二次創作小説(新・総合)
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- Fate/Azure Sanctum
- 日時: 2025/02/10 13:57
- 名前: きのこ (ID: DnOynx61)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070
〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。
小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.33 )
- 日時: 2025/03/07 23:16
- 名前: きのこ (ID: fiow63Ig)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
六十三章
冬木教会の堂内は、張り詰めた静寂に包まれていた。
天井の高みから差し込む光がステンドグラスを通り、床に鮮やかな文様を刻む。
その神秘的な光景が、場の緊張感を一層際立たせていた。
厳かな雰囲気の中、セイバー、遠坂凛、エリュの三人は、教会の奥に佇むカレンと対峙していた。
「遠坂リセアの運命について、知りたいのですね?」
カレンは穏やかに問いかけると、胸の前で指を組む。
その青い修道服が微かに揺れた。
「ええ……私たちが知るべきことがあるのなら、教えてほしいわ」
凛が真っ直ぐに問いただす。
エリュは無言のまま、カレンの動きを注視していた。
カレンは一瞬目を閉じ、静かに息を吸い込む。
そして慎重に言葉を選びながら、口を開いた。
「彼女がどれほど抗おうとも、運命は必ず彼女をその場所へと導くでしょう」
その一言が、場の空気を重く沈ませる。
「彼女の存在そのものが、この世界の理に反しているのです」
凛の眉が険しくなり、エリュの銀の瞳が鋭く光る。
「どういう意味ですか?」静かに問うたのはセイバーだった。
表面上は冷静を保っていたが、その声には抑えきれぬ焦燥が滲んでいた。
「彼女は過去の枷を断ち切ることができても、『運命』という鎖からは逃れられないのです」
カレンは淡々と言い放つ。
セイバーの拳がわずかに震えた。
彼女は己の運命を振り返る
——王として生き、王として滅ぶ。
救いたかった者たちを救えず、孤独な最期を迎えたことを。
「……そんなことは、ない」
かすかに震える声で、セイバーが否定する。
カレンはその様子を見逃さず、冷ややかに言葉を重ねた。
「あなたも知っているはずです。運命の不可避性を」
その言葉が突き刺さる。
セイバーの顔が苦悶に歪んだ。
「セイバー」
凛が一歩前に出る。
その瞳には揺るぎない意志が宿っていた。
「……大丈夫です、凛。私は——」
「それ以上言わなくていいわ」
凛が強く制する。
エリュも小さく頷いた。
「カレン」
淡々とした口調でエリュが言葉を発する。
しかし、その瞳には鋭い決意が宿っていた。
「リセアの運命がどうであろうと、私たちは彼女を助ける。それは絶対に変わらない」
カレンは微笑を湛えたまま、静かに頷いた。
「……そうですか。それなら、あなた方の覚悟を見せてください」
その言葉の意味を、三人は完全には理解できていなかった。
だが、今はただ
——リセアのために進むしかなかった。
一方——
「はぁ……何もありませんね」
冬木の街を巡っていたリセアは、深いため息をついた。
彼女の歩調は次第に鈍くなり、疲労がその表情に滲む。
隣にはカルがいて、同じように周囲を警戒しながら歩いている。
「やっぱり、手がかりはそう簡単に見つからないか」
カルが肩をすくめる。
その口調は軽いものの、彼もまた焦燥感を抱えていた。
リセアは目を伏せる。
蒼い瞳が街灯の光を反射して揺れた。
「私たちは、正しい道を進んでいるのでしょうか……?」
思わず零れた呟きに、カルは少し驚いた表情を見せる。
彼は普段、リセアが弱音を吐く姿をほとんど見たことがなかった。
「……さあ。でも、どれだけ探しても無駄足だったってことはないさ」
カルは苦笑しながら、そっとリセアの肩を叩いた。
