二次創作小説(新・総合)

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Fate/Azure Sanctum
日時: 2025/02/10 13:57
名前: きのこ (ID: DnOynx61)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070


〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。

小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.28 )
日時: 2025/03/02 20:17
名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第五十三章

リセアは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

胸の奥に沈殿していた記憶が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

白刃朔夜として生きていた頃

——思い出したくもなかったあの過去。

灰色の世界、冷たい空気、途切れそうな意識の中で彷徨っていた日々。

何もかもが暗く、冷たかった。

光を求めても、それは手を伸ばしても届かない、はるか遠くにあった。

誰も彼女を助けようとはしなかった。

誰も彼女の存在を見ようともしなかった。

生きるために、彼女は自らを捨てた。

感情を押し殺し、ただ生き延びることだけを考え続けた。

喉が渇き、胃が軋み、心が擦り切れても、前へと進まねばならなかった。

だが、今こうして振り返ると、その過去すらも遠く霞んでいるように感じる。

リセアは、自分がどれほど変わったのかを思い返した。

「リセア?」

カルの声が、暗い記憶の底から彼女を引き戻した。

彼の瞳が自分を覗き込んでいる。心配しているのが一目でわかった。

「……すみません、考えごとをしていました」

努めて微笑むが、カルは納得していないようだった。

しかし、それ以上は何も言わず、ただリセアの手をそっと握った。

その時、凛が静かに咳払いをし、集まった皆の視線を集めた。

「最近、この付近の地脈が少しずつ変化しているのよ。時計塔や協会側もこの異常を調査中なんだけど、今のところ原因は掴めていないわ」

その言葉に、一瞬場の空気が張り詰める。

地脈の変化は魔術師にとって極めて重要な問題であり、無視することはできない。

「地脈の変化……ですか?」

リセアは眉をひそめ、凛の言葉を反芻した。

地脈の乱れが起きる理由はいくつか考えられる。

魔術的な儀式の影響、あるいはこの土地に眠る力が何かしらの理由で動き出した可能性——。

「そう。微細ではあるけれど、確実に変動しているわ。流れが乱れることで、周囲の魔力環境にも影響が出る可能性がある。長期的に見れば、何かしらの現象が発生するでしょうね」

「魔術師が関与している可能性は?」

エリュが静かに問いかける。

その銀色の瞳は鋭く輝き、周囲を観察するようにわずかに細められていた。

「可能性は否定できないわ。けれど、今のところは確証がない。儀式による影響か、それとも聖杯戦争そのものの異常なのか……現時点ではどちらとも言えないわね」

リセアは、考え込む。

もしこれが聖杯に関する異変であれば、単なる地脈の乱れでは済まされない。

魔力の流れが変われば、戦いの趨勢すら変わる可能性がある。

皆がそれぞれ考えを巡らせる中、夜の帳が降り始めた。

結局、その日は地脈変化の原因を突き止めることはできず、漠然とした不安を抱えたまま一日が過ぎていった。


第五十四章

リセアは昨夜、遠坂凛から聞かされた「地脈の変化」の話を思い返しながら、自室のベッドに横になった。

異常な変動

……それがただの揺らぎではなく、何かの兆候である可能性。

霊脈が昨日と異なり、さらに悪化しているという事実。

だが、いくら考えても答えは出なかった。

「……考えても仕方ありません。明日、凛さんに詳しく聞いてみましょう……」

静かに呟きながら、リセアはまぶたを閉じた。

疲労が溜まっていたのか、すぐに眠りに落ちる。

翌朝――

冬の冷たい空気が、凛の家のリビングに張り詰めていた。

ソファに座るリセア、セイバー、アサシン、エリュ、カル。

その正面に立つのは、凛だった。

「結論から言うわね。昨日言ってた地脈の異常、さらに悪化してるわ」

真剣な表情で凛が切り出すと、場の空気が一気に重くなる。

「昨日より大幅に、ってどういうことですか?」

リセアが眉をひそめて尋ねる。

「昨日まではまだ 揺らぎの範疇だった。でも、今は違う。何かが動いてる」

「何かって……誰の仕業だ?」

カルが腕を組みながら尋ねる。

「それが……はっきりとは分からないのよ。ただ、地脈が不自然に変わりすぎてるのは確か......」

「もしかすると、魔術儀式……?」

「その可能性もあるわね。でも普通、ここまで大規模なものは短期間で実行できないはずよ」

「なら、最初から準備されていた...?」

エリュが淡々と指摘する。

「……やはり、そう考えるのが妥当ね」

「準備されていた……?それってまさか……!」

リセアの脳裏に嫌な予感がよぎる。

聖杯戦争の裏で、何かが仕組まれていた?

