二次創作小説(新・総合)

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Fate/Azure Sanctum
日時: 2025/02/10 13:57
名前: きのこ (ID: DnOynx61)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14070


〜注意書き〜
・一応、二次創作です。
・コメント投稿等は一切お断りします。
・オリキャラが複数人登場します。
・不快にさせる表現がある可能性があります。
・原作と違う点があるかもしれません。

小説を書くことには慣れていない初心者です。
多めに甘くみてくださいお願いします。

Re: Fate/Azure Sanctum ( No.38 )
日時: 2025/03/08 11:33
名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


番外編①

エリュは、常に冷静で無口な少女だった。

表情を大きく変えることはなく、誰に対しても一定の距離を保つ。

無愛想に見えるその態度は、彼女の内に秘められた慎重さと、決して他者に踏み込ませまいとする防壁の表れだった。

しかし、そんな彼女の心の奥には、ある一つの感情が芽生え始めていた。

彼女のサーヴァントであるライダー。

──彼と共に過ごす時間が増えるにつれ、エリュは次第に自身の感情に違和感を覚えるようになった。

『なぜ、こんなにもライダーのことを考えてしまうのだろう……』

戦闘中、彼の背中を見つめるたび、心が穏やかになる。

彼の声を聞くたび、緊張が和らぐ。

そして、彼が傷を負った時には、普段なら決して乱さない冷静さが揺らぎそうになる。

『私は……彼をサーヴァントとして必要としているだけ……そのはず……』

そう自分に言い聞かせる。

しかし、心の奥底では、その感情が単なる「必要性」ではないことに、彼女自身が気付き始めていた。

エリュは、その思いを必死に押し殺していた。

ライダーは彼女にとって、単なるサーヴァントであるべきなのだ。

だが、それ以上の何かを求めてしまいそうになる。

しかし、それを口にすることはできない。

ライダーは彼女のサーヴァントであり、彼が戦う理由は、彼女の命令に従うことにすぎない。

それは契約であり、彼の存在意義そのものだった。

しかし、彼が戦場で彼女の名を呼び、傷つきながらも守る姿を見るたびに、彼女の胸の奥に奇妙な感情が広がっていく。

『もし、彼が私の命令ではなく、自らの意思で傍にいるのだとしたら……』

その考えは、一瞬の夢想にすぎないはずだった。

しかし、彼の視線が向けられるたび、その思いは消えるどころか、より強くなっていく。

『ありえない……そんなこと、あ、ありえない……』

エリュはそっと目を閉じ、胸の内に芽生えた感情を押し殺す。

サーヴァントとマスター。

それ以上の関係は望んではならない。

それが彼女の理性であり、魔術師としての在り方だった。

『この想いは、錯覚……そう、ただの錯覚......』

そう繰り返し自らに言い聞かせながらも、彼女の視線は無意識のうちにライダーへと吸い寄せられる。

まるで、彼がそこにいることを確かめるかのように。

ライダーは、自らのマスターであるエリュを一歩引いた視点で見守っていた。

彼女は冷静で聡明だが、どこか人との距離を置くような雰囲気を纏っていた。

彼女が無表情で指示を出す姿を見て、多くの者は彼女を冷酷だと評するかもしれない。

だが、ライダーには分かっていた。

彼女の内には、他者を想う強い優しさが存在していることを。

『エリュは、不器用なだけだな』

戦場で共に過ごすうちに、ライダーは彼女が本当は誰よりも仲間を想っていることに気づいた。

自らの身を顧みずに仲間を救おうとする姿勢。

それが彼女の優しさの証拠だった。

それでも、彼女は決して自らの想いを口にしない。

ライダーには、それがもどかしくもあり、同時に彼女らしいとも感じていた。

『マスターはもっと、自分に素直になってもいいっすけど...』

彼はエリュのことを「良きマスター」として見ていた。

だが、それだけではない。

彼女の成長を見守り、時には支え、時には背中を押す存在でありたいと思っていた。

ライダーは静かに彼女の横顔を見つめる。

『何を考えていようと、俺は変わらない。最後までマスターのサーヴァントだ』

エリュがどんな道を選ぼうとも、彼はただ、その隣にいる。

それが彼の役割であり、彼が選んだ道なのだから。


番外編②

ロンドンの冬は厳しい。

凛は腕を組みながら、窓の外に舞う雪を眺めていた。

「寒いわね……」

暖炉の火は十分に燃えているのに、彼女の心にはどこか冷たさが残る。

「凛さん、お茶を淹れました。冷え込んできましたし、温まってください」

そう言いながら、リセアが紅茶の入ったカップを慎重に両手で運び、そっと凛の前に差し出した。

白い湯気が静かに立ち上り、室内の暖かな空気に溶け込んでいく。

「ありがとう」

凛は微笑みながらカップを受け取った。

その手はひんやりとしていて、指先が少し震えていた。

「リセアも座ったら?」

リセアは静かに頷き、凛の隣に腰を下ろした。

彼女の黒髪がふわりと揺れ、暖炉の炎がその蒼い瞳に映り込んで揺らめく。

ふと、凛はリセアの手を取った。

その指先は驚くほど温かく、しなやかだった。

「ねぇ、リセア。あなたって、不思議な子よね」

凛は穏やかな声で呟く。

「あなたが私の養子になった時から、まるでずっと前から一緒にいたような気がしてならないの」

リセアは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。

「そうでしょうか? 私は……ただ、凛さんに拾っていただいて、それだけで幸せです」

「……そういうところよ」

凛は目を細める。

「あなた、時々驚くほど大人びているのに、時々信じられないほど子供っぽい」

リセアは少し困ったように笑い、視線をそらす。

「り、凛さんが、母親のようにしてくれるから……かもしれません」

凛の瞳がかすかに揺れた。

「母親……ね」

その言葉は思いのほか胸に響いた。

「まぁ、確かにね。年の差はそこまでないのに、何だか私はあなたを子供扱いしちゃうわ」

リセアはそっと肩をすくめ、小さく息を吐く。

「私も、凛さんにはつい甘えてしまいます。すみません……」

「謝らなくていいわよ。むしろ、もっと頼ってくれたら嬉しいくらい」

リセアは伏し目がちに頷いた。

その仕草には、どこか頼りなさと不安が混じっていた。

「……リセア」

「はい?」

「あなたがここにいること、それがどれほど私にとって大事なことか、分かってる?」

リセアは驚いたように凛を見つめた。

その蒼い瞳が僅かに揺れる。

「私ね、時々考えるの。もしあなたを拾わなかったら、私はどうなっていたんだろうって」

「……」

「あなたがここにいてくれるだけで、私は救われているの。だから……あなたも、私を頼って。どんなに辛いことがあっても、私はずっとあなたの味方だから」

リセアの瞳が揺らぎ、その唇がかすかに震えた。

言葉にならない感情が胸の奥から溢れそうになっている。

「……凛さん……」

気がつけば、リセアの頬を大粒の涙が伝っていた。

「ありがとうございます……」

震える声とともに、彼女は凛の胸に飛び込んだ。

凛は驚きながらも、優しくリセアの背を撫でる。

「泣いていいのよ。辛かったでしょう?」

リセアの肩が震え、静かに嗚咽がこぼれる。

彼女がこれまで背負ってきた孤独や苦しみを思うと、凛の胸が締めつけられるようだった。

「大丈夫よ、私はここにいるから」

リセアは何度も頷いた。

その涙は、ようやく彼女が許された弱さの証だった。

外では、冷たい雪が静かに降り続いている。

けれど、暖炉の前には、確かな温もりがあった。



Re: Fate/Azure Sanctum ( No.39 )
日時: 2025/03/08 11:38
名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)


