二次創作小説(新・総合)
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- Fate/Azure Sanctum
- 日時: 2025/02/10 13:57
- 名前: きのこ (ID: DnOynx61)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070
〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。
小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.23 )
- 日時: 2025/03/02 18:43
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第四十二章
凛の指示のもと、リセアたちは廃病院への突入を決行した。
リセア、セイバー、カル、アサシン、エリュ、ライダー、そして凛。
彼らはそれぞれの役割を果たしながら、慎重に建物の奥へと進んでいく。
すでにこの廃病院はキャスターとアストの根城となっており、随所に設置された魔術的な罠や使い魔が待ち構えていた。
先陣を切ったセイバーが素早く敵の魔獣を斬り捨て、アサシンは影のように動き、敵の警戒網をかいくぐりながら急所を突いた。
リセアも魔術を駆使しながら進軍する。
しかし、キャスターは前回の戦闘時よりも明らかに強化されていた。
「前よりも手強くなってます……!」
リセアは戦況を見極めながら、仲間たちに指示を出す。
「いったん態勢を立て直しましょう」
しかし、キャスターの攻撃は容赦がなく、魔獣とともに強力な魔術を繰り出し、リセアたちをじわじわと追い詰めていく。
閃光が走り、爆風が巻き起こる。
リセアは咄嗟に障壁を張り、衝撃を防ぐが、仲間たちの消耗は激しい。
「このままじゃ……っ!」
そんな中、エリュは震える手で拳を握りしめ、決意を固めた。
彼女の視線はライダーへと向けられる。
「ライダー……お願い。宝具を放って……!」
その声は切実だった。
ライダーは一瞬だけ主を見つめると、静かに頷き、全身の魔力を込めて宝具を発動させる。
燃え上がる光が戦場を包み込み、一瞬、世界が白く染まった。
しかし、その刹那、キャスターは寸前で身を翻し、辛うじて直撃を避けた。
爆風が吹き荒れた後、ライダーの体が傾ぐ。
「ライダー……?」
エリュの小さな声が震える。
ライダーの姿が霧散し始めるのを目の当たりにし、彼女は必死に駆け寄った。
「嘘……いや……!まだ、あなたと一緒に……!」
ライダーは何かを言おうとしたが、すでにその声は届かず、ただ微笑むだけだった。
そして、彼の気配が完全に消える。
令呪が腕から消え、空虚な感覚がエリュの心を引き裂いた。
「……ライダー……っ……!」
声にならない叫びが漏れる。
彼女の中で、何かが崩れ落ちた。
燃えるような怒りが、彼女の胸を支配する。
「……殺す。」
次の瞬間、エリュの周囲に荒れ狂う炎が巻き起こった。
魔力が膨れ上がり、暴風と共にキャスターの使い魔を次々と焼き尽くしていく。
病院の壁が崩壊し、瓦礫が降り注いだ。
しかし、キャスターは依然として冷笑を浮かべる。
「無謀ね……!」
一瞬の隙を突かれた。
その刹那、鮮血が散る。
エリュの肩を貫いたキャスターの魔術が、焼け付くような激痛を伴って彼女の体を貫通した。
「ぁ……っ!」
声にならない悲鳴が漏れる。
視界が揺らぎ、足元が崩れていく感覚が彼女を襲った。
ライダーの不在が、心をえぐるほどの痛みを与えていた。
それでも、戦わなければならなかった。
それでも、立ち続けなければならなかった。なのに。
「エリュ!」
凛の声が響く。
凛は迷わず前へと躍り出た。
焦燥と怒りが入り混じった彼女の瞳には、ただエリュを傷つけた敵だけが映っていた。
宝石魔術が解放される。
紅蓮の輝きが閃光となり、キャスターの腕を狙って炸裂した。
「……っ!?」
キャスターの目が驚愕に見開かれる。凛の魔術は確かに直撃し、キャスターの体を弾き飛ばした。
しかし、余波で凛の体勢も大きく崩れた。
「あっ……!」
足元の瓦礫が崩れ、彼女の体が宙に投げ出される。
手を伸ばす間もなく、高所から落下した。
「くっ……!」
咄嗟に身を捻り、受け身を取る。
それでも地面に叩きつけられる衝撃は避けられず、肺から息が漏れる。
視界がかすみ、震える指先を懸命に動かそうとするが、体は言うことを聞かない。
戦場に、僅かの間だけ時間が止まったかのような静寂が訪れる。
そして、それを破るように、リセアの力強い声が響いた。
「まだ……終わっていません……!」
戦いは、まだ続く。
