二次創作小説(新・総合)
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- Fate/Azure Sanctum
- 日時: 2025/02/10 13:57
- 名前: きのこ (ID: DnOynx61)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070
〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。
小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.18 )
- 日時: 2025/02/24 23:53
- 名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
三十三章
翌日、墓参り――
翌朝、冬の冷たい風が肌を刺す中、凛はリセア、セイバー、カル、アサシン、エリュ、ライダーを伴い、両親の眠る墓地へと足を運んだ。
「ここが凛さんのご両親のお墓ですか?」
リセアが静かに問いかける。
「そうよ。ここは大切な場所。でも、頻繁に来られるわけじゃないの。」
凛は短く答え、手に持った花束を墓前に供えた。
その横顔には普段の冷静さとは異なる、どこか柔らかな感情が浮かんでいた。
セイバーは凛のすぐ後ろで佇み、護衛の意識を崩さない。
カルとアサシンは少し離れた位置でそれぞれ祈りを捧げている。
エリュとライダーもまた、厳粛な空気を壊さぬよう無言で佇んでいた。
「お父様、お母様、また来ました。」
凛の低くも確かな声が響く。
「いろいろなことがありましたが、私はまだ頑張っています。」
リセアは胸の奥で温かい感情が芽生えるのを感じた。
自分の過去が何もわからない状況であっても、こうして家族のような存在とともにいることが不思議で、そしてありがたかった。
墓参りを終え、皆が墓地を後にしようとしたその時だった。
「ね、姉さん……?」
その声が聞こえた瞬間、凛は足を止めた。
そして、振り返るとそこには一人の女性が立っていた。
「桜……?」
それは、凛の実の妹である間桐桜だった。
以前よりも大人びた姿になりながらも、瞳には懐かしい光が宿っていた。
「久しぶりです……姉さん。」
桜の言葉に凛の目が大きく見開かれ、次の瞬間には駆け寄っていた。
「さ、桜!本当に桜なのね!」
二人は抱き合い、その場に泣き崩れた。
普段冷静な凛の顔には、姉としての素顔があらわになっていた。
「ごめんなさい、姉さん……。ずっと会いたかったです……。」
「私もよ、桜……。ずっと心配してたわ。」
二人の再会の場面をリセアたちは静かに見守っていた。
セイバーは微かに微笑み、カルは何かを考え込むようにリセアを見た。
「これが、本当の家族……か。」
カルが呟くと、リセアは微笑みながら頷いた。
その日の午後、一行は予定通りロンドンへの帰国準備を進めた。
凛と桜の再会がもたらした暖かさが、皆の心に余韻を残していた。
「リセア、今日はありがとうね。」
凛が微笑みながらリセアに声をかける。
「いえ、凛さん。これが私の役目です。」
リセアは穏やかに答えた。
空港へ向かう道中、カルがリセアに歩み寄る。
「ねえ、リセア。今日のこと、どう感じた?」
「とても素敵な時間でした。家族って、いいものですね。」
リセアの言葉に、カルは満足そうに微笑む。
「君にも、そんな時間がもっと増えるといいね。」
その言葉に、リセアは小さく頷いた。
三十四章
冷たい朝の空気がリセアの肌に触れる。
自宅の庭は静寂に包まれ、凛が淹れた紅茶の香りが微かに漂っていた。
テーブルを挟んで座るリセアに向かい、凛は少し眉を寄せた表情で切り出す。
「最近、誘拐事件が増えているの。犯人はヴァハルって男で今も逃走中、特に若い女性が狙われているらしいわ。あなたも外出時には十分に気をつけなさいね。」
その言葉に、リセアの胸の奥がざわついた。過去の記憶が脳裏に蘇る。
アストに誘拐されたあの日のこと