番外編③

地下牢の石壁に囲まれた薄暗い部屋。

灯りはなく、湿気と鉄錆びの匂いが充満している。

その部屋の中央、鎖に繋がれた少女がいた。

白刃 朔夜

――彼女は一族によって囚われていた。

理由は思い出せない。

ただ、気づいた時にはここにいた。

食事は最低限、衣服は粗末なものだけが与えられ、寒さと飢えに耐える日々。

唯一の救いは、少しずつでも時間が過ぎていることだけだった。

彼女は十三歳になっていた。

そして、その日。

扉が軋む音とともに、二人の男が現れた。

「久しぶりだな、朔夜」

その男の笑みには、愛情の欠片もなかった。

朔夜の背筋に冷たい恐怖が走る。

「……何ですか?」

喉が乾いていて、声がかすれる。

男が無造作に小瓶を取り出す。

淡い青色の液体が揺れ、硝子の反射が一瞬だけ牢の中を照らした。

「薬だよ。お前のために用意した」

「……い、要りません」拒絶しようとする。

しかし、首を掴まれ、無理やり瓶の中身を流し込まれた。

「ん……っ!!」

喉を焼くような熱さが広がる。

身体が異様に熱くなり、頭がぼんやりとする。

視界が揺れ、力が入らなくなっていく。

「ふふ、効いてきたな」

男の言葉が遠く聞こえる。

「やめっ……近寄らないで……」

抵抗しようとしても、身体は思うように動かない。

手足に力が入らず、膝をついてしまう。

「…口答えしてんじゃねぇぞ!俺らの奴隷の分際で!」

「……っ、は……ぁ……!」

彼女の白い肌に、はっきりと血が滴る。

「……っ、やめ……て……!」

リセアは抵抗する間も無く男たちに暴行を受けていた。

男たちは嗜虐的な笑みを浮かべて、何度も彼女の肌を打ち続ける。

「……ぁ…」

リセアは声を殺すのがやっとだった。

「おら、抵抗すんな!」

「ぎゃはははっ!」

乾いた音が響き渡る。

何度も殴られ、蹴られるたび、身体中が痛む。

痛みで意識が飛びそうになるが、それを許してはもらえなかった。

「おい、起きろ!」

頭を蹴られ、衝撃で意識が戻る。

「あぐっ……」

涙で視界が霞む。

——その先に、救いはあるのだろうか。



番外編④

藤丸立香は、カルデアの召喚システムに異常が発生していることを察知し、慌ただしくコントロールルームに駆け込んだ。

そこにはすでにマシュとロマニが集まり、モニターには強烈な光を放つ召喚陣が映し出されていた。

「先輩!召喚システムが勝手に起動しています!」

「何か不具合か?」

ロマニが額に手を当て、困惑の表情を浮かべながら答えた。

「いや、不具合っていうか……通常の召喚システムじゃありえない魔力量が計測されてるんだよね……こんなの、英霊の枠を超えてるんじゃないかな?」

「そんなことあるのか……?」

立香が眉をひそめたその瞬間、召喚陣から爆発的な光が溢れ出し、その場にいた全員が思わず目を覆った。

次に視界が晴れた時、そこに立っていたのは一人の少女だった。

黒髪、蒼眼、整った顔立ち。

明らかに英霊として召喚されたはずの彼女の服装は、どこか現代的であった。

しかし、その魔力の波動は異常なほど高く、場にいる者すべてが直感的に「ただのサーヴァントではない」と感じた。

「……こ、ここは…?」

少女が混乱した様子で辺りを見回し、落ち着いた声で問いかけた。

「……カルデア?」

「えっと……君は、いったい?」

立香が恐る恐る問いかけると、少女はふっと視線を下げ、自己紹介をするかのように言葉を紡ぐ。

「…遠坂リセア……です」

「遠坂……?」

マシュが驚いた声を漏らす。

「遠坂って、もしかして……あの遠坂家と関係が?」

「……はい、私の養母が遠坂凛さんです」

「養母?」

ロマニが首をかしげる。

「それに、君の魔力……尋常じゃない。ちょっと待って、確認させて……」

ロマニが端末を操作すると、彼の表情が一変する。

「うそだろ……これ、魔術回路の質がA、量がEX+……って、そんな数値、英霊ですら見たことがないんだけど!?」

「えええ!?す、すごいですね!」