第四十三章
激しい戦闘の余韻がまだ消えぬ戦場に、静寂が訪れた。
リセア、セイバー、カル、そしてアサシンの四人は、激しい戦いの末、ついにキャスターを討ち取った。
しかし、その代償は大きかった。
キャスターの消滅とともに、周囲の魔力の奔流は収まり、荒廃した地には崩れ落ちた塀の残骸が散らばっていた。
その中に、カルとセイバーは埋もれたまま身動きが取れずにいた。
しかし、最も深刻なのはアサシンだった。
彼女はキャスターとの死闘の中で深手を負い、意識を失っていた。
「くそ……このままじゃ動けない……!」
カルは歯を食いしばりながらも、慎重に魔術で防御を維持した。
セイバーもまた、動こうと試みるが、瓦礫の重みがそれを許さない。
「リセア!大丈夫ですか!」
セイバーが叫ぶ。
リセアは少し離れた場所にいたため、直接瓦礫に埋もれることはなかった。
しかし、足元を見下ろせば、彼女の左足には鋭い痛みとともに、血がじわりと滲んでいた。
大きな石が食い込み、皮膚が裂けている。
「っ……大丈夫、です……」
声を絞り出しながらも、リセアは必死に意識を保ち、状況を確認する。
カルとセイバーが瓦礫の下で動けない以上、彼女が動かなければならない。
しかし、周囲の崩れた建物が今にも二次崩壊を起こしそうな中、立ち上がることさえままならなかった。
そして、その時。
「やあ、リセア……久しぶりだね」
冷たく乾いた声が、沈黙を切り裂いた。
振り向けば、闇の中から一人の青年が歩み寄ってくる。
その顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。
「アストさん…!」
リセアの瞳が鋭く光る。彼女の背筋に、冷たい戦慄が走った。
「こんなところで、また君に会えるなんて運命だろう?」
アストはゆっくりと歩み寄る。
彼の足取りはまるで確信に満ちた捕食者のように、焦らしながらも確実に獲物へと迫っていた。
「……近づかないでください」
リセアは痛む足を庇いながら後退しようとする。
しかし、傷のせいでうまく動けない。
逃げ道を塞がれた状況に、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
呼吸が浅くなり、指先が震える。
「怖がることはないさ、リセア。僕はただ……君と話がしたいだけなんだ」
そう言いながら、アストは手を差し伸べる。
その手には、リセアが何度も悪夢の中で見た光景が重なる。
あの手に触れられたら、あのまま戻れなくなる——。
「さあ、行こう。君は僕のものなんだから——」
その言葉を聞いた瞬間、リセアの胸の奥底から込み上げる恐怖が、冷たい絶望となって全身を駆け巡る。
「……あなたのものになった覚えは、一度もありません」
声が震える。
心の中で幾度となく否定してきた言葉を、ようやく口にした。
しかし、声は掠れ、指先はなおも震えている。
震える手で魔術を発動しようとする。
しかし、体の魔力は先ほどの戦闘で消耗しきっていた。
焦りが増し、視界が狭まる。
アストは小さく笑う。
「無駄な抵抗はやめたほうがいいよ、リセア」
彼の手が伸びる。リセアの腕が掴まれる瞬間、全身の血が凍りついたように感じた。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.24 )
- 日時: 2025/03/02 18:47
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
四十四章
瓦礫の下でじっと身を潜めているセイバーとカル。
彼らの防御は完璧だったが、その上に積み重なった瓦礫の重みが彼らの行動を制限していた。
外の様子が見えないまま、リセアの応答が途絶えたことが彼らの不安を増幅させる。
「リセア……」
カルが小さく呟く。
彼の声には焦燥が滲んでいた。
しかし、セイバーもまた、冷静さを保とうとしながらも不安を抱えていた。
その時——
「虚偽の深淵……Abyss of Falsehood….」
リセアの声が響いた。
次の瞬間、凄まじい魔力の奔流が解き放たれた。
目に見えぬ力がアストに向けて放たれ、彼の右腕を無慈悲に押し潰す。
「がぁッ!!」
アストの悲鳴が夜の闇に響く。
右腕がぐしゃりと潰れ、赤黒い血が地面に飛び散った。
だが、その顔には苦痛だけでなく、狂気じみた歓喜が滲んでいた。
「っ……は、はは……!!やっぱり……君は……最高だ……!!」
しかし——
リセアの身体がまたも限界を迎えようとしていた。
魔術の反動で彼女の体は激しく揺れ、喉の奥から鮮血が溢れ出す。
「っ……ぅ、ぐ……」
『ダメっ…意識が…遠のいて…』
膝が崩れ、視界が揺らぐ。
