭を抱えていた。

目の前ではセイバーとカルが睨み合い、火花を散らしている。

「だから、君のその頑固な態度が問題なんだ。どうしてそこまで意地を張る必要がある?」

「意地ではありません。私は正当な意見を述べているだけです」

カルが冷静ながらも鋭い視線を向けると、セイバーもそれに負けじと堂々とした態度を取る。

リセアは彼らの間に立ち、なんとか間を取り持とうとするが、二人の意見のぶつかり合いは止まらない。

「え、えっと……二人とも、そのくらいにしませんか? 些細なことで喧嘩するのは良くない、と思います……よ?」

しかし、二人とも聞く耳を持たない。

「些細なことではない、リセア。カルの言い分には納得がいかない」

「俺もだ。セイバー、君はどうしてそこまで頑ななんだ?」

リセアは小さく溜息をつく。

どうしてこんな些細なことで二人は張り合うのか。

その様子を見ていた凛は、普段通りの涼しい顔でお茶を飲んでいた。

「あら、まだやってるの? リセア、いちいち気にするだけ無駄よ。放っておけばいいわ」

「そ、そんな……! 二人とも大切な仲間ですから、喧嘩なんてしないでほしいです……」

リセアが必死に取り成そうとするも、当の二人はそれどころではない。

「君の方こそ、リセアを困らせるのはやめるべきだろう?」

「私ではなく、そちらが引けば済む話です」

カルとセイバーが再び火花を散らす。

リセアは「うぅ……」と困り果てた表情を浮かべた。

そんな中、エリュが静かに本を閉じた。

「…くだらない……」

ぼそりと呟きながら、エリュは椅子から立ち上がる。

そして、静かに二人の間に歩み寄ると、鋭い銀色の瞳で二人をじっと見つめた。

「……もうやめたら?」

その言葉は、淡々としていながらも冷たく鋭かった。

カルとセイバーが一瞬だけ動きを止める。

「リセアが困ってる……それでも続けるなら、二人とも同類……」

それだけ言い放つと、エリュはまた自分の席に戻り、静かに本を開いた。

しばしの沈黙の後、セイバーが咳払いをする。

「……まあ、確かにリセアを困らせるのは本意ではありません」

「俺も……ちょっと熱くなりすぎた」

二人がようやく矛を収めると、リセアはほっと胸をなでおろした。

「はぁ……やっと終わりましたね……」

「これくらいで済んでよかったわね、リセア」

凛が茶をすすりながら呟く。

その言葉に、リセアは力なく笑った。

「本当に……次からは、もう少し冷静に話してくれると助かるのですが……」

そんなリセアの願いをよそに、カルとセイバーは互いに一瞥を交わす。

「次は負けないからな」

「そちらこそ、覚悟しておくといいでしょう」

……どうやら、まだまだ二人の争いは続きそうだった。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.51 )
日時: 2025/03/09 14:46
名前: きのこ (ID: /.YWlUQc)