それとも、別の思惑が絡んでいるのか?

議論が続く中、カルはリセアの態度に違和感を覚えていた。

彼女はいつも冷静で、的確に状況を判断する。

だが、今日は妙に焦っているように見えた。

「リセア、君は……少し落ち着いた方がいいんじゃないか?」

「……何を言っているんですか?」

リセアはカルを見つめる。

その蒼い瞳には、どこか張り詰めた光が宿っていた。

「君はいつもそうだ。自分のことを後回しにして、他人のことばかり気にする」

「それが……いけないことなんですか?」

「いけないとは言わない。でも、それで君が傷つくのを見たくないんだ」

カルの言葉に、リセアの肩がピクリと動いた。

「……私の何が分かるんですか!!」

一瞬、場の空気が凍りついた。

リセアの声が、いつになく強い。

「私がどんな気持ちで戦っているか、どんな過去を持っているか……あなたに分かりますか!?」

「……」

カルは何も言えなかった。

彼女の過去を知っている。

だからこそ、何かを言うのは躊躇われた。

しかし、言わなければならない気もした。

「……それでも、君にはもっと自分を大切にしてほしいんだ」

その言葉に、リセアの表情が一瞬揺らぐ。

だが、彼女は唇を噛みしめ、何も言わなかった。

「……ご、ごめんなさい……」

カルはリセアの瞳に、わずかに涙が浮かんでいるのを見た。

他の誰も気づいていなかったが、彼だけがその変化を察した。

「……」

セイバーとエリュ、アサシンは止めようとするが、凛だけはその光景を見ながら、どこか懐かしそうな表情を浮かべていた。

『……まるで、あの頃みたいね』

彼女はかつての仲間たちとのやり取りを思い出しながら、静かに息を吐いた。

その後、リセアは一人で屋敷の庭に出た。

冷たい風が彼女の黒髪を揺らす。

『……私、また感情的になってしまいました……』

彼女は自分を責めていた。

カルが言っていることは正しい。

でも、受け入れるのが怖かった。

一方、カルもリビングで一人、ため息をついていた。

『……俺、言いすぎたな……』

リセアにもっと自分を大切にしてほしい。

それだけなのに、気持ちが伝わらなかった気がする。

二人の間にできた小さな溝。

それは、すぐに埋まるものではなかった。

だが、それでも――。

二人は、お互いを大切に想っていた。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.29 )
日時: 2025/03/02 20:20
名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


五十五章

夜明け前、リセアは自室のベッドの上に横たわり、静かに息を潜めていた。

部屋の中はひっそりとしており、窓の外では夜の帳がまだ世界を覆っている。

だが、彼女はただの静寂ではなく、そこに潜む異変を感じ取っていた。

ふと、空気の流れが変わった。

リセアは敏感にそれを察知し、鋭い蒼眼を開く。

風が揺らぎ、微細な魔力の波が漂った。

それはただの自然の変化ではなく、明らかに意図的なものだった。

そして、その瞬間、数人の気配が微かに揺らめく。

『……やっぱり』

リセアは内心で確信する。

彼女が予測していた通りの展開だった。

この微細な地脈の変化。

これを引き起こせる者は限られている。

そして、それを行う理由もまた、ある程度推測できる。

彼女は静かにベッドから身を起こし、夜の闇に目を凝らした。

「……やっぱり、あなた達だったんですね」

低く囁くように口を開く。

自身の言葉に応じるように、室内の気配がさらにざわめいた。

一族の者たち

——白刃の血を継ぐ者たち。

彼らはこの世界の地脈を操り、リセアを元の世界へと引き戻そうとしている。

だが、それだけではない。

その目的は、彼女を元の世界へ戻した上で

——処刑すること。

リセアの瞳に、わずかな冷たい光が宿る。

彼女はゆっくりと立ち上がり、音を立てぬように部屋を出た。

これ以上ここに留まるのは得策ではない。

誰もいなさそうな場所へ移動しながら、リセアは念話でセイバーを呼び出す。

「セイバー、来てください」

すぐさま応答があり、セイバーの気配が近づいてくる。

「リセア、どうしたのです?」

「……ちょっと厄介な相手が来ています。私と一緒に片をつけてほしいです」

「了解しました」

セイバーは頷き、すぐに構えを取る。

二人は静かに歩を進め、屋敷の外へ出ようとする。

しかし——。

突然、世界が歪んだ。

リセアは直感的に理解する。

何らかの強制的な力が働いた、と。

「リセア!」

カルの声が響いた。

「っ……!」

アサシン、凛、エリュもまた同じ空間に引き込まれようとしていた。

彼女たちの驚く声が響くが、もはや抵抗はできない。

空間が激しく揺れ、眩い光が視界を埋め尽くす。

次の瞬間——。

リセアと仲間たちは、元の世界へと引き戻されていた。

そこは、彼女がかつて「白刃朔夜」として生きていた世界。

そして、彼女を処刑しようとする者たちが待ち構える世界だった——。


五十六章

リセア、セイバー、カル、アサシン、凛、エリュの六人は、突如として光に包まれ、異なる世界へと飛ばされた。

目を開けたとき、リセアの前に広がっていたのは、見覚えのある場所だった。

いや、見覚えがあるどころではない。

ここは、彼女が白刃朔夜として生きていた世界。

「ここは……私の世界……?」

リセアがそう呟くと、仲間たちは驚いた表情を浮かべた。

リセアはゆっくりと深呼吸し、周囲を見渡す。

見覚えがある景色。

「この世界の日本は……ほとんど壊滅しています。遠坂家や間桐家も、すでに絶えていました」

凛が不安げに眉をひそめる。

「遠坂と間桐が……?そんなこと、ありえるの?」

リセアは静かに頷いた。目の前には、見渡す限りの廃墟が広がっている。

繁華街は崩れ果て、瓦礫の山と化していた。

あまりの惨状に、仲間たちも言葉を失う。

リセアが状況を説明しようと口を開いた、その瞬間――

「っ!伏せてください!」

セイバーの鋭い叫びが響いた。

次の瞬間、強烈な魔力を帯びた攻撃が空を裂き、彼女たちめがけて放たれる。

激しい衝撃波が吹き荒れ、全員が身を翻して回避する。

しかし、逃げきれなかったリセアはその風圧に巻き込まれ、背後の壁に叩きつけられた。

「リセア!」

カルが駆け寄ろうとするが、リセアの意識はその場で途切れてしまう。

無防備な彼女の身体が倒れこむ直前、暗闇の中から何者かが現れた。

その影は素早くリセアを抱え上げると、低く囁く。

「……裏切り者の血族。ようやく見つけました」

冷たい声とともに、その影は闇の中へと消えていく。

「くそっ……! リセアを!」

カルが悔しげに拳を握りしめる。

セイバーやアサシンも、突然の事態に動揺しつつも、すぐ追跡しようと身構えた。

「待っていろ……すぐに助けに行く」

カルの瞳には、焦燥と怒りが滲んでいた。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.30 )
日時: 2025/03/02 20:26
名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第五十七章

リセアが意識を取り戻したとき、彼女は冷たく硬い石の床に横たわっていた。

空気はひんやりと湿っていて、鉄錆のような生臭い匂いが鼻を突く。

「……ここは……?」

まばたきをして、ぼやけた視界を整える。

目の前に広がるのは、天井に灯る薄暗い光。

そして、彼女は次の瞬間、異変に気づいた。

体を起こそうとしたが、手足がまったく動かない。

「……っ!?」

驚いて下を見ると、両手両足は奇妙な何かに拘束されていた。

触手のようなぬるりとしたものが、まるで生き物のように絡みつき、ゆっくりとうねっている。

締め付けられているわけではないが、その異様な感触に思わず寒気が走る。

「……何、これ……?」

恐る恐る動こうとするが、触手はまるで意思を持つかのように逃がすことなく、しっかりと絡みついたままだ。

リセアはすぐに魔術を使おうとした。

「魔術が……使えない?」

胸がざわめいた。

魔力を感じようとしたが、まるでこの空間そのものが吸い取るかのように、何の反応もない。

――ここはどこ?