全身の力が抜けそうになる中、それでも彼女は立ち続けようとした。
しかし、その瞬間——
「リセア……」
湿った声。
次の瞬間、アストの左腕が彼女の肩を強引に掴んだ。
「ハァ、ハァ……いいよ……もっと見せて……」
耳元で囁かれる言葉に、背筋が凍る。
痛みに喘ぎながらも、異様な興奮と執着に満ちた声。
『やめて……!』
叫びたくても声が出ない。
体が鉛のように重く、動かない。
アストの顔がすぐ近くにある。
暗闇の中、その瞳だけ光っている。
まるで捕えた獲物を逃がすまいとする捕食者のように。
「リセア……君は僕を拒むのか?」
血まみれの右腕をだらりと垂らしながら、アストは彼女の背を押し倒し、覆い被さる。
その指がゆっくりとリセアの頬をなぞる。
「君のすべてが……欲しい……」
彼の瞳が深い暗闇へと沈み込む。そこには愛も憎しみもなく、ただただ歪んだ執着があった。
リセアの喉が震え、全身が硬直する。
恐怖が彼女を縛りつけ、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた
——声すら奪われたまま。
瓦礫の下では——
「リセア!!」
カルが叫んだ。
彼の声には焦りが入り混じっていた。
「どうした……!?リセア!」
しかし、リセアからの返答はない。
沈黙が、彼らの心を締め付ける。
「セイバー、なんとかしてここを抜け出せないのか!?」
「無理です…。動けば、瓦礫が崩れ、私たちも無事では済みません……」
セイバーの声もまた、焦りを隠せなかった。
彼女もまた、リセアの無事を信じたかった。
だが、リセアの沈黙が続く。
外では、アストの低い笑い声が響いていた——。
四十五章
瓦礫に閉じ込められたまま、セイバーとカルは外の様子を探ろうとしていた。
しかし、崩れた壁や天井が視界を遮り、状況が全く分からない。
「リセア、大丈夫か?」
カルが呼びかけるが、先程から応答はない。
焦燥感が募る。
何かが起きているのは確実だった。
一方、リセアは荒い息を吐きながら、倒れ込んだアストを見下ろしていた。
彼女の右腕には鈍い痛みが走っているが、それ以上に胸の奥がざわつく。
先ほどまでの出来事が脳裏に焼き付いて離れない。
アストの狂気じみた視線。
抵抗しようとした彼女の手を乱暴にねじ伏せ、力ずくで押し倒したときの冷たい感触——。
彼の体重がのしかかり、身動きが取れなくなった瞬間の絶望感。
彼の口元が嗤うように歪み、押さえつける手に力がこもるたび、恐怖が体を駆け巡った。
だが、リセアは諦めなかった。
魔術回路を総動員し、彼の胸元に虚数の力を叩き込む。
防御を許さぬ一撃がアストの内側を焼き、その場に吹き飛ばした。
安堵する暇もなく、魔力の使いすぎで体が悲鳴を上げる。
震える手で胸元を整えながらゆっくりと立ち上がると、服の乱れを直す。
しかし、次の瞬間、込み上げる吐き気に襲われ、口から鮮血が溢れた。
視界の端には、血の雫が落ちるのが見えた——。
「……っ、まだ……耐えられます……」
誰にも心配をかけたくなかった。
だからこそ、リセアは震える指で治癒魔術を発動させ、自らの体を修復する。
しかし、どれだけ肉体を治しても、胸の奥に残る痛みは消えなかった。
それでも彼女は立ち止まらない。
「セイバー、カル、今……助けます……!」
リセアは瓦礫の山に手を翳し、魔術を発動させた。
虚数空間を利用し、瓦礫を別の場所へと転送していく。
数秒後、ようやく二人の姿が現れた。
「無事でよかった……」
「リセア……!君こそ、大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です……少し、疲れましたが……」
そう答えたリセアだったが、その体は限界に近かった。
呼吸は荒く、膝が震えている。
しかし、まだやるべきことがあった。
傷ついた仲間を救わなければ——
彼女は再び治癒魔術を発動し、凛、アサシン、エリュの負傷を回復させる。
光が彼女たちの体を包み込み、傷がゆっくりと塞がっていった。
「これで……みんな……」
安堵した瞬間だった。
——突如として、リセアの魔術が暴走を始めた。
虚数の力が制御を離れ、周囲の空間が歪み、黒い渦が生じる。
リセアの体がぐらりと揺らぎ、膝から崩れ落ちた。
指先は痺れ、視界は霞み、意識が薄れていく。
「リセア!」
皆の声が響く中、彼女は僅かに顔を上げようとしたが、力が入らない。
体の奥底から虚数の魔力が暴れ、まるで内側から引き裂かれるような感覚に襲われる。
呼吸が乱れ、苦しげに唇を開く。
「……ダメ……止めなきゃ……」
しかし、止まらない。
抑えきれない。
虚数の奔流が彼女の理性を飲み込み、さらに強い揺らぎが空間を蝕む。
地面が崩れ、瓦礫が巻き上げられ、まるでこの場の現実そのものが崩壊し始めたかのようだった。