番外編㉗

冬の寒気が身を刺す中、広々とした庭の一角に、木製の竹刀と魔術の光が交錯していた。

「…いきますよ、セイバー。」

リセアの蒼眼が鋭く細められる。

彼女の掌に収束する魔力がかすかに光り、次の瞬間には地面を蹴ってセイバーとの間合いを詰めた。

「はい、始めましょう。」

セイバーは竹刀を構え、余裕の笑みを浮かべる。

その黄金の髪が風に揺れ、青の衣装がひらめいた。

リセアの一撃を受け止めるべく、竹刀を振り上げる。

魔術の光がリセアの足元で弾ける。

魔術による瞬間強化で、彼女の身体能力は一時的に跳ね上がっている。

だが、それでもセイバーの動きは速かった。

竹刀が空を切り、リセアの防御を試すように襲い掛かる。

「くっ……!」

リセアは後方へ飛び、距離を取る。

しかし、セイバーは容赦なく追撃を仕掛けた。

竹刀が連続して振り下ろされる。

リセアは魔術で強化した手足で防御しつつ、わずかに軌道をずらして直撃を避ける。

「魔術ばかりに頼るのではなく、己の身のこなしにも注意を払うことです。」

セイバーが指摘する。リセアは唇を引き結び、一瞬の隙を見つけた。

「では、これでどうですか?」

リセアは虚数魔術の術式を展開し、影のような魔力が地面から伸びる。

足元に広がる虚数の領域がセイバーの動きを鈍らせる。

しかし、それすらも一瞬だった。

「甘いですよ。」

セイバーは体をひねり、竹刀の柄で地面を叩く。

強烈な力で虚数領域を強引に断ち切り、一瞬で距離を詰めた。

そして、竹刀の先端がリセアの喉元にピタリと止まる。

「……参りました。」

リセアは肩を落とし、息を整える。

勝てるとは思っていなかったが、それでも敗北の悔しさは残る。

「悪くはありません。しかし、まだまだ鍛錬が足りません。」

セイバーは竹刀を下ろし、リセアの肩を軽く叩いた。

「どうだった、リセア?」

庭の端で茶をすすっていた遠坂凛が、笑みを浮かべながら声をかけた。

リセアは深呼吸をして、小さく微笑む。

「もう少しで手応えを掴めそうでした……ですが、やはりセイバーは強いです。」

「まあ、セイバーが手加減してるんだから、そんなに落ち込むことはないわよ。」

「そうなのですか、セイバー?」

「当然です。もし全力で打ち込めば、マスターは今ごろ意識を失っています。」

セイバーが当然のように言うので、リセアは小さく苦笑する。

「おいおい、リセアに怪我をさせるなよ。」

遠くで見ていたカルが、腕を組みながら眉をひそめた。

リセアを心配しているのが露骨に分かる。

「……相変わらず、リセアに甘い」

エリュが冷静に言うと、カルはわずかに表情を曇らせる。

「別に甘いわけじゃない。……ただ、心配するのは当然だろ?」

「…思うなら、そうなのだろう……」

エリュは淡々と返し、再び本のページをめくる。

「セイバー、また稽古をお願いします。」

リセアが静かに告げると、セイバーは満足そうに頷いた。

「もちろん。いくらでも付き合います。」

そうして、リセアの鍛錬の日々は続いていくのだった。


番外編㉘

リセアがセイバーの部屋の前を通りかかった時、ドアの向こうから紙のめくれる音が聞こえた。

「……?」

何気なく耳を傾けると、低く呟くようなセイバーの声が漏れ聞こえてくる。