——薄暗い部屋の冷たい壁、身体を締め付ける拘束具、そして執拗に注がれる冷たい視線。
その時の絶望感が再び胸を締め付ける。
リセアは深呼吸をし、震える手を隠すように軽く首を振って記憶を追い払おうとした。
「…わかりました、気をつけます。」
凛はリセアの様子に気づいたのか、それ以上は何も言わずに話題を切り替えた。
昼下がり、リセアはセイバー、カル、そしてエリュとともに時計塔の近くを歩いていた。
アサシンとライダーは霊体化して随伴している。
凛は留守番役として自宅に残っていた。
「リセア、セイバーのマスターとして、この街の様子をもっと把握しておくべきだ。特に、敵の動向や奇妙な気配を見逃さないように。」
カルの言葉にリセアは頷いた。
その時、セイバーが足を止めた。
瞳の奥に冷徹な光を宿し、鋭い視線で前方を射抜く。
「…殺意を感じます。恐らく、他のマスターとサーヴァントでしょう。」
その言葉に、全員が背筋を伸ばし、目の前の静寂が戦場の予兆に変わった。
張り詰めた空気を切り裂くように、突然耳元で鋭い風切り音が響き、アーチャーの銃器が暗闇から牙を剥いた。
それを察知したエリュが咄嗟にリセアの前に立ち、弾を防ぐ。
しかし、足を打たれ、膝をつく。
「エリュ、大丈夫ですか!」
リセアが駆け寄るも、エリュは歯を食いしばりながら立ち上がり、笑顔を見せた。
「今までと比べたら....大丈夫、これくらい…問題ない...」
その間に、セイバーとアサシン、そしてライダーがアーチャーに攻撃を仕掛ける。
激しい戦闘が繰り広げられ、アーチャーは徐々に追い詰められていく。
しかし、アーチャーのマスター—ヴァハルが現れたことで状況は一変する。
「やれやれ、随分と派手にやるんだねぇ。」
ヴァハルは軽やかな身のこなしでカルとリセアの魔術攻撃を回避し、ナイフを巧みに操って反撃する。
カルは何とか応戦するが、不意を突かれ、地面に倒れ込む。
「カル!」
リセアが叫ぶ間もなく、ヴァハルは彼女に迫り、鋭いナイフを喉元に突きつけた。
刃先が微かに光を反射し、その冷たい輝きが彼の歪んだ微笑みを際立たせる。
「君たちこれ以上動かない方がいいよぉ。さもないと…僕の手が滑っちゃうかもしれない。」
ヴァハルの声は甘ったるく響くが、その裏には狂気が混じっていた。
目はわずかに見開かれ、まるで人間の生死を弄ぶことに陶酔しているようだ。
凍りつく空気の中、セイバー、アサシン、ライダーが動きを止める。
その目は敵意と焦燥で燃えていたが、ヴァハルの一挙手一投足を見逃すまいと緊張を極めている。
リセアは冷や汗を感じながら、必死に思考を巡らせた。
喉元の鋭い感触が、まるで彼女の心臓の鼓動に合わせてじわりと重みを増しているかのようだ。
『どうする…この状況を打開しないと....!』
その時、彼女の心の奥底に眠る未知の魔術がうごめき始めた。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.19 )
- 日時: 2025/03/02 18:30
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
三十五章
暗い廊下に響く足音、張り詰めた空気が肌を刺すような緊張感を与えていた。
リセアはヴァハルの手によって首にナイフを突きつけられ、人質にされていた。
「動かないでねぇ...それとも、この瞬間に君の脆い命を終わらせてみようか?」
その声は氷のような冷たさの中に、底知れぬ愉悦と狂気が混じり、リセアは息を呑み、喉の奥に恐怖が絡みついた。
しかし、同時に彼女の意識は異常なほど冷静で、胸の奥には奇妙な高揚感さえ芽生えていた。
体が震えるのも恐怖ではなく、鋭敏な覚醒が生み出す感覚のようだった。
無意識にリセアの口から呟かれる言葉、何故か体がこの感覚を覚えていた。
「虚偽の深淵……Abyss of Falsehood….」
声に出した瞬間、彼女の手から正体不明の魔術が勢いよく放たれた。
それは深淵の闇を具現化したような、見る者に底知れぬ恐怖を与える力だった。
ヴァハルはその力に直撃を受け、苦痛の声を上げて倒れ込む。