「リセア!」
焦るセイバーの声も、カルの叫びも、遠くなっていく。
彼女の意識は、ゆっくりと、しかし確実に闇へと沈んでいった——
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.25 )
- 日時: 2025/03/02 19:30
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第四十六章
視界がぐらつく。
意識が薄れていく中で、リセアはふと懐かしい感覚を覚えた。
いや、懐かしい、というのは違う。
そんなものではない。
それは、忘れ去ったはずの記憶の奔流。
決して思い出したくなかった過去。
――私の名前は、白刃朔夜。
それは、リセアがこの世界に来る前の、元の世界での記憶。
日本最古の魔術家系にして名門「白刃家」。
その家に生まれた少女は、魔術回路本数八百という異常な才を持ち、幼い頃は一族の希望として扱われていた。
だが、その期待はいつしか冷たい眼差しへと変わった。彼女は特別すぎたのだ。
「朔夜はこのままでは危険だ」
「このままでは、一族が傾く……」
「制限をかけねば」
そうして、九歳の時に彼女の魔術回路は封じられた。
八百本あった魔術回路は、一族の手によって一部機能を停止され、残されたのはわずか七十本。
それは白刃家の次期当主としての道を失ったことを意味していた。
家族の態度は変わった。
朔夜に向けられるのは、愛ではなく軽蔑。
「お前には失望した」
「役立たずめ」
「いずれ処分するべきだ」
十一歳の時、朔夜は屋敷の地下牢に閉じ込められた。
そこでの生活は、ただの地獄だった。
衣服を剥ぎ取られ、身を隠すことすら許されず、暗い牢の中で朔夜は生きながらえることしかできなかった。
毎日のように訪れる家族の者たち。
彼らは彼女を痛めつけることを楽しんだ。
拷問は日常だった。
熱した鉄を肌に押しつけられる。
鋭い刃で皮膚を切り裂かれる。
骨を砕かれる。
焼きごてを押し付けられ、爪を剥がされる。
呼吸すらも許されないほどの暴力。
彼女が涙を流し、悲鳴をあげればあげるほど、彼らは笑った。
「やめてください!お願いですから……」
「いやだ……痛い、痛い……もうやめてください……っ」
「助けて……誰か……」
何度叫んでも、誰も救いの手を差し伸べなかった。
それだけではない。
彼女は六年間もの間、家族によって辱められ続けた。
泣き叫ぶことも許されず、抵抗すればさらに酷い目に遭わされた。
肉体だけでなく、心までをも踏みにじられる日々。
「人間ではない、ただの道具だ」
「価値のない失敗作」
そう言われ続け、いつしか彼女は心を閉ざした。
生きるために、感情を捨てた。
『私は、何者でもない』
そして、十七歳。
聖杯戦争の英霊召喚のため、彼女は生贄として祭壇に拘束された。
両手両足を縛られ、冷たい石の上に横たわる。
意識はもう朦朧としていた。
『――ああ、私はここで死ぬんだ。』
涙が頬を伝う。 心の中で、ただ願った。
『温かい家族、笑い合える友達が欲しかったな。まだ、生きていたかったです。』
その瞬間、聖杯が答えた。
『……願いを聞き入れる』
『......えっ――』
光が弾けた。
――目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
遠坂家の屋敷。
そして、自分の名前はリセアになっていた。
* * * *
「リセア!」
飛び起きると、そこにはセイバー、カル、アサシン、凛、エリュの姿があった。
「……五日間も眠っていたのよ、あなた」
凛が苦しげな表情をしながら言った。リセアは呼吸を整え、唇を噛む。
「……私は……」
過去の記憶を、全て話した。
六年間の地獄。家族に裏切られ、暴力や性行為をされ、踏みにじられた人生。
聖杯に救われた奇跡。
誰もが言葉を失った。
セイバーは拳を握りしめ、アサシンは唇を噛み、エリュは俯いていた。
カルは青ざめ、何かを言いかけたが、言葉にならなかった。
凛は目を伏せ、震える声で呟いた。
「……そんな、ことが……」
涙が頬を伝う。
リセアは微笑もうとした。
「……大丈夫、です……」
でも、その声は震えていた。
カルがそっと、彼女の手を握った。
その温かさに、リセアは自分が泣いていることに気づいた。
――この世界に来て、よかった。そう、心から思った。
第四十七章
リセアの家のリビングに集まったのは、彼女を含めた六人だった。
遠坂凛、セイバー、カル、アサシン、そしてエリュ。
彼らの話題はただ一つ
——アストの処遇についてだった。
「警察に突き出すべきね」
凛が毅然とした声で言うと、全員が頷いた。