「行こう、リセア。何もしなければ、何も得られない」
「……そうですね」
リセアは小さく微笑み、もう一度足を踏み出した。
この時、彼女はまだ、自身が抱える運命の真実を知らなかった。
第六十四章
夕暮れの冬木市。
遠坂邸へと向かう道すがら、セイバー、凛、エリュシアの三人は静かに歩を進めていた。
冬の空気が頬を撫で、空はすでに夕焼けを飲み込み、紫紺へと変わりつつあった。
「……降ってきたわね」
不意に凛が呟く。
空を見上げれば、ぽつり、ぽつりと冷たい滴が額に触れた。
「本格的に降られそう……」
エリュが息をつきながら言う。
「急ぎましょう」
セイバーは短くそう言うと、足を速めた。
だが、それも束の間だった。
雨は瞬く間に勢いを増し、三人の衣服を濡らしていく。
「くっ……もう!」
凛は眉をひそめながら走り出した。
エリュとセイバーもそれに続く。
やがて遠坂邸の門が見えた頃には、すでに三人ともずぶ濡れだった。
「最悪だわ……」
凛はため息をつきながら鍵を取り出し、玄関の扉を開く。
「ひとまず着替えましょう。風邪をひきますよ」
エリュが淡々と言い、三人は家の中へと駆け込んだ。
一方そのころ——。
「急がないと……!」
リセアは必死に走っていた。
隣には同じく走るカルの姿がある。
二人は夕暮れの街中を駆け抜け、雨の冷たさを払うように足を動かしていた。
「リセア、速いな……っ!」
カルが息を弾ませながら言う。
「カルが遅いんです!」
リセアも息を切らしつつ、僅かに笑みを浮かべる。
遠坂邸が見えた瞬間、二人は同時に最後の力を振り絞った。
結局、わずかにリセアの方が速く玄関に辿り着いた。
「勝ちました……!」
リセアは満足げに息を整える。
「負けた……」
カルは苦笑しながら、濡れた前髪を払った。
その夜——。
雨の音が静かに屋根を叩いていた。
リセアは自室のベッドに横になりながら、天井を見つめていた。
『……私は』
考えることは尽きなかった。
記憶を取り戻してからというもの、心の奥底に引っかかるものがあった。
それが何なのか、言葉にはできない。
それでも、どこか胸がざわつく。
『でも……』
リセアはそっと目を閉じる。
外はまだ雨が降り続いていた。
今日は、少しだけ早く眠れそうだった。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.34 )
- 日時: 2025/03/02 21:01
- 名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第六十七章
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、静かに部屋を満たしていく。
リセアはまどろみの中でゆっくりと瞼を開けた。
天井を見上げ、深く息を吸い込む。
シーツの柔らかな感触が心地よく、夜の疲れがまだ体に微かに残っている。
しかし、不思議と目覚めの感覚は悪くなかった。
「……さて」
呟きながら、彼女はそっと上半身を起こす。
寝起きの身体を伸ばし、首を回しながら小さく息を吐く。
その頃、リビングでは四人の影が静かに会話を交わしていた。
「……それが、カレンから聞いた話か?」
カルが重く口を開く。
彼の声にはどこか警戒と疑念が滲んでいた。
「リセアがどれほど抗おうとも、運命は彼女をその場所へと導く……。彼女の存在そのものが、この世界の理に反している。そして、運命からは逃れられない……。何より、彼女は聖杯に深く関わっている……と」
セイバーは険しい表情を浮かべながらそう語る。
その言葉を聞いた凛は腕を組み、考え込んだ。
「そんなこと、信じられないわよね」
凛が否定するように言葉を発する。
その声には焦りとも取れる強さがあった。
「理に反する? 確かにリセアの存在は異質よ。でも……彼女は確かにここにいるわ」
「カレンの言葉をすべて鵜呑みにするのは危険だが……」
カルが言葉を継ぐ。
「…奇妙な説得力があった」
エリュは無言のまま、ただ難しい顔をしていた。
沈黙が降りる。
誰もがそれぞれの考えを巡らせながら、答えを見出せずにいた。
そのとき。
