幻想終着点 [ inzm11/BSR ]

作者/ 桃李 ◆J2083ZfAr.



【王子様にはryの前置き的な】



「行っちゃったね、晴矢」

 他人事のように呟く茂人に、そんな短い言葉で済ませないでよと噛みつきかけたが、嗚呼これは違うんだと壊れかけた思考回路で気付いた。茂人はこの虚しさを和らげる為に、わざと遠い目でアイツを見つめるのだと。いつもはあんなにひ弱なのに、こんな時に限って大人な対応をしてみせる茂人に、あんたはまだ成長しないでと言った。何で、と無邪気に苦笑する茂人に、だってきっとアンタもあたしを置いて行くでしょうとは言えなかった。無理やり呑み込んだ言葉は、思った以上に重苦しい。
 じゃ、またな。それはふと思い出したように残された言葉で。アイツが別れを忘れ、新たな舞台にどれだけ胸を馳せていたかが伺える。愉しげな声が空っぽになった頭の中で虚しくエコーを繰り返す。反響、これが終わったらあたしの中のアイツの声は、存在は、かなり薄くなってしまう。ああ、嫌だな。ずっとずっと残っていれば良いのに。ぼんやりとアイツの背中を眺めていれば、それはやはり気付かぬうちに消え去っていた。
 ――嗚呼、可笑しい。笑えない程に。

 あれだけ同じ時を刻んできたはずなのに、アイツの声も背中も笑顔も、何一つ思い出せやしない。



(  夢なら醒めてよと願ってしまう辺り、あたしはまだ現実に酔っているらしい  )