空色ばいく   チュチュ / 作


第1話    ~10~



風が心地いい。
ゆっくり見える景色。

海が太陽の光を浴びてキラキラしている。

「綺麗だねっ!」

「あぁ。そうだな。」

(海憐の背中、大きいなぁ・・・)

胸がほっとする。
顔をくっつけてみると少し香水のニオイがした。

優しい風と暖かな光が大きなバイクを
包んでいる。

「海憐??」

「あぁ?何だ??」

「月曜日から学校だねっ!!」

ふいにこの話題がでてきた。

「へぇ、空色、行くんだな。って、当たり前か。」

「海憐ってどこの高校なの?」

「俺??高校なんていかねーよ。
俺はバイクで走る。学校で学ぶことは俺にはねぇ。
俺にはバイクだけなんだよ。」

「・・・ふぅん。」

「でも、友達はいるんでしょ?」

「・・・・まぁ。・・・一応はな。」

「じゃぁ、行かないの?学校??」

「はぁ!??お前なっ、何なんだよ!?
いきなり、何の話すんだよ!!」

キキィッッ・・・・
バイクが止まる。

(えっ、私・・・)

彼は怖い顔をしていた。あきらかに怒っている。

「お前さ、何なんだ?何がいいたい!?」

あまりにも大きな声で言うから、言葉が出なかった。
口に出すことさえ、一瞬で忘れてしまった。

「ご、ごめんなさい。そんな・・・怒らせるつもりじゃ
なかったの。ただ・・・」

「俺は・・・俺には、バイクしかないんだ。俺には。」


強いまなざしとは裏腹に悲しげな瞳があった。
しばらくして、彼は力なく笑いながら、

「悪ぃ、もうここで降りてくれないか。」

「・・・うん。ごめんね。でもっ、話なら・・・」

「一人になりたいんだ。」



「うん。分かった。」


ヘルメットを彼に渡すと彼はかぶらずに
エンジンをかけ直した。

遠ざかる彼が小さくなっていく。
言葉が見つからない。

(どうして・・・・何で?・・ッッ・・・)

気付けば涙が頬をつたっていた。

なんの感情もない涙。
いや、何かの思いに気付いてなかったのだろう。

太陽はいつまでも明るく涙を照らした。



   *



どれくらい時間がたったのだろう。
防波堤に座って海を見つめる。

(聞いちゃいけないことだったのかな。
学校のことなんて・・・・)

まだ、昼なのに悲しい。
景色は何も言えないほど綺麗だった。


空を見上げると白く大きな雲が浮かんでいる。

(海憐。何か学校で嫌なことがあったのかな・・・。
だから、あんなに・・・・)

これ以上考えてても意味はない。


(そうだっ、私は明日から学校だもん。
家に帰って勉強しなくちゃね。忘れなきゃっ!)


家に帰るともう3時だった。

「あら、空色ちゃんったら何処にいってたの?
お散歩かしら??」

「あ、そうなんです。えへへ。」

「まぁ、それはいいんだけどね、明日は、主人が
連れて行くわ。だから、心配しないでね。
だけど明日でルートは覚えて。
電車通学がいいと思うわ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「頑張ってね。」

「はい。」

英光明学園の制服。
黒く上品なブレザーに、ピンク色のかわいいリボン。
見るからにお嬢様学校だ。

上手くやっていけるように勉強を始める。
学校なんて中学以来だから少し緊張しているが
どこか押さえられない気持ちもある。

気になることばかりだが、
気がつけばあのことを思い出してしまう。

(今、何してるの?
もぅ、会えないのかな。)