空色ばいく チュチュ / 作

第1話 ~08~
高校へ編入すると聞いてから
もう勉強一筋だ。
こまりの面倒はおばが見てくれるらしい。
そんな訳で、一日中ほとんど机の上で
勉強づくしの日々がすぎていった。
あっという間に日曜日。
(日曜日って何か用事があったような気がする。)
朝起きてからふと、思った。
(分かった、菜穂ちゃんの勉強の付き添いね。
もぅ、記憶力ないと高校でやってけないのに。)
菜穂ちゃんは中学一年生。
難関私立中学の『桃ヶ丘学園付属』に進学した。
「空色ちゃんって恋したことある??」
「へ??」
突然の質問にみっともない声をしてしまった。
「恋したことあるの??」
「また、どうしてそんなこと??」
「わたしね、この間、告白したの。
すごく優しくて、クラスでも一番の子に。」
「そうなんだ。すごいじゃんっ。」
「でもね、返事はまだなんだ。
風邪で休んでるから聞けないの。」
「きっと、大丈夫だよ。菜穂ちゃん可愛いし。」
「うん。ありがとう。」
(恋かぁ。私は中学の時、告白されたことが
一、二回ぐらいあったけど好きになったことなんて
なかったなぁ・・・)
!!!
ふと、時計をみる。
12時だ。
あのカーブまで自転車で20分はかかるから・・・
(とにかく急がなきゃっっ!!)
思い出した。
本当の用事。
(あの人に会わなくちゃ。)
気がつくと走っていた。
『昼頃に。』
そういった彼が浮かんで消える。
(こんな時あの速いバイクならどんなにはやいだろ。)
カーブを目指して走る。
まだまだ道のりはあるけれど近づくほどに
鼓動が高鳴る。
走ってて感じる苦しさは不思議と
少しも感じなかった。
*
どのくらい走ったのだろうか。
(あと少しだ。)
カーブが見えてくる。
身体よりも気持ちが速くはしる。
海を見る前に彼が真っ先に見えた。
「お!!来たな。」
彼がニカッと笑ってこっちを向いた。
「ごめんね?待った??」
「あー、ちょっとだけな。」
「一応、チャリだし15万ぐらいでいいか??」
「うん。ありがとう。」
「っじゃ!!俺はこれで。」
「あっ、うん。」
彼がエンジンをかける。
ヘルメットをかぶる。
(待って、行かないで。)
気がつけば彼の手を引っ張っていた。
「お願い。まだ、行かないで。」
彼の顔ははっきりと見えない。
きっと、びっくりしているんだろう。
ほとんど見ず知らずの私から
手をつかまれているのだから。
はっとして、私は我にかえった。
「ごっ、ごめんなさい。」
(彼にだって用事はあるし。
私のわがままで止めさせる訳にはいかないわ。)
「どした??」
「え?」
「俺がどうかしたのか?」
「ううん。そんなことない。ごめんね。
さっきのことは忘れて。」
「アンタ、俺のバイクが好きか??」
「えっ??」
「そうなんだろ。実はバイクが大好きって顔
だな。好きなんだろ??」
「えぇ??まぁ・・・そうかもしれない。
・・・・うん。好きなのかも・・・」
「やっぱりな。女でバイク好きなんて今では
たくさんいるもんなんだぜ?
そう、隠すことじゃねーよ。なっ?」
「うん。そうだねっ。」
笑ってみるが、バイクなんて好きじゃない。
速いし、うるさいし、怖い。
「よーし。後ろ乗れよ。コイツの彼女にしてやる。」
「へっ?このバイク男の子なの??」
「そうさ。俺の相棒だな。
バイクはいいぜ。どこへでも連れて行ってくれる。
行き先はコイツがいくとこさ。」
「そうなんだ。名前はなんて言うの。」
「・・・あー・・・それは、まだ決めてなかったな・・」
「決めてない??・・・違うよ!あなたの名前っ!!」
「俺の名前??聞いてどうする?」
「知りたいの。ただ、それだけ。」
「俺は海憐だ。美藤 海憐。」
「海憐。・・・っていうんだ。」
「ア・・・アンタは??なんていうんだ?」
「私??」
「ああ。」
実はコレを言わせたかった。
私の名前を聞いて欲しかった。
少しだけ笑って私は答えた。
「空色。空の色ってかいて空色【そらね】。
桜ヶ丘 空色っていうの。」

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