イナイレ*最強姉弟参上?!*

作者/ 伊莉寿



第7話 moon&memory~月と記憶~



そよかぜステップ。緑色の風が起こり、相手を抜き去る技。

天馬が月乃に向かって技を繰り出した。周りは技に驚いていたが、月乃は目を閉じている。

月「…カゼ。」

天馬が月乃の直ぐ隣に来て、走り去った瞬間に、彼女はボールを奪った。


一瞬の静寂。天馬が驚いてボールを持った月乃を見つめた。


西「ええ??!技は完成してるのにー??!」

円「…!」

天「まだ…何かが足りないのかな…」

技は未完成なのかと天馬が考え始めるが、自分自身あれで完成してると感じていた。

月乃は天馬の方を振り向き、「技は完成です。」と一言。

月「そよかぜステップ、天馬さんの技です。」

天馬がキョトンとしてから、西園が駆けて行き「完成した」と騒ぎ始めた。本人も自覚して笑顔になる。

少女はボールを持って顔を上げ、俯く神童へ視線を移す。

月「…に様。」

神「お前達がこんなにがんばってるのに…本当にキャプテンの資格は無いな。」

目に涙を浮かべて神童が言うと、天馬達が戸惑った様な目で彼を見る。何と言い返したら分からない、という顔。

月「っ…」

円「そんな事無いぞ!」

―円堂守。



何かが崩れる。

何かが騒ぐ。

自分でも分からなくて、ただ、その会いたくない、会ってはいけない気のする男を見ていた―。



月「っ。」

目の前で舞う白い紙きれ。

フィールドに、はらりと落ちる。円堂の手から落ちた物だった。神童が今日提出した、退部届。

円「そういえば、お前誰だ?」

月「っえ…」

月乃の目の前に円堂が居た。彼女は戸惑い、なかなか言葉を発せない。

円堂は一瞬、ほんの一瞬そんな彼女を、ある少女と重ねていた。


――初めて会った時の、流星瑠璃花と・・・・




~円堂side

俺の目の前で戸惑う女の子。

何でか知らないけど、一瞬だけ瑠璃花みたい、って思った。

何でだろうな。深い藍の目しか共通してないのに。顔とか何となく似てる気もするけど…。

神「…?」

天「雷門中の転校生だと思います!ね、キャプテン!」

神「あ、はい、明日から雷門中に通う月乃杏樹です。」

月乃…。神童達とはどんな関係なんだろ、とりあえず!

円「雷門サッカー部監督、円堂守だ!よろしくな、月乃!!」

笑いかけてみると、月乃のきつい表情が少しだけ和らぐ。

月「…よろしくお願いします。」

呟くような、挨拶だった。






~神童side

帰り道。

さっきの監督と月乃のやり取りが頭の中に残っている。お互い一瞬、固まっていた。

月乃は緊張したのかと想像がつくが、監督まで?

そんなまさか…

月「兄様、寄り道して帰ります。先に行って下さい。」

・・・え?

そう言うが速いか月乃は河川敷のフィールド向かって降りて行く。

神「月っ…」

月「直ぐ行くので。」

下まで行き、振り返ってそう言う。俺は動けず、走る彼女の背中を見ていた。

…心配、だった…。



~ノーマル

月「何されてるんですか。」

月乃が、隠れていたらしい少年にそう言った。

少年―剣城が振り向く。そして口を開いた。

剣「デスソードを簡単に止めて、あんな所に居るお前が、不思議に見えたんだ。」

月「…あんな所?」

風が吹いた。初夏と夕暮れの匂いを運ぶ風が、月乃の桜色の髪をなびかせる。

剣「お前…何者だ?」


深い深い瑠璃色の、瞳。

少女にとって、剣城の質問は答え方が分からない。しかし、円堂の時の様に混乱していない。

月「私…きっと人間です。」

きっと。

必要の無い「きっと」だった。でも、付ける必要がある様に、感じてしまった。



月が、大きな黄色い月が見える。

神々しい輝きに、少女は吸い込まれているようだった。目が離せなかった。

月―何故、自分はこの名前にしたのか良く分からずにいた。

「私は月すら思い出せずにいたのに。」

月光が、部屋を照らす―。