リセアはすぐに理解した。

ここは白刃の屋敷。その地下牢だ。

その頃、他のみんなは白刃の屋敷へと向かっていた。

「本当にここで間違いないのですか?」

セイバーが血に濡れた剣を握りしめながら問いかける。

カルは冷たい視線を向けたまま、静かに頷いた。

「間違いない。ここにリセアがいる。」

彼の言葉に、凛やエリュ、アサシンも緊張を走らせた。

そして、彼らは決死の覚悟で白刃の屋敷へと突入する。

しかし――

「くっ……!湧いて出るように増える……っ!」

屋敷の暗闇から次々と飛び出してくる敵兵。

彼らの目は異様に爛々と輝き、口からは不自然な唾液が垂れていた。

「……これ、ただの兵士じゃないわ。何かおかしい……!」

凛が眉をひそめ、すぐに宝石を握りしめる。

しかし、その瞬間、敵兵のひとりが奇怪な動きを見せた。

「ギギ……アァァァ……!!」

その身体が膨れ上がり、皮膚が裂け、中から異形の触手が噴き出した。

血と肉片が飛び散り、床をどろりと赤黒く染める。

「っ……!!」

セイバーが瞬時に剣を振るい、その触手を斬り裂く。

しかし、斬られた部分からまた新たな肉の塊がうごめき、まるで蠢く肉塊のように再生を始めた。

「これは……魔術で造られた怪物……?」

エリュが冷静に分析するが、状況は悪化するばかりだった。

どこかで異様な笑い声が響き、血に塗れた屋敷の闇が、彼らを深く飲み込んでいった。

「急ぐぞ……リセアが危ない!」

カルの叫びが響く中、仲間たちはさらなる深淵へと足を踏み入れた。

再び地下牢。

リセアの前で足音が響いた。

重たい鉄の扉がギシギシと音を立てながら開き、ひとりの男が現れる。

「久しぶりだな、朔夜。」

それは彼女の義父だった。

リセアは鋭い目つきで男をにらみつけた。

しかし男はそれを気にすることなく、不気味な笑みを浮かべながら、彼女を縛りつけている奇妙な触手を眺めていた。

「お前は魔術が使えなければ、ただの無価値な女だ。」

その言葉に、リセアの心がざわめいた。

悔しさを押し殺し、歯を強く噛みしめる。

触手はゆっくりと動き、冷たく湿った感触が彼女の肌に絡みつく。

ひんやりとしていながらも、どこか生暖かい不快な感触が、じわじわと全身を包み込んでいった。

「……ひゃっ!」

無理やり動こうとするが、体が思うように反応しない。

力が少しずつ抜けていくのがわかる。

視界がかすみ始めた。

――このままでは危険だ。

必死に抵抗しようとするが、手足が動かない。

『……誰か……助けて……』


第五十八章

凛は荒い息をつきながら、手の中の宝石を握りつぶした。

閃光とともに、敵の一団が吹き飛ぶ。

しかし、宝石が尽きた今、彼女は限られた魔力を温存するため、ガンドすら撃つのを控え、体術で応戦するしかなかった。

蹴りを繰り出し、襲い来る敵の顔面に拳を叩き込む。

その拳は骨を砕く感触を伝え、敵の身体が弧を描いて吹き飛ぶ。

しかし、それでもなお、次々と新たな敵が彼女を取り囲んだ。

「チッ……まだこんなにいるの?」

息を切らしながらも睨みつける凛の視界に、ふと影が差した。

戦場の奥から、黒い影がゆっくりと歩み寄る。

「――ようやく、お出ましってわけね」

それは、今までの敵とは明らかに異なる気配を纏っていた。

周囲の空気が変わる。

肌が粟立つような殺気。

戦場に満ちる鉄と血の匂いが、より濃くなっていく。

血の匂いを纏うナニカが前に出た。その存在だけで、凛たちは圧倒される。

エリュとカルも戦っていたが、すでに深手を負っていた。

エリュは肩口を斬られ、カルは脇腹から血を流している。

「くそ……やっぱり、一筋縄じゃいかないか……」

カルは歯を食いしばりながら、敵と渡り合っていたが、消耗は激しかった。

その時だった。

「ここまで、ですね……」

アサシンが静かに呟いた。

彼女は戦場の中央へと歩み出る。

その目は冷静で、しかしどこか寂しげだった。

「カル、あなたには悪いですが……これしかありません」

彼女はナイフを手に、静かに構えた。

そして、穏やかに微笑む。

「愛する故国に、溺れるような夢を」

――ラ・レーヴ・アンソレイエ。

その瞬間、空間が歪み、敵の大半が血煙とともに消し飛んだ。

アサシンの宝具は、圧倒的な破壊力をもたらした。

だが、それでもなお、一部の強敵は生き残っていた。

「アサシン!!」

カルの叫びが響く。

しかし、彼女はすでに限界を超えていた。

「やっぱり、最後まで……私は、私のまま……」

シャルロットは微笑みながら、静かに消えていった。

涙が、カルの頬を伝う。

「……嘘だろ、ふざけるな……っ!!」

敵は半壊したが、それでもまだ戦いは終わらない。

そして、一方その頃――

リセアは、何も知らずにいた。

冷たく、ぬるりとした異形の感触が、彼女の肌を這う。

闇の中、彼女は震えながらも、身動きすら許されなかった。

「やめて……やめてください……っ」

掠れた声が虚空に消えた瞬間、背後から不吉な足音が響く。

「ふふ、いい悲鳴だな、リセア」

嘲笑とともに、義父がリセアを痛めつける。

その目は暗闇の中で光を帯び、嗜虐的な愉悦を滲ませていた。

触手のような異形の影が、リセアの四肢を絡めとり、じわじわと締めつける。

痛みと絶望が、彼女を支配していく。

彼女の声は、虚しく闇に溶けていった――。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.31 )
日時: 2025/03/02 20:46
名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

