幻想終着点 [ inzm11/BSR ]
作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.

やりすぎ☆タイガー
「あーおーいーさんっ!」
嗚呼、また来たか。
そいつの声が耳に届いた途端、反射的に強張る身体を必死に動かす。頑張れ、頑張るんだ藤浪葵! 五感で感じろ、あいつの(どす黒)オーラの気配を察知するんだ!
「練習、お疲れ様ですっ!」
「あ、あぁ……虎丸こそ、ご苦労様」
聞こえないふりして秋の部屋に逃げ込む作戦、失敗。
がっちりと捕らえられた右手。巻き付いているのは宇都宮虎丸――僕の天敵の両腕だった。小学六年生の彼は、僕たちとは二歳違い。つーことで侮っていた自分が甘かった。この小六、只者じゃないよ。僕、こいつに勝てないもん。まるで僕の行動パターンを全て把握しているかのように――実際、しているのかは不明だけど――全部先回りされてる。怖い、を通り越して恐ろしい。
「葵さん、ちゃんと俺のこと見ててくれました?」
「……うん、見てたよ。スノーエンジェル綺麗過ぎて興奮した」
「つまり見てないんですね」
「すいません、タイガーストームも見ました」
「俺を見るときに豪炎寺さんを視界に入れないでくださいよ! ……ちっ」
「アイツのこと尊敬してるんじゃないの!?」
「それとこれとは別です。そこらへん、ちゃんと割り切ってますから!」
にっこり。そんな効果音をつけるのにぴったりな(どす黒い)笑顔。あれおかしいな、小学生はピュアなはずなのに。もちろん、中学生にもピュアな奴はいるけど……円堂とか立向居とか秋とか夏未とか? 一番ピュアなはずの彼が何故、こんなにも黒い?
まあ、でも……きっと虎丸は寂しいと思うんだ。この歳で病弱な両親と離れるとか、精神面的にも。だからこんな変なこと言って、気を引いてるんだと思うんだけど。
「ところで葵さん」
「はい?」
「俺の嫁に来ませんか?」
かちん、空気が固まる音がする。
「俺、寂しいの苦手なんですよ。葵さんが隣にいてくれたら楽しいかなぁって!」
前言撤回。
やっぱり、ただの腹黒策略家だった。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク