幻想終着点 [ inzm11/BSR ]
作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.

僕が神に誓う時はたいてい嘘だから
「本当、なのか?」
酷く弱弱しい声音で訊き返され、これが本当の彼なのかなとほんの少し安堵した。いや、赤の他人である僕が安心するなんて、おかしな話なんだけど。僕の中に描かれた彼は、誇り高く、上辺を大切に思っていて、失敗と自らの死をイコールで繋げてしまうような人だったから。だからこそ、そんな彼の人間らしい臆病な面を垣間見ることができて、安堵の溜息を吐いたのだろう。
まあ、そんなことどうでもいい。
僕は鼻で軽く笑ってみせる。無様だね、と彼の口癖を呟いた。もっとも、一番無様なのは僕自身なんだけど。こんなことでしか彼を手に入れられない僕ほど愚かな輩は、他にいないだろう。
だって僕は弱いんだから。
だって僕は、堕ちたんだから。
一方の彼は小刻みに肩を揺らし、か細い呼吸を繰り返していた。嗚呼、まるで最期を迎える直前のようじゃないか!
「本当に、私は、世界へ挑戦できるのか?」
負けてしまった私が本当に、また円堂守と戦えるのか? 彼は何度もこう訊いてきた。こんな時にまでその名を聞くとは思っておらず。ちょっと悔しくなるも、仕方がない。これしか手段は無いんだから。どれだけ汚いと言われても、ずるいと言われても。僕は悪くないんだよ。
「嗚呼、本当さ!」
さあこれがとどめだ。にっこりと微笑んで、瞳には優しさを浮かべて、唇からは吐き気がしようが何だろうが綺麗事しか吐き出さなくて、どんなに声が震えようとも耐えて耐えて芯の通った声を響かせて。
「僕が僕に、誓ってみせるよ!」
落魄れた偽りの神は、そう簡単に嘘を吐く。

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