二次創作小説(新・総合)

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Fate/Azure Sanctum
日時: 2025/02/10 13:57
名前: きのこ (ID: DnOynx61)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070


〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。

小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.13 )
日時: 2025/02/24 23:22
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


二十四章

ロンドンの冷たい夜風が吹き抜ける中、リセアたちは自宅へと戻ってきた。

カルは黙ったまま、少し俯き加減で歩いている。

セイバーとアサシンはそれぞれ主人に付き添い、凛が前を歩き手早く鍵を取り出して玄関を開けた。

「入って、皆。話を聞かせてちょうだい。」

凛の声が冷静だが、どこか張り詰めていた。

リセアたちはリビングへと誘導され、凛が淹れた紅茶を受け取りながらソファに腰を下ろす。

リセアは落ち着いた口調で、時計塔の廊下ですれ違ったエリュのことを語り始めた。

「エリュさんと廊下ですれ違いました。そのとき、彼女は泣いているようにも見えました。...令呪がありましたが、きっとライダーのものではないかと。」

凛は静かに聞きながら頷く。

「彼女がライダーを従えている以上、警戒すべきね。」

カルが顔をしかめ、問いかけた。

「サンクティス家って一体どういう家なんだ? 彼女の家庭環境が気になる。」

凛は紅茶を一口飲んでから、少し言いにくそうに話し始めた。

「サンクティス家は、時計塔内でもほとんど知られていない家系。魔術の血統としてはそこそこだけど、家族関係は複雑で最悪。彼女は、恐らくその家庭環境の犠牲者と言えるそして、彼女なにをされているか...」

リセアが眉をひそめた。「...犠牲者、ですか。」

「ええ。」凛の目が鋭くなる。

「サンクティス家では、能力主義が極端すぎるの。家族の中で優れた魔術師だけが重んじられ、劣る者は徹底的に見下される。それだけでなく、家族間での争いが頻繁に起こる。競争を煽られ、兄弟姉妹でも容赦なく足を引っ張り合う。それがあの家のあり方。」

セイバーが静かに口を開いた。

「そんな環境では、まともな感情を持ち続けるのも難しいでしょうね。」

凛は軽く頷き、続けた。

「エリュはその中で生き延びてきたのよ。感情を押し殺して、誰にも頼らず、ただ一人でね。」

アサシンがそっと口を開く。

「でも、そんな彼女が泣いていたというのは、彼女の中で何かが崩れてるのではないでしょうか?」

リセアは静かにうなずいた。

「そうかもしれません。私たちにできることはありますか?」

凛は少し間を置いて答えた。

「エリュにとって、私たちは敵でしかないわ。彼女に何かをしてやれるかどうかは、これからの状況次第ね。でも、彼女がライダーを守るために令呪を四画持っているのなら、彼女自身も大きな覚悟を背負っているはず。」