「そうだね。あいつはもう許されるべきじゃない」
カルも同意する。
「私も賛成……」
エリュが冷たい声で言った。アサシンも黙って頷く。
だが、リセアは一人だけ違った反応を見せた。
「……もう、関わりたくないです。」
その言葉には深い疲労と嫌悪が滲んでいた。
何度もアストに襲われた記憶が、彼女の中に焼き付いているのだ。
手を震わせながら膝の上で握りしめる。
「リセア、君は来なくていい。俺たちだけで済ませる」
カルが優しく言う。
「ええ。あなたは家にいなさい」
凛も同意し、リセアは静かに頷いた。
「……すみません。私……」
凛はそっと彼女の肩に手を置いた。
「気にしないで。あとは私たちがやるわ」
彼女を一人家に残し、五人はアストのいるはずのアパートへ向かった。
——だが、その直後だった。
玄関のノック音が響いた。
「……?」
誰かが戻ってきたのだろうか。そう思いながらリセアは扉を開けた。
そこに立っていたのは——アストだった。
「やあ、リセア。久しぶりだね」
その瞬間、彼は強引にリセアを押し倒した。
「っ……!」
背中を床に打ちつけられた衝撃と共に、リセアは手に持っていたペンを咄嗟に振り上げる。
「やっぱり君は素晴らしい……。どれだけ傷つけても、どれだけ拒絶されても、僕は君を求め続けるんだ……」
「離れてっ……!」
ペンの先がアストの左手に突き刺さる。
「ぐっ……!!」
アストは苦悶の声を上げたが、すぐに笑みを浮かべた。
「痛いなぁ……でも、これくらいじゃ君は逃げられない」
リセアは隙を突き、自室へと駆け込んだ。
クローゼットの扉を閉じ、息を潜める。
しかし——
「無駄だよ、リセア。どこに逃げても、僕は君を見つけるから」
ゆっくりと扉が開かれる。
暗闇の中、アストの手が彼女の腕を掴んだ。
「やめてください……っ!」
「どうしてそんな目で僕を見るんだい?こんなに愛しているのに」
強引に引きずり出されるリセア。
手足が震える。
心臓が恐怖で締めつけられる。
一方、その頃。
アストのいるはずのアパートに到着した凛たちは、そこに彼の姿がないことに気づいた。
「……まさか!」
凛の表情が険しくなる。
「急いで戻りましょう!」
セイバーが即座に反応し、全員が全速力でリセアの家へと駆け出した。
だが、そこへ到着するまでに最低でも数十分はかかる。
その間に、リセアは危機にさらされていた。
アストはリセアの腕と口を縛り、魔術を封じる。
彼女は令呪でセイバーを呼ぼうとしたが、声が出せず、さらに家を破壊するリスクもあった。
「ねえ、リセア……もう逃げないで。僕と一緒にいよう?」
彼の指がリセアの頬を撫でる。温もりとは程遠い、不気味な感触。
「やめっ……!放してください……!」
「そんなに怯えなくてもいいのに。大丈夫、君のことは僕が全部、守ってあげるから」
「ふざけないでください……!あなたなんかに……っ!」
彼女の叫びを無視して、アストの手がゆっくりと髪を撫で、肩に滑る。
「君はもう、僕から逃げられないんだよ」
絡みつくような手の動きに、リセアの意識が暗く沈む
——過去の記憶が蘇る。
何度も襲われ、傷つけられた記憶が。
——違う。
こんなところで終わるわけにはいかない。
拘束が緩んだ。
「……っ!」
その時リセアは、アストを壁に突き倒す。
「ぐっ……!!」
バタンッ!
扉が勢いよく開き、凛たちが駆け込んできた。
「リセア!」
凛の声が鋭く響く。
セイバーがすぐにアストの身柄を確保し、カルはリセアの元へ駆け寄った。
「大丈夫か……?」
リセアは震えていた。
涙が静かに頬を伝う。
凛はアストを睨みつけ、無言のまま警察へ通報した。
こうして、アストはついに警察に突き出された。
長い悪夢が、ようやく終わりを迎えた。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.26 )
- 日時: 2025/03/02 20:05
- 名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
四十八章
深夜、静まり返った屋敷の中。
リセアは自室のベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。
カルのことが頭から離れない。
どうしようもなく会いたくなり、ベッドから抜け出すと、そっと廊下へと足を踏み出した。
静寂を破らぬよう注意しながら、リセアはカルの部屋へ向かう。
扉の前で一度深呼吸し、そっとノックをする。
「……カル、起きてますか?」
数秒の沈黙の後、中から微かに布擦れの音が聞こえた。
「……リセアか。入ってもいいよ」
リセアは遠慮がちに扉を開け、カルの部屋に足を踏み入れた。