彼の体には深い傷が刻まれ、血が床を染める。
「くっ、こんな……こんな力が……!!」
ヴァハルの声は震え、目には恐怖と驚愕が交錯していた。
彼の口元には引きつるような笑みが浮かび、混乱の中でもどこか狂気が滲んでいる。
「これが……君の力か……そうか……はは……」
ヴァハルはふらつく足取りで壁に手をつきながら、床に滴る血をその指で撫でつけるようにしながら逃げ去った。
リセアはその場に膝をつき、荒い息を吐いた。
全身が震え、骨の髄まで悲鳴を上げるような感覚に苛まれた。
口元を押さえた彼女の手には、滴るように鮮血が滲み、指先を濡らして床に落ちる。
視界はぼやけ、鼓動が耳の奥で炸裂する音のように響く中、彼女は自分の中で何かが崩れ落ちる音を聞いたような気がした。
「これが……私の……魔術……!?」
その言葉を最後に、リセアは意識を手放し、倒れ込んだ。
二日後――
リセアが目を覚ました時、視界に入ったのは自室の天井だった。
周囲には凛、セイバー、カル、アサシン、エリュ、ライダーの姿があった。
「リセア大丈夫でしょうか?無理はしないでください。」
セイバーが彼女の手を握り、心配そうに覗き込む。
「私、無事だったんですね……」
リセアはか細い声で呟いた。
「無事ではないわ。」
凛の冷たい声が響いた。
彼女はリセアの隣に腰を下ろし、鋭い目で睨みつける。
「魔術を使ったのね。これからそれはいざという時以外は絶対に使わないで。」
「で、でも、あの場では他に方法が……」
リセアが弁解しようとすると、凛は首を振った。
「その反動がどれほど危険か、あなた自身も分かっているはずよ。これ以上あなたの体を壊すわけにはいかない。」
リセアは申し訳なさそうに俯いた。
周囲の皆が心配そうな顔で彼女を見守っている。
作戦会議――
数時間後、リセアたちはアーチャーとそのマスターヴァハルを撃つための作戦会議を開いた。
「ヴァハルの傷は深かったはず、この機会を逃すわけにはいかない。」
カルが低い声で言った。
「でも、彼がどこに隠れているか分からない以上、無闇に動くのは危険です。」
エリュが慎重な意見を述べる。
「確かに。そのためにはまず、ヴァハルの動きを探る必要があるわね。」
凛が考え込むように呟く。
「私が囮になります。」
リセアが静かに口を開いた。
「それはダメだ。」
セイバーが即座に反対する。
「リセア、あなたの体はまだ完全には回復していないのよ。」
「それでも、みんなの力を無駄にしないために、私が前に出るしかありません。」
リセアの目には決意が宿っていた。
全員が一瞬言葉を失う中、カルが微笑んで言った。
「分かったよ。君がそこまで言うのなら、僕たちも全力でサポートする。」
「カル、そんな簡単に――」
セイバーが抗議しようとするが、リセアが彼女の手をそっと握った。
「セイバー、ありがとう。でも、私が動くことが最善の方法です。」
セイバーは複雑な表情を浮かべながらも、最終的には頷いた。
「分かりました。ただし、絶対に無茶はしないでください。」
こうして、彼らは次なる一手を考え始めた。
リセアの強い意思と仲間たちの絆が、新たな戦いへの希望を紡ぎ始める。
三十六章
夜の帳が降り、ロンドンの街並みを冷たい月光が照らしていた。
リセアたちは、遂にヴァハルとアーチャーの居場所を特定し、作戦を実行に移す準備を整えた。
「皆さん、よろしいですか?」
リセアは周囲を見渡し、共に戦う仲間たちに視線を送った。
その表情は、使命を背負う者の覚悟に満ちていた。
「もちろんだよ、リセア。君が囮になるのは心配だけど、全力で援護する。」
カルが不安げに言いながらも、自身の決意を示す。
「大丈夫です、カル。これも計画の一部です。」
リセアは落ち着いた口調で返したが、その蒼い瞳には微かな緊張が見て取れた。
セイバーは一歩前に出て、鋭い眼差しを月明かりに輝かせながら言った。
「どんな相手でも、主従として全力で戦います。」
一方、凛とエリュ、ライダー、そしてアサシンは別の任務に向かっていた。
拠点内に潜むアーチャーを見つけ出し、戦闘に持ち込むのが彼女たちの役割だ。
リセア、セイバー、カルは指定されたポイントでヴァハルの到着を待っていた。
その場に現れたヴァハルは、闇を纏った威圧的な存在感を放ちながら姿を現した。
「君たちがここまで来るとはねぇ。」
ヴァハルは冷たく笑いながら、まるで獲物を見定めるような目つきでリセアたちを見下ろした。
リセアはヴァハルの視線に怯まず、毅然とした態度で応じる。
「あなたをここで止めます。そのために、全力であなたを討ちます。」
「ハハ、血の匂いすら知らない君が何を言うんだぁ。」
ヴァハルはゆっくりと近づき、冷たい言葉を投げかけた。
「君の血を舐めてみたいなぁ。その澄んだ瞳がどう濁るか、考えるだけで興奮する。」
その瞬間、セイバーが間合いを詰め、鋭い斬撃を繰り出した。
しかし、ヴァハルはそれを軽々とかわし、さらに威圧感を増してリセアたちを圧倒していく。
「はは、おもしろい。」
ヴァハルの笑い声が冷たく響き渡り、リセアたちは歯を食いしばりながらも懸命に応戦した。
一方その頃、凛たちは拠点内で誘拐された女性たちの異様な現場に遭遇していた。
「これは……!」
凛は息を呑み、思わず口元を手で覆った。
部屋の中には、残酷に殺害された女性たちの死体が散乱していた。
エリュは目を伏せ、震える声で言った。
「……ひどい。」
その光景に、彼女は吐き気を抑えきれなかった。
ライダーは冷静さを保とうとしながらも、その手はわずかに震えていた。
「これが……奴らの悪行ってワケか...」
アサシンは眉をひそめ、悲しそうな目で部屋の光景を見渡した。
「許されませんね……これほどの罪を、罰せずに見過ごすわけにはいきません。」
「アーチャーを見つけて、終わらせるわ。」
凛が震えを抑え、強い決意を込めてそう告げると、一同はさらに奥へと進んでいった。
夜空には月が輝き、リセアたちの戦いが続いていた。
ヴァハルの強大な力に押されながらも、彼らは諦めることなく立ち向かう。
「セイバー、今です!」
リセアが叫び、セイバーは全身全霊の一撃を放つ。
しかし、その攻撃はヴァハルにかわされ、逆に反撃を受ける。
「くっ……!」
カルが必死に魔術で援護するものの、ヴァハルの圧倒的な力を前にして形勢は不利なままだった。
リセアは震える手で魔力を高めながら、仲間たちと共に再び立ち向かう決意を固める。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.20 )
- 日時: 2025/03/02 18:33
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第三十六章
戦場は、血の香りと破壊の余韻が漂う冷たい空間だった。
カルは苦しげに荒い息を吐きながら、崩れるように地面へ膝をついた。
右腹には深々と刃が突き刺さり、溢れ出る血が地面に染みを広げている。
「リセア......任せた......」
「カル!」リセアは声を張り上げ、慌てて駆け寄りたい衝動を抑えた。
目の前には敵対者
――ヴァハルが立ちはだかっている。
「どうした、動かないのぉ? 君もすぐに同じ運命を辿るのにね。」
リセアは歯を食いしばり、セイバーと視線を交わした。
「セイバー、お願いします!」
「心得ました。」
青い閃光がヴァハルに向けて放たれた。
セイバーの剣技は鋭く、瞬時に相手の右腕を狙う。
だがヴァハルも一筋縄ではいかない。
狂気じみた笑みを浮かべながら、彼女は一瞬で攻撃を回避し、逆にカウンターを放つ。
鋭い蹴りがセイバーの側首を直撃し、彼女は地面に倒れ込んだ。
「セイバー!」
リセアの心に焦燥が走る。
だが今は戦うしかない。
彼女は虚数魔術の詠唱を始め、無数の黒い影をヴァハルに向けて放った。
「なるほど、それが君の力...あのときの攻撃はどうした?」
ヴァハルは魔術の影をかわしながら接近し、一瞬の隙を突いてリセアの太腿を刺した。
灼けつくような激痛が全身を駆け巡り、リセアの意識が一瞬遠のく。
彼女は膝をつき、震える手で傷口を押さえながら苦しげなうめきを漏らした。
「くっ......!」