カルが手を握りしめた。

「覚悟か。...リセア、君はどう思う?」

リセアはカルの目をじっと見つめて答えた。

「どんな理由があっても、人を傷つけることは正しいとは思えません。でも、彼女がどんなに辛い環境で生きてきたかを考えると、少しでも力になりたいと感じます。」

セイバーが穏やかな声で付け加えた。

「リセアらしい考えです。でも、どうか気をつけください。優しさはときに、相手を追い詰めることもあります。」

凛が席を立ち、深く息をつく。

「今日のところはこれくらいにしましょう。エリュについては、私がもう少し調べてみるわ。みんなもそれぞれ休んでちょうだい。」

それぞれが部屋へ戻る準備を始める中、リセアはふと窓の外を見つめた。

冷たい夜空に浮かぶ星々が、どこか寂しげに輝いていた。


二十五章

夜の帳が降りる頃、リセアは部屋で一人、今日の出来事を振り返っていた。

セイバーやカルとのやり取り、そして時計塔での講義のこと。

れらの思考が混じり合い、そしてエリュの事...頭の中に様々な感情を呼び起こしていた。

「少し疲れましたね...。」

彼女は静かに息を吐き、柔らかなベッドに身を沈める。

その時、ノックの音が扉を叩いた。

「リセア、入ってもいいか?」カルの声だった。

彼の軽やかな声に少しの緊張が混じっているのを感じ取り、リセアは立ち上がり扉を開けた。

「どうしましたか、カル?」

「...少し話がしたくてね。」

そう言って彼は部屋に入り、彼女の顔をじっと見つめた。

その瞳はどこか憂いを帯びていて、普段の余裕ある態度とは少し違う雰囲気を醸し出していた。

「リセア、君は本当に...不思議だよ。」

「っ…どういう意味ですか?」

カルは答えず、少し間を置いてからリセアの手をそっと取った。

「こんな風に君と二人きりでいると、自分がどれだけ弱い存在なのかを思い知らされる。」

彼の手が力強くなり、その瞬間、彼はリセアを引き寄せた。

そしてそのまま彼女をベッドに押し倒す。

「ッ――カル、何を...?」

リセアは顔を赤くし、驚きの声を上げたが、カルの表情には真剣な色が浮かんでいた。

「リセア、君がどれだけ特別な存在か、君自身は理解していない。僕は君を...」

その時、扉が勢いよく開かれた。

「待ちなさい!」

セイバーの毅然とした声が部屋に響き渡る。

彼女はリセアとカルを睨みつけ、静かにしかし確実に二人の間に割って入った。

「一線を超えてはならない。リセアの名誉を汚す行為は許されません。」

カルは一瞬息を呑んだが、すぐに肩をすくめ、微笑を浮かべて立ち上がった。

「わかったよ。リセア、今のは冗談だよ。」

そう言って、彼は部屋を後にした。

リセアとセイバーは二人きりになり、しばらく沈黙が続いた。

リセアはベッドの上で体を起こし、セイバーを見上げた。

「セイバー、ありがとうございます。」

セイバーは真剣な表情を崩さず、リセアの隣に座った。

「リセア、あなたは自分の身をもっと大切にしなければなりません。」

その言葉に、リセアは小さくうなずいた。

「わかっています。でも...今のはその...戯れていただけです。」

セイバーは彼女の言葉に答えず、しばらく考え込んでいた。

そして、ふとリセアの目を真っ直ぐに見つめた。

「リセア、あなたの魔力が減少しているのを感じます。このままでは戦闘で不利になる可能性があります。」

「そうですね...。何か方法があればいいのですが。」

セイバーは少し躊躇した後、静かに提案した。

「マスター、私たちはより深い契約を結ぶ必要があります。これにより、効率的に魔力を供給することができます。」

「深い契約...?」

セイバーは真剣な眼差しでリセアを見つめた。

「これは私とあなたの絆をさらに強めるための儀式です。ですが、それにはお互いの信頼と理解が必要です。」

リセアは少し戸惑いながらも、セイバーの提案を受け入れる決意をした。

「わかりました。セイバー、あなたを信じます。」

セイバーは微笑み、静かに彼女の手を取った。

「では、始めましょう。」

その夜、リセアとセイバーは深い契約を結び、お互いの絆を強めた。

リセアの魔力は以前にも増して強大なものとなり、セイバーとの信頼関係もさらに深まった。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.14 )
日時: 2025/02/24 23:26
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