「……随分と、難しい話をしているようですね」
静かだが、どこか冷たい声が背後から響いた。
全員が振り向く。
そこには、リセアが静かに立っていた。
カルがそう返すと、エリュが冷静な口調で補足する。
「それは、リセア自身がよく分かっていることでは......?」
そのとき。
「……随分と、難しい話をしているようですね」
背後から、静かだが冷たい声が響く。
全員が振り向く。
そこには、リセアが立っていた。
「リセア……」
「私がいない間に、何か大事な話をしていたみたいですね」
リセアの目は冷静だったが、その奥には小さな警戒の色が宿っている。
「……全部聞いていたのか?」
「途中からです。ですが、十分に意味は理解しました」
リセアは静かにリビングへ足を踏み入れる。
その姿に、カルが無意識に息を呑んだ。
彼女の表情は静かで、しかしその奥底には決意と苦悩が絡み合っていた。
「運命、ですか……」
彼女の声は淡々としているようで、どこか遠い。
「どれだけ抗っても、私は導かれる。それが、聖杯に関係しているから……。それが、私の存在理由だから……」
その言葉を口にした瞬間、リセアの瞳が揺らいだ。
「わかってます……私は……人間ではないと」
「そんなこと、誰も言っていないわ!」
凛の声が強く響く。
「でも、言い方を変えれば、それと同じ意味ですよね?」
その瞬間、空気が張り詰めた。
「……」
誰も言葉を発せない。
カルが何かを言おうと口を開く。
しかし、その前にリセアが静かに続けた。
「……私は、どうすればいいのでしょうか?」
彼女の声には、かすかな震えが混じっていた。
その問いに、誰もすぐに答えられなかった。
皆、彼女の重みを受け止めようとするかのように、言葉を探していた。
「……それを、これから考えるんだよ」
沈黙を破ったのは、カルだった。
彼の声は優しく、だが揺るぎない。
「君は……どうしたい?」
リセアは静かに息を吐く。
「……決まっています」
彼女の瞳が、確かな光を宿す。
「私は、私の意志で生きます」
その言葉は、決意そのものだった。
誰もがリセアを見つめる。
彼女の強さを、その想いを、全身で受け止めるように。
そして。
「……なら、どうすればいいのか、一緒に考えよう」
カルの言葉に、リセアはゆっくりと頷いた。
静かに、しかし確かに、彼女の運命に抗うための一歩が、今、踏み出された。
第六十八章
ロンドンへ帰還したリセアたちは、ようやく束の間の休息を得た。
しかし、それも長くは続かなかった。
深夜、ロンドン橋に突如として聖杯が出現した。
「まさか……!」
凛の表情が険しくなる。
聖杯戦争の根幹を揺るがす事態だった。
通常、聖杯は多くの要因が絡み合い、特定の条件を満たさなければ出現しない。
しかし、今回の聖杯はまるで意志を持つかのように突如として姿を現し、その漆黒の輝きは夜の闇すら歪ませるほどの異様さを放っていた。
「このタイミングで出現するなんて……まるで誰かが意図的に仕組んだようね」
凛の冷静な分析とは裏腹に、その瞳には強い警戒心が滲んでいる。
「半壊させたうえで、強力な術式を重ねて封印する。それが最善の策だな」
カルが即座に判断を下す。
その声は冷静だったが、内心ではこの異常事態の不気味さを拭いきれないでいた。
「……時間がないですね。やるならすぐに」
エリュが静かに言葉を継ぐ。
その表情は無表情に近いが、彼女の声にはわずかな焦燥が滲んでいる。
「やるわよ。準備しなさい!」
凛の指示が飛び、戦闘の準備が整えられる。
戦闘が始まるや否や、聖杯から黒い光が放たれ、次の瞬間、無数の魔獣が召喚された。
「ちっ……やっぱりこうなるか!」
カルが舌打ちする。
召喚された魔獣はどれも異形の姿をしており、通常の使い魔とは異なる歪な形をしていた。
目のない獣、腕が無数に枝分かれした影のような存在、そして腐臭を放つ巨大な魔獣
——いずれも聖杯の瘴気に染められた異質な生命体だった。
「セイバー!」
「了解しました!」
セイバーが前線に立ち、風王結界を展開しながら魔獣たちに切りかかる。
一撃で複数の魔獣を両断するものの、その数はまるで底なしのように増殖を続ける。
「リセア、そっちは任せるぞ!」
