二次創作小説(新・総合)
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- Fate/Azure Sanctum
- 日時: 2025/02/10 13:57
- 名前: きのこ (ID: DnOynx61)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070
〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。
小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.43 )
- 日時: 2025/03/08 12:02
- 名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
番外編⑪
朝、リセアはいつものように目を覚ました。
しかし、何か違和感がある。
身体が妙に軽い。
そして、視界に入るのは自分の黒髪ではなく、見慣れない金色の髪。
「……え?」
リセアは反射的に手を伸ばし、髪を触る。
すると、そこにはいつもの自分の髪ではなく、サラリとした金髪があった。
『……待って、これって』
リセアは慌てて部屋の鏡を見に行く。
鏡に映っていたのは、見覚えのある顔。
だが、それは自分のものではなかった。
「カル……?」
自分がカルの姿になっている。
混乱しながらも、すぐにもう一つの可能性を考える。
ということは、カルの方も——
「……っ!」
リセアは急いでカルを探しに向かった。
部屋の前で戸惑いながらも、リセアはノックする。
「カル、起きてますか?」
中から返事がない。
不安に思いながら、そっとドアを開けると、そこにはベッドで寝ているリセア
——つまりカルがいた。
そして、その横には妙な光景が広がっていた。
「……なに、これ」
目を擦りながら起き上がったカルも、自分の姿がリセアのものであることに気づき、驚愕の表情を浮かべた。
「リセア……?いや、俺……?」
「たぶん、私たち、入れ替わってます……」
二人が呆然としている中、さらに異変は広がっていた。
隣の部屋から、凛とセイバーの声が聞こえてくる。
二人の声が重なりながら、奇妙な会話が交わされていた。
「……なんで私たちが、こんな…!」
「凛、落ち着いてください。これは私も望んだことでは——」
リセアとカルが部屋に入ると、そこには凛の姿のセイバーと、セイバーの姿の凛がいた。
「まさか、凛さんとセイバーも……?」
二人は頷いた。
「…どうやら、私たち全員が何者かの影響で入れ替わったようですね」
「いや待て、全員じゃない。エリュは…?」
その時、静かに部屋の扉が開いた。
「……おはよう」
そこに立っていたのは、いつも通りのエリュだった。
彼女だけは、変化していない。
「……君だけ、普通なんだな」
「……そうみたい」
全員が入れ替わっている中で、唯一変化がないエリュ。
そのことが、今回の異変の鍵を握っているのかもしれない——。
「……原因を考えよう」
リセアは深呼吸し、皆で話し合うことを提案した。
こうして、異常事態の解決に向けての考察が始まるのだった。
「で、どうしてこうなった…?」
冷静にエリュが告げる。
「そんなの分かるワケないでしょ!」
と、セイバー…いや凛が半ギレで言う。
「……一つだけ、考えられる…」
エリュの発言にその場の全員が息を呑んだ。
「互いに好き同士……」
「え…?」「は…?」
「嘘っ!?」「……!?」
その言葉が広がる中、とある疑問が浮かぶ。
「…まってください」
凛…いや、セイバーが真剣に言った。
「リセアとカルが両思いなのは分かります。ですが――」
「私と凛は果たして、両思いなのでしょうか?私は凛のことは。好きですが、凛は――」
「ええ、好きよ…っ」
その瞬間、室内が微かに光り出す。
「っ…?」
驚く間もなく、身体がふわりと軽くなり、視界が白く染まる。
リセアが再び目を覚ますと、元の身体に戻っていた。
周囲を見渡すと、カルも、凛も、セイバーもそれぞれ元通り。
「戻った……?」
安堵のため息をつくと、エリュが静かに微笑んだ。
「……呪いが解けた」
「呪いって……え?」
リセアが問いかけると、エリュは少しだけ目を伏せた。
「……好き同士が気持ちを確かめ合うことで解ける呪いだった…」
リセアとカル、凛とセイバー。
二組の関係が、確かに深まった瞬間だった。
番外編⑫
夕暮れ時、遠坂家は珍しく静まり返っていた。
いつもはリセアの保護者の凛や、口数の少ないが存在感のあるエリュ、負けず嫌いのセイバーが共に過ごしているが、今日は彼女たちが外出していた。
そのため、屋敷にはリセアとカルの二人だけが残されていた。
カルはリビングのソファで本をめくっていたが、集中できず視線を彷徨わせた。
向かいの椅子に座るリセアは、どこか落ち着かない様子でカップの縁を指でなぞっている。
「……静かだな」
ふと、カルが呟いた。
「そうですね。皆さんがいないと、こんなにも違うものなのですね」