痛みと出血が止まらず、視界が揺らぎ始める中でも、彼女は必死に自分を奮い立たせようとする。
しかし、立ち上がることすらままならず、冷たい地面に体を預けるしかなかった。
「終わり....これが君の命の終点。」
ヴァハルは彼女の傷口から流れる血を指で掬い取り、それを目を閉じて楽しむように舐め取り、その仕草はまるで味わうかのようで、狂気そのものだった。
「いい味がするなぁ。」
彼の声には嘲笑と冷徹さが混じり、言葉の一つひとつがリセアの精神をえぐり取るようだった。
その瞬間、空間が震えるような強烈な魔力が爆発的に放たれた。
血液が触媒のように魔術の波動を呼び寄せ、周囲の温度が急激に変化する。
「お前の遊戯はここで終わりだ……。僕のリセアに触れたその罪、骨の髄まで後悔させる。」
現れたのはアストとキャスターだった。
アストの瞳には怒りが見え、キャスターは冷ややかな微笑みを浮かべていた。
「邪魔をするな!」とヴァハルは叫びながら攻撃を繰り出す。
だがキャスターの防御魔術に阻まれ、隙を突かれてアストがその喉元に短剣を突き立てた。
「これで終わりだ。」
ヴァハルは目を見開き、最後の悲鳴をあげる間もなくその場に崩れ落ちた。
その頃、遠坂凛たちも異変に気づいていた。
「アーチャーの気配が消えた......!」
凛は険しい表情で立ち上がった。
「急ぎましょ。リセアたちが危険だわ。」
「了解しました。」
エリュが静かに頷き、ライダーとアサシンも準備を整える。
「何としてでも間に合わせるわよ!」
凛は決意に満ちた声で叫び、仲間たちを率いて走り出した。
第三十七章
リセアは必死に抵抗しようとしたが、鋭い痛みが太腿を貫いた。
アストの手が彼女の胸に這い寄る。
逃れようとしても体が動かない。
鮮血が滲む中、彼は狂気じみた微笑を浮かべ、強引に唇を奪った。
「っ……やめてください! そんなこと……私は望んでいません……!」
「ん……っ、く……っ!」
絡み合う舌。
押しつけられる熱。
嫌悪と恐怖が渦巻き、意識が霞んでいく。
だが、それ以上に脳裏に蘇る過去の記憶が彼女を締め付けた。
『……もうやめて……やめて……っ』
トラウマが心を蝕む。
寒気と絶望が全身を覆い尽くし、視界が暗転しそうになる。
——だが、その瞬間、轟音とともに空気が震えた。
「……そこまだ、アスト。」
凛とした声が響いた。
気を失っていたはずのセイバーが、冷たい怒りを湛えて立ち上がっていた。
金の髪が揺れ、蒼い瞳が鋭く光る。
目に見えぬ剣閃がアストを吹き飛ばす。
彼はたまらず後退し、歪んだ愛に狂った視線をリセアに向けた。
「……リセア、君は僕のものなんだ……君の悲鳴も、涙も、全部…僕が独占するんだ……」
だが、セイバーの一撃は容赦ない。
アストは後方へと跳び退きながら、キャスターと共に撤退していった。
その場に残されたリセアは、震える手で自らの唇を拭った。
屈辱と悔しさに歯を食いしばる。だが、そんな彼女に、仲間たちが駆けつけてきた。
「リセア!」
凛、エリュ、ライダー、そしてアサシン。
彼らの姿を見て、リセアは張り詰めていた心がわずかに緩んだ。だが——
「カルが……!」
カルは地面に横たわり、右腹から大量の血を流していた。
周囲の土はすでに真紅に染まり、血の匂いが鼻を突く。
息も絶え絶えで、今にも意識が途切れそうだった。
「まずい……!」
リセアは自らの治癒魔術を発動させる。
傷を塞ぎ、血を止める。
だが、カルの傷は深く、魔力の流れが乱れている。
「こんなの、どうしたら……」
焦りと不安が込み上げる中、凛が静かに言った。
「……任せなさい。宝石を使うわ。」
凛の手には、練り上げた魔力を込めた宝石があった。
宝石を砕き、魔力を流し込む。
「く……っ!」
苦悶の表情を浮かべながらも、カルは確かに生きていた。
やがて彼の呼吸が安定し、傷が癒えていく。
リセアは震える手でカルの無事を確かめ、嗚咽をこらえながらその光景を見つめた。
「よかった……本当によかった……」
喉の奥から絞り出すような声だった。
瞳から溢れた涙は、止めどなく頬を伝い、地面へと滴り落ちる。
彼女の胸を締め付ける痛みは消えない。
過去の恐怖、屈辱、絶望——それでも。