「ええ、分かっています!」
リセアは虚数魔術と治癒魔術を駆使しながら、セイバーを援護する。
しかし、魔獣の数は一向に減らないどころか、次々と増殖し、彼らの包囲網を狭めていく。
「っ……くそっ!」
凛の宝石魔術が炸裂し、複数の魔獣を吹き飛ばす。
しかし、それでも追いつかない。
「このままじゃ……っ!」
次々と襲いかかる魔獣に対し、彼らは防戦一方となる。
「くっ、数が多すぎる……!」
エリュが冷静な表情のまま風魔術を展開する。
しかし、その表情の奥にはわずかな焦りが滲んでいた。
「ダメージは入っている……でも、時間がかかる!」
「私たちの消耗が先か、聖杯が先か……」
カルが鋭い目を光らせる。
リセアは強力な魔術を使うべきか迷っていた。
あの魔術は使うなと言われている。
しかし、状況はすでに危機的だった。
『……このままじゃ、みんなが危ない』
リセアの手が震える。選択の時が迫っていた——。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.35 )
- 日時: 2025/03/08 00:32
- 名前: きのこ (ID: fiow63Ig)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第六十八章
戦場は混乱の極みだった。
聖杯の力で呼び出された無数の魔獣たちが、地を蹴り、咆哮をあげ、こちらに襲い掛かってくる。
「……っ、数が多すぎます!」
リセアは虚数魔術を駆使しながら、次々と襲い来る魔獣たちを退ける。
しかし、その数は減るどころか次々と補充されていくかのようだった。
「リセア、左です!」
セイバーの鋭い声に反応し、咄嗟に身を翻す。
その瞬間、巨大な爪が彼女の肩を掠めるように通り過ぎた。
「ありがとう、セイバー!」
一方、凛は宝石魔術を駆使していた。
彼女の手から放たれる宝石の輝きが魔獣を吹き飛ばしていくが、やはり数が多い。
「こんなに湧いて出るなんて、やってられないわね……!」
エリュは風と炎の魔術を駆使して応戦していた。
燃え盛る炎が魔獣たちを包み込み、疾風がその身体を裂いていく。
しかし、彼女の表情には珍しく焦りが浮かんでいた。
「このままでは……まずい、です」
誰もが疲弊しつつある。
だが、それでも戦いを止めるわけにはいかない。
勝たなければ、生き残れない。
──その時だった。
「──手を貸そうかしら?」
どこか軽やかでありながら、透き通るような声が響いた。
リセアが視線を向けると、そこには二人の人物が立っていた。
一人は白と青を基調とした修道服を纏った少女。
銀髪が柔らかく揺れ、どこか神秘的な雰囲気を纏っている。
そして、もう一人は鍛え抜かれた身体を持つ女性。
短く切り揃えられた髪と鋭い眼光が、彼女の只者ではない気配を示していた。
「さあ、罪深き魂に、相応しい罰を与えましょう」
銀髪の少女
──カレンが微笑みながらそう告げる。
「自己紹介は後回しでお願いします」
無駄のない動作で前へと出たのは、もう一人の女性
──バゼット。
「──応戦します」
彼女は既に構えを取っており、その手には異様な気配を纏うガントレットが装着されていた。
「執行者として、私は任務を全うするだけです」
次の瞬間、彼女は爆発的な速さで魔獣へと突撃した。
「私が前に出る。後ろは任せます」
彼女の拳が魔獣の体を貫く。
まるで紙を破るように、圧倒的な力で打ち砕かれる魔獣たち。
そして、カレンがそっと手を掲げると、柔らかな光が周囲に広がった。
「──『Obex instruere』」
――結界展開
光が辺りを包み込み、戦場が隔離される。
これで、巻き込まれるものは誰もいない。
リセアは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに理解した。
「……助かります!」
「ええ。さあ、続きを始めましょう?」
カレンの微笑みと共に、戦いは新たな局面へと突入した。
第六十九章
戦場は混沌と化していた。
大地は裂け、空気は軋み、魔力で生成された怪物たちが次々と形を成していく。
そのすべてを迎え撃つのは、リセアたち七人。