彼はベッドの上で半身を起こし、少し驚いたようにリセアを見つめていた。
「どうしたんだい、こんな時間に」
「……なんとなく、会いたくなって...」
その言葉にカルは驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「そっか。じゃあ、一緒に寝るかい?」
リセアは少し躊躇ったが、小さく頷いた。
許可を得ると、彼の隣にそっと身を沈めた。
カルの体温を感じる距離に、鼓動が早まる。
ふと、リセアは抑えきれなくなり、ぽつりと言葉を零した。
「カル……好き」
その言葉にカルは一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑み、静かに言葉を返した。
「俺も、好きだよ」
二人の頬が赤く染まる。
リセアは、カルに抱いていた感情が確かな恋愛感情であることを、この瞬間、はっきりと理解した。
胸が高鳴る。
もう、この気持ちを押さえられなかった。
リセアはゆっくりと衣服を脱ぎ捨て、下着姿になり、そっとカルの背後から抱きしめた。
その肌に触れると、互いの鼓動が伝わり、甘い緊張が空気を満たす。
カルがゆっくりとリセアの手を取り、優しくその名を呼んだ。
「リセア……」
彼女は小さく頷き、そっと唇を重ねた。
「本当ですか……?こんなに……汚れた私でも、好きになってくれますか?」
カルは静かに頷き、優しくリセアの手を取った。
「君がどんな過去を持っていても、僕の気持ちは変わらない」
その言葉に、リセアの瞳から涙が零れ落ちた。
「……じゃあ……だ、抱いてください……」
言葉とともに、二人の距離が縮まる。
熱を帯びた夜は、互いの熱と甘い吐息に包まれながら、朝を迎えるまで続いた——。
朝になり、リセアとカルは互いの肌に残る余韻を感じ、焦りつつ衣服を着直した。
絡み合った指先の感触がまだ残り、二人の視線が交わるたびに、昨夜の熱が蘇るようだった。
朝食の席につくと、エリュとアサシンはいつもと変わらぬ様子だったが、セイバーと凛の視線がどこか鋭い。
「……ふーん」
凛は何かを察したように、ニヤリと笑ったが、何も言わなかった。
リセアとカルは、ただ黙って視線を逸らしたのだった。
四十九章
昨夜のことを、リセアは寝室で静かに思い出していた。
カルとの一夜。
最初はお互いに気持ちを確かめ合っただけだと思っていたが、気づけばもっと深いものに変わっていた。
「なんであんなことを……」
リセアは布団にくるまりながら、思わず顔を手で覆った。
心臓が早鐘のように鼓動を打ち、顔が熱くなるのを感じた。
あれは一時的な感情の高まりだったのか、それとも本当の恋愛だったのか。
どうしてあんなことをしてしまったのか、自分でもよく分からない。
カルも同じように感じているだろうか。
昨日の夜、彼の優しい言葉に安心したのも束の間、心の奥底では疑問が湧いてきていた。
だが、今はそれをどうしても整理できなかった。
そんな心の中で悶々としている自分に少し呆れながら、リセアはベッドから体を起こした。
「おはよう、リセア」
カルがドア越しに声をかけてきた。
リセアはハッとした顔を上げ、すぐに寝室を出て、リビングへと向かった。
その部屋にはすでに他の皆も集まっていた。
セイバー、アサシン、エリュ、凛。
それぞれが普段通りに過ごしているが、何となくみんないつもより静かな気がした。
「暇ねー」と、凛が口を開いた。
その言葉に、リセアは少しだけ笑みを浮かべた。
「でも、それはそれでいいのかな、と思います。忙しいのも大変ですし……」
「でもさ、やっぱり退屈じゃない?」
凛は腕を組んで座り込んだ。
「いつも何かがあるってわけでもないし、たまにはのんびりしてもいいかもしれないけどね」
リセアはそんな話を聞きながら、ふと自分の足元に目をやった。
そのとき、少し焦ったリセアが段差に気づかず足を踏み外した。
急いでバランスを取ろうとしたが、タイミング悪く、セイバーがその瞬間に近くに立っていた。
「リセア、危ない!」
セイバーが手を伸ばして、リセアを支えようとしたが、その瞬間、思いがけないことが起こった。
リセアはセイバーの体を押し倒すような形になり、二人はそのままキスをしてしまった。
『え、えぇっ?』
リセアは一瞬、自分が何をしたのか分からず、頬が真っ赤に染まった。
セイバーも驚いた表情を浮かべていたが、その顔がすぐに赤くなり、視線を逸らす。
「あ、あの、すみません、ちょっと、変な……」
「い、いや、わ、私も驚きましたが、別に大丈夫です」とセイバーは顔を背けつつ、少し動揺している様子。
その場にいたカル、アサシン、エリュ、そして凛は目を見開き、驚きの表情を隠せなかった。
「な、なにこれ?」