「生きていてくれて……ありがとう……」
震える声で呟いた。
たとえ傷が癒えなくても、彼女はまだ、涙を流せる自分を信じたかった。
——それでも、彼女は前へ進むしかなかった。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.21 )
- 日時: 2025/03/02 18:36
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
三十八章
朝日が窓から差し込み、リセアはゆっくりと目を覚ました。
昨晩の出来事を思い出し、ふとセイバーの顔が脳裏に浮かぶ。
アストの手から救い出してくれた彼女への感謝を、何かしらの形で示したかった。
「セイバー、お礼をさせてください!」
そう言うと、セイバーは首を横に振った。
「礼など必要ありません。私はマスターを守るのが当然の務めです」
だが、リセアは納得できなかった。
何か形にしたい
——そう思った末、彼女はキッチンに立つ。
「せっかくですし、冬らしい軽食を作りますね」
セイバーは最初こそ遠慮したものの、料理が完成すると、興味深そうに目を向けた。
リセアが作ったのは温かいシチューと焼きたてのパン。
湯気が立ちのぼる料理の香りに、セイバーの目がわずかに輝いた。
「い、いただきます」
その様子を見て、リセアは安堵する。
しかし、静かな時間は長くは続かなかった。
「おいしそうな匂いがすると思ったら……リセア、僕の分もある?」
カルが現れ、その後ろにはエリュ、凛、ライダー、アサシンが続いた。
彼らの視線は、食卓に並ぶ料理に釘付けだった。
「もちろん、みなさんの分も作りますね」
リセアは微笑みながら、次々と料理を作り出す。
彼女の手際は素早く、魔術のように鮮やかだった。
それぞれが食事を楽しみながら談笑していると、静寂を切り裂くように扉がノックされた。
「失礼する」
現れたのは、ルーラー
——彼女の表情は真剣そのものだった。
「重要な話がある。皆に聞いてもらいたい」
場が静まり返る。
ルーラーの口から語られたのは、聖杯戦争に関する衝撃的な事実だった。
「まず、今回の聖杯はアインツベルンのものではない」
その言葉に、リセア、セイバー、カル、凛、エリュ、ライダー、アサシンは静かに頷いた。
彼らはすでにそれを察していた。
「……それは、わかってるわ」
だが、次にルーラーが口にした言葉には、一同が驚きを隠せなかった。
「リセア、あなたはこの聖杯戦争に深く関わっている」
リセアの瞳が揺らぐ。
「私がですか……?」
「明確な証拠はまだありませんが、戦況や集まった情報を考慮すると、あなたこそがこの聖杯戦争の核心に関わる存在である可能性が非常に高い。」
リセアは無意識に拳を握りしめた。
自分が何者かもわからないまま、今度は聖杯戦争の中心人物だと言われるとは——。
——この戦いには、まだ知られざる真実が隠されている。
その予感が、リセアの胸の奥に重くのしかかっていた。
三十九章
夜の静寂が部屋を包む中、リセアは布団の中で目を閉じていた。
しかし、今朝のルーラーの言葉が頭から離れず、どうしても寝付けない。
『リセア、あなたはこの聖杯戦争に深く関わっている』
その一言が、心の奥底に沈殿し、不安をかき立てる。
自分の過去も、ここにいる理由もわからないまま、戦いに身を投じている現実に、無意識のうちに身体が強張る。
そんな時
——コンコン。
不意にドアがノックされた。
「……? どうぞ」
リセアが扉を開けると、そこにはエリュが立っていた。
だが、普段の冷静な表情とは違い、どこか焦っている。
「……リセア、助けてほしい」
「どうかしましたか?」
「Gが出た」
エリュは無表情ながらも微かに震えているように見える。
リセアは一瞬驚いたが、すぐに納得した。彼女は虫が大の苦手だった。
「それで、私の部屋に避難しに?」
「……うん」
小さく頷くエリュの姿に、リセアは苦笑しながら「仕方ないですね」と呟く。
「では、一緒に寝ますか?」
「……助かる」
そうして、エリュはリセアの隣に潜り込んだ。