だが、戦いの流れは明らかに変わりつつあった。
「くそっ……!こいつら、どんどん強くなってる……!」
カルが歯を食いしばりながら呪詠を刻み、魔術を放つ。
しかし、それすらも敵の群れの前では焼け石に水だったセイバーが光の刃を振るい、凛が宝石を投じ、エリュが嵐を巻き起こし、バゼットが拳を叩きつける。
しかし、それでも、怪物たちは容易には崩れない。
「……っ、ちっ!」
凛が舌打ちする。
その額には汗が滲んでいた。
彼女ほどの魔術師ですら疲弊を隠せないほど、戦況は悪化していた。
そのときだった。
「っ……!」
カレンの身体がふらりと揺らぎ、崩れ落ちた。
「カレンさん!」
リセアはすぐに駆け寄った。
カレンの肌は青白く、荒い息を繰り返している。
特異体質の影響、彼女がこれまで戦闘を続けられていたこと自体が奇跡だった。
「う……っ、こんな……はぁ……ことで……私がどうにかなるとでも……」
カレンは苦しげに息を吐きながら、それでも自分を奮い立たせようとしていた。
「大丈夫です。すぐに治しますから」
リセアは即座に治癒魔術を展開する。
温かな魔力がカレンの身体を包み、徐々にその容態が落ち着いていく。
「っ……助かります。でも、今は……戦いを――」
「ええ、行ってきます」
リセアは微笑みを浮かべると、戦場へ戻ろうと身を翻した。
だが、その瞬間。
背後から迫る影。
「……っ!?」
気づいたときには、既に遅かった。
鋭い爪が彼女の肩を深々と貫いた。
「ぁ……ぐっ……!」
激痛が全身を駆け抜ける。
だが、それ以上に異変を感じたのは、魔力の流れだった。
いつもならばすぐに回復するはずの傷が、まったく癒えない。
「治癒魔術が……効かない?」
冷たい汗が背を伝う。
視界がわずかに揺らぐ。
傷口から流れ出る血が、地面を紅く染める。
「リセア!!」
カルの叫びが響く。
しかし、彼の元へ向かうことは叶わなかった。
足が思うように動かない。
肩の傷は浅いはずなのに、身体がまるで鉛のように重い。
リセアは必死に立ち上がろうとする。
だが、敵は無情にも追撃を仕掛けようとしていた。
「くっ……!」
その時、黄金の閃光が走る。
「リセア、退いてください!」
セイバーが剣を振るい、敵を弾き飛ばした。
彼女の蒼き瞳が、焦りと怒りを滲ませている。
「無理をしないでください。あなたが倒れたら、私たちは……!」
「……ごめん、なさい……」
リセアは肩を抑えながら、それでも立ち上がる。
彼女の蒼眼は、なおも燃えていた。
『これで終わり、なんて……私は、まだ……!』
痛みを押し殺しながら、リセアは再び戦場へと歩を進める。
その背に、仲間たちの視線が集まっていた。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.36 )
- 日時: 2025/03/08 11:30
- 名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第七十章
無数の魔獣が襲いかかる戦場で、リセアは異変を感じ取った。
「ふぁ……っ、はぁ……っ!」
強大な魔力が体内を駆け巡る。
脈動するように鼓動が速まり、全身に熱が広がっていく。
「やっぱり……貴女なんですか?」
まるで別の存在が自分の中に目覚めようとしているかのような感覚。
「貴女に体を貸します…!!」
リセアが覚悟を決めた瞬間、その身を紫の光が包み込む。
蒼の瞳が紫へと変わり、黒髪は流れるように腰まで伸び、彼女の体を光の衣が覆った。
優雅で神々しい着物のようなドレスがその身を包み、宙に浮かび上がる。
天照大神
——彼女の中に眠るもう一つの存在が、ついに覚醒した。
「拙の名のもとに、この戦いを終わらせようぞ。」
その声は威厳に満ち、どこか優しくもあった。
肩にあった傷が瞬く間に癒え、魔獣たちの群れを見下ろす天照大神。
次の瞬間、圧倒的な閃光が戦場を包み込んだ。
白き炎が奔流となり、魔獣たちを飲み込む。
苦悶の叫びを上げる間もなく、半数以上の敵が瞬時に消滅した。
「……綺麗だ」
その圧倒的な姿に見惚れる者たちがいた。
カル、エリュ、そしてセイバーも息を呑む。
「こんなにも……」