「ふむ……これは……やはり重要なのですね……?」

普段は冷静沈着で、剣にしか興味がないように見える彼女が、珍しく何かに熱中しているらしい。

その響きに違和感を覚えたリセアは、何とはなしに扉をノックしてみた。

「セイバー、入ってもいいですか?」

すると、中で一瞬慌てたような物音がし、その後にやや落ち着いた声で返事があった。

「……ど、どうぞ」

扉を開けると、セイバーはベッドの上に座り、両手に分厚い 本を握っていた。

が、表紙をさっと裏返し、背中を向ける。

「何を読んでいたのですか?」

「な、何でもありません!」

焦ったような口調。

セイバーがこんなふうに取り乱すことは滅多にない。

「もしかして、また戦術書ですか?」

「そ、そういう類のものです!」

誤魔化し方が下手すぎる。

リセアはじっと彼女を見つめた。

「……セイバー?」

「む、むう……」

リセアの真剣な視線に耐えきれなくなったのか、セイバーは観念したように本を差し出した。

『マスターと結ばれる方法』

リセアは瞬きした。

「……これは……?」

「……タイトル通りの内容の本です……」

小声で告白したセイバーの頬が、ほんのりと紅潮している。

「マスターとしての関係をより強固にするための指南書かと思い、手に取ってしまいました……」

「えっと……どういう意味でしょうか?」

リセアが尋ねると、セイバーは妙に視線を彷徨わせながら呟く。

「……その……共に戦う以上、信頼は必要ですから……より絆を深めるべきだと思いまして……」

リセアは、ページをめくる。

第一章『スキンシップを増やしましょう』

第二章『二人だけの時間を大切に』

第三章『いざという時は押し倒す覚悟を』

「…………」

「な、内容までは読んでおりません!」

真っ赤になって慌てるセイバー。

「これ……どこで手に入れたのですか?」

「凛が『あなたはもっと勉強すべきよ』と……」

「凛さん……!!」

リセアは思わず頭を抱えた。

「……セイバー?」

「何でしょう?」

「これは、戦闘とはまったく関係のない本ですよ……?」

「そうなのですか?」

「は、はい……その、恋愛指南書…です……」

「恋愛……」

セイバーは静かに考え込み、次の瞬間、真っ直ぐリセアを見つめた。

「では、これはリセアと恋仲になる方法を学ぶ本なのですね?」

「そ、それは……!!」

まさかの真剣な表情に、リセアの顔が一気に赤く染まる。

「私は、マスターとしてだけでなく、リセア自身に興味があります」

「えっ……?」

「ですから、この本を読んで勉強しようかと」

「やめてください!」

思わずリセアは本を引ったくった。

「せっかく凛がくれたので、参考に……」

「参考にしなくていいです!!」

リセアの叫びが響き渡る中、セイバーは少し残念そうに瞬きをした。

後日。

凛がリセアの肩を叩きながら、いたずらな笑みを浮かべて言った。

「ねえ、どうだった? セイバーの『お勉強』の成果は?」

「凛さん……!!!」

赤面するリセアの姿に、凛は満足げに笑っていた——。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.52 )
日時: 2025/03/09 14:50
名前: きのこ (ID: /.YWlUQc)