夜の静寂の中、しばらくの間、二人は黙っていた。
しかし、エリュがぽつりと呟く。
「……リセア」
「はい?」
「...恋愛について、話してもいい?」
突然の話題に、リセアは少し驚いたが、「...ええ、構いませんよ」と頷いた。
「……私、好きな人がいる」
エリュはそう言うと、静かに語り始めた。
ライダーのこと。
彼への想い。
冷徹で無表情な彼女が、熱を帯びた声で語るその様子は、普段の彼女とは違う一面だった。
そして——
「リセアは?」
「.……え?」
不意打ちだった。
「カルのこと、好きなんでしょ?」
一瞬、頭が真っ白になる。
「な、ななな……っ!?」
言葉が喉に詰まり、息がうまくできない。
顔が一気に熱くなり、耳まで真っ赤になっているのが分かった。
「ち、ちちち、違いますっ!!」
「......顔、赤い」
「……っ!」
エリュの指摘に、リセアは勢いよく布団を被った。
「 も、もうっ、エリュの意地悪です!」
布団の中からくぐもった声が響く。
その姿があまりにも可愛らしく、エリュは珍しく微笑んでいた。
「ふふ……」
そして、少し優しく、穏やかな声で言う。
「リセア、ずっと不安そうだった。だから、少しでも気を紛らわせたくて……でも、今は、ちょっと安心した」
その言葉に、リセアははっとした。
エリュが自分の気持ちを紛らわせるために話を振っていたのだと気づく。
「……ありがとう」
そう呟いた瞬間、抑えていた感情が溢れた。
不安、恐怖、焦燥——
気づけば涙が零れていた。
「リセア……?」
次の瞬間、リセアはエリュに抱きついていた。
「っ……エリュ」
互いに顔を赤らめながら、しばらくそのまま静かに寄り添い合っていた——。
- Re: Fate/Azure Sanctum ( No.22 )
- 日時: 2025/03/02 18:39
- 名前: きのこ (ID: UrWetJ/L)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
四十章
リセアは目を覚ました瞬間、自分の体に違和感を覚えた。
まるで身体全体が別物に変わってしまったような感覚。
皮膚の内側がざわつき、血液の流れすら異質に感じる。
深く息を吸い込むと、普段なら当たり前のように循環する魔力が、まるで別の生き物のようにうねりを上げた。
「……何、これ……?」
呟く声は微かに震えていた。
自分の身体なのに、まるで制御できない異物が内側に巣くっているようだった。
リセアはそのまま何事もないように振る舞った。
朝食を済ませ、日常をこなす。
しかし、その異常を最初に察したのはセイバーだった。
「リセア、何かあったのですか?」
彼女の蒼い瞳が鋭くこちらを見つめる彼女の表情は真剣そのものだった。
「……いえ、何も……」
誤魔化そうとしたが、セイバーは首を横に振った。
「リセア、あなたは嘘をつくのが下手ですね。今朝から様子がおかしい……凛に診てもらいましょう。」
リセアは観念し、遠坂凛の部屋を訪れた。
魔術に精通する彼女なら、何か分かるかもしれない。
「で、どうしたの?」
椅子に座る凛は、リセアをじっと見つめた。
「……私の体に何か異変が起きている気がします。朝起きたら、魔力の流れが……変なんです。」
凛は眉をひそめた。「ふーん……ちょっといい?」
リセアの手を取り、魔力を流し込む。
その瞬間、凛の表情が一変した。
「ちょっと、これ……冗談でしょ……?」
凛の顔が驚愕に染まる。
「……あなたの魔術回路、本数が異常なほど増えてる。70本だったはずが……今は200本になってるわ。」
リセアの脳内に衝撃が走った。
「え……? そんなこと……ありえません……」
魔術回路の本数は生まれつき決まっている。
増えることなど、通常ではありえない。
だが、凛の言葉を疑う余地はなかった。
「こんなの、普通の魔術師ならまず起こらないわ。回路を移植しない限り、数が増えることなんて絶対にないのよ。でも、あなたの回路は……間違いなく、倍になってる。」
リセアの手が震えた。
「……私は、一体……何者なんですか……?」
苦悩が胸を締め付ける。