二十六章

時計塔の静寂な廊下を歩くリセアの足音が、やけに響いているような気がした。

振り返ると、すれ違ったのはエリュ。

だが、何かが違った。

いつもと違う、あの冷徹な表情に、今まで見たことのない虚無的な光が宿っている。

リセアは足を止めて、エリュに視線を向けた。

「エリュさん、どうかしましたか?」

エリュは、ほんの少し目を伏せた後、すぐに無表情に戻り、静かに歩き続けた。

その後ろ姿に、リセアは思わず声をかけようとしたが、何かを感じ取ったのか、エリュは足を速めて立ち去っていった。

『…どうして、あんな顔をして…』

リセアは、ふと疑問を抱きながらも、その場に立ち尽くしていた。

その日、エリュが心のどこかで苦しんでいるのを感じ取ったリセアは、意を決して書庫へ向かうことを決めた。

自分でも気づかないうちに、エリュのためにできることをしたい、そんな気持ちが芽生えていたのだ。

書庫の扉を開けると、エリュが一人、静かに本を読んでいる姿が目に入った。

リセアは、そっとその背後に近づき、声をかけた。

「エリュさん、どうかしたんですか? 何か悩んでいるような…」

エリュは一瞬、ぴくりと肩を震わせたが、すぐに冷静さを取り戻し、リセアに振り返った。

無表情な顔を見せるエリュに、リセアは少しだけ胸が痛んだ。

「……気にしないでいい……疲れてるだけ…」

そう言うと、エリュは本に視線を戻し、リセアの問いかけには答えなかった。

リセアは、しばらく黙ってその場に立ち続けたが、やがてそっとエリュの隣に座った。

「私も、一緒に本を読みましょうか?」

その言葉に、エリュは一瞬だけ驚いたような顔を見せ、そして静かに頷いた。

「…まぁ」

リセアが手に取った本を開いた時、エリュはその腕にあった痣を、何気なく見てしまった。

それは、リセアが以前から気づいていたものではあったが、こうして近くで見るのは初めてだった。

その痣は、黒く深い色をしていて、まるで暗い闇の底のように見えた。

リセアは、それを見た瞬間、何かを感じ取った。そして、思わず声を上げた。

「…エリュさん、その痣、どうしたんですか?」

エリュの表情が一瞬で変わった。

「触らないで!」

まるで、触れられたくない秘密を暴かれたかのように、彼女の顔が引きつった。

「関係ない...!」

リセアは、驚きと戸惑いを感じたが、エリュの声には、明らかに怒りが含まれているのが分かった。

だが、エリュはすぐに静かになり、深い息をついた。

「あ、ごめんなさい、あなたにこんな顔を見せるつもりはなかった...」

その言葉に、リセアは胸が痛んだ。

何も答えずに、ただ黙っているリセアの前で、エリュは立ち上がり、書庫を離れようとした。

「エリュさん、待ってください!」

リセアの呼びかけも、エリュには届かなかった。

彼女は扉を開けて、何も言わずにその場を去って行った。

リセアはしばらく、何も言えずにその場に立ち尽くした。

その後、リセアは一人で書庫に残り、エリュが去った後の空間に静寂を感じていた。

何もできなかった自分に、無力感が募る。

「エリュさんが、あんなに辛そうだったなんて…。どうしてあんなことを隠して…」

彼女の心の中に湧き上がる感情を抑えきれなかった。

リセアは自分がエリュにできることを、何とか見つけなければならないと強く感じていた。

次の日の昼過ぎ、再びリセアはエリュに会う。

「エリュさん、昨日はごめんなさい。何かあったら、何でも話してほしい。私は…あなたの味方だから。」

その言葉に、エリュは少しだけ顔を上げ、ほんの一瞬、涙を浮かべた。