マシュも驚愕の表情を浮かべた。

立香は混乱しながらも、リセアに向き直った。

「それにしても、君はどう召喚に応じたんだ?何か召喚の記憶とかある?」

「……い、いえ、気がついたらここにいました…」

リセアは自分の胸にそっと手を当て、困惑した表情を浮かべた。

「とりあえず、もう少し詳しく検査させてもらっていいかな?」

「……はい。お願いします」

リセアが頷いたその瞬間

──リセアの身体が突如として輝きを帯び、彼女の姿が変わっていく。

そして、そこにいたのは、圧倒的な威厳を持つ存在。

「拙が……呼ばれたか……」

その声は先ほどまでのリセアのものとは異なり、古風で、神秘に満ちていた。

「……え?リ、リセア……さん?」

マシュが戸惑いながら問いかける。

「…いや、待て待て……もしかして君、二重人格か?」

ロマニが驚愕しながら言葉を継ぐ。

「ふむリセアの内に宿りし神霊、拙の名は天照大神……。しかし、拙が今こうしてあるのは、リセアという存在あってこそ……。拙は彼女の一部であり、ただの人ならぬもの」

「天照大神!?え、えええええ!?」

驚愕する立香とマシュ。

ロマニは思わず頭を抱えた。

「……嘘でしょ、英霊召喚したら神霊が来ちゃったってこと?」

「いや、それ以前に……リセアさんの体に天照大神が宿っている……?」

天照となったリセアは、穏やかに微笑みながら答える。

「拙にもわからぬ。しかし、拙はここにいる……それが答えであろう」

立香たちは顔を見合わせた。

これは、ただのサーヴァント召喚ではない。

とんでもないものを召喚してしまったのではないか——。

「……すみません、いきなりご迷惑をおかけしました」

立香は慌てて手を伸ばし、リセアの肩を支えた。

「いやいや、こっちこそ驚いたよ!まさか英霊召喚で神霊まで来るとは……」

マシュもまだ戸惑いが残る表情でリセアを見つめていた。

「先輩……これは本当に前例のない事態ですね」

ロマニは額を押さえながら、モニターを確認し続ける。

「いや、英霊に神霊が宿るケースは今までにもあったけど、完全に顕現しちゃうのは滅多にない……ていうか、天照大神っていうのがすでに規格外なんだよね……」

リセアは少しだけ視線を落とし、複雑な表情を浮かべた。

「……自分でも、よくわかりません。ですが、確かに私は天照大神の一部でありながら、リセアという存在でもある……その感覚ははっきりとあります」

「なるほどね……でも、どうする? ここはカルデアだから、基本的にはサーヴァントとして扱われることになるけど……」

立香が慎重に言葉を選びながら問うと、リセアは少し考えてから静かに頷いた。

「……ここでできることがあるのなら、力を貸します。ですが、私がどこまで役に立てるのかは……」

「いやいや!むしろ力を借りたいくらいだよ!」

立香は笑いながらリセアの手を取った。

「でも、体調とか無理しないでね?いきなりこんなことになったし、まずはしっかり休んでからでもいいんだし」

「……あ、ありがとうございます」

リセアは微かに微笑みながら、立香の手の温かさを感じていた。

ロマニがふと腕を組みながら口を開いた。

「うーん、ひとまずリセアさんを解析するのは後にして、まずはカルデアでの環境に慣れてもらうのが優先かな。とりあえず個室を用意するし、少し休んでから改めて話そうか」

マシュも小さく頷く。

「はい、リセアさんが無理なく過ごせるように、私たちもお手伝いします!」

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

そうして、異例の召喚によってカルデアに現れたリセアは、新たな世界へと足を踏み入れたのだった。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.40 )
日時: 2025/03/08 11:48
名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)