第五十九章

地下牢の空気は、粘つくような湿気と鉄錆の臭いに満ちていた。

暗闇の中、リセアは必死に動こうとしたが、粘つく触手ががっちりと体を絡め取り、どんどん締め付けていった。

「っ……く……!」

彼女は息が詰まり、手足をばたつかせたが、力が抜けていくのを感じる。

拘束がさらに強まり、視界がぼやけた。

『これで……終わり……なの……?』

その瞬間、リセアの体の奥深くで、何かが弾けた。

長年封印されていたものが解き放たれるように、彼女の体内の魔術回路が暴走を始めたのだ。

これまでとは比べ物にならないほどの強烈な魔力が、全身を駆け巡る。

彼女の中にある魔術回路が一気に開放され、本数が爆発的に増えていく——

八百本。

普通ではありえない、とんでもない数だった。

それが完全に開花した瞬間、リセアの姿が変わった。

「……フフ、これは——」

彼女の声が変わった。

今までの穏やかで丁寧な敬語ではない。どこか古風で、威厳のある響きだった。

瞳の色は蒼から妖艶な紫に変わり、黒髪は肩まで伸びる。

身に着けていた服も、着物のようなものへと変貌していた。

彼女の体を包むまばゆい光が輝きを増し、そのまま宙へと浮かび上がる。

「さて、拙の手でこの場を清めるとしようかのう——」

彼女が指先を軽く振ると、瞬間、地下牢の分厚い壁が爆発するよに砕け散った。

轟音とともに、舞い上がる塵と瓦礫。

その余波で触手は引き裂かれ、周囲の敵兵も一瞬のうちに弾け飛んだ。

まるで見えない巨大な力が荒れ狂う嵐となって、あたりを吹き飛ばしたかのようだった。

「な……なんだ、この力は……!?」

セイバーは目を見開き、信じられないという表情で後ずさる。

リセアの姿は、もう彼女が知っているものではなかった。

蒼い瞳は深い紫に染まり、黒髪はまるで夜空を思わせるように美しく輝いている。

彼女の体を包む光は、まるで太陽のように眩しく、そして暖かいはずなのに

——どこか底知れない恐ろしさを感じさせる。

「……リセア……いや、お前は……」

凛の震える声が響く。

「違う……リセアでも朔夜でもない……」

彼女が放つ光の圧倒的な神々しさ、異常なまでに増え続ける魔術回路の数、それを考えればこの結論に至るのは当然だった。

「正真正銘のサーヴァント……」

「日本神話に伝わる天皇の祖神——天照大神よ。」

その名を口にした瞬間、あたりの空気が変わる。

まるで世界そのものが、彼女の存在を認識し、畏れ、ひれ伏しているようだった。

「……では、楽しませてもらうぞ——」

リセア……いや、天照大神が静かに呟いた。

次の瞬間、彼女の周囲に輝く光が渦を巻き、まるで太陽そのものが顕現したかのように輝き始めた。

新たな脅威の幕開けに、誰もが息を呑んだ。


第六十章

眩い光が空に舞い上がり、雷のように地面を揺るがしながら爆発した。

天照大神のまばゆい輝きが世界を包み込み、敵たちは次々に光の波に飲み込まれていく。

セイバー、カル、凛、エリュは驚きのあまり息をのんだ。

まるで太陽そのものが戦場に降り立ったかのように、彼女の姿は神々しく輝いていた。