「…ありがと」

エリュは小さくつぶやき、少しだけ肩の力を抜いたように見えた。

しかし、その後もエリュの心の中にあるものは、まだリセアには届かない。

リセアはその後、しばらくエリュと一緒に過ごし、無理に話すことなく、ただ静かな時間を共有することになった。

その日の夜、リセアは一人で考えていた。

『エリュさんが抱えているものは、きっと私の想像を超えたものだろう。でも、少なくとも私は、彼女を見捨てたりしない。絶対に。』

リセアは静かに、エリュを思いながら自室の窓から夜空を見上げた。

遠く、星々が輝く中で、彼女は確信していた。

「私は、エリュさんのためにできることを、必ず見つける。」

そして、リセアの心の中には、強い決意が固まりつつあった。

エリュの心の中の闇。

それに光を照らすのは、リセアの優しさと、強い絆だった――


二十七章

エリュは、暗い部屋の中で独り壁に背を預けながら、小さく震えていた。

薄暗い光が窓から差し込み、その冷たい空間を微かに照らしている。

ライダーの不在が、心の中にぽっかりと空いた穴をより一層大きくする。

エリュはそっと目を閉じ、彼の声や笑顔を思い出しながらその温もりを追い求めた。

しかし、思い返す記憶は彼女に安らぎをもたらす一方で、現実の暗さを際立たせた。

冷たい視線、家族の冷酷な暴力、そして自分の身体に残る痛々しい痕跡

――それらは彼女を逃げ場のない恐怖に縛り付けていた。

エリュの心は、いつしかライダーへの淡い恋心で満たされていた。

彼の横顔、そしてリセアと共に過ごした短い時間。

それが、エリュにとって唯一の救いだった。

「…ライダー、今どこにいるの?」小さな声でつぶやく。

だが答えは返ってこない。

彼女はベッドに横たわり、涙を浮かべながらも微笑んだ。

ほんの少しでも、ライダーが自分の側にいるという幻想を抱くために。

翌日、ラグナ・サンクティスはエリュを呼び出した。

「エリュ、聞け。――セイバーのマスターを始末しろ。」

祖父の命令は、冷酷で、非情なものであった。

エリュは震える声で問い返した。

「…どうして、ですか?」

「奴が生きていれば、この計画は崩れる。我々の勝利には障害となる。」

エリュの心には激しい葛藤が巻き起こった。

ライダーやリセアと過ごした日々の中で、彼女は初めて「信頼」という感情を覚えた。

それを裏切ることは、自分自身をも裏切る行為に思えた。

しかし、ラグナの厳しい視線と、家族に従わない場合に待つであろう罰が、彼女を冷たい現実に引き戻す。

「…わかりました。」エリュは小さな声でそう答えた。

その言葉は、彼女自身の決意ではなく、絶望の中から絞り出されたものだった。

エリュはその夜、自室で膝を抱えて座っていた。

心の中では、リセアへの怒鳴り声を思い出しては後悔していた。

『あんな風に、言わなければよかった…。』

リセアの優しい言葉や行動は、エリュにとって眩しいものだった。

怒りをぶつけたあの日、リセアは何も言わず、ただ静かに彼女を見つめていた。

その瞳の中にあったのは、同情や憐れみではなく、真っ直ぐな信頼だった。

「私は…どうしたらいいの…?」

エリュは、自分が背負う罪と、目の前の道の選択肢に押しつぶされそうだった。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.15 )
日時: 2025/02/24 23:31
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