番外編⑤

部屋の中は、ありえない光景に包まれていた。

リセアがテレビのリモコンを手に取ったとき、何の因果か、突如として画面に映し出されたのは極めて不適切な映像だった。

「こ、こんなの…見ちゃいけません…!」

リセアは顔を真っ赤にしながら、慌ててリモコンの電源ボタンを押す。

しかし、画面は一向に消えない。

それどころか、音声までクリアに響き渡る。

「う、うわぁ…ちょっと待ってくれ…」

カルはリセア以上に動揺し、目を覆いながらもチラチラと画面を盗み見していた。

汗が額を伝い、明らかに普段の冷静さを失っている。

「こ、これは不適切…」

エリュは表情こそ変えないものの、顔を背けつつ、片手で銀色の目を覆う。

リセア同様にリモコンを操作しようとするが、画面はまるで意志を持っているかのように、なおも映像を流し続けている。

静寂と混乱が交錯する部屋の中、三人はそれぞれに対応策を模索していた。

「なんで、消えないんですか…っ!? これは何かの呪いですか?」

リセアは必死にリモコンを連打するが、画面の内容はますます過激さを増していくばかりだった。

「違う…違うと思うが…いや、でも…!」

カルは頭を押さえながら、何度も首を振る。

「リ、リセアもう一度やって…」

エリュの助言に、リセアは再度ボタンを押す。

だが、結果は同じだった。

「だめです…どうすればいいですかっ…?」

「……!」

エリュは静かに立ち上がると、無言でコンセントに手を伸ばす。

「そうです! それを抜けば――」

リセアが安堵の表情を浮かべた瞬間、エリュの指がコンセントに触れた。

パチン。

――瞬間、部屋の明かりが一瞬だけ点滅し、同時にテレビの画面がようやく沈黙した。

エリュは無言で座り込むと、再び目を覆う。

「………」

リセアとカルは、顔を見合わせた後、深くため息を吐いた。

三人はそれぞれ気持ちを落ち着けると、ようやく言葉を交わし始めた。



番外編⑥

「よーし、決まり!負けた人は罰ゲームね!」

凛の提案により、暇つぶしのトランプが始まった。

罰ゲームの内容はまだ決まっていないが、とりあえず負けた人が決められるということで、リセア、セイバー、カル、エリュも渋々ながら参加することに。

「私はあまりこういう遊びに慣れていませんが……まあ、いいでしょう。」

セイバーが静かにカードを手に取り、ゲームがスタートした。

リセアは頭脳を駆使し、最速であがることに成功する。

数分後、セイバーとエリュがほぼ同時にあがり、残るはカルと凛の一騎打ちとなった。

「フフ、カル、あなたが負ける気しかしないわね。」

「そ、そうかな?君こそ、詰んでるんじゃないか?」

白熱する戦いの末、カルが最後のカードを引いてしまい——

「負けた……。」

「やった!カルの負けね!」

凛が満面の笑みで罰ゲームの内容を決める。

「そうね……カルには女装してもらいましょう!」

「は!?そんなことできるわけ——」

「できるわよ。ルールはルールだもの。」

「……くそっ。」

渋々ながらも、カルは罰ゲームを受け入れた。

数分後、

「……おい、なんだこの格好は。」

カルはフリル付きのワンピースを着せられ、ウィッグまで装着されていた。

普段の端正な顔立ちも相まって、驚くほどよく似合ってしまっている。

「……。」

リセアは静かにカルを見つめ、そして発情した。

『これは……まずい……落ち着かないと……。』

彼女の頬はじわじわと赤く染まっていく。

「……なるほど。意外と違和感がありませんね。」

セイバーは冷静にカルの女装姿を観察している。

「まさか……こんなに似合うなんて……。」

凛も目を丸くしてカルの姿をじっくりと眺めていた。

一方、エリュは何も言わずに呆然と立ち尽くしていた。

「……。」

『な、何を見せられて……?』

エリュの思考が停止している間にも、リセアの視線はカルに釘付けになっていた。

「……もう脱いでいいか?」

「ダメよ、もうちょっと見せなさい。」

「……くっ。」

罰ゲームを超えた何かがそこにはあった。

その後、カルはようやく服を着替えることが許されたが、その場の空気は妙なものになっていた。

「……カル、似合ってましたね。」

セイバーがぽつりと呟く。

「……そうね、認めざるを得ないわ。」

凛も何やら複雑な表情をしている。

「……忘れてくれ。」

カルは顔を覆い、静かにその場を去ろうとした。

「でも……また機会があれば……見てみたい……かもしれません……。」

リセアの小さな声は、誰にも聞こえなかった

——いや、カル以外には。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.41 )
日時: 2025/03/08 11:55
名前: きのこ (ID: DTTuuvtM)


