幻想終着点 [ inzm11/BSR ]
作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.

愛された私
「夏未、」
暖かい声が私を呼ぶ。希望の光しか宿さぬ瞳が私を映す。凛々しく逞しい腕が私を抱く。嗚呼、なんて幸せなんでしょう。彼が好き、大好きよ。愛してるなんて在り来たりな響きじゃ、この想いの丈は伝わらないわ。
「……な、つみ」
ねえ、なのにどうしてかしら? 嬉しいのに、幸せなのに、何故かこの胸の隙間が埋まらないの。貴方の愛で満ち足りているはずなのに。溢れ返っているのに。ぽっかりと空いた空洞には、苦しいくらいパンパンに“空虚”が詰められていた。――あ、あれ?
「ごめんな」
どうして貴方が謝るの?
「だから、泣かないでくれよ」
どうして私、泣いてるの?
「愛してるから。今はお前だけを、愛してるから」
どうしてこんなに苦しいの?
「あいつのことは、“愛してた”だけだから」
どうして貴方は過去形の言の葉を紡ぐの?
「円堂くん、」
痛い、痛いのよ。貴方の愛しかないこの胸が、酷く痛むのよ。――そう、信じてたのに。
「もう、いいのよ」
ねえ私、気付いてたんでしょう? 今しがた気付いたようなふりなんて彼にはばれてるわ。愛しかないなんて嘘を演じ続けて、もう疲れたでしょうね。でももう大丈夫よ、認めたから、諦めたから、もう怯えなくとも泣かなくても、この胸が抉られることは無いのよ。……嗚呼でも少し違うわね。
「私じゃ代わりになれないもの」
この胸には、抉られるほどの“何か”さえ詰められていなかったわ。――ねえ、そうでしょう? ××さん。
( ××さん≠愛された私、? )

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