リセアは小さく微笑んだ。
普段は騒がしいとまでは言わないが、会話が絶えず聞こえるこの屋敷が、今はまるで人気のない空間のようだった。
「落ち着かないか?」
「……少しだけ。でも、たまにはこういうのも悪くないです」
リセアは紅茶を一口飲み、テーブルに置く。
カルはそんな彼女の仕草をぼんやりと眺めていた。
『……リセアって、こんなに色っぽかったか?』
普段、戦闘や魔術の話をしている時は意識することはなかった。
しかし、こうして静かな時間の中で向かい合うと、彼女の持つ女性らしさが際立って見えた。
肩までの黒髪がさらりと揺れ、蒼い瞳が淡く光を宿している。
白い肌に映える薄紅の唇は、妙に艶やかだった。
何より、ふとした仕草が無防備で……。
「……どうかしましたか?」
リセアが不思議そうに首を傾げる。
カルは我に返り、咳払いをした。
「いや……なんでもない」
言葉を濁したものの、心臓の鼓動は速くなっていた。
その後、リセアが部屋に戻ると言ったため、カルもそれに続いた。
リセアの部屋はカルの部屋の隣で、ここまで一緒に行くのは自然な流れだった。
「それでは、おやすみなさい」
リセアが扉に手をかける。
その瞬間、カルは彼女の手首を掴んでいた。
「……カル?」
戸惑いの声。
だが、拒絶は感じられない。
「少しだけ……もう少しだけ、一緒にいてもいいか?」
カルの声は落ち着いていたが、確かな熱がこもっていた。
リセアは数秒間の沈黙の後、小さく頷いた。
「……わかりました」
彼女の部屋に入ると、甘い香りがした。
リセアが振り向く前に、カルは彼女を抱きしめていた。
「…カル?」
「……君は、本当に……」
その言葉の続きは、彼自身も分からなかった。
ただ、胸の奥に込み上げる感情に抗えなかった。
ふとした瞬間、あることに気づいた。
「…前から、こんなのあったか?」
首には薄っすらと、小さな傷跡があった。
「あ、これ…です…か?多分、凛さんとセイバーは…知ってると思います……」
リセアの表情が少しずつ曇っていく。
その目が揺れ、何かを言いかけて――
「…この世界に来る前に……昔、色々と――」
「…それ以上、言わなくていい」
カルはリセアの肩をそっと抱き寄せた。
彼女の細い肩が僅かに震えるのが伝わる。
「今は、君がここにいる。それだけでいい」
リセアは少しだけ目を見開いた後、静かにカルの胸に額を預けた。
そのまましばらく、静寂が二人を包んだ。
やがて、リセアは小さく囁いた。
「……カルは、優しいですね」
「……そんなことない」
「でも、そう感じるんです」
リセアの声はどこか穏やかだった。
カルは彼女の髪をそっと撫でながら、小さく息を吐く。
「……もう遅いな。そろそろ――」
「……まだ、一緒に…」
リセアの指がカルの袖をそっと握った。
カルは驚いたが、すぐに微笑んだ。
「……わかった」
そう言うと、彼はリセアの背を優しく撫でながら、再び彼女を抱きしめた。
「やっぱり、私はカルがいないと…」
リセアはカルの肩に顔を埋める。
彼の胸からは、どこか懐かしい温もりが感じられた。
「……ずっと、傍にいてほしい」
カルの呟きはリセアにだけ届いていた。
リセアを抱えた状態で、キスする。
「んっ…はぁ」
「あの…やっぱり……恥ずかしいです…」
『…やっぱり、リセアも…』
カルはリセアを抱きしめてキスをしていた。
彼女は顔を赤らめ、恥ずかしげに瞳を揺らしている。
「んっ…あぁ…」
リセアの息が甘く乱れる。
その時――
「ん…?どうしたリセア?」
「帰りました」
「ただいま〜!」
「…帰った」
セイバー、凛、エリュの三人が帰ってきた。
「皆、帰ってきてしまいましたっ!?」
リセアは顔を赤くして慌てる。
「あ…え…」
カルは慌てて離れようとするが、リセアがそれを拒んだ。
「……?」
凛は首を傾げるが、すぐに納得したのか苦笑した。
「……なんだ、そういうことか」
「……?…あっ!凛さん!」
凛は笑いながら、リセアとカルを庇うように二人の前に立つ。
「リセアが嫌がってないなら、何も言わないわ。カル、ちゃんと幸せにしなさいよ?」
凛はそう言うと、二人を促して部屋を出た。
リセアは顔を真っ赤にしつつ、カルに寄り添っている。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.44 )
- 日時: 2025/03/08 12:06
- 名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
番外編⑬
「よし、これをこうして……って、あれ?」
冬木の遠坂邸。
リセアたちは、凛の「ちょっとした作業」に付き合わされていた。
机の上には説明書も読まずに組み立て途中の電子機器。
コードがあちこちに絡まり、すでにカオスな状態だ。
「……凛、それ、本当に大丈夫か?」
カルが不安げに聞く。
「大丈夫に決まってるでしょ? これをこうして……って、あれ?」
凛の手がコードに引っかかり、
「ちょ、ちょっと待っ……」
バチンッ!