番外編⑦

時計塔の廊下を歩いていたリセアは、ふと人気のない教室から何か話し声がするのに気づいた。

何気なく視線を向けると、わずかに開いた扉の隙間から、エリュが見知らぬ男に絡まれているのが見えた。

リセアの眉がぴくりと動く。

『……何をして……?』

冷静に状況を把握しつつも、胸の奥に不快感が広がる。

エリュは無表情ながらも、その銀色の瞳には僅かな警戒が宿っていた。

しかし、相手の男は構わず言葉を続けている。

「君、可愛いねぇ。そんなにツンケンしなくてもいいじゃないか。せっかくのご縁だし、食事にでも行こうよ?」

「……不要」

「そんなこと言わずにさ、せっかくだから仲良くしようよ」

エリュの冷たい拒絶にもかかわらず、男はしつこく距離を詰めようとする。

その様子にリセアの中の警戒心が完全に怒りへと変わった。

『そういえば、さっき凛さんが言っていましたね……臨時で入ったアーベルという講師が女癖が悪い、と』

その名前を思い出し、リセアは小さく息を吐いた。

まさか早速問題を起こすとは。

リセアは静かに教室へと足を踏み入れた。

「……エリュ、大丈夫ですか?」

その一言に、エリュは僅かに表情を緩めた。

リセアが来たことで、彼女が少し安心したのがわかる。

しかし、アーベルは邪魔が入ったことが気に食わないのか、面倒そうにリセアを見た。

「なんだい君は? 彼女の友達か? いや、彼氏とか?」

「遠坂リセアです…いや……そんなことはどうでもいいです。それよりも、その子にこれ以上絡むのはやめてもらえませんか?」

リセアはにこりともせず、低い声で言った。

しかし、アーベルは鼻で笑い、手を振る。

「なに、君も一緒にどうだい? 綺麗な子が二人もいるなんて、こんなチャンスは滅多にないしね」

リセアの表情がさらに冷たくなる。

やはり話が通じる相手ではなさそうだ。

「……仕方ありませんね」

リセアは静かに魔力を練ると、瞬時にアーベルの意識を刈り取った。

「……っ!?」

アーベルの体がふらりと揺れ、そのまま床に倒れ込んだ。

エリュはそんなリセアのやり方に特に驚いた様子もなく、淡々と彼を見下ろした。

「……殺った?」

「いいえ、ただ気絶させただけです」

リセアは冷静に言うと、アーベルの体を足で転がし、動かないことを確認した。

「エリュ、誰か呼んできてもらえますか? カルでも凛さんでも構いません」

「……わかった」

エリュは頷くと、静かに教室を後にした。

リセアはその場に残り、アーベルを見下ろしながら静かにため息をつく。

「……本当に、面倒な人ですね」

これからの対応を考えながら、リセアは教室の中でじっと待機するのだった。

エリュは廊下を進みながら、焦燥感を滲ませていた。

探しているのはカルか、それとも凛か。

どちらにせよ、合流しなければならない。

この異様な空気、何かが起こる予感が彼女を駆り立てていた。

一方で、リセアは空き教室で、気絶したアーベルを見張っていた。

長い戦闘の末、彼を倒したが、その不安は拭えなかった。

彼が目を覚ますかもしれない、それとも何か別の脅威が迫るかもしれない。

そんな思いが脳裏をよぎる。

突然、強烈なめまいがリセアを襲った。

目の前が揺れ、壁にもたれかかる。

虚数魔術の影響か、それとも疲労か。

彼女は軽く頭を振って意識を保とうとしたが、その瞬間——。

「……っ!」

アーベルが目を覚ましていた。

彼の手から放たれた魔術がリセアを直撃する。

両足と腕に痺れが走り、全く動かなくなった。

彼女の体は制御を失い、そのまま床に倒れ込む。

「ふふ……油断、したね……」

「……君には大人がどんなものか、調教してあげるよ」

アーベルの歪んだ笑みが視界の端に映る。

リセアの脳裏には、過去の忌まわしい記憶がよぎった。

あの絶望が、再び彼女の心を支配しようとしていた。

「いや……そんなの、もう……」

リセアはそう嘆いたがアーベルは聞く耳を持たなかった。

