罪とDesert Eagle~

作者/檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc

 

第一階戦 『立菊和馬&鹿村兎月 VS 水納厄』 Part3


「なるほど……簡単に言えば毒の効果で血が止まらないのか。血友病みたいなものか……我の手に掛かればすぐに治る。」
口を押えながらどこかで話したことがある男の声は――――
「あれ? Youの声変わっているよ。」
水納は鹿村の姿を凝視していた。俺様の眼が壊れていない限り声は鹿村の姿から発している。鹿村の顔はさっきまでの笑顔が消え余裕で冷静な顔つきになっていた。
「ああ、体を変えることを忘れていた。」
鹿村の姿が瞬きひとつであわてんぼうの白衣の馬鹿少女が、スーツで布を顔の前に降ろしている青年に変わった。
「我の名前は佐久穂轍。公務員の人間達を陰で支える者。今回干渉するつもりはなかったのだが……この人間が暴走したためしょうがなくきてやった。」
佐久穂の頭の中ではとある会議室が頭の中に浮かんでいた。


一斉に六人は立ち上がった。椅子が引かれる音だけが会議室に鳴り響いた。
「では、解散とする。風邪をひかないように」
轍は会議室を出て行った。六人はその場から動かなかった。会議室の暗闇に六人の静けさが積み重なり見た人は叫ぶだろう。
それぞれが手に力を込めて――――
「「「「「「なめてるんじゃねえ」」」」」」

机に叩きつけた。

そして、六人は掲示板を目指して飛び出て行った。(第二幕第一章第一話)


「轍! さすが議長のなかの議長……」
俺様の眼が節穴ではない限り轍の姿が救世主に見えてきた!!
戦うのかと期待をしていたが一向に佐久穂は動かない。
「我は言っただろう? この戦いには関与しない。ま、オリジナルなら関与するかもしれないが」
「おい! 英雄が悪党になった! 目の前でこうやって困っている人がいるんだぞ! 助けろよ!」
吐き気でふらついている俺様の顔を覗き込んだ佐久穂の顔は実に冷たかった。
「悪党は人間の立菊だろ?」
「おのれ!! そこになおれ!」
「ま、我は軽く立菊という人間がかかっているインフルエンザを治してあげよう。我の能力「能力創り(スキル・メーカー)」で。」
重たくなっていた体がたちまち軽くなり、吐き気は無くなり、頭痛がにわか雨のように治まった。水納は口をポカンとあけて佐久穂の姿を見ていた。そりゃ、そうだ……俺様だって最初であったときは驚いたさ。
「だ……誰なの!! 薬も渡していないのにインフルエンザを治すなんてなにもの!!」
さっきまで余裕そうだった水納は明らかに慌てていた。変装していたならまだ落ち着けるが、いきなり【いろんな人から見られている】この感覚が嫌で、恐ろしかった。
「説明してやるよ。この佐久穂轍の、の「議長のなかの議長だから敬語は?」勝手に人の会話に入るな!! ……わかった。わかったから。佐久穂轍さんの能力は『能力創り(スキル・メーカー)』。その名の通り、能力を作る能力なんだよ。おかげで病気も元通り」
水納の顔が青ざめている。漫画で言う青い三本線がこめかみから出ているようだ。眼の前にいるチート能力者に対抗できる力を持っていないのだろう。また、チート能力を相手に戦ったことは無いのだろう……
「……う……しょうがない!! 僕の全身全霊をかけてyou達を殺す!!」
叫んだとたん、吐血した。
 そう、吐血した。【佐久穂轍】が!!
「ゴフッ。さっそく攻撃か……。立菊よ、早く能力を使え」
真っ赤な液体が轍の白い服を濡らしていった……しかし、轍の顔は青ざめておらず、水納を見つめていた。
「わかりましたよ。すぐ決着がつきますけど。」
静かに目をつぶった。無を感じながらゆっくり眼をあける。別に部屋の様子はこれっぽちも変わっていない。
「大体、能力者同士の戦いというのは【いかにどうやって相手の能力が発動する前に倒せるか】がキーポイントになる。そうじゃない?  佐久穂轍さん」
 轍の吐血を見たとたん、水納の顔が明るくなった。水納の顔がどんどんうれしそうな顔つきになっていくことに轍は吐血する。
「そうだな。水納厄よ……言っていることは正しい。ふつうの人間ならとっくのとうに死んでいるだろう。しかし、我は【能力で血液を創っているから生きている】。それをみて水納厄は必死に弱点を捜している。」
血液を創るって普通の動作だけど、ジュースみたいに作ることって普通できないよな……
水納の笑顔にすこしひびが入ったが元通りの笑顔になった。
「僕の力が君に働いているということはよくわかった。もっとひどく、そして哀しい姿にしてあげよう」
「さて、水納厄の能力について我の口から説明しよう。」
水納がしゃべっているのにかかわらず轍はそれを遮るように説明し始めた。轍の鮮血はいっこうに止まる……前よりも出ている量が多くなっている。
「授与式(シック&シック)。名前からして、病気を相手に与える能力ではないか? 水納厄の視界に入った生物に病を与え、その強弱もコントロールすることができる。誰も望まない能力だろうな……故に病所健太のもとで活動している。そうだろう?」
水納の眼がまるで地面に落ちた液体のように丸くなっていった。そして、溜息をつき肩をすくめた。
「そうよ……僕の能力はいつ暴走するかわからない。だから働けないし、友だちもできなかった。その僕に手を差し伸べてくれたのは病所さんだったんだよ!! あの人に僕の能力は効かないんだから!! 」
「だから我を殺すんだな?」
「そうだ! 佐久穂轍! Youを殺す!」
だから、俺様の能力は嫌いなんだよな……
「残念ながら水納厄の願いは聞き遂げられないようだ。なぜなら――――」
水納の首に手をまわした。そして、手だけ具現化して水納の首を一瞬で絞めた。力が抜けるように水納の体がどさりと崩れ落ちていった。首には赤い線が残り、まるで自殺未遂を図ったような跡になっていたのをみて立菊はほほ笑んだ。
「さすがだな、立菊和馬。立菊和馬の能力、【罪作り】は我がそばにいないと危険だな」
佐久穂轍は俺様にほほ笑みながら俺様の頭に手を通した。そして、水納の線を見て顔をしかめた。
「ここらへんか? 立菊の頭は。 線を残す必要はないだろう? たぶん、遊び半分で残そうとしたんだろう。悪い奴め。」
俺様は後ろにジャンプして自分の姿を具現化させた。
 俺様の「罪作り」は自分の姿を『無』にする能力。自分の存在も『無』、体も『無』。まるで、幽霊みたいなものだ。下手したら殺されるかもしれない……でも、轍が俺様の仲間だから俺様は生きられる。
「うるさいな。俺様は最悪の悪党だ。別にいいだろう? さて、上で爆発音が響いている。早く、助けに行こうぜ」
「そうだな」
轍の流血はもう止まっていた。止まっていたというか、傷すらなかった。白くなったシャツをはたくと佐久穂轍は階段へ向かって行った。俺様も一緒に登っていく。

 この病院で起きている戦に決着をつけるために!!


Win「立菊和馬」&「佐久穂轍」  絞殺寸前