番外編㉙

リセアはソファに腰を下ろし、ようやく訪れた平穏な時間に安堵のため息をついた。

今日は特に忙しく、朝から凛に魔術のレクチャーを受け、カルと買い物に行き、エリュと一緒に本屋に寄った。

帰宅後はセイバーのために食事を作り、やっと一息つける時間が訪れたのだ。

――と思ったのも束の間。

「リセアだな」

「リセア」

「リセアね」

「……リセア」

四方から自分の名前が呼ばれた。

視線を上げると、目の前にはカル、セイバー、凛、エリュが並んで立っていた。

「……えっと、何か?」

嫌な予感がした。

「リセア、今日は朝から忙しそうだったな。疲れているんじゃないか?」

「リセア、無理をしすぎるのはよくないでしょう」

「そうね。リセア、たまには甘えたら?」

「……休むべき」

四人がそれぞれに言葉を紡ぎながら、じりじりとリセアへと近づいてくる。

「いや、私は大丈夫です……本当に」

リセアが必死に弁明するも、カルは当然のように隣に腰を下ろし、肩を抱いてきた。

「じゃあ、少し寄りかかるだけならいいだろう?」

リセアの心臓が跳ねた。

近い。

近すぎる。

「まったく……カルばかり、ずるいです」

セイバーが静かにソファの反対側に座り、リセアの膝の上に頭を乗せた。

「ちょっ……!?」

「リセアは柔らかいですね……落ち着きます」

セイバーは満足そうに目を閉じる。

「ちょっと!アンタたち何してんのよ!」

凛が苛立ち気味に足を踏み鳴らしながら、ずかずかとリセアの隣へ。

「こうなったら、私もよ。ほら、腕貸しなさい」

無理やりリセアの腕を抱きしめ、胸元に押し付けてくる。

あたたかい感触が直に伝わり、リセアは心底困惑した。

「……私も」

最後にエリュが静かに近づき、そっとリセアの反対の腕を握った。

「……これはどういう状況でしょうか?」

リセアは半泣きになりながら問いかけた。

「決まっているだろ。リセアに甘える時間だ」

「リセアは、たまには甘えられるべきです」

「そうそう。いつも周りに気を遣ってるんだから、こういう時は私たちが面倒見てあげるわよ」

「……大切、だから……」

四人の言葉を聞いて、リセアはじわりと顔が赤くなっていくのを感じた。

『な、なんでこんなことに……!?』

逃げる隙を失い、四人に囲まれる形で身動きが取れなくなるリセア。

「……はぁ」

観念して、リセアは小さく息をついた。

「わかりました……少しだけ、です」

そう呟くと、四人は満足げに微笑んだ。

こうして、リセアの自宅での甘々ラブコメ(?)な時間が幕を開けたのだった。


番外編㉚

自宅のリビングに静寂が満ちていた。

珍しくカルとエリュが外出し、家には私とセイバー、そして凛の三人だけ。

「ふふっ、なんだか新鮮ね。久しぶりにリセアとセイバーとゆっくりできるわ」

紅茶を優雅にすすりながら、凛が微笑んだ。

セイバーは私の隣に座っており、彼女の手元には、ついさっき私が淹れた紅茶。

「カルたちがいないと、少し寂しい気もしますね……」

私はティーカップを片手に、少しだけ物思いにふけった。

カルとはほぼ毎日一緒にいるし、エリュとも最近よく過ごすようになったから、こうして二人がいないと違和感がある。

「寂しい……?」

セイバーが私の言葉を反芻しながら、じっとこちらを見つめてくる。

「はい、まあ……少しだけ」

そう答えた瞬間、セイバーの瞳が怪しく光った。

「ならば、私がその寂しさを埋めるしかありませんね!」

「え?」

 私が何か言う前に、セイバーはスッと私の横に寄り、突然腕を絡めてきた。

「…!?セ、セイバー?」

「こうすれば、寂しくありませんよね?」

ドヤ顔のセイバー。

「ちょ、ちょっと何やってるのよ!?」

凛が驚き、テーブルを叩いた。

「リセアが寂しいと言ったのです。ならば、サーヴァントとしてそれを解消するのは当然の務め」

そう言いながら、セイバーはさらに密着してくる。

肌と肌が触れ合う距離に、私は頬が熱くなるのを感じた。

「セ、セイバー!近いです!」

「…?何を言っているのですか?私とリセアは主従の絆を持つ者同士……これくらい普通では?」

「普通じゃないわよ!」

凛が呆れたようにツッコミを入れるが、セイバーはまったく動じない。

「セイバー……とにかく、ちょっと離れてください……」

「……むぅ」

セイバーは少し不満そうな顔をしながら、しぶしぶ距離を取る。

すると今度は、凛が腕を組んでニヤリと笑った。

「ねえリセア。どうせなら私も甘やかしてあげようか?」

「え?」

「リセアってば、普段からカルやエリュに囲まれて忙しそうだし、たまには姉として、思いっきり甘やかしてあげるのも悪くないかなって思ってね」

そう言いながら、凛がゆっくりと私の頭を撫でてくる。

「ちょっ、凛さん!?子供扱いしないでください!」

「ふふっ、いいじゃない。たまにはこういうのも」

「むぅ……」

セイバーが何かを言いたそうに私を見てくる。

「……私もリセアを撫でたいのですが」

「ちょっと待ってください!?」

私は両手を広げて距離を取るが、セイバーと凛がじりじりと迫ってくる。

「リセア、覚悟なさい」

「ま、待って! 私はどうすれば!?」

──数分後。

結局、私は二人に思いっきり撫でられたり抱きしめられたりと、すっかり甘やかされ尽くした。

「……なんだか、負けた気分です」

「ふふ、たまにはいいでしょ?」

「こういうのも、悪くはないですね」

二人の笑顔を見て、私はなんとなく心が温かくなるのを感じた。

……たまにはこういう時間も、悪くないかもしれない。



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