それどころかアーベルは撫でるようにリセアの頬に触れた。

その嫌悪感に背筋が凍りそうになる。

『ダメ……こんなところじゃ……』

「…ひゃっ!?」

突然アーベルはリセアの頬から胸へと、手を移した。

「や……やめ……」

「ほら、気持ちいいんだろ?素直に言えばいいのに…」

「ちっ…違います……っ!」

リセアの初めてはカルだ。

他の異性には、できれば触れられたくない。

それなのに――

そうだ…右腕だけは動く。

彼女は震える手で魔術を発動し、虚数の力を奔流のごとく放つ。

アーベルは防御する間もなく、強烈な魔術の波に飲み込まれ、意識を失った。

「……終わった……?」

力を使い果たし、リセアはその場に伏せる。

しかし、次の瞬間、誰かの足音が近づいてくる。

「リセア!」

駆けつけたのはカル、凛、エリュだった。

カルが真っ先にリセアの元に駆け寄り、彼女を抱き起こした。

「大丈夫か……!? ひどい顔してるぞ」

「……カル……」

リセアの意識は徐々に遠のいていく。

しかし、彼の温もりだけは、最後までしっかりと感じられていた。



番外編⑧

カルは寝ぼけていた。

ふと目を覚ました時、周囲の様子が違うことに気づくべきだった。

しかし、意識がはっきりしないまま、無意識に扉を開けた。

目の前には──

「……え?」

リセアがいた。

下着姿のまま、着替えの途中だった。

彼女は驚きに目を見開き、そしてすぐに顔を真っ赤に染めた。

黒髪が肩にかかり、蒼い瞳が一瞬揺れる。

「──っ!?」

カルの頭が一気に冴えた。

まずい。

これは、まずい。

「ま、待ってくれ! 違うんだ、俺はその、決して覗こうとしたわけじゃ──」

「……で、出ていってください…っ!」

リセアの声が弾けた。

咄嗟に投げられたクッションがカルの顔面に命中する。

「ぐっ──す、すまん!」

慌てて扉を閉め、カルは廊下へと飛び出した。

心臓が激しく鳴っている。

『やってしまった……』

彼は額に手を当て、深く息を吐いた。

数分後、リセアが部屋から出てきた。

彼女はすでにいつもの服装に着替えていたが、その頬はまだ赤いままだった。

目が合うと、微妙に視線をそらす。

「……カル」

「……すまん、本当に。故意じゃなかったんだ」

リセアは一瞬黙った後、そっとため息をついた。

「……わかってます。でも、びっくりしました」

「俺も驚いたよ。というか、心臓が止まるかと……」

苦笑しながら言うと、リセアも小さく笑った。

「……もう、気をつけてくださいね?」

「もちろん」

そして、不思議な沈黙が訪れる。

どこかぎこちない空気の中、お互いの距離が近く感じられる。

普段なら何でもない沈黙が、なぜか心地よく、しかし妙に意識させるものになっていた。

「……カル」

「ん?」

「……もう一度、謝ってもらえますか?」

リセアは少し視線を落としながら、小さく呟いた。

「……ちゃんと、顔を見て…ください」

カルは目を見開く。

それから、真剣に彼女の瞳を見つめた。

「……リセア、本当にごめん…」

リセアは一瞬、じっとカルの顔を見つめ──

そして、小さく微笑んだ。

「……はい、許します」

その表情が、あまりにも柔らかく、愛おしかった。

思わず、カルは目を逸らしそうになった。

しかし、リセアがそっと袖を掴んだことで、彼の動きは止まる。

「……カル?」

「……なんだ?」

リセアの頬が、先ほどよりもさらに紅く染まる。

「……なんでもないです。でも、ちょっとだけ、こうしていてもいいですか?」

カルは驚いた。

しかし、そのままゆっくりと頷いた。

「……ああ」

廊下の静寂の中、二人はただ寄り添うように立ち尽くしていた。


Re: Fate/Azure Sanctum ( No.42 )
日時: 2025/02/24 13:47
名前: きのこ (ID: eoqryhKH)