突如、家中の電気が消えた。
「は……?」
「なっ……」
「お、おい……」
室内は完全な暗闇。
どこからか、焦った声が響く。
「何やった……?」
エリュが冷静に問いかけるが、凛はバツが悪そうに咳払いをする。
「……ブレーカーが落ちたわね」
「どうするんですか……?」
リセアが恐る恐る尋ねると、凛は自信満々に答えた。
「大丈夫よ! ブレーカーを上げればすぐ元通りだから!」
「……どこにある?」
エリュの冷静な指摘に、凛は一瞬黙った。
「……あ、うん、たぶん」
「たぶん!?」
カルが呆れた声を上げた。
「と、とにかく手探りで移動しましょう!」
リセアが提案し、全員が慎重に動き出す。
しかし──
「…へ?」
「ん……?」
暗闇の中で誰かとぶつかる感触。
そして、次の瞬間──
『んっ……?』
リセアは何か柔らかいものが唇に触れているのを感じた。
「…………」
「…………」
沈黙。
やがて、ブレーカーを直しに行っていたセイバーの声が響いた。
「直りました!」
カチッ。
電気が点き、明るくなった室内。
その瞬間、リセアとエリュが倒れ込んだ体勢のまま、唇が重なっていることが明らかになった。
「…………」
「…………」
周囲は静寂に包まれる。
そして──
「へぇ~~、なるほどねぇ~~?」
凛がニヤニヤしながら腕を組む。
「ち、違っ、これは……!」
リセアが慌てて身を起こすが、顔は真っ赤だ。
「…………」
エリュも無表情ながら、耳が赤い。
「何があった?」
カルとセイバーは状況が飲み込めず、呆然とリセアたちを見つめる。
「うんうん、まあまあ、青春ね!」
凛は満足げに頷いた。
「ちょっと待ってください! 何も言わずに納得しないでください!」
リセアの叫びが響き渡るが、凛のニヤニヤは止まらないのであった──。
番外編⑭
時計塔の廊下を歩いていたリセアは、ふと声をかけられた。
「…リセアさん、少しお時間をいただけませんか?」
声の主は同じく時計塔の生徒で、貴族の魔術師の青年だった。
背は高く、顔立ちは端正だが、どこか人を見下すような雰囲気がある。
「あ、えっと…何か…?」
突然の呼び止めにリセアは戸惑いながらも、丁寧に返す。
青年は微笑みながら一歩近づいた。
「貴女のことを前々から気になってましてね。お話ししたいと思い…」
リセアは少し居心地の悪さを感じた。
相手の視線には妙な圧力があり、警戒心を抱かせるものだった。
「そう、ですか…? でも、私、もう戻らないと…」
早々にこの場を去ろうとするリセア。
しかし、青年はその場で微笑を崩さず、さらに一歩踏み込んできた。
「そんな急がなくても良いでしょう? せっかくの機会ですし、少しぐらいお付き合いください」
遠回しに拒絶しても引き下がる気配はない。
リセアの青い瞳が一瞬、迷いを見せる。
無理やり拒絶するのも問題だが、これ以上関わりたくないというのが本音だった。
「……戻ります」
毅然とした態度でそう告げ、踵を返す。
しかし、その瞬間——
「待ってくださいよ」
青年の手がリセアの手首を掴んだ。
「っ……!」
リセアの体がびくりと震える。
無意識に感じた恐怖が一瞬脳裏を過ぎり、過去の記憶がフラッシュバックしそうになる。
「彼女が嫌がっているだろう?」
低く冷たい声が響いた。
青年が驚いたように顔を上げると、そこにはカルが立っていた。
彼の蒼色の瞳は鋭く光り、青年を射抜いていた。
「お前…」
「手を離せ。今すぐに、だ」
カルはゆっくりと歩み寄る。
その冷徹な視線は、相手を圧倒するだけの力があった。
「別に、そこまで強引にしたつもりは…」
青年が言い訳を試みるが、カルはそれを遮った。
「彼女が拒んでいるのなら、それ以上はない。その理解力がないのなら、今すぐ覚えたほうがいい」
その言葉に、青年は苦々しい表情を浮かべ、しぶしぶリセアの手を離した。
「……わかった。今回は引くとしましょう」
そう言い残し、青年は踵を返して去っていった。
手首を解放されたリセアは、一息つく。
「ありがとう…ございます」
「大丈夫か?」
カルはリセアの手首をそっと取り、軽く撫でた。
彼の瞳には、どこか怒りと心配が入り混じっている。