エリュは目を細めながら呟く。
その神々しさに、言葉が出ない。
「拙の力が、貴様のような者に届くのは当然であろう。」
天照大神が冷たく告げると、残った魔獣たちは怯えながらも次々と襲いかかる。
しかし、それに応じるかのようにセイバーが剣を構え、カル、エリュ、凛、カレン、バゼットも一斉に動き出す。
「ふむ、頼もしいのう」
天照大神は満足げに微笑み、共に戦う仲間たちを見渡した。
——これは、ただの戦いではない。
——仲間たちとの共闘、その絆がここにある。
戦場に新たな風が吹き始める——
第七十一章
大地が揺れ、虚空から生まれた異形の怪物たちが咆哮を上げる。
魔力で生成された無数の魔獣が、聖杯の力によって戦場を埋め尽くしていた。
「ふむ……これが聖杯の生み出した闇か」
天照大神として覚醒したリセアは、宙に浮かびながら辺りを見渡した。
紫の瞳が冷ややかに敵を捉え、金色の光が彼女の身体を包む。
「みんな、戦えるか?」
カルが冷静に問いかけると、仲間たちは一斉に頷いた。
「もちろんです。これを突破しない限り、先へは進めませんので」
セイバーが静かに剣を構える。
風王結界に覆われた聖剣が、わずかに唸りを上げる。
凛やエリュ、カレン、バゼットもそれぞれ魔術を発動し、戦闘の準備を整えた。
「では……一掃するかのう」
天照大神の宣言とともに、戦いの幕が切って落とされた。
戦場は熾烈を極めた。
セイバーの剣閃が魔獣を両断し、カルの魔術が敵を焼き尽くす。
凛とエリュは連携して精密な魔術攻撃を繰り出し、カレンとバゼットは接近戦で魔獣を叩き潰していった。
だが、数が多すぎる。
「終わりが見えないわね……っ!」
凛が息を切らしながら呟く。
そのとき、天照大神が静かに手を掲げた。
「拙が裁定を下す」
「天に輝く太陽の子よ、光の名のもとに、禍を焼き尽くし、悪しきものを浄化せよ。天の理をもって裁きを下す。――天乃大禍津日、ここに顕現せん!」
その瞬間、太陽が顕現し、その輝きが全てを包む。
光に触れた者は、魂ごと焼き尽くされ、物理・魔術・概念的な防御を無視し、光に照らされた敵は消滅された。
「……これで、しばらく聖杯は敵を生み出せまい」戦場が静寂に包まれた。
天照大神は確信したように呟き、ゆっくりと地に降り立った。
「セイバーよ、おぬしの力を貸すが良い」
「ええ、決着を付けるとしましょう」
セイバーが静かに言い放つと、剣を構えた。
風王結界が解除され、真の姿を現した聖剣が、膨大な魔力を帯びて輝き始める。
「受けるが良い――約束された勝利の剣ァァァァァッ!!」
黄金の奔流が一気に解放される。
光の奔流が地を裂き、すべてを呑み込んでいく。
同時に、天照大神が詠唱を始め宝具が展開した。
「全ての闇よ、消え去れ。我は光、神の化身。日輪の裁定を汝に下す。今こそ、天地照らす太陽の審判を!」
彼女の背後に巨大な金色の輪が現れる。
そして、その中心から無限の光が放たれた。
「日輪創世・天光照覧!」
光が全てを浄化し、聖杯の力を根底から揺るがしていく。
戦いが終わった後、天照大神は聖杯の残骸を見下ろし、手をかざした。
「天の光よ、永遠に封じ、大禍を鎖し、力を封じ込めよ。神の命に従い、運命を固定し、運命を歪めし者、もう動けぬようにせよ。」
「――天之封禍」
「永遠の封印の力よ!」
そう告げると、光の鎖が聖杯を覆い、それを地の奥へと沈めていく。
完全な封印が施され、静寂が訪れる。
「……終わった、のね」
凛が静かに呟いた。
セイバーは剣を納め、カルは天照大神の方を振り返った。
その瞬間、天照大神の身体がふっと揺らぐ。
「拙の役目は終わった。……戻るとしようか」
金色の光が彼女を包み込む。
そして、その中から現れたのは、いつものリセアだった。
「……っ!」
リセアはゆっくりと目を開けた。
その蒼い瞳が、周囲を見渡す。
「リセア」
カルがそっと手を差し伸べる。
リセアは少しの間、それを見つめた後、微笑んでその手を取った。
「……ただいま、カル」
光に包まれた戦場に、静かな安堵が広がった。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.37 )
- 日時: 2025/03/08 00:43