番外編⑨

「ねえ、やってみない?」

唐突に言い出したのは凛だった。

彼女の目は期待に満ちている。

「やりません」

即答したのはリセア。

隣で同じく気乗りしない表情を浮かべるエリュが小さく頷いた。

「私も…」

「ちょっと、いいじゃない。せっかく衣装も用意したんだし。ほら、セイバーはどう?」

「……私は別に構いませんが」

セイバーは淡々と答えた。

彼女には生前、男装の経験があるらしく、特に抵抗はないようだった。

むしろ、リセアとエリュが渋る中で涼しい顔をしている。

「ほら、セイバーもこう言ってるし!やるわよ!」

「……嫌、です」

リセアは頑なに首を振るが、凛の強引な説得と時折見せる表情に根負けし、最終的には渋々了承した。

「はぁ……やります、けど……」

「…私も付き合う……」

エリュも諦めたのか、観念したように肩をすくめた。

――そして、数十分後。

「……どう?」

男装したリセアとセイバーが、鏡の前に並んで立っていた。

リセアはシンプルな黒のシャツにジャケットを羽織り、スラックスを履いている。

髪はきっちりと後ろでまとめられ、まるで整った青年のような姿だった。

普段の女性らしい雰囲気が抑えられ、凛々しさが際立っている。

「…………」

一方、セイバーも似たような服装だったが、彼女の場合は元々の端正な顔立ちと合わさり、貴族の若き騎士のような雰囲気を醸し出している。

「うんうん!すごく似合ってるわ!」

満足げに頷く凛。

しかし、そんな中、一人だけ明らかに様子がおかしい者がいた。

――カルだった。

「……っ」

彼は、男装したリセアを見て、言葉を失っていた。

「ん?カル?」

「な、なんでもない……」

カルは視線をそらし、咳払いをした。

『……なにこれ、やばい……』

リセアの凛々しい姿を見て、思わず頬が熱くなるのを感じた。

リセアのはずなのに、目の前の“青年”に惚れかけている自分がいた。

いつものリセアとは違う、どこか儚げで、それでいて凛とした雰囲気。

強がるような表情もまた、見ていて心をくすぐる。

「……?」

リセアが不思議そうに首を傾げる。

普段の彼女なら気にも留めない仕草だったが、今はその仕草すらもやけに色っぽく感じてしまう。

『まずい……これはまずいぞ……』

「…あの、カル。顔赤くありませんか?」

セイバーが指摘すると、彼はますます狼狽えた。

「ち、違う!これは……その……」

しどろもどろになりながら、カルはなんとかごまかそうとするが、凛がニヤニヤとした笑みを浮かべる。

「あら~、もしかしてリセアに惚れ直しちゃった?」

「ちがっ……!」

「顔、真っ赤…」

エリュも呆れたようにぼそりと呟く。

「うるさい!」

カルは思わず叫んだ。

男装したリセアにときめいてしまった事実を、何としても認めたくなかった。

その後、凛の提案でリセアとセイバーの男装姿での演技練習が始まった。

「よし、リセア。あなたはエリュを口説く役ですね」

「……は?」

リセアは思わず目を瞬かせる。

「さあ、やるのよ!」

凛に強引に促され、リセアは戸惑いながらエリュの方へ向き直った。

「……えっと、その……」

リセアがぎこちなくエリュの手を取り、低い声で囁く。

「……君の瞳に、吸い込まれそうだ」

「…………」

沈黙。

次の瞬間、エリュが顔を真っ赤にしてリセアの手を振り払った。

「なっ……!?」

「ぷっ……!」

それを見ていたカルが思わず吹き出す。

「な、なんで笑うんですか!?」

「いや、だって……リセア、それは……!」

カストールは肩を震わせながら笑いを堪えきれない様子だった。

しかし、その笑いも長くは続かなかった。

「じゃあ次、カルね。アンタがリセアを口説く番よ」

「は!?いや、それは……」

「やりなさい!」