自分が何者か分からないという恐怖が、心を蝕むようだった。
凛は難しい顔をしながらも、リセアの肩に手を置いた。
「まだ決めつけるのは早い。でも、一つだけ確かなことがあるわ。あなたは……普通の魔術師じゃないわ。」
リセアの中で、徐々に「自分が自分でないのではないか」という疑念が膨らんでいく。
四十一章
リセアは凛から聖杯戦争の状況を聞き、混乱した思考のままその言葉を反芻していた。
「ランサーとバーサーカーが相打ちになった……?」
「ええ。つまり、残る敵はアストとキャスターのみよ。リセア、あなたたちがアストと対峙するのは、もう避けられないわね」
凛の言葉に、リセアの胸の奥がじわりと重くなる。
アストと戦う
――それは、歪んだ愛と執着を抱く狂気の男と、血を流し合う覚悟を決めるということ。
脳裏にこびりついた彼の声、囁かれた甘美で歪な言葉、無数の視線に縛られたような感覚。
それを思い出すだけで、全身が凍りつくような戦慄に襲われる。
同時に、自分が何者なのかという疑問もまた、心を苛む。
記憶喪失の少女、遠坂リセア。
魔術回路の異質な構成、異常な魔力量。
自分は何者なのか。この問いは聖杯戦争を通じて何度も胸をよぎっていた。
夜、リセアは眠れなかった。
薄暗い天井を見上げながら、思考の渦に飲み込まれていく。
『残る敵はアストさん……狂気に囚われた彼と、血を流し合う運命……。彼の声が、視線が、私を絡め取る。心が軋む。体が凍る。私は……本当に、この戦いを勝ち抜けるのでしょうか?それとも……私は、すでに……?』
不安と混乱を抱えたまま、無意識のうちにカルの部屋へと足を運んでいた。
コンコン、と控えめにノックすると、すぐに扉が開いた。
カルは驚いた表情を浮かべながら、リセアを見つめる。
「リセア……こんな夜更けにどうしたんだ?」
「……カル。あの、一緒に寝ても……いい、ですか?」
自分でも驚くほど小さな声で、しかし確かにそう告げた。
カルの瞳が一瞬見開かれる。
そして、顔を赤らめながら、ぎこちなく微笑んだ。
「……あ、ああ。もちろん、いいさ」
お互いに少し照れくさそうにしながらも、カルはベッドの端をぽんぽんと叩き、リセアを招き入れた。
ベッドに並んで横になり、カルの温もりを近くに感じると、少しだけ不安が和らいだ気がした。
「カル……私、自分が何者なのか、わからなくなってしまって……」
「……リセア」
カルは優しく名前を呼び、そっとリセアの手を握った。
その温もりが、心の奥深くまで染み込むようだった。
ふとした拍子に、リセアはバランスを崩し、気づけばカルの顔に覆いかぶさっていた。
「っ……!」
息が止まる。
唇が、触れた。
瞬間、頭の奥で何かが弾けるような感覚に襲われた。
血が逆流し、心臓が嫌なほど強く脈打つ。
リセアの瞳が大きく揺れ、カルもまた、驚愕に目を見開いた。
「……っ、ご、ごめんなさいっ……!」
逃げなければ
——そう思ったのに、手首をそっと引かれた。
「……リセア」
囁くような声が耳を打つ。
鼓動が高鳴る。
息を呑む間もなく、彼は静かにもう一度、唇を重ねてきた。
「リセア……俺は、君が好きだ」
「……カル……」
拒む理由なんて、なかった。
気づけば、二人は求めるように肌を重ね、互いの熱を貪るように貫き合っていた。
熱に浮かされたように絡み合い、甘い吐息と震える声が夜の闇に溶ける。
繋がるたびに快楽の波が押し寄せ、理性が蕩ける。
夜が明ける前、リセアは乱れたシーツの上でぼんやりと余韻に包まれながら、カルの寝顔を見つめた。
名残惜しさに指先が彼の髪を撫でる。
静かにベッドを抜け出し、微かに疼く身体を引きずるようにして、リセアはそっと部屋を後にした。
胸に残る熱と甘い痛みを抱えながら、自室へと戻る。
『これで、良かったのでしょうか……!?』
潤んだ瞳を伏せ、乱れた呼吸を整えようとするが、脳裏にはまだ彼の熱が焼き付いて離れない。
心の中で何度問いかけても、答えは出ない、ただカルの温もりだけが、確かに残っていた――。
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