幻想終着点 [ inzm11/BSR ]

作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.



北条家に栄光あれ! 北条主従/優しい風魔



 ぽかぽか陽気のとある朝。
 小田原を治める北条家四代目当主は、日頃の習慣からかはたまた歳のせいか、やたらと早い一日を迎えていた。日向の中に揚々と立ち、パチンと鋏を揮う。はらりと落ちる新緑の盆栽の葉は、儚く氏政の足元に散った。
 深く皺が刻まれたその口元は満足そうに弧を描き、鼻歌混じりだが、鋏を持つその手は常に小刻みに震えており、周りから見れば不安で仕方がない。が、でもまあ氏政様が満足なら言うこと無いよなあ……と言わんばかりの穏やかな雰囲気が辺りに漂っていた。

「ふぉふぉふぉっ……良い天気じゃのう」

 ふと、何処からか漆黒の影が氏政の背後を這い、闇色の羽が宙を舞う。ご苦労じゃったな、と呟く主の労りの言の葉を受け取った風魔は、ただ何も言わずその場に佇む。
 微かに滲む鉄の臭いに顔を歪ませた氏政だったが、深く尋ねることも、豊かな表情に欠けるその顔を見遣ろうと振り向くこともなく、小さく息を吐いた。

「いつも悪いのう、風魔。――ワシの命が尽き果て、報酬が払えなくなるまでは其処に居てくれぬか?」

 答えなんぞ返ってこないとわかってはいたが、僅かに和らいだその空気に氏政は一つ、乾き切った笑い声を零した。その声と共に、巡る月日を送ることができるのはもうきっと長くは無いのだろう。――突如訪れた沈黙も、風魔には破ることはできない。