凛の冷たい一言により、彼は逃げ場を失った。

「……リセア、目を閉じて」

カストールは覚悟を決めたように、リセアの手を取った。

「え?」

「いいから……」

リセアがぎこちなく目を閉じる。

――そして、彼女の額にそっと唇が触れた。

「っ!?」

「お前は、どんな姿でも……俺のものだ」

静かに囁かれた言葉に、リセアは完全に固まった。

その後。

「カル、アンタなんでそんなに上手いのよ!!」

「……だ、黙れ」

カルの赤く染まった顔を見て、凛は大笑いするのだった。



番外編➉

夜の帳が下りた遠坂邸。

静寂の中、リセアは看病のために部屋へと入った。

寝台の上では、遠坂凛が深い眠りについている。

額には軽く汗が浮かび、呼吸も普段より浅い。

熱があるのは明らかだった。

傍らにはエリュがいたが、彼女もまた風邪に倒れていた。

元は凛が先に体調を崩し、その看病をしていたエリュにまで感染したのだ。

リセアは静かにため息をつく。

「……まったく、無理をしすぎるからです…」

そっと湿らせた布を凛の額にのせ、エリュの掛け布団を整える。

二人とも、彼女の気配に気づくこともなく、穏やかな眠りの中にいた。

リセアはもう一度、凛とエリュの様子を確認すると、そっと部屋を後にしようとした。

その時——

「……ライダー…」

微かな寝言。

エリュの唇から漏れたその名を聞いた瞬間、リセアの足が止まる。

胸が、ひどく締め付けられた。

ライダー。

かつて、エリュが最も信頼し、共に戦ったサーヴァント。

しかし、今はもういない。

彼は聖杯戦争の中で失われた。

——自分のせいで。

「……っ」

手が震える。

強く握りしめなければ、何かが崩れてしまいそうだった。

あの時、自分がもっと別の選択をしていたら。

あの時、彼を救うことができていたら。

考えても仕方のないことだと分かっている。

それでも、エリュの微かな寝言が、リセアの心を深く抉った。

静かに呼吸を整え、リセアはもう一度、エリュの顔を見つめる。

彼女の表情は穏やかだった。

もしかすると、夢の中でライダーに会っているのかもしれない。

「っ……ごめんなさい」

声にならない声で呟く。

届かないと分かっていても、それでも——。

リセアはそっとエリュの髪を撫でる。

今は、せめて安らかな眠りを——。

静かに部屋を後にし、ドアを閉める。

その足は、屋敷の廊下へと向かう。

暗がりの中、リセアは深く息をついた。

「……夜風に当たってきます」

誰に言うともなく呟くと、そっと玄関を開ける。

外には、冷たい夜風が吹き抜けていた。

庭の片隅に腰を下ろし、リセアは夜空を見上げる。

星々が瞬く静寂の中、遠くで木々が揺れる音が聞こえる。

「ライダーさん……」

ふと、呟いていた。

自分の声に驚き、唇を噛む。

今さら、何を言ったところで彼は戻ってこない。

そう分かっているのに、夜の静寂はリセアの心を無防備にした。

その時、不意に足音が聞こえた。

「……リセア?」

振り向くと、そこにはカルが立っていた。

彼もまた、眠れなかったのだろう。

「どうしたんだ? こんなところで」

「……少し、外の空気を吸いたくて」

カルは隣に腰を下ろし、しばし無言で夜空を眺める。

「……無理、しすぎるなよ」

不意に彼が呟く。

「君は、誰かのためにばかり気を張りすぎる」

「そんなこと……」

「あるさ」

静かに、しかし確かな声。

リセアは少しだけ目を伏せた。

「……ありがとうございます、カル」

彼の隣にいるだけで、少しだけ、心が軽くなる気がした。

夜の静寂の中、二人はしばらく、並んで星を眺めていた——。


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