「……大丈夫、です」
リセアは少し困ったように微笑んだが、カルはまだ納得がいかない様子だった。
「君は無自覚すぎるんだ。もっと警戒しろ」
「え…?」
カルはため息をつきながら、リセアをじっと見つめた。
「リセアは意識していないかもしれないけど、目立つし、異常なほどモテる。それを自覚していないのが厄介なんだよ」
「そ、そんなこと…」
「ある。俺はずっと見てるからな」
そう断言するカルの表情は真剣そのものだった。
「まぁ、今後もそういう輩が現れたら、俺が片付けるけどな」
冗談めかして言うが、その目はまるで「次は容赦しない」と言わんばかりの色をしていた。
リセアは苦笑しながらも、その言葉にどこか安心を覚えた。
「……よろしくお願いします、ね?」
「もちろん」
カルは満足そうに微笑み、リセアの肩を軽く叩いた。
そんな二人のやり取りを、遠くから見ていた一人の女性がいた。
「……やっぱりね」
腕を組み、ため息をつく遠坂凛。
リセアが自覚していないだけで、彼女に言い寄る者は多い。
しかも、カルだけでなく、彼女自身もよく注目を集めることがある。
「はぁ…まったく、なんで私まで…」
彼女は苦笑しながら、自分の持つ魅力にも多少の自覚はあったが、それを気にすることなく、いつものように歩き出したのだった。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.45 )
- 日時: 2025/03/08 12:18
- 名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
番外編⑮
時計塔の長い廊下を歩くリセアと凛。
二人は何気ない会話を交わしながら歩いていたが、突如として凛がピタリと足を止めた。
「ん…?」
リセアも釣られるように立ち止まり、凛の視線の先を見る。
そこには、金色の縦ロールの髪を揺らしながら、こちらに向かってくる女性がいた。
「ちょ…アンタなんでいるのよ!」
凛が顔をしかめ、思わず叫ぶ。
その声に反応し、女性がこちらを見た。
「ん…!?…トオサカリン、決着をつけるときがきたのですわ!」
彼女は堂々とした態度で凛の前に立ちはだかる。
凛はこめかみに青筋を浮かべながら、ため息をついた。
「まったく、相変わらずね…ルヴィア」
「あの…どちらさまで…?」
リセアは戸惑いながら問いかける。
すると、ルヴィアと呼ばれた女性は優雅に髪をかき上げながら、リセアをじっくりと見つめた。
「まあ、なんて可愛らしいお嬢様なのかしら!貴女の名前は?」
「あ、えっと…遠坂リセアです」
「リセアさん…素敵なお名前ですわね!」
ルヴィアはリセアの手を取り、優雅な仕草でキスをする。
「ちょ、ちょっと!なにやってんのよ!」
「まあまあ、これは貴族の作法ですわ。それにしても…」
ルヴィアは満足そうに微笑みながら、リセアの顔を覗き込んだ。
「トオサカリン、貴方はどうしてこんな可愛らしい子を隠していたの?」
「別に隠してたわけじゃないわよ!というか、リセアは私の義妹よ!」
「まあ!義妹ですの!?ふふっ、それなら私も今後は彼女と親しくさせていただきますわ!」
ルヴィアは満面の笑みを浮かべ、リセアの肩に手を置く。
リセアは困惑しながらも、笑顔で応じるしかなかった。
* * *
数時間後、自宅。
ルヴィアはすっかりリセアを気に入ったようで、リセアの部屋に居座っていた。
「リセアさん、ここはとても素敵な家ですわね。貴方もとても優雅で…やはり、私の目に狂いはなかったわ」
「あ、ありがとうござ…います……」
「それにしても、トオサカリンの養子とは思えないほど可愛らしいですわ!」
ルヴィアはリセアの髪をそっと撫でる。
リセアは少し照れながらも、それを受け入れるしかなかった。
「ちょ、ちょっとルヴィア!リセアに変なことしないでよ!」
凛が険しい顔で突っ込むが、ルヴィアは余裕の表情で微笑んだ。
「まあまあ、嫉妬しないでくださいまし。私はただ、リセアさんと親しくなりたいだけですわ」
リセアは苦笑しながら、何とも言えない一日が終わるのを感じていた。
番外編⑯