二十八章

夜が更け、遠坂リセアとカルは書庫で読書を楽しんでいた。

「リセア、ここまで読んだのか?君は本当に読むのが早いね。」

カルが感心したように微笑む。

「いえ、まだ途中です。 でも、この本はとても面白いですね。」

リセアはページをめくりながら答えた。

その瞬間、彼女の手が何か硬いものに触れた。

「……?」

リセアは本の中から一枚の紙切れを取り出した。

それは丁寧に折りたたまれており、少し古びた印象があった。

彼女がそれを広げると、そこには手書きの文字が記されていた。

「近くの廃工場に午前1時ごろ、セイバーの英霊を連れて二人で来てください。」

『……廃工場?』リセアは紙をじっと見つめる。

だが、その内容をカルに伝えるべきか悩み、一旦紙を自分のポケットにしまった。

夜更け、家の明かりがほとんど消えた頃、リセアは静かにベッドを抜け出した。

隣室に控えていたセイバーをそっと起こす。

「セイバー、少し出かけます。 静かについてきてください。」

セイバーは一瞬目を見開いたが、すぐに頷き、その場を離れた。

二人は慎重に家を出たが、実はその背後でカルがこっそりと二人の様子を窺っていた。

『やっぱり……。リセア、君は何をしようとして…』

カルはリセアたちの後を追うことを決めた。

午前1時。 月明かりの下、廃工場は静まり返り、不気味な雰囲気を醸し出していた。

リセアとセイバーが工場の扉を押し開けると、そこには既に待ち構えている人物たちがいた。

「……リセア」

工場の中央には、一人の女性が立っていた。

「エリュさん……どうしてここに...?」

リセアは驚きを隠せない。

エリュの隣には、彼女のサーヴァントであるライダーが控えていた。

「来てくれてありがとう、リセア。でも、ここで終わりにしないと...」

その声はどこか悲しげで、決意に満ちていた。

「どういう意味ですか?」

リセアが問い返す。

エリュはゆっくりと短剣を取り出し、ライダーに目配せを送る。

「リセア、戦ってもらいます。 あなたたちが生き残れるかどうか……見せてもらう。」

その瞬間、セイバーとライダーが構えを取った。

緊張感が辺りを支配する。

しかし、すぐ近くで物音がした。

リセアは振り向くと、そこにはカルの姿があった。

「カル……なぜここに!?」

「君を一人にさせるわけにはいかないだろう?」

カルは微笑みながらも、その表情には深い憂いが宿っていた。

こうして、リセアたちは否応なくエリュたちとの戦いに巻き込まれていく。

戦闘が始まる直前、エリュの瞳にはわずかな涙が浮かんでいた。

リセアはその理由を知る由もなかったが、その姿に違和感と悲しみを感じずにはいられなかった。


二十九章

ライダーとセイバーの激しい戦闘が続く。

両者の剣戟は凄まじく、まるで炎と嵐がぶつかり合うような光景だ。

どちらも一歩も引かない戦いは、周囲を巻き込む大規模な魔術戦場と化していた。

一方、リセアとエリュの魔術戦が始まった。

エリュは黒い影を纏いながら、攻撃を仕掛けてくる。

その魔力は圧倒的で、リセアの虚数魔術をもってしても防ぐのがやっとだ。

「リセア、下がれ!」

カルが駆け寄り、彼女を援護するために魔術を発動する。

彼の精密な結界魔術が、エリュの攻撃を一時的に防ぐものの、エリュの表情は絶望に染まっていた。

「私は...どうして…こんな... っ!」

エリュの声は震え、彼女の内面の苦悩がにじみ出ていた。

リセアは彼女を見つめ、やがてその魔術の防御を解き、自分の手を広げてエリュに歩み寄った。

「エリュさん、もう大丈夫です。」

リセアはエリュをそっと抱きしめる。

その瞬間、エリュの体に纏っていた暗闇が一瞬揺らいだ。

「なぜ...私に触れるの?私はあなたを殺さなくてはいけないのに!」

エリュの泣き叫ぶ声が響く中、リセアは優しく微笑んだ。

「それでも、私はあなたを信じています。だから...私を信じてください。」

エリュは涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。

そして震える声で答える。

「やっぱり...殺せない!」

その言葉と共に、エリュの魔力が消え、彼女の体が力なく倒れた。

「ぐっ...」

リセアが駆け寄り彼女を支えようとした瞬間、エリュは胸を押さえ苦しみ始める。

「エリュさん!」

しかし、次の瞬間、冷たい声がその場に響いた。

「そこまでだ。」

声の主は、エリュの祖父であるラグナだった。

彼は堂々とした佇まいで現れ、その目にはリセアたちを見下ろす冷徹さが宿っていた。

「この状況を終わらせる必要がある。」

ラグナは手を掲げると、周囲の空間が歪むような感覚が走る。

その威圧感にリセアもカルも身構えた。

「まさか、こんな形で現れるとは...!」

リセアが覚悟を決めた瞬間、ラグナと彼女の間で新たな魔術戦が始まろうとしていた。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.16 )
日時: 2025/02/24 23:48
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第三十章