- 名前: きのこ (ID: fiow63Ig)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
エピローグ
聖杯戦争が終わった。
かつて熾烈にぶつかり合い、血と魔術が交錯し、幾多の願いがせめぎ合った戦場は、今では静寂に包まれている。
ロンドンの街はまるで何事もなかったかのように日常を取り戻し、行き交う人々は変わらぬ日常を送っている。
だが、それは確かに存在した。
ここで、人々は命を賭け、渇望を胸に戦った。
願いを叶えるために、誓いを立て、剣を交え、血を流し、数多の運命が交錯した。
そして、その果てに何を得たのか。
私は――遠坂リセア。
この戦争を最後まで戦い抜いた、ただの一人の少女。
誰かの希望になれたのだろうか。
それとも、ただの自己満足だったのだろうか。
答えはきっと、これからの生き方が示してくれる。
「……この物語は、一体誰のためのものだったのでしょうか?」
私は静かに、あなたに問いかける。
戦いには必ず勝者と敗者が存在する。
それと同じように、この物語もまた、ある者にとっては希望であり、ある者にとっては絶望だったのかもしれない。
けれど、どんな結末を迎えたとしても、その価値が失われることはない。
私は願う。
この物語が、誰かの心に届いていたのだと。
私自身のために。
カルのために。
セイバーのために。
凛さんのために。
そして、共に歩んだすべての人々のために。
そして
――この世界のどこかで、ひたむきに生き続けるあなたのために。
「……ふふっ、不思議なものですね」
そっと目を閉じると、胸の奥にぽっと灯るような温もりが広がる。
それは、どこか切なく、それでいて愛おしい感情だった。
この戦いの幕が降りることに、私は確かに寂しさを感じている。
けれど、それはきっと、それだけ濃密で大切な時間を過ごした証。
終わりがあるからこそ、物語は輝く。
しかし、物語が終わったからといって、私たちの歩みが止まるわけではない。
世界は動き続ける。
聖杯戦争が終焉を迎えても、私たちはこの世界を生きていく。
誰かのために。
自分自身のために。
そして――
未来のために。
「さようなら」優しく微笑んで、私は前を向く。
この世界で、これからも生き抜くために。
そして、いつかまた誰かの物語が始まることを信じて。
あとがき
この物語をここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
この作品は、私の中で長く温め続けたアイデアを形にしたものであり、物語の展開、キャラクターの心情、戦いの描写に至るまで、すべてにこだわり抜いて執筆しました。
特に、主人公である遠坂リセアの成長と彼女を取り巻くキャラクターたちとの関係性を大切に描いてきました。
リセアは、記憶を失った状態から始まり、多くの試練を乗り越えて自らの自我同一性を確立していきます。
彼女の優しさと冷徹さ、強さと脆さ、すべてが物語を通じて表現できたのではないかと思います。
また、彼女と深い関係にあるカル、エリュ、凛、そしてアサシンなどのキャラクターにもそれぞれの想いと物語があり、読者の皆様に彼らの魅力を感じてもらえたなら幸いです。
この作品を書きながら、彼らの人生を見守るような気持ちになり、時には彼らと一緒に喜び、悲しみ、怒りを感じることもありました。
それほどに彼らは私にとって愛すべき存在であり、また、皆様にも愛していただけたならこれ以上の喜びはありません。
物語の終盤では、リセアが自らの過去と向き合い、そして彼女自身の「答え」を見つけることになります。
それがどのような結末だったのか、読者の皆様の心にどう響いたのかきになります。
この物語にお付き合いくださり、心から感謝申し上げます。
これからも彼らの物語は続いていくかもしれません。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしております。
それでは、また。
筆者、きのこより
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