幻想終着点 [ inzm11/BSR ]

作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.



【葵+秋/もやもや】



「あき、」

 それはあまりにも、衝動的なもので。
 どうして彼女の名前を呼んでしまったのか、自分でもいまいち理解できなかった。彼女は今、隣にいるのに。どうしてわざわざ、遠くにいる大切な人を想うような響きで彼女の名前を紡ぎだしたのだろう。意味不明、だけど。多分ボクは、これが何なのかわかってる。

「どうしたの、葵ちゃん?」
「……何でもない」

 ボクは認めたくないんだけど――藤浪葵は、寂しがり屋なんだ。
 だからきっと、怖いんだよね。一人ぼっちになっちゃうのが、怖くて寂しくて哀しくて。でも、秋のことを考えたら『いやだ』の三文字も言えないから、だからボクは今日も、彼女の名前を呼ぶんだ。
 でももし、秋とその大切な人が結ばれる日がそう遠くないとして、ボクは独りになるんだとしたら、

「もし秋がソイツと喧嘩したら、ボクのとこに来ていいからね。……ボクが一緒に、いてあげる」

 たどたどしく呟けば、ありがとうと微笑まれた。
 ――本当は、有難うって言いたいのは、他でもないボクなのに。ごめんね、秋。それから、きみに幸あれ。


(  たとえば、きみに彼氏ができたとして  )