冷たい風が吹き荒れる夜、廃工場の鉄錆びた柱を背に、リセアたちは前に立つ人物を見据えていた。

その人物は、彼女たちにとって予期しない存在だった。

「……あなた、何を?」

リセアは冷徹な声で問いかけた。

彼女の前に立つのは、エリュの祖父であるラグナ。

だが、以前の面影はもうどこにもなかった。

目の前に立つ彼は、まるで魔術の異常な力に取り憑かれたかのように、暗黒の気配を放っている。

「フフフ、リセアか。貴様がここに来るとはな。」

ラグナは淡々とした口調で答え、両手を広げた。

「今度こそ、この世界を変えてみせる!!」

エリュは震えながら、リセアに向かって口を開いた。

「……あんな人じゃなかったのに...」

その言葉には痛みが込められている。

「そんなことは関係ない。私たちは止めなければなりません」

リセアが鋭く言ったその瞬間、戦いの火蓋が切られた。

セイバーが剣を構え、カルはすでにアサシンの姿に変わり、影の中へと消えた。

「行きましょう、エリュ。」

リセアの言葉に応じて、エリュは魔力を集中させ、空間を切り裂くような一撃を放った。

だが、ラグナはその攻撃を悠然とかわし、逆に魔術の力を放ってきた。

エリュの攻撃はそのまま反射され、彼女の体は吹き飛ばされる。

「マスター!」

ライダーが声を上げ、急いでエリュのもとに駆け寄るが、エリュはそのまま地面に倒れ込む。

ライダーの目にわずかな焦燥の色が浮かんだ。

「もうだめ……!」

エリュは息も絶え絶えに呟く。

「私の魔力、保たない……」

「待っててください、エリュ!」

リセアは走り寄り、ラグナに向かって鋭い魔力を放った。

その力は彼女が持つ正体不明の魔術の力によって、ラグナの周囲の空間を歪め、直接彼の心臓に迫る。

だが、ラグナは微動だにせず、その攻撃を無効化するように手を振った。

「愚かな……貴様では我が力に届かん。」

リセアの身体は、魔術の衝撃により宙を舞い、廃工場の壁に激しく打ちつけられた。

意識を失った彼女は、そのまま地面に倒れ込む。

「リセア!」

セイバーが叫び、すぐに彼女の元に駆け寄るが、意識は戻らない。

カルは彼女を抱きかかえながら、顔を真っ青にして言った。

「どうして、こんなことに……!」

だが、その時、突然工場の扉が開き、凛が現れた。

「遅くなったわね!」

凛は手に持ったガトリングを乱射し、その音と共にラグナを捕えた。

弾丸は無数に彼の体に命中し、ラグナはその場で膝をついて倒れる。

「エリュ、動ける?」

凛がすぐにエリュの元に駆け寄り、魔力で彼女を回復させる。

その手は光り輝き、エリュの体力が少しずつ回復していった。

その瞬間、カルがリセアに駆け寄り、口元に息を吹きかけた。人工呼吸だ。

「リセア……しっかりしろ。」

数分後、リセアの瞳がゆっくりと開かれ、意識が戻った。

カルの顔が目の前にあり、思わず顔を赤らめてしまう。

「カ……カル?」

「う、うん、なんでもない。」

カルは顔を赤らめ、すぐに目を背けた。

リセアはその後ろで少し照れたように顔を赤くした。

「う、うぅ……! どうしてそんなに自然にできるんですか……?」

「これは、恋人同士がするもので……!?」

「リ、リセアが無事だったから。」

カルはしどろもどろになりながら、視線を落とした。

その後、戦いは終息し、ラグナは倒れた。

凛は冷静に言った。

「これで、やっと終わりだわ。」

その後、リセア、カル、エリュ、ライダー、凛は一緒に帰ることになった。

家に帰ると、しばらくの間は静かな時間が流れた。

リセアはカルと並んで座り、思わず顔を赤らめながら言った。

「本当に、びっくりしたわね。」

「うん、君が無事でよかった。」

カルはリセアの手を握りしめ、微笑んだ。

その後、リエリュとライダーはリセアと凛の家で共に暮すことになる。

少しずつ、絆を深めていく彼らの未来が、穏やかに広がっていくのだった。