深夜。家の廊下は静まり返り、月明かりが窓からぼんやりと差し込んでいた。
カルは喉の渇きを覚え、水を飲もうと起き上がった。
静かに部屋を出て廊下を歩いていると、微かに声が聞こえた。
「っ……は…」
「んっ……」
聞き覚えのある声だった。
足を止め、その方向に視線を向けると、リセアの部屋の扉がわずかに開いていた。
彼女の部屋から洩れるかすかな息遣いに、カルは胸騒ぎを覚え、そっと中を覗き込んだ。
ベッドの上でリセアが苦しそうに眉を寄せ、汗ばんだ額を枕に押し付けるようにしていた。
彼女の蒼い瞳は閉じられているが、表情は明らかに安らかではない。
「はぁ……はぁ……っ」
「痛……!」
カルの胸が締めつけられるような感覚に襲われた。
彼女は夢の中で何かに苦しめられている。
もしかして…
──また、過去の悪夢を見ているのか?
彼はそっと部屋へ足を踏み入れ、できるだけ音を立てないように慎重にベッドへ近づいた。
「リセア……」
小さく名前を呼ぶ。
だが、彼女の意識はまだ夢の中に囚われたままだった。
細い指がシーツを強く握りしめ、身体を強張らせている。
カルはベッドの横に膝をつき、優しく彼女の手に触れた。
「大丈夫だよ……」
そっと囁きながら、握りしめられた指を包み込むように自分の手で覆う。
少しでも彼女の不安を和らげるように、静かに、けれど確かにぬくもりを伝えるように。
「リセアはもう一人じゃない。怖い夢なんて、見なくてもいいんだ。」
指先が微かに震えた。
リセアの瞼がかすかに動き、長いまつげがわずかに揺れた。
「……カル?」
掠れた声がこぼれる。
「うん、俺だよ。」
彼女はぼんやりとした目を開き、涙が滲んだ瞳でカルを見つめた。
「……また、怖い夢を?」
問いかけると、リセアはかすかに頷いた。
涙が頬を伝い、枕にしみ込む。
カルは迷わず、そっと彼女の頬に手を添えた。
「もう大丈夫だ。僕がいる。」
リセアの表情が少し緩み、しかし涙は止まらなかった。
カルは何も言わず、ただ彼女の手をしっかりと握りしめた。
その夜、リセアはカルのぬくもりを感じながら、ようやく安らかな眠りについた。
カルは彼女の手を最後まで離さず、静かに彼女の寝顔を見守り続けた。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.46 )
- 日時: 2025/03/08 14:05
- 名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
番外編⑰
二年前、白刃朔夜
——いや、今の遠坂リセアが十五歳だった頃。
まだ世界の残酷さを信じきれず、それでもどこかに希望があると信じていた。
幼さと純粋さを残した少女は、冷たい石壁に囲まれた地下牢に囚われていた。
両腕は頭上で拘束され、鋼鉄の枷が細い手首に食い込んでいる。
肌寒い石の床に膝をついたまま、朔夜はじっと闇の中を見つめていた。
どれくらいここにいるのか分からない。
時間の感覚はとうに失われていた。
ただ、体を縛る痛みと、時折聞こえる足音が、彼女にここが現実であることを思い出させる。
——もう、何度目になるだろう。
扉の向こうから、ゆっくりと靴音が響く。
その音が近づくたびに、胃の奥が冷たくなるのを感じる。
「……っ」
反射的に身を強張らせるも、逃げることはできない。
彼女の魔術回路は、拘束具によって封じられている。
「まだ抵抗する気力があるのか?」
低い声が牢の中に響いた。
男の影がゆっくりと近づき、彼女の頬を指先でなぞる。
その瞬間、ぞわりと背筋が粟立つ。
「……ふざけないでください……」
朔夜は震える声で言った。
男は嘲るように笑い、彼女の顎を掴んだ。
「ふざけているのはどっちだ? もう何度も言っただろう、お前が俺に従えば、こんなことはしなくて済むと」
男の手がゆっくりと肩へと滑り落ちる。
その瞬間——
「やめてください……!」
朔夜は叫んだ。
彼女の蒼い瞳が、怒りと恐怖に揺れる。
「……へぇ、まだそんな目ができるのか」
男は楽しげに呟いた。
しかし、その目が気に入らなかったのか、次の瞬間——
パシンッ!