光が弾けるたびに、大地が震え、空気が焼けるような熱を帯びる。

敵は次々と消し飛び、残るのは焦げた大地だけ。

そのあまりの力強さに、誰もがただ見守るしかなかった。

しかし、そんな天照大神にも簡単には倒せない最後の敵が現れた。

「我が身を照らす太陽よ、その力を我が手に託し、今、降りし神々の力――」

天照大神はそう詠唱し、両手を高く掲げる。

黄金の光が彼女の周囲を巡り、まるで星が踊るように輝き始めた。

御光禍臨みひかりのまもり――!!」

彼女の身体が一層強く光を放ち、まるで夜空に輝く太陽のようだった。

その瞬間、彼女の身体に複数の英霊の力が流れ込んだ。

その中でも、スカサハの存在が特に強く宿る。

彼女の象徴である槍、「ゲイ・ボルグ」が天照大神の光と融合し、爆発的な威力を得た。

神聖なる輝きと冥府の戦士の技が交わる

――それはまさに恐るべき融合。

「では、覚悟は良いか?絶技、発動!」

「刺し穿ち、突き穿つ!」

「貫き穿つ死翔の槍!!」

一撃。

天照大神の強大な神威と、スカサハの究極の槍術がひとつに溶け合い、まばゆい閃光となって放たれる。

その一撃はまるで天地を裂く雷のように走り、最後に立ちはだかる敵の胸を正確に貫いた。

瞬間、全ての音が消え去った。

まるで時間そのものが止まったかのように、戦場は静寂に包まれる。

戦いは、終わったのだ。

天照大神は静かに息を吐き、ゆっくりと仲間たちの方を振り返る。

穏やかな笑みを浮かべながら、優しく語りかけるように呟いた。

「ふぅ……もう時間切れかのう……」

その言葉と共に、彼女は片手をそっと掲げる。

その手から溢れ出す光が、まるで夜明けのように周囲を包み込み、仲間たちの身体を優しく包み込んだ。

光が舞い、風が囁く。

次の瞬間、仲間たちはその光に導かれ、元の世界へと転移していく。

やがて、天照大神の輝きが徐々に薄れ、彼女の姿は崩れ落ちるように小さくなっていった。

そして――

リセアへと戻る。

しかし、彼女の身体は限界を迎えていた。

足元がふらつき、力が抜ける。

全身を激しい痛みが襲い、耳鳴りが世界を支配する。

頭の中がぐらぐらと揺れ、視界が歪む。

立っていることすら難しく、ついには膝をついてしまう。

そんな彼女の姿を見た仲間たちは、すぐに駆け寄った。

「リセア!」

セイバー、カル、凛、エリュ

――彼らの心配そうな声が響く。

リセアは必死に意識を保とうとしながら、最後の力を振り絞って手を伸ばした。

目の前に映るのは、凛の姿。

その姿を目に焼き付けるように見つめる。

そして――

まるで糸が切れた人形のように、そのまま倒れ込んだ。

光の余韻がまだ消えぬ戦場に、彼女の身体をしっかりと受け止める凛の姿があった。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.32 )
日時: 2025/03/02 20:50
名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第六十一章