三十一章

深夜。静寂に包まれた館の中、湯気が立ち込める浴室の中で、カルは目を閉じ、湯に浸かっている。

その時、浴室の扉が静かに開く音がした。

「えっ……?」

カルが目を見開いて振り返ると、そこにはリセアの姿があった。

「リセア……?」

カルは慌てて体をかばうように、背を向ける。

顔が真っ赤に染まる。「え、えっと、どうしたんだ?」

リセアも驚いた様子で立ち止まる。

その顔もまた、真っ赤になっていた。

「あ、あの、すみません、驚かせてしまって……。実は、あの……」

リセアは少しもじもじしながら言葉を探すように言葉を続けた。

「あっ、あの時、礼をしようかと、思って……」

カルはしばらく黙っていた。

リセアが来る理由が、まさかそんなことだとは思っていなかったからだ。

「し、しないでいいから……!」

カルが慌ててそう言った瞬間、リセアはさらに顔を赤くし、急いで言い訳を始める。

「いや、だって、あの、背中を流してあげることで、礼に……」

「背中を流すって……」

カルがもう一度顔を赤くしながら言うと、リセアも目をそらす。

『……近すぎる。離れてくれ、頼むからっ!』

「で、でも、あの……リセア、胸が、背中に、あたってるけど……?」

カルが言うと、リセアの顔がさらに赤くなり、今度は小さく震えた声で言った。

「あっ、わ、わわっ、そんな……こんなこと、うっかり……!」

「...な、なかったことにしてくださいっ本当に、すみません!」

リセアの顔はまさに紅潮しており、口をつぐんでいるカルの前に、どこか遠くを見るように目をそらす。

「い、いや、べ、別に恥ずかしがらなくてもいいのに……」

「……そ、それは、変です!」

リセアがうつむきながらも、またしばらく沈黙が続いた。

カルはその間、何とも言えない気持ちになりながら、今度はリセアが慌てて湯を使う音が響き始める。

「……じゃあ、背中を流してもらっていい、のか?」

カルが少し照れくさそうに言うと、リセアが顔を上げて真剣な表情で答える。

「も、もちろんです。あの、私、ちゃんと流しますので」

リセアが湯を使って準備を整えた後、慎重にカルの背中に手を伸ばした。

その時、カルはうっすらと目を閉じて、リセアの手のひらが背中を撫でる感触を感じ取った。

心臓の鼓動が早くなり、顔がさらに赤くなる。

「うん……、あ、ありが……」

「ん……、あ、あの、カル、気持ちいいですか?」

リセアが何度か背中を撫でながら聞く。

その声は、今までになく真剣で、少しだけ震えていた。

カルはすこし動揺しつつも、リセアの声を聞き、しばらく黙ってから答えた。

「……うん、ありがとう、リセア」

リセアが真剣に背中を流しながら、無言でそっと頷いた。

それからしばらく、二人の間に微妙な空気が流れた。

カルはおそらく、リセアの手のひらの感触に緊張を覚えていたが、リセアも同じように感じているのだろうか。

その後、リセアはすっと背中を撫で終え、少し離れて言った。

「……あの、ありがとうございました、カル」

カルは顔を赤くしながら、無理に表情を平静に保ちながら答える。

「いえ、こちらこそ」

リセアは手を小さく振り、言葉を続けた。

「それじゃ、そろそろ時間ですし、私は戻りますね……」

カルはその瞬間、ほんの少し名残惜しそうに目を向けた。

「うん、ありがとう」

その後、リセアがそっと浴室を出て行くと、カルは再び湯に浸かり、少しだけ心の中で溜め息をついた。

「……リセア、君って本当に、可愛いな」

そして、その言葉は誰に聞かれることもなく、静かに浴室の中に消えていった。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.17 )
日時: 2025/02/24 23:50
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