カルがぼそりと呟くと、アサシンは目を細めて静かに笑っていた。
「まあ、予想外だった...」
とエリュが冷静に言うと、リセアは顔を赤くしながらも必死にその場を取り繕おうとした。
「す、すみません、セイバー、私が……」
「だ、大丈夫です、リ、リセア。気にしないでください」
とセイバーは笑顔を浮かべたが、その頬もほんのり赤くなっている。
その瞬間、アサシンが「もう、どうしてこんなことに……」と呟き、リセアはまた顔を真っ赤にしてしまった。
「あ、あの、じゃあ、これで解決かな……?」
リセアはそのまま話を終わらせようとしたが、凛はニヤリと微笑んだ。
「ふーん、何かあるのね、二人の間に」
「ち、違いますよ!」
リセアは必死で否定したが、セイバーは静かに肩をすくめて言った。
「き、気にしないでください、リセア。私も思わぬ形でびっくりしただけです」
その言葉に、リセアは少し安心したが、それでも心臓はまだドキドキしていた。
彼女の中で、どうしても感じてしまうこの不安な気持ちをどう解消すればよいのか、わからなかった。
その後、無事に昼が過ぎ、何事もなかったかのように一日が終わった。
リセアは何度もカルとセイバーを交互に見ながら、少しずつでもその心の中を整理しようと努力していた。
だが、リセアの心の中では、あのキスの余韻が消えず、どこか落ち着かない日々が続いていくのだった——。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.27 )
- 日時: 2025/03/02 20:13
- 名前: きのこ (ID: EWbtro/l)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第五十章
夜の帳が降りた一室。
窓の外には沈黙した街が広がり、仄かな月光が差し込む。
室内の机には積み重ねられた書物と魔術道具が無造作に置かれ、唯一、そこにいる彼の姿だけが静寂を破っていた。
カルは、深く息を吐いた。
彼の手元には、リセアと共に過ごした日々の記憶を綴るように無造作に並べられたメモがあった。
その紙片に記されたのは、ほんの些細なことばかり。
時計塔の廊下を並んで歩いた日、共に食事をした時間、彼女の笑顔、彼女の涙。
ありふれた思い出が、今や胸を締め付ける苦悩の原因となっている。
「……俺は、どうすればいいんだ……?」
呟いた声は頼りなく、まるで己の迷いを象徴するかのようだった。
彼はリセアと敵対することを望んでいなかった。
いや、正確に言えば、リセアと争うことなど考えたくもなかった。
だが、彼には選択肢がなかった。
聖杯戦争。たったひとつの願いを叶えるために繰り広げられる血塗られた闘争。
その舞台において、彼とリセアはそれぞれ異なる陣営に立ち、すでに互いのサーヴァントを召喚していた。
それでも、彼の心は決してリセアに剣を向けることを許さなかった。
リセアは、彼の灰色だった人生に色をつけてくれた存在だった。
どんな時も真っ直ぐで、揺るがない意志を持ち、優しさを忘れず、そして、彼を信じてくれた。
そんな彼女を傷つけることなど、考えるだけで胸が苦しくなった。
だが、それと同じくらい、彼は恐れていた。
もしリセアが彼を討つ覚悟を決めていたら?
もし、彼女の剣が、自分を躊躇なく貫くのなら?
その時、彼は何をすればいい?
戦わなければ、彼女を失う。
だが、戦えば、彼自身が彼女を壊してしまう。
出口のない迷路の中で、彼はもがき続けた。
「リセア……」
彼女の名前を呼ぶだけで、喉が詰まる。
静かに扉がノックされる音がした。
「……カル?」
柔らかく響く声。
カルはその声だけで誰なのか理解できた。
「……アサシンか」
扉を開くと、そこには自身のサーヴァントであるアサシンが立っていた。
いつものように微笑んでいるが、彼女はカルの顔を見て少しだけ目を細める。
「……随分と悩んでいる顔ですね?」
その言葉にカルは小さく苦笑した。
「やっぱり...バレてたか」
「ええ、まあ。マスターのことは、ちゃんと見ていますから...」
そう言って、シャルロットは静かに部屋へと足を踏み入れる。
「リセアさんとのこと、悩んでいるんでしょう?」
カルは何も言わなかった。
しかし、それが何よりの答えになっていた。
アサシンは少し考えるように視線を落とした後、そっと言葉を紡ぐ。
「私は、マスターの決断を尊重します」
「……え?」
「マスターがどんな道を選んでも、私はそれに従うだけです。でも、一つだけ言わせてください」
アサシンはその美しい青の瞳で、真っ直ぐにカルを見つめる。
「――貴方が望む未来は、後悔のないものですか?」
カルは息を呑んだ。
後悔のない未来。
それは彼にとって、どんなものなのだろうか?