頬に鋭い痛みが走った。
体が揺れ、視界が歪む。
それでも、彼女は負けじと睨み返した。
『……私は、まだ…こんなところで……』
彼女は奥歯を噛み締めた。
「……いいだろう。今日はこのくらいにしてやる」
男はそう言い残し、扉の向こうへと去っていった。
その場に残された朔夜は、静かに息を吐く。
——まだ、終わらない。
この地獄は続く。
でも、彼女は決して諦めなかった。
番外編⑱
ロンドンの時計塔にて。
「リセアさん、今日も朝からですか?」
グレイが心配そうに声をかける。
灰色のフードを深く被り、彼女は控えめな態度ながらも気遣いを欠かさない。
リセアは微笑みながら頷いた。
「はい、でも大丈夫です。身体を動かすのは好きなので。」
グレイは少し安心したような表情を見せたが、隣にいたフラットが突然大きな声を上げた。
「でもさー!せっかくみんな揃ってるんだし、たまには遊びに行こうよ!魔術の話ばっかりじゃ息が詰まるでしょ?」
「フラット、お前は少しは真面目になったらどうだ?」
スヴィンがため息混じりに呆れる。
フラット・エスカルドス。
時計塔では問題児扱いされる彼だが、リセアにとっては気さくで接しやすい存在だった。
スヴィン・グラシュエートはそんな彼とは対照的に冷静沈着な男だが、実際は意外と面倒見が良い。
「ふむ、確かに気分転換も必要だ。」
ライネスが優雅に椅子に座りながら言った。
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
ロード・エルメロイⅡ世の義妹であり、天才的な頭脳を持つ少女。
彼女は兄ほど真面目ではないが、鋭い洞察力と政治力には目を見張るものがある。
「……時々は、こういう時間があってもいい」
エリュが珍しく賛同する。
無口で冷徹な彼女がこうして意見を述べるのは珍しい。
「じゃあ決まり! 今日はみんなで食事でもしよう!」
フラットの提案に、リセアは静かに笑みを浮かべた。
こうして、魔術と戦いに明け暮れる日々の中にも、彼女には大切な仲間がいるのだと改めて実感するのだった。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.47 )
- 日時: 2025/03/01 22:50
- 名前: きのこ (ID: 0N93rCdO)
番外編⑲
リセアとエリュは、遠坂凛の魔術調合に付き合わされていた。
「……これは?」
「すみません、私もよく分からないです……」
エリュが眉をひそめる。
目の前には凛が魔術的な薬品を混ぜている実験器具の数々。
そして不安しかないその光景。
「大丈夫よ、完璧に計算してるんだから」
「フラグにしか聞こえないんですけど……」
リセアの心配をよそに、凛は自信満々に調合を進めていく。
しかし──
ぼんっ!!突如、煙幕が発生。
「……失敗したわ」
凛が冷や汗をかきながらつぶやく。
煙が晴れると、目の前には異常に成長した植物が広がっていた。
「や、やばいですねこれ!」
「言ってる場合じゃないわよ!」
植物は急速に成長し、ツタが部屋全体に広がる。
リセアが避けようとするが──
「ちょっ!?絡ま──」
「……!?」
凛とエリュがツタに捕まり、あっという間に埋もれてしまった。
「リセア、助けなさいよ!」
「い、今助けますから!」
必死にツタを引き剥がそうとするが、植物の成長スピードが速すぎる。
「もうダメです、助けを──」
リセアは近くの部屋にいたカルとセイバーに助けを求めた。
「カル! セイバー!」
すぐに駆けつけた二人。
だが――
「ひゃっ…!?」
リセアの足がツタに絡め取られた。
「…リセア!?」
しかし、カルが助けようと手を伸ばした瞬間──
「うわっ……!」
カルもツタに絡め取られてしまった。
「ちょっと……!?」
セイバーは間一髪で避け、剣を抜いた。
「これは……なかなか厄介ですね」