三十二章

冬木市への旅が決まったのは、凛の何気ない一言からだった。

「リセア、ちょっと休暇を取ろうと思うのよ。せっかくだから日本、冬木に行きましょう。」

彼女は珍しく少し微笑んで、続けた。

「それに……寄りたいところもあるしね。」

突然の提案に驚きつつも、リセアは頷いた。

凛が日本に行く理由は詳しく語られなかったが、どこか懐かしむような様子があった。

旅行の話はすぐに仲間たちにも伝わり、セイバーやアサシンをはじめ、カルやライダーも同行することに。

エリュは少し不安そうだったが、凛に説得されて渋々頷いた。

「大人数の方が賑やかで楽しいでしょう?」

凛の言葉に、リセアは微笑みながら同意した。

翌日――

午前12時頃、一行は冬木市に到着した。

ロンドンの喧騒とは異なり、穏やかな雰囲気が漂うこの街に、リセアはどこか懐かしさを感じた。

「いいところですね、落ち着きます。」

リセアの言葉に、カルも頷いた。

「確かに。君が育った場所に近い感じがするのかな?」

リセアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

「...分かりません記憶がないですから。」

その後、一行は凛が手配した旅館に向かった。

そこは広々とした和風建築の旅館で、温泉が名物だという。

「せっかくだから、みんなで温泉に入りましょう。」

凛の提案に、全員が同意した。

温泉に浸かるリセアたち。

女性陣の会話は自然と和やかな雰囲気になった。

「リセア、あなたって本当にスタイルいいわよね。」

凛が感心したように言い、セイバーとエリュも頷く。

「そ、そんなことないですよ……」

リセアは少し赤面しながら否定するが、アサシンが笑顔で肩をすくめた。

「いえ、リセアさんと私は目立ちますから。羨ましいと思うのも無理ありません。」

「そ、そんなことは――っ」

「全く、その幸運を分けてほしいわね。」

凛が冗談めかしてため息をつくと、セイバーも真剣な顔で頷いた。

「確かに、大きさには悩まされます。私の場合は戦闘の邪魔になりますが……」

その会話に、エリュは苦笑しながら耳を傾けていた。

一方、男性陣は穏やかに湯船に浸かりながら、世間話に花を咲かせていた。

「それにしても、リセアたちは本当に楽しそうですね。」

カルが話しかけると、ライダーが静かに笑った。

「....そうっすね。あっちの会話は、きっと賑やかで愉快だと思うっす。」

カルは少し遠くを見つめながら言った。

「リセアには笑顔でいてほしいんだ。それが僕の願いだよ。」

ライダーはその言葉に、やや驚いたような表情を浮かべたが、特に言及せずに静かに頷いた。


三十二章

旅館の一日は、心地よい疲労感とともに終わりを迎えた。

リセア、カル、アサシン、エリュ、そしてライダーの五人は、用意された広間に敷かれたふかふかの布団に身を沈めた。

それぞれの場所で、楽しさと安堵感に包まれながら眠りにつこうとしていた。

「今日もいろいろとありましたね。」

リセアは小さく息をつきながら、隣のカルに声をかけた。

「そうだな。君が浴衣を着ていたとき、あまりに似合っていて少し驚いた。」

カルは微笑みながら答える。

「お、お世辞は不要ですカル。」

リセアは薄く笑い返したものの、頬を少し赤く染めた。

アサシンとエリュも軽く笑みを浮かべ、各々の会話が弾む中、部屋は徐々に静けさを取り戻していく。

小さな灯りが消され、月明かりが障子越しに差し込む頃には、全員が布団の中でそれぞれの夢を見始めていた。

数分後――

リセアは目を閉じながらも、完全に眠りにつくことができなかった。

隣ではみんなが穏やかな寝息を立てている。

しかし、広間の隅から微かに聞こえる声に気づいた。

「あの時は本当に、どうしようもない状況だったわね。」

その声は遠坂凛のものだ。

彼女は旅館の部屋の一角で、セイバーと静かに話していた。

「はい。ですが、シロウがあの判断をしていなければ、結果はもっと悲惨だったでしょう。」

セイバーの落ち着いた声がそれに応える。

リセアは布団を少しだけ引き寄せ、音を立てないよう耳を傾けた。

「第五次聖杯戦争…懐かしいわね。」

凛は微かに笑いながら、記憶の奥底を掘り起こすように話を続けた。

「アーチャーとの出会いもそうだし…士郎とのあの言い争いも。セイバー、あなたが戦いの中で見せた姿は、今でも鮮明に覚えているわ。」

「凛…過ぎたことを懐かしむのは、時に痛みを伴います。ですが、こうして今を生きていることが重要なのではないでしょうか。」

セイバーの声には微かな感傷が混じっていた。

「そうね…けれど、あの聖杯戦争を生き延びたおかげで、今こうしてリセアと過ごせているのも事実だもの。」

凛の言葉に、リセアの胸が少しだけ温かくなった。

彼女は凛とセイバーの会話が続く中、自分が生まれる前の戦いの片鱗を感じ取る。

どれほどの困難があったのか、そして凛がどれだけの想いを抱えてここに至ったのか、想像もつかない。

「セイバー、あなた......士郎に会いたい?」

少し間があったが、セイバーは答えた。「会いたくない.....と言えば嘘になります」

「ですが...今はまだいいです、いつか....その時が来たらで」

リセアは再び目を閉じ、凛とセイバーの会話が夢の中に溶け込んでいくのを感じた。


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