リセアの意識が、ゆっくりと目覚めていく。

体の奥の方に、ズキズキと鈍い痛みを感じながら、彼女はゆっくりとまぶたを開けた。

目に映るのは、ぼやけた天井の模様。

どこか見覚えがあるが、意識がはっきりしない。

体を動かそうとしたが、わずかに指を動かしただけで、全身を駆け巡る鋭い痛みが彼女を襲った。

「……っ!」

思わず息を呑み、痛みに耐えるように歯をぎゅっと噛みしめる。

ぼんやりとしていた意識が次第に鮮明になり、数時間前の戦闘の記憶が蘇る。

それと同時に、胸が締め付けられるような感覚が広がった。

『……行かなきゃ』

リセアは痛みに耐えながら、ゆっくりと体を起こす。

ベッドの縁に手をかけ、少しずつ体勢を整えた。

ぎこちない動きで足をベッドの外に下ろし、深く息を吸い込む。

体中が痛みに悲鳴を上げるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

脚に力を入れるたび痛みが走ったが、気にしている余裕はなかった。

壁に手をつきながら、ゆっくりと扉へ向かう。

リビングに入ると、そこにはセイバー、カル、凛、エリュが揃っていた。

リセアが部屋に入ると、そこにいた全員が一斉にこちらを向いた。

その顔には、ほっとしたような安堵と、驚きが混ざり合った表情が浮かんでいる。

「リセア……無理しすぎだ」

カルが心配そうにこちらへ駆け寄ろうとする。

しかし、リセアは軽く片手を上げて、それを制した。

「だ、大丈夫……です。それより、話をしましょう」

そう言いながら、リセアは足を引きずるようにしてソファへ向かう。

そして、慎重に体を沈めると、凛が深いため息をついた。

「本当に無茶するわね……まあ、いいわ。ちょうど話し合うつもりだったし」

「話……ですか?」

リセアが首をかしげると、セイバーが真剣な表情で深く頷いた。

「リセアについてのことです」

「……私?」

エリュは腕を組みながら、じっとリセアを見つめていた。

そして、静かに口を開いた。

「リセアは……人間か?」

その言葉が放たれた瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。

リセアは思わず目を見開いた。

しかし、すぐに驚きを飲み込み、深く息をつく。

「……私が、人間ではないと?」

その問いに、凛は真剣な眼差しで頷いた。

慎重に、言葉を選びながら続ける。

「結論を言うわ。あなたは“人間でありながら、人間ではない”存在なのよ」

リセアは唇を引き結ぶ。

確かに、自分が普通の人間と何か違うことは感じていた。

それは、ずっと前からぼんやりとした違和感として心の中にあった。

しかし、それが具体的にどういう意味を持つのかは分からなかった。

自分は、本当に何者か

――その疑問が、リセアの胸の奥で静かに渦巻いていた。

「それと、もう一つ重要なことがある」

カルが慎重な口調で続けた。

「他の英霊を憑依させたのは、何だったのか」

リセアの胸の奥に、何か引っかかるものがあった。

「……サーヴァント、天照大神としてのスキル、技のどれか……?」

凛が頷く。

「おそらくね。あなたとアマテラスの関係を解明しないといけない」

沈黙が流れる。

リセアはゆっくりと息を吐きながら、思考を巡らせた。

ふと、リセアは違和感を覚えた。

いつもの空間に、違う何かを感じる。

「……アサシンさんは?」

問いかけた瞬間、場の空気が変わった。

全員の表情がわずかに曇る。

凛がゆっくりと口を開いた。

「……アサシンは、宝具を使用して……消滅したわ」

その言葉がリセアの耳に届いた瞬間、まるで世界が揺らいだような気がした。

「……そんな……」

視界が滲む。

涙が頬を伝い、震える手でスカートの裾を強く握りしめる。

「結局……私は……みんなの足を引っ張ってばかりでっ……何も、何もできずに……!!」