セイバーは次々とツタを切り裂いていく。
凛とエリュが捕まっていたツタは、半分以上が消滅。
「よし、助かったわ!」
「……お疲れ」
凛とエリュは無事に救出された。
しかし、リセアとカルはまだツタの奥に閉じ込められたままだ。
──しかも、二人の密着度が異常だった。
「カル……そ、その……あたってます……」
「痛っ……リセアこそ……あたってる……特に胸が……」
リセアの顔が一気に赤くなり、カルも動揺していた。
お互いに身動きが取れず、沈黙が訪れる。
「……リセア」
カルが静かにリセアの名前を呼ぶ。
その雰囲気にリセアもつられて目を閉じ──
「…何をしているんですか」
突如、ツタを切り裂いてセイバーが現れた。
「……!」
リセアとカルは一瞬で現実に戻り、硬直する。
そして──
「いやー、青春ねぇ~?」
凛がニヤニヤしながら彼らを見下ろしていた。
「ち、違います!」
リセアが慌てて否定するが、セイバとーエリュも冷たい目で見ていた。
「……誤解しないでください」
ツタは完全に消滅し、解放されたが……
リセアとカルにとっては別の意味でしばらく逃げられない状況になってしまったのだった。
番外編⑳
陽気に包まれた遠坂邸の庭。
リセア、カル、セイバー、凛、エリュの五人は、伸びすぎた草を刈り、花壇を整えながら手入れに勤しんでいた。
和やかに進んでいた庭仕事だったが、一つの出来事を境に事態は一変する。
「ちょっとカル! 何回言ったら分かるのよ、その植木はそこじゃなくて、こっちに植えるの!」
凛の怒声が響く。
カルは苦笑しながらスコップを置き、「いや、でも日当たりを考えたら——」と言いかけた瞬間、凛が持っていたホースの先端が向けられた。
「うるさいわね、もう!」
勢いよく噴き出した水がカルを直撃。
服がびしょ濡れになったカルは驚きながらも、「わざとだろ、それ……」と呟いた。
「まあまあ、落ち着いて——」と間に入ろうとしたセイバーだったが、次の瞬間、凛の手が滑ったのか、ホースの水が彼女にも直撃した。
「……凛、あなた、やりましたね?」
セイバーの冷たい声が響く。
彼女の顔は完全に怒りに染まっていた。
「ちょっと待って、今のは事故——」
「問答無用です!」
セイバーが近くにあったバケツの水を凛に向かって放り投げる。
それを華麗に避けた凛だったが、水しぶきが後ろにいたエリュに降りかかった。
「……はぁ」
エリュはメガネを外し、濡れたレンズを拭くと、静かに近くのホースを手に取った。
「もう少し平和的に……」
そう言いながらも、彼女の手から放たれる水流は完全に戦闘態勢だった。
「こ、これは思ったより大事になってきたな……」
カルは苦笑しながら後ずさる。
しかし、それを見たセイバーが「逃がしませんよ!」と叫び、再び水を放つ。
このままでは庭が水浸しになりかねない。
リセアは慌てて止めに入る。
「みなさん、いい加減にしませんか?もう庭の手入れどころじゃ——」
だが、その瞬間、凛の放った水がリセアに直撃した。
「……あ」
びしょ濡れになったリセアが呆然と立ち尽くす。
その濡れた服が肌に張り付き、透けかかった下着がちらりと見える。
「あ……」
カルが思わず声を漏らした瞬間——
「カル、見たら……殺しますよ……」
セイバーが彼の視界を覆うように手で目を塞いだ。
その口調は静かだったが、殺気が込められている。
「たわわ……」
エリュがぽつりと呟く。
「ええ、たわわ……だわ」
凛も同じように呟く。
「み、みなさん、どこを見てるんですか!」
リセアの顔が真っ赤になり、急いで腕で体を隠す。
その仕草がまた危うさを増し、カルは目を塞がれたまま「俺の罪、そんなに重いか?」と嘆いた。
こうして、水遊び(戦争)は幕を閉じたのだった——。
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