リセアと敵対し、彼女を倒すこと。
それは、決して選べない道だった。
ならば、彼にできることはただ一つ。
聖杯を、リセアに譲ること。
それは、マスターとしての義務を放棄することに等しい。
だが、彼はそれでも構わないと思った。
リセアを失うよりは、ずっとマシだ。
「……そうか」
彼は小さく呟き、涙をこぼした。
アサシンは何も言わず、ただ静かにその様子を見守る。
そして、カルは静かに決意を固めた。
――リセアには、聖杯を譲ろう。
この戦いの果てに、彼女が望む未来を掴めるのなら。
そのためなら、彼は何だってできる。
例え、どんな犠牲を払ったとしても――。
第五十一章
夜が深まる中、リセアは自室のベッドに横たわっていた。頭の中に浮かぶのはカルの姿。
彼の顔立ち、真っ直ぐな瞳、優しく触れる指先——。
考えれば考えるほど、胸の奥が熱を帯び、どうしようもない衝動に駆られる。
「んっ…はぁ……カル……っ」
抑えようとしても、体が疼く。
そしてその夜、リセアは初めて自らの手で欲を慰めた。
カルのことを想いながら、静かに息を殺し、恍惚に沈んでいった——。
翌朝。
いつものように起床し、身支度を整えたリセアは、リビングへ向かう。
しかし、リビングに入る直前、ふと足が止まった。
『顔を合わせられない……』
昨夜の出来事を思い出すと、途端に羞恥心が込み上げてくる。
自分があんなことをしてしまったことが、どうしようもなく恥ずかしい。
「……少し、寄り道をしましょう」
リセアはリビングへ行くのをやめ、少し外の空気を吸うことにした。
朝食の時間、カルは少し違和感を覚えた。
「リセアが……いない?」
彼は周囲を見回したが、いつもなら彼の隣に座るはずのリセアがいない。
「どうしたのでしょう?」
アサシンが小首を傾げる。
「まさか、どこか具合でも悪いのかな」
心配になったカルは、朝食後に彼女を探すことにした。
その日一日、リセアは意識的にカルを避け続けた。
カルが話しかけようとすれば、何かと言い訳をしてその場を離れ、視線が合いそうになると、そっぽを向く。
『やっぱり……避けられてる?』
カルは確信した。
「……俺、何かしたか?」
彼は納得がいかず、直接聞くことを決意する。
夜―
リセアが自室で本を読んでいると、ノックの音が響いた。
「……はい」
扉を開けると、そこにはカルが立っていた。
「リセア、ちょっといい?」
「……どうしましたか?」
「部屋で話したいことがあるんだ。少しだけ時間をくれないか?」
カルの真剣な表情を見て、リセアは少しためらいながらも頷いた。
カルの部屋に入ると、静寂が二人を包んだ。
「……避けてたよね?」
カルが静かに問いかける。
「……」
リセアは言葉に詰まる。
「理由を教えてくれないか?」
『言えるわけない……。昨夜、カルを想いながら...あ、あんなことをしてしまったなんて……!』
沈黙が続く。
カルは一歩近づき、リセアの肩にそっと触れた。
「……リセア?」
その瞬間。
彼女の中で、何かが弾けた。
「——っ!」
次の瞬間。
リセアは勢いよくカルをベッドに押し倒していた。
驚いた表情を見せるカル。
リセアの瞳は揺れながらも、強い決意を秘めていた——。
第五十二章
夜の帳が降りる中、リセアの胸には抑えきれない感情が渦巻いていた。
「カル……」
唇を噛みしめる。
抑えようとしても、彼を求める想いが溢れ出し、胸が締めつけられる。
全身が熱くなり、身体が自然とカルに向かっていた。
「リセア?」
カルが不思議そうにリセアを見つめる。
その瞬間、理性の糸が切れた。
「わ、私たち……このまま一つになりませんか……?」
恥じらいに頬を染めながら、リセアは震える声で告げた。
カルの目が大きく見開かれる。
そして、次の瞬間、彼の腕が優しくリセアを包み込んだ。
「……本当に、いいのか?」
「……はい。」
静かに唇が重なり合う。
最初は優しく、次第に熱を帯び、情熱的に舌が絡み合う。
蕩けるような快感がリセアを支配し、全身が甘く痺れるようだった。
「んんっ……ちゅっ……ぁむ……んっ……」
リセアの息遣いが甘く乱れ、カルの指がそっと肌をなぞる。
彼の温もりを感じるたびに、心が満たされていく。
「……リセア、もっと攻めてもいいんだよ……」
囁くような声に、リセアは震えながら頷いた。
初めての感覚に戸惑いながらも、求め合う気持ちには抗えない。
リセアが積極的にカルを求め、彼の身体を慈しむように触れる。
「……そ、そのっ……もっと、もっと……私を求めて欲しいです……」
カルの瞳が揺れ、彼女の願いに応えるように、リセアを深く抱き寄せた。
夜は更けていく。
シーツが乱れ、二人の熱が部屋に満ちていく。
———
「……次は僕の番だ。」
カルがリセアの髪を優しく撫でながら囁く。
その声に、リセアは身を震わせた。
今度は彼が主導権を握り、リセアを攻めていく。
「リセア……覚悟はいい?」
彼の問いに、リセアは静かに頷いた。
「……はい。」
カルの手がリセアの肌を優しく滑り、快楽の波が押し寄せる。
全身が痺れるような感覚に包まれ、リセアはカルに身を預けた。
何度も交わりながら、二人の心は確かに重なっていく。
———
夜が明ける頃、シーツは無造作に乱れ、心地よい疲労感が二人を包んでいた。
朝日が差し込む中、二人の新しい関係が始まるのだった——。
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