悔しさと悲しみが混ざり合い、喉の奥から嗚咽が漏れそうになる。

そのとき、そっと肩に手が置かれた。

温かく、包み込むような感触だった。

顔を上げると、そこにはカルがいた。

「リセア、君は……一人じゃないだろ」

優しい声が、心の奥にじんわりと染み渡る。

リセアは震える唇を噛みしめながら、カルの顔を見つめた。

その瞳には、変わらぬ温もりと、確かな絆が宿っていた。


第六十二章

リセアは夢を見ていた。

目の前にいたのは、長い黒い髪と、紫色の大きな瞳を持つ、美しい女性だった。

彼女はまるで夜空のように深い色のドレスを着ていた。

静かに立っていたが、その姿にはどこか寂しそうな影があった。

彼女の周りは真っ暗だった。

どこまでも続く黒い闇。

光が一つもない、不思議な空間だった。

それでも彼女はじっと立ち尽くして、誰かを待っているように見えた。

──助けてと言っているような声。

──誰かに気づいてほしい、と願っているような声。

でも、その声はで大きな壁に邪魔されているかのように、外には届かなかった。

そこに囚われている。

静かに、でも確かに、どこにも行けずにいる。

リセアはその人を助けたくて、そっと手を伸ばした。

けれど、その瞬間

──世界が真っ黒に染まり、すべてが消えた。

そして、目を開けると、そこはいつもの自分の部屋だった。

「……今のは……?」

知らないはずの女性。

でも、どこかで会ったことがあるような気がして、胸が締めつけられる。

リセアは、夢のことを考えながら、とりあえずベッドから起き上がった。

翌朝、リセアはセイバー、カル、エリュと共に話し合いの場を設けた。

聖杯戦争はリセアとセイバーの勝利として、幕を閉じたはずだった。

しかし

──聖杯が現れなかった。

「やっぱりおかしい。聖杯戦争は終わったはずなのに、肝心の聖杯が出てこないなんて」

カルが腕を組みながら呟く。

「……異常が発生している?」

冷静に分析するエリュ。

「凛さん、何かわかることはありますか?」

リセアが問いかけると、凛は少し考え込んだ後、口を開いた。

「可能性として、冬木に何か手がかりがあるかもしれないわね。元々、聖杯戦争の起源は冬木市にあるの。ここロンドンで起きた聖杯戦争と、冬木のシステムが何かしら関係している可能性は高いわ」

「じゃあ……日本に行くってことですか?」

「ええ。ここにいても情報が足りない以上、実際に現地へ行って調査するのが手っ取り早いわね。直接足を運べば、今まで見えてこなかったこともわかるかもしれないし」

こうして、一行は冬木市へ向かうことを決めた。

数日後──。

長い飛行時間を経て、一行は日本に到着した。

日本の空港に降り立つと、冷たい空気が肌を刺すようだった。

空港のアナウンスが日本語で流れ、周囲には日本人の旅行客やビジネスマンが忙しそうに行き交っていた。

「いよいよ冬木ですか……」

リセアたちは空港から電車を乗り継ぎ、目的地へと向かった。

窓の外を眺めながら、リセアは自分の胸の内に去来する感情を確かめていた。

──懐かしい。

この世界の冬木市に来るのは二度目だ。

けれど、まるで長い年月が経ったような気がする。

過去の記憶がよみがえり、胸の奥がきゅっと締めつけられるようだった。

数時間後、一行はついに冬木市の駅に降り立った。

「ここが……冬木」

リセアは静かに街を見渡した。

変わらない景色、見慣れた街並み。

しかし、何かが違う気がする。

冷たい風が頬をなでる。

ビルの隙間を抜ける風の音が響き、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。

『ここに……何かがある』

彼女の直感が、強く警鐘を鳴らしていた。

──そして、物語は新たな局面へと進んでいく。




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